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COLUMN/コラム2021.02.01
リドリー・スコットのもうひとつのエポックメーキング『テルマ&ルイーズ』
齢80を越えても、精力的に作品を撮り続けている、リドリー・スコット監督。20数本に及ぶ、そのフィルモグラフィーを眺めると、SF、刑事アクション、クライム・サスペンスから歴史大作、戦争映画、人間ドラマまで、実に多彩なジャンルを手掛けていることに、改めて驚かされる。 そんな中でも“映画史”に残る作品と言えば、監督第2作・第3作の『エイリアン』(1979)『ブレードランナー』(82)あたりを挙げる者が、やはり多いのだろうか? 両作が、その後のSF映画の歴史を塗り替えたことに異議を唱える者は、まずはいまい。 私はリドリーの監督作品の中で、この2本に匹敵する、エポックメーキングとなった作品として、本作『テルマ&ルイーズ』(91)を挙げたい。歳月を経ても、この作品は色褪せるどころか、その歴史的意義は、年々高まる一方のように思える。 アメリカ中西部アーカンソー州に住む、専業主婦のテルマ(演: ジーナ・デイヴィス)と、ダイナーのウェイトレスで独身のルイーズ(演:スーザン・サランドン)は、親友同士。ある週末、十代の頃から夫に縛られる生活を送ってきたテルマを誘い出し、ルイーズが自慢の66年型サンダーバードを駆って、ドライブ旅行へと出掛けた。 テルマは、どうせ許してくれないと、傲慢な夫に黙っての旅立ち。その際に、以前夫から護身用にと渡された拳銃を、無造作にルイーズに預けた。 目的地への途中、食事に寄ったカントリーバーで、解放感から、店のマネージャーの男とのダンスに興じたテルマは、悪酔いして涼みに店外へ。そこでマネージャーから、レイプされそうになる。間一髪、ルイーズが男の首筋に拳銃を突きつけ、テルマは泣きじゃくりながらも、難を逃れた。 その場を去ろうとした彼女たちだったが、男は悔し紛れに、「俺のをしゃぶりな!」などと、卑猥な罵声を2人に浴びせる。その瞬間、ルイーズの“何か”がキレた。彼女は拳銃の引き金を引き、銃弾を浴びた男は、そのまま息絶えた。 楽しい筈の週末のちょっとした旅は、一転。逃亡の旅へと、変わる。 国境を越えて「メキシコに逃げる」と、決意したルイーズだったが、優柔不断なテルマは、揺れ動く。しかしやがて彼女も、自分を守ってくれた親友と行動を共にすることを、決意した。 地元の警察からFBIまで、州を越えて捜査の網が広がっていく。そして、生まれ育ってきた社会の理不尽な規範に長年縛られてきた女2人は、大胆不敵なアウトローへと、変貌を遂げていく。テルマ&ルイーズの、明日をも知れない逃避行の行方は? 封切り時に、まだ20代後半だった私は、本作鑑賞前、今ひとつピンと来ていなかった。あのリドリー・スコットの最新作が、アメリカ中西部を舞台にした、女性2人が主人公の“ロードムービー”であることに。 当時の私にとってリドリー・スコットと言えば、多感な十代の頃に出会った『エイリアン』であり、『ブレードランナー』だった。それに付け加えるならば、本作の前の監督作品で、大々的に日本ロケを行った、『ブラックレイン』(89)だったのである。 そしていざ本作を観ると、アメリカで“フェミニズム映画”として論争になった理由が、理解できたような気がした。当時の私は自分のことを、“フェミニズム”寄りな人間だと思っていた。“男性優位”な社会の中で、多くの女性が一方ならぬ苦労をしていることを認識しており、「女性の気持ちがわかっている」つもりだった。 そうした意味で本作の意義を見出しながらも、少なからぬ違和感が残った。そもそも、酒に酔って男にスキを見せたから、テルマはレイプされそうになったのではないか?彼女に、責任はないのか? また逃避行の旅の途中、2人のサンダーバードに遭遇しては、性的なからかいを仕掛けてくる、大型トレーラーの男性運転手への処断も、「?」