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PROGRAM/放送作品
バーティカル・リミット
K2に眠る極限の垂直世界“バーティカル・リミット”での救出作戦を描く山岳アクション
世界第2位の標高を持つK2を舞台に、決死の救出作戦を描いた山岳アクション。監督は『007 カジノ・ロワイヤル』のマーティン・キャンベル、主演は『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』のクリス・オドネル。
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COLUMN/コラム2023.09.12
宇宙を舞台に、映画史に新たなジャンルを興した!フィリップ・カウフマン監督生涯の傑作『ライトスタッフ』
“ライトスタッフ”を日本語に訳すと、「正しい資質」「適性」。元々は、アメリカの著名なジャーナリストで作家のトム・ウルフによる造語である。 トム・ウルフは、1960年代後半から勢いを持った、”ニュー・ジャーナリズム”の旗手的な存在。書き手が敢えて客観性を捨て、取材対象に積極的に関わることで、対象をより濃密に、まるで小説のように描くというその手法によって、数多のノンフィクションをものしている。 その内の1冊が、「正しい資質」を持った宇宙飛行士たちが、アメリカの国家プロジェクト「マーキュリー計画」に挑む姿を描いた、「ザ・ライト・スタッフ」だった。そしてこれが本作、『ライトスタッフ』(1983)の原作となった 原作が1979年に出版されると、その映画化権の争奪戦が起こる。勝ち取ったのは、『ロッキー』シリーズ(76〜 )で知られる、ロバート・チャートフとアーウィン・ウィンクラーのプロデューサー・コンビだった。 彼らは、『明日に向って撃て!』(69)『大統領の陰謀』(76)で2度アカデミー賞を受賞している、ウィリアム・ゴールドマンに脚本を依頼。製作会社は、79年に設立された新興のラッド・カンパニーに決まり、1,700万ドルの予算が組まれた。 監督候補として名が挙がったのは、『がんばれ!ベアーズ』(76)のマイケル・リッチーや『ロッキー』(76)のジョン・G・アヴィルドセン。2人との交渉が不調に終わった後、フィリップ・カウフマンにお鉢が回ってきた。 カウフマンは、1936年イリノイ州シカゴ生まれ。シカゴ大学に学んだ後、紆余曲折あって、妻子を連れてヨーロッパへと渡った。そしてアメリカン・スクールの教師を務めている頃、フランスで興った映画運動“ヌーヴェルヴァーグ”と出会い、映画作りに目覚めた。 本作の前には、エイリアンの地球侵略もの『SF/ボディ・スナッチャー』(78)や、60年代を舞台とした青春映画『ワンダラーズ』(79)の監督として、或いは『レイダース/失われた聖櫃(アーク)』(81)の原案を担当したことで知られていた。綿密な時代考証に基づいたジャーナリスティックな視点と娯楽性を両立できる作り手として、評価され始めた頃だった。 カウフマンは、監督を引き受けるに当たって、脚本も自分に任せることを、条件とした。ゴールドマンが書いたものが、まったく気に入らなかったからだ。 時は80年代前半。ソ連を「悪の帝国」と名指しした、ロナルド・レーガン大統領の下、「強いアメリカ」の復活が標榜されていた。ゴールドマンの脚本は国策に沿ったのか、カウフマンにとって、「あまりにもナショナリズムが全面に出ていて辟易する…」内容だったという。 更にゴールドマン脚本では、カウフマンが原作に見出した重要な要素が、すっかり落とされていたのである。 ***** 1947年、カリフォルニア州モハーヴェ砂漠に在るエドワーズ空軍基地のテスト・パイロット、チャック・イェーガーが、新記録を作った。X-1ロケットに乗って、人類史上初めて、「音速の壁」を破ったのである。これ以降次々と、記録が更新されていく。 第2次大戦後の米ソ冷戦。両陣営の緊張が高まる中で、57年にソ連がスプートニク・ロケットの打ち上げに成功。アメリカは、宇宙開発で後れをとった。