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PROGRAM/放送作品
300 <スリーハンドレッド> 〜帝国の進撃〜
[R15+]ペルシアとギリシャの死闘は大海原へ!歴史アクション『300』をスケールアップさせた続編
フランク・ミラーの人気グラフィックノベルを映画化した『300 <スリーハンドレッド>』の続編。エヴァ・グリーンがペルシア艦隊を率いる女戦士に扮し、屈強なギリシャ兵たちと渡り合う姿を美しく残忍に魅せる。
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COLUMN/コラム2019.12.04
ティム・バートンがリメイクしたホラー・コメディのルーツを探る!
監督ティム・バートン×主演ジョニー・デップという黄金コンビの顔合わせで、200年の時を経て現代へ甦ったヴァンパイアの巻き起こす珍騒動を描いたホラー・コメディ『ダーク・シャドウ』(’12)。本作がかつてアメリカで一世を風靡したソープオペラ(昼帯ドラマ)「Dark Shadows」の映画版リメイクであることはご存じの映画ファンも少なくないと思うが、しかし残念ながら日本では未放送に終わっているため、オリジナルのテレビ版がどのような作品だったのかは殆ど知られていないのが実情だろう。 それでも一応、テレビ版のストーリーを再構築した劇場版として、リアルタイムで制作された映画『血の唇』(’70)および『血の唇2』(’71)は日本でも見ることが出来る。とはいえ、どちらも劇場用に新しく撮り直しをしたリブート版であり、キャストの顔ぶれこそテレビ版を踏襲しているものの、設定は改変されているし、演出スタイルも劇場用モードに切り替わっているので、必ずしもテレビ版の雰囲気や魅力をそのまま伝えるものではない。そこで、まずは原点であるテレビ版「Dark Shadows」の詳細から振り返っていこう。 伝説のゴシック・ソープオペラ「Dark Shadows」とは? ‘66年6月27日から’71年4月2日まで、全米ネットワーク局ABCの昼帯ドラマとして放送された「Dark Shadows」は、今も昔も王道的なメロドラマで占められる同時間帯にあって、『嵐が丘』や『ジェーン・エア』を彷彿とさせるゴシック・ロマン・スタイルを全面に押し出した唯一無二の作品だった。企画・製作を担当したのは、『凄惨!狂血鬼ドラキュラ』(’73)や『残酷・魔性!ジキルとハイド』(’73)などテレビ向けのホラー映画を幾つも生み出し、劇場用映画としては幽霊屋敷物の佳作『家』(’76)を手掛けたダン・カーティス監督。もともとカーティスはプライムタイム向けの企画としてテレビ局幹部にプレゼンしたのだが、当時3大ネットワークで最も昼帯ドラマの視聴率が弱かったABCは、いわば現状打破するための起爆剤として、本作を月曜~金曜までの週5日間、昼間の時間帯に放送される30分番組としてピックアップしたのだ。 ただし、当初はそれこそ『嵐が丘』の系譜に属する純然たるゴシック・ロマンで、後に本作のトレードマークとなるスーパーナチュラルな要素は皆無だった。だが、放送開始から2ヶ月経っても3ヶ月経っても視聴率は低迷したまま。番組の打ち切りも囁かれ始めた頃、カーティスは思い切った勝負に出る。ドラマに幽霊や魔物を登場させたのだ。ここから徐々に視聴率が上り調子となるものの、しかしまだ決め手に欠ける。そこでカーティスが切り札として用意したのが、200年の時を経て蘇った孤高の吸血鬼バーナバス・コリンズだった。このバーナバスの登場によって番組の人気に火が付き、それまで4%台だった視聴率も一気に倍へと跳ね上がった。中でもカーティスやネットワーク局にとって嬉しい誤算だったのは、昼帯ドラマとしては異例とも言える若年層への人気拡大だ。 とういうのも、中部標準時間で午後3時、東部標準時間では午後4時から放送されたこの番組、ちょうど子供たちが学校から帰宅する時間帯に当たったのである。通常、この時間帯はテレビを付けても子供たちが楽しめるような番組は殆どない。しかし実は、そこにこそ想定外のニッチなマーケットが存在したのだ。吸血鬼やら幽霊やら魔女やらが登場する番組のホラー風味はたちまち若年層のハートを捕え、劇場版の制作はもとよりノベライズ本やコミック本、ボードゲームにジグソーパズルなどの関連商品も発売されるほどのブームを巻き起こす。さらには、サントラ盤LPが全米アルバムチャートのトップ20内にランキングされるという、テレビドラマとしては史上初の快挙まで成し遂げた。ただ、この若年層における人気が結果的に番組の弱点ともなる。なぜなら、当時のテレビ業界において昼間の時間帯のスポンサーは、主婦層向けの家庭用品メーカーや食品メーカーが主流。若年層の視聴者が中心の「Dark Shadows」はスポンサー企業のニーズと合致せず、テレビ局はCM枠を埋めるのに苦労した。そのため、’68~’69年のシーズンをピークに視聴率が下がり始めると、たちまちキャンセルが決まってしまったのである。 さて、放送期間およそ4年、総エピソード数1225本という、気の遠くなるほど膨大なストーリーから、重要な要素だけをかいつまむと以下のようになる。 ①メイン州の古い港町コリンズポート。その郊外に広大な屋敷コリンウッドを所有する由緒正しいコリンズ家の家庭教師として、身寄りのない女性ヴィクトリア(アレクサンドラ・モルトケ)が着任する。女主人エリザベス(ジョーン・ベネット)を筆頭に、愛憎の入り混じる複雑な事情を抱えたコリンズ家の人々。謎めいた前科者バーク(ライアン・ミッチェル)やウェイトレスのマギー(キャスリン・リー・スコット)と親しくなるヴィクトリアだったが、やがてエリザベスの弟ロジャー(ルイス・エドモンズ)を巡る暗い秘密が明らかとなっていく。さらに、コリンズポートで殺人事件が発生。犯人に捕らえられたヴィクトリアを救ったのは、200年前に自殺した令嬢ジョゼットの幽霊だった。 ②コリンズ家を脅迫していた男ウィリー・ルーミス(ジョン・カーレン)が、先祖の遺体と一緒に埋葬された宝石類を盗もうとコリンズ家の霊廟を暴いたところ、200年前に死んだ吸血鬼バーナバス・コリンズ(ジョナサン・フリッド)を蘇らせてしまう。イギリスからやって来た親戚を装ってコリンズ家に接近し、自分の下僕にしたウィリーを手足として使うバーナバスは、たまたま見かけたマギーに一目で心を奪われてしまう。200年前に自殺した恋人ジョゼットと瓜二つだったからだ。マギーを自分と同じ吸血鬼に変えようとするバーナバスを、ヴィクトリアやエリザベスの娘キャロリン(ナンシー・バレット)が阻止。正気を失ったマギーの治療を任された医師ジュリア(グレイソン・ホール)は、吸血鬼の治療法を探ってバーナバスを人間に戻そうとする。 ③交霊会の最中にヴィクトリアが忽然と姿を消す。気が付いた彼女は、1795年のコリンウッドで家庭教師となっていた。まだ吸血鬼になる前のバーナバスは、恋人ジョゼット(キャスリン・リー・スコット)との結婚を控えていたのだが、これに嫉妬を燃やしていたのがジョゼットの召使アンジェリーク(ララ・パーカー)。実は強大な力を持つ魔女であるアンジェリークは、秘かに横恋慕するバーナバスとジョゼットの結婚を邪魔するべく、様々な呪いを駆使するものの失敗。そこで彼女はジョゼットを自殺へ追い込み、バーナバスを吸血鬼へと変えてしまう。 ④辛うじて現代へ戻ってきたヴィクトリア。