洋画専門チャンネル ザ・シネマ

上方漫才系ワイルダー『ワン、ツー、スリー/ラブハント作戦』

 何事においても組み合わせは大事である。


 ダンナと奥さん、ビールとツマミ、見た目と中身。


 一方が良くて、一方がイマイチという組み合わせは大抵の場合よろしくない。

 

 もっとも男女においては「美女と野獣」な組み合わせが、世間の嫉妬の目をかわしてすくすくと愛を育むことも多いようですが、古今東西、衣食住、ヒト・モノ・コト、何にせよお互いの能力を引き出す組み合わせが世の中にはあります。

 

 映画監督も同じ。監督と俳優ならクロサワとミフネ。監督とカメラマンならトリュフォーとネストール・アルメンドロス。監督と女優なら、今年6月に公開予定の『それでも恋するバルセロナ』で三度タッグを組む、ウディ・アレンとスカヨハの組み合わせを最近の例として挙げたい。なんせウディ・アレンはスカヨハを「僕のミューズ」と呼んでるぐらいですから。

 

 で、本題は監督と脚本家の組み合わせ。

 

 映画『ワン、ツー、スリー/ラブハント作戦』は、ビリー・ワイルダー監督、I・A・L・ダイアモンド脚本の作品。まあ彼らの場合、正確には共同脚本なのですが、傑作にそんな細かいツッコミは野暮ってもんなので、気にしないようにしましょう。

 

 とにかく、二人による作品をあげていくと、まばゆいばかりの名作がこれでもかと並びます。
『アパ鍵』『お熱いのがお好き』『昼下がりの情事』などなど、ほかにもワンサとある。

 

 夏の暑い夜に「今日はビールじゃなくて、コブ茶にしとくか」なんて法則が成り立たないのと同じで、『ワン、ツー、スリー/ラブハント作戦』も面白くないワケがない。

 

 上方の漫才芸人が出演してるんじゃないかと思うほど、とにかく喋りまくります

 

 ことの始まりは、コカ・コーラのベルリン支社長として働くオジさんに、アメリカ本社の重役からかかってきた一本の電話。

 

 用件を訊くと、可愛い愛娘が2週間ほどベルリンに行くので、世話ならびに、遊びまわらないように監視してくれとのこと。


 ベルリンおじさんとしては、面倒だし、奥さんがちょうど旅行に行く時期なので愛人とマッタリ過ごす予定を立てていたんですが、「昇進」という名のニンジンをちらつかされては、断れるはずもない。


ワン・ツー・スリー.jpg
 そうして面倒を見るハメになった娘というのが、去年、日本中を笑いと涙に巻き込んだ新人類「おバカ系」女子だったのです。その実力たるやハンパではなく、17歳にして、すでに4回の婚約経験。スーツをシワシワにして氷河期時代の就活を抜け出たと思ったら、今度はそれ以上に厳しい「婚活」が待っていた我々の世代に、どうかその技を伝授してください。

 

 で、そんなおバカ系娘に出世の足を引っ張られてはイカンと、娘を丁重に扱いつつも、速攻監視役をつけたオジさん。甲斐あってか、2週間の予定だった滞在期間がミョーに延びたものの、意外にも重役令嬢はお利口に過ごしていたのです。


 そしてようやく両親が迎えに来る日程も決まり、オジさんもほっと胸をなで下ろした直後、ついに悪魔がおバカぶりを発揮したのです。

 

「おじさま。ワタシ、実は6週間前に結婚しちゃったのーー!!フフフ。彼は革命を夢見るイカシた男なの」

 

 絶句。


 婚約どころか、結婚! しかも相手はどこの馬のホネともわからん、バリバリのサヨク! あ、説明遅れましたが、この映画は1961年公開のモノクロ。もちろん東西ドイツ時代でございます。

 

 そしてここから怒濤の1時間が始まります。

 

 寝耳に水のオジさんは異常な段取りの良さで、二人を別れさせる方法を画策。

 

 手始めに婚約者をアメリカのスパイに仕立てて逮捕させ、それがすんだら結婚証明書を役所から盗ませる作業を完了。これでお馬鹿娘は、キレイさっぱり未婚の17歳・・・と安心していたのですが、人生に悲劇はつきもの。

 

 男を逮捕させた直後に、今度はおバカ娘が妊娠していることが判明。こうなっては結婚を白紙にするわけにもいかなくなり、急遽、男を救出して名門貴族に変身させる『マイ・フェア・レディ』もしくは『プリティ・ウーマン』作戦に変更。

 

 ただ、オードリー・ヘプバーンやジュリア・ロバーツと違うのは、「オレは私利私欲に走るブタにはならんぞぉ!」みたいなことを言って男が反抗しまくること。だが、そんな抵抗もオジさんの出世欲(というか、このときは転落を恐れる危機感)には太刀打ちできず、だんだんと資本主義に染められていく様子がやたらと面白い。

 

 変身の指南役も、もちろんすべてオジさん。

 

 貧乏くさいヘアスタイルを美容師にカットさせている間に、高級テーラーを呼びつけて、名門貴族に見える服装を用意。休むヒマもなく宝石店に指輪を手配して、伯爵の身分もウサンクサイ男から買収。

 

 男が小綺麗になったら、次はフルコースを食べながら、テーブルマナーの躾。その合間に新婚用のスイートルームを予約して、与えた高級車に家紋を入れさせる念の入れよう。で、肩書きがないと話にならないので、仕上げに自社(コカ・コーラ)の工場長に任命して、重役令嬢に相応しい名門貴族が一丁上がり。


 と、ここまで息つく暇もなく、オジサンが喋りまくります。

 

 そうしてベルリンへ降り立つ両親を迎えに行くのですが、この後も気の利いたオチがありますので、それは自分の目で確かめて下さい。

 

 『ワン・ツー・スリー ラブ・ハント作戦』が名作と呼ばれる理由には、中盤以降の勢いもさることながら、やっぱりワイルダーとI・A・L・ダイアモンドの、皮肉交じりに社会を見つめる視点にあるのです。オジさんの一生懸命さが、自己利益追求のためだけで、いかにも資本主義的なのと同じくらい、婚約者が崇拝する共産主義も、ワイルダーとダイアモンドは皮肉たっぷりに描いています。どちらの思想の欠点も見事に言いあてている。これが古くさく感じない所以でしょう。

 

 それにしても、ベルリンの壁をストーリーの軸にした映画って面白いものが多い。


 同じくコカ・コーラが資本主義の象徴として登場した映画『グッバイ、レーニン』もそうだし、『ベルリン・天使の歌』もいい。文芸路線では『善き人のためのソナタ』なんかもヨカッタです。

 

 気づけばベルリンの壁が崩壊して今年で20年。

 

 今を逃して、『ワン・ツー・スリー ラブ・ハント作戦』を見る時なし! とまではいかないまでも、何となく節目の年ではありますので、どーぞチェックしてみて下さい。
 

(映画ライター 奥田高大)

©1961 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC. All Rights Reserved.
 

【1月放送日】 24日26日

このページの先頭へ