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PROGRAM/放送作品
日曜日が待ち遠しい!
ヒッチコック作品を彷彿とさせる軽妙洒脱なタッチが冴える!名匠トリュフォーの遺作となったミステリー
フランソワ・トリュフォー監督が亡くなる前年に手がけた遺作。晩年のトリュフォーのミューズだったファニー・アルダンをヒロインに迎え、ヒッチコック風の冤罪サスペンスをモノクロ映像で洒脱に綴る。
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COLUMN/コラム2022.01.21
“観るバンド・デシネ”を実現させた『バンカー・パレス・ホテル』
◆描画スタイルを徹底して実写へと置換 マンガ家が映画監督として、商業長編映画を手がけることはままある。日本だと石井隆や、あるいは大友克洋あたりが周知の例だろう。しかしアニメーションならいざしらず、実写映画に自分の描画スタイルや色調、あるいは構図などを徹底して置換したような、そんな作家純度の高い作品を目にすることなどまれだ。 そうした前提において、1989年に公開されたSF映画『バンカー・パレス・ホテル』は衝撃的だった。監督を務めたエンキ・ビラルの、自身がマンガ家として描く画のような世界が、見事なまでに実写へと置き換えられていたからだ。沈んだ色調やソフトフォーカス、建造物のレリーフに加え、深く皺の刻まれた顔相やスキンヘッドの男、はてはヒロインのヘアカラーに至るまで、徹頭徹尾ビラルのバンド・デシネそのままなのである。 念のために説明しておくと、バンド・デシネとはフランス語で「バンド(帯)状のデッサン」を意味し、同国やベルギーにおけるコミックのことを指す。由来はコミックアーティスト、クリストフのレイアウトが原型とされており、左から横に流れていくように絵ゴマが並列し、下部に状況説明のキャプションが添えられるスタイルが、延いては呼称となったのだ。 ◆バンド・デシネの貴公子ビラル ビラルは、そんなバンド・デシネを代表する作家の重要人物といえる。1951年に旧ユーゴスラビアのベオグラードで生まれ、5歳のときに父が政治亡命者としてパリに移住。エンキと残りの家族は4年後に後を追い、パリ近郊のラガレンヌ=コロンブに住み始める。フランス語の勉強も重ねてバンド・デシネの雑誌を読みあさり、それがきっかけとなって71年にコミック雑誌「ピロット」のコンクールに投稿して入賞。編集者ルネ・ゴシニの支援を受け、21歳でマンガ家デビューを果たした。 その後、脚本家のビエール・クリスタンと出会い、彼の原作による "Partie de chasse"の連載をスタートさせ、75年には初となる単行本 "La Croisiére des Oubliés"を出版。政治的なテーマへの取り組みやリアリティにあふれたタッチを確立させている。 そんなビラルをSFジャンルに傾倒させたのは 1976年からファンタジーやSFジャンルを専門としたコミック誌「メタル-ユルラン」に参加したことが起点となっている。ジャン“メビウス”ジローやフィリップ・ドリュイエ、ベルナール・ファルカといった気鋭のマンガ家たちが創刊した同誌は、「ヘビー・メタル」の誌名でアメリカで翻訳出版され、バンド・デシネの世界進出に大きく貢献した。ビラルもそんな経緯を一助に、1980年から1992年にわたって自身の代表作ともいえる「ニコボル3部作」などを完成させ、メビウスと並んでバンド・デシネを代表する存在となったのだ。 ◆オムニバス短編から発展した企画 同時にビラルは映画界との接点を持ち、アラン・レネの監督による『アメリカの伯父さん』(80)や、ヴェルナー・ヘルツォークが手がけた『緑のアリが夢見るところ』(84)のボスターイラストを担当。また別のアラン・レネ作品" La vie est un roman "(82)ではプロダクションデザインに就き、セット美術を手がけたり、さらにはマイケル・マンの『ザ・キープ』(84)においてクリーチャーデザインを、86年にはジャン=ジャック・アノーの『薔薇の名前』のストーリー・ボードを描くなど、直接的に本編の制作へと関与していく。 こうした経験を経て、ついに自らが監督となる転機が訪れる。それは1985年から86年にかけて、マンガ家が短編映画を共同制作するアンソロジーの企画が浮上したことに端を発する。