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COLUMN/コラム2019.11.01
チャック・ノリス・ブームの頂点を極めた名作クライム・アクション
‘80年代を代表するB級アクション映画スター、チャック・ノリスが、まさにその全盛期の真っただ中に放った大ヒット作であり、多くのファンが彼の最高傑作と太鼓判を押すクライム・アクションである。まあ、それもそのはず。既にご存じの映画ファンも少なくないとは思うが、もともと本作はクリント・イーストウッドのために用意された企画だった。 オリジナル脚本を書いたのは、マイケル・バトラーとデニス・シュリアックのコンビ。当時、イーストウッド主演のアクション映画『ガントレット』(’77)の脚本を手掛けた2人は、それに続く『ダーティ・ハリー』シリーズ第4弾として、本作の企画をイーストウッドに提案する。つまり、チャック・ノリス演じる主人公エディの原型はハリー・キャラハンだったのだ。当初はイーストウッド本人も関心を示していたそうだが、しかし出来上がった脚本がお気に召さなかったのだろう、しばらくすると連絡が途絶えてしまい、企画そのものがお蔵入りとなる。 その後、バトラーとシュリアックは西部劇『ペイル・ライダー』(’85)で再びイーストウッドと組むことになるのだが、その直前に2人が脚本に携わったのがクリス・クリストファーソン主演の犯罪ドラマ『フラッシュポイント』(’84)。その際、友人の製作者レイモンド・ワグナーから、クリストファーソン主演で本作の映画化をという提案があったらしいのだが、それがいつの間にかチャック・ノリス主演の企画として始動していたのだそうだ。 ただし、実際に映画化された脚本にはバトラーとシュリアックの2人は一切タッチしていない。2人の書いたオリジナル脚本をリライトして、最終的な決定稿を仕上げたのは名作『チャイナ・シンドローム』(’77)でオスカー候補になったマイク・グレイである。本作の演出に起用されたアンドリュー・デイヴィス監督は、無名時代に世話になって気心の知れた恩人グレイに脚本の書き直しを依頼。監督の生まれ育ったシカゴが舞台ということで、彼自身のアイディアも多分に盛り込まれているという。 主人公はシカゴ市警の腕利き警部エディ・キューサック(チャック・ノリス)。犯罪を憎み不正を絶対に許さない、頑固だが実直な刑事である。そんなエディが陣頭指揮を執っていたのが、ルイス・コマチョ(ヘンリー・シルヴァ)率いる南米系麻薬組織コマチョ一家の検挙。タレコミ屋をおとりに使ってコマチョ一家との麻薬取引をセッティングし、その現場へ警官隊が乗り込んで一網打尽にする手筈だったが、こともあろうか第三者のギャング組織が先回りして乱入。タレコミ屋を含む取引関係者が皆殺しにされ、大量の麻薬と現金が奪われてしまったのだ。 この急襲作戦を実行したのが、コマチョ一家と敵対する組織のボスであるトニー・ルナ(マイク・ジェノヴェーゼ)。トニーは裏社会の大物スカリース(ネイサン・デイヴィス)の甥っ子で、その御威光を笠に着て無茶ばかりするような男だった。まんまと成功したかに思えた横取り作戦だったが、しかし現場で殺したはずのルイスの実弟ヴィクター(ロン・ヘンリケス)が、実は生き延びていたことが判明。自分の犯行であることがバレるのも時間の問題と察したトニーは、子分たちに家族の警護を指示したうえで、荷物をまとめて高飛びする。 一方、思わぬ邪魔が入って作戦が失敗し、上司ケイツ署長(バート・レムゼン)から大目玉を食らうエディ。しかも、銃撃戦の際に飲んだくれの老いぼれ刑事クレイギー(ラルフ・フーディ)が、無関係の少年を射殺してしまったことも大問題となる。一貫して正当防衛を主張するクレイギーだが、実はこれ、丸腰の少年を誤って撃って慌てた彼が、いつも足元に隠し持っている護身用の拳銃を少年の手に握らせ、偽装工作を図ったもの。その一部始終を相棒の新米刑事ニック(ジョー・グザルド)が目撃していたが、しかし現場責任者であるエディに真実を言い出せないでいた。 なぜなら、同僚の不始末を庇うのは警察内における暗黙のうちの了解。いわゆる「沈黙の掟(=本作の原題Code of Silence)」だ。これを破れば署内で居場所がなくなってしまう。妻子を抱えたニックにとっては死活問題だ。以前からクレイギーの飲酒癖を問題視していたエディは、そうした事情を直感で察するものの、真実を告白するもしないもニックの良心に任せる。 ひとまず公聴会までクレイギーが停職処分となったため、ケイツ署長の指示でニックはエディとコンビを組むことに。すぐに2人はトニーが主犯であることを突き止め、高飛びした彼の行方を探ると同時に、宿敵コマチョ一家の動向も監視する。すると、コマチョ一家はトニーの留守宅を襲撃して家族を皆殺しに。たまたま仕事中で難を逃れた一人娘ダイアナ(モリー・ヘイガン)にも刺客が差し向けられる。