検索結果
-
PROGRAM/放送作品
ミッドナイト・ガイズ
[PG12]アル・パチーノらオスカー俳優3人が競演!老ギャングの絆と熱い生きざまに震える犯罪ドラマ
アル・パチーノ、クリストファー・ウォーケン、アラン・アーキンのオスカー俳優競演が実現。怖い者知らずで無鉄砲なギャングに扮して大暴れし、老年だからこそ醸し出せる哀愁や飄々としたユーモアで魅せる。
-
COLUMN/コラム2022.12.06
『ジェイソン・ボーン』シリーズより先行した多動的カメラワークとカオス編集『マイ・ボディガード』
「メキシコでは1時間に1件の誘拐事件が発生し、人質の70%は生還されず殺される」 2004年にトニー・スコット監督、デンゼル・ワシントン主演で発表された映画『マイ・ボディガード』は、このラテンアメリカでの誘拐に関する当時の実情を示して幕を開ける。本作の主人公であるクリーシー(ワシントン)は引退したCIAの対テロ工作員で、彼は自身のキャリアを血塗られたものとして後悔している。そんな彼の陰鬱な感情をはらおうと、元同僚のレイバーン(クリストファー・ウォーケン)は、クリーシーにピタ(ダコタ・ファニング)という少女のボディガードとして、メキシコシティで仕事をするようはからう。 警護にあたった当初は、クリーシーはピタとの感情的な壁を取り去ることができずにいたが、次第に二人は父娘にも似た絆を形成していく。そして映画は、少女の無垢な愛情が、一人の男を心の闇から解放する過程を表現豊かに捉えていくのだ。 しかし物語は予期せぬ事態によって、クリーシーは自らのささやさな幸福を破壊した者に対し、忌まわしいと捨て去ったスキルを用いることになる——。 原作はバイオレンス小説を過半とするイギリスの大家、A・J・クィネルが1980年に発表した「燃える男」。監督のトニー・スコットは吸血鬼伝説をモダンにアレンジした劇場長編デビュー作『ハンガー』(83) に次ぎ、出版ほどなくベストセラーとなった同作を手がけるつもりだった。もともとクィネルのファンだったスコットは、『ハンガー』公開後に早くも映画化の予算を獲得しようと動いたのである。しかし当時、彼はまだ兄リドリー・スコットの会社のCMディレクターだったために資金を確保できず、代わりにジェリー・ブラッカイマーより打診のあった『トップガン』(86) に着手する。 いっぽう「燃える男」は1987年にプロデューサーのアーノン・ミルチャンとロバート・ベンムッサが仏伊米合作で映画化を果たし、俳優陣についてはスコット・グレンがクリーシーを、ジョー・ペシが彼の友人でありパートナーのデヴィッドに扮し、ジェイド・マルが少女サマンサ役で出演した。アメリカでは同年10月9日に178の劇場で公開され、わずか519,000ドルの興行収入しか得られず、ビデオやテレビ放送などの二次収益に頼るしかなかった。 奇しくも『マイ・ボディガード』企画の再浮上は、この『マン・オン・ファイア』の二次収益媒体が大きく関与する。後年、ミルチャンがテレビで本作を見たとき、彼は翌朝トニーに電話し、自分がまだ「燃える男」の権利を持っており、再映画化に興味があるかどうか、そして『マン・オン・ファイア』が示したものより多くの可能性があるかどうかを訊いた。スコットは今なら「燃える男」を壮大で理想的な自身の作品として世に送り出せる自信があり、クィネルへの再アクセスはいつでも可能であることをミルチャンに示したのだ。 同時にスコットは脚本家にあたりをつけ、シルベスター・スタローンとアントニオ・バンデラス共演のアクションスリラー『暗殺者』(95) や、ジェームズ・エルロイ原作の犯罪サスペンス『L.A.コンフィデンシャル』(97) で注目中のブライアン・ヘルゲランドに依頼した。 スコットは彼が脚本を手がけた『ミスティック・リバー』(03) を気に入っており、偶然にもヘルゲランドは『マン・オン・ファイア』の存在を熟知していた。