平凡な郊外の高校、ファロー・グレン・ハイスクールの卒業式で、ハプニングが起きた。

卒業生を代表するスピーチを任されたデニスが、会場を埋め尽くす人々を前にこんなことを口走ってしまったのだ。

「離れ離れになる前に言っておきたい。中一の頃から片想いだった。アイ・ラブ・ユー、ベス・クーパー!」

いくら優等生とはいえ、ジョックスが幅を利かす高校内で最下層にいる男子が、チアリーダーのベスと釣り合うわけがない。当然のごとく恥をかいただけに見えたデニスだったが、小さな奇跡が起きた。「あまりにも可哀想」と考えたベスが、親友のリッチとシケたパーティを開いていたデニスのもとに友達を連れて顔を出してくれたのだ。

だがデニスの告白に怒り狂ったベスの元カレ、ケヴィンがそこに仲間と乱入。デニス、ベス、友人たちは一晩中逃避行をする羽目に陥ってしまう……。

クリス・コロンバスと聞くと、『ハリー・ポッター』の最初の二作(2001年、2002年)を監督した大物というイメージが強いはず。事実、彼は『ハリポ』以降もブロードウェイ・ミュージカルの映画化作『RENT/レント』(2005年)、ファンタジー作『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(2010年)アダム・サンドラー主演作『ピクセル』(2015年)といったビッグ・バジェットの話題作を撮り続けている。

だがこうした大作の合間に発表された『愛しのベス・クーパー』(2009年)は、ロー・バジェットのティーン・コメディだった。おそらく彼は本作で原点回帰してみたかったのだろう。というのも、そもそも彼はニューヨーク大学在学中に脚本家としてキャリアをスタートさせており、脚本家時代の代表作『グレムリン』(1984年)と『グーニーズ』(1985年)はいずれもキッズ〜ティーン・コメディだったからだ。

監督進出作の『ベビーシッター・アドベンチャー』(1987年)もティーン・コメディ。女子高生がバイト先の子どもたちを連れて夜のシカゴの街に繰り出してしまうという同作のプロットは、ジョン・ヒューズの『フェリスはある朝突然に』(1986年)を彷彿とさせるものだったが、これがヒューズ本人の目に留まり、ヒューズ製作&脚本、コロンバス監督のコンビが実現。その作品こそがメガヒットを記録した『ホーム・アローン』(1990年)だった。

その後も『オンリー・ザ・ロンリー』(1991年)、『ホーム・アローン2』(1992年)とヒューズとのコラボ作は続いたものの、すでにヒューズがティーン・コメディからファミリー・ムービーに軸足を移してしまったこともあって、ヒューズ&コロンバスのコンビによるティーン・コメディは遂に製作されずに終わってしまったのである。

 奇しくもヒューズが亡くなった年に公開された『愛しのベス・クーパー』には、ヒューズが80年代に発表したティーン・コメディへのオマージュが随所に感じられる。一夜の出来事を描いた物語の枠組みは『すてきな片想い』(1984年)だし、イケてない男子二人組のキャラ造形と、ヒールの職業が軍人という設定は『ときめきサイエンス』(1985年)。デニスの父親を演じているのは『フェリスはある朝突然に』のキャメロン役で知られるアラン・ラックだったりする。

ヒューズ作品だけではない。キュートなヒロインが実は無茶苦茶暴力的というギャグは、コリー・ハイムとコリー・フェルドマンの”ダブル・コリー”が主演した『運転免許証』(1988年)におけるヘザー・グラハムみたいだし、会場がドン引きする卒業スピーチという趣向は、キャメロン・クロウの監督デビュー作『セイ・エニシング』(1989年)の冒頭部そっくり。立ったまま眠っている牛を倒す遊び”牛倒し”は『ヘザース/ベロニカの熱い日』(1989年)でも描かれて一躍全米で有名になったものだ。つまり本作はクリス・コロンバスによる80年代ティーン・コメディ総ざらい映画なのだ。