だった。物語の終盤近く、2人は何度目かの遭遇をした彼を下車させて、警告する。しかし態度を改めないため、怒った2人は、彼のトレーラーに銃弾を撃ち込んで、爆発炎上させてしまう。 セクハラを受けたといっても、言葉の問題に過ぎないじゃないか。いくら何でも「やり過ぎだ」と、当時の私には感じられた。 しかし後々、自分も家庭を持って齢を重ねていく内に、女性にとっての“ガラスの天井”が思った以上に厚く、己もそんな中で、“男性優位”の社会に安住してきたことに思い至った。若造の自分が、「女性の気持ちがわかっている」などと、傲慢な気持ちを抱いてことを思い返しては、恥じ入るようにもなった。 そうなると、テルマとルイーズの取った行動に対する考えも、変わってくる。本作に於いては2人の行いが、実に納得がいくように描かれているのである。 2人が逃避行を余儀なくされるに至る、レイプ未遂の一件。酒場でいかに意気投合しようとも、合意のない女性を、無理矢理に性欲のハケ口にするなど、論外である。そしてこの加害者にして被害者となる男は、これまでもこんな卑劣な手口で、数多の女性たちに被害を及ぼしてきたことを窺わせる。 また2人の逃走劇が進む内に明らかになるのだが、ルイーズは若き日に、レイプの犠牲になっていた。そしてその時、警察などの対応に絶望して、故郷のテキサスを離れたのである。「殺害」したのは、確かにやり過ぎだろう。しかしそうした彼女の痛ましい過去が、たまたま手にしていた拳銃の引き金を引かせてしまったのだ。 続いて、運転中のテルマとルイーズにセクハラ嫌がらせを行った、トレーラー運転手の問題。2人は野卑なこの男に、「アンタの妻や娘、姉妹が同じことされたら、どう思う?」と、はっきり問い質している。しかし運転手は、そう言われたことを屁とも思わない態度を取ってみせる。これでは“映画”的には、トレーラーを爆破されても、致し方あるまい。 レイプ未遂犯、トレーラーの運転手からテルマの夫、そして若き日の“ブラピ”が演じる強盗の青年まで、本作に登場する男どものほとんどが、女性を下に見て、彼女たちから搾取することを恥じない者たちだ。例外のように、マイケル・マドセン演じるルイーズの恋人が優しさを見せるが、彼も彼女が自分の前から消えそうになるまでは、結婚を申し込めなかった。自分本位な部分が、拭えない男性である。 追っ手の側には、終始彼女たちに同情的な姿勢を見せる、ハル警部(演:ハーベイ・カイテル)が登場する。しかし彼も彼女たちの救いとなる力は、残念ながら持ち得ない。 こうして監督と俳優の共犯関係が出来上がり、見事な演技を見せたジーナ・デイヴィスとスーザン・サランドン。その年度のアカデミー賞で、共に主演女優賞にWノミネートされた。 すでに『偶然の旅行者』(88)で助演女優賞の受賞経験があるデイヴィスも、『アトランティックシティ』(80)以来のノミネートとなったサランドンも、この時は残念ながら、オスカーを手にすることはなかった。同一作品から2人の候補が出たことによって、票が割れたのと、この年は『羊たちの沈黙』(91)のジョディ・フォスターという、強力なライバルがいたのである。 以前より社会問題に対しての意識が高かったサランドンとデイヴィスだが、本作以降その政治的発言や行動が、益々注目されるようになった。そんな中で、サランドンが遂にオスカーを掌中に収めたのは、4年後のこと。当時の彼女のパートナーであったティム・ロビンスが監督を務め、死刑制度に対する疑義を打ち出した、社会派の作品『デッドマン・ウォーキング』(95)での主演女優賞受賞だったのは、至極納得がいく。『テルマ&ルイーズ』は、娯楽性を大いに湛えながらも、観る者を試す“リトマス試験紙”の役割をも果たす。リドリー・スコットは“コメディ”として演出したともいうが、やはり凡百の監督では、ここまでの作品には、仕上げられなかっただろう。 そんなリドリー・スコット監督こそ、まさに現代の“巨匠”の名にふさわしい。■
