検索結果
-
PROGRAM/放送作品
ライトスタッフ
世界最速に挑み、人類未踏の宇宙に飛び出す。誇り高き男たちのフロンティア精神を熱く描く!
1947年、米陸軍から独立し米空軍が誕生。同年に伝説の空軍テストパイロット、イエガーが人類初の超音速飛行を成し遂げたところから象徴的に始まる、空とスピードに生きた男たちの不屈の冒険精神を描いた感動作。
-
COLUMN/コラム2023.09.12
宇宙を舞台に、映画史に新たなジャンルを興した!フィリップ・カウフマン監督生涯の傑作『ライトスタッフ』
“ライトスタッフ”を日本語に訳すと、「正しい資質」「適性」。元々は、アメリカの著名なジャーナリストで作家のトム・ウルフによる造語である。 トム・ウルフは、1960年代後半から勢いを持った、”ニュー・ジャーナリズム”の旗手的な存在。書き手が敢えて客観性を捨て、取材対象に積極的に関わることで、対象をより濃密に、まるで小説のように描くというその手法によって、数多のノンフィクションをものしている。 その内の1冊が、「正しい資質」を持った宇宙飛行士たちが、アメリカの国家プロジェクト「マーキュリー計画」に挑む姿を描いた、「ザ・ライト・スタッフ」だった。そしてこれが本作、『ライトスタッフ』(1983)の原作となった 原作が1979年に出版されると、その映画化権の争奪戦が起こる。勝ち取ったのは、『ロッキー』シリーズ(76〜 )で知られる、ロバート・チャートフとアーウィン・ウィンクラーのプロデューサー・コンビだった。 彼らは、『明日に向って撃て!』(69)『大統領の陰謀』(76)で2度アカデミー賞を受賞している、ウィリアム・ゴールドマンに脚本を依頼。製作会社は、79年に設立された新興のラッド・カンパニーに決まり、1,700万ドルの予算が組まれた。 監督候補として名が挙がったのは、『がんばれ!ベアーズ』(76)のマイケル・リッチーや『ロッキー』(76)のジョン・G・アヴィルドセン。2人との交渉が不調に終わった後、フィリップ・カウフマンにお鉢が回ってきた。 カウフマンは、1936年イリノイ州シカゴ生まれ。シカゴ大学に学んだ後、紆余曲折あって、妻子を連れてヨーロッパへと渡った。そしてアメリカン・スクールの教師を務めている頃、フランスで興った映画運動“ヌーヴェルヴァーグ”と出会い、映画作りに目覚めた。 本作の前には、エイリアンの地球侵略もの『SF/ボディ・スナッチャー』(78)や、60年代を舞台とした青春映画『ワンダラーズ』(79)の監督として、或いは『レイダース/失われた聖櫃(アーク)』(81)の原案を担当したことで知られていた。綿密な時代考証に基づいたジャーナリスティックな視点と娯楽性を両立できる作り手として、評価され始めた頃だった。 カウフマンは、監督を引き受けるに当たって、脚本も自分に任せることを、条件とした。ゴールドマンが書いたものが、まったく気に入らなかったからだ。 時は80年代前半。ソ連を「悪の帝国」と名指しした、ロナルド・レーガン大統領の下、「強いアメリカ」の復活が標榜されていた。ゴールドマンの脚本は国策に沿ったのか、カウフマンにとって、「あまりにもナショナリズムが全面に出ていて辟易する…」内容だったという。 更にゴールドマン脚本では、カウフマンが原作に見出した重要な要素が、すっかり落とされていたのである。 ***** 1947年、カリフォルニア州モハーヴェ砂漠に在るエドワーズ空軍基地のテスト・パイロット、チャック・イェーガーが、新記録を作った。X-1ロケットに乗って、人類史上初めて、「音速の壁」を破ったのである。これ以降次々と、記録が更新されていく。 第2次大戦後の米ソ冷戦。両陣営の緊張が高まる中で、57年にソ連がスプートニク・ロケットの打ち上げに成功。アメリカは、宇宙開発で後れをとった。そこでアイゼンハワー大統領とジョンソン上院議員が中心となって、「マーキュリー計画」が始動した。 宇宙飛行士にふさわしい人材として、白羽の矢が立てられたのは、空軍などのテスト・パイロットたち。