

自分が現実と信じていた日常は、実は人類を支配する人工知能が作り出す“仮想世界(マトリックス)”だった――。
こうした衝撃の近未来社会で繰り広げられる人類VS機械の壮絶バトルを、重力無視のVFXアクションや哲学めいたエッセンス満載に描き、 感性と知性を同時に刺激する『マトリックス』三部作。シリーズを重ねるごとに映像や世界観が複雑に進化し、見るたびに新しい驚きと発見が 生まれる、奥の深い一大SF叙事詩をとくと堪能してほしい!
こうした衝撃の近未来社会で繰り広げられる人類VS機械の壮絶バトルを、重力無視のVFXアクションや哲学めいたエッセンス満載に描き、 感性と知性を同時に刺激する『マトリックス』三部作。シリーズを重ねるごとに映像や世界観が複雑に進化し、見るたびに新しい驚きと発見が 生まれる、奥の深い一大SF叙事詩をとくと堪能してほしい!
- 【製作総指揮・監督・脚本】
- アンディ・ウォシャウスキー、ラリー・ウォシャウスキー
- 【出演】
- キアヌ・リーヴス、ローレンス・フィッシュバーン、キャリー=アン・モス、ヒューゴ・ウィーヴィングほか
- 【制作年】
- 1999
- 【製作総指揮・監督・脚本】
- アンディ・ウォシャウスキー、ラリー・ウォシャウスキー
- 【出演】
- キアヌ・リーヴス、ローレンス・フィッシュバーン、キャリー=アン・モス、ヒューゴ・ウィーヴィングほか
- 【制作年】
- 2003
- 【製作総指揮・監督・脚本】
- アンディ・ウォシャウスキー、ラリー・ウォシャウスキー
- 【出演】
- キアヌ・リーヴス、ローレンス・フィッシュバーン、キャリー=アン・モス、ヒューゴ・ウィーヴィングほか
- 【制作年】
- 2003
『マトリックス』は、誰が見ても分かる単純なSFアクション娯楽作ではない。ストーリーは三部作をつうじて複雑に展開し、一度見ただけで全てを理解することは困難だ。ここでは、映画史研究者である谷川建司先生が、三部作それぞれのあらすじ、ストーリー展開について解説。映画を見て疑問が残った幾つかのシーンの謎が、ここに明らかになる!!
- ニューヨーク、1999年。――深夜のビルの一室で警官隊に拘束される若い女、トリニティー(キャリー=アン・モス)。だが、彼女は超人的なカンフーの技でその場を脱出、コンクリートの壁を突き破って逃げる。黒いスーツにサングラスをしたエージェント・スミス(ヒューゴ・ウィービング)が執拗に追いかける。ビルの屋上から別のビルへとジャンプしたトリニティーは街角の電話ボックスに入り込む。追いついたスミスはトラックで電話ボックスに突っ込むが既にトリニティーの姿はない。
一方、コンピュータの前でうたた寝をしていたトーマス・アンダーソン(キアヌ・リーヴス)は、「起きろ、ネオ。マトリックスは見ている。白ウサギについて行け」という不可解なメッセージの着信で目を覚ます。彼は一流企業のプログラマーだが、同時に夜は自宅でハッカー=ネオという別の顔を持っていた。違法ソフトを購入しにきた男の連れが腕に白ウサギの刺青をしていることに気づいたトーマスは、彼らと共に夜の街へ繰り出す。ディスコの中で「監視されているから注意するのよ」とトリニティーが話しかける。
翌日、会社にきたトーマスの元へFedExの封筒に入った携帯電話が届けられる。開けた途端、その電話が鳴る。声の主はモーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)で、直ちに逃げろと警告するが、トーマスは呆気なくエージェント・スミスに捕まってしまう。取調室でモーフィアス逮捕への協力要請を断ったトーマスは、スミスによって不気味な虫を体内に入れられてしまう。……そこで目を覚ましたトーマスは、すべては悪夢だったか、と安心したのも束の間、トリニティーからの電話でモーフィアスの元へと案内される。
