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PROGRAM/放送作品
ウォーターワールド
ケヴィン・コスナー×デニス・ホッパー共演で贈る、史上空前のSFスペクタクル!
世界が海の底に沈んでしまった未来の地球。人々は皆、人工浮遊都市の上で生き延びていた。伝説の陸地を求め、海賊との壮絶な戦いに巻き込まれてゆく男の旅を描いた、近未来海上アクション・アドベンチャー。
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COLUMN/コラム2023.03.01
『ゴースト/ニューヨークの幻』を名作にした奇跡のコラボと、日本での歪な愛され方
最も美しい瞬間、眩しいほどの輝きを放っているタイミングを、スクリーンに映し出すことが出来たら、その俳優は幸せだと思う。その上で、その作品がいつまでも人々の間で語り続けられるようなものになったら、まさに役者冥利に尽きるだろう。 本作『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990)のヒロインを演じた、デミ・ムーア。彼女にとってこの作品は、正にそんな位置にあるのではないか? 1962年生まれのデミは、『セント・エルモス・ファイア』(85)出演を機に、80年代ハリウッドの青春映画に出演した若手俳優の一団、いわゆる“ブラット・パック”の1人として、注目を集めるようになった。 プライベートでは、『セント…』の共演者エミリオ・エステベスとの婚約破棄を経て、87年にブルース・ウィリスと結婚。翌年には一子をもうけた。 本作の撮影が行われたのは、89年の夏から秋に掛けて。デミが27歳になる前後であるが、私生活の充実も反映してか、最高にキュートに映える。今や40年以上に及ぶ彼女のキャリアを振り返っても、「一生の1本」と言えるだろう。 こうした“タイミング”のデミを得たことも含めて、『ゴースト/ニューヨークの幻』には、「奇跡的」とも言っても良い、幾つかのマッチングが作用。アメリカ映画史、恋愛映画史で語り続けられる作品となったのである。 ***** 舞台はニューヨーク。銀行員のサム(演:パトリック・スウェイジ)と、新進の陶芸家モリー(演:デミ・ムーア)は、同棲を始める。 サムの同僚カールの手伝いで、引っ越しを終え、幸せいっぱいの2人。「愛してる」という言葉に、「同じく」としか返さないサムに、モリーはちょっとした不満を抱くが…。 そんなある日サムは、口座の金の流れに不審な点を見付ける。カールの手助けを断わり、サムはひとりで洗い出しを進める…。 観劇に出掛けたサムとモリー。その帰路で、「結婚したい」とモリーが告げた時に、暴漢が2人に襲いかかる。モリーを守ろうと、サムは抵抗。一発の銃声が響く。 逃げていく暴漢を追うのを諦め、振り返ったサムが目の当たりにしたのは、血まみれになった自分を抱きかかえ、「死なないで」と叫ぶモリーの姿だった。 幽霊になったサム。悲嘆に暮れるモリーには彼の姿は見えず、声も届かない。カールの慰めで、モリーが気晴らしの外出をした際、幽霊のサムしか居ない部屋に、彼を襲った暴漢が忍び込み、家捜しを始める。 怒り狂うサムが、暴漢に殴りかかっても、拳は空を切るばかり。しかし何とか、目的のものが見付からなかったらしい暴漢の後を追って、その居場所を突き止めた。 その近所で、“霊能力者”の看板を見付けたサムは、思わず吸い込まれる。そこの主オダ・メイ(演:ウーピー・ゴールドバーグ)は、インチキ霊媒師。霊の声が聞こえるフリをして、客から金を巻き上げていた。 そんな彼女だったが、なぜかサムの声は本当に聞こえた。嫌がるオダ・メイを脅しながらも、何とか説き伏せ、モリーに危機を伝えるように、協力してもらうことになる。 死して尚モリーを想うサムの気持ちは、彼女に伝わるのか?そして、サムを死に追いやった者の正体とは? ***** パトリック・スウェイジは、87年の全米大ヒット作『ダーティ・ダンシング』で人気を博して以来、主演スターの地位を固めつつあった頃に、本作に主演。タイトルロールである“ゴースト”として、深い悲しみを抱えた、ロマンティックな役どころもイケることを、知らしめた。 “インチキ霊媒”だったのに突如本物の霊能力に目覚めてしまった、オダ・メイ役のウーピー・ゴールドバーグは、稀代のコメディエンヌの実力を発揮。大いに笑わせながらも、幽霊のサムとモリーの“再会”に力を貸すシーンでは、観客の涙を絞るきっかけを作る。彼女にこの年度のアカデミー賞助演女優賞が贈られたのは、至極納得である。 デミ・ムーアを含めた、こうした演じ手たちのアンサンブルも素晴らしかったが、本作に於いて最高の“化学反応”を起こしたのは、脚本家と監督の組み合わせ。脚本家は、ブルース・ジョエル・ルービン、そして監督は、ジェリー・ザッカーである。 ルービンは本作脚本の執筆について、こんなことを語っている。「ある人が自分の感情や感覚が現世から霊の世界へ、つまり新しい別の世界へと移動できることを知り、なんとかそれを脚本の中に活かそうとアイディアをしぼった」 つまりルービンの“死後の世界”への想いは、ガチなのである。彼のフィルモグラフィーを鑑みれば、本作以前に手掛けた『ブレインストーム』(83)『デッドリー・フレンド』(86)から、本作以降の『ジェイコブス・ラダー』(90)『幸せの向う側』(91)『マイ・ライフ』(93)まで、ズラッと“死”にまつわる物語が並ぶ。 そんな「死に取り憑かれた」ルービンの脚本を映画化するに当たって、プロデューサーが起用した監督が、ジェリー・ザッカーだった。