1989年、カリフォルニア州マンハッタンビーチで、彼は地元のレンタルビデオ店をよく訪れ、おすすめを尋ねていた。そこでクエンティン・タランティーノ(!)という脚本家志望の店員が同作のビデオを勧めてくれたのだという。オファー当時、ヘルゲランドは監督業に移行しようとしていたことから乗り気ではなかったが、スコットに代わって自分が同作の監督をやる可能性をミルチャンに示唆され、依頼を受けた。 ヘルゲランドの脚色は原作から多くのセリフを引用し、クィネルへのリスペクトを示したが、クライマックスを原作とは異なるものにした。小説は実際に起こった2つの誘拐事件からインスパイアされ、そのためクィネルは事件と同じような結末を維持したが、映画では独自の展開が用意されている。それはピタによって人間的感情を取り戻したクリーシーの贖罪といえるもので、彼とピタとの友情をパイプにしたエモーショナルな改変である。 しかし舞台となるイタリアが、映画製作時には小説執筆時の頃よりも犯罪率が低下していたため、製作サイドは物語の信憑性を損ねることを懸念。彼らは映画の舞台となる場所を変更することにした。前掲の「メキシコでは1時間に1件の誘拐事件」は、こうした経緯を抜きには語れぬ重要なリードなのだ。 また劇中における俳優たちのパフォーマンスも、この映画を観る者との感情の同期に貢献している。たとえば物語の当初、クリーシーがピタのボディガードを引き受けたことを後悔していたとき、実際にデンゼル・ワシントンはセットでファニングと距離を保ち、積極的にコンタクトをとることを避けたという。そして物語の過程でクリーシーがピタに親しみを覚えると、ワシントンは舞台裏で同じように接したのだ。ワシントンとファニングはお互いに見事なボレーを交わし、彼らの即興演出は対話に迫真性をもたらしたのである。 だが最も作品において効果的に貢献したのは、監督トニー・スコットによる多動的カメラワークとカオスに満ちた編集だろう。きめ細かなグラデーションフィルターの選択や大胆なジャンプカット、あるいはクイックズームに可変速度効果など、これらはクリーシーの感情に合わせて変化していく。加えて本作ではキャプションを活かしたタイポグラフィも目を引くが、これはスコットがBMWのPVを演出したとき、ジェームズ・ブラウンのセリフをスタリュシュに加工した効果を適応させたもので、映画の中でもひときわ強い印象を残す。 James Brown - Beat The Devil (2002) しかし、こうした効果が評論家の目には装飾的にしか映らず、その頃はむしろ批判の対象として捉えられる傾向にあったようだ。映画評論の権威ロジャー・エバートは本作を評し「この映画には、長さとスタイルを正当化するための深みが必要だ」と断じたが、これなどはその短絡的な解釈の顕著な例だろう。 だが『マイ・ボディガード』の映像的・あるいは編集に見られる傾向は、そのスタイルがドラマや登場人物の推移を巧みに視覚化したものとして再評価の機会が待たれる。何より本作の公開は、あの多動的表現でアクション映画の気流を変えた『ボーン・スプレマシー』(04) より公開が3ヶ月早く、その先進性を改めて問うべきだろう。なにより『マイ・ボディガード』は日本公開時、全体的によく編集された印象のある劇場用パンフレットにも、最大の貢献者であるトニー・スコットに関する記述が少なく、そこも画竜点睛を欠く口惜しさは否めなかった。本作を叩き台に、監督への言及が活発化することを望みたい。■ 『マイ・ボディガード(2004)』© 2004 Twentieth Century Fox Film Corporation and Monarchy Enterprises S.a.r.l. All rights reserved.
