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PROGRAM/放送作品
レインマン
人は生きる…かけがえのない大切な人と出会うために!兄弟の絆を描く、心あたたまる感動作
作品賞、主演男優賞、監督賞、脚本賞のアカデミー賞4部門を受賞したヒューマン・ドラマの金字塔。ダスティン・ホフマンとトム・クルーズの名演技が永遠に胸を打つ、80年代を代表する不朽の名作。
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COLUMN/コラム2019.09.27
名優ダスティン・ホフマンを引き立てた、“美青年”。 トム・クルーズ20代の軌跡 『レインマン』
26歳のチャーリー・バビットは、ロサンゼルスに住む、中古車のディーラー。車を安く買い付けては、詐欺師顔負けの巧みなトークで、顧客に高く売り付けている。 そんな彼の元にある日、不仲で没交渉だった父の訃報が届いた。チャーリーは恋人のスザンナを連れ、シンシナティの実家を訪れるが、遺言により、父の財産300万㌦が「匿名の」人物に贈られたことを知り、ショックを受ける。 納得がいかないチャーリーは、亡父の友人で財産の管財人となった医師の病院を訪問。そこで、今までその存在を知らなかった、実の兄レイモンドと出会う。 他者との意思疎通が難しい“自閉症”のため、この病院に長らく預けられていたレイモンド。そしてチャーリーは、この兄こそが、父の遺産が贈られた当人だと知る。 チャーリーは遺産を手に入れようと、レイモンドを強引に連れ出す。“自閉症”だが、天才的な記憶力を持つ兄との旅は、トラブル続き。しかし当初は金目当てだったチャーリーに、忘れていた“大切なこと”を思い出させていく。 そして長く離れ離れだった兄弟の絆も、徐々に深まっていくかのように思われたが…。 1988年12月のアメリカ公開(日本公開は翌89年2月)と同時に、観客からも批評家からも圧倒的な支持をもって迎えられた、本作『レインマン』。「第61回アカデミー賞」では、作品、監督、脚本、そして主演男優の主要4部門を制した。 その結果からもわかる通り、“タイトルロール”である“レインマン”=兄のレイモンド役のダスティン・ホフマンの演技が、とにかく素晴らしい。アカデミー賞の演技部門は、伝統的に“障害者”を演じた俳優が有利というセオリーはあるものの、そのリアルな“自閉症”演技は、製作から30年余経った今日見ても、色褪せない「名演」である。 一方で今回初見の方などは、弟のチャーリーを演じた、20代中盤のトム・クルーズの「美青年」ぶりに、驚きを覚えるかも知れない。その演技も、賞賛に値する。父との確執が起因して、傲慢且つ偽悪的に振舞いながら、兄との旅の中で、持ち前の繊細さや優しさが滲み出てくる様など、確実に、ホフマンの演技を引き立てる役割を果たしている。 1962年生まれ、50代後半となった現在は、すっかりスタント要らずの“アクションスター”のイメージが強いトム。しかしこの頃の彼には、そんなイメージは、微塵もなかった…。 元々トムが注目されるようになったのは、『タップス』(81)『アウトサイダー』(83)など、青春映画での脇役。この頃は、80年代前半のハリウッドを席捲した、若手俳優の一団“ブラット・パック”末端の構成員のような見られ方もしていた。 しかし、初主演作『卒業白書』(83)がヒット。続いて『トップガン』(86)が、世界的なメガヒットとなったことで、若手の中では頭ひとつ抜けた存在になっていく。 更に高みを目指すトムが挑んだのは、今どきの言い方で言えば、“ハリウッド・レジェンド”たちとの共演だった。年上の大先輩の演技を間近で見ることによって、彼らの仕事っぷりを吸収しようというわけだ。 その最初の機会となったのは、1925年生まれ、トムより37歳年長であるスーパースター、ポール・ニューマンが主演する『ハスラー2』(86)。ニューマンが若き日に『ハスラー』(61)で演じたビリヤードの名手エディを、再び演じるという企画だった。 ニューマンと、監督を務めるマーティン・スコセッシの熱望を受けて、トムが演じることになったのは、才能はあるが傲慢なハスラーで、エディの弟子となる若者の役。若き日のエディ≒ニューマンを彷彿させるような役どころだが、当初は偉大なニューマンの邪魔になることを恐れ、トムは出演を躊躇したという。 