すると今度はロジャーが姿を消し、カサンドラ(ララ・パーカー)という女性と再婚してコリンウッドへ帰還する。そのカサンドラの正体が魔女アンジェリークであると一目で気付くバーナバスとヴィクトリア。アンジェリークはバーナバスに復讐するべく再び呪いをかけようとする。 ⑤1897年へタイムスリップしたバーナバス。イギリスから訪れた親戚を装い、コリンズ家の若き跡継クエンティン(デヴィッド・セルビー)に接近するバーナバスだが、彼の正体に気付いたクエンティンは魔女アンジェリークを復活させる。さらには、フェニックスの化身ローラまで登場し、コリンウッドは次から次へと危機に見舞われることに。さらに、クエンティンはアンジェリークの呪いで狼男となってしまう。 ⑥パラレルワールドの現代へ迷い込んでしまったバーナバス。そこではクエンティンがコリンウッドの当主で、前妻アンジェリークと死別した彼はマギーと再婚する。また、ウィリーは売れない作家でキャロリンと結婚していた。吸血鬼として処刑されかけたバーナバスを、現実世界から現れた医師ジュリアが救出し、全ては魔女アンジェリークの企みだと明かす。 ⑦1995年へタイムリップしたバーナバスと医師ジュリアは、ジェラルド・スタイルズという幽霊の呪いでコリンズ家が滅亡したと知る。1970年へ戻った2人は、現代に輪廻転生したクエンティンと一緒に呪いを食い止めようとするものの失敗。辛うじて1840年へ逃げたバーナバスとジュリアは、この時代のクエンティンに復讐を企てる魔法使いザカリーが呪いの元凶と気付くが、そんな彼らの前に再び魔女アンジェリークが立ち塞がる。 …とまあ、ザックリとしたポイントを要約しただけでも、テレビ版「Dark Shadows」がどれだけ荒唐無稽かつ奇想天外なドラマであったかがお分かりいただけるだろう。脚本のセリフも大袈裟なら役者の演技も大袈裟。しかも、週5日放送のタイトなスケジュールであるため、撮影は基本的にワンテイクで済ませたため、セリフを間違えたり小道具が落下したりなどのハプニングもそのまま残されている。ストーリーが大真面目であればあるほど、意図せずして笑えるシーンが少なくない。それがまた、番組のカルトな人気に拍車をかけたものと思われる。 オリジナルのエッセンスを拡大解釈した映画版リメイク そんな往年の人気ドラマを21世紀に映画として復活させたティム・バートン監督の『ダーク・シャドウ』は、あえてオリジナルの「意図せずして笑える」という要素に焦点を絞ることで、いわばパロディ的なテイストのホラー・コメディとして仕上げている。そこがアメリカでも大きく賛否の分かれたポイントと言えるだろう。 物語は18世紀から始まる。水産会社を経営する大富豪の家庭に生まれ、イギリスからアメリカへ移住して育ったバーナバス・コリンズ(ジョニー・デップ)。しかし、火遊びをしたメイドのアンジェリーク(エヴァ・グリーン)が実は魔女で、その呪いによって最愛の恋人ジョゼット(ベラ・ヒースコート)は自殺を遂げ、バーナバス自身も吸血鬼に変えられて生きたまま地中へ埋められてしまう。 それから200年後の1972年。ある秘密を抱えた女性マギー・エヴァンズ(ベラ・ヒースコート)は、ヴィクトリア・ウィンターズと名前を変えてメイン州のコリンズポートへと到着し、今はすっかり没落したコリンズ家の家庭教師となる。その頃、近隣の森で工事業者が土地を掘り起こしていたところ、偶然にもバーナバスを復活させてしまった。初めて見る電光掲示板や車に戦々恐々としつつ、変わり果てた我が家コリンウッドへと戻ってくるバーナバス。召使ウィリー(ジャッキー・アール・ヘイリー)に催眠術をかけた彼は、イギリスから来た親戚としてコリンズ家に身を寄せることとなる。 コリンズ家の末裔は誇り高き女主人エリザベス(ミシェル・ファイファー)と不肖の弟ロジャー(ジョニー・リー・ミラー)、エリザベスの反抗的な娘キャロリン(クロエ・グレース・モレッツ)、そして母親を亡くして情緒不安定なロジャーの息子デヴィッド(ガリー・マグラス)。さらに、主治医ジュリア・ホフマン(ヘレナ・ボナム・カーター)が同居している。早々に自らの素性をエリザベスだけに明かしたバーナバスは、秘密の隠し部屋に眠る財宝を元手にコリンズ家の再興を計画。ところが、そんな彼の前に立ちはだかるのが、今や町を牛耳る女性経営者となった不老不死の魔女アンジェリークだった…! オリジナル・ストーリーにおける①~③の要素を融合し、独自の設定を加味しながら2時間以内にまとめ上げた本作。最大の特徴は、オリジナル版のキャラ、マギーとヴィクトリアを1人に集約させている点であろう。キャロリンが実は狼人間だったという設定は、オリジナル版のキャロリンが狼男クリスと交際するというサブプロットに、⑤で描かれた祖先クエンティン・コリンズの運命を融合させたもの。ウィリーがコリンズ家の召使となっているのは、映画版『血の唇』で採用された新設定を踏襲している。テレビ版では最後まで活躍する名物キャラの女医ジュリアが、バーナバスを裏切って報復されるという流れも、『血の唇』で改変された新設定をなぞったものだ。そのほか、オリジナル版ではフェニックスの化身という魔物だったデヴィッドの母親が本作では息子を守る幽霊に、生まれ変わりを繰り返していたアンジェリークが不老不死にといった具合で、こまごまと変更された設定は枚挙にいとまない。 溢れ出んばかりの家族愛に燃えるバーナバスが、かつての栄光を再びコリンズ家にもたらすべく、一族の宿敵である魔女アンジェリークと壮絶な戦いを繰り広げるというのが物語の主軸だが、やはり最大の見どころは20世紀の現代社会についていけない時代遅れな吸血鬼バーナバスの巻き起こす珍騒動、そのバーナバスとアンジェリークによるトゥー・マッチな愛憎ドラマの生み出すシュールな笑いだ。お互いの持つ魔力がぶつかり合い、部屋中を破壊しまくる濃密(?)なラブシーンなどはその好例。善と悪の魅力を兼ね備えたバーナバスのキャラを含め、オリジナル版の拡大解釈とも呼ぶべきコミカルな味付けは、確かに賛否あるのは当然だと思うものの、しかしティム・バートン監督がテレビ版のカルト人気の本質をちゃんと見抜いた証だとも言える。 なお、オリジナル版の熱狂的なファンで、本作の監督にバートンを推薦したのが主演のジョニー・デップ。エリザベス役のミシェル・ファイファーも番組のファンで、リメイク版の企画を知ってすぐに自らをバートン監督へ売り込んだという。また、アリス・クーパーもゲスト出演するパーティ・シーンでは、オリジナル版のバーナバス役ジョナサン・フリッド、アンジェリーク役ララ・パーカー、クエンティン役デヴィッド・シェルビー、マギー役キャスリン・リー・スコットがカメオ出演。「お招きどうも」と挨拶して来場する男女4人が彼らだ。 ‘91年にリメイク版が全米放送されて話題となった「Dark Shadows」。’04年にも新たなリメイク版シリーズの企画が立ち上がり、パイロット版まで制作されたがお蔵入りとなった。生みの親ダン・カーティスは’06年に亡くなり、バーナバス役ジョナサン・フリッドも映画版完成の直後に急逝。当初予定された映画版の続編企画は立ち消えたが、先ごろワーナー・テレビジョンがオリジナル版の続編シリーズ「Dark Shadows: Reincarnation」の制作を発表したばかりで、シリーズのレガシーはまだまだ今後も続きそうだ。■ 『ダーク・シャドウ』© Warner Bros. Entertainment Inc.