参加メンバーはビラルを含め、先のメビウスやドリュイエ、ジャック・タルディにルネ・ペティヨンといった、バンド・デシネ界を代表するアーティストたちで、彼らがそれぞれ15分の短編を監督するという豪華プロジェクトである。残念ながら諸々の事情で実現は叶わなかったが、このときにビラルの準備したプロットが『バンカー・バレス・ホテル』の原型となり、それを長編用へと発展させたのが本作となったのだ。 また作品内容もビラルがこれまでにバンド・デシネで取り上げてきたような、重苦しく体制的な世界が描かれている。舞台は近未来における、大統領による独裁政権が崩壊した都市。政府の高官たちは革命の戦火から逃れるために、秘密のホテルに参集する。ここは居住者を守るために地下深くに建造されたバンカー(陣地壕)であり、同時に派手な贅沢を好む高官にふさわしいパレス(宮殿)でもある。ところが不思議なことに、大統領の到着が遅れているではないか。彼は死んだのか? それとも彼らを見捨てたのか——? リーダーを失い、バンカー・パレス・ホテルの人々は次第に混乱に陥っていく。そして、追い詰められた彼らの不安がもたらしたものとは、いったい……。 ◆不条理と強大な権力の狂気がテーマ 映画はバルカン半島とベオグラードで撮影が敢行された。理由はおおまかにふたつあり、ひとつは街にある建築物の外観と内装がそのまま撮影に使えるくらい風雅に満ち、そして趣きがあったことだ。とりもなおさずそれは、ビラルの描画に見られるタッチの源泉として、彼の生まれ故郷の風景があるということを証明している。そしてもうひとつは、この映画が20世紀における、政治体制の本質についての物語だということを認識し、そこには独裁的に自身の生まれ故郷を統治した、ミロシェヴィッチ政権への皮肉に満ちた糾弾が込められているからだ。不条理と強大な権力の狂気が作品のテーマだ、とビラルは言う。「特権階級を持つ者は、絶対に絶対権力を持つことになる。そうなると、その者の人間性を喪失してしまうのだ」と——。 『バンカー・パレス・ホテル』は観念的な内容ながらも好評を博し、エンキ・ビラルはマンガ家活動と並行させて『ティコ・ムーン』(97)や『ゴッド・ディーバ』(04)といった諸作を監督。どちらも視覚効果が比重を増し、より自身のアート世界に近づいた絵作りを提供していく。そういう点では、本作が自分の原作とは違う、映画用に用意されたオリジナルのストーリーだという事実にも驚きを禁じ得ない。つまり既存するイメージの転写ではなく、まったく無からビラル的世界が生み出されているのだから。 ちなみに『ゴッド・ディーバ』の日本公開時、同作のプロモーションでビラルは来日を果たし、筆者は彼にインタビューをする機会に恵まれた。そこで前述した「なぜここまで自分の絵に近づけた映像づくりができるのか?」を訊いたところ、「映画とバンド・デシネとの表現方式の違いから、そこはむしろ意識的に異なるよう心がけているのに、どうしても同一のイメージに落ち着いてしまうんだ」と苦笑しながら答えてくれた。また自身の作品づくりを刺激するものとして、『風の谷のナウシカ』(84)や『もののけ姫』(97)など、宮﨑駿監督への敬意を挙げていたのが興味深く思い出される。■ *『バンカー・パレス・ホテル』エンキ・ビラル監督が自著に描き入れたサイン(筆者所有) 『バンカー・パレス・ホテル』© 1988-TF1 INTERNATIONAL-FRANCE 3 CINEMA-ARTE-TELEMA
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PROGRAM/放送作品
モード家の一夜
対照的な女性との一夜で揺れ動く男の心──会話劇が秀逸なエリック・ロメール監督「六つの教訓話」第4作
エリック・ロメール監督の連作「六つの教訓話」第3作。信心深い堅物の男と無神論者の女が過ごす奇妙な一夜を、巧みな会話劇で織りなす。盟友ネストール・アルメンドロスがモノクロで映し出す雪景色が幻想的。
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COLUMN/コラム2020.04.21
“遊び”の要素に満ちた、香り高い男の世界を、名匠ルネ・クレマンが独自のムードで描くロマンティック・ノワール!