しかしいざ撮影を控えてのミーティングに入ると、ニューマンとトムとの相性は、最高だった。役に必要なビリヤードの腕を磨きながら、リハーサルそして撮影を通じて、交流を深めていった2人。私生活で12歳の時に実父に去られているトムは、ニューマンを父親のように慕った。数年前に28歳だった長男を、麻薬の過剰摂取で亡くしているニューマンにとっても、トムは息子のように思える存在になっていった。 因みにスピード狂で、プロのレーサーとしても実績を残しているニューマンの影響を受けて、その後トムも、カーレースに夢中になる。これはカーチェイスシーンでもノー・スタントを通す、今日のトムの在り方に、繋がっているとも言える。 『ハスラー2』は、大ヒットを記録すると同時に、それまでに6度もアカデミー賞主演男優賞の候補になりながら賞を逃し続けてきたニューマンが、7度目の候補にして、初のオスカー像を手にする結果をもたらした。ニューマンはアカデミー賞の候補になった時点で、トムに電報を送ったという。 「もし、私が受賞したら、オスカー像は私のものでなく、我々のものだ。きみは、それだけの働きをした」 自らは助演男優賞の候補にもならなかったトムだが、その電報には感動の涙を流し、大切に額に入れ、ニューヨークのアパートの壁に飾ったという。 そしてニューマンに続き、トムが共演することになった“ハリウッド・レジェンド”が、1937年生まれでトムより25歳年長の、ダスティン・ホフマンだった。 『レインマン』でホフマンには、当初弟のチャーリー役が想定されていたという。しかし脚本を読んだホフマンが、兄のレイモンドを演じることを熱望したと言われる。 その上でホフマンがチャーリー役の候補として挙げたのは、当初はジャック・ニコルソンやビル・マーレー。こちらのキャストが実現していたら、かなり毛色の違った作品になったであろうが、最終的にはトムにオファーすることとなった。 実は映画界に入りたての頃、トムは友人のショーン・ペンと共に、ビバリーヒルズのホフマン邸の前に車を乗りつけて、呼び鈴を押してみろと、お互いをけしかけ合ったことがあった。結局2人とも怖気づいて、呼び鈴を鳴らすことはなかった。それから数年が経ち、トムは憧れていた大スターのお眼鏡にかない、その弟を演じることが決まったわけである。 しかし『レインマン』の製作は、様々な局面で難航した。まず“自閉症”の男が主役という題材に、製作費を出そうという映画会社がなかなか見つからなかった。 更には、監督交代劇が相次いだ。『ビバリーヒルズ・コップ』(84)や『ミッドナイト・ラン』(88)などのマーティン・ブレストや、あのスティーヴン・スピルバーグ、ホフマンとは『トッツィー』(82)で組んでいるシドニー・ポラックなどが、製作準備に入っては、様々な事情で去っていった。 このような局面にありながらも、ホフマンとトムは、精力的に本作のための取材を進めた。サンディエゴと東海岸の医療専門家に話を聞き、数十人の“自閉症”患者やその家族と面会。患者たちと一緒に、食事やボウリングをしたりなどの交流を行った。 因みにホフマンが、“自閉症”ながら天才的能力を持つ、レイモンド役のモデルとして参考にしたと言われるのが、キム・ピーク氏(1951~2009)。本作の中でレイモンドが、宿泊したホテルの電話帳を読み、そこに載った電話番号を全部記憶してしまったり、床にばら撒かれた楊枝の数を咄嗟に言い当てるエピソードなどが登場するが、そのモチーフとなったのは、キム氏が実際に持つ能力だった。 何はともかく、監督が決まらない中でも、この企画が頓挫しなかったのは、熱心なリサーチを続けた、主演2人の情熱があったからこそだと言われる。トムにとっては、「演技の虫」とも言えるホフマンの役作りを間近に見たことは、大いに刺激となった。 そうこうしている内にようやく、それまでに『ナチュラル』(84)や『グッドモーニング,ベトナム』(87)といったヒット作を手掛けてきたバリー・レヴィンソンが、『レインマン』のメガフォンを取ることが決まった。レヴィンソンは本作に関して、チャーリーとレイモンド以外のキャラクターの葛藤を排した、兄と弟の“ロードムービー”という要素を、より強めるという方針を打ち出した。 いざ撮影が始まると、「朝早く起きてエクササイズをして、撮影が終わってからはセリフの練習。寝る前にもう一度エクササイズ。そしてその合間にはとにかくリハーサルをやりたがる」というトムの姿勢に、ホフマンからの称賛がやまなかった。