ジョンソンらが、「彼らは手に負えない」と、その我の強さを危惧する中での決定だった。 しかし現役最高のパイロットだったイェーガーは、宇宙飛行士を「実験室のモルモット」と揶揄。また彼は大学卒ではなかったため、その候補から外される。 508人の応募者を集め、過酷な身体検査と適性試験が繰り返される。そうして絞られた59人から、最終的にアラン・シェパード、ガス・グリソム、ジョン・グレン、ドナルド・スレイトン、スコット・カーペンター、ウォルター・シラー、ゴードン・クーパーの7人が選ばれた。 彼らは厳しい訓練を経て、次々と宇宙に飛び立ち、国民的英雄に祭り上げられていく。 一方で、孤高の闘いを続けてきたイェーガーは、最後の挑戦に臨もうとしていた…。 ****** ゴールドマン脚本は、「マーキュリー計画」に挑む宇宙飛行士たちに話を絞って、イェーガーのエピソードは、丸々削除していた。それに対しカウフマンは、物語の冒頭とクライマックスに、イエーガーのエピソードを配置したのである。 その上で、宇宙飛行士7人すべてに詳しく触れると、いかに3時間超えの長尺でも、とても描き切れない。そこで、シェパード、グリソム、グレン、クーパーの4人のエピソードをクローズアップして描くことにした。彼らは国家や政治家の思惑に時には反発しながら、“個”としての誇りを守ろうとする。「…現在の宇宙計画はすべて地球の必要性に奉仕することに重点をおいていて、人々が外宇宙を求める心理には重きをおいていない」と指摘するカウフマン。彼にとっては、逆にそうした心理こそが、興味の的だった。 カウフマンは、孤高の存在であるイェーガーと、チームでプロジェクトに対峙していく宇宙飛行士たちを対比しながら、いずれとも、「現代のカウボーイ」として描いた。そして、アメリカの精神風土である、インディペンデント・スピリットへの強い賛同を示したのである。 カウフマンははじめ、「未来が始まったとき、ライトスタッフが存在した」と考えていた。しかしその後、「いかに未来が始まったのか、それはライトスタッフを持った男たちがいたからだ」という結論に到達したという。「…時代を描くだけではなく、その時代に生きた人間たちを描こうと試みた…」カウフマンは、宇宙飛行士だけでなく、その妻たちの不安や恐怖、功名心なども、丁寧に描出している。 製作に際して、カウフマンはスタッフに指示し、揃えられる限りの資料を揃えさせた。記録映画フィルムの買い物リストを渡され、国中を歩き回ることとなったのは、編集担当のグレン・ファーら。彼らは、NASAや空軍、ベル航空機保管庫などで膨大なフィルムに目を通し、30年間人目に触れていなかった、ソ連のフィルムの発見に至った。こうして収集された映像類の一部は、編集や映像加工のテクを駆使して、本編で効果的に使用されている。 集められた大量のビデオテープは、“宇宙飛行士"たちの役作りにも、大きく寄与した。スコット・グレンは、自分が演じるアラン・シェパードの「外側をつかまえるために」それらを利用したという。しかしシェパードの内面に関しては、「ぼくが自分自身を演じる方がいい」という判断に至った。 グレンの判断の裏付けになったのは、カウフマンの姿勢。彼は俳優たちに、自分が演じる実在の飛行士に会えという指示を行わなかったのである。 自らの考えでただ1人、演じるゴードン・クーパーを訪ねたのは、デニス・クエイド。そんな彼曰く、本作の撮影は「ぼくの人生最高の恋愛」だったという。クーパーの妻を演じたパメラ・リードも“夫”と同様に、「わたしの人生で最も幸せな時間だった」とコメントしている。 カウフマンの演出は、“宇宙飛行士"たちが信頼を寄せるに足るものだった。ジョン・グレンを演じたエド・ハリスは、「何ごとにおいても決して妥協しなかった。あの人は8人目の宇宙飛行士だ」と、カウフマンを称賛。ガス・グリソム役のフレッド・ウォードはシンプルに、「彼はすばらしい人だ」と、賛辞を寄せている。 本作の評価を高めた要因に、孤高のパイロット、チャック・イェーガーの存在があることを、否定する者はいまい。