そこでアイゼンハワー大統領とジョンソン上院議員が中心となって、「マーキュリー計画」が始動した。 宇宙飛行士にふさわしい人材として、白羽の矢が立てられたのは、空軍などのテスト・パイロットたち。ジョンソンらが、「彼らは手に負えない」と、その我の強さを危惧する中での決定だった。 しかし現役最高のパイロットだったイェーガーは、宇宙飛行士を「実験室のモルモット」と揶揄。また彼は大学卒ではなかったため、その候補から外される。 508人の応募者を集め、過酷な身体検査と適性試験が繰り返される。そうして絞られた59人から、最終的にアラン・シェパード、ガス・グリソム、ジョン・グレン、ドナルド・スレイトン、スコット・カーペンター、ウォルター・シラー、ゴードン・クーパーの7人が選ばれた。 彼らは厳しい訓練を経て、次々と宇宙に飛び立ち、国民的英雄に祭り上げられていく。 一方で、孤高の闘いを続けてきたイェーガーは、最後の挑戦に臨もうとしていた…。 ****** ゴールドマン脚本は、「マーキュリー計画」に挑む宇宙飛行士たちに話を絞って、イェーガーのエピソードは、丸々削除していた。それに対しカウフマンは、物語の冒頭とクライマックスに、イエーガーのエピソードを配置したのである。 その上で、宇宙飛行士7人すべてに詳しく触れると、いかに3時間超えの長尺でも、とても描き切れない。そこで、シェパード、グリソム、グレン、クーパーの4人のエピソードをクローズアップして描くことにした。彼らは国家や政治家の思惑に時には反発しながら、“個”としての誇りを守ろうとする。「…現在の宇宙計画はすべて地球の必要性に奉仕することに重点をおいていて、人々が外宇宙を求める心理には重きをおいていない」と指摘するカウフマン。彼にとっては、逆にそうした心理こそが、興味の的だった。 カウフマンは、孤高の存在であるイェーガーと、チームでプロジェクトに対峙していく宇宙飛行士たちを対比しながら、いずれとも、「現代のカウボーイ」として描いた。そして、アメリカの精神風土である、インディペンデント・スピリットへの強い賛同を示したのである。 カウフマンははじめ、「未来が始まったとき、ライトスタッフが存在した」と考えていた。しかしその後、「いかに未来が始まったのか、それはライトスタッフを持った男たちがいたからだ」という結論に到達したという。「…時代を描くだけではなく、その時代に生きた人間たちを描こうと試みた…」カウフマンは、宇宙飛行士だけでなく、その妻たちの不安や恐怖、功名心なども、丁寧に描出している。 製作に際して、カウフマンはスタッフに指示し、揃えられる限りの資料を揃えさせた。記録映画フィルムの買い物リストを渡され、国中を歩き回ることとなったのは、編集担当のグレン・ファーら。彼らは、NASAや空軍、ベル航空機保管庫などで膨大なフィルムに目を通し、30年間人目に触れていなかった、ソ連のフィルムの発見に至った。こうして収集された映像類の一部は、編集や映像加工のテクを駆使して、本編で効果的に使用されている。 集められた大量のビデオテープは、“宇宙飛行士"たちの役作りにも、大きく寄与した。スコット・グレンは、自分が演じるアラン・シェパードの「外側をつかまえるために」それらを利用したという。しかしシェパードの内面に関しては、「ぼくが自分自身を演じる方がいい」という判断に至った。 グレンの判断の裏付けになったのは、カウフマンの姿勢。彼は俳優たちに、自分が演じる実在の飛行士に会えという指示を行わなかったのである。 自らの考えでただ1人、演じるゴードン・クーパーを訪ねたのは、デニス・クエイド。そんな彼曰く、本作の撮影は「ぼくの人生最高の恋愛」だったという。クーパーの妻を演じたパメラ・リードも“夫”と同様に、「わたしの人生で最も幸せな時間だった」とコメントしている。 カウフマンの演出は、“宇宙飛行士"たちが信頼を寄せるに足るものだった。ジョン・グレンを演じたエド・ハリスは、「何ごとにおいても決して妥協しなかった。あの人は8人目の宇宙飛行士だ」と、カウフマンを称賛。ガス・グリソム役のフレッド・ウォードはシンプルに、「彼はすばらしい人だ」と、賛辞を寄せている。 