トムは撮影が終わった夜も、ひっきりなしにホフマンの部屋を訪れては、相談を持ち掛けたという。 本作ではホフマンは、基本的には“自閉症”患者として、喜怒哀楽を表すことがほとんどない。一方でそれを受けるトムは、様々な演技のバリエーションを見せないと、そのシーンがもたなくなる。先にも記したが、結果的にホフマンの「名演」も、トムの頑張りがあってこそ、引き立ったわけである。 ホフマンは『レインマン』で、『クレイマー、クレイマー』(79)以来、8年振り2度目のオスカーを手にすることになった。一方で今回もトムは、アカデミー賞の候補になることはなかった。 しかしニューマンに続く、ホフマンとの共演によって、トムのこの時点での“映画スター”としての方向性は、固まった。当然偉大な先輩たちのように、いずれ“アカデミー賞俳優”になることを、視野に入れていたと思われる。 『レインマン』に続いての出演作は、オリバー・ストーン監督の反戦映画『7月4日に生まれて』(89)。ベトナム戦争の戦傷で、車椅子生活を余儀なくされる、実在の帰還兵ロン・コーヴィックを演じたトムは、初めてアカデミー賞主演男優賞の候補となった。 “障害者”を演じると、アカデミー賞が近づくセオリー…。しかしこの年のオスカーは、『マイ・レフト・フット』で、脳性麻痺の青年を演じた、ダニエル・デイ=ルイスへと贈られた。 その後トムは、『ア・フュー・グッドメン』(92)で、ジャック・ニコルソンと共演。アカデミー賞の作品賞、助演男優賞、編集賞、音響賞にノミネートされたこの作品では、自らのノミネートは逃したが、キャメロン・クロウ監督の『ザ・エージェント』(96)では主演男優賞、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『マグノリア』(99)では助演男優賞の、それぞれ候補となった。受賞はならずとも、いずれはオスカーを手にする俳優という評価は、この頃までは揺るがなかったように思う。 そんな中で、自ら製作・主演する『ミッション;インポッシブル』シリーズが、96年にスタート。その時はまだ、「へえ、トム・クルーズって、“アクション映画”にも出るんだ」という印象が強かった。 しかしそれから20数年経って、今や『ミッション…』は、トムの代名詞のようなシリーズに。と同時に彼は、すっかりオスカー像からは遠ざかった、“アクション馬鹿一代”的な存在のスターになっていた。 ここで比較したいのが、初のノミネート時のライバルで、トムを破ったダニエル・デイ=ルイス。彼はその後、靴職人になるための修行で2000年前後に俳優を休業するも、『ハスラー2』のスコセッシ監督に乞われて、『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02)で復帰と同時に、いきなりオスカー候補に。 その後『マグノリア』のポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 (07)、スピルバーグ監督の『リンカーン』(12)で、2度目・3度目の主演男優賞を獲得。アカデミー賞史上で唯一人、主演男優賞を3度受賞するという偉業を成し遂げた。 アカデミー賞を度々獲るような俳優の方が、高級なキャリアというわけでは、決してない。しかしポール・ニューマンやダスティン・ホフマンといった名優に実地で学びながら、明らかにそちらの方向を目指していたであろうトムの歩みは、どこから大きく違っていったのであろうか? 世界各国でカルト宗教と目される「サイエントロジー」を、トムが熱心に信仰するようになったことと、無関係とは言えまい。一流の“映画スター”でありながらも、いつしかスキャンダラスな印象が拭えなくなっていったのが、こうした歩みを選ばせたのか? しかしそれはまた、別の話。稿を改めないと、とても語り尽くせないことである。■ 『レインマン』© 1988 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC.. All Rights Reserved
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PROGRAM/放送作品
(吹)レインマン 【TBS版】
人は生きる…かけがえのない大切な人と出会うために!兄弟の絆を描く、心あたたまる感動作