彼を演じたサム・シェパードは、まさに生涯のベストアクトを見せた。 1943年生まれのシェパードは、劇作家として、20代はじめからオフ・ブロードウェイを中心に、華々しく活躍。その後演出も、手掛けるようになる。 映画に初めて出演したのは、テレンス・マリック監督の『天国の日々』(78)。この作品で彼は、若くして死病に侵された、農場主の役を印象的に演じて、主演のリチャード・ギアを完全に喰った。 映画出演5作目に当たる、本作の日本公開は、アメリカの翌年=84年の9月。その年の春には、彼が原作・脚本を手掛けたヴィム・ヴェンダース監督作『パリ、テキサス』(84)が、「カンヌ国際映画祭」で最高賞のパルム・ドールを獲ったことも、話題となっていた。 本作でのシェパードの演技について「ニューズ・ウィーク」誌は、「…あたかもゲーリー・クーパーを想わせる…」「サム・シェパードはこの映画で二枚目としての地位を永遠のものにした…」と絶賛。「…この反体制的な芸術家が、伝説の空軍のエースと合い通じるものを持っていると見抜いた」監督のカウフマンに対しても、「慧眼である」と高く評価している。 因みに本作では、当時59歳だったチャック・イェガーを、テクニカル・コンサルタントとして招き入れた。パイロットたち行きつけの店のバーテンダー役として出演もしているイェーガーと、演じるシェパードの初対面は、ある中華料理店だったという。 カウフマンによると2人は、「最初は用心深く見つめ合うという感じ」だった。しかし店を出る時にお互いの小型トラックを見て話し始めると、突然2人の間にあった垣根がとれたかのようになり、その後はまるで、“親子”のような関係を築いたという。 サンフランシスコ在住のカウフマンは、ハリウッドを嫌って、本作の大半を自分の地元で撮影した。波止場の倉庫をスタジオに改造した上、「互いに刺激を与え合える人々と組む必要がある…」と、地元の熱心な才能を数多く起用している。 CG時代到来の前、宇宙船や戦闘機などの特撮に関しては、コンピューター制御による“モーション・コントロール・カメラ”が全盛を極めていた。カウフマンは、『スター・ウォーズ』シリーズ(77~ )や『ファイヤーフォックス』(82)などで成果を上げていた、この最新技術への依存を、敢えて避けるように指示を行った。 そこでVFX担当のゲイリー・グティエレツは、特殊効果の原則に立ち返ることにした。ある時は、サンフランシスコの丘に登って、ワイヤーで吊り下げた模型飛行機と雲を作る機械を駆使して、飛行シーンを撮影。またある時は、大きな弓を作って、超音速ジェット戦闘機の模型を矢のように飛ばして、カメラで追った。このように、当時としても「アナログ」な手法にこだわったことが、いかに効果的であったかは、各々が本作を観て、確認していただきたい。 本作で描かれた「マーキュリー計画」が幕を閉じるのは、63年5月。奇しくもその年の11月、ケネディ大統領暗殺事件が起こる。後継の大統領となったのは、宇宙開発の仕掛人の1人だったジョンソンだったが、彼の政権下、アメリカはベトナム戦争の泥沼に陥っていく。 その前夜のアメリカの栄光と矛盾を描き出した本作は、アカデミー賞に於いては、作品賞やサム・シェパードの助演男優賞など、9部門でノミネート。主要部門の受賞は逃すも、編集賞、作曲賞、録音賞、音響効果賞の4部門のウィナーとなっている。 しかし興行的には、不発。当初の予算1,700万ドルを遥かにオーバーしての製作費2,700万ドルは、まったく回収できない成績に終わってしまった。 だが本作なしでは、後の『アポロ13』(95)や『ドリーム』(16)などの作品の存在は考えにくい。「実話をベースにした宇宙映画」という、それまではなかったジャンルの先駆けとなった本作は、紛れもなくエポック・メーキングを果したのである。 製作から40年経った今でも、語り継がれる作品を作り上げたフィリップ・カウフマンも、まさに“ライトスタッフ”の持ち主だったと言えよう。■ 『ライトスタッフ』© Warner Bros. Entertainment Inc.
