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ピクルスが無性に食べたくなる。温かくて、ちょっと切ない『グッバイ、レーニン!』

 誰もが大抵のものごとに関して趣味嗜好、言い換えれば好きな傾向というものを持っている。よく言う"ほにゃららフェチ"も同じようなものだが、これを映画にあてはめてみると、「SFが好き」とか、「とにかくドンパチするやつ」とか、「誰が何と言おうとラブストーリーが最高よ」など、人それぞれ好きなジャンルやテーマを持っていることが多い。

 

 で、僕はと言うと「現代のおとぎ話」的要素を持った「現実にありそうだけど、まあないだろう」という性質の映画に惹かれるらしい。

 

 今月の特集「映画で見る冷戦時代」の一本としてお送りする『グッバイ、レーニン!』は、そんな僕のツボに見事にはまった作品。

 

 舞台は今からちょうど20年前の1989年。ベルリンの壁が崩壊する直前の東ドイツ。

 

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 ダニエル・ブリュール演じるアレックスは、母、姉、その娘と4人で暮らす心優しき青年。彼の母親は10年前、夫が家族を捨てて西側に亡命したのがきっかけで、社会主義に忠誠を尽くすようになった愛国主義者である。

 

 そんな母の元で育ったアレックスだが、建国40周年を祝う盛大な記念式典が行なわれた夜、改革を求めるデモで逮捕されてしまう。そして、さらに悪いことに、その姿を偶然見かけた彼の母親がショックで倒れ、昏睡状態に陥ってしまうのだ。


 母が倒れたことに責任を感じたアレックスの看病の甲斐あってか、8ヶ月後にようやく目を覚ます母。しかし、彼女が目覚めたときすでにベルリンの壁は崩壊しており、東ドイツには資本主義が怒濤の勢いでなだれ込んでいたのである。

 

 そこでアレックスは「もう一度強いショックを受けたら、命取りになる」と言われた母のために、“東ドイツ体制が続いているフリ”をすることになるのだが、今作はここからが本当の始まり。

 

 体制が変わったことを隠すために、手に入りにくくなった東ドイツ時代のピクルス探しに奔走し、家の窓から見える資本主義の象徴とも言えるコカ・コーラの看板を隠し、本当の情報を伝えないために、友人と偽のニュース番組まで作ってそれを本物のニュースと偽って見せたりと、四苦八苦して“東西ドイツ体制が続いているフリ”を続ける。

 

 その姿は懸命で滑稽で微笑ましく、そしてどこか切ない。

 

 でも、母のために嘘をつくアレックスを見て切なく感じるのは、一体どうしてなのだろう? 映画をご覧になればわかっていただけると思うのだけど、その姿はユーモア混じりに描かれていて、悲しみを誘う行動には映らない。

 

 でも、たしかにどこか切ないのだ。

 

 それはたぶん、アレックスの母をはじめ、けして少なくない人々が信じていたものが、あっという間に崩れてしまったからではないかと僕は思う。

 

 今まで母親の心を支えていたはずの社会主義と、その象徴であるベルリンの壁がなくなったことで、アレックスは懸命にその代わりになろうとしている。

 

 ほんの少し目をそらしていただけなのに、信じていたものがまるっきり変わってしまった。そのことに、僕はおとぎ話的な要素を感じて、ちょっと切なくなるのである。

 

 さて、この健気なアレックスと母の行方は、映画をご覧頂くとして、知っておくとより映画を楽しめる豆知識をここで少し。

 

 『グッバイ、レーニン!』は、当時のドイツの様子や社会主義のなんたるかをあまり知らない人でも十分に楽しめる作品だが、知っているとより楽しめる知識もある。

 

 
 まず「ドイツのことなんてなーんも知らん」という方への基礎知識として、ベルリンの場所をご説明します。意外と、東ドイツと西ドイツを分けるドイツの中央あたりにあるんだろ!と思いこんでいる方いませんか?

 

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 いえいえ、中央どころか、ベルリンは東ドイツのど真ん中にあったのです。しかも、街の西側は資本主義エリアで、東側は東ドイツの首都だった社会主義エリア。つまり社会主義の中にあって、ぽつんと陸の孤島のごとく自由な西ベルリンが存在していたわけです。

 

 でもそのまま放っておくと、社会主義に嫌気がさした東ドイツ人が、ベルリン経由でどんどん西ドイツに移ってしまう。そこで流出を防ぐために西ベルリンを囲む形で、ベルリンの壁は作られることになったのです。

 

 続いては額入りのポートレートなどで何度か登場する白髪頭のメガネをかけた男ですが、彼の名はエーリッヒ・ホーネッカー。ベルリンの壁崩壊の直前まで君臨していた東ドイツの指導者です。いわば東ドイツにおける社会主義の象徴で、劇中では壁が崩壊した後、当時の東ドイツ人が彼をどう評価していたのかを示唆するシーンがたびたび見られます。

 

 さらに個人的には『グッバイ、レーニン!』は、音楽もじっくり聴いてほしい作品です。手がけているのは、『アメリ』の音楽を担当したことで一躍有名になったヤン・ティルセン。幻想的でセンチメンタリズムが漂う音楽が映画の雰囲気とぴったりで、僕は思わずサントラも買ってしまいました。

 

 そうそう、最後になりましたが、『グッバイ、レーニン!』で注目を集めたダニエル・ブリュールは、11月20日から公開される、タランティーノ×ブラピの話題作『イングロリアス・バスターズ』にも出演しています。この映画でダニエルファンになった方は、ぜひ劇場にも足を運んでみて下さい。

 

 ベルリンの壁が崩壊してはや20年。一つの節目となる時期に、ザ・シネマでは「映画で見る冷戦時代」特集として冷戦時代を描いた傑作を5作品お送りするわけですが、『グッバイ、レーニン!』はそのなかでも、いわばファミリードラマ担当。


 笑いと涙もいいけれど、冷戦時代の緊張感をもっと味わいたい方には『駆逐艦ベッドフォード作戦』、シュールな映画に惹かれる方には、キューブリックの名作『博士の異常な愛情』など、多様な趣味嗜好ならびに傾向とフェチにあわせて作品をご用意していますので、ピクルスでもかじりながらぜひご覧下さい。

(映画ライター 奥田高大)

©X Filme creative pool GmbH 2003

【11月放送日】
『グッバイ、レーニン!』 7日9日20日29日

『駆逐艦ベッドフォード作戦』 7日21日24日

『博士の異常な愛情』 7日12日22日

『プラトーン』 7日16日22日24日

『ホワイトナイツ/白夜』 3日7日27日

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