作品賞、主演男優賞、監督賞、脚本賞のアカデミー賞4部門を受賞したヒューマン・ドラマの金字塔。ダスティン・ホフマンとトム・クルーズの名演技が永遠に胸を打つ、80年代を代表する不朽の名作。
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COLUMN/コラム2018.12.13
燎原の火の如く燃え広がった「Me Too」運動の中で、私は『トッツィー』を思い出していた…。
2017年秋、ハリウッドの大物映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが、長年に亘って何人もの女優らに、セクハラや性的暴行を行っていたことが判明。それがきっかけとなって火が付いたのが、「Me Too」ムーブメントだった。 今まで沈黙を強いられてきた、性的な“虐待”や“嫌がらせ”の被害者たちの口から、数多の有名映画人の名が、“加害者”として挙げられていく。ケヴィン・スぺイシ―、ビル・コスビー、ロマン・ポランスキー、モーガン・フリーマン…。錚々たる顔触れの中でも、私が特にショックを受けたのは、“ダスティン・ホフマン”だった。 ホフマンと言えば、アクターズ・スタジオ仕込みの演技で、“アメリカン・ニューシネマ”の寵児となった俳優。マイク・二コルズ監督の『卒業』(1967)で一躍脚光を浴び、その後も『真夜中のカーボーイ』(1969)『小さな巨人』(1970)『わらの犬』(1971)『大統領の陰謀』(1976)等々、映画史に残る作品に次々と出演した。 そして“ニューシネマ”の時代が去った後には、『クレイマー、クレイマー』(1979)と『レインマン』(1988)で、アカデミー賞主演男優賞を2度手にしている。押しも押されぬ、名優にして大スターである。 日本の観客からも、ホフマンは長く絶大な人気を誇った。大塚博堂の「ダスティン・ホフマンになれなかったよ」(1976)など、彼をモチーフにした有名曲まで存在するほどだ。 そんなホフマンからの“性的嫌がらせ”を最初に告白したのは、ロサンゼルスに住む女性作家。彼女は1985年、17歳の時にインターンのスタッフとして参加したTVドラマ「セールスマンの死」の現場で、ホフマンからお尻を掴まれたり、卑猥な言葉を掛けられたりしたという。 これに対してホフマンはすぐに、「女性を尊敬する私らしくない行為だ。本当に申し訳ない」などと、正式に謝罪を行った。ところがその後も、女性プロデューサーや舞台で共演した女優などから、「彼から“性的虐待”を受けた」という告発が相次いだのである。 いずれも30年前後のタイムラグがあっての訴えで、真相を究明するのはもはや困難である。またワインスタインのように、権威を笠に着て“強姦”紛いのことを行ったわけではない。とはいえ今日の時勢では、「許されない」ことであり、今や80歳を超えたホフマンのキャリアに、少なからずダメージを与えたのは、間違いないようである。 繰り返しになるが、私は「Me Too」ムーブメントの中でも、青春期から親しんだ大スターであるホフマンの名前が挙がったことに、特に大きなショックを受けた。それは、彼のフィルモグラフィーの中に、本作『トッツィー』があることも大きい。 シドニー・ポラック監督による『トッツィー』の主人公は、ホフマンが演じる、売れない中年俳優のマイケル・ドーシ―。演技には定評があるものの、うるさ型の完璧主義者のため、誰も彼を起用しようとはしない。エージェント(ポラック監督自らが好演)からも、見放される始末である。 そんな鬱々とした日々の中でマイケルは、芝居仲間の女優サンディ(演;テリー・ガー)がTVの昼ドラ「病院物語」のオーディションを受けるのに付き合った際、自分より実力が劣る俳優が持て囃されている現実に直面する。そこで彼は、その翌日に何と女装して、そのドラマのオーディションへと乗り込むという暴挙に出る。 演出家のロン(演;ダブニー・コールマン)には相手にされなかったマイケルだが、その場で女性差別を指摘する啖呵を切ったところ、番組の女性プロデューサーのお眼鏡にかない、病院の経営者エミリー・キンバリーという重要な役どころを見事にゲット。その日からマイケル・ドーシ―変じて、女優ドロシー・マイケルズとしての日々が始まる。 エミリーを演じるに当たってドロシーは、セリフにアドリブをふんだんに盛り込んで、女性の権利を主張。自立した強い女性像を打ち出して、スタッフやキャストを驚かせる。