-
PROGRAM/放送作品
アンダー・ファイア
真実の報道とは?自らの命と信念を懸けてニカラグア内戦を取材するジャーナリストたちを描いた社会派ドラマ
1979年にニカラグアで起きたクーデターを題材に、内戦を取材するジャーナリストの葛藤や激しい戦乱をドキュメンタリーさながらの臨場感で映し取る。ジーン・ハックマンやエド・ハリスら実力派俳優の競演も注目。
-
COLUMN/コラム2023.08.28
ヨーロッパ映画を彷彿とさせる骨太で硬派な政治スリラーの隠れた名作『アンダー・ファイア』
物語の背景となるニカラグア革命とは? 惜しくも、劇場公開時は興行的に全くの不発だったものの、しかしその一方でロジャー・エバートやジョン・サイモンなど名だたる映画評論家から高く評価され、映画ファンの間でも今なおカルト的な人気を誇っている政治スリラー映画の隠れた名作である。 1981年1月20日、アメリカでは元ハリウッド俳優ロナルド・レーガンが第40代アメリカ合衆国大統領に就任する。ご存知の通り、当時は東西冷戦の真っ只中。’60年代末から続いていたデタント(米ソの緊張緩和)は’79年のソ連によるアフガニスタン侵攻で崩壊し、人権問題を重視した先代・カーター大統領の穏健な外交政策はおのずと「弱腰外交」と批判される。そうした中で誕生したレーガン政権は、一転してタカ派的な強気の外交政策を展開。ソ連を「悪の帝国」と呼んで激しく非難し、反共の理念を旗印にして中南米や中近東などの不安定な政情にも介入していく。折しも’80年代のハリウッドでは、アカデミー賞を賑わせた『レッズ』(’81)や『ミッシング』(’82)などを筆頭に、世界各地の革命や紛争を題材にした政治スリラー映画が静かなブームを呼んでいたが、その背景にはこうした東西冷戦の激化が影響していたと考えてもおかしくはないだろう。 中でも当時流行ったのが、様々な情報が錯綜する革命や紛争、圧政の渦中にあって、真実を追求するために命がけで奔走するジャーナリストを描いた映画群だ。恐らくそのきっかけとなったのは、メル・ギブソンがスカルノ政権末期のインドネシアに派遣されたテレビ特派員を演じる『危険な年』(’82)。オーストラリア映画だがアメリカでも大ヒットを記録し、男性カメラマン役を演じたリンダ・ハントがアカデミー助演女優賞を獲得した同作の成功を皮切りに、カンボジア内戦を舞台にした『キリング・フィールド』(’84)やエルサルバドル内戦を題材にした『サルバドル/遥かなる日々』(’86)、アパルトヘイト政策の弾圧に立ち向かった南アフリカの黒人活動家と新聞記者の戦いを描く『遠い夜明け』(’87)など、ジャーナリズムの使命とその重要性を改めて知らしめるような政治スリラー映画の力作が次々と公開される。『エア★アメリカ』(’90)や『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』(’97)でお馴染み、ロジャー・スポティスウッド監督の出世作となった『アンダー・ファイア』(’83)もそのひとつだ。 本作の題材はニカラグア革命。さすがに筆者も国際紛争や中南米史の専門家ではないため、ここでは一般常識的な基礎知識をサクッと振り返ってみたい。自国の覇権を拡大・維持するため、20世紀初頭から中南米諸国の政治に介入してきたアメリカ合衆国。ニカラグアもそのひとつで、1927年に親米的な保守党政権に対し自由党が内戦を仕掛けると、米国は海兵隊を送り込んで鎮圧しようとする。結局、世界大恐慌の影響で米海兵隊は撤退するも、’34年に自由党軍のサンディーノ将軍はアメリカに支援された国家警備隊に暗殺され、その首謀者であるアナスタシオ・ソモサ・ガルシアは’37年に大統領へ就任。以降、ソモサ親子3名は43年間に渡って国家権力を私物化し、「ソモサ王朝」と呼ばれる独裁的な強権政治を敷いたのである。 ‘72年にニカラグアで起きたマナグア大地震。世界中から多くの支援金や支援物資が集まったものの、その大半をソモサ一家が着服して身内企業などに分配。さらに、’78年には反体制派新聞の社長が政府によって暗殺され、いよいよソモサ王朝に対する国民の怒りが頂点へと達する。’79年にはサンディーノ将軍の遺志を継ぐ左翼革命組織・サンディニスタ民族解放戦線が武装蜂起。現地での取材を試みた米テレビ局ABCのレポーター、ビル・スチュワートが国家警備隊に射殺され、その様子をたまたま撮影したニュース映像が世界中で報道されるに至り、それまで「親米」を理由にソモサ政権を支援してきた米政府も看過できなくなる。かくして、アメリカから見放されたアナスタシオ・ソモサ・デバイレ(ガルシアの次男)大統領は失脚。マイアミを経て各地を転々とした挙句、’80年に亡命先のパラグアイで暗殺された。 以上が、本作の背景となる史実のあらまし。基本的には登場人物もストーリーもフィクションだが、しかしビル・スチュワート事件を下敷きにした出来事が物語の重要なカギとなり、劇中ではソモサ大統領まで登場してドラマに絡んでくる。