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PROGRAM/放送作品
(吹)300 <スリーハンドレッド> 〜帝国の進撃〜
[R15+]ペルシアとギリシャの死闘は大海原へ!歴史アクション『300』をスケールアップさせた続編
フランク・ミラーの人気グラフィックノベルを映画化した『300 <スリーハンドレッド>』の続編。エヴァ・グリーンがペルシア艦隊を率いる女戦士に扮し、屈強なギリシャ兵たちと渡り合う姿を美しく残忍に魅せる。
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COLUMN/コラム2019.08.06
前作のスタイルを継承し、そして拡張させた『300〈スリーハンドレッド〉~帝国の進撃~』
■続編成立の困難な作品に挑む 「我々はひざまずいて生きるのではない。自由のために立ったまま死ぬのだ!」 紀元前480年、ギリシアに対してペルシア帝国が突き付けてきた「降伏か、戦いか」の最終通告に、陸戦部隊を率いてペルシア軍の前に立ちはだかり、応戦という回答を突きつけたスパルタ戦士レオニダス。わずか300人の兵士で100万人の大軍勢を迎え撃つという、向こう見ずな男たちの生きざまを描いた『300〈スリーハンドレッド〉』(以下:『300』)は、全米興行収入2億1,160万ドルを稼ぎ出し、監督であるザック・スナイダーに初のメガヒットをもたらした。 もちろん作品が成功すれば、続編という話が浮上して当然だろう。だがその気運とは裏腹に、シリーズを展開させるには困難が生じる映画として『300』は製作者たちの前に立ちはだかったのである。 まずフランク・ミラーの原作にシリーズ化の足がかりとなるものが存在しないという、現実的な制約があった。一説にはこの『300〈スリーハンドレッド〉~帝国の進撃~』(以下:『帝国の進撃』)、ミラーのグラフィックノベル作品「クセルクセス」が原作としての役割を担っているのではないかと言われているが、『帝国の進撃』の脚本はこの「クセルクセス」と同時に執筆されており、直接の関連はない。 なにより多勢で少数を屈服させようとする侵略主義を否定するために、死を賭して戦いに挑んだ者たちの崇高な精神を、続編という形で反復するのには疑問が残る。それはすなわち、作品の精神を汚し、陳腐なものにしてしまいかねないのでは? 加えてこの『300』が、唯一無二の映像スタイルを持っていることも、おのずと続編製作のハードルを上げている。際立ったデジタルグレーディングのコントロールや、超高輝度のカラーパレットによって生み出される独特の色調。暗黒時代を象徴するまがまがしいランドスケープに、アートのように洗練されたシンメトリックな構図など、どの場面も荘厳かつダークな美に充ち満ちている。そんな個性の塊のような世界観を、はたしてザック・スナイダー以外に成立させられるのか? しかし『帝国の進撃』は、こうした懸念を一蹴するかのように、前作とは違うアプローチと新たな方法論で、難しいと思われた続編製作を見事に成功させたのである。レオニダスの300人部隊が散ったテルモピュライの戦いとは異なる戦局を描き、映画はペルシア帝国の大艦隊に立ち向かった軍師テミストクレス(サリヴァン・ステイプルトン)に焦点を定め、描写のメインは地上戦から海上戦へと移行。さらにはペルシア側の背景にも視点を潜り込ませるという、別なるアプローチで全方位を固めた『300』となったのだ。 ■可変速度効果の向上、平面から立体への追求 そして視覚面においても『帝国の進撃』は、『300』の様式をきっちりと受け継ぎつつ、要所にてそれを見事にアップデートさせている。 前回の『300』のコラムでも触れたが、本シリーズの映像レイアウトの特徴をなすひとつに「可変速度効果」がある。これはひとつのショット内において、被写体の動きがスローモーションからファストモーションへとスピードアップしたり、逆にテンポダウンする特殊なカメラワークのことで、それを作り出すために同作では「フィルム撮影」という選択がとられていた。これは当時、デジタルHDカメラに納得のいくハイフレームレート(高コマ数)撮影機能がカバーされてなかったと、撮影監督を担当したラリー・フォンは語っている。高速度で撮像を得ないと、例えば通常スピードで撮られた映像を合成編集ソフトのエフェクトツールで引き延ばしてスローモーションにした場合、動きがカクカクしてなめらかさを欠くためである。 しかし前作から9年間の間にデジタルカメラの性能が著しく上がり、フィルムカメラを凌駕する高速度撮影が可能となったのだ。そこで『帝国の進撃』はフィルム撮影からデジタル撮影へとシフトさせ、RED EPICやファントムといったハイスペックなカメラ機種を現場に導入。1秒24fpsから96fps、最大で1200fpsというフレームレートによって、すさまじいスローモーション・フッテージをモノにしている。 だがこうした効果が、デジタル・バックロットによって合成を多く必要とする本作のVFXを、より複雑化させるものとなった。そこで本作の視覚効果を担当したVFXファシリティのひとつであるMPCは、合成チームが調整した映像のリタイムカーブ(速度曲線)情報を、本作の画像処理をつかさどるディレクトリ構造にパイプラインで共有する「3Dリタイム・パイプライン」を独自に開発。創作にともなうリタイムカーブ情報の変更を、随時可能にする利便性を得ている(ちなみにデジタル合成ソフトによるリタイムカーブ調整は前作『300』ではafter effectでおこなわれ、『帝国の進撃』ではMayaやnukeなどが用いられている)。 そしてなによりデジタルへの移行は、本作にデジタル3Dという表現形式を同時に与えることとなった。 もっとも『帝国の進撃』は専用カメラを用いて撮像したピュア3Dではなく、後処理によって3D化が図られている。そのためストーリーボードの段階から立体視を強調する画面構成やレイアウトがなされ、劇場で3Dメガネを介さずとも、おのずと前後空間を意識した画作りが感じられる。主観を思わせるカメラレンズに流血が降りかかり、血の飛沫が付着するところや、あるいは射った矢が眼前に迫ってきたり、また無数の軍艦が手前に進行してくるショットなど、こうした前後空間を意識したカメラモーションが「ミラーのコミックを映像に徹底置換する」という平面的従属から解放させ、奥行きを感じさせる新たな表現領域へと本作を誘導したのである。 ■監督ノーム・ムーロの功績 じつはこの前後方向へのカメラ移動、『帝国の進撃』の監督であるノーム・ムーロの、映像作家としてのスタイル的な特性でもある。 ムーロは1961年8月16日、イスラエルのエルサレムで生まれ、大学卒業後に広告の世界でキャリアを始めてから、CMやプロモーション映像など数多くのフィルム(ビデオ)クリップを手がけてきた。そして2003年にはGot Milk?の「Birthday」で世界最大規模を誇る広告賞「カンヌライオンズ」アワードのゴールドライオン賞を受賞し、一気に注目の存在となった。 