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COLUMN/コラム2014.10.30
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2014年11月】にしこ
原題は"JEFF, WHO LIVES AT HOME"。30歳のジェフは、実家住まいのニート。 「ハッピーニート」という邦題ですが、物語の冒頭、ハッピー感はあまり感じられないいちニートです。さらに、M・ナイト・シャマラン監督(『シックス・センス』の監督)の『サイン』という映画に傾倒しておりここがまた残念感を助長しているわけですが、日々、自分への「サイン(神の啓示)」が落ちてこないか、ぼーっとテレビみながら探しているという「俺はまだ本気出してないだけ」状態というか、まぁ淡々とではありますが、それなりにあがいている日々。ある日「ケビンはいねーか?」という暴力的な間違い逆切れ電話が。思い当たるケビンという知人はいないものの、「これってサインじゃない?」というトンチンカンな雷に打たれて、「ケビン」探しにソファから腰を上げ、街へと繰り出します。バスで。バスケのユニフォームを来たB系の青年がバスに乗車してきて、目を疑うジェフ。なんと背番号には「KEVIN」という名前が!「運命みつかったし!」と彼をストーカーのごとく追いかけますが、あっという間に見つかり、ボコられ、命からがら逃げ出し…ジェフの兄パットもこれまた大人になりきれない中年男で、妻に黙って高級車を購入したりと万事が万事「楽しい事だけしていたい」タイプ。妻は彼の幼稚さに結婚生活継続の自信を無くし、激ギレ。そんなダメダメを息子に持った母(スーザン・サランドン)も「あの子たちをかわいいと思えない。子供の頃はかわいかったけど…」。そうでしょうとも。おっさんのナリをした子供なんてかわいいはずない!と、周囲の女性は彼らの精神的未熟さを持て余し、憤りを抱えているわけです。家族でも許せないダメさ加減なのか、家族だからこそ許せないのか。女性の現実を生きる強さと、男性のふわふわしてたい願望が、小気味よく描かれております。文字面にするともう逃げ場がないダメさ加減ですが、全体的にオフビートな笑い満載の本作。作り手が「憎めないよね、こいつら」という目線で愛情を持って2人を描いているのが伝わります。それは最後に起きる「小さな奇跡」でも証明されるのでお見逃しなく。意外と「おお!」と思う奇跡です。日本ではあまり知名度がない2人のコメディアン。ジェフ役のジェイソン・シーゲルはシットコム『ママと恋に落ちるまで』のレギュラーとして全米では大人気。1999年~放送の『フリークス学園』で注目され、『フリークス学園』の製作総指揮を務めたジャド・アパトーとはその後『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』『寝取られ男のラブ♂バカンス』『40男のバージンロード』『40歳からの家族ケーカク』など、低予算ながらも確実に「面白い!」と思わせる作品でタッグを組む事に。ジャド・アパトーは2014年現在、全米の女性への影響力1番と言っても過言ではないレナ・ダナムを一躍スターにしたドラマ『GIRLS』の製作総指揮を務めています!そんな「才能のある人間をかぎ分ける」名プロデューサーに見いだされたシーゲル。その才能は折り紙つきで『寝取られ男のラブ♂バカンス』では脚本も担当。ディズニーのヒットシリーズ『マペット』の劇場版映画『ザ・マペッツ』では脚本と共に、製作総指揮も務めています。そして今をときめくミシェル・ウィリアムズの元カレでもあります!兄のパット役は「ハング・オーバー」シリーズのスチュ役でお馴染みのエド・ヘルムズ。2人のおっさん・ネクスト・ドア的な「いるいる」感が◎です! TM & Copyright © 2014 by Paramount Pictures. All rights reserved.
