先日、米フォーブス誌のウェブサイトが行った「スターの価値」という調査で、ウィル・スミスが「最も金になる男」に選ばれた。日本でもヒットした『ハンコック』では2億ドルという興行収入を記録したのが記憶に新しいが、これに限らず、最近の出演作はことごとく大ヒット。とにもかくにも、出れば当たる「ドル箱俳優」として確固たる地位を築いているのだという。
監督は、ウィル自身もアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた映画『幸せのちから』で一緒に組んだガブリエル・ムッチーノ。この組み合わせを聞いただけで、そそられる人も少なくなさそうだ

で、簡単にストーリーを説明すると、何かのきっかけで心に深い傷を負った男が、「ある計画」を進めている。その途中で、ロザリオ・ドーソン演じるエミリーと出会い、恋に落ちるのだが・・・というあらすじ。
こうなると気になるのは、「ある計画」って「どんな計画?」 ということになる。ところが、
『7つの贈り物』ではそれが何なのか、観客に知らされるのは、エンディングまで残り30分ばかりとなった頃なのである。
つまり、観ている側はぼんやりとした手探り状態のまま、物語の大半を観ることになる。物語が進行していく合間に、ところどころ、ベンの過去を映し出すシーンが入ったりはする。でもそれもヒントというよりは、事実の説明といった感じで、それを観たからといって、謎が解けるタイプのものではない。
映画でこういった手法は頻繁まではいかなくとも、たまにはある。上手くはまれば、非常に効果的なのだけれど、ある意味ではとても危険な方法でもある。
最初の30分ぐらいまでなら、たいていの人は我慢できるけど、1時間30分ずーっと「何なにナニ?」みたいな状態だと、途中で席を立つ人が出てきても仕方ない。そんなリスクを抱えながら、物語は進行していくわけである。
だが幸いにも、僕が観た試写会場では途中で飽きて帰っちゃった人は1人もおらず、(試写会で途中で帰る人は、そもそもほとんどいないけど)それはきっと映画館でも同じだろう。つまり観客は謎で惹きつける作戦にまんまとひっかかってしまったのだ。
それはストーリーの持つ力もさることながら、やはりウィル・スミスとロザリオ・ドーソン、さらに出演時間はそれほど長くないものの、ウディ・ハレルソンの演技によるところが大きい。
そんなわけで、この映画のストーリーそのものは、これからご覧になる人のためにも、詳しく説明するのはやめておきたい。というか、一つを説明すると、それが、ほとんどの答えになってしまう。
でもさすがにこれだとさすがに消化不良なので、来日記者会見の様子をご紹介したい。

ここ1年で3度も訪れているウィル・スミス、登場した途端に冒頭から飛ばしまくる。
席に着くなりマイクを手に取り、
「監督に伺いましょう。ウィル・スミスほどの有名人と仕事をするのはどんな気分ですか?」と会見を自らリード。
ところがそれにも監督は慣れた様子で
「3年間、ずっとこんな調子なんだよ」と記者に向かって笑いながらコメント。
さらにロザリオ・ドーソンとのラブシーンについて質問が及び、ドーソンが「ウィルはあのときすごく神経質になってたの。意外だったわ」と暴露するも、
「ラブシーンってのぎこちないものさ。だって、僕がいまここで、翻訳の女性といきなりラブシーンを始めたらびっくりするでしょう? でも撮影現場ではやるんだよ、そりゃ戸惑うでしょう? それに僕はおばあちゃんから、女性には敬意を払うようにと教え込まれた。だからあのときいは神経質だったんじゃなくて、敬意を払ってたんだよ」
と、なかなかインテリジェントな応対。
とくに面白かったのは、通訳の人が彼のコメントを通訳していると、どこからともなく、ドゥーワップ的サウンドが聞こえてきたとき。
一瞬、映画のサントラでも流しているのかと思ったら、よくよく聞くとウィル・スミスがマイクを使って、BGMを作っていたのだ。これには通訳の方も大ウケ。
さらにフォトセッションが始まる前には、自分の名前が書かれたネームプレートにサインして、ホテルマンにプレゼントして、「これ、eBayで売るといいよ」と親切(?)なアドバイス。
と、こんな具合で会見は楽しく進んだのだが、
『7つの贈り物』はどちらかというと地味な映画ではある。もちろん、ウィル・スミスの出演作であれば、「地味」という言葉もそれほど説得力がないのだけれど、それでもやはり「地味」な映画である。
本人もその辺をちゃんと意識していて、会見の最後をこんな言葉で締めくくった。
「エイリアンも出てこない、爆発もない、特殊効果にも頼らない映画に出ることは、僕にとってすごく怖い体験だった。でもそのかわりに、僕らは素晴らしい役者達と心を動かす演技を差し出したんだよ」
んー、気の利いた台詞。やりますね。
それにしても、なぜウィル・スミスはこうもハリウッドで成功したのか?
黒人俳優といえば、シドニー・ポワチエにはじまり、モーガン・フリーマンやデンゼル・ワシントン、サミュエル・L・ジャクソン、ジェイミー・フォックス、ローレンス・フィッシュバーンなど、多くの名優・人気俳優が並ぶのだが、シリアスとコメディの両方を、しかも主役級で演じられる人物というとぐっと少なくなる。
たとえばモーガン・フリーマンなんかが、脇を固めると物語がピッと締まる。どことなくフワフワとした、今ひとつリアリティに欠ける映画であっても、彼が出てくると、それだけで映画に深みがでる。
ただ、モーガン・フリーマンやデンゼル・ワシントンが主演となると、どうしてもシリアスものの気配がしてしまうし(もちろん、シリアス作以外にもでてるのだけど)、"スター"というよりは、"演技派"といった言葉がしっくりくる。
ところがウィル・スミスの場合、SFからポップなもの、シリアスまで、どうにでも物語を振れるのと、華やかさという点でもヒケをとらないのが、ここまで売れっ子になった理由だと思う。
でもウィル・スミス人気はそれだけではない、というのを今回の記者会見で確信した。
とにかく、ウィル・スミスは人を惹きつける術を知り尽くした、エンターテイナーなのである。だからきっと、「あー、ここんとこ気むずかしい大物役者と一緒にやったけど、気疲れしたし、しかも収入はコケてスポンサーと映画会社から怒られるし。今度はハズレのない役者と撮りてえなあ」とプロデューサーや監督が思ったときに、彼らが選ぶのはウィル・スミスなのだ。
そうそう、
『7つの贈り物』のなかで、ベンが「MIT(マサチューセッツ工科大学出身」という設定が出てくるのだが、実際のウィル・スミスもMITの推薦を得ていたのに、それを蹴って音楽デビューを果たしたという、すごい経歴を持っている。MITといえば、毎年タケノコのようにノーベル賞受賞者が出てくる超名門大学!
まだまだ、「麻薬ブローカー」のように、ステレオタイプな役を黒人が演じることの多いハリウッドにあって、そういった目に見えない壁を簡単に破ってくれるウィル・スミスのような役者が増えると、ハリウッド映画はもっと面白いものになるはずである。
次の作品も期待してますよ!
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2月21日(土)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
'08年米 123分 監督/ガブリエル・ムッチーノ 出演/ウィル・スミス、ロザリオ・ドーソン、ウディ・ハレルソンほか