-
PROGRAM/放送作品
ラストマン・スタンディング
黒澤明『用心棒』を名匠ウォルター・ヒル監督がリメイク。西部劇のムード漂う頭脳戦ギャング・アクション
黒澤明監督、三船敏郎主演作『用心棒』を、ウォルター・ヒル監督、ブルース・ウィリス主演でリメイクしたバイオレンス・アクション。30年代米に舞台を移し、西部劇さながらのガン・アクションが展開する。
-
COLUMN/コラム2020.08.06
『戦争の犬たち』 フレデリック・フォーサイスの原作の背景と、クリストファー・ウォーケン主演によるアレンジについて
本作『戦争の犬たち』(1980)の原作は、イギリスの作家フレデリック・フォーサイスが著し、1974年に出版された同名の小説である。フォーサイスと言えば、現実の国際情勢に基づいた題材を取り上げ、アクチュアルに描いたベストセラーを、数多く世に放ってきたことで知られる。 ジャーナリスト出身の彼が書いた小説の第1作が、かの有名な「ジャッカルの日」。1962年から63年に掛けて、「ロイター通信」の特派員としてパリ駐在時に、当時のドゴール大統領の動きを、日々追った経験を基に書き上げた、サスペンススリラーの傑作である。 ドゴール大統領暗殺を狙う、正体不明のスナイパー“ジャッカル”と、それを阻止しようとする国家権力の虚々実々の戦いを描いた「ジャッカルの日」は、71年に出版されてベストセラーになった。巨匠フレッド・ジンネマン監督による、その映画化作品も、73年に公開されて世界的に大ヒット!今でも“暗殺映画”のマスターピースとして、高く評価されている。 「ジャッカルの日」の出版契約に当たって版元は、作家としては無名の新人であったフォーサイスに、「小説三作の契約」を結びたいと申し入れた。そこでフォーサイスが、ジャーナリストとして見聞きしたことを基に考え出したのが、「オデッサ・ファイル」と「戦争の犬たち」だった。 「ジャッカルの日」に続く第2作となったのは、「オデッサ・ファイル」。フォーサイスが冷戦時の東ベルリンに駐在していた時、耳にした噂が起点となっている。それは、元ナチスのメンバーが、戦後に司直の手から逃れるために作った、謎の組織が存在するというものだった。 この噂話をベースに、綿密な取材を行って執筆した「オデッサ・ファイル」は、72年に出版。74年にジョン・ヴォイトが主演した映画化作品が、公開された。 そしてフォーサイスの第3作となったのが、「戦争の犬たち」である。こちらは彼が、「ロイター」から「BBC=英国放送協会」に転職した後、アフリカに赴いた時の経験から、発想した内容。ナイジェリアの内戦=「ビアフラ戦争」の取材を通じて、自分が知ったアフリカのこと、そしてそこで戦う白人傭兵たちについて描くことを、思い付いたとしている。 小説「戦争の犬たち」に登場するのは、独裁者であるキンバ大統領が君臨する、アフリカの架空の国ザンガロ。ここにプラチナの有望な鉱脈があることを知った、イギリスの大企業が、クーデターでキンバを倒すことを企てる。その上で、自分たちが立てた傀儡を大統領に据え、プラチナを独占しようという算段であった。 そこで雇われたのが、イギリスの北アイルランド出身の傭兵シャノン。彼は観光客を装ってザンガロを訪れ、綿密な調査を行う。そして、外部からの急襲作戦によって、政権打倒が可能であるとのレポートを提出した。 そのまま、クーデターの計画立案から、武器や兵員の調達や輸送、戦闘まで任されたシャノンは、気心が知れた傭兵仲間を招集。ヨーロッパの各地で準備を進め、やがて計画は実行に移される。 シャノンが率いる傭兵部隊は、犠牲を出しながらも、独裁者を倒すことに成功。手筈通り、黒幕の大企業の使者と、傀儡政権のトップを出迎える。 しかし実はシャノンは、大国や一部の富者の思惑や謀略によって、アフリカの国家やその住民たちが蹂躙される様を、傭兵生活の中で幾度も目撃し、憤りを覚えるようになっていた。そして彼の雇い主たちには、思いもよらなかった行動に出る…。 さて、処女作「ジャッカルの日」から「戦争の犬たち」まで、いずれもフォーサイスの、ジャーナリスト時代の見聞から拡げた物語であることは、先に記した通りである。