間一髪のところでダイアナを保護し、引退した先輩テッド(アレン・ハミルトン)に彼女を預けるエディ。しかし、そこへもコマチョ一家の魔手が迫り、ダイアナは誘拐されてしまう。 ダイアナの命を助けたければ、トニーを探し出して連れてこいとルイスから言い渡されるエディ。ところが、公聴会でクレイギーに不利な証言をしたため、警察では誰一人としてエディに力を貸す者はなかった。唯一の協力者は、脚を怪我して現場を離れた親友刑事ドレイト(デニス・ファリーナ)のみ。かくして、ほぼ孤立無援な状態のまま、エディはダイアナを救出するため、コマチョ一家と対峙せねばならなくなる…。 シカゴへの愛情が溢れる豊かなローカル色も見どころ! プロの空手選手として無敵の実績を誇り、親交のあったブルース・リーの誘いで映画界へ足を踏み入れたチャック・ノリス。『フォース・オブ・ワン』(’79)や『オクタゴン』(’80)、『テキサスSWAT』(’83)といった低予算アクションで頭角を現した彼は、当時波に乗りつつあった映画会社キャノン・フィルムと初めて組んだ戦争アクション『地獄のヒーロー』(’84)が空前の大ヒット記録したことで、一躍ハリウッドのトップスターの座へと躍り出る。続く『地獄のヒーロー2』(‘5)や『地獄のコマンド』(’85)、そして『野獣捜査線』も全米興行収入ナンバーワンに。中でも、それまで批評家からは酷評されまくっていたノリスにとって、初めて真っ当な評価を受けた作品が本作だった。 実際、当時のチャック・ノリス主演作品の多くが、映画としては非常にビミョーな出来栄え。ぶっちゃけ、アクションはA級だけれど脚本はC級だよねと言わざるを得ない。出世作『地獄のヒーロー』にしてもそうだが、ストーリーがアクションを見せるための手段でしかなく、どうしてもご都合主義で安上がりな印象が否めないのだ。その点、本作はライバル組織同士の抗争に警察が絡むという三つ巴の対立構造がしっかりと練られており、なおかつ警察たるものの正義とモラルを問う明確なテーマも貫かれている。主人公エディとヒロインの、さり気ない心の触れ合いも悪くない。しかし、やはり一番の功績は、優れたB級アクション映画のお手本のようなアンドリュー・デイヴィス監督の演出であろう。 大都会シカゴのロケーションを最大限に生かすことで予算を抑え、あくまでもストーリーに重点を置きつつ、ここぞというピンポイントでダイナミックなアクションを挿入することで、テンポ良くスピーディに全体をまとめあげていく。その安定感のある職人技的な演出は、さながら名匠ドン・シーゲルのごとし。本作が初めてのメジャー・ヒットとなったデイヴィス監督は、続いて同じくシカゴで撮ったスティーヴン・セガール主演作『刑事ニコ/法の死角』(’88)も大成功させ、やがて『沈黙の戦艦』(’92)や『逃亡者』(’93)などの大型アクション映画を任されるようになる。 やはり最も印象に残るのは、ループと呼ばれるシカゴ名物の高架鉄道でロケされた追跡シーンであろう。実際に走行する車両の屋根へ役者を登らせたスタントも見もの。通常よりもスピードをだいぶ落としての撮影だったらしいが、それでもなお迫力は十分である。また、激しいカーチェイスの末にリムジンがクラッシュ&炎上するシーンは、これまたシカゴへ行ったことのある人ならお馴染み、市内に張り巡らされた多層道路の中でも最も有名なワッカー・ドライブの低層階でロケされている。この同じ場所は『ダークナイト』(’08)のクラッシュ・シーンにも使われているので、見覚えのある方も少なくないだろう。また、随所に出てくる警察署のオペレーター・ルームは、実際にシカゴ警察署本部で撮影されており、本物の刑事や職員も多数出演。こうした、普通なら撮影許可の下りにくい場所を使用できたのも、シカゴ出身で地元にコネの多いデイヴィス監督だからこそだったようだ。 ちなみに、主人公エディの親友ドレイト役のデニス・ファリーナ、サングラスをかけた同僚コバス役のジョセフ・コサラの2人も、当時シカゴ警察に勤務する現役の刑事だった。どちらも刑事を本職としながら、アルバイトで俳優の仕事もしていたらしい。ファリーナは本作の翌年、マイケル・マン製作のテレビドラマ『クライム・ストーリー』(‘86~’88)の主演に抜擢されたことで警察を辞職。プロの俳優として『ミッドナイト・ラン』(’88)や『スリー・リバーズ』(’93)、『プライベート・ライアン』(’98)など数多くの映画で活躍することになる。一方のコサラは「クレイジー・ジョー」のあだ名で知られたシカゴ警察の名物刑事だったらしく、プロの俳優には転向せず役者と刑事の二足の草鞋を履きつつ、定年まで勤めあげたそうだ。 ほかにも、本作はシカゴ出身の地元俳優が多数出演。もともとシカゴは、ニューヨークに次いで全米最大の演劇都市として知られ、ゲイリー・シニーズやジョン・マルコヴィッチなどを輩出した名門ステッペンウルフ劇団もシカゴが本拠地だった。