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PROGRAM/放送作品
狼たちの午後
人質を取った銀行強盗犯と警察との攻防が思わぬ方向へ!アル・パチーノ主演の実話サスペンス
1972年にニューヨークで起きた劇場型犯罪事件の全貌を、巨匠シドニー・ルメットが社会背景もリアルに映しながら再現。ヒーロー扱いされる銀行強盗役アル・パチーノの迫真の演技が圧巻。アカデミー脚本賞受賞。
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COLUMN/コラム2023.07.12
社会派の巨匠ルメットが、アル・パチーノと生み出した、実話ベースの傑作悲喜劇。『狼たちの午後』
1972年8月22日のニューヨーク。ブルックリンのチェース・マンハッタン銀行支店に、武装した3人組の強盗が押し入るという事件が、発生した。 計画したのはベトナム帰還兵で、27歳のジョン・ウォトヴィッツ。彼は60年代に、銀行で働いた経験があった。 一緒に押し入ったのは、18歳のサルバトーレ・ナチュラーレと、20歳のロバート・ウェステンバーグ。しかしウェステンバーグは、ビビって現場からすぐに逃走したため、ウォトヴィッツはナチュラーレと2人で、男性の支店長と女性従業員たち合わせて8名を人質に、14時間銀行に立て籠もることとなった…。「ライフ」誌に載った、この事件のあらましをまとめた「The Boys in the Bank」という記事に目を付けたのは、プロデューサーのマーティン・ブレグマンとマーティン・エルファンド。彼らの興味をまず惹いたのは、ウォトヴィッツのプロフィールとキャラクターにあったものと思われる。 ウォトヴィッツは妻との間に2人の子どもをもうけながら、69年に別居。71年に男性と結婚式を挙げていた。銀行強盗を企てたのは、そのパートナーが女性になるための性別適合、当時の言い方ならば、性転換の手術費用を稼ぐのが、目的の一つにあった。 籠城を続ける中で、ウォトヴィッツの振舞いや言動に、人質たちが共感を寄せたり、銀行を囲んだ野次馬たちが、熱烈な支持を表明するなどの現象が起こった。 事件当時そんな言葉はなかったが、ウォトヴィッツに起因するところの、“LGBTQ”や“ストックホルム症候群”等々といった事象に、プロデューサー陣はピンと来たのであろう。もっと下世話な言い方をすれば、「これは見世物になる」「商売になる」という直感が働いたわけだ。 世間の規範に対しての、叛逆やドロップアウトがテーマとなる、“アメリカン・ニューシネマ”の時代。この事件は映画化するには、格好の題材と言えた。「ライフ」の記事には、ウォトヴィッツの容姿について、アル・パチーノやダスティン・ホフマンに似ているという一文があった。プロデューサーのブレグマンは、実際にウォトヴィッツの写真を見て、主役をパチーノに依頼。ブレグマンとパチーノは、エージェントと俳優として、長い付き合いだった。 パチーノは題材に興味を持ちながらも、オファーを断った。前の出演作『ゴッドファーザーPARTⅡ』(1974)の撮影で疲れ切っており、しばらく映画には出たくないという気持ちと、舞台こそ自分の本分だという想いが強くなっていたのである。 パチーノの後には、元記事の表記通りに、ダスティン・ホフマンに出演交渉が行われた。しかしホフマンにも断られ、パチーノへと、オファーが戻る。 この再オファーを、パチーノは受けることにした。決め手になったのは、フランク・ピアソンが書いた脚本が、「すごい傑作」だったからだという。 ピアソンは執筆に当たって、重点を置いてまず考えたのは、視点をどこに持たせるかということ。警察なのか?人質なのか?野次馬なのか?はたまた犯人の家族なのか? 絞り込んでいって、最も興味深いのは、やはり強盗側の視点というところに行き着いた。それによって、立て籠もった銀行内が、主な舞台に決まった。 ピアソンを悩ませたのは、ウォトヴィッツから、直に話を聞けなかったこと。本人が、映画化の権料で製作陣と揉めてしまってため、刑務所での面会を拒絶されたからだ。 それならばと、彼と関わった家族や恋人、友人、事件の人質や警察等々にリサーチを敢行。しかしそれぞれの目には、ウォトヴィッツの人物像はまったく違って映っていた。 どこかに共通点はないか?探しに探して浮かび上がったのが、彼が「面倒見の良い男」であるということだった。 