やはり本作を鑑賞するにあたって、ある程度の予備知識は必要であろう。 ジャーナリストはどこまで中立であるべきなのか 時は1979年。物語の始まりは、軍事政権と反政府軍の内戦が収束に向かいつつあるアフリカのチャド共和国。命知らずのタフな報道カメラマンのラッセル・プライス(ニック・ノルティ)は、旧知の傭兵オーツ(エド・ハリス)と戦場で偶然再会する。政府軍に雇われたはずなのに、間違えて反政府軍と行動を共にしているオーツ。そのいい加減さに、2人は思わず笑い転げる。この戦場はマジでクソだ!全く金にならん!今どき稼ぐならニカラグアだな!そう愚痴をこぼすオーツと別れてホテルへ戻ったラッセルは、敬愛する先輩であり親友でもある記者アレックス・グレイザー(ジーン・ハックマン)の送別パーティに参加する。野心家のアレックスは、念願だったニュース番組のアンカーマンに抜擢され、晴れてニューヨークへ戻ることになったのだ。しかし、恋人のラジオ報道記者クレア・ストライダー(ジョアナ・キャシディ)はアレックスに同行することを拒否。ジャーナリストとしての使命感に燃える彼女は、現場から足を洗う気などさらさらなかったのだ。次の行き先は革命の動乱に揺れるニカラグア。意地を張ったアレックスは、自分もニカラグアに付いていくと言い出す。 それから暫くの後、中米ニカラグアには世界中から報道関係者が集まり、その中にはラッセルやアレックス、クレアの姿もあった。政府関係者やマスコミ関係者が行きつけのナイトクラブでディナーを楽しむ3人。ソモサ政権のスパイと噂のフランス人ビジネスマン、マルセル・ジャジー(ジャン=ルイ・トラティニャン)の姿もあった。すると、革命軍によってナイトクラブが爆撃を受け、ラッセルはその惨状をカメラに収める。ところがその直後、彼は理由もなく国家警備隊に逮捕され、翌朝には釈放されたもののカメラを壊されてしまった。マルセルが嫌がらせで仕組んだものと睨むラッセル。自分がソモサ大統領直属のスパイだと認めるマルセル。ラッセルとクレアを自宅へ招いた彼は、革命軍のリーダー、ラファエルが地方都市レオンにいるとの極秘情報を伝える。これまで一度も写真に撮られたことがなく、その存在自体が半ば伝説化したラファエルは、ラッセルがニカラグア入りしてからずっと追いかけていた人物だ。ラファエルを写真に収めることが出来れば特ダネである。半信半疑ながらも、ラッセルとクレアは一路レオンへと向かう。 まるで戦場のようなレオンの町。ラッセルとクレアは革命軍の若者たちと親しくなり、市街戦の様子を間近から取材することに成功する。ふと気づくと、政府側の兵士の中に傭兵オーツの姿が。ジャーナリストとして「中立の立場」が信条のラッセルは、死体の山に隠れたオーツの存在を革命軍に黙っていたが、そのせいで革命軍の気さくな指揮官ペドロがオーツに射殺されてしまう。果たして、自分の判断は正しかったのか。深い罪の意識を覚えるラッセル。そんな彼を慰めるクレア。志を同じくする仲間として共鳴し、やがて男女関係の一線を超えてしまうラッセルとクレア。彼らの変化になんとなく気付いていたアレックスだが、しかしキャリアを優先してニューヨークへ戻ってしまう。そんな折、ラファエルの暗殺に成功したことをソモサ大統領(ルネ・エンリケス)が記者会見で発表。当然ながら革命軍側はこれを否定し、その証拠としてラファエル本人が取材に応じるとラッセルに申し出る。指定された場所へ向かうラッセルとクレア。そこで彼らは、ジャーナリストとしての職業倫理に関わる重大な決断を迫られる…。 基本的なプロットは、戦時下を舞台にした大人のラブストーリー。戦争の動乱に揺れるエキゾチックな異国の地を舞台に、強い信念を持つ勇敢な2人の男性が同じようにタフな1人の女性を愛し、そんな彼らの三角関係に周辺の政治的な思惑が絡んでいく。まるで『カサブランカ』(’42)のごとし。そういえば、チャールズ・ブロンソン主演の『太陽のエトランゼ』(’79)やショーン・コネリー主演の『さらばキューバ』(’79)も似たような話だったと思うが、本作がそうした『カサブランカ』症候群的なハリウッド映画と一線を画すのは、あくまでもラブストーリーがメインテーマを浮き彫りにするための道具のひとつに過ぎない点であろう。 本作が真に描かんとするのは報道記者の在り方だ。ジャーナリストは「中立の立場」が基本だとして、権力側にも抵抗勢力側にも肩入れすることなく、世界各地の紛争地帯を取材してきた報道カメラマンのラッセル。しかしニカラグアでは少々勝手が違ってくる。国民を弾圧して反対派を迫害するソモサ政権下のニカラグア。革命軍と実際に行動を共にしたラッセルは、彼らが独裁者へ対する憤怒の念に駆られた平凡な若者たちに過ぎず、その背後には人権を蹂躙された大勢の市民たちの支持があることを知識ではなく肌で実感し、やがて「中立の立場」というジャーナリストの職業倫理が、むしろ独裁者の悪事に加担することになっているのでは?との疑問を抱くようになるのだ。 