『狼は天使の匂い』、監督はフランスの巨匠ルネ・クレマン。ギターで誰でも練習した『禁じられた遊び』(52年)、アラン・ドロンを世界的スターにした『太陽がいっぱい』(60年)のクレマン監督の知られざる傑作が『狼は天使の匂い』です。 主人公トニー(ジャン=ルイ・トランティニャン)は、フランス人のジャーナリストですが、取材で乗っていたヘリコプターが、ロマ(昔でいう“ジプシー”)の村に墜落して、少女を殺してしまいます。ロマは一族の掟で復讐のためトニーの命を狙い、トニーはカナダのフランス語圏モントリオールまで逃げます。そこで偶然知り合ったギャング団の仲間になっていきます。ギャング団のボス、チャーリーを演じているのはハリウッドの名脇役ロバート・ライアン。『ワイルドバンチ』(69年)が素晴らしかったですね。彼らギャング団は、ある事件の証人となる女性の誘拐を請け負います。 そう聞くとハードなサスペンス映画みたいですが、そうじゃない。この映画、まるで夢を見ているような「お伽話」として作られているんですね。『不思議の国のアリス』がモチーフになっています。 僕は公開当時、小学6年生くらいで、凄く感動したのは、子供の話から始まるからなんです。冒頭に、気の弱そうな男の子がいじめっ子たちに絡まれるプロローグがついているんですが、その子と同年代だった僕にはそれがリアルだったんです。 脚本はセバスチャン・ジャプリゾ、邦訳もあるミステリ作家ですが、脚本家としてもアラン・ドロンとチャールズ・ブロンソンの『さらば友よ』(68年)や、やはりブロンソン主演でクレマン監督作の『雨の訪問者』(70年)などがあります。ジャプリゾの脚本には、ある特徴があります。それは他愛のない“ゲーム”のシーンが必ず入ってること。『狼は天使の匂い』でもゲームは非常に重要なものなので、注意して観て下さい。 この『狼は天使の匂い』は『不思議の国のアリス』で始まり、『不思議の国のアリス』で終わります。『アリス』は少女の夢ですが、本作は少年のような心を持ったヤクザな男たちの夢ですね。 彼らの子供っぽさを象徴するのがゲームです。ギャングの仲間に入れてもらえないトニーは、タバコを3本を縦に積み上げるゲームでギャングたちの尊敬を勝ち取ります。もうひとつ、ギャングたちは“丸めた紙くずを植木鉢に入れる”ゲームもします。これらは何を意味しているかというと、彼らにとっての犯罪は金のためじゃなく“遊び”なんだよと。禁じられているからこそ、その“遊び”をするんだということで、クレマン監督の『禁じられた遊び』にもつながってくるんですよ。 『狼は天使の匂い』ではアルド・レイもいい味出してますね。ガキ大将がそのまま大きくなったような大男で、『暴力脱獄』(67年)のジョージ・ケネディ的なグッド・バッドガイ。『ヒート』(95年)のトム・サイズモアの原型ですね。 これに非常に強い影響を受けたのが香港のジョニー・トー監督です。彼の『ザ・ミッション非情の掟』(99年)では、暗黒街のガンマンたちが無言で紙くずサッカーすることで絆を固め、『エグザイル/絆』(06年)でも、空き缶を撃ち続ける遊びがギャングたちの子どもっぽい友情を表現しています。『エグザイル/絆』のギャングたちは記念写真を撮るんですが、それも『狼は天使の匂い』からの引用です。 『狼は天使の匂い』という邦題は、狼のようなアウトローたちが実は天使のように純粋無垢だという意味を詩的に表していて素晴らしいと思います。 (談/町山智浩) MORE★INFO. ●映画はデヴィッド・グーディスのノワール小説「Black Friday」を、作家で脚本家のセバスチャン・ジャプリゾがルネ・クレマン監督のために脚本化。しかし、小説は設定だけを借りたジャプリゾのほとんどオリジナル。これをジャプリゾ自らがノヴェライズした『ウサギは野を駆ける』が映画公開時に翻訳され、原作は約30年後の2003年に映画と同じ『狼は天使の匂い』(早川書房)の題名で翻訳された。 ●日本公開時は英語吹替の99分版で上映された。オリジナル完全版は140分。 ●当初ボスのチャーリー役はリー・マーヴィンにオファーされたが、マーヴィンの推薦で友人でもあるロバート・ライアンに決定した。 ●ポールの妹ペッパー役は当初フランク・シナトラの娘クリスティーナが候補に挙げられていたが、ミア・ファローの妹ティサ・ファローに決まった。 ●冒頭のお菓子を食べる少女は、映画デビューとなるエマニュエル・ベアール(ノンクレジット)。
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PROGRAM/放送作品
バンカー・パレス・ホテル
フランスを代表する劇画家エンキ・ビラルの世界観が全開!シュールで幻想的な近未来サスペンス
フランスを代表するバンド・デシネ(劇画)作家エンキ・ビラルが脚本も手掛け、レトロフューチャーな近未来を構築。『007/ユア・アイズ・オンリー』でボンドガールを演じたキャロル・ブーケが女スパイを妙演。
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COLUMN/コラム2013.06.30
2013年7月のシネマ・ソムリエ