こうして広告業界で商業的な成功を得たムーロは、大手広告製作会社ビスケット・フィルムワークスを設立。同社のオフィシャルサイトにはムーロの手がけてきたCM作品がアップされており、代表的なものをいくつか観ることができる。どの作品もゆるやかな前後のカメラ移動が特徴をなし、観る者を惹きつけていく。これらを見ると改めて、『帝国の進撃』の映像スタイルは、氏の演出的な法則に従ったものだとわかるだろう。 映画監督としてはデニス・クエイド主演によるファミリーコメディ『賢く生きる恋のレシピ』(08/日本未公開)で初の商業長編作品を手がけるが、日本でその名が意識されたのは『ザ・リング2』の監督に抜擢されたというニュースからだろう。日本由来のコンテンツに関わるということもあり、ムーロの手腕に大きな期待が寄せられたが、この企画は残念ながら途中降板となってしまった。 そんなおり、スーパーマン神話の再構築『マン・オブ・スティール』(13)の監督を依頼されたスナイダーに代わり、彼は『帝国の進撃』を手がけることとなったのだ。CMディレクター出身としてスナイダーと同じ血を体内に通わせ、同種の才能を共有するムーロだが、彼は確立された作品スタイルを、単に右から左へと流すような引き継ぎはしていない。戦闘場面などショットの精度はスナイダーよりも格段に磨き上げられ、よりスタイリッシュになっているし(残酷さも増したが)、前述したように平面世界から前後空間へとカメラモーションに奥行きが加わり、絵画的だった『300』ワールドに生々しいリアリティがもたらされたのだ。 だがなにより、こうした難しい続編に挑む姿勢そのものが、自由のために戦いを選んだ『300』という作品のテーマを体現しているかのようである。ムーロは本作の後、オリジナル配信コンテンツのリミテッドシリーズとして昨年『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』(18)のCGアニメドラマを監督。原作のみならず、2Dアニメの古典として知られている同作にCGで挑むチャレンジャーぶりを示すも、劇場用映画の領域からは久しく遠のいている。創造において発表媒体に優劣などないが、できることならば再び大きなスクリーンで、彼の描き出すヴィジョンを堪能したいものだ。■ 参考文献・資料・ASC“American Cinematographer”APRIL 2007 ・『300 〈スリーハンドレッド〉~帝国の進撃~』劇場用パンフレット(松竹事業部) ・300 – RISE OF AN EMPIRE: CHARLEY HENLEY (VFX SUPERVISOR) WITH SHELDON STOPSACK AND ADAM DAVIS (CG SUPERVISORS) – MPC
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PROGRAM/放送作品
ライラの冒険 黄金の羅針盤
不思議なパラレルワールドを“運命の少女”が救う!世界的人気ファンタジー小説をスケール満点に映像化
世界的人気ファンタジー小説3部作の第1章を壮大なVFX映像で映画化し、アカデミー視覚効果賞を受賞。1万5000人以上の中からライラ役に選ばれた少女ダコタ・ブルー・リチャーズが大物俳優らと堂々渡り合う。
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COLUMN/コラム2019.07.10
ザック・スナイダー監督が語った『300〈スリーハンドレッド〉』の様式美
■デジタル背景の正当性を示した古代戦闘劇 「『シン・シティ』は原作が大好きだし、映画だってもちろん好きだ。なぜならロバート(・ロドリゲス)の全デジタル環境での撮影は、主にアーティスティックな理由からくるもので、それはこの『300〈スリーハンドレッド〉』と同じ哲学を持っている。そういう意味でデジタル・バックロットという手法が本作によって正当化されたのではないか、と僕は思っているんだよ」 これは『300〈スリーハンドレッド〉』(以下『300』)が日本で2007年に公開されたとき、来日したザック・スナイダー監督に筆者(尾崎)が訊いた質問への答えだ。ロバート・ロドリゲス監督(『デスペラード』(95)『アリータ:バトル・エンジェル』(18))によって映画化がなされた『シン・シティ』は、『300』と同じフランク・ミラーのグラフィックノベルを原作とし、言うなれば兄弟のような存在である。 しかもそれだけではない。作品の撮影も『シン・シティ』と『300』とで、まったく同じスタイルが共有されている。そこでスナイダーにこう確認したのだ。 「同じミラーの原作を題材にし、なおかつ同じ[デジタル・バックロット]のアプローチをとった『シン・シティ』を、あなたはどう思うのか?」と。 デジタル・バックロットとは、俳優をグリーン(ブルー)スクリーンの前で演技させ、CGによって作られた仮想背景と合成する手法のことだ。映画製作においてデジタル環境の整った現在、それはもはや特殊なものではない。今やハリウッド映画は、俳優をCGの背景前に置いて映像を創り出すデジタル・バックロットが比重を占め、どこまでが実景でどこまでが仮想のものか、容易に判別できないクオリティへと達している。 しかし『300』においてスナイダーは、デジタル・バックロットを観客の目をあざむくために用いるのではなく、極度に誇張された幻想性の高い世界を創造しているのだ。 ■コミックを読む速度までもシミュレートした驚異の再現性 なぜスナイダーがこの手法にこだわったのかといえば、それは仕上げられた映像を見れば明らかだろう。彼はコミックのモノトーンのタッチを忠実に映像化した『シン・シティ』と同様、フランク・ミラーの意匠を実写に反映させるという課題を設けている。そしてミラーと彩色担当のリン・ヴァーリィによる描画スタイルを再現することで、おのずと他に類例のないビジュアルを観る者に提供し、わずか300人で100万人のペルシア軍を迎え撃つ、スパルタ戦士レオニダス(ジェラルド・バトラー)の熱い戦いをエモーショナルに、よりフェティッシュに描いたのである。 デジタル・バックロットはそのための最適な手段であり、現実的には無理が生じるアングルでも、これを駆使してスナイダーは、原作ひとコマひとコマの構図を的確に実写へと落とし込んでいる。そのこだわりは細部にまで及び、マーカーで荒々しく描かれた岩肌の筆致や、また原作では飛び散るインクで血しぶきを表現しているところ、これをスキャンし、飛沫の形状までも見事にミラーのタッチにしたがっている。このように残酷さも「様式美」と捉え、原作既読者に大きなインパクトを残した「死者の木」や「死者の壁」なども、じつにアーティスティックな表現がなされている。 だが、ここまでならば『300』は『シン・シティ』の轍を踏んだものでしかない。