それが視聴者にも大いに受け、“彼女”は注目の存在として、「TIME」や「LIFE」などの一流誌の表紙を飾るまでになる。 また撮影現場では、「ハニー」「トッツィー(かわい子ちゃん)」などと呼び掛けてくる演出家のロンに対して、「ちゃんと名前で呼んで」と毅然として反発。その姿勢が、後輩の女優たちからの尊敬を集めることにもなる。 そんな中でドロシーならぬマイケルは、共演者で看護師役のジュリー(演;ジェシカ・ラング)に恋をする。しかしジュリーにとってのドロシーは、先輩の“女優”としてあくまでも尊敬の対象に過ぎない。そのため、やもめ暮らしのジュリーの父親(演;チャールズ・ダーニング)の再婚相手にと、請われるようにまでなる。 どうにもならない想いに、身を引き裂かれそうになるマイケル。ある時ジュリーに対して衝動的にキスをしようとしたことから、レズビアンと勘違いされ、彼女から敬遠されるように。更には病院長役の老優ジョン(演;ジョージ・ゲインズ)に強姦されかけたりなどの憂き目に遭い、アイデンティティー崩壊の危機に陥る。 遂にはドロシーを捨て、本来の自分に戻る決断をしたマイケル。そのために彼は、衆目の集まるドラマの生放送中に、驚くべき行動を取るが…。 『クレイマー、クレイマー』で初のオスカーを得たキャリアの絶頂時に、次回作としてホフマンがチョイスしたのが、本作『トッツィー』である。本作の企画は、ホフマンがポラック監督らに投げ掛けた、次のような問いからスタートしたという。 「ねえ、ぼくが女だったらどうだろう?どんな人生になるのかな?」 役にのめり込むことで知られるホフマンは、特殊メークの力も借りながら、女性になり切ろうとした。ホントに男とバレないかをリサーチするために、女装のままレストランに出掛けたりもした。その際に、『真夜中のカーボーイ』で共演したジョン・ボイトにばったり会ったのだが、ボイトは、自分に話し掛けてきた女性ファンがホフマンだとは、まったく気付かなかったという。 そこまでして、リアルに作り上げたキャラクター。それが、売れない俳優のマイケル・ド―シーが、職を得るために女装したという設定の、女優ドロシー・マイケルズである。マイケルはドロシーを通じて、体毛の手入れやメイクなど日々の装いの煩雑さから、仕事の現場で受ける差別的な扱いまで、男社会の中で女性が生きていくことの大変さや不公平さを体験。それまでの己の傲岸不遜さにも、気付かされていく…。 『トッツィー』以前、アメリカ映画に於ける代表的な“女装もの”と言えば、ビリー・ワイルダー監督の『お熱いのがお好き』(1959)が挙げられる。この作品の中でも、ギャングから逃亡するために“女装”したジャック・レモンが、大富豪の老人に迫られている内に、段々と変な気持ちになっていくという描写はある。しかしこちらの“女装”は、あくまでもシチュエーションとしての面白さを追求した側面が強い。 それに対して『トッツィー』は、大いに笑わせる展開の中で、1970年代の“ウーマン・リブ”運動を経ても、未だ止まない女性差別の実状まで抉り出してもいる。2018年の今日見ると、LGBTの扱いなどで至らない描写も散見されるが、公開された1982年は、“セクハラ”などという言葉が一般化するよりも、遥かに以前。当時としては、実に革新的なコメディだったのである。 ホフマンは本作の演技で、この年度のアカデミー賞主演男優賞にもノミネート。ライバルに『ガンジー』(1982)のベン・キングスレーが居なかったら、2作続けてオスカーを手にする結果となっても、まったくおかしくない状況だった。 「Me Too」ムーブメントの中で、ホフマンに降りかかった火の粉に対して、「まさか!?」「あの『トッツィー』のホフマンが!?」。そんな思いを抱いた、私と同年代の映画ファンは、決して少なくなかったのでは、ないだろうか?◾︎ © 1982 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
ニューオーリンズ・トライアル
ジョン・グリシャムのベストセラーを映画化。陪審員制度の危険な盲点を浮き彫りにする法廷サスペンス
『ザ・ファーム/法律事務所』などの原作者ジョン・グリシャムのベストセラー小説を映像化。ジーン・ハックマンやダスティン・ホフマンら演技派スターが豪華競演し、法廷の裏で危険な駆け引きを繰り広げる。