ハッカーであるネオにとって、モーフィアスやトリニティーの名前もネットの世界では有名なハンドルネームで、ネオは尊敬するハッカーとしてモーフィアスに会ってみたかったのだ。そして、一方のモーフィアスとトリニティーの方も是が非でもネオと接触したい理由があった。車中でトリニティーは妙な機械をトーマスの腹に当て、中から例の虫を取り出す。やはり、夢ではなかったのだ。やがて姿を現したモーフィアスは、トーマスに恐るべき“真実”を告げる。…… - ここまで映画を見ていた観客は、トーマスと同様にそれが“現実”のことと信じていたはずだ。だが本当は、時は2199年頃。人類は反乱を起こした人工知能(AI)によって屈伏させられ、今ではバイオメカニカルな発電所の中で、人間の死体からリサイクルした羊水のような液体に満たされたポッドの中に漬かり、コンピュータによって栽培されている。そこでひたすらコンピュータによって脳に電気信号を送られることで見させられている共通の“夢”こそが、トーマスやわれわれが“現実”と思い込んでいたものの正体であり、コンピュータは信号を受けた人体から発生する微量の熱エネルギーを集めることで動力源としている。モーフィアスのメッセージに記されていた“マトリックス”とは、コンピュータが構築して人類全体に電気信号として送り続けていた仮想現実世界のことだったのだ。
最近ずっと“起きていても夢の中にいる感覚”を感じていたトーマスは、その感覚が間違っていなかったことを知る。すべては仮想現実にすぎなかったのだと彼が悟ったきっかけは、モーフィアスが取り出して選択を迫った赤と青の二つの錠剤のうち、赤い錠剤を口に含んだことによる。曰く、「青い錠剤を飲めば、次に起きた時には何も覚えていない。赤い錠剤を飲めば、この世の真実が明らかになる」。それはあたかも、『不思議の国のアリス』のアリスや『オズの魔法使い』のドロシーが現実の世界から不思議な世界に入り込んだのと同じだが、ここではベクトルは逆の方向を向いている。すなわち、今まで見ていた物の方が幻で、今から入っていく世界こそが現実なのだ。 - ギリシア神話の眠りの神モルペウスからとった名前を持つモーフィアスが彼を覚醒させたのには訳があった。コンピュータとの戦いに再び立ち上がった人類は、理想郷=ザイオンという都市で抵抗を続けている。モーフィアスは預言者=オラクルから、戦いに決着をつける救世主の登場を告げられていて、トーマス、つまりネオこそがその救世主だと信じていたのだ。だが、トーマスはまだ半信半疑でいる。
トーマスがハッカーとして名乗っていた名前、ネオ(Neo)は、アルファベットを並べ替えればThe One、すなわち“選ばれし者”としてのキリストだ。本名のトーマス・アンダーソンは「ヨハネの福音書」でキリストの復活を信じなかったThomasと、キリスト自身が好んで自らを読んだ「人の子」を意味するAndersonからきている。羊水から出て、モーフィアスたちのホバークラフト「ネブカドネザル号」に乗り込んだ彼を、救世主だと信じないクルーのひとり、サイファー(ジョー・パントリアーノ)は、数字のゼロから転じて“無価値な物”の意味となるCypherの名前を持つが、その爬虫類柄の衣装からは、神が寵愛する人間を堕落させようと蛇の姿でエデンの園に侵入してきたサタン=ルシファー(Lucifer)も連想される。サイファーはユダがキリストを裏切ったのと同様に、自らの貪欲な欲望を叶えることと引き換えにエージェント・スミスに仲間を売り渡す。
柔術やカンフーなど、仮想現実世界(マトリックス)の中で戦うためのスキルを身につけようと、モーフィアスと特訓に明け暮れるトーマス。やがて、モーフィアスはトーマスを預言者の元に連れて行く。預言者(グロリア・フォスター)はハッキリと彼が救世主であるとは言わないものの「モーフィアスは彼が神と信じるネオを救うために自らの命を捧げるだろう」と預言する。そして「あなたはモーフィアスを見殺しにするのか、彼を救うために自らの命を投げ出すのかの選択を迫られる」とも。 - 果たして、モーフィアスはサイファーの裏切りのためにエージェント・スミスに囚われてしまい、トーマスはモーフィアスを見殺しにするのか、自らの命を投げうって彼を救出しにいくかの選択を迫られることになる。クルーの他のメンバーたちもマトリックスにいる間に現実世界にいるサイファーにコードを切断され命を落とすが、現実世界とマトリックスとを電話回線を通じて行き来させるオペレーターのタンク(マーカス・チョン)がかろうじてサイファーを倒し、トリニティーとトーマスは現実世界に帰還する。……だが、モーフィアスを見殺しに出来ないトーマスは、反対を押し切って彼の救出のためにトリニティーとともに再びマトリックスに向かう。