その辺りをフォーサイス本人が詳述しているのが、2015年に出版された自伝「アウトサイダー 陰謀の中の人生」。そしてその中でフォーサイスは、自分がイギリスの秘密情報部「MI6」の協力者であったことも、明かしている。 それによると、「MI6」のエージェントが、フォーサイスに初めて接触してきたのは、1968年。「BBC」を辞めてフリーランスの記者として、「ビアフラ戦争」の取材を続けている時だった。この戦争によって、多くの子どもたちが餓死している惨状を、フォーサイスはエージェントに伝え、イギリス政府がこの戦争に対して取っている政策を、揺り動かそうとしたという。 アフリカに関してはその後、70年代に過酷な人種差別政策で知られた「ローデシア」の政権の動向を探ったり、80年代、「南アフリカ」が密かに保有していた核兵器に関する情報を収集したりなどの、協力を行ったとしている。 また同書によれば、73年には東ドイツを訪問。そこで、イギリスの協力者となっているソ連軍の大佐から紙包みを受け取り、西側に持ち出すというミッションまで敢行している。 そんなこともあって、新作の小説を発表する際には、フォーサイスは機密を知る人間として、「書きすぎた部分」はないか、「MI6」のチェックを受けていたとする。しかしこの自伝に関しては、私は些か眉唾との思いを、抱かざるを得ない。 秘密情報部からの依頼のみに止まらず、ジャーナリストとしての戦場取材や、小説を書くための裏社会のリサーチなどに於いて、あまりにも命懸け、危機一髪で死地をくぐり抜けるエピソードが多いのである。しかも時によっては、彼にとっては敵方に当たる東側の女性工作員とのアバンチュールもあったりする。まさに、ジェームズ・ボンドさながらである。 また東ドイツ駐在時に、彼のスクープによって、危うく「第三次世界大戦」の引き金を引きかけるくだりがある。そんなこんなも含めて、元ネタになった経験は実際にあったとしても、「話を盛ってるなぁ~」という印象が、拭えない。 しかし、当代随一のスパイ小説の書き手が、自らの人生を綴る中でも、旺盛なサービス精神を発揮したと思えば、それほど大きな問題はないのかも知れない。元々国際情勢の現実に則りながらも、エンタメ要素を加える手法が、高く評価されてきた作家であるわけだし。 だがこの「アウトサイダー」では、フォーサイスの歩みを知る者としては、一体どんな風に記すのか興味津々だった部分が、書かれていなかったりする。それは1972年、アフリカの小国「赤道ギニア共和国」で、フォーサイスがクーデターを支援するために傭兵部隊を雇い、政権転覆を企てたという、かなり有名な逸話についてだ。 このクーデターの資金は、「ジャッカルの日」の印税で、主たる目的は、フォーサイスが「ビアフラ戦争」で肩入れしていた、反乱軍の兵士たちのため。「ナイジェリア」を追われた彼らに、国を与えようとしたと言われる。 しかしこの計画は、船に武器を積み込む予定だったスペインで、傭兵隊長が身柄を拘束されて失敗に終わった。そしてこれらの経験を盛り込んで書かれたのが、「戦争の犬たち」だという。小説の中ではクーデターは成功し、フォーサイスの所期の目的も果たされる。 このクーデター未遂事件は、6年後の78年に、イギリスの新聞「サンデー・タイムズ」に報じられ、大きなニュースとなった。但しフォーサイス自身はこの件に関しては、作戦会議を取材しただけで、傭兵達が自分を首謀者だと思い込んだのだと、関与を否定しているが…。 虚実は、はっきりしない。しかしいずれにせよ、アクチュアルながらも、フィクションである物語を数多紡いできた、フォーサイスらしい逸話と言っても、良いのではないか? さて、そんな小説を映画化した本作『戦争の犬たち』は、原作のエッセンスは残しながらも、ストーリーをかなり省略。更にオリジナルの設定も、多分に盛り込んだ作りとなっている。 シャノンが、ザンガロへの調査の旅で、逮捕されて拷問に遭ったり、原作には登場しない、別れた妻との愁嘆場があったり。