トシを重ねてもやっぱり恋愛したい!そんなアナタに贈る『恋愛小説家』
ラジオからはクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングや、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルが流れ、ウッドストックではジミヘンがギターを燃やし、ビートルズが「ゲット・バック」と歌っていた1969年、1970年。
ロックミュージシャンは若者たちの声なき声をメロディに乗せて歌い、多くの若者たちは、自分たちの代弁者として彼らの音楽を熱狂的に受け容れた。
ちょうど同じ頃、ジャック・ニコルソンは『イージー・ライダー』で飲んだくれの弁護士を演じ、『ファイブ・イージー・ピーセス』で、音楽一家に生まれたことを窮屈に感じて、家出する若者を演じた。
若かりし頃のジャック・ニコルソンもまた、ジミヘンやビートルズと同じように、若者の声を代弁して、スターダムへと駆け上ったのである。
時は流れて世紀末。60歳になったジャック・ニコルソンが『恋愛小説家』で演じたのは、神経質で、潔癖症で、偏屈で、(こんな性格なために)独身で、恋愛小説家のメルヴィンという男。
メルヴィンの神経質は、控えめに言っても度を過ぎている。
手を洗うごとに石けんを2個使い、道に敷かれたタイルの継ぎ目は避ける。(でもこのおかげで後々やっかいな目に遭う)食事は決まった時間に、決まったカフェでとるが、店の衛生環境が信用できないからと、フォーク&ナイフを持参する。いつも座っている席を「オレの指定席」と言い張り、座っていた客に立ち退きを迫るワガママっぷり。
そんなメルヴィンの心をほんの少しずつ変化させていく女性が、ヘレン・ハント演じるウェイトレスのキャロル。彼女はメルヴィンの悪態もひょうひょうとかわして応戦する美しきシングルマザーである。
『恋愛小説家』のストーリーは極めてシンプルだ。
偏狭男+美しい女性+恋or愛系タイトル=上質な恋愛映画という黄金の方程式に倣って、大部分の人が想像するとおりの展開を見せてくれる。
でも、だからといってこの映画が非個性的で、退屈で、見る価値がないということにはならない。
なぜなら、ジャック・ニコルソンがいるからである。
メルヴィンとキャロルの恋(正確に言えば恋への過程)はひどく遠回りで、そのほとんどの原因はメルヴィンの屈折した態度にある。しかし、普通の役者がここまでヤラシイ性格の男を演じると、拒否反応がでて感情移入できなくなりそうなのだが、ジャック・ニコルソンが演じると、不思議とアレルギー反応はない。
なぜか。
人は年を重ねるごとに強情になる。不器用になる。素直になれなくなる。変化を嫌い、習慣を愛するようになる。打算と経験が邪魔して、純粋に恋することが難しくなる。上手く年を重ねることの難しさを、年をとるほど強く意識するようになる。
ジャック・ニコルソンは、そう感じている人の胸の内を、極端に誇張した形であるにせよ、きっちり代弁しているのである。
何十年も前、若者の気持ちを代弁したのと同じように。
そんなわけで、偏屈ぶりが多少行き過ぎではあるけれど、見ているこちらは、いつの間にか「まあオレもいつかはこうなるかもしれないな」とか「いまのオレも似たようなモンだな」とメルヴィンに共感さえ抱いてしまうのだ。
かつて若者の声を代弁していたジャック・ニコルソンは、いまや押しも押されぬ大俳優となった。
しかし、彼は今も多くの人の声なき声を代弁し、勇気づけているのである。
さてここからは余談と蛇足をひとつずつ。
今作でメルヴィンは、極めて神経質な男として描かれているが、これは「強迫性障害」(OCD)という精神障害を抱える人に見られる症状。ちょうど『アビエイター』でレオナルド・ディカプリオが演じたハワード・ヒューズも同様の障害をもっていたことで知られている。
ところがメルヴィンが「強迫性障害」であることと、これが改善されていく過程を深くは描写していないために、一見、恋に落ちたことで彼の心境が変化したようにも見える。
だが実際は、メルヴィンが徐々に変化するのは「キャロルのために変わりたい」と思って飲み始めた薬の効果が現れているのである。
個人的には、この問題に触れるか触れないかをもう少しハッキリさせたほうが良かった気もするが、その辺は好みがわかれるところ。
上質な恋愛映画に深みを与えるスパイスとして、少し効いていればいいのかもしれない。
そして続いての蛇足は男性諸氏にぜひとも読んでいただきたい、ジャック・ニコルソンの話。
昨年、映画『最高の人生の見つけ方』のプロモーションで14年ぶりに来日した際、ジャック・ニコルソンから驚きの発言があった。
それは棺桶に入るまでの”やりたいことリスト”のなかに、「もう一度大恋愛したい!」を書きたいねと言い放ったこと。
いまだに水着姿で若いおねーちゃんとバカンスしているところを撮られたり、バイアグラユーザーであることを公言したりしているジャック・ニコルソンだけに、この発言は相当にリアル。
映画のメルヴィンはとても恋愛上手とは言えないが、それを演じた当のジャック・ニコルソンはまだまだ現役バリバリなのだ。
(映画ライター 奥田高大)
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