マトリックスに入ったトーマスとトリニティーは、山のような武器を調達し、ビルの一室で拷問に耐えるモーフィアスを救出しに行く。激しい銃撃戦の末に敵のヘリコプターを奪った二人は、ビルの壁面にホバリングさせたヘリコプターからマシンガンを撃ちまくり瀕死のモーティアスを奇跡的に救出する。二人を先に現実世界に戻したトーマスは、ただひとりマトリックスに取り残されてしまい、エージェント・スミスらと戦うことになる。スミスに対して「私の名はネオだ」と告げる彼自身、今では自らが救世主であると信じていた。だが、現実世界に戻るための窓口である電話回線を求めてとあるモーテルの一室に逃げ込んだネオは、スミスに撃たれて絶命する。 - 仮想現実の世界の中で死んだネオは、実際にはネブカドネザル号の中でマトリックスとの行き来に使うマシンに身体を横たえたまま息絶えていた。ネブカドネザル号自体もコンピュータ側が送り込んできた“イカ形”の攻撃マシン、センティネルの軍団に攻撃されて絶体絶命のピンチだ。だが、その名前が父たる神、子としてのキリスト、そして精霊の“三位一体”の意味を表すトリニティーが「死じゃ駄目、ネオ。オラクルは私の愛する男こそ救世主だと言ったわ。あなたを愛しているの」と彼の耳元で囁き、口づけをした瞬間、キリスト復活の奇跡さながらに息を吹き返す。
蘇ったネオは、今では超人的な能力を身につけていた。彼には高速で飛んでくる弾丸をピタッと止め、エージェントの身体を突き抜けることもできる。それらはすべて、ネオにはデジタルの文字と数字の羅列として感じ取ることができるようになったのだ。現実世界(アナログ)と仮想現実世界(デジタル)との間のギャップを自由自在に埋めることができるようになったネオこそが、コンピュータによって作り出された人類共通の仮想現実世界である“マトリックス”にほころびを生じさせ、これを打破していく力を持っているのだ。だが、ザイオンを敵のセンティネルの大群に迫られつつある人類に残されている時間は僅かしかない。…… - 『マトリックス』三部作の第一部はここまでで幕を閉じる。そのストーリーの骨組みに当たる部分が聖書からとられていることは、これまで記述したとおり。だが、この映画が、キリスト教のモチーフに基づきイエス・キリストの物語を換骨奪胎した物語だと言い切れるのか、というとそう単純ではない。ネオは確かにイエス・キリストと同様に奇跡を起こし、死と再生を体現し、人類の救世主となる人物ではあるが、同時に彼はイエスとは違って、己の目的を成し遂げるための手段として大量の武器と暴力とを用いることをためらわない。もちろん、これはキリスト教の教義には反することだ。一方、この作品には、仏教やヒンズー教のような東洋の神秘思想からの影響もまた顔を覗かせている。
こういった様々な宗教からの影響に加えて、ウォシャウスキー兄弟が構築した世界には、『不思議の国のアリス』や『オズの魔法使い』からの引用、あるいはボードリヤールの『シュミラークルとシュミレーション』やヒラリー・プットナムの“水槽の中の脳”仮説などへの言及を始めとして、過去のさまざまな映画作品などポピュラー・カルチャーからの直接間接の引用、換骨奪胎に溢れている。
たとえば、トリニティー、モーフィアスらが披露し、やがて特訓を受けたネオもまた自在に操ることができるようになるカンフー・アクションは、ブルース・リーなどを生んだ香港映画界の伝統的な戦闘スタイルだ。ここでは、重力や時間の観念に捕らわれない“何でもあり”のバトルが展開されるが、当然ながら、カンフー・アクションの基本的な身のこなし、ファイティング・スキルだけでなく、ワイヤーを用いたアクロバティックなアクションが俳優に求められている。
このカンフー・シークエンスを担当しているユアン・ウーピンは香港映画界でジャッキー・チェンやジェット・リーのアクション俳優としての成功を影で支えた名振付師で、まったくカンフーの経験のなかったキアヌら俳優陣を指導し、見事なアクション・シークエンスを完成させている。
