


6月30日(土)、東京都美術館グランドオープンを飾る「マウリッツハイス美術館展」にて、「真珠の耳飾りの少女」が待望の来日。これを記念してザ・シネマでは、開催初日の6月30日(土)から、絵画の世界を鮮やかに映像化した、スカーレット・ヨハンソン主演の同名作品を放送。あわせて展覧会チケットやオリジナルグッズのプレゼントも実施。この夏話題のイベントをぜひ映画でもご堪能ください。

フェルメールとその時代について
オランダが最も栄え、黄金の時代と称された17世紀。この時代のオランダはレンブラントやフランス・ハルスなど数多くの絵画の巨匠を生み出しました。中でもデルフトという小さな街に生まれたヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer, 1632年 - 1675年)の描き出す静穏な絵画は21世紀を生きる我々の心を捉えて止みません。それまでの絵画は力のある教会や貴族の依頼を受け、専ら宗教画を中心に描かれましたが、フェルメールをはじめとするオランダの画家たちは、民衆の求める市井の人々の何気ない日常生活の一コマや身近な風景などをキャンバスに表し人気を博しました。この映画に華やかな王侯貴族は登場せず、慎ましく日々の生活を送る市民たちが、あくまで主役であるのも、そのような時代背景が大きな理由です。オランダは世界でもいち早く近代市民社会を築いた国でもあるのです。
名画「真珠の耳飾りの少女」の有する普遍性
さて、フェルメールが描いた北方のモナリザとも称される傑作「真珠の耳飾りの少女」を思い浮かべてみて下さい。印象的な青と黄色のターバンを巻き、大粒の真珠のイヤリングをつけた少女がこちらをじっと見つめています。非常に魅力的な絵画でありますが、描かれていることはそれだけです。ここに描かれている少女が誰であるのか、まずそこからして分からないのです。一般的な肖像画であれば誰を描いたかがほぼ分かります。ところがフェルメールのこの作品は誰を描いたものか記録が全く残されていません。つまり情報量の非常に少ない作品なのです。こうした作品は肖像画ではなく「トローニー」(特定の人物ではない誰かを描いた人物画)と呼ばれます。実はここにこの作品の大きな魅力があるのです。王妃や妻といった特定の誰かを描いたのではないことは、逆に考えればある種の普遍性を有している作品となります。つまり、観る者に様々な想像を働かせることになるのです。「この少女は一体誰なのか」と。
映画「真珠の耳飾りの少女」はひとつの物語
その謎にひとつの答えを示したのがこの映画「真珠の耳飾りの少女」です。原作者のトレーシー・シュヴァリエは、フェルメールの家に住み込みで働いていた女中が「真珠の耳飾りの少女」のモデルになったと大胆な想像を試みたのです。フェルメール(コリン・ファース)の家に奉公に出されたグリート(スカーレット・ヨハンソン)はいつの間にか画家のアトリエの掃除を任されることになります。それは決して偶然でなく必然であったのです。グリートには構図や色の配置など絵画に関する天賦の才能があったのです。それはこの映画の冒頭でグリートが料理をしている場面で見事に暗示されています。
「真珠の耳飾りの少女」を美術館、画集、web等で観る者は、それぞれ違った物語を紡ぎ出し自分なりのイメージを少女に抱いているはずです。この映画は、そうした何万通りも想像される解釈のうちのひとつに過ぎないのだと割り切って観ることが肝要です。自分自身の解釈と対比させ愉しんで観る心の余裕が必要な映画なのです。あくまでも物語のひとつに過ぎないのですから。
映画の中の見逃せないポイント
フェルメールは遠近の正しい透視画を描く際にカメラ・オブスクラを用いたのではないかと推察されています。劇中でも巨大なピンホールカメラのようなかなり大仕掛けの機材がフェルメールのアトリエに登場します。フェルメールとグリートが二人でカメラ・オブスクラに写った「絵」を覗くシーンはこの映画の前半の大きな見所でもあります。
フェルメール一家は11人もの子どもを抱え決して余裕のある家計ではありませんでした。それにも関わらず画家は当時、金と同じ価値を持つ高価な絵具ラピスラズリを使い青色を表現しました。数百年の時が経過した現在でもフェルメール作品が輝きを放ち続けているのはその為でもあります。鉱石(宝石)であるラピスラズリを一体どのようにして絵具にしていたのか、中々説明してもピンとこないものですが、この映画の中ではそれをグリートが「実演」してくれています。因みにフェルメール作品ではこの青色と黄色の二色を隣り合わせに配置させ補色の効果により、お互いの色を引き立てることに成功しています。まるで絵の世界のワンシーンのように映画の中で、グリートが青色、その隣りではフェルメールが黄色の絵具を準備している場面があるのです。何気ないシーンですが絵画との関連性を強く意識した場面と言えるでしょう。
台詞も少なく全体的に寡黙な映画です。登場人物のこころの葛藤や遣り取りが丁寧に描かれています。それはまるで“動くフェルメール作品”のようでもあります。映画を観てから「マウリッツハイス美術館展」で実際の「真珠の耳飾りの少女」を観るのも良し、その逆もまた良し。それぞれ一度観ただけは分からなかった何かがきっと顕れて来るはずです。

中村剛士(Twitter:taktwi):美術ブログ「青い日記帳」主宰。展覧会レビューやその他幅広いアート情報をブログやTwitterで毎日発信している。『フェルメールへの招待』『マウリッツハイス美術館展公式ガイドブック』(朝日新聞出版)執筆・編集。「マウリッツハイス美術館展」ではオリジナルグッズも手掛ける。世界中に点在するフェルメール作品全点コンプリート。
「真珠の耳飾りの少女」
天才画家ヨハネス・フェルメールが生んだ名画、「真珠の耳飾りの少女」から着想を得たベストセラー小説を映画化、フェルメールと少女の愛を官能的に描く。また、構図や色彩など、絵画の世界を鮮やかに映像化し、アカデミー賞3部門にノミネートされた。主演は『マッチポイント』のスカーレット・ヨハンソンと『英国王のスピーチ』のコリン・ファース。
2012/6/30(土)23:30〜深夜1:30
2012/7/5(木)14:00〜16:00 ほか

1984年ニューヨーク生まれ。幼少期より演劇教室に通い、8歳のときにオフ・ブロードウェイで舞台デビュー。その後94年に映画デビューし、初主演作品『のら猫の日記(1996)』では、弱冠11歳にしてインディペンデント・スピリット映画賞で主演女優賞にノミネートされるなど高い評価を受ける。以降も『ゴーストワールド(2001)』、『ロスト・ イン・トランスレーション(2003)』、『マッチポイント(2005)』、『アベンジャーズ (2012)』などに出演、今後の活躍がますます期待される若手ハリウッド女優である。

1960年イギリス/ハンプシャー州生まれ。ロンドン芸術大学で演技を学んだ後、舞台『アナザー・カントリー』に出演、同作映画版にて映画デビューを果たす。95年BBC制作のテレビドラマ『高慢と偏見』でブレイクを果たし、その後も『イングリッシュ・ペイシェント(1996)』、『恋におちたシェイクスピア(1998)』、『ブリジッ ト・ジョーンズの日記』シリーズなど数々の話題作に出演。『シングル・マン(2009)』ではヴェネツィア国際映画祭で男優賞を受賞、翌年『英国王のスピーチ(2010)』ではその演技力を高く評価され、見事アカデミー賞主演男優賞を受賞した。