本作の評価を高めた要因に、孤高のパイロット、チャック・イェーガーの存在があることを、否定する者はいまい。彼を演じたサム・シェパードは、まさに生涯のベストアクトを見せた。 1943年生まれのシェパードは、劇作家として、20代はじめからオフ・ブロードウェイを中心に、華々しく活躍。その後演出も、手掛けるようになる。 映画に初めて出演したのは、テレンス・マリック監督の『天国の日々』(78)。この作品で彼は、若くして死病に侵された、農場主の役を印象的に演じて、主演のリチャード・ギアを完全に喰った。 映画出演5作目に当たる、本作の日本公開は、アメリカの翌年=84年の9月。その年の春には、彼が原作・脚本を手掛けたヴィム・ヴェンダース監督作『パリ、テキサス』(84)が、「カンヌ国際映画祭」で最高賞のパルム・ドールを獲ったことも、話題となっていた。 本作でのシェパードの演技について「ニューズ・ウィーク」誌は、「…あたかもゲーリー・クーパーを想わせる…」「サム・シェパードはこの映画で二枚目としての地位を永遠のものにした…」と絶賛。「…この反体制的な芸術家が、伝説の空軍のエースと合い通じるものを持っていると見抜いた」監督のカウフマンに対しても、「慧眼である」と高く評価している。 因みに本作では、当時59歳だったチャック・イェガーを、テクニカル・コンサルタントとして招き入れた。パイロットたち行きつけの店のバーテンダー役として出演もしているイェーガーと、演じるシェパードの初対面は、ある中華料理店だったという。 カウフマンによると2人は、「最初は用心深く見つめ合うという感じ」だった。しかし店を出る時にお互いの小型トラックを見て話し始めると、突然2人の間にあった垣根がとれたかのようになり、その後はまるで、“親子”のような関係を築いたという。 サンフランシスコ在住のカウフマンは、ハリウッドを嫌って、本作の大半を自分の地元で撮影した。波止場の倉庫をスタジオに改造した上、「互いに刺激を与え合える人々と組む必要がある…」と、地元の熱心な才能を数多く起用している。 CG時代到来の前、宇宙船や戦闘機などの特撮に関しては、コンピューター制御による“モーション・コントロール・カメラ”が全盛を極めていた。カウフマンは、『スター・ウォーズ』シリーズ(77~ )や『ファイヤーフォックス』(82)などで成果を上げていた、この最新技術への依存を、敢えて避けるように指示を行った。 そこでVFX担当のゲイリー・グティエレツは、特殊効果の原則に立ち返ることにした。ある時は、サンフランシスコの丘に登って、ワイヤーで吊り下げた模型飛行機と雲を作る機械を駆使して、飛行シーンを撮影。またある時は、大きな弓を作って、超音速ジェット戦闘機の模型を矢のように飛ばして、カメラで追った。このように、当時としても「アナログ」な手法にこだわったことが、いかに効果的であったかは、各々が本作を観て、確認していただきたい。 本作で描かれた「マーキュリー計画」が幕を閉じるのは、63年5月。奇しくもその年の11月、ケネディ大統領暗殺事件が起こる。後継の大統領となったのは、宇宙開発の仕掛人の1人だったジョンソンだったが、彼の政権下、アメリカはベトナム戦争の泥沼に陥っていく。 その前夜のアメリカの栄光と矛盾を描き出した本作は、アカデミー賞に於いては、作品賞やサム・シェパードの助演男優賞など、9部門でノミネート。主要部門の受賞は逃すも、編集賞、作曲賞、録音賞、音響効果賞の4部門のウィナーとなっている。 しかし興行的には、不発。当初の予算1,700万ドルを遥かにオーバーしての製作費2,700万ドルは、まったく回収できない成績に終わってしまった。 だが本作なしでは、後の『アポロ13』(95)や『ドリーム』(16)などの作品の存在は考えにくい。「実話をベースにした宇宙映画」という、それまではなかったジャンルの先駆けとなった本作は、紛れもなくエポック・メーキングを果したのである。 製作から40年経った今でも、語り継がれる作品を作り上げたフィリップ・カウフマンも、まさに“ライトスタッフ”の持ち主だったと言えよう。■ 『ライトスタッフ』© Warner Bros. Entertainment Inc.