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COLUMN/コラム2016.08.16
ミート・ザ・ペアレンツ2
恋人パム・バーンズ(テリー・ポロ)との結婚を、彼女の父ジャック(ロバート・デ・ニーロ)に渋々ながら認めてもらってから2年後。グレッグ・フォッカー(ベン・スティラー)は、結婚式の前にパムの両親を自分の両親に引き合わせることになった。 だが彼は恐れていた。弁護士と医師のカップルとジャックには説明していたものの、実際は父バーニー(ダスティン・ホフマン)は長い間専業主夫、母ロズ(バーブラ・ストライサンド)は高齢者専門のセックス・セラピストというジャックの価値観を超えた人々だったからだ。しかも二人とも奔放な性格で、元CIAのお堅いジャックとウマが合うはずがない。案の定、ジャックとバーニーは衝突し始め、騒動の中でパムの妊娠、そしてグレッグの隠し子疑惑まで発覚してしまう……。 『メリーに首ったけ』(98年)でトコトン不運なキャラを演じて、コメディ俳優として大ブレイクしたベン・スティラーが、ギャングや刑事といったコワモテなキャラを得意とする名優ロバート・デ・ニーロに散々にいたぶられる! 『ミート・ザ・ペアレンツ』(00年)はそんな絶妙のアイディアによって、世界中でメガヒットを記録したコメディ映画だった。 それから4年後に公開されたこの続編では、『Meet the Fockers(フォッカー家との面会)』という原題通り、ジャックの方が未来の義理の息子の一家と対面することになる。てっきりグレッグ同様の小心者の家族なのかと思いきや、息子とは正反対の豪快な両親という設定が意外で面白い。今作ではジャックも被害者側なのである。 そんな最強のフォッカー家の夫婦を、デ・ニーロとともに70年代のハリウッドを支えた大物俳優ダスティン・ホフマンとバーブラ・ストライサンドが扮するというサプライズ、しかもそれまで全く演じたことがなかったブッ飛んだキャラを演じるというインパクトはトンデモないものがあった。アメリカ本国だけで約2億8000万ドルという凄まじい興行収入を記録したことが、当時の笑撃を証明している。 監督のジェイ・ローチによると、当初バーニー役はバーブラの実の夫ジェームズ・ブローリン(『ウエストワールド』(73年)や『悪魔の棲む家』(79年)で知られる俳優。彼と前妻との間に生まれた子が今をときめくジョシュ・ブローリンだ)に演じてもらうことを考えていたらしい。 だが、その話が立ち消えになってしまい、ダメもとでダスティン・ホフマンに頼んだところ何故か快諾されたのだという。しかもローチが驚いたことには、『クレイマー、クレイマー』(79年)と『レインマン』(88年)で二度のアカデミー主演男優賞に輝く大名優は、バーニーそのままの天然な人だったそうなのだ。そのためか本作のホフマンは無理をしているところが全く無いどころか、無茶苦茶楽しそう。デ・ニーロとの硬軟対決もイイ味を出している。 本作で<本性>を現したホフマンは、これで肩の荷が下りたのか以後は、ウィル・フェレル主演作『主人公は僕だった』(06年)やアダム・サンドラー主演の『靴職人と魔法のミシン』(14年)、そしてジャック・ブラック扮する主人公パンダの師匠役の声を務めた『カンフー・パンダ』シリーズ(08年〜)といったコメディ映画における飄々とした脇役が当たり役となった。またストライサンドもセス・ローゲンと共演した『人生はノー・リターン ~僕とオカン、涙の3000マイル~』(12年)では、本作のロズとよく似たキャラを演じている。『ミート・ザ・ペアレンツ2』は、一時代を築いた名優たちの老後をも決定づけた重要作なのだ。 個人的には、本作におけるバーンズ家とフォッカー家の戦いには、デ・ニーロとホフマンというニューシネマ時代のスター同士の競演、真面目さと奔放さのせめぎあい以外にも、別の対立軸がひっそりと盛り込まれていると思う。それはW.A.S.P.とユダヤ系の差異だ。 W.A.S.P.とは、White Anglo-Saxon Protestant(白人のアングロ・サクソンのプロテスタント)の略称で、主にイギリスやドイツから渡ってきたプロテスタントのキリスト教徒のこと。イギリスの植民地だった時代からアメリカ社会の主流を占めているグループであり、現在までW.A.S.P.以外の大統領はジョン・F・ケネディ(カトリック教徒)とバラク・オバマ(父親がケニア人)しかいないことがその事実を証明している。 