- ビルの屋上からジャンプするバイク。地上に到達したバイクが炎上する直前に平然と飛び降りたトリニティー(キャリー=アン・モス)はガードマンたちを難なく倒し、目的のビルに侵入する。敵との激しい戦いの中でガラスを突き破って脱出するものの、追ってきた敵と空中でマシンガンでの撃ち合いとなり、とうとう胸部を撃ち抜かれてしまう。……いつものようにそこで目を覚ましたネオ(キアヌ・リーヴス)は、ベッドの隣に眠るトリニティーにほっとするが、繰り返し見る不吉な夢に内心穏やかではない。
ここは、AI(人工知能)が人類との戦いに勝利して築いたマシン世界(現実世界)に対する彼ら反乱軍のホバークラフト“ネブカドネザル号”の中。彼らの本拠地である人類最後の都市ザイオンは、地球を支配するコンピュータの放った25万体のセンティネル軍団の大攻撃の危機に晒されている。ネブカドネザル号のキャプテン、モーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)は、他のホバークラフトも結集した作戦会議の場で全艇に帰還命令が下っていたのを無視して“預言者”からの連絡を待つために一艇待機させる。
ザイオンに戻ったネオたちはそこに暮らす人々から熱烈な歓迎を受け、モーフィアスはロック司令官(ハリー・レニックス)から命令無視を糾弾される。だが、ハーマン評議員(アンソニー・ザーブ)を始めとするザイオンの評議員たち、そして民衆たちは、モーフィアスの言葉、そして救世主としてのネオの力を信じている。…… - 大ヒットした前作から4年、『マトリックス リローデッド』は前作では直接描かれることのなかった人類最後の都市ザイオンの様子と、そこで暮らし、戦う人たちの苦悩や希望といった様々な感情を描いているのが特色だ。自らが救世主となるという預言を信じきれず、愛するトリニティーを失う恐れに悩み続けるネオの心理的葛藤もまた丹念に描かれる。超人的なスーパーヒーローではなく、むしろその役柄のモチーフのひとつとなっているイエス・キリストのように悩み、苦しみ、そしてその中から成長していく主人公ネオ。
ネオが心の葛藤を抱えている一方で、ネオを演じて自らの代表作にしたキアヌ・リーヴスの俳優としての立ち位置には全く迷いがない。中国系ハワイ人である父親に名付けられたキアヌという名前はハワイの言葉で「山々を越える涼風」という意味だが、キアヌはその名前の通り爽やかな風のように軽やかに俳優人生を歩んでいる。『スピード』(1994年)の大ヒットでメジャー・スターとなった彼だが、たとえ役が小さくとも演り甲斐のある性格俳優的な役柄にも積極的に取り組みたいと公言していた。それはつまり、メジャーとインディペンデントの両方の土俵でバランスよく演技を続けて行きたいということであり、実際、彼はギャラが前作の数倍に跳ね上がったと伝えられるにも拘らず『スピード2』への出演の話を蹴り、代わりにインディペンデント作品『死にたいほどの夜』(1997年)に、しかも主役ですらない役柄で出演している。
そんな彼にとって『マトリックス』三部作というのは最大のヒット作にして最大の当たり役だが、その俳優としてのポリシーにとって理想的な役柄といえる。つまり、このトリロジーは予算の規模や公開規模という観点で見れば明らかにハリウッドのメインストリーム作品なのに、むしろ精神の上ではインディペンデントであることに固執した、「史上最大規模のインディペンデント映画」とでもいうべき新しい形を体現しているからだ。すなわち、他のさまざまな芸術や哲学、思想などからインスパイアされた“マトリックス世界”の奥深さは一般のハリウッド大作映画と比べて際立っているのだ。 - 敵の攻撃が目前に迫ったとき、評議員たちの支持を得たネブカドネザル号のメンバー、すなわちモーフィアス、ネオそしてトリニティーはナビゲーターのリンク(ハロルド・ペノリー・ジュニア)のアシストの下、再びマトリックスに乗り込む。モーフィアスのかつての恋人で、今はロック司令官の恋人になっていたナイオビ(ジャダ・ピンケット・スミス)もロゴス号を率いてネブカドネザル号のバックアップを買って出る。