ピアソンは、その「面倒見の良い男」を突破口にして、『狼たちの午後』のストーリーを作り上げた。監督のシドニー・ルメットに脚本を渡す際には、「自分が皆を幸せにする魔術師と勘違いしている男の話」と伝えたという。 そして、この脚本があったからこそ、ルメットも、『狼たちの午後』の監督を引き受けたのである。 『セルピコ』(73)に続いて、ルメットと2回目の組合せになったパチーノ曰く、ルメットは「俳優を動かす天才」。子役として5歳の時からブロードウエイの舞台に立っていた経験もあって、俳優の気持ちがわかり、俳優の視点から演技を理解できる、「actor's director=俳優の監督=」と言われた。 ルメット曰く、「私自身、俳優だったから、自分の心の中を探らねばならないのは辛いということは解っている。良い演技は自分の本心を知ることで生まれる。俳優たちはそれが解っているし、私もそれが解っている」「俳優の監督」であると同時に、ルメットと言えば、“社会派”。しかも、社会派とエンタメを同時に成立させる、希有な監督としての評価が高かった。陪審員制度を描いた映画監督デビュー作『十二人の怒れる男』(57)から、ナチスの強制収容所で家族を失った男が主人公の『質屋』(64)、冷戦時代の核戦争の恐怖を描いた『未知への飛行』(64)、軍刑務所内の非人道な在り方を訴える『丘』(65)等々。 そして、『狼たちの午後』を手掛けた頃には、まさにキャリアのピーク!70年代は本作の前に、『セルピコ』(73)『オリエント急行殺人事件』(74)、本作の後に『ネットワーク』(76)といった作品を放って、社会派エンタメ監督且つ、ヒットメーカーとして異彩を放っていたのである。「俳優の監督」であるルメットが重視するのは、“リハーサル”。曰く、「自分の感じられるところまで進め、自分が望むだけやれ。望まないことはできるだけやるな。心に感じるものがあるなら、それを外に高く飛ばせ。その勘定が正しいか誤っているかは気にするな。じきにわかる。それがリハーサルのねらいだ」 ルメットは映画界に入る前、TVで生放送のドラマを、5年間で500本手掛けた。その経験もあって、入念なリハーサルを行い、いわば舞台的な演出を行った。 彼の遺作となった『その土曜日、7時58分』(2007)の出演者イーサン・ホークは、こんなことを言っている。「2週間ほどかけて入念にリハーサルした。僕らのクリエイティブな仕事の大半は、撮影開始以前に終わっていた。結論は既に出ているから、あとはそれを実行するだけ」 ルメットの初監督作『十二人の怒れる男』(1957)で、リー・J・コッブがヘンリー・フォンダと言い争そうシーンがあった。この作品は順撮りではなく、シーンの途中で撮影を終えた後、1週間ほど経ってから続きを撮ることとなった。 これだけ間が空いてしまうと、前に撮った時の感情を保つのは、困難である。しかし撮影前に、2週間に及ぶリハーサルでシーンを作り上げていたため、どういった感情で演じれば良いか、ルメットも俳優たちも、はっきりと認識できていた。 入念なリハーサルをベースに、舞台的な演出を行いながらも、映像は映画的なのも、ルメットの特徴。作品に合わせて撮影のスタイルを変えるなど、融通無碍でもあった。『狼たちの午後』は、ルメットのそうした特性が、最も有機的に作用した作品とも言える。もちろん本作も御多分に漏れず、撮影前に3週間のリハーサルが行われた。しかし本作のリハーサルに関しては、即興の演技を引き出すためのものという位置づけだった。 具体的には、リハーサルの際に脚本のセリフを言わせるのではなく、その状況の中で俳優たちにアドリブを言わせる方式を取った。そして毎晩リハーサルの後、録音してあった即興のセリフを、タイプで清書したのである。こうして練りだされたセリフが、映画で使われることになった。因みに脚本の構成は、全く変わってはいない。 本作に、実際の事件を捉えているような、ドキュメンタリーな臨場感が出たのは、こうした演出法も明らかに作用している。 ルメットがデビュー以来お得意の密室劇でもある本作で、メインの舞台となるのは、銀行。ブルックリンの、実際の事件現場からほど近い場所に空き倉庫を見つけて、外観も内装も、銀行に作り変えた。ルメットは本作に関して、スタジオで撮ることは、まったく考えなかったという。 ルメットの監督作品は、全部で43本。その内で実に29本が、己が生まれ育ったニューヨークでロケを行なっている。ルメットが生粋のニューヨーカー監督であったことも、本作にはうってつけだったと言えよう。 