その名を聞いたルービンは、驚きと困惑、そして落胆を隠せなかったと言われる。 ザッカーはそれまで、ハリウッドでは「ZAZ(ザッズ)」の一員として知られていた。「ZAZ」とは、兄のデヴィッド・ザッカー、友人のジム・エイブラハムス、そしてジェリーの3人の名字の頭文字を並べての呼称。彼らのチームが作ってきた作品と言えば、『ケンタッキー・フライド・ムービー』(77)『フライング・ハイ』(80)『トップシークレット』(84)『殺したい女』(86)『裸の銃を持つ男』(88)と、コメディばかり。それもそのほとんどがおバカ満載、全編に渡ってパロディギャグを釣瓶打ちする内容の作品だった。 自分の渾身の脚本が、一体どうされてしまうのか?ルービンが不安に襲われたのも、無理はない。しかしこのコラボが、映画を大成功へと導く。 本作は開巻間もなくは、若い男女のラブロマンスが展開する。ところがサムが殺されて幽霊になってからは、サスペンスの色を帯びる。更にその先には、コメディリリーフのようにオダ・メイが登場。ところどころ笑いを交えながらの展開となる。クライマックスに近づくに従って、再びサスペンスの色が濃くなるが、大団円は、純愛ラブストーリーとして昇華する。 こうしたジャンルの横断は、ジェリー・ザッカーが、それまでに培ってきたテクニックを、大いに生かしたものと考えられる。とにかく観客を笑わそうと、シーン毎にギャグを詰め込むのが、「ZAZ」の作風。ザッカーはこの手法を応用し、ルービンの脚本の展開を、一つのジャンルに捉われることなく、ブラッシュアップしていったわけである。 もしも、“シリアス系”の監督が起用されていたら?恐らく本作は、もっと陰々滅々とした、ダークなタッチの作品になっていたであろう。 実はデミ・ムーアが演じるモリーは、当初は彫刻家という設定であった。それを陶芸家へと変えたのも、ザッカーのアイディア。この変更はどう考えても、ストーリー上の必然性とかではない。ずばり、サムとモリーのラブシーンを、効果的に演出するためだったのだろう。 同棲を始めたばかり。眠れない夜に、モリーがろくろを回していると、それに気付いたサムが、上半身裸のまま彼女の後ろに座る。バックに哀切な響きの、ライチャス・ブラザーズの「アンチェインド・メロディー」が流れる中で、2人は手を重ねながらろくろの上の粘土を触っているが、やがて………。 実に、情熱的且つロマンティック。映画関連の雑誌やサイトなどが選ぶ、「映画史に残るキスシーン」で、『地上より永遠に』(53)や『タイタニック』(97)などと共に、度々上位に選ばれているのも、むべなるかな(本作の翌年、ジェリーが脚本で参加している「ZAZ」作品、『裸の銃を持つ男 PART2 1/2』で、早々にこのシーンのパロディをやっているのには、「さすが!」という他なかったが…) 何はともかく、ある意味正反対の資質を持つ脚本家と監督が組んだことによって、奇跡のバランスが生まれ、そこに“旬”のキャストが加わった。こうして本作は、語り継がれる“名作”となったのである。 『ゴースト』は興行的にも、映画史上に残る“スリーパー・ヒット”=予想外の大ヒットとなった。アメリカ公開は、1990年の7月13日。実はこの7月の興行は、本作に先んじて4日に公開されたアクション大作、『ダイ・ハード2』が暫し独走するものと思われていた。ところが『ゴースト』は、公開初週で『ダイ・ハード2』を上回る成績を上げ、TOPに躍り出たのだ。 ブルース・ウィリスの代表的な人気シリーズ第2弾を、その妻であるデミ・ムーアの主演作が抜き去った形である。トータルで見れば、『ダイ・ハード2』も、北米での総興収が1億1,700万㌦、全世界では2億4,000万㌦と、当時としては十分“メガヒット”と言って差し支えない成績だった。しかしながら『ゴースト』は軽くこれを上回り、北米だけで2億1,700万㌦、全世界では5億㌦以上を売り上げたのである。『ダイ・ハード2』の製作費は7,000万㌦だったのに対して、『ゴースト』はその3分の1以下の、2,200万㌦。2011年4月にアメリカの経済ニュース専門局「CNBC」が発表した「利益率の高い映画トップ15」では、堂々の第10位にランクイン!製作費に対するその利益率は、何と1,146%というものだった。 『ゴースト』は、日本でも大ヒットした。配給収入は、37億5,000万円。細かいことは抜きに、これは興行収入ベースだと、60~70億円に達す。 本邦でも、いかに愛される作品となったか、その証左として挙げられるのが、本作の設定をパクった恋愛ドラマが、数多く製作されたこと。例えばフジテレビの「月9」枠で92年に放送された、「君のためにできること」。吉田栄作演じる主人公が自動車事故で死ぬが、自分を轢いた加害者の身体を借りて、恋人の石田ゆり子の前に現れる。ちょっと『天国から来たチャンピオン』(78)風味も入っているが、紛れもなく、本作のエピゴーネンであった。 本作から30年以上経った現在も、こうした流れはまだまだ残っている。今年1月から放送されている、井上真央と佐藤健主演のTBSドラマ「100万回 言えばよかった」。スタート早々からSNSなどで、「これ『ゴースト』じゃん」などと、突っ込みが入りまくっている。『ゴースト』は“ミュージカル化”されて、2011年からロンドン、12年にはブロードウェイでも上演された。実は日本ではそれに先駆けて、2002年に「世界初」の『ゴースト』舞台化が行われている。主演は宝塚出身の愛華みれと沢村一樹。