そんなW.A.S.P.の中でも支配階級と言えるのが、プレッピーと呼ばれるプレップ・スクール(名門私立高校)出身者だが、ブライス・ダナー演じるジャックの妻ディナが劇中で身につけている淡い色のサマーセーターやポロシャツのファッションはその典型といえるもの。おそらくバーンズ家はプレッピーという設定なのだろう。 一方のフォッカー家はユダヤ系だ。主に中欧や東欧に住んでいたユダヤ教徒を先祖に持つ彼らは、アメリカの人口比では2パーセントを占めるだけのマイノリティだが、ビジネスや学術の分野、そしてハリウッド映画界でも絶大なパワーを持つ。そのことによって「何か企んでいる」といった陰謀論が語られがちな人たちではあるのだけど、それは全くの言いがかりである。というのも、彼らの先祖がこうした仕事に多くいる理由は、人種差別によって農業に従事することを禁じられていたため、それ以外の分野を代々家業にせざるをえなかったからだ。そうしたら産業革命が起こり、彼らが携わっていた分野が重要視されるようになり、結果的に華やかなポジションに立ってしまったというわけだ。 ラビと呼ばれる宗教的指導者のもとで、旧約聖書の戒律に従って今も生きる超保守的な人々がいる一方で(興味がある人は、ジェシー・アイゼンバーグ主演作『バッド・トリップ 100万個のエクスタシーを密輸した男』(10年)を観てほしい)、その反動なのか無宗教や反体制の人々がやたらと多いのもユダヤ系の特徴である。ちなみにカール・マルクスやアレン・ギンズバーグ、ボブ・ディランはユダヤ系である。 もちろんフォッカー家は後者の流れに属する人々。そして彼らを演じるスティラー、ホフマン、ストライサンドも全員ユダヤ系だ。ただしスティラーの母親はカトリック(スティラーの両親であるジェリー・スティラーとアン・メイラは互いの宗教をネタにする夫婦漫才を得意芸としていた)で、W.A.S.P.役のデ・ニーロは本当はカトリック。ブライス・ダナーは自分はW.A.S.P.だが、夫だったブルース・パルトロウと娘グウィネス・パルトロウはユダヤ教徒だったりするので、現代のアメリカ社会は映画よりもずっと複雑なわけだが。 本作のラストを飾る結婚式のシーンもユダヤ教に則ったものだが、その司祭としてユダヤ教徒でも何でもないオーウェン・ウィルソン(しかもノークレジットのカメオ出演なので、当時観客はとっても驚いた)扮するケヴィンが再登場するのは、だから特大級のギャグなのである。 なおホフマンとスティラーは、ノア・バームバックの新作で、ユダヤ系家庭を描いたコメディ『Yeh Din Ka Kissa 』でも親子を演じる予定だ。しかもこの作品には『靴職人と魔法のミシン』でホフマンの息子役だったアダム・サンドラーも再びホフマンの息子役で出演する。つまりスティラーとサンドラーは兄弟を演じることになる。長年の友人同士でありながら、これまで共演の機会がなかったふたりのコメディ・レジェンドが、ホフマンというこれ以上ない重鎮の見守る中、ユダヤ系というアイデンティティのもとで共演する。個人的にはこれが今一番楽しみなコメディ映画だ。 © 2016 by UNIVERSAL STUDIOS and DREAMWORKS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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PROGRAM/放送作品
ファミリービジネス
窃盗犯の血を受け継ぐ祖父、息子、孫──犯罪ファミリーが巻き起こす騒動を描くコメディドラマ
泥棒稼業を巡って織りなされる親子3代の対立と絆を、ショーン・コネリーら新旧演技派俳優の競演で描く。個性的な祖父・息子・孫による駆け引きをユーモアを交えて軽快に描く、シドニー・ルメット監督の手腕が光る。
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COLUMN/コラム2013.03.31
2013年4月シネマ・ソムリエ