撮影は7週間。通常の照明ではなく、例えば銀行内は蛍光灯を軸にするなどして、リアルなルックを狙った。 因みにキャスティングには、主演のパチーノの意向が大きく働いた。舞台の共演がきっかけで信頼関係を築いた、ジョン・カザール、チャールズ・ダーニング、ランス・ヘンリセンなどが起用されることになった。『ゴッドファーザー』シリーズではパチーノの兄を演じたジョン・カザールは、本作では、強盗の共犯者役。実は脚本では、15~16歳の少年という設定だった。 それなのに、40歳に近いカザールを推してくるパチーノに、ルメットは怪訝な思いを抱いた。実際にカザールに会ってみても、30代にしか見えず、失望しかなかったという。 しかし彼の演技を目の当たりにして、考えが変わり、役の設定を変えた。結果的にパチーノは、間違ってなかったのだ。 主人公と“同性結婚”をした、トランスジェンダーの役には、クリス・サランドンが選ばれた。サランドンはそれまで、舞台が専門で、映画は初出演。彼をオーディションで選んだのは、ルメット。そしてその場に立ち合った、パチーノだった。 パチーノはクランクイン前、リハーサルも含めて、ルメットやピアソンと、役作りに関して、十分に詰めたつもりだった。しかしいざ撮影が始まって主人公を演じてみると、なぜか違和感が拭えなかった。何かが違う…。 銀行に押し入るシーンのラッシュを見たパチーノは、「ここには誰も写っていない」と主張し撮り直しを要求。その日は家に帰ると、一晩掛けてどうすれば良いかを考えた。「…おれはサングラスをかけて銀行へ入ってゆく。で、思った。ちがう。あいつはサングラスはしない。サングラスは決行の日に家に忘れてくるんだ。なぜなら、本心ではつかまりたいと思っているんだ」 そう思い至ったパチーノは、サングラスを掛けずに撮り直しを行った。そして、そこからは順調に、撮影が進んだ。 本作では様々な形で、アドリブが生かされた。代表的と言えるのが、銀行から出てきたパチーノが、野次馬たちに「アッティカ!アッティカ!」と連呼して、歓声を浴びるシーン。 アッティカとは、ニューヨーク州に在る刑務所で、71年9月、囚人たちが所内の劣悪な環境の改善を訴えて暴動を起こすという事件が起こった。本作の主人公は公権力の横暴を批判するために、この一件を引き合いに出して群衆にアピールしたわけだが、実はこのセリフは、助監督のアイディアを、パチーノが採り入れたものだった。 この「アッティカ! アッティカ!」は、本作製作後30年経った2005年に、「アメリカン・フィルム・インスティチュート」によって、名台詞ベスト100中第86位に選ばれている。 本作終盤近く、パチーノが同性の妻であるクリス・サランドンと電話で話すシーンは、リハーサルの時の即興を元に演じられた。パチーノは続けて、今度は子をなした妻の方と電話で話す。ここはパチーノの部分は即興だが、妻役のスーザン・ペレスは、脚本で書かれているオリジナルのセリフを喋っている。 この2人の妻とのやり取りは、カメラを止めず、続けて撮影された。気合い十分のパチーノは素晴らしい演技を見せたが、実はルメットは1テイク目の出来がどうであれ、2テイク目に行くことを決めていた。 1テイク目で全力を出して、すでにグッタリしていたパチーノ。そのため、本人は予想していなかった2テイク目は、気負いや虚飾が一切剥ぎ取られ、反射的に対応するようになる。 その結果はルメット曰く、「あの十四分間は、それまでわたしが見たこともないほどすばらしいシーンのひとつだった」 こんな調子で、本物の怒りや焦燥を引き出されたパチーノは、撮影終了後に過労で入院。今度こそ本当に、一時映画を離れて舞台を優先することとなる…。 完成に至った本作は、マスコミからも観客からも、熱狂的に迎えられた。アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞など6部門でノミネート。しかし受賞は、ピアソンの脚本賞だけに止まった。 この年の作品賞のライバルは、スタンリー・キューブリック監督の『バリー・リンドン』、ロバート・アルトマン監督の『ナッシュビル』、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』、ミロス・フォアマン監督の『カッコーの巣の上で』と、強敵揃い。その中でも『カッコー…』が圧倒的な強さを見せ、作品賞はじめ主要部門を掻っ攫っていった。 