こちらはミュージカルではなく、ストレートプレイであった。『ゴースト』関連で、今年に入って伝わってきたのが、現在チャニング・テイタムが、自らの主演で本作のリメイク企画を進めているとのニュース。それを聞いて思い出したが、実はリメイクも、日本が先行して行っていたという事実だった。 もう覚えている方も少ないと思うが、2010年11月に公開された『ゴースト もういちど抱きしめたい』が、その作品。 こちらは松嶋菜々子と、ソン・スンホンが主演。オリジナルとは男女の役割を逆転し、松嶋が女性実業家で、韓国人の陶芸家スンホンと恋に落ちるも、事件に巻き込まれて命を落としてしまう…。 そんな設定でわかる通り、ろくろを2人で回すラブシーンも、もちろん再現されている。詳細は省くが、色々と無理のある展開からこのシーンになだれ込むのだが、バックには何と、「アンチェインド・メロディー」が…。そしてそのヴォーカルは、…平井堅。マスコミ試写では、“失笑”が起こった。 この日本版リメイク、興収9億円という記録が残っているので、観客はそこそこ集まったわけである。しかしオリジナルと違って、現在ではわざわざ、口の端に上げる者も居まい。 チャニング・テイタムはリメイクに臨むに当たって、わざわざ“陶芸レッスン”を受けながら、雑誌のインタビューに応じたという。ということはやはり、「映画史に残るラブシーン」の再現に。敢えて挑戦することになるのだろうか? テイタムが鑑賞しているとは思えないが、日本版リメイクを「他山の石」として、くれぐれも同じ失敗を繰り返さないことを、願ってやまない。■ 『ゴースト/ニューヨークの幻』™ & Copyright © 2023 Paramount Pictures. All rights reserved.
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PROGRAM/放送作品
キング・コング(2005)[特別版]
怪獣映画の古典的名作を、『ロード・オブ・ザ・リング』の監督とCGスタジオが現代の特撮技術でリメイク!
ピーター・ジャクソン監督が、『ロード・オブ・ザ・リング』でゴラムの動きを担当した動態模写の匠にコングを演じさせCGで描き上げる、究極の「キング・コング」。ナオミ・ワッツら人気キャストにも注目!
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COLUMN/コラム2021.03.09
『サボテン・ブラザース』が愛される理由
日本の映画市場で長らく鬼門と言われ続けてきたジャンルの一つが、“アメリカン・コメディ”だ。たとえ本国でNo.1ヒットを飛ばした作品でも、日本公開では一部の例外を除いて、その多くが爆死を遂げてきた。公開されるのはまだマシな方で、日本のスクリーンには掛からずじまいだった作品も、少なくない。 その原因として繰り返し言及されたのが、文化的な差異による“笑い”の違い。その説明には、日本を代表する喜劇映画シリーズ『男はつらいよ』が、例として挙げられるパターンが多かった。いわく、日本的な人情風味が満載の寅さん映画を、仮に欧米で字幕付きで上映しても、ウケはしないだろうと。“アメリカン・コメディ”が日本でウケないのも、それと同じようなことだと。 何はともかく死屍累々の中、劇場公開時にヒットしたという話はきかないながらも、『¡Three Amigos!』を、「好きな作品」として挙げるケースには、よく遭遇してきた。邦題は、日本での“アメリカン・コメディ”の例外的なヒット作である『ブルース・ブラザース』(80)に因んで付けられたと思われる、『サボテン・ブラザース』(86)のことである。 監督が『ブルース…』と同じ、ジョン・ランディスなのはともかく、プロデューサーのローン・マイケルズと3人の主演陣は、アメリカのTV界を代表するコメディバラエティ番組「サタデー・ナイト・ライブ」ゆかりの面々。チェビー・チェイスとマーティン・ショートは、「サタデー…」にレギュラー出演して人気を博した時期があり、スティーヴ・マーティンは、ホストとして度々ゲスト出演して、評判になった。そうした意味で、正に“アメリカン・コメディ”の王道的なメンバーが集結している。 こうなると、これはホントに危うい。日本では、最もウケないパターンである。例えばランディス監督の前作で、チェビー・チェイスと、やはり「サタデー…」組のダン・アイクロイドが共演した『スパイ・ライク・アス』(85)のように。 ところが先に書いた通り、本作は日本でも「愛される」1本となった。それは劇場公開時よりも、むしろその後のレンタルビデオやTV放送を通じてとは思われるが。 本作の人気が高かった理由のまず一つは、物語の構造であろう。悪党に蹂躙される村人の声に応えて、勇者たちが心意気で助けに向かうというのは、『七人の侍』(54)や、そのリメイクである西部劇『荒野の七人』(60)などでお馴染みのパターンであるが、コメディとして、そこからの捻り方が絶妙である。 主人公たちが演じる勇者を見て、「本物」と“勘違い”した村人からの願い。それを「俳優の仕事」としての依頼と“勘違い”して受けた主人公たち。真実に気付いた時は、一旦逃げ出しかかるが、最終的には勇気を振り絞って、村人たちのために戦う。 この構図は後に、『スタートレック』シリーズへのオマージュが満載の『ギャラクシー・クエスト』(99)にも、転用される。こちらでは、宇宙船のクルー役を演じた俳優たちを、「本物」と宇宙人が勘違い。助けを求められた俳優たちは、“宇宙戦争”を戦うことになる。 