なぜこうした作りになったかと言えば、シャノンを演じるのが、クリストファー・ウォーケンだったからではないだろうか。 ウォーケンが一躍注目を集めたのは、今から42年前=1978年、彼が30代半ばの時に公開された、マイケル・チミノ監督のベトナム戦争もの『ディア・ハンター』。戦場で心を病み、ロシアン・ルーレットで命を落とす青年ニック役で、繊細且つ凄絶な演技を見せ、アカデミー賞助演男優賞を受賞した。 それに続く出演作は、80年に公開された2本。チミノ監督作への連続出演となる、『天国の門』、そして本作『戦争の犬たち』である。当時のウォーケンは、大作の“主演級スター”として、猛売り出し中だった。 また近年は、“個性派”或いは“怪優”といった印象が強いウォーケンだが、当時は女性ファンも多い、“二枚目”俳優であった。『戦場の犬たち』に、出世作『ディア・ハンター』を想起させるような“拷問”シーンや、切なさを醸し出す“ラブシーン”が用意されたのは、当時のウォーケンならではだったと思える。 しかし『天国の門』は、空前の失敗作扱いをされ、製作の「ユナイテッド・アーティスツ」を破綻に追い込んだのは、多くの方がご存知の通り。『戦争の犬たち』も興行成績がパッとせず、ウォーケンが“A級作品”の主役を演じるのは、83年の『ブレインストーム』や『デッドゾーン』辺りで、打ち止めとなる。まあ今になって考えると、大作の“主演”も“二枚目”扱いも、柄じゃなかったという気がしてくるが。 そしてウォーケンは、『007 美しき獲物たち』(85)で、当初デヴィッド・ボウイにオファーされていた悪役を、彼の代わりに演じた辺りから、「クセが強い」役柄が多い俳優となっていく。 余談になるが、ダニエル・クレイグがボンドを演じる現在、『007』シリーズの悪役は、ハビエル・バルデム、クリストフ・ヴァルツ、ラミ・マレックと、いつの間にかオスカー男優の定席となってしまった。だが実は、それ以前にオスカー受賞者で『007』の悪役を演じたのは、ウォーケンただ一人である。 最後に話をまとめれば、原作者が実際に起こそうとしたクーデターをベースに書いたと言われる物語を、当時は“二枚目”で“主演級”だった現“怪優”向けにアレンジしたのが、本作『戦場の犬たち』である。そう思うとこれは、1980年というタイミングだからこそ、作り得た作品とも言えるだろう。■ 『戦争の犬たち』(C) 1981 JUNIPER FILMS. All Rights Reserved
-
PROGRAM/放送作品
マイ・ボディガード(2004)
[R15]ボディガードと少女の心温まる交流、そして壮絶な復讐劇。オスカー俳優&天才子役が感動の競演
心に傷を持つボディガードと無邪気な少女の交流、彼女を奪われた男の復讐劇を、トニー・スコット監督がサスペンスフルに描く。少女を守るため手段を選ばない主人公をデンゼル・ワシントンが鬼気迫る形相で熱演。
-
COLUMN/コラム2017.03.09
ウェインズ・ワールド
俳優のアレック・ボールドウィンが怪演するトランプ大統領や、ケイト・マッキノンとレスリー・ジョーンズのリメイク版『ゴーストバスターズ』への出演といった話題も手伝って、話題騒然のアメリカの老舗お笑い番組『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』。視聴率は過去22年間で最も高かったという。ということは、22年前の『SNL』はトンデモない人気番組だったということになるわけだけど、当時のレギュラー出演者を見たならその人気に納得できるかもしれない。 何しろアダム・サンドラー、クリス・ファーレイ、デヴィッド・スペード、ジャニーン・ガラファロ、モリー・シャノン、ティム・メドウズ、クリス・エリオットといった錚々たるメンツが毎週土曜の夜に生放送で新作スケッチを披露していたのだから。そんな中で堂々エースの座に君臨していたのがマイク・マイヤーズである。 63年にカナダで生まれた彼は十歳のときテレビCMに出演。その時母親役を演じたギルダ・ラトナーが『SNL』の立ち上げメンバーになったのを観たことで、将来SNLのレギュラーになることを決意したという『SNL』の申し子のような男だ。