■7月6日『リアル・ブロンド』 売れない役者ジョーとヘアメイクアーティスト、メアリーは同棲中のカップル。倦怠期に陥った彼らのトラブル続きの日々を、シニカルなユーモア満載で綴るコメディだ。 主演のM・モディン、C・キーナーが、何をやっても空回りしてしまう男女を絶妙なコミカル演技で体現。ダメ人間たちの切実な奮闘ぶりが笑いと共感を呼び起こす。 監督はジム・ジャームッシュらと親交が深く、米国インディーズ界で活動するT・ディチロ。昼メロ撮影現場などの芸能界の内幕を見せる、軽妙なギャグ・センスに注目。 ■7月13日『歌う大捜査線』 かつて薬物問題で保護観察処分を受けたR・ダウニーJr.が、その復帰作として主演した異色コメディ。英国製のTVドラマ「The Singing Detective」の映画化である。主人公は謎の皮膚病に冒された小説家ダン・ダーク。そんな彼が病院でセラピーを受ける現実と、“歌う探偵”として活躍する妄想の中の出来事がシュールに錯綜していく。ノワールとミュージカルの要素をはらむ映像世界は遊び心たっぷり。不気味な特殊メイクを施したダウニーJr.と、意外な役柄に扮したM・ギブソンの共演も見ものだ。 ■7月20日『エビータ』 アンドリュー・ロイド=ウェバーの大ヒット・ミュージカルの映画化。アルゼンチン国民の絶大な支持を得た実在のファーストレディ、エバ・ペロンの生き様を描く。数々の音楽映画の秀作を手がけてきた名匠A・パーカーが、その実力を遺憾なく発揮。セリフを排除し、楽曲のメロディとリズムを前面に押し出した映像世界は圧巻である。大物女優たちを押しのけて大役を射止めたマドンナが、A・バンデラスとともに見事な歌唱力を披露。とりわけマドンナが歌う「アルゼンチンよ泣かないで」は感動的だ。 ■7月27日『幻の女』 『光年のかなた』『白い町で』などで世界的に注目されたスイスの映画作家アラン・タネール。1980年代末のミニシアター隆盛期に日本公開された味わい深い小品である。創作意欲を失った映画監督が若い助手を雇い、新作の女優探しを始める。スイスからイタリアの港町へ。そのあてどもない旅は、映画と人生をめぐる“製作日誌”のよう。主人公の情熱を呼び覚ます“幻の女”役は『息子の部屋』などのイタリア人女優ラウラ・モランテ。その端正な貌立ちと、謎めいた美しさは一度見たら忘れられない。 『リアル・ブロンド』© 1997 Lakeshore Entertainment Corp. All Rights Reserved 『歌う大捜査線』TM & Copyright © 2013 by Paramount Classics, a division of Paramount Pictures. All Rights Reserved 『エビータ』COPYRIGHT © 2013 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 『幻の女(1987)』1987 Filmograph/MK2 Productions
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PROGRAM/放送作品
遠い日の家族
戦争で失われた家族への追想──クロード・ルルーシュがラフマニノフの旋律に乗せて綴る愛と哀しみの映像詩
クロード・ルルーシュが“転生”をモチーフに絡め、戦争で家族を失ったユダヤ人女性の悲劇を回想形式で綴る。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の美しい調べが現在と過去を結び、時に優しく、時に激しく響く。
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PROGRAM/放送作品
狼は天使の匂い【町山智浩撰】
町山智浩推薦。子供じみた遊戯に夢中になりながらヤマを踏む裏社会の男達…おとぎ噺めいた不思議な犯罪映画
町山智浩セレクトのレア映画を町山解説付きでお届け。子供のようにゲームに興じながら犯行に身を投じる犯罪者たち…天使(≒子供)の匂いを漂わせる狼(≒裏社会の男)ども。町山偏愛作品を本人解説とともにお届け。
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PROGRAM/放送作品
(吹)狼は天使の匂い【月曜ロードショー版】
フランスの巨匠、『太陽がいっぱい』のルネ・クレマン監督キャリア後期の、犯罪サスペンスの傑作!
フランスが生んだ巨匠、『太陽がいっぱい』のルネ・クレマン監督キャリア後期の作品で、フランスの知性派スター、ジャン=ルイ・トランティニャンと『罠』のロバート・ライアン共演のサスペンス・ミステリーの傑作!
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PROGRAM/放送作品
フリック・ストーリー
アラン・ドロン製作&主演!暗黒街の凶悪犯を追う刑事の血で血を洗う執念のドラマ!
『太陽がいっぱい』で大スターとなった名優アラン・ドロンが、泥臭い刑事役で主演した意欲作。敵役の冷酷な凶悪犯を演じるジャン=ルイ・トランティニャンも魅力的な刑事サスペンス。