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COLUMN/コラム2013.04.28
2013年5月のシネマ・ソムリエ
■5月4日『野いちご』 ウディ・アレンらに多大な影響を与えてきたI・ベルイマン監督の代表作。ベルリン国際映画祭金熊賞などを受賞し、ベルイマンの世界的な名声を確立した傑作である。名誉博士の称号を授かることになった老教授が、ストックホルムからルンドへ車で向かう。その道中のさまざまな出会い、主人公の胸に去来する苦い思い出を映し出す。とかく哲学的で難解とされるベルイマン作品の中では共感しやすく、老いや孤独といった主題を繊細に紡いだ逸品。冒頭のシュールな“悪夢”は一度観たら忘れられない。 ■5月11日『サイコ リバース』 ネブラスカ州の田舎町を舞台にしたサイコ・スリラー。ある列車事故をきっかけに、地元の銀行に勤める物静かな青年ジョンの驚くべき“秘密”が明らかになっていく。主演は『麦の穂をゆらす風』『レッド・ライト』などのC・マーフィ。実力派の曲者俳優が『サイコ』の殺人鬼ノーマン・ベイツを彷彿とさせる多重人格者を演じた。妙なふたつの顔を持つ主人公の狂気と悲哀が渦巻くドラマが展開。日本では未公開に終わったが、E・ペイジ、S・サランドンらが脇を固めるキャストも充実している。 ■5月18日『処女の泉』 巨匠I・ベルイマンが民間伝承に基づいて撮り上げた深遠なドラマ。中世のスウェーデンを舞台に、3人の羊飼いに殺される少女の悲痛な運命と父親による復讐を描く。製作当時としては衝撃的な暴行シーンを生々しく映像化。殺人とその復讐を通して、神の沈黙や宗教的な赦しなどのテーマを探求した映像世界は今なお色褪せていない。荒涼とした北欧の山間部の風景、登場人物の鬼気迫る表情を捉えたスヴェン・ニクビストのカメラが秀逸。1972年のホラー『鮮血の美学』の元ネタにもなった名作である。 ■5月25日『死刑台のエレベーター』 ルイ・マル監督が弱冠25歳で撮り上げたデビュー作。愛人関係にある男女の完全犯罪が些細なミスから綻び、思わぬ事態へと発展していく様を描く犯罪サスペンスだ。決して手に汗握るスリルに満ちた作品ではないが、全編を覆う物憂げなムードが魅惑的。アンリ・ドカエ撮影の白黒映像とマイルス・デイヴィスの即興音楽が圧巻である。夜のパリをさまようヒロイン役はジャンヌ・モロー。のちにヌーベルバーグのミューズとなる名女優の鮮烈な美貌と、クールな頽廃をまとった情念が忘れえぬ印象を残す。 『野いちご』©1957 AB Svensk Filmindustri 『サイコ リバース』©2009 CORNFIELD PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved. 『処女の泉』©1960 AB Svensk Filmindustri 『死刑台のエレベーター』© 1958 Nouvelles Editions de Film
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COLUMN/コラム2012.10.27
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2012年11月】山田
映像化不可能といわれたベストセラー小説を、『ロード・オブ・ザ・リング』3部作のピーター・ジャクソン監督が映画化。14歳で殺された少女が、天国から現世の家族と交流を試みるという異色のファンタジー。サスペンス要素も十分に、人間ドラマありSFありで、ピージャクの圧倒的な映像美とあいまって、ファンタジーといえばファンタジーなのだが、色々な意味で“想像を裏切られる”はず。 主演はシアーシャ・ローナン。本作公開時まだ15歳だったが、デビュー作『つぐない』(当時13歳!)で既にアカデミー賞助演女優賞にノミネートされている実力派!11月のザ・シネマでは、「特集:ハリウッド21世紀ヤングスター」と題して、今旬のハリウッド若手スターから大ブレイク間違いなし!?のスター候補生まで、出演作を大特集! Copyright© 2012 DW STUDIOS L.L.C. All Rights Reserved