秋めいてきたので、エリック・ロメールの「パリのベンチ」が観たくなった。
この作品はロメールの1994年の監督作「パリのランデブー」の中の一編だ。パリのランデブーは第一話「7時の約束」、第二話「パリのベンチ」、第三話「母と子 1907年」という、3編のオムニバス形式で構成されている。
私がロメール作品を好きな理由の一つに、出てくる部屋が好きということがある。今までこの連載で取り上げた「満月の夜」「飛行士の妻」「レネットとミラベル/四つの冒険」に出てくる部屋はどれもとてもかわいいし、ほかの作品にもかわいい部屋がたくさん出てくる。
しかしこの「パリのベンチ」はそんなロメールにしては珍しく、部屋が出てこない1本である。部屋どころか、室内が全く出てこない。カフェも仕事場もバカンスのホテルも出てこない。しいて言えば植物園の温室のような所は出てくるが、それ以外は屋外のシーンばかりの作品なのだ。
しかもその屋外というのが街中ではなく自然の多い公園や墓地や庭園で、いろんな場所が次々に出てくる。季節も9月から11月で、登場人物の服装もだんだん秋から冬仕様になり、始めはジャケットだったのが重いコートを纏うようになる(ちなみに、パリは日本より寒い)。なのでちょうど今のこの秋の季節に、パリのところどころを散歩しているような気分になれるのだ。
登場人物は一組の男女のみ。どうやら恋仲らしいが、女性には倦怠期の恋人が別にいる。男性は女性が恋人と別れるのを待ちつつ、二人はデートを重ねる。彼は彼女と室内で過ごしたいが友人とルームシェアをしているため難しく、デートの場所はいつも外で、場所は彼女が指定する。9月30日 サン=ヴァンサン墓地/10月14日 ベルヴィル公園/10月21日 ヴィレット公園/11月12日 モンスリ公園/11月18日 トロカデロ庭園/11月25日 オートゥイユ庭園…といった具合に。
前述した通りカフェに入ることもなく、二人が話すのは歩きながらか外のベンチに腰掛けてのどちらかだ。池のほとりを歩きながら、彼女は彼に恋人への不満を話す。何事にもいつもはっきりとした目的があり、仕事や社交に役立つことしかしようとしない。美術館や映画館へ行くのも話題についていくためで、散歩らしい散歩もせず、退屈を楽しむということができない人だ、と。
この作品はロメールの1994年の監督作「パリのランデブー」の中の一編だ。パリのランデブーは第一話「7時の約束」、第二話「パリのベンチ」、第三話「母と子 1907年」という、3編のオムニバス形式で構成されている。
私がロメール作品を好きな理由の一つに、出てくる部屋が好きということがある。今までこの連載で取り上げた「満月の夜」「飛行士の妻」「レネットとミラベル/四つの冒険」に出てくる部屋はどれもとてもかわいいし、ほかの作品にもかわいい部屋がたくさん出てくる。
しかしこの「パリのベンチ」はそんなロメールにしては珍しく、部屋が出てこない1本である。部屋どころか、室内が全く出てこない。カフェも仕事場もバカンスのホテルも出てこない。しいて言えば植物園の温室のような所は出てくるが、それ以外は屋外のシーンばかりの作品なのだ。
しかもその屋外というのが街中ではなく自然の多い公園や墓地や庭園で、いろんな場所が次々に出てくる。季節も9月から11月で、登場人物の服装もだんだん秋から冬仕様になり、始めはジャケットだったのが重いコートを纏うようになる(ちなみに、パリは日本より寒い)。なのでちょうど今のこの秋の季節に、パリのところどころを散歩しているような気分になれるのだ。
登場人物は一組の男女のみ。どうやら恋仲らしいが、女性には倦怠期の恋人が別にいる。男性は女性が恋人と別れるのを待ちつつ、二人はデートを重ねる。彼は彼女と室内で過ごしたいが友人とルームシェアをしているため難しく、デートの場所はいつも外で、場所は彼女が指定する。9月30日 サン=ヴァンサン墓地/10月14日 ベルヴィル公園/10月21日 ヴィレット公園/11月12日 モンスリ公園/11月18日 トロカデロ庭園/11月25日 オートゥイユ庭園…といった具合に。
前述した通りカフェに入ることもなく、二人が話すのは歩きながらか外のベンチに腰掛けてのどちらかだ。池のほとりを歩きながら、彼女は彼に恋人への不満を話す。何事にもいつもはっきりとした目的があり、仕事や社交に役立つことしかしようとしない。美術館や映画館へ行くのも話題についていくためで、散歩らしい散歩もせず、退屈を楽しむということができない人だ、と。
わかるわかる。目的のない散歩を一緒に楽しめるような人がいいよな付き合うなら、と共感を抱くのだが、彼女はなんやかんや理由を付けてすぐに恋人と別れようとはしない。
ともあれそうやって散歩デートを楽しむ二人だったが、あるとき少し変化が訪れ、いつもと違うデートをすることになる。その結果迎える顛末は、ちょっと「満月の夜」を連想させる部分もあり、ああやっぱりロメールだわというロメール的王道感がたっぷりと感じられる。
人によっては二人は滑稽に見えるかもしれない。しかし私は外をぴょこぴょこと楽しそうに歩く二人の様子が愛おしく、憎めない。物語の続きを想像し、彼と彼女にはずっと楽しく散歩していてほしいなと思うのだが、それは退屈を退屈と思わず楽しみながらただ歩くことはできるが、逆に人生における目的を定めることが昔からどうしても苦手な自分の現実逃避なのもしれない…。なんてことも少し考えながら、それでもやっぱりこの作品が好きなので、きっと毎年秋になるとまた観たくなるのだろうなと思っている。
ともあれそうやって散歩デートを楽しむ二人だったが、あるとき少し変化が訪れ、いつもと違うデートをすることになる。その結果迎える顛末は、ちょっと「満月の夜」を連想させる部分もあり、ああやっぱりロメールだわというロメール的王道感がたっぷりと感じられる。
人によっては二人は滑稽に見えるかもしれない。しかし私は外をぴょこぴょこと楽しそうに歩く二人の様子が愛おしく、憎めない。物語の続きを想像し、彼と彼女にはずっと楽しく散歩していてほしいなと思うのだが、それは退屈を退屈と思わず楽しみながらただ歩くことはできるが、逆に人生における目的を定めることが昔からどうしても苦手な自分の現実逃避なのもしれない…。なんてことも少し考えながら、それでもやっぱりこの作品が好きなので、きっと毎年秋になるとまた観たくなるのだろうなと思っている。