そこでスナイダーは、ロドリゲスが思いもしなかったアイディアにまで手を伸ばし、『シン・シティ』以上に原作のテイストに迫ったのだ。それがワンショットの中でスローからファスト(早い)モーションへ、そしてまたスローへと撮影速度が切り替わる「可変速度効果」である。 スナイダーは、この瞬時の出来事をゆっくりと引き延ばすテクニックによって、観客の視覚とカメラワークとを同化させている。ハイフレームレート(高コマ数)撮影を拡張させたこの手法が、グラフィックノベルの読み手がコマからコマへと目線を移すさいのスピードや、展開次第で感情の速度が速まったり遅くなったりするリズムをも創出し、そこは『シン・シティ』さえも及ばなかった高度な領域に『300』は及んだのである。 さらにスナイダーは、この可変速度効果ショットに急速にカメラが寄ったり引いたりするモーションを加え、より独創的な映像効果を追求している。 このテクニックは通称「クレイジーホース」と呼ばれ(クレアモント・カメラ社の特殊な撮影デバイスを使用したテレビ映画“Crazy Horse”(96)から呼称を得ている)、ワイド、ミディアム、タイトとそれぞれのアングルに固定した3台のカメラで、同一のハイフレームレートショットを撮影。それらを編集時に速度調整し、3つのアングルをシームレスに繋げることで生み出されている。そのアクロバティックな映像アプローチは、本作『300』のスタイルを受け継いだ続編『300〈スリーハンドレッド〉~帝国の進撃~』(14)でさえマネのできなかったものだ。スナイダーは映像作家としてのキャリアにおいて、このクレイジーホースを最初にゲータレードのCMに用いた。そして本作ではレオニダスが無数のペルシア軍に斬り込むショット(本編開始から約48分ごろ)や、ディリオス(デビッド・ウェナム)らが大軍を率いて一斉に進撃するラストショットに確認することができる。 ■『300』を手がけたことで確立した作家性 しかし、なぜそこまで細かくグラフィックノベルの再現に固執したのだろう? それがザック・スナイダー流の、原作に対するリスペクトの証だからだ。彼は言う。 「僕の商業映画デビュー作である『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04)は、オリジナルの『ゾンビ』(78)がホラー映画の名作だし、そんなオリジンを監督したジョージ・A・ロメロも、そして『300』のミラーも、それぞれがジャンルのアイコンともいうべき存在だ。そんな彼らと、彼らの聖域をないがしろにすることに、ファンは強い抵抗を覚えるんだよ」 スナイダーの微に入り細に入って作り込んでいくスタイルは、なによりも原典を尊重する姿勢のあらわれだったのである。しかしそこまで従属的にならずとも、多少オリジナリティを投入するべきだったのでは? という筆者の問いには、 「『300』の複雑だったストーリーラインを一本化したのは、僕たちのオリジナル的な行為といっていいかもしれない。いちばん目立たない作業だけれど、それはそれで大変なものだったんだよ」 と笑いながら答えてくれた。 なにより『300』を原作により近づけるため、スナイダーがほどこした方法の数々は、おのずと彼自身のオリジナリティを形成する一助となっている。ハイフレームレートのためにフィルムカメラを使用したことは、その後の彼にフィルム主義をまっとうさせ、デジタルを主流とする現在の商業映画において、彼は最近作『ジャスティス・リーグ』(17)までフィルム撮影を敢行している。こうしたアプローチが、スーパーマンの存在を実録的に描こうとした『マン・オブ・スティール』(13)の支えとなり、また『エンジェル ウォーズ』(11)における、醜悪な現実を空想で駆逐する美少女たちの勇姿も、フィルムの活用あればこその説得力といえる。 ちなみにこの『300』は、スナイダー監督が『ドーン・オブ・ザ・デッド』を手がける以前より着手していた企画で、その証として『ドーン〜』にはフランク・ミラーという名のキャラクターが登場し、ゾンビと化して悲劇的に死んでしまう。あるいは『300』の後に監督した『ウォッチメン』(09)においても、スナイダーは冒頭でコメディアンが殺される部屋番号を「300」に設定するなど、リスペクトのわりに毒を効かせた引用が笑える。■
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PROGRAM/放送作品
(吹)ライラの冒険 黄金の羅針盤
不思議なパラレルワールドを“運命の少女”が救う!世界的人気ファンタジー小説をスケール満点に映像化
世界的人気ファンタジー小説3部作の第1章を壮大なVFX映像で映画化し、アカデミー視覚効果賞を受賞。1万5000人以上の中からライラ役に選ばれた少女ダコタ・ブルー・リチャーズが大物俳優らと堂々渡り合う。
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COLUMN/コラム2016.04.06
男たちのシネマ愛⑥愛すべき、クレイグ・ボンド。そして、愛すべき洋画の未来。(2)
飯森:ティモシー・ダルトン(注26)以降は新作が出るたんびにリアルタイムで追いかけてもきましたが、実は僕がちゃんと積極的に「007」シリーズを見るようになったのは、恥ずかしながらだいぶ遅れて’90年代の半ばなんです。確か’94年だったと思うんですが、「STUDIO VOICE」(注27)という雑誌で’60年代のお洒落でキュートな女の子を回顧する特集が組まれまして、その中の見開きページで往年のボンドガールたちが紹介されていたんです。ショーン・コネリー時代の。要は、昔のボンドガール(注28)はレトロなキューティーの見本であると。そこで初めて「007」シリーズに積極的・肯定的に興味を持ったんです。アクションとしてではなくボンドガールのダサ可愛さが入口だったわけです。なので、邪道ですよね。王道のファンからは怒られてしまうかもしれません。 なかざわ:いや、それは全然アリですよ。僕だって「007」シリーズを好きな理由ってボンドガールですから(笑)。そして、ダニエル・クレイグ版「007」シリーズで一番物足りなさを感じるのもボンドガールなんです。「慰めの報酬」のオルガ・キュリレンコ(注29)とか大好きですけれど、全体的に見渡すと地味じゃないですか。特に「スペクター」のレア・セドゥ(注30)は見終わっても顔が思い出せないくらいでしたし。かえって出番が10分そこらのモニカ・ベルッチ(注31)の方が目立っていた。 飯森:その発言はレア・セドゥ崇拝者の僕としては聞き捨てなりませんねえ(笑)。まぁ、女の趣味論争ほど勝者なき不毛な議論もないからやめとくとして、いや、確かに仰ることは分かりますよ。エヴァ・グリーン(注32)がボンドの運命の人だと言われてもピンと来ない。そんなに深く心が結びついてるように描かれてたっけ?ずいぶんと唐突ですな!と。オルガ・キュリレンコだってあまりボンドと絡まないでしょ?っていうか絡み、つまりセックスが一回も無い。