ウィル・スミスの愛妻ジャダ・ピンケットが演じているこのナイオビは、本作の中ではサブ・キャラクターに過ぎないが、実は、映画版トリロジーを補完する形で製作されたゲーム・ソフト『エンター・ザ・マトリックス』の主人公だ。他にも、9人の監督たちによって自由に描かれた短編の関連ストーリーがDVD『アニマトリックス』として発表されるなど、さまざまなメディアをコラボレートすることで、映画版で構築されたマトリックスの世界は重層化され、観客とのコミュニケーションがより密度の濃いものとなっている。
ネオは預言者の側近でカンフーの達人であるセラフ(コリン・チョウ)の手引きで預言者=オラクル(グロリア・フォスター)に再び会うことが出来、彼女から戦いを終わらせるためにはマトリックスの主コンピュータである“ソース”に行く必要があると助言を受ける。だがその中に入る鍵を得るためにキー・メイカーの協力が必要だ。そして、そのキー・メイカーはマトリックス内最古のプログラムであるメロビンジアン(ランバート・ウィルソン)に身柄を拘束されていた。 - 直後、ネオは監視プログラムのエージェント・スミス(ヒューゴ・ウィービング)からの攻撃を再び受ける。スミスは今ではコンピュータの意思とは関係なくネオを追い続けるプログラムに自らを変身させ、自分を無数にコピーする方法も見つけていた。数百人のスミスと戦い、辛くも脱出したネオは、キー・メイカーの居所を突き止めるためモーフィアス、トリニティーとともにメロビンジアンの元へ出向く。
追い返されたネオとモーフィアスたちを救ったのはメロビンジアンの妻パーセフォニー(モニカ・ベルッチ)だった。彼女は、他の魅力的な女性のプログラムとの情事に耽る夫への腹いせのごとく、忘れかけていた情熱的キスをネオに求める代償にキー・メイカーの居場所を教える。首尾よくキー・メイカー(ランダル・ダク・キム)の身柄を確保した一行は、メロビンジアンの部下ザ・ツインズ(ニール&エイドリアン・レイメント)に追われてハイウェイに逃げ込む。凄まじいカー・チェイスの末にザ・ツインズの執拗な攻撃をかわし、キー・メイカーと共に“ソース”に入り込む手筈を整えたネオとモーフィアス。
ネオは悪い前兆を感じ、トリニティーをマトリックスの外で待機させる。ネオたちの前には再びスミスが立ち塞がる。ナビゲーターのクリスからネオの危機を聞きじっとしていられなくなったトリニティーは、彼との約束を破り再びマトリックス内へ入っていく。ネオたちが無事に“ソース”に入り込むためにはその区画を一時的に停電させねばならないが、バックアップが作動して停電が解除されてしまい、その設備を緊急に破壊しなければならなくなったのだ。
ビルの屋上からジャンプするバイク。地上に到達したバイクが炎上する直前に平然と飛び降りたトリニティーはガードマンたちを難なく倒し、目的のビルに侵入し、バックアップ設備を破壊する。…… - キー・メイカーが犠牲になることで何とか“ソース”に入り込んでマトリックスの設計者=アーキテクト(ヘルムート・バカイティス)と対峙したネオ。だが、アークテクトによれば、救世主の存在は“プログラムされ予定された救世主”に過ぎず、その登場を預言した預言者の存在も、実はアーキテクトによってデザインされたコンピュータのコントロール・システムに過ぎないという。そして救世主はこれまでにも5人ここへやってきたが、いずれのケースも人類を一からやり直させるべく“ノアの箱舟”のように選ばれた人数の男女を残してマトリックスを初期化する選択をしていた。
ネオはやはり残された人類を救う救世主などではなかったのか。――前の5人と同様の選択をするか、愛する者たちとともに人類滅亡のリスクを侵してでも戦うか。ネオは躊躇無く“愛”を選択し、トリニティーの元へ向かう。敵との激しい戦いの中でガラスを突き破って脱出した彼女は、追ってきた敵と空中でマシンガンでの撃ち合いとなり、とうとう胸部を撃ち抜かれてしまう。だが、地面に激突する寸前のトリニティーをキャッチしたネオは彼女の身体から弾丸を取り去り、その“愛”によって彼女を蘇生させる。ちょうど、スミスに射殺されたネオをトリニティーが口付けで蘇らせたのと同じように。……