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PROGRAM/放送作品
ライトスタッフ
世界最速に挑み、人類未踏の宇宙に飛び出す。誇り高き男たちのフロンティア精神を熱く描く!
1947年、米陸軍から独立し米空軍が誕生。同年に伝説の空軍テストパイロット、イエガーが人類初の超音速飛行を成し遂げたところから象徴的に始まる、空とスピードに生きた男たちの不屈の冒険精神を描いた感動作。
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COLUMN/コラム2022.02.15
製作から30年余。ホラーのジャンルを超え、アメリカ映画史に輝く“マスターピース”『羊たちの沈黙』
アメリカでは、オスカー狙いの作品というのは、秋から冬に掛けて公開されるのが、通常のパターンである。春頃の公開だと、その作品がどんなに素晴らしい出来栄えであっても、翌年投票する頃には、投票権を持つアカデミーの会員たちに忘れられてしまう。 本作『羊たちの沈黙』は、1991年2月にアメリカで公開。それに拘わらず、公開から1年以上経った92年3月開催の「第64回アカデミー賞」で、作品賞、監督賞、脚色賞、主演男優賞、主演女優賞の、文字通りド真ん中の主要5部門を搔っ攫った。 この5部門を受賞した作品というのは、アカデミー賞の長い歴史の中でも、『或る夜の出来事』(34)『カッコーの巣の上で』(75)と本作の3本しかない。本作は、“ホラー”というジャンルで作品賞を受賞した、唯一の作品としても知られる。 アカデミー賞で栄冠を得ても、時の経過と共に忘れられてしまう作品も珍しくはない。しかし本作は、公開から20年後=2011年、「文化的に、歴史的にも、美的にも」重要であると、アメリカ議会図書館が宣言。アメリカ国立フィルム登録簿に登録・保存されることとなった。 製作から30年経った今では、クラシックの1本とも言える本作。その原作は、トマス・ハリスの筆による。 ハリスは若き日、テキサス州のベイラ―大学で英語学を専攻しながら、地元紙に犯罪記事を提供して身を立てていた。次いでAP通信のニューヨーク支社へと移り、国際報道にも携わったという。 そんな記者時代の体験と得た知識を基に、75年に処女作として「ブラック・サンデー」を発表した。アメリカ国内で大規模なテロを引き起こそうとするパレスチナゲリラのメンバーと、イスラエルの諜報員の対決を描いたこのサスペンススリラー小説は、そのアクチュアルさも評判となって、77年にはジョン・フランケンハイマー監督によって映画化。ヒットを飛ばした。 ハリスの次の小説、81年刊行の「レッド・ドラゴン」で初お目見えしたキャラクターが、ハンニバル・レクター博士。好評につき彼が再登場するのが、88年に書かれた、ハリスにとって3作目となる、本作の原作である。 ***** FBIアカデミーの女性訓練生クラリス・スターリング。ある日行動科学課のクロフォード捜査官に呼び出され、異例の任務を命じられる。 それは元精神科医ながら、自らの患者9人を手に掛けたため、逮捕・収監されている、レクター博士との面会。レクターは犠牲者の身体の一部を食していたことから、“人喰いハンニバル”との異名を取っていた。 クロフォードの狙いは、世間を騒がせている凶悪犯“バッファロー・ビル”の正体を突き止めること。若く大柄な女性を誘拐しては、殺害後に皮を剥いで遺棄する手口のこのシリアルキラーについて、稀代の連続殺人犯で高い知能を持つレクターから助言を得るために、クラリスを差し向けたのだった。 当初は協力を拒んだレクター。しかし彼は、クラリスが、自らのトラウマとなった過去の出来事を明かすことと引き換えに、“バッファロー・ビル”についての手がかりを、少しずつ示唆するようになる。 しかし上院議員の娘が“ビル”に誘拐されると、レクターの収監先の精神病院の院長チルトンが、出世欲に駆られてFBIを出し抜く。チルトンの主導で、上院議員との面会のために移送されたレクターは、隙を突いて警備の警察官らを惨殺。姿を消す。 一方、レクターから得たヒントによって、犠牲者の足跡を追ったクラリスは、遂に犯人の正体に辿り着く。“ビル”と直接対決することとなった、クラリスの運命は?