池澤春菜さん特別寄稿!最終回『ゲド/戦いのはじまり』
年の瀬ですね
今年ももう終わり。
すみません!! そうです、私が悪いんです。
すっかり前回から間が空いてしまいました!!
もう皆様、3大ファンタジーご覧になりました?
ナルニアのビーバー夫妻の愛らしさも、指輪物語の壮大なスケールにも増して、目から鱗が落ちるかのごとき衝撃をもたらしてくれたのが、今回ご紹介する
そう、ゲド戦記。
「あのゲド戦記が映像に?!」とワクワクして見ていた私は、冒頭数分でひっくり返りました。
ゲドが!!
ゲドって呼ばれている?!
原作をお読みなっていない方には、何が何だかわからないですよね。
ゲド戦記の舞台となるアースシーでは、ものはみな真の名を持っています。真の名を知ることは、そのものを支配すること。なので人々は皆、通り名で呼び合います。
日本で言う、言霊のような。
ゲド戦記の中では、この真の名と通り名がとても重要な働きをします。
ゲドの通り名は、ハイタカ。
ハイタカの真の名は、ゲド。
そう、真逆なの。
ちゃんとカラスノエンドウは、エスタリオルって真の名を持っているのに。
なんだかゲド一人だけ、ズボンを履き忘れて出てきちゃったかのような、違和感。しばらくして慣れたかなと思っても、「ゲド!!」って呼ばれると、びくっとしちゃう。
「あぁ、そうだった!! この人ズボン履いてなかった!!」
ここは、この作品最大の不思議点でした。
カラスノエンドウが漁師の息子になっているよりも、ロークの学院が共学になっているよりも、腕輪が謎のお守りになっていることよりも、1巻と2巻がくっついているよりも。
でも、原作をそのまま映像化しようとすると、すっごく地味な観念的な物になってしまうので、エンターテインメントとしては、多少の脚色はやむを得ないところなんでしょうね。
三大ファンタジーの中でも、ゲド戦記は際だって、土の匂いのする作品です。
ナルニアがルイスの作り出した、キリスト教的な箱庭。
指輪物語が、トールキンの描く、一大事叙事だとしたら。
ゲド戦記は、ル・グインによる、遠眼鏡。
垣間見える景色は素敵。でも、その向こうにもっともっと深い、リアルな世界を感じさせる不思議な遠眼鏡です。
一人一人の人物に、それぞれに物語があって、人生がある。ル・グインが描き出したかったのは、ゲドでもテナーでもなく、アースシーという世界そのものだったのではないかと思います。
第一巻「影との戦い」。青年ゲドは、己の慢心から影を呼び出し、それと向かい合い克服することを余儀なくされます。昨今のファンタシーやゲームに溢れかえっている、アイデンティティーの再発見というテーマを、ル・グインならではの重厚な筆致で描ききった傑作。
続く第二巻「壊れた腕輪」では、アチュアンの巫女アルハの元へ、成長して現れたゲド。食らわれたる者アルハに、真の名テナーを取り戻すと共に、長らく世界から失われていた腕輪を全きものへとします。この第二巻の主人公はテナー。失われた自己、信頼と愛情を取り戻す物語。
そして第三巻「さいはての島へ」。初老にさしかかったゲドは、世界の均衡を取り戻すため、若き王子とさいはての島へ出かけます。生きることと、死ぬことの意味、そして若き少年の成長の物語。
第四巻「帰還」が出るまでには、18年の歳月を要しました。ジュブナイルとして世に出たゲド戦記、でも、この第四巻はけして子供のための物語ではありません。魔法の力を失ったゲド、一人の女として生きることを選んだテナー、そして全てを奪われた少女テルー。それぞれの弱さを抱えた三人が、その弱さを抱えたまま、どう人として生きるか。今までの三部作とはがらりと変わった、ル・グインと世界、双方の変化が18年分詰まった作品。
そしてまた11年後、第五巻「アースシーの風」。この第五巻だけは、短編集となっています。新しい世代、新しい流れ。さまざまな愛の形と、それと呼応する死。全ての流れが収束して、ひとつにまとまる、完結編。
今回、実写版を見てゲド戦記をお知りになった方は、ぜひ原作を手に取ってみていただきたいのです。
けしてわかりやすいとは言えない、むしろ非常に晦渋な世界ではありますが。
でも、ゲド戦記を知っているのと知らないのでは、確実に人生の重みが違う。そう断言できるほど、深い作品です。
ゲドとテナーの関係も、いわゆるラブロマンスではなく、酸いも甘いもかみ分けた大人の男女が、人生を一周巡って、ようやく落ち着く感じ。
一人一人の人物に、それぞれに物語があって、人生がある。
そして、その全てを、時に厳しく、時に優しく包むアースシーという世界。
実写版との違いに、ちょっと度肝を抜かれるかもしれないけれど
。
それにしても
。
テナー役のクリスティン・クルックの可愛らしいこと。『スノー・ホワイト』では白雪姫、そして『ストリート・ファイター』ではチュンリーを演じているそうですよ。
アジア系の馴染みやすい顔立ちだけど、エキゾチックさもあり。そう言う意味では、正に日本人の理想のヒロイン像なのかも。
後半はすっかり「可愛いテナーに惚れ惚れする」作品になっておりました。
今回、「ナルニア物語」「指輪物語」そして「ゲド戦記」と、私の大好きな三つの作品を語らせていただくことが出来、とてもとても幸せでした。
少しでも作品の魅力をお伝えすることができれば。
より多くの方に、この世界に触れていただくことができれば。
このような機会を与えて下さったザ・シネマさんに感謝。そして、すみません、ブログが大幅に遅れて
。
来年も、ザ・シネマをよろしくお願いいたします。
そして、心の片隅で、ワタクシ、池澤春菜のことも、よければ
。
では皆様、良いお年を。
【1月 吹き替え版 放送日】
※編成部注:池澤さん特別寄稿第一弾はコチラ
池澤さん特別寄稿第二弾はコチラ