そもそも、本作には「仕事だから」と割り切って悪へ加担するプロたちが大勢出てくる。金払いの良い相手なら誰のもとでも働く傭兵オーツに、ソモサ政権のスパイ活動を一手に担うフランス人実業家マルセル、ソモサ政権の対外的なイメージ向上に奔走するアメリカ人の広報官キトル(リチャード・メイジャー)などなど。そのキトルは「ソモサ大統領にだって言い分はある」と独裁者を擁護し、マルセルも「誰が正しいのか分かるのは20年後だ」と嘯く。まるで正義の概念など立場によって変わるとでも言わんばかりに。しかし、果たして本当にそうなのだろうか?世の中には普遍的な正義というものが確かに存在し、それを我々は「良心」と呼ぶのではないか。そして、それこそ野心家の親友アレックスには不似合いな現場主義の女性記者クレアと似た者同士のラッセルが結ばれたように、職業倫理などという建前に縛られることなく、己の「心の声」に従って行動することも、時として報道記者にとって必要なのではないかと問いかける。 映画のリアリズムを支えたキャスト陣の存在 さらに、本作では撮影監督ジョン・オルコットのカメラがドキュメンタリーさながらのリアリズムを醸し出す。オルコットといえば、『2001年宇宙の旅』(’68)から『シャイニング』(’80)までのスタンリー・キューブリック作品を手掛け、『バリー・リンドン』(’75)でオスカーに輝いた伝説的な名カメラマン。本作でも『バリー・リンドン』さながらの自然光を活かした撮影に徹しており、実際にスポティスウッド監督はジッロ・ポンテコルヴォやコスタ=ガヴラスの影響を受けたそうだが、それこそヨーロッパの左翼系インテリ映像作家による社会派映画のような風情すら漂わせている。実に骨太な作品だと言えよう。 もちろん、役者の顔ぶれも素晴らしい。ベトナム戦争の従軍記者を演じた『ドッグ・ソルジャー』(’78)を見て、ラッセル役には彼しかいない!と初めからニック・ノルティ一択だったというスポティスウッド監督だが、しかし当時のノルティは超の付く売れっ子。そのうえマイペースな人だったそうで、自宅に山ほど届く出演オファーの脚本も土日しか目を通さないため、大半が読まれることなく埋もれていたらしい。そこで、スポティスウッド監督は本作の脚本を50部もコピーし、ノルティの親友ビル・クロスに頼んで彼の自宅に置いてもらったという。当時は家じゅうのあちこちに未読脚本の山があったそうで、そのどこに手を出しても本作の脚本が最初に来るよう配置したのだそうだ(笑)。おかげで、週明けにはノルティから出演を熱望する連絡があり、アレックス役のジーン・ハックマンもオファーを快諾したという。 しかし、本作におけるキャスティングの要は、やはりクレア役のジョアナ・キャシディであろう。『ブレードランナー』(’82)のレプリカント役で脚光を浴びたばかりのキャシディだが、実は当時すでに38歳。そもそも女優デビューした時点で27歳、2人の子供を持つ母親だった彼女は、その人生経験や下積みのおかげもあるのだろう、クレア役に説得力を持たせるに十分な逞しさと生活感を兼ね備えていた。いわゆるハリウッド的な若い美人女優が演じていたら、決してこうはならなかったはずだ。筋金入りのタフガイ、ノルティとの相性も抜群。というか、ノルティと互角に渡り合えるほどタフな女優は、彼女かチューズデイ・ウェルドしか考えられない。 さらに、コスタ=ガヴラスの『Z』(’69)でカンヌ国際映画祭の男優賞に輝いたフランスの名優ジャン=ルイ・トラティニャンが、本作でハリウッド映画デビューを飾っているのも要注目。ニック・ノルティはトラティニャンが何者なのか知らなかったらしく、あまりの演技の巧さに現場でビックリして、「ジーン・ハックマンを相手にするだけでも大変なのに、あんな凄い奴まで連れてきやがって!」と監督に文句を言ったそうだ。なお、トラティニャンのハリウッド映画出演は、結果的にこれが最初で最後となった。 なお、映画でも描かれるようにソモサ大統領の国外逃亡によって独裁政権は崩壊し、富の再分配や貧困の解消を掲げる革命政府が樹立したニカラグア。アメリカのカーター政権もその存在を容認したわけだが、しかしレーガン大統領になって状況は一変。アメリカに好都合な傀儡政権の樹立を目指したレーガン政権は、ニカラグアの革命政府を倒すためにCIAや統一教会を使って親米反革命勢力「コントラ」を支援。ニカラグアの内戦は再び泥沼化していくことになる。■ 『アンダー・ファイア』© 1983 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
-
PROGRAM/放送作品
ザ・クリーナー 消された殺人
[PG-12]事件現場専門の清掃業者が陰謀に巻き込まれる…サミュエル・L・ジャクソン主演のサスペンス
犯罪現場の血痕などを取り除く清掃を請け負う元警官が、とある事件の清掃をきっかけに大きな陰謀に巻き込まれて行くクライム・サスペンス。『ダイ・ハード2』のレニー・ハーリン監督と豪華キャストが贈る傑作!