そして、レクターの行方は? ***** テッド・タリーの脚本は、原作に準拠しながらも、物語の省略を効果的に行った上で、登場人物たちの奥行きを保っている。この脚本を当初監督する予定だったのは、俳優のジーン・ハックマン。実はタリーを脚本に推したのも、ハックマンだったという。 しかし、監督と同時にスターリング捜査官を演じる予定だったハックマンは、出来上がった脚本が「あまりにも暴力的」という理由で、降板する。そこで白羽の矢がたったのが、それまでのキャリアでは、ロジャー・コーマン門下のB級作品を経てコメディ調の作品が多かった、ジョナサン・デミだった。 デミは“シリアルキラー”の映画を作ることには、「…反発さえも感じていた…」。しかし原作本を読んで、キャラクターや物語に惹かれて、この話を引き受けることに。 特に彼が興味を持ったのは、ヒロインの描写。それまでの作品でも、女性を主人公にすることを好んできたデミとしては、クラリスとの出会いは、運命的と言えた。 デミは以前に『愛されちゃって、マフィア』(88/日本では劇場未公開)で組んだミシェル・ファイファーに、まずはオファーした。しかしファイファーは題材の強烈さに難色を示し、その依頼を断った。 続いてデミがアプローチしたのが、ジョディ・フォスターだった。 幼き頃から名子役と謳われた、ジョディ。10代前半にはマーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』(76)の少女娼婦役で、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされている。 イェール大学在学中には、彼女のストーカーによって、時のレーガン大統領の暗殺未遂事件が起こる。キャリアの危機を迎えたジョディだったが、その難局を見事に切り抜け、20代後半を迎えた頃、レイプを告発する女性を演じた『告発の行方』(88)で、待望の主演女優賞のオスカーを手にした。 デミは「どこにでも居そうな普通の女性が、危機に対して雄々しく立ち向かう。『告発の行方』でレイプ犯に毅然と立ち向かったジョディには、クラリス役が要求する“気丈さ”が百パーセント備わっていた」と、その起用の理由を説明している。 それを受けたジョディは、クラリス役をどう解釈したか?少女の頃に警察官だった父親が殉職したという彼女の設定を捉えて、「…悲劇的な欠点を持つがゆえにヒーローとなり、自分の醜さと向き合いながら、犯罪を解明していく…」と語っている。また本作のキャンペーンのため来日した際にはクラリスを、「…アメリカ映画において画期的な存在…」「おそらく、本当の意味で女性ヒーローが現れたのは、これが初めてではないでしょうか…」と、重ねて強調している。 そうしたジョディをこの映画で輝かしたのは、クローズアップで芝居どころをきっちりと見せたデミの演出に加えて、共演者たちの力も大きい。ハックマン降板を受けてクロフォード役を演じたスコット・グレンは、実際に役のモデルとなったFBI捜査官ジョン・ダグラスに付いて、役作りに当たった。ある時期まで男臭い持ち味を売りにしていたグレンだが、『レッド・オクトーバーを追え!』(90)の原子力潜水艦艦長役に続いて本作では、理知的且つ冷静な役どころがハマった。 しかし何と言っても圧巻だったのは、やはりアンソニー・ホプキンス! 本作に登場するシリアル・キラー、“バッファロー・ビル”とハンニバル・レクターは、世界各地に実在した様々な連続殺人犯を融合させて、トマス・ハリスが創造したもの。獄中に居ながら捜査に協力するという、レクターの設定は、少なくとも30人の若い女性や少女に性的暴行を加えて殺害した、頭脳明晰な殺人者テッド・バンディのエピソードにヒントを得た。 またレクターのキャラクターには、ハリスが若き日に、メキシコの刑務所を取材した際の経験が強く反映されている。その時ハリスは、落ち着いた物腰の、人当たりの良い知的な紳士の応対を受け、すっかり気に入った。しかし別れの挨拶を交わすまで、ハリスが刑務所医だと思い込んでいたその男は、実は医学の知識を利用して、殺した相手の死体を小さな箱に収めた、元外科医の服役囚だったのである。 ローレンス・オリヴィエなどの伝統を継ぐ英国俳優で、いわゆる“メソッド俳優”とは一線を画すアンソニー・ホプキンス。ショーン・コネリーが断った後に、本作のレクター役が回ってきた。 