■4月6日『テンペスト』 シェイクスピアの同名戯曲を『クィーン』のオスカー女優H・ミレン主演で映画化。原作の男性主人公プロスペロを、プロスペラという女性に置き換えた愛憎劇である。 監督は、映画&演劇界で独創的な演出力を発揮しているJ・テイモア。原作のセリフを忠実に採用する一方、孤島の風景をダイナミックに捉え、大胆にCGを導入した。復讐に燃えるプロスペラ役のH・ミレンが、気迫に満ちた演技で怨念と母性を体現。ベン・ウィショー演じる妖精のキャラクターが、幻想的な興趣とユーモアを添えている。 ■4月13日『さらば、ベルリン』 1945年、ポツダム会談を取材するためにベルリンを訪れたアメリカ人ジャーナリスト、ジェイク。そこで元愛人のレーナと再会した彼は、巨大な陰謀に巻き込まれていく。S・ソダーバーグ監督が放ったミステリー劇。古典的なフィルムノワール風のモノクロ映像の中に、『カサブランカ』を彷彿とさせる男女の宿命的なドラマが展開する。終戦直後の混沌とした人間模様から浮かび上がってくるのは、複雑な秘密を隠し持つニーナという女性の肖像。C・ブランシェットが罪深くも美しいヒロインを好演した。 ■4月20日『アルフレード アルフレード』 “イタリア式コメディ”と呼ばれる艶笑喜劇の快作を多数世に送り出したP・ジェルミ監督の遺作。男性主人公の目線で“結婚”という題材を扱った奇想天外なドラマだ。冴えない銀行員アルフレードが、妖艶な美女マリア・ローザに猛アタックされて結婚式を挙げる。ところがその先に待ち受けていたのは、悪夢のような夫婦生活だった! D・ホフマンが突然モテ男になった主人公の困惑をコミカルに表現。恐ろしいほど情熱的で気まぐれなヒロインに扮したS・サンドレッリの怪演からも目が離せない。 ■4月27日『スティック・イット!』 チアリーディングを題材にしたヒット作『チアーズ!』の脚本家J・ベンディンガーの初監督作。女子体操競技の世界にスポットを当てた青春スポーツ・コメディだ。反逆児のレッテルを貼られながらも体操界に復帰した17歳の少女の奮闘を、ポップな映像&音楽とともに活写。何とコーチを演じるのはオスカー俳優J・ブリッジス!豪快な競技シーンをふんだんに盛り込みつつ、体操界の内幕もちらりと描出。大会に出場したヒロインたちが、審判の採点に猛抗議するという意外な展開にも驚かされる。 『テンペスト』©2010 Touchstone Pictures 『さらば、ベルリン』TM & © Warner Bros. Entertainment Inc. 『アルフレード アルフレード』1972@ MEDIATRADE 『スティック・イット!』© Touchstone Pictures. All rights reserved/© KALTENBACH PICTURES GmbH & Co. All rights reserved
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PROGRAM/放送作品
スリーパーズ
[PG12相当]心に同じ傷を負った仲間たちが復讐に挑む──豪華スターの競演で描く、実話を基にした衝撃作
実体験に基づく衝撃のベストセラー小説を『レインマン』のバリー・レヴィンソン監督が映画化。ブラッド・ピット、ロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマンなど超豪華キャストで描く社会派ドラマ。
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COLUMN/コラム2013.02.23
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2013年3月】銀輪次郎
ダスティン・ホフマン、アンディ・ガルシア、ジーナ・デイヴィス出演のハートウォーミングコメディ。飛行機事故の乗客を助けた男は、片方の靴を残して去っていった。靴を残したヒーローは一体誰か?突如名乗り出たヒーロー。世紀のヒーローを追いかけるメディア。自然と加熱するヒーローフィーバー。これって私たちの生活でもよく起こり得ることを上手く捉えた映画ではないでしょうか?自分は本当にヒーローに感動しているのか、それとも意図的に感動させられているのか。本物のヒーローとは何なのかをハッと気づかせてくれる映画に仕上がっています。作品中で本物のヒーローと偽物のヒーローを演じるのが、ダスティン・ホフマンとアンディ・ガルシア(二人とも若い!)。2人がビルに腰掛けて話すシーンで感動してしまった自分は、うまい具合にこの映画に感動させられたようです。 Copyright © 1992 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.