現実世界のネブカドネザル号に戻った彼らをセンティネル軍団が襲う。かろうじて船体爆発の前に船外へ脱出したネオたちだったが、センティネルに襲われて絶体絶命となる。そのとき、それまでは仮想現実世界(=マトリックス)にいるときにだけ超人的なパワーを使うことのできたネオは、襲ってきたセンティネル数体をなぜか現実世界でも手をかざして気持ちを集中させるだけで倒すことができた。力を使い果たして倒れたネオは、救出に来たホバークラフトのひとつ、ミョルニール号船内に横たわって意識を失ったまま、マトリックスと現実世界の間にある無人地帯に取り残されてしまっていた。
もう一人、ネオと隣あわせでこん睡状態に陥っている男がいた。それはベイン(イアン・プライス)で、センティネル軍団によって壊滅的打撃を受けたホバークラフトの一団のうち、ただ一人生き残ったカデューシャス号の乗組員であった。…… - 第二部である本作ではネオの心の葛藤をより丹念に描いているだけでなく、前作で注目が集まったユアン・ウーピン振り付けによるカンフー・アクション含めて、すべての面でスケール・アップしている。様々なCMなどで模倣された前作での“ブレット・タイム”(=人物や物体の動きは超スローモーションだが、キャメラは高速で移動するテクニック)が再現されているだけでなく、本作の特撮映像はさらにパワーアップしているのである。
特撮映像による典型的なシーンとしては、何百人にも増殖していくエージェント・スミスとネオが戦う“スーパー・ボウル”と呼ばれるシーン、あるいはハイウェイでのバイクの逆走シーンや、トレーラー上でネオとザ・ツインズとがバトルを繰り広げるシーンなどが挙げられる。これまでのどんな映画でも見たことも無いアングルから撮られたそれらのシーンは、デジタルだけに頼るのではなく、わざわざこの映画のために実際に数キロにわたってハイウェイを建設するというような贅沢なアナログ的技術との融合によってこそ可能となった映像だろう。
もちろん、これらのシーンはすべてコンピュータ制御された技術だから、映画のテーマそのものであるコンピュータに人類が駆逐されてしまうというコンセプトからすると、映像テクニックの方法論としてコンピュータに全面的に依拠していることは皮肉と言えば皮肉だが、そのことによって逆にストーリーの不気味さが倍増しているとも言えよう。
- コンピュータの放ったセンティネル軍団の数体をなぜか現実世界でも自分の意思だけで倒すことのできたネオ(キアヌ・リーヴス)は、力尽きて倒れると、ミョルニール号で意識を失ったままマトリックスとマシン世界(現実世界)の間にある無人地帯に取り残されてしまっていた。眠り続けるネオを必死の想いで見守り続けるトリニティー(キャリー=アン・モス)。そして、モーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)は、自分の命を預けるに足ると信じてきた“救世主”や預言者=オラクルまでもが、実はアーキテクト(ヘルムート・バカイティス)によって作り出されたひとつのコントロール・システムに過ぎないという事実を知り、もがき苦しんでいた。
人類最後の都市ザイオンへのセンティネル軍団による大攻撃が秒読みとなった頃、ロック司令官(ハリー・レニックス)や勇猛果敢な隊長ミフネ(ナサニエル・リーズ)らに率いられたザイオン軍は、爆発したネブカドネザル号のナビゲーターであるリンク(ハロルド・ペリノー)の帰りを待つ妻のジー(ノーナ・ゲイ)、ネオを崇拝する16歳の若者キッド(クレイトン・ワトソン)ら勇敢な市民の志願者のバックアップも得て、人類最後の砦を守り抜こうと必死の攻防を試みていた。
現実世界ではこん睡状態の続いていたネオは、無人地帯のとある地下鉄の駅にいた。彼はそこで少女サティー(タンビーア・アトウォル)と出会う。サティーとその両親は、コンピュータのプログラムでありながら、不要になったことでコンピュータから削除されてしまうことを恐れて、せめて娘(サティー)の命だけでも生きながらえさせたいと考え、メロビンジアン(ランバート・ウィルソン)と取引して娘だけマトリックス内に留め置く約束を交わしていたのだ。ネオは、人間にしか存在し得ないと考えられてきた“愛”の観念がコンピュータ・プログラムの間でも存在し得ることを知る。…… - シリーズ最終章である本作『マトリックス レボリューションズ』では、過去二作品で提示されてきた枠組み、数々の疑問点、そして主人公たちそれぞれの物語の結末が示されることになる。トリニティーとネオとの愛の行方や、ナイオビなど前作で新たに登場した主人公たちの運命、そしてコンピュータと人類との存亡を賭した数百年に渡る戦いについても、本作のラストである種の決着が示されることになる。