ダイアナ役のモリー・ヘイガンも、彼女自身はミネアポリスの出身だが、当時はシカゴの劇団に所属して舞台に出演していた。暗黒街の大物スカリーセ役では、デイヴィス監督の実父ネイサン・デイヴィスが出演しているが、彼もまたシカゴ演劇界の重鎮だった人物。そのほか、刑事役やギャング役を演じている俳優たちもシカゴの舞台俳優で、その多くが本作をきっかけにデイヴィス監督作品の常連となる。そういう意味では、実にローカル色の強い作品なのだ。 なお、終盤で大活躍する警察ロボットは、コロラド州に実在した’83年創業のRobot Defense Systems Inc.という会社(’86年に倒産)が製作に協力。この「仲間に反感を買った刑事の新たな相棒がロボット」という設定は、マイケル・バトラーとデニス・シュリアックのオリジナル脚本の段階から存在したらしいが、恐らく本作で唯一賛否の分かれるポイントかもしれない。まあ、実際に開発した会社が本作の翌年に倒産しているのだから、あまり実用的とは言えない代物だったのだろう。■ 『野獣捜査線』© 1985 ORION PICTURES CORPORATION. All Rights Reserved
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COLUMN/コラム2018.09.21
A級スターたちが集まって、ものすごく 馬鹿げたコントを見せる傑作コメディ『アメリカン・パロディ・シアター』
『アメリカン・パロディ・シアター』、1987年の映画です。 日本では劇場公開されずに、ビデオで発売されました。レンタルビデオブームの最盛期でしたね。50歳以上の人じゃないと覚えていないと思うんですけど、日本中、どこに行ってもレンタルビデオ屋さんがあった時代です。1985年から90年くらいにかけてなんですけど。 この映画にもレンタルビデオ屋さんが出てきます。“カウチポテト”といわれる、ソファに座ってビデオを観るのが流行った時代で、この映画はまさにカウチポテト族を対象にして作られた“レンタルビデオ用映画”なんです。監督はジョン・ランディス。『ブルース・ブラザーズ』(80年)や『アニマル・ハウス』(78年)という傑作を作ってきた、コメディの巨匠なんですけど、この人の出世作『ケンタッキー・フライド・ムービー』(77年)は、短いコントが脈絡なくつながっていく映画で、この『アメリカン・パロディ・シアター』も同じ形式のコント集です。 で、コント集ですから、何人かの監督が手分けをしています。たとえばジョー・ダンテ。『グレムリン』(84年)で世界的な大ヒットを飛ばした監督ですね。この人のいちばん最初の作品『ムービー・オージー』(68年・未)は、TVをずっと録画してて、それを編集して、コマーシャルや歌番組やドラマや映画をぐちゃぐちゃにつないで笑えるものに組み替えた、6時間もある自主映画でした。もちろん著作権を無視しているので、観ることはできないんですが、要するに当時の言葉でチャンネル・サーフィン、今でいうザッピングをそのまま映画にしたようなものらしいです。で、この『アメリカン・パロディ・シアター』という映画自体が、その『ムービー・オージー』と同じ構成なんですね。 深夜に何もやることがない人が、TVのチャンネルをカチャカチャ替えるのをそのまま映画にしたような。この、チャンネルをカチャカチャ替える感じというのも、若い人にはわからないかもしれないですけど(笑)。つまり、ジョン・ランディスとジョー・ダンテという2人のコメディ監督が、原点に戻って撮ったのが、この『アメリカン・パロディ・シアター』です。 まあ、バカバカしい映画ですけど、今でもまったく古びてない秀逸なギャグも多いです。ランディスが演出した「ソウルのない黒人」とか、ダンテの「人生批評」は傑作です。あと、あっと驚くような当時の大スターが特別出演してるのもポイントです!■ (談/町山智浩) MORE★INFO. 本作は85年に撮影され、86年には完成していたが、ランディス監督の『トワイライトゾーン/超次元の体験』訴訟(ヴィク・モローが撮影中に事故死した事件)が長引いたため、アメリカ公開は87年になった。冒頭のパニック映画風なメイン・テーマは巨匠ジェリー・ゴールドスミス。「病院」スケッチの患者ミシェル・ファイファーと夫役ピーター・ホートンは、実生活でも結婚したばかりだった。ランディス監督のトレードマーク「See You Next Wednesday」、今回は「ビデオ・パイレーツ」の挿話の中に出てくる。コンドームを買いに行く「Titan Man」挿話は、名作『素晴らしき哉、人生!』(46年)のパロディ。ヘンリー・シルヴァがホストを務める、ネッシーが切り裂きジャックだったという挿話「Bullshit or Not」は、漫画家ロバート・L・リプリーの『Ripley's Believe It or Not(ウソかマコトか)』のパロディ。