ニュージャージー郊外のコンビニ「クイック・ストップ」。いつものように外でドラッグを売っているのをバイト店員ダンテ(ブライアン・ホハロラン)に止められた売人のジェイとサイレント・ボブは、立ち寄った先のコミック書店で店主のブロディ(ジェイソン・リー)からアメコミ『ブラントマン&クロニック』がハリウッドで映画化されることを知る。このコミック、ふたりをモデルにした作品だったのだ。

 「勝手に映画化しやがって!」ふたりは原作者のひとりホールデン(ベン・アフレック)のもとを訪れるが、彼は相方だったバンキー(これも演じているのはジェイソン・リー)に権利を譲ってしまったと言う。かくしてジェイ&サイレント・ボブは分け前をもらうべくハリウッドへと旅立つ。しかし道中で宝石泥棒の美女たち(シャノン・エリザベス、エリザ・ドゥシュク、アリ・ラーター、ジェニファー・シュウォールバック)やオランウータンと知り合ったことで、捜査官のウィレンホリー(ウィル・フェレル)に追われる羽目に。はたして彼らは無事ハリウッドに辿りつけるのだろうか?

 ……と、書いても何のことだか分からないコメディ映画が、2001年公開の『ジェイ&サイレント・ボブ 帝国への逆襲』である。でも分からないのは当然。本作は複数の物語が同一世界内で描かれる「ヴュー・アスキュニバース」映画の第五作にあたるのだから。例えて言うなら、「マーヴェル・シネマティック・ユニバース」の作品群を見たことがない観客が、いきなり『アヴェンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を見せられるようなものである。本作を十分に楽しむには「ヴュー・アスキューニバース」の過去作の鑑賞、そして全ての作品の監督と脚本を手がけ、無口なドラッグの売人サイレント・ボブ役を演じている創造神ケヴィン・スミスについての理解が不可欠なのだ。

 そのスミスは1970年ニュージャージー生まれ。アメコミと『スター・ウォーズ』とホッケーをこよなく愛する彼は、映画監督になる夢を叶えるべくカナダのバンクーバーにある映画学校に進学した。しかし21歳の誕生日に観たインディ映画『スラッカー』に衝撃を受ける。当時30歳だったリチャード・リンクレイターが監督した同作は、彼の地元オースティンで暮らす奇人変人たちを撮っただけにもかかわらず猛烈にクールで魅力的だったからだ。

 「俺も地元で映画を撮ろう!」スミスは映画学校を中退し、浮いた学費と自慢のアメコミ・コレクションを売ったお金で自主製作映画を撮りはじめた。舞台は自分がバイトしていたコンビニ「クイック・ストップ」。営業中は撮影できないので、すべての作業は開店前の早朝に行ったという。こうして完成したのが『クラークス』(1994年)だった。「コンビニのシャッターが壊れて開かない」という同作の設定は、撮影中に間違って客が入ってこないようにするためにスミスが考えた苦肉の策だったのだ。

 そんな激安&突貫作業作品でありながら、サンダンス映画祭に出品された『クラークス』は大反響を巻き起こした。

「『スター・ウォーズ』三部作の中でどれが好き?」

「俺は『新たなる希望』だな」

「俺は『帝国への逆襲』さ。共和国軍は大敗、ハン・ソロは氷漬けに……でも人生ってそんなもんだろ?」。

こんな会話を劇映画にした奴なんてそれまで誰もいなかったからだ。でもそれだけで映画として十分面白い。もし『クラークス』が存在しなかったら、アパトー・ギャングの諸作も生まれなかっただろう。奇しくもアパトー・ギャングの構成員セス・ローゲンとエリザベス・バンクスは、後年『クラークス』方式でインディ・ポルノを製作する男女を描いたスミス監督作『恋するポルノ・グラフィティ』(2008年)に主演している。

 ミラマックスに認められたスミスはメジャーに進出した。しかしそうして製作された第二作『モールラッツ』(1995年)でも彼の姿勢には一切ブレがなかった。舞台はニュージャージー郊外のショッピング・モール。コンビニがモールにスケールアップしただけ! 同作では、そこで収録されるTVのお見合い番組に元カノのブランディ(クレア・フォラーニ)が出演するのを阻もうとするTS(ジェレミー・ロンドン)と相棒ブロディが巻き起こす騒動が描かれるのだが、そもそもブランディの出演が急遽決まったのは、『クラークス』の劇中で葬式が描かれた女子ジュリーの代役としてである。つまり二作は同一世界の物語であることが示されたのだ。スミスの信奉者は、『クラークス』に登場したヤクの売人ジェイとサイレント・ボブが再登場するだけでなく、ボブがクライマックスにフォースを使う姿に喝采を送ったのだった。