他に、ピクサーのCGアニメ『バグズ・ライフ』(98)など、『サボテン・ブラザース』の影響下にあると思われる作品は、少なくない。 先に挙げた、本作の熱心なファンである三谷幸喜も、このパターンを自作に取り込んでいる。役所広司主演のTVドラマ「合い言葉は勇気」(00)は、本物の弁護士と勘違いされた俳優が、不法投棄を行う産廃業者を相手取った住民訴訟を戦う。また監督作である映画『ザ・マジックアワー』(08)も、ヤクザの組織が、佐藤浩市が演じる売れない俳優をプロの殺し屋と勘違いする話であり、このバリエーションと言える。三谷の作風として、登場人物たちの勘違いに勘違いが重なって、物語があらぬ方向に暴走していく展開があるのだが、本作の骨組みは正に、「ズバリ」だったのであろう。 こうした構成の下、繰り広げられるのが、本作の主演にして、製作総指揮・脚本も兼ねたスティーヴ・マーティンが言うところの、「セックスもドラッグも4文字言葉も出ていない」コメディである。日本の観客が一番お手上げになる、英語での言葉遊びのギャグなどよりも、体を張ったギャグの方が、際立つ仕掛けである。 『サボテン・ブラザース』© 1986 ORION PICTURES CORPORATION. All Rights Reserved
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PROGRAM/放送作品
ジュマンジ/ネクスト・レベル
ゲームの難易度がさらにアップ!ドウェイン・ジョンソン主演の体感型アクション・アドベンチャー続編
『ジュマンジ』の20年後を描いた『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』の続編。前回の主役キャラ4人に加えて主人公の祖父もゲームの世界に吸い込まれ、より難易度とスリルがアップしたサバイバルに挑む。
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COLUMN/コラム2020.03.10
2008年の“フラット・パック”と“ブラット・パック”『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』
2000年代、“Frat Pack=フラット・パック”という集団が、ハリウッドを席捲した。…と言っても多分、日本ではアメリカン・コメディの熱心なファン以外には、あまり馴染みがないかも知れない。またアラフィフぐらいの映画ファンの中には、「“ブラット・パック”なら知ってるけど、“フラット・パック”って何?」という方もいるかと…。 この“フラット・パック”の中核メンバーと言われたのが、本作『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』に出演している、ベン・スティラーとジャック・ブラック、それに加えてウィル・フェレル、スティーヴ・カレル、ヴィンス・ヴォーンに、オーウェン・ウィルソンとルーク・ウィルソンの兄弟といった面々。1962年生まれのカレルから71年生まれのルークまでの、この7人に続いて、弟分格と言われたのが、セス・ローゲンや、やはり本作に出演している、ジェイ・バルチェル、ビル・ヘイダー、ダニー・マクブライドといった辺りだった。 元々“フラット・パック”という名称は、“Rat Pack=ラット・パック”、更には先に少し触れたが、それをもじった“Brat Pack=ブラット・パック”に由来するもの。 “ラット・パック”は1950年代に、“ボギー”ことハンフリー・ボガートとローレン・バコール夫妻の家に集まるようになった面々で構成され、ボギーの死後は、フランク・シナトラやディーン・マーティン、サミー・デーヴィスJrらが中心メンバーに。彼らはラスベガスでショーを行ったり、『オーシャンと11人の仲間』(60)などの映画を作って、ヒットさせたりした。“ラット・パック=ネズミの集団”という名称の起こりには諸説あって、その一つは、ハンフリー・ボガートとその仲間がラスベガスから戻ってきた際に、ローレン・バコールが、「ひどいネズミの集団みたい」と言ったことなどとされている。日本では“ラット・パック”というよりは、“シナトラ一家”の方が通りが良いだろう。 “ブラット・パック”は、「小僧っ子集団」とでも訳すべきか。日本では、“ヤング・アダルト”やそれを略して“YAスター”などとも言われ、80年代中盤に人気を集めた、若手の俳優陣を指す。『ブレックファースト・クラブ』『セント・エルモス・ファイアー』という1985年に公開された2本の青春映画のいずれか及び両作に出演した、エミリオ・エステベス、アンソニー・マイケル・ホール、ロブ・ロウ、アンドリュー・マッカーシー、デミ・ムーア、ジャッド・ネルソン、モリー・リングウォルド、アリー・シーディといった面々が、軸とされる。主に80年代中盤、ジョン・ヒューズが製作や監督した青春映画などで、人気を博した。 そして“フラット・パック”。元は2004年に、「USAトゥデイ」紙の記事上で生み出された造語である。アメリカン・コメディの諸作を主な舞台に、決まったメンバーが何度も共演したりカメオ出演している様を捉えて、そう名付けられた。先に書いたような元ネタはあるものの、“フラット=Frat”は、アメリカの青春映画などによく登場する、男子大学生の友愛会を指す単語。なるほど“フラット・パック”の面々は、男中心で仲良くつるんでいる印象が強く、“ホモソーシャル”的な意味合いも籠った、秀逸なネーミングだったと言えよう。 “フラット・パック”のはじまりは、ジム・キャリーの主演作で、ベン・スティラーが監督した『ケーブルガイ』(96)。1965年生まれ、まだ30代に突入したばかりの新鋭だったベンは、この作品に脇役で出演していた、ちょっと年下のジャック・ブラック、オーウェン・ウィルソンと出会い、意気投合。友達付き合いが始まった。 その後3人はそれぞれヒット作に関わって、ブレイク。そこに先に挙げていたような面々が次々と関わるようになり、一大勢力となったわけである。…と言っても彼らは、自らが“フラット・パック”と名乗ったわけではなく、正式な集団でもない。あくまでも、マスコミによる造語なのだが。 そして本作『トロピック・サンダー』が公開された2008年頃は、“フラット・パック”の面々のほぼ絶頂期。本作では製作・原案・脚本・監督・主演と5役を務めたベン・スティラーは、その2年前には、主演する『ナイト・ミュージアム』という大ヒットシリーズ(06~14)がスタート。また本作主演の1人であるジャック・ブラックも、ピーター・ジャクソン監督の超大作『キング・コング』(05)主演を経て、『トロピック・サンダー』と同年には、主役の声をアテている『カンフー・パンダ』シリーズ(~16)の第1作が公開されている。 さてキャリアのピークを迎えていた、ベンとジャックと同格で、本作でメインの役どころを務めているのが、ロバート・ダウニー.Jrである。本作公開に数カ月先駆けて、主演作の『アイアンマン』(08)で大ヒットを飛ばしたばかりだった。 ベン・スティラーと同じ、1965年生まれ。芸能一家に育ち、子役出身だったダウニー.Jrは、20代を迎える頃には主演作が評判となり、スターの仲間入り。80年代中盤には、同年代の青春もの俳優たちと共に、“ブラット・パック”の一員に数えられてもいた。 その中で頭一つ抜けた存在になったのは、20代後半。喜劇王チャールズ・チャップリンを演じた『チャーリー』(92)では、「アカデミー賞」の主演男優賞候補にもなった。 しかしそうした裏で彼は、深刻なドラッグ中毒を抱えていたのである。映画監督だった父に、8歳からマリファナを与えられるなどして育った彼は、2000年代初頭までは、繰り返し薬物中毒で逮捕されていた。そのため出演した映画やTVドラマの関係者にも、多大な迷惑を掛け続けていたのである。 30代後半となった2003年に、ようやくドラッグ依存から抜け出すことに成功。そこからは主に個性的な脇役として、活躍するようになる。 そんな彼が、アメコミのヒーローである『アイアンマン』の候補に上がった時、作品を製作する「マーヴェル」側は、過去のドラッグ中毒を問題視。「どんなことがあっても、彼を雇うことはない」としていた。しかし「彼の波瀾万丈のキャリアがキャラクターに深みを与える」と主張する、ジョン・ファヴロー監督の強力な推薦を得て、オーディションで他の候補を圧倒。見事に“スーパーヒーロー”の役を得たのである。 “ブラット・パック”のメンバーとしては、先に挙げた、ダウニー.Jr以上の人気を博していた面々は、この頃にはほぼ鳴りを潜めた状態となっていた。そんなことも考え合わせると余計に、見事なカムバック劇だった。 さてそんな“ブラット・パック”あがりで、キャリアの再構築の端緒についたダウニー.Jrと、絶頂期を迎えた“フラット・パック”の中心メンバーであるベン・スティラー、ジャック・ブラックの3人が打ち揃ったのが、『トロピック・サンダー』というわけである。ここでその設定と、ストーリーを紹介しよう。 本作でベンが演じるのは、アクション大作シリーズで大人気となりながらも、シリーズが進むにつれて内容が劣化。それではと、演技派に転身してアカデミー賞を狙うも、その主演作が見事に大コケして窮地に立たされている、アクション・スター。 ジャック・ブラックは、特殊メイクを駆使して、1人で何役も演じるコメディ映画シリーズで、人気を博しているコメディアン役。「おならをかまして笑いを取る」というイメージからの脱却を図っている。 ダウニー.Jrは、アカデミー賞を5回受賞している、演技派俳優の役。完璧に役になり切る、いわゆる“メソッド俳優”である。 そんな3人の俳優が、伝説的なベトナム戦争回顧録「トロピック・サンダー」の映画化で共演することになった。しかし3人のわがままや、爆破シーンの失敗などで、クランクイン5日目にして、予算オーバー。人でなしプロデューサーの脅しもあって、追い詰められたイギリス人監督は、狂気に走る。主演俳優たちを突然東南アジアのジャングル奥地へと連れ出し、隠しカメラでリアルな撮影を続けると、宣言したのである。 しかしある事情から、監督の姿は突然雲散霧消。取り残された俳優陣は、「撮影続行?」と疑問を抱きながらも、ジャングルを進んでいく。実はそこは、凶悪な麻薬組織が支配する、“黄金の三角地帯”であった…。 『地獄の黙示録』(79)『プラトーン』(86)など、様々な戦争映画のパロディが盛り込まれたこの作品、ベン・スティラーがその元となるアイディアを思い付いたのは、日中戦争時の中国を舞台にした、スピルバーグ監督の『太陽の帝国』(87)に、端役で出演した際だった。その後20年に渡ってアイディアを温めていく中で、戦争ものに出演する俳優たちが、撮影前に短期間のブートキャンプで兵士の訓練を受けることで、まるで“戦争”を実体験したかのような錯覚を起こすことを、からかっておちょくるのを軸としたストーリーに発展していった。 そんなことからもわかる通り本作は、ハリウッド流のシステムやしきたりへの、批判的な視線が横溢している。