ホプキンスは、「他の俳優なら、実際の精神病院へ何か月も通ってリサーチするものも居ようが、私は演技することにそんな必要があると思わない…」と語る。レクター博士を演じるに当たっては、「役柄にイマジネーションをめぐらせたことぐらい…」しかやらなかったという。 例えばレクターを怖く見せるために、ホプキンスが考えた表現は、「まばたきをしないこと」。これは彼がロンドンに住んでいた時、道端でおかしな行動をしている男性と遭遇し、「かなり怖い」思いをした際、その男性がまばたきをしていなかったことから、インスピレーションを得たという。 またクラリスとレクターの最初の対面シーンでは、見事な即興演技で、ジョディの感情を揺るがした。クラリスが身に付けたものなどから、レクターが、彼女が田舎の貧しい出身であることを見破るこのシーン。それを指摘した後レクターは、彼女が隠していた訛りを、そっくりそのままマネしてみせる。実はこの訛りの部分は、ホプキンスによる、まったくのアドリブだった。 それを受けたジョディは、目に涙が浮かび、「…あいつを引っぱたいてやりたい…」と本気で思ったという。そしてクラリスと、演じる自分の境界が、すっかりわからなくなったと、後に述懐している。 ジョディはホプキンスに対して、「あなたの演技のせいで、あなたが怖かった」などとも発言している。 ジョディとホプキンス。まさにプロvsプロの対峙によって生まれた化学反応が、ジョディには2度目、ホプキンスには初のアカデミー賞をもたらした。 特にホプキンスは、本作での出演時間は、僅か12分間。それにも拘わらず、ウォーレン・ベイティ、ロバート・デ・ニーロ、ニック・ノルティ、ロビン・ウィリアムズといった強力なライバルたちを打ち破って主演男優賞のオスカーが贈られたのも、至極納得と言える。 それまで主演作はあれども、映画では地味な演技派俳優の印象が強かったホプキンスだったが、50代に出演した本作以降、名優としての評価は確固たるものとなる。レクター博士は当たり役となり、本作の後日譚『ハンニバル』(01)、前日譚の『レッド・ドラゴン』(02)で、三度演じている。 また80歳を越えて認知症の老人を演じた『ファーザー』(10)では、29年振り2度目となるアカデミー賞主演男優賞に、史上最年長で輝いた。彼の長い俳優生活でも、本作出演は今日に至る意味で、重要なリスタートだったと言えるだろう。 この作品でアカデミー賞監督賞を得たジョナサン・デミは、2017年に73歳で亡くなる。本作後も様々な作品を手掛けて、高い評価を得ているものの、そのフィルモグラフィーを振り返ると、やはり第一に『羊たちの沈黙』が挙がってしまう。 本人としてそれが本意か不本意かは、もはや知る由もないが、“サイコサスペンス”という枠組みを確立し、後に続く多くの作品に影響を与えた本作は、デミ、ジョディ、ホプキンスの名と共に、アメリカ映画史に燦然と輝いている。■ 『羊たちの沈黙』THE SILENCE OF THE LAMBS © 1991 ORION PICTURES CORPORATION. All Rights Reserved
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PROGRAM/放送作品
ザ・キープ
マイケル・マン監督初期の異色作!独自の映像センスで邪悪な魔物の恐怖を描いたホラーサスペンス
善の力と魔物の戦いを描いたホラー作家F・ポール・ウィルソンのベストセラー小説を、デビューから間もないマイケル・マン監督が映画化。魔物が封印された城塞の広大な空間をスタイリッシュに魅せる映像美は必見。
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COLUMN/コラム2016.11.29
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2016年12月】キャロル