 リチャード・リンクレイターを尊敬するスミスは、彼の『バッド・チューニング』(1993年)に出演していたベン・アフレックとジョーイ・ローレン・アダムズを『モールラッツ』に招いていたが、監督第三作『チェイシング・エイミー』(1997年)はふたりおよびブロディ役を好演していたジェイソン・リー(元はプロスケートボーダーだったという)を加えたトリオのアンサンブル劇となった。アダムズ演じるアレッサの性的経験の豊富さに戸惑う奥手のホールデンの心理描写は、これまでのスミス作品にない切迫感を伴うものだったが、実は本作、アダムズとスミス自身の短い恋愛を下敷きにしている。だからこそ「俺も昔同じ目にあった、でも愛に過去は関係ない!」と遠い目をしながらホールデンに説教をするサイレント・ボブ(スミス本人)の姿に涙せずにはいられないのだ。

 恋愛映画の傑作と絶賛された同作のあと、スミスが挑んだのはまさかの宗教劇だった。その『ドグマ』(1999年)の主人公にして堕天使バートルビーとロキを演じるのは、何とベン・アフレックとマット・デイモン(『グッドウィル・ハンティング』以来、この二人がメインキャストを務めた作品は本作しかない)。物語は、ニュージャージーのカトリック教会で開催される免罪キャンペーンを利用して天国への帰還を企てるふたりと、キリストの末裔の中絶医ベサニー(リンダ・フィオレンティーノ)、13番目の使徒(クリス・ロック)、女神(サルマ・ハエック)そしてジェイとサイレント・ボブら神の軍団との戦いが描かれるのだが、乱れ飛ぶのは血でも銃弾でもない。過去最低級の下ネタギャグである。だが同作は宗教をバカにしているわけではなく、熱心なカトリック信者であるスミスの信仰告白ともいえる大マジな作品でもある。だからラストには感動が待っている。

 これら四作を受けて製作されたのが、『ジェイ&サイレント・ボブ 帝国への逆襲』だったというわけだ。過去作のすべてに脇で登場していたジェイとサイレント・ボブがついに主人公の座に座り、『逃亡者』『猿の惑星』『グッドウィル・ハンティング』といったヒット作のパロディを披露。そしてクライマックスではふたりがマーク・ハミルとライトセーバーを交える『スター・ウォーズ』のパロディへと突入する! なお本作のパロディはジョージ・ルーカス自身が公認している。彼がスミスにつけた注文はこれだけだったという。「ライトセーバーの色だけは間違えないように。」

 またマット・デイモン、クリス・ロック、ウェス・クレイヴン、ガス・ヴァン・サント、キャリー・フィッシャー、ジャド・ネルソン、ジェームズ・ヴァン・ダー・ビーク、ジェイソン・ビッグス、ショーン・ウィリアム・スコットらおびただしいゲスト出演者が次々と登場するのも見どころだ。

 念のため書いておくと、『ジェイ&サイレント・ボブ~』は4文字言葉とコスプレとオナラに溢れた内輪ウケだらけの宴会映画でしかない。それでも観客の心を打つのは、スミスが本当に愛しているものだけで作られているからだ。すべてをやりきったと感じたのだろう。スミスは本作で「ヴュー・アスキューニバース」の完結を宣言している。2006年には『クラークス2/バーガーショップ戦記』(2006年)が発表されたが、これはあくまで番外編の扱いだ。

 その後のスミスは、子育てドラマ『世界で一番パパが好き』(2004年)やブルース・ウィリス主演の刑事ドラマ『コップ・アウト 〜刑事した奴ら〜』(2010年)、シリアス・ホラーの『レッド・ステート』(2011年)などを経て、近年は『スーパーガール』や『フラッシュ』といったDCコミックのヒーロードラマを監督している。

そんな中でも注目すべきは、『Mr.タスク』(2014年)と『コンビニ・ウォーズ バイトJK VS ミニナチ軍団』(2016年)の二作の低予算ホラーコメディだ。実はこの二作、同じカナダの田舎町を舞台にしており、いずれにもかつて『帝国への逆襲』で自らの赤ちゃん時代を演じた愛娘ハーレイ・クイン・スミスと彼女の親友リリー=ローズ・デップ(ジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの娘)が出演している。それどころか第三弾『Moose Jaws』ではジェイとサイレント・ボブの登場まで噂されている。そう、完結したはずの「ヴュー・アスキューニバース」サーガはすでにリブートされていたのだ……と思ったら、スミスは『Jay and Silent Bob Get a Reboot』と題した作品も構想中。同作はふたりが『ブラントマン&クロニック』のリブートを止めさせようと再びハリウッドへと旅する物語らしい。■

 

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