コメディ劇団セカンド・シティで活躍した後、89年にSNL入り。西ドイツ人のテレビ司会者ディーターといったキャラに扮して人気を博したが、何と言っても代表作はダナ・カーヴィ(55年生まれで、86年からSNL入りしていた)と演じたスケッチ「ウェインズ・ワールド」だろう。 セカンド・シティ時代からマイヤーズの持ちネタだったこのスケッチで彼とカーヴィが演じたのは、ケーブルテレビの回線を使って自宅から自分の番組をオンエアしているという設定のニート、ウェインとガース。このふたりが繰り出す<今>の空気に満ちたギャグの数々は、89年に披露されると同時に『SNL』を大人向けの退屈な番組と思っていたティーンの熱狂的な支持を獲得。『SNL』の人気回復の起爆剤になった。そして『SNL』のドン、ローン・マイケルズは「「ウェインズ・ワールド」をもっと長い間見ていたい!」との声に応えて映画化を決断。92年と93年に2本の映画として公開され大ヒットを記録したのだった。 そんな『ウェインズ・ワールド』、いま観ても十分フレッシュなのだけど、時代の空気を反映しすぎたために、今ではどこが面白いのか分からないところもチラホラある。そんなわけで、今回は『ウェインズ・ワールド』&『ウェインズ・ワールド2』を楽しむためのキーワードを書き出してみたい。 公共放送電波が届かない地域が多い広大な国アメリカでは早くからケーブルテレビが主流だった。おびただしいチャンネルの中には地域のお知らせを放映する公共チャンネルがあり、中には市民に時間貸しするチャンネルも存在していた。ウェインとガースはイリノイ州第二の都市オーロラの公共チャンネルが提供する、このサービスを利用して自分の番組をオンエアしているという設定だ。今で言うならポッドキャスト(但し地域限定の)みたいなものである。 「エクセレント!」ウェインとガースが会話の中で連発する「最高!」を意味する褒め言葉。当時のアメリカで流行語になった。ほかに二人が用いるスラングには「ベイブ(可愛い女の子)」「・・・NOT(さんざん喋ったあとに「・・・じゃない」と否定する」、「シュイーン!(これは映画を観れば分かる)」などがある。 ヘヴィメタルウェインとガースが好きな・・・というか、グランジ革命勃発以前(ニルヴァーナがメジャーデビューするのは91年のこと)の白人の若者がこぞって愛していた音楽。特にふたりが尊敬しているのはアリス・クーパーとエアロスミス。2組はそれぞれ『1』と『2』に本人役で登場する。ガースが劇中で着ているロックTシャツにも注目を! ペネロープ・スフィーリス『1』の監督。本作に起用された理由はロック・ドキュメンタリー『ザ・デクラインⅡ ザ・メタルイヤーズ』(88年)におけるコミカルな演出が評価されてのもの。但しマイヤーズとはウマが合わず『2』には参加せず。代わりにクリス・ファーレイとデヴィッド・スペード主演の『プロブレムでぶ/何でそうなるの?!』(96年)を監督している。 ロブ・ロウ『1』の悪役ベンジャミンを演じるイケメン俳優。80年代初頭に売り出された<ブラッドパック>の中ではマット・ディロンに次ぐ人気を誇り、『アウトサイダー』(83年)や『セント・エルモス・ファイアー』(85年)といった作品に出演。しかし89年に未成年の少女とのセックス・ビデオが流出してスターの座から転げ落ちてしまった。本作でコメディ・センスが認められて以降はテレビ中心にそれなりに安定したキャリアを築いている。 ヨゴレ系女優『1』でウェインのサイコな元カノ、ステイシーを演じたのはララ・フリン・ボイル。『ツイン・ピークス』でブレイクした若手スターだが、共演者だったカイル・マクラクランやジャック・ニコルソンとの恋愛で世間を騒がせていたトラブルメイカーでもあった。ステイシーの役はそんなパブリック・イメージを反映したものなのだ。『2』でそのポジションを担っているのが、スウェーデン娘ビョーゲンを演じたドリュー・バリモア。『E.T.』