救世主として戦うことになった主人公ネオは、前二作を通じて次第に強力なパワーを身につけていったが、そのパワーとは基本的にはコンピュータが構築した仮想現実世界、すなわちマトリックスの中に侵入したときにのみ発揮される力だった。だが、前作のラストでネオはなぜか現実世界へ戻った後も自らの意志の力によってコンピュータの放った刺客=センティネル数体を破壊することができた。彼の能力はマトリックスを超えてアクティヴになったのだ。それは、一見するとこの物語のクリエーターであるウォシャウスキー兄弟が自ら設定したルールを破ってしまったようにも見えるが、実はそこにこそ一番大きなメッセージがあることが本作において明らかになる。
モーフィアスとトリニティーは、セラフ(コリン・チョウ)から連絡を受ける。預言者が二人を呼んでいるというのだ。マトリックス内に入った二人は姿を変えた預言者=オラクル(メアリー・アリス)を訪ね、ネオが迷い込んだマトリックスとマシン世界の間にある無人地帯を設計し、その無人地帯とマトリックスとを行き来する列車を管轄するのはトレインマン(ブルース・スペンス)であり、そのトレインマンに命令を下しているのがマトリックス内最古のプログラムであるメロビンジアンである事実を知る。 - オラクルは前二作とは異なる外見で登場するが、劇中ではそれは彼女自身が自らの意思で“ある決断”をしたため、プログラムを変更されてしまい、代わりの外見を手に入れざるを得なかったという理論的説明がなされている。マトリックスの世界においては、それは非常に説得力のある説明だが、実際には前二作でオラクルを演じたグロリア・フォスターが前作撮影終了間際に急死してしまったために急遽脚本を変更して設定を変えている。
モーフィアス、トリニティー、そしてセラフは大量の武器を携えてメロビンジアンの元へ出向く。そしてメロビンジアンとの駆け引きの末、最終的にはトリニティーがメロビンジアンの額に銃を突きつけて、無人地帯に取り残されたネオを現実世界へ引き戻すよう迫る。メロビンジアンはあくまでも取引として自分の欲しいもの(それは預言者=オラクルの目玉である)との交換にこだわるが、メロビンジアンの妻パーセフォニー(モニカ・ベルッチ)が夫に対して「トリニティーは本気よ。彼女のネオへの愛の深さは本当に彼のためなら死ねるくらい強いものなの」と忠告したことによって、無条件でのネオ奪還が実現する。無人地帯行きの列車に乗り、ネオとの再会を果たし熱い抱擁を交わすトリニティー。
一方、コンピュータの監視プログラムからいまやマシンにさえ制御不能のならず者プログラムとなったエージェント・スミス(ヒューゴ・ウィービング)は、ホバークラフト=カデューシャス号の乗組員であったベイン(イアン・プライス)の精神のプログラムを書き換えることでその身体を乗っ取り、現実世界においても活動する術を獲得していた。ホバークラフト艦隊を壊滅させたのはベイン(=スミス)の仕業だったのだ。もはやスミスはひとりネオを倒すことだけでなく、現実世界とマトリックス、さらには自身を生み出したマシン帝国をも破壊しようとする脅威となっていた。 - ネオとスミスがともにマトリックス(仮想現実世界)とコンピュータが支配するマシン世界(現実世界)の垣根を越えるパワーを獲得したことはコンピュータ側のプログラムであるアーキテクトが予測できなかった事態であり、またネオとスミスは敵であるお互いのパワーが増すにつれて自分のパワーも増す形で相互に影響されつつ発展してきた側面を持つ。二人のパワーが増し続けた結果として、マトリックスとマシン世界(現実世界)の秩序が危ういものとなり、はじめてほころびが生じ始める。
ネオはコンピュータ世界の中枢部分が何とか事態を収拾させたいと考えているはずだと感じていた。再びマトリックスの中のオラクルを訪ねたネオは、マシン帝国と人類と戦いに終止符を打つためには焦土と化した地上にある、未だ誰も辿りついたことの無い恐るべきマシン・シティーの心臓部へと入り込むしかないと悟る。彼は、事態を収拾したいと考えているに違いないコンピュータの中軸と取引することで人類を救おうと考えていた。