ルメットがノミネートされた監督賞は、フォアマンに、パチーノの主演男優賞は、やはり『カッコー…』のジャック・ニコルソンの手へと渡った。この時が主演・助演合わせて4度目のノミネートだったパチーノが、オスカーを実際に手にするには、17年後の『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(92)まで待たねばならなかった。 一方ルメットは、生涯で4度候補になった監督賞のオスカーを手にすることは、結局なかった。彼に贈られたオスカーは、2004年度アカデミー賞の名誉賞のみ。 ルメットほどの名匠にとっては、ただただ巡り合わせが悪かったという他はない。しかし2011年に86歳で没したルメットのフィルモグラフィーの内、少なくない数の作品が、映画史の中で語り続けられ、今でも燦然と輝いている。 本作『狼たちの午後』も、明らかにそんな1本。2009年にはアメリカ議会図書館が、「文化的・歴史的・美的価値がきわめて高い」作品と見なし、アメリカ国立フィルム登録簿に保存する作品に選んでいる。 最後に余談になるが、撮影前の取材を断ったウォトヴィッツにも、大ヒットした本作の収益の一部が支払われた。彼はその金の一部を、男性妻の性転換手術に使ったという。■ 『狼たちの午後』© Warner Bros. Entertainment Inc.
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PROGRAM/放送作品
Q&A
新米検事補が正当防衛殺人の捜査を進めるうち、権力という壁に苦悩する姿を描いた社会派ドラマ
『普通の人々』で助演男優賞を獲得したティモシー・ハットンが、警察という大きな権力の壁に苦悩する若き地方検事補を熱演。監督は『十二人の怒れる男』の社会派サスペンスの巨匠シドニー・ルメット。
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COLUMN/コラム2017.12.09
12月8日(金)公開『オリエント急行殺人事件』!なんでもできる人・ケネス・ブラナーがこのクラシックにどう挑むか!?
原作者の曽孫も賞賛する、ブラナー版『オリエント急行殺人事件』の独自性 ひとつの難事件を解き終え、イスタンブールからイギリスに向かうべく、オリエント急行に乗り込んだ名探偵エルキュール・ポアロ(ケネス・ブラナー)。そこで出会ったアメリカ人の富豪、ラチェット(ジョニー・デップ)に身辺警護を頼まれるが、ポアロはあっさりと断ってしまう。だがその夜、雪崩のために脱線し、立ち往生を食らったオリエント急行の客室で、刺殺体となったラチェットが発見される……。「マルチキャスト」「オールスター」「アンサンブル共演」etcー。呼び名は多様だが、主役から端役に至るまで、登場人物すべてをスター級の俳優で固める映画というのは、ハリウッド・クラシックの優雅なスタイルだ。時代の趨勢によってその数は縮小されていったが、それでも夏休みや正月興行の花形としてときおり顔を出すのは、それが今もなお高い集客要素を包含しているからに相違ない。 そんなマルチキャスト方式の代表作ともいえる『オリエント急行殺人事件』は、ミステリー小説の女王として名高いアガサ・クリスティの原作のなかで、最も有名なものだろう。これまでに何度も映像化がなされ、とりわけシドニー・ルメット監督(『十二人の怒れる男』(57)『狼たちの午後』(75))による1974年のバージョンが、この偉大な古典の映画翻案として多くの人に「衝撃の結末」に触れる機会を与えてきた。 今回、ケネス・ブラナーが監督主演を務めた新生『オリエント急行殺人事件』は、そんなルメット版を踏まえ、徹底した豪華スターの共演がなされている。しかしどちらの作品も、マルチキャストは単に集客性を高めるだけのものではない。劇中におけるサプライズを成立させるための重大な要素であり、必要不可欠なものなのだ。ありがたいことにミステリー愛好家たちの努力と紳士協定によって、作品の命といえるオチに関しては「ルークの父親はダース・ヴェイダー」よりかろうじて秘密が保たれている。なので幸運にして本作の結末を知らない人は、この機会にぜひ「なぜ豪華キャストでないとオチが成立しないのか?」という驚きに触れてみるといい。 とはいえ、モノが徹頭徹尾同じであれば、長年愛されてきたアガサの原作にあたるか、最良の映画化であるルメット版を観れば事足りるだろう。