の天才子役だった彼女だがアルコールやドラッグに溺れてしまい、この当時は『ボディヒート』や『ガンクレイジー』といったB級作品にしか出演できない状態だった。彼女の復活は『スクリーム』や『ウェディング・シンガー』に出演する90年代半ばまで待たなければいけない。 『スパイ大作戦』ウェインとガースが作戦を遂行する際に必ずといっていいほど流れる曲は、66年から73年まで放映されていたテレビ番組『スパイ大作戦』のテーマ曲(作曲:ラロ・シフリン)。のちに『オースティン・パワーズ』を作ることになるマイク・マイヤーズがいかにスパイ物好きかがよく分かる。ちなみにトム・クルーズが『ミッション:インポッシブル』として映画化リメイクするのは96年のことだ。 『ラバーン&シャーリー』『1』でミルウォーキーに行ったウェインとガースが、ビール工場を見学するシーンは、ミルウォーキーを舞台にした人気コメディ番組『ラバーン&シャーリー』(76~83年)のタイトルバックのパロディ。クリエイターは昨年亡くなったゲイリー・マーシャル。主演したペニー・マーシャル(ゲイリーの妹)とシンディ・ウィリアムズはやはり同作にオマージュを捧げた『サム&キャット』(13〜14年)の1エピソードに揃って出演したりしている。 ロバート・パトリック『1』でウェインの車が警官に止められるシーンは、前年にメガヒットしたばかりの『ターミネイター2』のパロディ。しかも警官役を演じているのはそこで悪役T-1000役だったロバート・パトリック! そりゃウェインがビビるわけである。 「俺はお前のパペットじゃない!」喧嘩のシーンで、ガースがウェインに向けて放つ言葉。自分より8歳も年下のマイヤーズのビジョンに従って演技していたのだから、実際のカーヴィもそう言いたくなったことが何度もあったのではないだろうか。事実、『2』以降は『SNL』特番を除けばマイヤーズとカーヴィの共演作は存在しない。 クリス・ファーレイ『1』と『2』に異なる役ながら、連続出演しているハイテンションなデブは、90年から95年まで『SNL』にレギュラー出演していたクリス・ファーレイ。ローン・マイケルズはマイヤーズの次に彼の才能を買っており、番組卒業後にはマイケルズのプロデュースのもと、親友でもあったデヴィッド・スペードと組んで『クリス・ファーレイはトミー・ボーイ』(95)『プロブレムでぶ/何でそうなるの』(96)に主演した。日本人に育てられた忍者が、米国で活躍する『ビバリーヒルズ・ニンジャ』(97)では元アメフト部の運動神経を活かしたアクションを披露し、ボックスオフィスのナンバーワンを獲得。しかし97年、彼は自宅で死亡している姿で発見される。原因はコカインとモルヒネのオーバードーズ。死因もそうなら享年まで『SNL』の大先輩ジョン・ベルーシと同じ33歳だった。このため、彼が演じるはずだった『シュレック』の主人公の声はマイヤーズが担当することになったのだった。 ロック・オタク『2』にキモいロック・オタク役で登場するのは当時『SNL』のライター兼出演者だったロバート・スミゲルとボブ・オデンカーク。スミゲルは現在アダム・サンドラーの映画やコナン・オブライエン(彼も『SNL』のライターだった)の番組で活躍。オデンカークは『ブレイキング・バッド』(08〜13年)の弁護士ソウル・グッドマン役が評判を呼び、現在はスピンオフ作『ベター・コール・ソウル』で堂々主演を務めている。 ヴィレッジ・ピープル『2』で盗聴がバレて逃げ込んだウェインとガース一行が逃げ込んだ先は何とゲイ・クラブ。道路工事人、警官、バイカー、軍人の変装をしていたため、全員ゲイのディスコ・グループ、ヴィレッジ・ピープルのコスプレと間違えられて大ヒット曲「YMCA」を歌うことを強制されてしまう。「実際のヴィレッジ・ピープルで最もキャラが立っていたのはネイティブ・アメリカン・コスプレの人だったのに、いないのが残念だなあ」と思っていると、予想外の展開でそいつも現れる! ウェインストック『2』で故ジム・モリソンのお告げを受けたウェインが、地元オーロラで開こうとするロック・フェスは、1969年にニューヨーク州郊外で開催されたウッドストック・フェスティバルのパロディだ。