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日本未公開でも必見! 映画『ブラディ・サンデー』

 日本に「ブラディ・サンデー」(血の日曜日事件)という言葉を知っている人が、果たしてどれぐらいいるのだろうか? おそらく、この事件の詳細まで知っている人は、かなり少ないのではないだろうか? 僕もその一人である。

 

 あるいは詳細は知らないけれど、どこかで聞いたことがあるという人の多くは、U2の歌によって知ったのではないだろうか?

 

 翻せば、彼らの歌がなければ、この事件を知っている日本人は今よりもずっと少なかったはずである。僕自身も彼らの歌「Sunday Bloody Sunday」によって、「ブラディ・サンデー」という言葉を知ったが、それが具体的にどういう事件だったのかは知らなかった。恥ずかしながら。

 

 今作『ブラディ・サンデー』は、1972年1月30日に北アイルランドのデリーで起こった「血の日曜日事件(ブラディ・サンデー)」をドキュメンタリータッチで描いたポール・グリーングラス監督の作品である。

 

 ご存知の方もいるかもしれないが、北アイルランドでは、イギリスからの独立とアイルランド共和国との合併を望む被支配者層=カトリック系住民(=先住民の子孫)に対する、イギリスへの残留を望む支配者層プロテスタント系住民(=移民の子孫)の激しい差別があった。"北アイルランド紛争史上最悪の悲劇"と呼ばれる「ブラディ・サンデー」はこのような状況下で起きたのである。

 

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 物語の中心は、アイバン・クーパーという一人の下院議員。彼はアメリカのマーティン・ルーサー・キングJr.牧師に影響を受けた公民権運動のリーダーであり、実在の人物である。彼はプロテスタントでありながら、不等な差別を受けるカトリックの差別撤廃のために、活動していた。

 

 そんなアイバンを中心に、デリー市民は1972年1月30日、平和を訴えるために、雇用、住宅、選挙などあらゆる差別の撤廃を訴えるために、大規模なデモ行進を行なおうとする。それはけして暴動などではなく、デモだった。

 

 しかし、このデモに対してイギリス政府は多くの軍隊を配置し、過剰なまでの警備にあたる。

 

 デモ前日、アイバンは若い市民に「暴れるなよ」と釘をさしてまわる。

 

 だがデモ当日、興奮を抑えきれなくなった一部の若者達はイギリス軍へと向かい、投石をはじめてしまう。静かにデモ行進をしていたはずの集団はやがて混乱し、アイバンの制御を離れ、興奮してゆく。

 

 そして悲劇は起こる。

 

 イギリス軍の兵士たちが、非武装の彼らに対して突如、攻撃を始め、結果として14名のカトリックが殺された。これが「血の日曜日事件」である。事件後、イギリス政府は「IRA(アイルランド共和軍)の発砲に応戦した」と主張。イギリス軍兵士は誰一人として処罰されなかった。事件後、北アイルランドではIRAに入る者が増え、事件の報復としてイギリスへのテロ攻撃を強めた。

 

 「ブラディ・サンデー」は2005年にIRAが武装解除するまで、長きにわたる泥沼の抗争へと突入する引き金となってしまったのである。

 

 今作『ブラディ・サンデー』は、この事件の始まりから終わりまでを、アイバン、デリーの若者達、イギリス軍、それぞれの視点を追う細かいカット割りと、手持ちカメラによる映像で丁寧に描いている。そのリアリティは、まるで記録映像を観ているような感覚に陥るほどだった。

 

 さて、冒頭にも書いたように「血の日曜日事件」は多くの日本人にとって、かなり縁遠い事件である。その証拠に、、『ブラディ・サンデー』は2002年のベルリン国際映画祭で、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』とともに金熊賞を受賞したにも関わらず、日本では公開すらされなかった。もし公開されていたとしても、(ほぼ間違いなく)ヒットはしなかっただろうと思う。だが、僕は映画にでてくる二つのシーンによって、「遠い国で起きた悲劇」以上のものをこの映画から感じることができたように思う。

 

 ひとつはアイバンと、彼を慕う女性が短い時間のなかで抱き合うシーン。そしてこの事件の犠牲者となった若者の恋人が、彼の身に起きたことを知らずに、約束した場所で、彼を待ち続けるシーンだ。

 

 どちらもほんの数秒のカットである。

 

 だが、この悲劇に関わった二人の女性(それは二つの愛情とも言い換えられる)によって、今作は普遍的なメッセージを持つことに成功したような気がする。

 

 ポール・グリーングラスが、この二人に映画としての(あるいは彼個人としての)希望を託しているように感じた。このシーンがなければ、この映画は「遠い国で起きた悲劇」を描いたドキュメンタリー以上のものにはならなかったかもしれない。

 

 今作のエンドロールで流れるのは、もちろんU2の「Sunday Bloody Sunday」。

 

 事件から30年をゆうに超える時間が経った今も、彼らはライブで必ずと言っていいほどこの歌を歌っている。

 

 How long must we sing?(いつまでぼくらはこの歌を歌わなければならないんだろう?) と、叫びながら。

 

 もしこの映画でアイルランド問題に興味を持った人は、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したケン・ローチ監督の『麦の穂をゆらす風』も観ていただきたい。時代的にもう少しさかのぼりますが、こちらも良い作品です。

 

(映画ライター 奥田高大)

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【3月放送日】 29日

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