残り少ないホバークラフトの一艇を使って人類がいまだかつて挑んだことのない領域に乗り込もうというネオの決意を支持し、ホバークラフト=ロゴス号提供を申し出たのはナイオビ(ジャダ・ピンケット・スミス)だった。ネオは、どこまでもネオと運命を共にする決意を固めていたトリニティーと二人で出発する。だが、意識を取り戻し、ロゴス号に潜んでいたベインが二人に襲い掛かる。かろうじてベインを倒したものの両目を焼かれ失明してしまうネオ。…… - ザイオンではヒト型のパワード・スーツであるAPUに身を包んだミフネらの獅子奮迅の活躍にもかかわらず、巨大ドリルとともに進入してくるセンティネル軍団により人類の運命は風前の灯となっていた。ミョルニール号に残ったモーフィアスらはナイオビの超人的な操縦テクニックによって排気ダクトを通ってザイオンへ急行する。壮絶な戦死を遂げたミフネに代わってAPUを装着したキッドが排気ダクトのゲートを開けることに成功すると、間一髪間に合ったミョルニール号は電磁パルス(EMP)によってセンティネル軍団を壊滅させ、ザイオンはひとまず滅亡の危機を免れる。
トリニティーの愛の力を借りて、ネオは何とかマシン・シティーの心臓部に辿り着く。だが、センティネル軍団の攻撃によって、トリニティーは致命傷を負ってしまう。ネオに抱かれ、最後の口づけとともに息絶えるトリニティー。――マシン世界の究極のパワーであるデウス・エクス・マキナと対峙し、ザイオンを救うための最後の望みである取引を申し出る。それは、すなわちマトリックス世界でエージェント・スミスと決着をつけることを意味していた。……
降りしきる雨の中、ネオはエージェント・スミスと最後の激しいバトルを繰り広げる。そして、自らの身体を犠牲にすることでエージェント・スミスの身体(プログラム)をその無数のコピーとともに葬り去る。この結果、コンピュータ側は再びザイオンに送り込んでいたセンティネル軍団を引き揚げさせ、ここに数百年もの間続いたコンピュータと人類との間の戦争は終結する。再会し熱い抱擁を交わすリンクとジー。モーフィアスとナイオビもまた互いの信頼を取り戻していた。―― - モーフィアスがヨハネであり、トリニティーがマグダラのマリアであり、(第一作の)サイファーがユダであり、ネオがイエス・キリストであるという聖書の枠組みは改めて指摘するまでもないが、最終的にネオがデウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神という意味のラテン語)と対峙し、ザイオンを救うための取引を申し出た行為は、自らの肉体を犠牲にすることで身を持って大きな“愛”を示したキリストの最後を想起させる。
コンピュータにとってアンコントローラブルな事態に陥ったのは本来コントロール・システムの一つに過ぎないはずだった“救世主”と、それを排除しようとする監視プログラムとがお互いに刺激を与え合い過ぎたからだ。そしてその過程でネオが迷い込むことになったエリア(無人地帯)にはコンピュータ内に生じた“愛”の観念が救いを求めるかのごとく存在していた。この“愛”の観念こそが、“救世主”(=ネオ)側に、より大きな“愛”による人類救済の可能性を教える。……このコンピュータ世界を、ネオコンのはびこっていた数年前までのアメリカという国と置き換えることが可能だろう。
『マトリックス』三部作を通じて描かれてきたコンピュータ世界からは、グローバリゼーションの名の下で多様な価値体系の存在を力づくで抑え込み、そこに組み込まれることを良しとしない勢力によるテロリズム行為に対抗するため、ますます軍事力を拡大し続けた結果、軍部の独走に歯止めをかけられなくなる、という単独行動主義国家の“悪い結末”が透けて見える。とすれば、軍拡競争の果てに根幹となる国家の枠組みの維持さえ危うくなる可能性、そしてその終わりなき戦いに終止符を打つ、あるいは少なくとも休戦協定を締結する唯一の道筋は、互いの立場を認めた上で共存の可能性を見つけるべく努力する“愛”のパワーに他ならない、というのがこのトリロジーの内包しているメッセージかもしれない。