奇しくも映画公開の翌年の94年には「ウッドストック94」が開催され、『2』と同様にエアロスミスが出演している。 『テルマ&ルイーズ』ウェインとガースが車ごと崖から転落するシーンは、リドリー・スコット監督による91年作『テルマ&ルイーズ』のパロディ。主演はスーザン・サランドンとジーナ・デイヴィス。ブラッド・ピットの出世作としても知られている クリストファー・ウォーケンとキム・ベイシンガー予算が増えたのか、『2』ではクリストファー・ウォーケンとキム・ベイシンガーという豪華なメンツが脇を固めている。今でこそコメディへの出演が多いウォーケンだけど、この時代はまだ『バットマン リターンズ』(92年)や『トゥルー・ロマンス』(93年)に出演していた頃。それだけにマイヤーズ&カーヴィとの絡みにはインパクトがあった。一方のベイシンガーも『ナインハーフ』(86年)から『L.A.コンフィデンシャル』(97年)に至る黄金期の真っ只中。自分のセクシーさをここまで相対化した演技の破壊力にはハンパないものがあった。 『ウェインズ・ワールド』と『ウェインズ・ワールド2』で、<今>を反映した笑いを極めてしまったマイク・マイヤーズは、<この先>にはもう何も無いことを痛感したはずだ。 『SNL』卒業後、映画に専念することになった彼はだから、いつまで経っても古くならないコメディを作ることに決めた。どうすれば古くならないのかって? それは既に古くなっている<過去>を題材にすることだ。 こうしてマイヤーズはあの『オースティン・パワーズ』(97)に乗り出していくのだけど、それはまたの機会に語ることにしたい。 & Copyright © 2017 by Paramount Pictures. All rights reserved.
-
PROGRAM/放送作品
戦争の犬たち
4人の傭兵が独裁国家の転覆を目論む!フレデリック・フォーサイスの小説を映画化した戦争アクション
フレデリック・フォーサイスの小説を映画化した戦争アクション。主演は、『ディア・ハンター』でアカデミー助演男優賞を獲得したクリストファー・ウォーケン。
-
COLUMN/コラム2012.08.25
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2012年9月】招きネコ
ベトナム戦争の闇についてアメリカ映画が描いた作品として、そのロシアン・ルーレットというショッキングなモティーフと共に公開当時衝撃を呼んだ作品でした。それから、何度となく見ていますが、見る度に新しい発見があります。それは、戦争の恐怖とか、政治・反戦とかいうメッセージが声高に出てくるのではなく、感情移入できる人間ドラマが幾重にも織りなされ、俳優たちの演技やマイケル・チミノ監督の演出で込められた思いを何気ない一言や場面に見る度に新たに気づくからです。デ・ニーロ、メリル・ストリープ、そしてなんと言ってもウォーケン!彼らの作り出すキャラクターのなんと繊細なこと!何度でも見たい素晴らしい映画とは、こうやって一緒に年月を重ねられる作品なのかもしれません。 (C) 1978 Universal Studios. All Rights Reserved.
-
PROGRAM/放送作品
セブン・サイコパス
[R15+]脚本執筆のため本物のイカれた奴らを募集?ユーモアとバイオレンス満載のクライム・コメディ
『ヒットマンズ・レクイエム』のマーティン・マクドナー監督がコリン・ファレルと再タッグ。現実と脚本のストーリーが交錯する中、次々と現れるイカレた奴らの個性が痛烈。7人目のサイコパスの正体も衝撃的。
-
PROGRAM/放送作品
ディア・ハンター
[PG12]ベトナム戦争がもたらした心の傷は、かくも深い…戦場の狂気を描いたアカデミー賞5部門受賞作
ベトナム戦争が米国民に与えた心の傷の深さを、出兵した平凡な若者たちの目線から描く衝撃作。捕虜となった主人公らがロシアン・ルーレットを強いられる場面の緊張感は語り草だ。アカデミー作品賞など5部門を受賞。