しかし今回の『オリエント急行殺人事件』は、過去のものとは一線を画する価値を有している。 そのひとつとして、ブラナー監督が同時に稀代の名探偵である主人公ポアロを演じている点が挙げられるだろう。『愛と死の間で』(91)や『フランケンシュタイン』(94)など、氏が主役と監督を兼ねるケースは少なくない。しかしアガサ・クリスティ社(ACL)の会長兼CEOであるジェームズ・プリチャードによると、このアプローチに関し、今回は極めて強い正当性があるという。いわく、「ポアロという人物はこの物語の中で、登場人物全員を指揮している立場であり、ある意味で監督のような仕事をしている存在です」とーー。 かつてさまざまな名優たちが、ポアロというエキセントリックな名探偵を演じてきた。しかしこの『オリエント急行殺人事件』におけるブラナーのポアロは、プリチャードが指摘する「物語を指揮する立場」としての役割が色濃い。列車内での殺人事件という、限定された空間に置かれたポアロは、乗客たちのアリバイを事件と重ね合わせて検証し、理論づけて全体像を構成し、犯人像を浮かび上がらせていく。確かにこのプロセスは、あらゆる要素を統括し、想像を具象化する映画監督のそれと共通している。だからこそ、役者であると同時に監督としてのスキルを持つ、ブラナーの必要性がそこにはあるのだ。 さらにはブラナーの鋭意な取り組みによって、この『オリエント急行〜』は原作やルメット版を越境していく。完全犯罪のアリバイを解くだけにとどまらず「なぜ容疑者は殺人を犯さなければならなかったのか?」という加害者側の意識へと踏み込むことで、この映画を犯罪ミステリーという立ち位置から、人が人を断罪することへの是非を問うヒューマニティなドラマへと一歩先を行かせているのだ。シェイクスピア俳優としてイギリス演劇界にその名を馳せ、また監督として、人間存在の悲劇に迫るシェイクスピアの代表作『ヘンリー五世』(89)や『ハムレット』(96)を映画化した、ブラナーならではの作家性を反映したのが今回の『オリエント急行殺人事件』最大の特徴だ。ブラナーが関与することで得られた成果に対し、プリチャードは賞賛を惜しまない。 「ケネスは兼任監督として、ものすごいリサーチと時間と労力をこの作品に注いでくれました。映画からは、そんな膨大なエネルギー量が画面を通して伝わってきます。『オリエント急行殺人事件』はアガサの小説の中でも、もっとも映像化が困難な作品です。しかしケネスの才能あってこそ、今回はそれをやり遂げることができたといえるでしょう」 ブラナー版の美点は、先に挙げた要素だけにとどまらない。密室劇に重きを置いたルメット版とは異なり、冬場の風景や優雅な客車の移動ショットなど、視覚的な攻めにも独自性がみられるし、『ハムレット』で実践した65mmフィルムによる撮影を敢行し、マルチキャスト同様にクラシカルな大作映画の優雅さを追求してもいる。 『忠臣蔵』や『ロミオとジュリエット』のような古典演目が演出家次第で表情を変えるように、ケネス・ブラナーの存在を大きく誇示する今回の『オリエント急行殺人事件』。そうしたリメイクのあり方に対する、原作ファンや観客の受け止め方はさまざまだ。だが殺人サスペンスという形式を用い、人の愚かさや素晴らしさを趣向を凝らし描いてきた、そんなアガサ・クリスティのマインドは誰しもが感じるだろう。 古典を今の規格に適合させることだけが、リメイクの意義ではない。古典が持つ普遍的なテーマやメッセージを現代に伝えることも、リメイクの切要な役割なのである。■ © 2015 BY EMI FILM DISTRIBUTORS LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
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PROGRAM/放送作品
ファミリービジネス
窃盗犯の血を受け継ぐ祖父、息子、孫──犯罪ファミリーが巻き起こす騒動を描くコメディドラマ
泥棒稼業を巡って織りなされる親子3代の対立と絆を、ショーン・コネリーら新旧演技派俳優の競演で描く。個性的な祖父・息子・孫による駆け引きをユーモアを交えて軽快に描く、シドニー・ルメット監督の手腕が光る。
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COLUMN/コラム2014.01.31