そんな本作のヒロインに、スウィートなヘイデン・パネッティーアはぴったりだ。1989年生まれの彼女は『アリー my Love』(2001〜2002年)や『プリティ・ヘレン』(2004年)といった作品に子役として出演後、『HEROES』(2006年~2010年)のチアリーダー、クレア役でブレイク。女優としてのもうひとつの代表作であり、カントリー音楽界を描いた群像劇『ナッシュビル』(2012年〜2018年)との合間に出演した本作では一見、天真爛漫な勝ち組に見えながら、実は鬱屈や苦悩も抱えているベス役を巧みに演じている。

そのベスに夢中な主人公デニスを演じているのは1981年生まれのポール・ラスト。運動神経ゼロの気弱な優等生を絵に描いたようなルックスだけど、リアクション芸がいちいち秀逸。実はこの映画、彼の売り出し作として製作された側面もあったように思う。

ラストは、エイミー・ポーラー主宰のコメディ劇団アップライト・シチズンズ・ブリゲートに入団すると、瞬く間に頭角を現した若き才人だった。それを裏付けるように、初の本格的な映画出演作となった本作でいきなり主演。また同じ2009年に公開されたクエンティン・タランティーノ監督作『イングロリアス・バスターズ』では、ブラッド・ピット率いる特殊部隊のメンバーを演じている。当時の彼はスターになることをハリウッドから約束されていた男だったのだ。

しかしテン年代に入ると、彼は表舞台から姿を消してしまう。『Arrested Development 』や『Comedy Bang! Bang! 』といったコメディ番組でライターとしてコンスタントな活動は行っていたものの、俳優としては休業状態になってしまったのである。

すっかり裏方になっていたラストを再び表舞台に引っ張り出したのは、ジャド・アパトーだった。彼は自身が製作総指揮を務めていた『Girls/ガールズ 』(2012〜2017年)に参加していた女性脚本家レスリー・アーウィンとラストの結婚の馴れ初めを知り、ふたりの恋愛をロマンティック・コメディとしてドラマ化することを提案。アパトー、アーウィン、ラストの三人でコメディ・ドラマ・シリーズ『Love』(2016年〜2018年)を立ち上げたのだ。

Netflixオリジナル作として発表された同作で、アーウィンをモデルにしたヒロイン、ミッキーを演じたのは、『Girls/ガールズ』にも出演していた女優ギリアン・ジェイコブスだったが、ラストをモデルにしたガスを演じたのは何とラスト自身だった。そのリアクション芸は『愛しのベス・クーパー』と全く同じ。あらためて『ベス・クーパー』における演技面のアイディアの相当な部分をラスト本人が考えていたことが明らかになったのだった。

ラストが脚本も数多く手がけた『Love』は高い評価を獲得し、3シーズンが製作されたあと2018年に大団円を迎えている。

その『Love』最終シーズンで、ミッキーに秘密にしていたガスの過去が明かされた。現在の彼は、子役スター専門の家庭教師としてハリウッドの末端で働く気弱な三十男なのだが、大学卒業直後は脚本家として将来を嘱望されており、巨匠リドリー・スコットのアシスタントを務めたことまであった。しかし分をわきまえない失礼な言動によって、スコットの怒りを買い、ハリウッドから干されてしまっていたのだ。

もちろん『Love』自体はあくまでフィクションである。でももとは半自伝作。ラストが、かつて表舞台から消えた真相をぶっちゃけたように思えてならないのだ。気になるのは彼に激怒した大物の正体。少なくともリドリー・スコットではないはず……となると、どうしてもクリス・コロンバスの顔が浮かんでしまう。だって「大学卒業直後から脚本家として活躍」なんてコロンバスのキャリアそのものではないか。無理を承知でいつの日か真相が当事者たちの口から明かされることを祈りたい。■

 

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