ボンド映画が清く正しい男女交際って、なんだそれ?と。お前はランボーと違ってヤリチンが売りだろ、とかね。この2人は女優として普段は大好物なだけに、もうちょっと扱いを印象的にしてあげてほしかったですよね。ただ、「スカイフォール」はボンドガールがジュディ・デンチ(注33)でしょ?あれにはやられました!これはもう反則としか言いようがない!女の趣味論争に決して発展しようがない。誰しも認めざるをえない。こんな裏技的なボンドガールの解釈があっていいものかと。歴代最高(齢)のボンドガールですよ(笑)。 なかざわ:ロッテ・レーニャ(注34)という人もいましたが(笑)、ジュディ・デンチはなんたってM(注35)ですからね。 飯森:そういう面でも「スカイフォール」は凄い!まあ、賛否両論あるみたいですけれどね。あんなの「007」じゃないという声もありますし。かえって「スペクター」が最高だという意見もあります。でも、やっぱり僕にとっては「スカイフォール」なんですよ。まさかボンドガールで泣かされるとは思いませんでしたし。まあ、途中で殺されちゃう方の、普通に若いきれいどころのボンドガールは全然目立ってなくて気の毒でしたけどね。ああいうポジションの人ってよくいますよね。出てきてすぐに金粉塗ったくられて殺されちゃうとか(笑)。 なかざわ:「007/ゴールドフィンガー」(注36)のシャーリー・イートン(注37)ですね。ボンドガールにもメインとサブがいますから。だいたいサブは殺されるか悪役か。悪役ボンドガールといえば、キャロライン・マンロー(注38)とかファムケ・ヤンセン(注39)とか大好きです。 飯森:どちらも人を殺してると感じて濡れてくるという。漫画チックですよね。 なかざわ:それはそうですね。その究極が、番外編だけれど「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」(注40)のバーバラ・カレラ(注41)。あれは最高だった! 飯森:シンドバッドみたいな衣装で出てきて。 なかざわ:しかも最後は爆死ですから(笑)。 飯森:そういう意味では、地に足のついているダニエル・クレイグ版ボンドガールというのは、確かに地味といえば地味ですよね。リアルな女性の延長線上にいるキャラクターですから。 なかざわ:まあ、それがダニエル・クレイグ版「007」シリーズのカラーですよね。 飯森:この、地に足がいている、というのは一事が万事に言えることで、悪の組織がお洒落なラウンジ系インテリアの秘密基地にいて派手な揃いのユニフォーム着てたりとか、Q(注42)の秘密兵器めかしたものも出てこないじゃないですか。 なかざわ:確かに発明品は出てくるけれど、みんなが連想する「007」シリーズのガジェットではない。現実的なんですよね。 飯森:そうなんですよ。僕はロジャー・ムーア時代なんかの荒唐無稽な秘密兵器に萎えを感じていたので、こういう姿勢もとても心地よかったです。 なかざわ:なるほど。逆に僕は荒唐無稽な秘密兵器が大好きなんですけれどね(笑)。 飯森:あとはスーツですよ。「007」というと新作が公開されるたびに男性ファッション誌で特集が組まれますよね。何十万円もする高級スーツ着た公務員スパイなんて現実にはいないだろと思いますが、ボンドのスーツスタイルはメンズファッション的に昔からサラリーマンのお手本だった。でも、例えばピアース・ブロスナン(注43)のクラシコイタリア(注44)のコンサバすぎるスーツなんて、ギャグすれすれじゃないですか。それこそ「キングスマン」ですよ。あっちはサヴィル・ロウ(注45)の方でしたが。どっちにしても今の時代だとコスプレ感が出ちゃう。その点、トム・フォード(注46)のモード系スーツをスタイリッシュに着こなすダニエル・クレイグは、まさしく今のスパイ。そういう点でも新しかったと思いますね。 なかざわ:それまでのボンド・ファッションは前時代的過ぎるというか、一種のファンタジーですね。 飯森:そういうところも僕はクレイグ・ボンドが大好きで、中でも「スカイフォール」は最高だと思っています。「カジノ・ロワイヤル」も「慰めの報酬」も、言ってみれば「スカイフォール」でイクための前戯です。この作品で真の「007」になるわけじゃないですか。「カジノ・ロワイヤル」では当初「007」ですらなかったですから。 なかざわ:ここで一旦、シリーズがリセットされていますからね。 飯森:なのでファッション的にも最初はアロハ着たド汚いチンピラみたいな姿で出てくるんですよね。ガンバレル・シークェンス(注47)でのスーツ姿は、タイトなトム・フォードのシルエットとは真逆の、オーバーサイズで見苦しいダボダボ・ヨレヨレ汚スーツ姿。しかも場所が薄汚い便所なんですよ、ションベンが足元に跳ねてるような。もう、見るからに三下の鉄砲玉なんです。「カジノ・ロワイヤル」のラストでようやくスーツの似合う男にはなれた。でも、このラストシーンではピアース・ブロスナンと同じブランド、イタリアのブリオーニ(注48)の物を着てるんですよね。スリーピースのまぁ大時代な代物を。だから今見ると若干クレイグ・ボンドらしからぬ違和感がある。タイトなトム・フォード スタイルになるのは次の「慰めの報酬」からで、そこからさらに紆余曲折を経て、「スカイフォール」のラストで真の「007」の新たな始まりが描かれるわけです。それまでは過去のお馴染みのストーリーを脱構築するような試みがなされていましたけれど、そのプロセスが完全にここで完了して、いつもの「007」が始まりますよ、というのが「スカイフォール」のエピローグでした。なので、「スペクター」は驚くぐらい昔の「007」っぽくなっていましたよね。 なかざわ:まあ、確かにそうかもしれません。 飯森:なかざわさんが仰るように、決して明るくはない。でも秘密兵器はバンバン出てきますし。 なかざわ:列車での格闘シーンなどはまさに「ロシアより愛をこめて」(注49)へのオマージュでしたね。 飯森:そしてついにスペクターを出してきましたからね。とんでもない悪事を働いて金儲けをする多国籍企業という荒唐無稽な敵の登場です。悪の組織のユニフォームもオシャレ秘密基地もちゃんと出てくる。それまでのリアリズムから一気に突き抜けました。でも、これが本来の「007」シリーズの持ち味であって、それまでの3本が例外的なポジションにあった。そう考えると、僕の好きなクレイグ・ボンドというのが特別な存在だったんだなと思います。そして、「スペクター」では元の路線へ戻ろうとしているわけですね。 なかざわ:そこが僕にはちょっと中途半端に思えたのかもしれません。冒頭のメキシコでのアクションは文句なしに素晴らしかったですけれど。 飯森:でもファッションも今回は特に良かったと思いますよ。砂漠で車を待っているシーンのダニエル・クレイグとレア・セドゥの服装がまた実にオーセンティックなリゾート・スタイルでカッコいいのなんの! ボンドの着ているベージュのコットン・サマー・スーツといい、レア・セドゥの白いバギー・パンツといい。 なかざわ:レトロなスタイリッシュさですね。 