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2014年2月】にしこ
原作は言わずと知れたアガサ・クリスティの代表作ですが、映画自体も原作同様、またそれ以上に有名な傑作かと思います。作品の素晴らしさはもちろんですが、なによりその「豪華さ」にうなる作品です。1974年のアカデミー賞受賞作品です。豪華。 まず、舞台のオリエント急行。ヨーロッパを横断する、あの王侯貴族や、お金持ちが利用した豪華寝台急行です。サービス、内装はもちろん超一流。豪華。そしてキャスト。まず、灰色の脳細胞・名探偵ポワロ役にアルバート・フィニー。彼のベルギーなまりの英語(という設定)のチャーミングさはこの上品な緊迫感漂うサスペンスの緩急の良い「緩」になっております。そしてアンソニー・パーキンス、ショーン・コネリー、ヴァネッサ・レッドグレイヴ!イングリッド・バーグマン、ローレン・バコール!!豪華の洪水です。ミステリーはやはり事件の核心に迫る登場人物はスターがキャストされがちですが、この豪華さ、観る前に誰が犯人なのかうっすらわかってしまうなんて心配はございません。しかし、この作品の緻密で巧妙なトリックとストーリーテリングの前では、キャスティングからのネタバレなど心配いらないのかもしれません。 未見の方は「あっ!」と驚く結末が待っている事をお約束します!名探偵ポワロが暴き出す、悲しくも美しい事件の真相。豪華列車で起こる華麗なる殺人の結末をザ・シネマで目撃して下さい!!ザ・シネマでは名探偵ポワロの活躍を描く『死海殺人事件』もご用意!!こちらも必見です!! ©2013 BY EMI FILM DISTRIBUTORS LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
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PROGRAM/放送作品
その土曜日、7時58分
[R15+]社会派映画の巨匠シドニー・ルメット最後の作品は、強烈!欲に駆られ崩壊していく家族のドラマ
『十二人の怒れる男』など社会派ドラマの巨匠シドニー・ルメットの45本目となる監督作にして遺作。フィリップ・シーモア・ホフマンら演技派俳優を揃え、それぞれの視点から同じ事件を多面的に映し出す演出が秀逸。
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COLUMN/コラム2013.08.02
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2013年8月】うず潮
アル・パチーノといえば、マフィア役のイメージがありますが、若かれし頃には警察官も演じおります。不正は絶対に許さない正義感丸出しの熱い警察官!70年代の映画だけにビッシっとスーツで決めたアル・パチーノではなく、髭もじゃのヒッピー姿の私服警官で、周りからの不正の甘いお誘いには目もくれず、ひたすら自分の仕事に邁進。やがて、同じ志を持つ仲間たちと警察の不正の膿を出すべく動くのですが、警察上層部はどの時代も手強かった!若々しいアル・パチーノの鬼気迫る演技と、シドニー・ルメット監督が実話を元に描く実録タッチな映像が絡み合う秀逸な作品です。アル・パチーノのファンじゃなくても見てほしい1本です! © 1973 STUDIOCANAL
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PROGRAM/放送作品
グロリア(1999)
小さな命を守るため裏社会の女が犯罪組織に挑む!映画史に残る戦闘ヒロインがシャロン・ストーン主演で蘇る
巨匠シドニー・ルメットがオールNYロケを敢行し、ジーナ・ローランズ主演の同名作をリメイク。シャロン・ストーンがマフィアの情婦グロリアに扮し、美しさ、凄み、人間的な弱さを併せ持った戦闘ヒロインを魅せる。
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PROGRAM/放送作品
未知への飛行
核戦争による世界破滅の危機が迫る!シドニー・ルメット版『博士の異常な愛情』的傑作サスペンス
名匠シドニー・ルメット監督作品。ホワイトハウスの核シェルター、ペンタゴンの戦略立案室、空軍司令室という室内だけで構成。音楽も極力排除し、緊迫感漂う会話のみで、一級のサスペンスに仕上げている。