-
COLUMN/コラム2014.01.26
2014年2月のシネマ・ソムリエ
■2月1日『チェイシング・エイミー』 B・アフレックが恋にオクテな漫画家を演じたラブ・コメディ。レズビアンの女性にひと目惚れし、親友を巻き込んで奇妙な三角関係に陥っていく主人公の奮闘を綴る。 恋愛、友情、セックスというテーマを、赤裸々なストーリー展開と実感のこもったセリフで描出。米国インディーズの人気監督K・スミスの脚本が冴え渡っている。 開放的にセックスを語るエイミー役のJ・L・アダムスが魅力的。ヒロインと親友の板挟みになって苦悶する主人公が、最後に提案するまさかの解決策には誰もが仰天! ■2月8日『ゴーン・ベイビー・ゴーン』 『アルゴ』でアカデミー作品賞に輝いたB・アフレックの監督デビュー作。『ミスティック・リバー』などで知られるデニス・ルヘインの探偵小説に基づくミステリー劇だ。ボストンの住宅街で4歳の少女が失踪し、若き私立探偵とその恋人が捜索を開始。貧困や育児放棄などの社会問題を絡め、主人公が突きとめる意外な真相を描き出す。 渋い実力派キャストのアンサンブル、善と悪の境界が曖昧なテーマを観る者に問う骨太なドラマは見応え十分。日本で劇場未公開に終わったのが不思議なほどの秀作だ。 ■2月15日『パンズ・ラビリンス』 パシフィック・リム』も記憶に新しいG・デル・トロ監督によるダーク・ファンタジー。スペイン内戦後の1944年を背景に、空想力豊かな少女がたどる過酷な運命を描く。 残忍な将軍の養父に脅えるオフェリアが、迷宮の守り神パンと出会う。パンから3つの試練を課された彼女は、魔法の国に旅立つためにありったけの勇気を奮い起こす。 ギリシャ神話に登場する牧羊神パンの悪魔のごとき不気味さなど、クリーチャーの造形が圧巻。戦争の悲劇と少女の空想力の純真さを対比させたドラマも見事である。 ■2月22日『クラッシュ』 第78回アカデミー賞で下馬評を覆し、作品賞に輝いた社会派サスペンス。『ミリオンダラー・ベイビー』などの脚本家ポール・ハギスの鮮烈な監督デビュー作でもある。 白人の警官、黒人の強盗犯、ヒスパニック系の鍵屋など、さまざまな人種の人々の人生が交錯する2日間の物語。緻密で劇的なストーリー構成にぐいぐい引き込まれる。 ロサンゼルスを舞台にした群像劇に9.11以降の世相を反映させ、現代人の人間不信を鋭く描出。そこからあぶり出される“衝突”と“繋がり”というテーマが胸に響く。 『チェイシング・エイミー』©1996 Too Askew Productions, Inc. and Miramax 『ゴーン・ベイビー・ゴーン』©Miramax 『パンズ・ラビリンス』©2006 ESTUDIOS PICASSO,TEQUILA GANG Y ESPERANTO FILMOJ 『クラッシュ』©2004 ApolloProScreen GmbH & Co. Filmproduktion KG. All rights reserved.
-
PROGRAM/放送作品
スターリングラード(2000)
史上最大の市街戦を凄腕スナイパーが戦いぬく!戦火の中で燃えあがる愛と友情の感動作!
圧巻!ド迫力の戦闘シーンが激戦地の凄まじさを物語る!第二次大戦中に実在した凄腕スナイパー、ヴァシリ・ザイツェフの青春を描く戦争映画。ジュード・ロウ、ジョセフ・ファインズ、レイチェル・ワイズ豪華共演!