まさかの“ミッション:インポッシブル”俳優が、禿ヅラを付けて軽快に演じるのが、人を人と思わない大物プロデューサー役。これは、今や“セクハラ裁判”の被告となったハーヴェイ・ワインスタイン、『リーサル・ウェポン』シリーズ(87~98)などのジョエル・シルバー、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ(03~)などのジェリー・ブラッカイマーといった、とかく評判の悪い、ハリウッドの大物プロデューサーたちをモデルにしたと言われる。 主演3人の役どころも、面白い。ベンが演じるアクションスターのイメージは、彼が筋トレで作ったヴィジュアルやその役どころから、アーノルド・シュワルツェネッガーのパロディであることが、一目瞭然。主演するアクション大作シリーズが、どんどんその内容が劣化していく辺りは、ブルース・ウィリスの『ダイ・ハード』シリーズ(88~ )を想起させる。 「おなら」でウケを取り、1人で何役も演じるコメディアンという、ジャック・ブラックの役どころは、もろにエディ・マーフィーの『ナッティ・プロフェッサー』シリーズ(96・00)だ。そしてこのコメディアンが、深刻な薬物中毒である辺りは、共演のロバート・ダウニー・Jrの過去も含めて、ハリウッドでは枚挙に暇がないネタと言える。 ダウニー・Jrが演じる、アカデミー賞5回受賞の、オーストラリア出身の“メソッド俳優”モデルは、まずはラッセル・クロウ。『インサイダー』(99)『グラディエーター』(00)『ビューティフル・マインド』(01)で3年連続アカデミー賞主演男優賞の候補となり、『ビューティフル…』では遂に受賞を果した実力派ながら、短気と粗暴な振舞いで頻繁に問題を起こす辺りも、なぞられている。 もう1人のモデルは、実際の「アカデミー賞」主演男優賞の最多ウィナー(3回受賞)である、ダニエル・デイ=ルイスであろう。『トロピック…』でのダウニー.Jrの演じる“メソッド俳優”は、黒人軍曹の役を演じるに当たって、手術で自らの皮膚を黒くしてしまうという徹底ぶりであるが、これは『マイ・レフト・フット』(89)『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(97)などで、1度役に入ると、その役のまま日常を送ることでも知られる、ダニエルのパロディと言える。 実際のダウニー.Jrも、若き日は“メソッド俳優”であったが、過度のストレスに襲われることから、この頃には卒業。いわゆる“個性派”に路線を転じていた。そんな彼が、こんな役を演じていること自体が、面白い。因みにこの“メソッド俳優”役で、彼は本物の「アカデミー賞」の“助演男優賞”にノミネートされるというオチまでついた。 本作はアメリカ公開されると、3週連続でTOPの興行成績を記録。5週で興収1億㌦を突破するヒットとなったが、実は製作費も、1億㌦以上掛かっていた。最終的な興収が、アメリカでは1億1,000万㌦、全世界で1億9,000万㌦ほどであったが、これだと諸々の経費を考えると、ペイ出来ない計算。即ち“赤字”となった筈である。ハリウッドの因習やデタラメぶりをからかいながら、本作の興行自体が、失敗“超大作”の轍を踏んでしまった辺り、関係者は笑うに笑えないであろう。 さて主演の3人の、“その後”を追ってみよう。2015年、イギリスの新聞「ガーディアン」のWEBサイトに「フラット・パックはいかに崩壊したか」という記事が掲載された。これは“フラット・パック”のメンバーが、50代を迎える頃合いになって、以前のようにヒット作を生み出せなくなり、失敗作続きとなっている現状を指摘するもの。そして今や、彼らの弟分であった、セス・ローゲンやジョナ・ヒルなどが、その座を奪いつつあるという内容だった。 なるほど、“フラット・パック”の中心メンバーで言えば、コメディ映画から、『フォックスキャッチャー』(14)『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15)『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(17)などの“実話もの”に舵を切ったスティーヴ・カレルが、“演技者”として一人気を吐いているものの、他の面々は失速して、以前の輝きは失いつつあったのは、否めない。 “フラット・パック”棟梁格のベン・スティラーも、2013年暮れに「アカデミー賞」狙いで公開した製作・監督・主演の『LIFE!』が、興行&批評的に「今イチ」の結果に終わってしまった辺りから、どうも「パッとしない」感が強まっている。またジャック・ブラックの主演作も、2010年代前半には、興行的に失敗続きとなっていた。その後ブラックは、『ジュマンジ』という大ヒットシリーズ(17・19)に出演し、一息ついた感はあるが。 一方では皆様ご存知の通り、ロバート・ダウニー・Jrはこの10年余を、全世界を席捲する「MCU=マーベル・シネマティック・ユニバース」の要、“アイアンマン”ことトニー・スターク役で駆け抜けてきた。そして押しも押されぬ大スターの座を、ゲットした。 本作『トロピック・サンダー』の頃とは、地位が逆転しまった感もある3人だが、いずれもまだ“50代”。今後芸達者な3人が再び集う、“おバカコメディ”なども観てみたい気がする。■ 『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』COPYRIGHT © 2011 DREAMWORKS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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PROGRAM/放送作品
ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル
ゲームをクリアしないと脱出できない!新たな設定の大冒険でワクワクさせる大ヒット作『ジュマンジ』の続編
1995年の大ヒット作『ジュマンジ』の20年後を描いた続編。舞台がボードゲームからTVゲームに進化し、若者たちがゲームの世界に入り込んでキャラクターと入れ替わるなど今どきの新設定でワクワクさせる。
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COLUMN/コラム2017.07.28
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年8月】キャロル
『エターナル・サンシャイン』のミシェル・ゴンドリー監督がジャック・ブラックとダニー・グローヴァー主演で描く、ハートウォーミング・コメディ。ブロックバスター級のハリウッド映画を、ド素人がリメイクする!?というお話。手作り感満載のリメイク版は、作品の特徴をよく掴んでいて、オリジナル版を知っている人なら思わず「そうきたか(笑)!」と唸ってしまう場面もあるはず。冒頭のジャック・ブラックの“ウザキャラ”な役どころが本当にウザッたくて、観るのをやめようかと思うくらい不快感まで覚えてしまったのですが(なんて大人気ない)、気が付くと最後には“結局憎めないヤツ”になっていて・・・。そんなところに、ジャック・ブラックの俳優としてのスゴさを感じました。(実際にアメリカというデカい国にはゴロゴロいそうですしね、こういう困った人。)そして、現実ではちょっと考えられないような、無理やりな感じがするストーリー展開なのですが、最後の最後の最後で、やられたーーーーーーーーーー!まさかウルッと涙してしまうとは。これは予想外でした。ところで本作品の話題になると、必ずといっていいほど「邦題がひどいよね」と言う話が出てくるのですが(「僕らのミライへ逆回転」「邦題」でためしに検索したら、あらホント)、、、私はそんなに悪くないと思うなぁ。アナログな手段で未来を切り開いていく、みたいな含みを感じるし、温かみもあるし。映画っていいものですねぇ、と思わずにはいられない。軽いタッチでサラッと見れるけれど、製作者の映画愛が全編から伝わってくる温かい作品です。8月のザ・シネマで放送しますので、テレビをつけて偶然出会うことがありましたら、ぜひご覧になってみてください。■ © 2007 Junkyard Productions, LLC. All rights reserved.
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PROGRAM/放送作品
ザ・ファン
人気野球選手への憧れが男の狂気を駆り立てる!ロバート・デ・ニーロの怪演に震えるサスペンス・スリラー
ストーカー行為をエスカレートさせていくファン心理の恐ろしさを、ロバート・デ・ニーロが内に秘めた狂気を静かに漂わせて不気味に怪演。ベニチオ・デル・トロやジャック・ブラックら後のスターが脇を固めている。
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COLUMN/コラム2017.06.07
SEXテープ
ジェイとアニーは、かつて時と場所を選ばずにセックスしまくる熱愛カップルだった。そんな二人も今やふたりの子どもの親に。子育てに追われる日々の中、かつての情熱はもう取り戻せないのか? ある日、悩むジェイにアニーが提案した。「SEXテープを作らない?」 Tシャツにパンティ、足にローラースケートという悩殺ルックのアニーにジェイは興奮。ふたりはiPadのカメラを前にセックス指南本「The Joy of Sex」に掲載されたすべての体位を試すのだった。すべてが終わったとき、素に帰ったアニーは「録画を消して」とジェイに頼み、ジェイはそれに応じた。全ては終わったはずだった。 ところが悲劇はここから始まる。ビデオはiCloudに自動保存される設定になっていた。しかもジェイにはお気に入りの楽曲を収録した自分のiPadを親しい友人にプレゼントする習慣があった。つまりSEX動画はクラウドごしに他人が見られる設定になっていたのだ! おりしもアニーは、趣味でやっていた健全な子育てブログ「ママはエラい」にネット企業から出資したいとの依頼が舞い込んできたばかり。このままではプロブロガーになる夢が絶たれるばかりか、人生がメチャクチャになってしまう。ジェイとアニーはすべてのiPadを回収すべく、友人たちの家を回るのだが……。 『バッド・ティーチャー』で共演したキャメロン・ディアスのコメディ・センスに感服したジェイソン・シーゲルが、監督のジェイク・カスダンごと誘って、再共演をはたした『SEXテープ』(14年)は、ふたつの現象を笑い飛ばしたコメディだ。 ひとつめはネット上の素人ポルノ氾濫。ネット上にポルノが溢れているのは日本も同じだけどアメリカの場合、一般人が自ら積極的に製作した動画の割合がものすごく多いのである。ジェイソン・シーゲルの友人セス・ローゲンが主演した『恋するポルノ・グラフィティ』(08年)もこうした素人作品の製作現場を描いたものだった。