1990年『グローリー』でアカデミー賞助演男優賞を受賞し、その後主演男優賞に2度ノミネートされ“もっともアカデミー主演男優賞に近い黒人俳優”としてその日を期待されていたデンゼル・ワシントンが、ついに2001年に受賞を果たしたのが本作『トレーニング デイ』。今や善、悪、そのどちらでもないグレーな役など、さまざまな人物を演じられる実力派名俳優ですが、公開当時は軍人や弁護士といった正義感あふれる真面目なイメージが強かった彼が、本作ではそれらのキャラクターからは想像できない、キャリア初の悪役(しかも超こわい悪徳刑事)を演じたというのが最大の見所でした。2017年公開、名作西部劇『荒野の七人』のリメイク『マグニフィセント・セブン』の公開が待ち遠しいですね!主演デンゼル・ワシントンの名声を確固たるものにした『トレーニング・デイ』を、ザ・シネマでどうぞお楽しみに。 COPYRIGHT © 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
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PROGRAM/放送作品
シルバラード
魂の故郷シルバラードを死守するため、腕利きのガンマン4人が悪を討つ!傑作西部劇!
抜き撃ちペイドン、早撃ちエメット、2丁拳銃のジェイク、ライフルのマル!4人の名手が華麗なガン・アクションでシルバラードの町を救う、ローレンス・カスダン監督渾身の超大作西部劇!
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COLUMN/コラム2015.11.30
男たちのシネマ愛①愛すべき、未DVD・ブルーレイ化作品(3)
飯森:先ほども言ったように、今回の未DVD・ブルーレイ化作品の中で一番盛り上がりを見せているのは「ザ・キープ」です。いわゆる超娯楽作ですよね。確か「13日の金曜日・完結篇」(注12)との同時上映だったと思うんですが。 なかざわ:今回久しぶりに見て、確かにビジュアルの素晴らしさは記憶の通りだったんですけど、実は編集の粗さとかストーリーのつじつまの合わなさに気づいて、あれ?と思いました。初めて見た時の感動と衝撃が、美化されて記憶しているのかな(笑)。 飯森:東欧の要塞みたいな城に怪人が封印されていて、そこに何も知らないナチスの軍隊が駐留することになる。で、その要塞を探検していたところ、封じ込められていた怪人が出てきちゃうわけですよね。当時は「スター・ウォーズ」から続くSFXブームの真っ只中にあって、あの怪人の造形も’80年代的にはイケていたんだろうと思います。 なかざわ:なんとなくゴシック・ファンタジー的な雰囲気が好きで。古城の中に恐ろしい秘密が隠されているという設定だけでも、ロマンをかき立てられるものがあるんですよね。 飯森:しかも、東欧のトランシルバニアとかカルパチア山脈とかを舞台にするのって、ハマー・フィルム(注13)がドラキュラ映画で散々やっていたわけですけど、どれもウソ臭かった。でも、これはマイケル・マン監督(注14)だからなのか、ものすごくリアルなんですよね。カルパチアの山間にある村のセットが。 なかざわ:セットという感じすらしませんからね。 飯森:あと、これは原作者の功績なんでしょうけれど、要塞の壁に謎のメッセージが書かれるシーンがある。“我を解き放て”というメッセージが。でも、ナチスの軍人たちはこれが読めない。ルーマニア語というのはラテン文字なんですけど、壁に書かれている文字はどう見てもラテン文字じゃない。そこで、イアン・マッケラン(注15)演じるユダヤ人の学者を強制収容所から連れ出してくるわけです。これを読めと。すると、グラゴル文字で書かれた古代教会スラヴ語だというんですね。これは、ロシア語などの元になった最古のスラヴ系言語です。この古代教会スラヴ語は原初的なキリル文字かグラゴル文字のどちらかで書かれるんですが、グラゴル文字はその後の歴史の中で埋没していき、キリル文字の方だけが残った。そのグラゴル文字で怪人のメッセージが書かれている。まさにこういうところですよね、ロマンを感じるのは。 なかざわ:そうです。その怪人というのが、ユダヤ人の味方をするフリして、実は自分が外へ出たいだけだったりする。学者の心理を巧みにもてあそぶあたりが面白い。 飯森:「俺を出してくれたらヒットラーをぶっ殺すよ」ってね。 なかざわ:もちろん、そんなわきゃないんだけれど(笑)。 飯森:でも、イアン・マッケラン演じる学者の心も揺れるわけです。で、ユダヤ民族を救うためにこいつを外へ出そう…となった時に、それを止めようとスコット・グレン(注16)ふんするある男が現れるわけだけれど、彼が何者なのか全然分からない(笑)。 