-
COLUMN/コラム2013.09.01
2013年9月のシネマ・ソムリエ
■9月7日『白いカラス』 講義中の何気ない発言が黒人への差別だと糾弾され、辞職に追い込まれた古典学の大学教授コールマン。実は彼自身も“肌の色”にまつわる重大な秘密を隠し持っていた。 現代米国文学の巨匠フィリップ・ロスの小説「ヒューマン・ステイン」を映画化。主人公の数奇な人生を通して、人種差別問題の根深さ、複雑さを描く人間ドラマだ。実力派の豪華俳優陣が、癒しようのない心の傷を抱えた男女の悲痛な運命を体現。田舎町の荒涼とした冬景色と相まって、静謐にして重厚な緊迫感みなぎる一作である。 ■9月14日『ファンタスティック Mr.FOX』 『ムーンライズ・キングダム』の若き鬼才、W・アンダーソン監督が初めて手がけた長編アニメ映画である。原作はロアルド・ダールの児童文学「すばらしき父さん狐」。 元泥棒の野生キツネが仲間を率いて、農場を営む傲慢な人間とのバトルを展開。昔ながらのコマ撮りアニメの手作り感を生かした活劇シーンは、胸弾むスリルと痛快さ! 主人公のキツネ夫婦の声を担当するのはG・クルーニーとM・ストリープ。アンダーソン監督のユニークな美学と遊び心が全開のカメラワーク、美術、音楽もご堪能あれ。 ■9月21日『シングルマン』 世界的なトップデザイナー、トム・フォードの監督デビュー作。同性の恋人を事故で亡くしたことで生きる意味を失い、自殺を決意した大学教授のある一日を映し出す。 TVドラマ「マッドメン」の美術デザイナーを起用し、1960年代L.A.の風俗を再現。主人公のガラス張りの邸宅や衣装など、あらゆる細部に繊細な美意識が感じられる。 死へのカウントダウンのサスペンス、幻想的な悪夢や回想シーンを織り交ぜ、喪失と孤独の痛みをスタイリッシュに表現。冷たい色気が香り立つ映像美が見事である。 ■9月28日『サラの瞳』 フランス人作家タチアナ・ド・ロネの同名ベストセラー小説を映画化。1942年、ナチス占領下のパリで起こった衝撃的なユダヤ人迫害事件を、現代からの視点で描き出す。 現代のパリに住む女性ジャーナリストが、戦時中に家族とともに連れ去れたユダヤ人少女サラの消息を追う。そのミステリーに隠された痛切な人間模様に胸を打たれる。 歴史の重い真実と向き合おうとするジャーナリストの微妙な心の移ろいを、K・スコット・トーマスが好演。東京国際映画祭で監督賞、観客賞を受賞した作品でもある。 『白いカラス』©2003 FILMPRODUKTIONGESELLSCHAFT MBH&CO .1.BETEILIGUNGS KG 『ファンタスティック Mr.FOX』© 2009 Twentieth Century Fox Film Corporation and Indian Paintbrush Productions LLC. All rights reserved. 『シングルマン』©2009 Fade to Black Productions, Inc. All Rights Reserved. 『サラの鍵』© 2010 - Hugo Productions - Studio 37 -TF1 Droits Audiovisuel - France2 Cinéma
-
PROGRAM/放送作品
ニードフル・シングス
誘惑に負けた者には恐怖の取り引きが待っている!骨董品屋ニードフル・シングスの秘密とは?
ベストセラー作家スティーブン・キングが創りだした架空の町キャッスル・ロックを舞台にした小説が原作のホラー映画。「エクソシスト」のメリン神父役を演じた名優マックス・フォン・シドーが主演している。
-
COLUMN/コラム2013.06.25
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2013年7月】銀輪次郎
毎日の生活が、周到に仕込まれた巨大ロケセットの中のものだったら?もしも全てがメディアに作られた人生だったら?ジム・キャリー演じるトゥルーマンが住む小さな島シーヘブン。ここは実は巨大なロケセットで、トゥルーマン以外の全ての人はエキストラ。生まれた時から5,000台の隠しカメラがトゥルーマンを追いかけ、彼の生活が24時間TV放送される様を描いた異色コメディ。 コメディ作品ながら、近い将来、このような“本物”を追い求めるドキュメント番組が生まれることも有り得るのではないかと妙な予感を感じさせる本作。暗にメディア倫理的な問題の提起をしますが、エキストラの失言や失態に番組製作者目線でハラハラしたり、反対に周囲に不自然さを感じ始めるトゥルーマンの気持ちを察したりと、とても上手く作られた映画で楽しめますのでオススメ。自分の周りの生活が“本物”かどうかを確かめる機会にいかがでしょうか? TM & COPYRIGHT © 2013 BY PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.