飯森:「カサブランカ」(注50)みたい。でも、ちゃんと2015年仕様にアップデートされている。今回あのハイウエストのバギー・パンツはいてる時のレア・セドゥのケツときたら、おおおー!という。それまでのダニエル・クレイグ版ボンドガールって、みんな華奢で線が細かったじゃないですか、ジュディ・デンチは別として(笑)。エヴァ・グリーンもオルガ・キュリレンコもよく脱いでる女優さんだから、実は美巨乳だって知ってますけど、少なくとも服を着た状態の印象としてはスレンダー。そこへくると「スペクター」はレア・セドゥもモニカ・ベルッチも豊満でグラマラス。これぞまさにオレ好み!もともとボンドガールってそういうもんじゃないですか。ウルスラ・アンドレス(注51)も、オナー・ブラックマン(注52)も、クロディーヌ・オージェ(注53)も、そして我らが浜美枝(注54)も。グラビアアイドル的な肉体の持ち主が多いですよね。男性客を意識するわけですから、女性に受けるような細身の人よりは、男好きのする肉感的な体つきの人の方がボンドガールには相応しい。今回の2人はまさにドンピシャですよ! なかざわ:モニカ・ベルッチなんてエロの塊ですもんね。フェロモンがダダ漏れというか。まさにエロスの化身。 飯森:僕は熟女趣味は無いんで「マレーナ」の頃ならともかく今だとやっぱりレア・セドゥなんだよな。それまでの映画でもバンバン脱いでいるし、かなり際どいヌード写真まで平気で撮らせている人で、名門の超お嬢様だからか我々平民に施しを惜しまないところが最大級の感謝と尊敬に値する。まぁモニカ・ベルッチも出し惜しみなんてしたためしがない人ですが(笑)。そんなわけで、ダニエル・クレイグ版「007」シリーズは超最高!というのが結論です。さあ、これでノルマは達成したぞ!で、せっかくなので、あちらの話もしましょうか? 注26:1946年生まれ。イギリスの俳優。1987年の『007/リビング・デイライツ』と1989年の『007/消されたライセンス』で4代目ジェームズ・ボンドを務めた。注27:日本の高級カルチャー雑誌。1976年に創刊され、ハイセンスな誌面作りと知的な特集記事で人気を集めたが、2009年に休刊。2015年に復活している。注28:「007」シリーズに登場するヒロインたちの呼称。注29:1979年生まれ。ウクライナ出身の女優。「007/慰めの報酬」(’08)でブレイクし、以降も「オブリビオン」(’12)や「スパイ・レジェンド」(’14)などで活躍。注30:1985年生まれ。フランスの女優。ハリウッド進出作「イングロリアス・バスターズ」(’09)で脚光を浴び、「アデル、ブルーは熱い色」(’13)の演技で高い評価を得た。注31:1964年生まれ、イタリアの女優。世界的なトップ・モデルから女優へ転身。「ドーベルマン」(’97)や「マレーナ」(’00)で絶賛され、「マトリックス・リローデッド」(’03)などハリウッド映画への出演も多い。注32:1980年生まれ。フランスの女優。母親は往年の名女優マルレーヌ・ジョベール。「キングダム・オブ・ヘブン」(’05)で注目される。そのほか、「ダーク・シャドウ」(’12)や「シン・シティ 復讐の女神」(’14)などに出演。注33:1934年生まれ。イギリスの女優。若い頃は主に舞台の大物女優として活躍。’80年代から映画にも本格進出し、「Queen Victoria 至上の恋」(’97)で初めてアカデミー主演女優賞にノミネート。「恋におちたシェイクスピア」(’99)で同助演女優賞を獲得し、以降もたびたびオスカー候補となっている。注34:1898年生まれ、オーストリア出身の歌手。若かりし頃、第一次大戦後のナチス独裁前まで、ドイツが民主的で華やかだったワイマール時代に活躍し、“名花”と呼ばれた。65歳の時「007/ロシアより愛をこめて」(’63)に悪役として出演。注35:ジェームズ・ボンドの上司でMI6の局長。もともとは男性の設定だったが、「007/ゴールデンアイ」(’95)以降、7作に渡って女優ジュディ・デンチが演じた。注36:1964年制作。イギリス・アメリカ映画。大富豪ゴールドフィンガーの陰謀にジェームズ・ボンドが立ち向かう。ショーン・コネリー主演、ガイ・ハミルトン監督。注37:1936年生まれ。イギリスの女優。「007/ゴールドフィンガー」で脚光を浴び、以降は「姿なき殺人者」(’65)や「女奴隷の復讐」(’68)などB級映画で活躍。注38:1950年生まれ。イギリスの女優。「ドラキュラ’72」(’72)や「地底王国」(’76)などB級娯楽映画のセクシー女優として熱狂的なファンを獲得し、「007/私を愛したスパイ」(’77)の悪役ボンドガールを務めた。以降も「スタークラッシュ」(’78)や「マニアック」(’80)などのカルト映画で人気に。注39:1964年生まれ。オランダ出身の女優。アメリカへ留学して女優に。「007/ゴールデンアイ」の悪役ボンドガールでブレイクし、「X-メン」(’00)シリーズや「96時間」(’08)シリーズなどで活躍している。注40:1983年制作。アメリカ映画。初代ボンド俳優ショーン・コネリーを主演に、本家「007」シリーズとは別の制作会社が作った番外編的な「007」映画。アーヴィン・カーシュナー監督。注41:1951年生まれ。アメリカの女優。「ドクター・モローの島」(’77)の豹女役で注目され、「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」の悪女ファティマ役でゴールデン・グローブ賞候補に。エキゾチックな顔立ちのセクシー女優として根強い人気を持つ。注42:MI6内でスパイ用秘密兵器の開発を指揮している“発明オジサン”。数々の珍発明を生み、長年デスモンド・リュウェリンが演じてきたが、「スカイフォール」でベン・ウィショーが起用され、ダニエル・クレイグとの絡みが一部の熱心な女性ファンたちを喜ばせた。注43:1953年生まれ。アイルランドの俳優。「007/ゴールデンアイ」(’95)で5代目ジェームズ・ボンドに起用され、「007/ダイ・アナザー・デイ」(’02)まで4作品にわたって務めた。注44:クラッシックなイタリアン・スーツ・スタイルのこと。英国のトラディショナルなスタイルにイタリアならではの軽さと華やかさが加わる。注45:ロンドン中心部にある有名なファッション・ストリート。英国トラディショナル・スタイルの高級仕立服店が数多く並び、日本の「背広」の語源だという説もある。注46:1961年生まれ。イギリスのファッション・デザイナー。ビヨンセやウィル・スミス、ヒュー・ジャックマン、ジェニファー・ロペスなどハリウッド・セレブにもファンが多い。映画監督としても知られる。注47:「007」 シリーズの冒頭に必ず出てくる、銃口からタキシード姿のボンドを覗き、狙いを定めたところで逆にボンドに撃たれ、銃口からの視点が血に染まりヨロヨロと揺れながら倒れていく、という表現のシーン。