なかざわ:原作を読めば分かると思うんですけれど、少なくとも映画のストーリー上は一切の説明がなく突然出てきますからね。 飯森:ずっとバイクに乗ったり船に乗ったりして要塞を目指すんですけど、なぜそこで物騒なことが起きていると知っているのか、なにも言及されていません。 なかざわ:もともと3時間あった映画をバッサリ短くしているので、どうしても未完成に感じる部分が多いことは否めませんね。 飯森:でも、こういう映画を深夜に見ちゃった時の、この上ない幸福感は代えがたいものがありますよね(笑)。 注12:1984年製作。殺人鬼ジェイソンが若者を殺しまくるシリーズ4作目。これで完結するはずが、予想外の大ヒットで継続することに。キンバリー・ベック主演。注13:’50年代末から’70年代にかけてホラー映画を量産した英国の映画会社。代表作は「吸血鬼ドラキュラ」(’58)など。’07年に復活し、「ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館」(’12)などを製作。注14:1943年生まれ。監督。代表作は「ヒート」(’95)や「コラテラル」(’04)など。注15:1939年生まれ。俳優。代表作は「Xメン」シリーズに「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ。注16:1941年生まれ。俳優。代表作は「シルバラード」(’85)、「羊たちの沈黙」(’90)など。 次ページ >> ルパン三世のファーストシリーズの匂いですよ(飯森) 「スパニッシュ・アフェア」COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED. 「ザ・キープ」TM, ® & © 2015 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. 「世界殺人公社」TM, ® & © 2015 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. 「黄金の眼」COPYRIGHT © 2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 「くちづけ」TM, ® & © 2015 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. 「ウォーキング・トール」© 2015 by Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
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PROGRAM/放送作品
(吹)シルバラード 【ゴールデン洋画劇場版】
魂の故郷シルバラードを死守するため、腕利きのガンマン4人が悪を討つ!傑作西部劇!
抜き撃ちペイドン、早撃ちエメット、2丁拳銃のジェイク、ライフルのマル!4人の名手が華麗なガン・アクションでシルバラードの町を救う、ローレンス・カスダン監督渾身の超大作西部劇!
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COLUMN/コラム2012.04.01
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2012年4月】山田
「いい人役」をやらせたらピカイチ、あのデンゼル・ワシントンが、ダーティすぎる悪徳刑事を凄みたっぷり、恐すぎる迫力で演じ、見事アカデミー主演男優賞に輝いた刑事ドラマ。ブリンブリンな服を身にまとい、本編を通して、「これでもか」のえげつない演技を見せてくれるものの、ふとしたときに出てしまう、あの「いい人オーラ」は隠しようがありません。対するは、男前だがいつもどこか間の抜けている表情のイーサン・ホーク。いかにも新米な雰囲気を醸し出しつつ、全力で振り回される演技(?)を見せ付けてくれる。話自体もテンポよく飽きのこない展開であるが、何よりキャスティングが素晴らしいなと思います。 TM & © Warner Bros. Entertainment Inc.