当初トンデモない動画を撮ってしまったとビビるジェイとアニーは、物語後半にアメリカ中でそうしたものが量産されていることを知ることになる。 ふたつめはITを使いこなせていないのに、我々がそれに依存して暮らしていること。プロットを読んで気づいた人も多いかもしれないけど、クラウド上のデータさえ消去すれば、ジェイとアニーはiPadを回収する必要はない。ふたりはクラウドの概念を全く理解していないのだ。これを「情弱」と笑い飛ばすことは簡単だけど、すべての原理を理解してスマホやタブレットを使いこなしている人間が存在するだろうか? 騒ぎの大小やベクトルの違いはあれど、これは我々にも起こりうる悲劇なのだ。 そんな悲劇をスラップスティック・コメディに転化してみせた本作で、キャメロンはテンパったアニー役を熱演。必然性もないのに公式では初のヌードを披露したことでも話題を呼んだ。 またアニーの同僚役で『ファン家のアメリカ開拓期』のランダル・パーク、友人夫婦役で『アンブレイカブル・キミー・シュミット』のエリー・ケンパーと『チルドレンズ・ホスピタル』のロブ・コードリーといったテレビ・コメディの人気者が顔を揃え、シーゲルとキャメロンを好サポート。ジャック・ブラックがノー・クレジットだが重要な役で登場することも見逃せない。 そして何と言ってもロブ・ロウの起用には笑うしかない。というのも、彼の出演自体が巨大なギャグなのだから。80年代に『アウトサイダー』(83年)や『セント・エルモス・ファイアー』(85年)といったヒット作に出演していたロウは華やかなルックスも相まって、ハリウッドの未来を背負って立つ逸材と目されていた。ところが未成年の少女とのSEXテープがリークされたことで、スターの座から滑り落ちてしまったのだ。本作のタイトルが、テープで録画されているわけでもないのに「SEXテープ」なのはこの故事を踏まえているに違いない。 そんなキツいギャグに溢れた本作だけど、実は自伝的作品でもある。その自伝的部分を担ったクリエイターこそが、シーゲルと脚本を共同執筆したニコラス・ストーラーだ。 76年生まれの彼が、最初に注目されたのはTVドラマ『Undeclared』(01〜03年)だった。この学園コメディに参加していたスタッフおよびキャストがスゴい。『SEXテープ』で組むことになるジェイソン・シーゲルとジェイク・カスダンをはじめ、セス・ローゲン、ポール・フェイグ、グレッグ・モットーラ、ジョン・ハンバーグ、ジョン・ファヴロー、ジェニファー・コナー、ジェイ・バルチェル、そして全てを束ねる製作総指揮の座にはジャド・アパトーが座っていた。つまり現在のハリウッド・コメディ界を支える人材が集結していたのだ。 ライターとしてこの作品に参加したストーラーは、アパトーに才能を認められてジム・キャリーの主演作『ディック&ジェーン 復讐は最高!』(05年)の脚本を共同で執筆。キャリーに気に入られたのか、彼の主演作『イエスマン』(08年)の脚本も手がけた。 同じ年にストーラーは、アパトー製作の『寝取られ男のラブバカンス』(08年)で監督デビューも果たしている。盟友ジェイソン・シーゲルが主演と脚本を務めたこの作品は、ガールフレンドに突然フラれた主人公が、傷心旅行先で新しい恋と巡り会う物語だった。アパトーは67年生まれの自分よりひと回り若いストーラーの方が、主人公の気持ちに寄り添えると思ったのかもしれない。 そんな目論見が当たり同作は大ヒット。第二弾を要請されたストーラーは『寝取られ男』でラッセル・ブランドが演じたクレイジーなロックスター、アルダスをフィーチャーしたスピンオフ作『伝説のロックスター再生計画!』(10年)の製作、監督、脚本を手がけて大ヒットさせたのだった。 ストーラーは、その後も『ザ・マペッツ』(11年)、『憧れのウェディング・ベル』(12年)といったシーゲルの主演作の監督や脚本を務めているのだが、主人公の設定は<結婚に踏み切れないカップル>から<遂に結婚を決意するカップル>と、徐々に成長を遂げていた。共同脚本家のシーゲルは未だ独身。つまりこうした設定はストーラーが自分の人生体験をその都度、物語に反映したものだった。 こうしたストーラーのアティテュードが結実したヒット作が、セス・ローゲンとザック・エフロンの共演による過激なコメディ『ネイバーズ』(14年)だった。幼い子どもの世話でセックスを含む夫婦生活が停滞し、隣家の大学生たちの自由奔放な生活を羨んでしまう主人公の夫婦、ストーラーと彼の妻の鏡像なのだ。 しかし一方でふたりは第二子を熱望していたという。なかなか出来ずに大変だったとのことだが、そんな個人的な体験もストーラーは映画にしてしまう。しかも子ども向きアニメで。「赤ちゃんはコウノトリに運ばれてやってくる」という伝説をベースにした『コウノトリ大作戦!』(16年)がその作品だ。 コウノトリたちが企業利益を優先して赤ちゃん宅配サービスから撤退しているとか、子どもが自分で「かわいいのは今のうちだけ」と言って親を脅したり、設定を説明するセリフを喋る主人公に「説明するのは止めてよ」と相棒がツッコミを入れたりする、エッジーなギャグの中、第二子の到来を最後に同作は幕を閉じる。 もう分かったはず。『コウノトリ大作戦!』の続編こそが『SEXテープ』なのだ。ストーラーが、これからの人生体験をどのように映画に盛り込んでいくのか。それが楽しみでならない。 © 2014 Columbia Pictures Industries, Inc., LSC Film Corporation and MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.