注48:1945年にローマで創業したクリシコ・イタリアの代表的ブランド。仕立てより“世界最高の既製服”としての名声が高い。注49:1963年制作。イギリス・アメリカ映画。ジェームズ・ボンドが秘密組織スペクターに命を狙われる。ショーン・コネリー主演、テレンス・ヤング監督。注50:1942年制作。アメリカ映画。モロッコのカサブランカを舞台に、運命に翻弄される男女の切ない愛を描く。古典的なお洒落映画としても有名。ハンフリー・ボガード主演、マイケル・カーティス監督。注51:1936年生まれ。スイス出身の女優。「007/ドクター・ノオ」(’62)で初代ボンドガールに起用され、そのグラマラスな肉体で大ブレイク。「炎の女」(’65)や「カトマンズの男」(’65)、「レッド・サン」(’71)など、世界各国の映画で活躍した。注52:1925年生まれ。イギリスの女優。テレビドラマ「おしゃれ(秘)探偵」(‘62~’64)の黒いレザースーツに身を包んだ女探偵キャシー役で人気を博し、「007/ゴールドフィンガー」のボンドガールとしてブレイク。近年も「ブリジット・ジョーンズの日記」(’01)や「ロンドンゾンビ紀行」(’12)などで元気な姿を見せている。注53:1942年生まれ。フランスの女優。「007/サンダーボール作戦」(’65)のボンドガールで世界的な注目を集め、以降も「トリプルクロス」(’66)や「エスカレーション」(’68)、「フリック・ストーリー」(’75)などヨーロッパの人気女優として活躍。注54:1943年生まれ。日本の女優。東宝映画の活発な若手女優としてクレイジー・キャッツなどの映画でヒロイン役を務め、「007は二度死ぬ」(’07)のボンドガールに起用された。テレビの司会者としても人気に。 次ページ >> 僕は「007」の二番煎じ的なスパイ映画が昔から大好きなんです。(なかざわ) 『007/カジノ・ロワイヤル(2006)』CASINO ROYALE (2006) © 2006 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/慰めの報酬』QUANTUM OF SOLACE © 2008 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/スカイフォール 』Skyfall © 2012 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc. Skyfall, 007 Gun Logo andrelated James Bond Trademarks © 1962-2013 Danjaq, LLC and United Artists Corporation. Skyfall, 007 and related James Bond Trademarks are trademarks of Danjaq, LLC. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
(吹)ライラの冒険 黄金の羅針盤 【日曜洋画劇場版】
不思議なパラレルワールドを“運命の少女”が救う!世界的人気ファンタジー小説をスケール満点に映像化
世界的人気ファンタジー小説3部作の第1章を壮大なVFX映像で映画化し、アカデミー視覚効果賞を受賞。1万5000人以上の中からライラ役に選ばれた少女ダコタ・ブルー・リチャーズが大物俳優らと堂々渡り合う。
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COLUMN/コラム2014.05.25
2014年6月のシネマ・ソムリエ
■6月1日『ロリータ』 ロリータ・コンプレックスの語源となったナボコフの小説を映画化。巨匠S・キューブリックが『スパルタカス』と『博士の異常な愛情?』の間に発表した異色恋愛劇だ。 中年の文学者が下宿先の未亡人の娘ロリータに心奪われ、人生を狂わされていく。物語は原作に忠実だが、ヒロインの年齢設定などが変更され、モノクロで撮影された。 規制が厳しかった時代の作品ゆえに性描写は一切なく、犯罪映画風の冒頭に続いて、人間のエゴをえぐる破滅的なドラマが展開。脇役P・セラーズの怪演も見逃せない。 ■6月8日『砂漠でサーモン・フィッシング』 中東イエメンの砂漠に川を造り、鮭釣りができるようにしたい。大富豪からそんな壮大なプロジェクトの実現を依頼された、英国人水産学者の奮闘を描くコメディである。 原作はポール・トーディの小説『イエメンで鮭釣りを』。イメージアップをもくろむ英国政府の思惑も絡む物語はシニカルなユーモア満載で、恋愛映画としても楽しめる。 堅物の学者に扮したE・マクレガーと、投資コンサルタント役のE・ブラントの機知に富んだ掛け合いが魅力的。夢や理想といったテーマを爽やかに謳い上げた珠玉作だ。 ■6月15日『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』 『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』の俊英E・ライトが放ったラブ・コメディ。理想の女の子と交際するため、彼女の元カレ7人と対決する青年の物語だ。 ポップカルチャーから多大な影響を受けた監督の漫画やロックへの偏愛が爆発。主人公が次々と出現する元カレとのバトルを突破していく展開は、まさにゲームのよう! 凝った視覚効果や編集テクを駆使し、ファミコンのチープな電子音まで導入。マニアックな小ネタとギャグも詰め込んだ映像世界は、これぞ究極のオタクワールドである。 ■6月22日『パーフェクト・センス』 人間の嗅覚や聴覚といった五感が順次失われていく奇病が世界中で蔓延。そのさなかに恋に落ちたシェフのマイケルと感染症学者スーザンの身体も異変に見舞われていく。 CGによるディザスター描写に依存せず、人類存亡の危機を描いた英国製の終末映画。五感の喪失という現象が一般市民の日常を混乱に陥れる過程をリアルに映し出す。 世界が静寂と暗闇に覆われていく悲劇的な物語が問いかけるのは、愛と希望というテーマ。他者を“感じる”ことの尊さを感動的に映像化したラブストーリーでもある。 『ロリータ』TM & © Warner Bros. Entertainment Inc. 『砂漠でサーモン・フィッシング』©2011 Yemen Distributions LTD. BBC and The British Film Institute All Rights Reserved. 『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』©2010 Universal Studios. All Rights Reserved. 『パーフェクト・センス』© Sigma Films Limited/Zentropa Entertainments5 ApS/Subotica Ltd/BBC 2010