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PROGRAM/放送作品
ワイルドガン(2015)
キーファー&ドナルド・サザーランド親子が競演!銃を捨てたガンマンの葛藤と戦いを描く正統派西部劇
早撃ちの元殺し屋に扮するキーファー・サザーランドが、実の父ドナルドと親子役で競演。疎遠になった父との関係とその修復を、いっそう味わい深いものに彩る。銃を捨てたガンマンの心の葛藤も克明に描かれている。
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COLUMN/コラム2023.05.12
Jホラー世界へ!リメイク作品『ザ・リング』が成功した理由
時は2001年。「ドリームワークス・ピクチャーズ」のプロデューサーで共同代表者のウォルター・F・パークスとローリー・マクドナルドに、部下の社員から電話が入った「あんなに怖い映画はこれまで観たことがない。すぐに見るべきだ」 部下の勢いに気圧され、パークスとマクドナルドは予定をキャンセル。“ビデオ”でその作品を観ると、言われた通りにふたりとも恐怖に震え、すっかり魅了されてしまった。そして、そのリメイク版を製作することを決めたという。「ドリームワークス」が、1998年の日本の大ヒットホラー『リング』のリメイク権を買ったことは、本邦では大きなニュースとして伝えられた。94年に設立されたこの映画会社が、世界一のヒットメーカーであるスティーヴン・スピルバーグ監督を擁し、当時は新たなる“ハリウッドメジャー”の座を窺う存在と言われていたことも、その背景にはあったと思われる。 しかし一方で、この“吉報”に懐疑的な向きも少なくなかった。ハリウッドのスタジオが他国のヒット作をリメイクする権利を押さえても、実際には映画化に動かずじまいとなるケースは、山のようにある。増してや日本映画をリメイクした成功例となると、『七人の侍』(54)を翻案した『荒野の七人』(60)など、ごく僅かしか聞かない。 ところが翌2002年の11月には、『リング』のリメイク作品である『ザ・リング』が、早くも日本で公開される運びとなった。2週ほど先に公開されたアメリカでの“大ヒット”という、センセーショナルな話題を伴って。 この成功の主因は、プロデューサーを務めたパークスとマクドナルドの製作姿勢にあったと思われる。彼らはオリジナル版初見の際に自らが感じた“恐怖”を至極大切にして、このリメイク版を作り上げたのだ。 ***** シアトルの新聞記者レイチェル(演:ナオミ・ワッツ)は、変死した姪のケイティの死因を探ることとなる。 ケイティは死の1週間前、山小屋に出掛けていた。そこで一緒だった仲間3人も、彼女と同様に命を落としていた事実が判明。健康な4人の若者が、同日の同時刻に謎の死を遂げていたのだ。 レイチェルはケイティの同級生から、あるビデオテープに関する、こんな噂を聞く。「そのビデオを観た者は、7日後に死ぬ」 レイチェルは4人が泊まった山小屋で、そのビデオテープらしきものを発見。再生すると、血の波紋、鏡に映る女、梯子、馬の死体、燃え上がる木が次々と映し出される。そして、最後に映った井戸がノイズで消えると、背後の電話が鳴り響いた。 受話器を取ると、不気味な女の声で、「7日後…」と告げられる。 死んだ4人の若者がそうであったように、その日からレイチェルをカメラで撮ると、顔が醜く歪んで写るようになる。彼女は別れた夫ノア(演:マーティン・ヘンダーソン)に相談。ノアは当初、彼女の言うことを信じなかったが、やはりビデオを見た自分にも、同じ現象が振りかかってきたため、協力して「呪いのビデオ」の正体を追い始める。 ビデオに映っていたものや人物の正体を探る中、更に恐ろしいことが起こる。レイチェルの息子エイダン(演:デイヴィッド・ドーフマン)までもが、ビデオを再生。「死の呪い」に罹ってしまったのだ。 果たしてレイチェルは謎を解き、自分と元夫、そして息子に迫りくる死を避けることができるのか? ***** 本作『ザ・リング』では、原作として2作品がクレジットされる。鈴木光司の「リング」と、中田秀夫の『リング』だ。前者は鈴木が著し、1991年に出版された小説。後者は中田監督による、その映画化作品を指す。 鈴木の原作小説では、高校生の姪とその同級生の死の謎を追っている内に、「呪いのビデオ」を見てしまう主人公は、雑誌記者の浅川という男性。そしてその協力者となるのは、浅川の高校の同級生で、大学講師の高山竜司。30代の男性が2人で、ビデオの謎を追っていく。 浅川には、妻と1歳6か月になる女児がいる。そしてこの2人が誤って「呪いのビデオ」を見てしまう。 そのため浅川は、自分のみならず、愛する家族を何とか救おうと必死になる。そしてある意味、人倫にもとる行為に走っていく…。 この辺り、スティーヴン・キングの「ペット・セマタリー」(1989年と2019年に映画化された『ペット・セメタリー』の原作)などからの影響も感じる。この作品を執筆中は“主夫”でもあったという鈴木光司は、意識的に“父性愛”の物語を紡いだのだ。 鈴木の「リング」は、まずは95年にTVドラマ化された。私は未見なので詳細には触れられないが、比較的原作に忠実に作られた作品だったと言われる。 そして98年、中田秀夫監督による映画化作品が公開。こちらは「呪いのビデオ」の設定などは生かしながら、かなりの改変を施している。 代表的な変更点を挙げる。まずはキャラクター。映画化作品では浅川を、TV局の女性ディレクターに変えた。そして高山は、その元夫という設定。この元夫婦の調査行の合間に、誤って「呪いのビデオ」を見てしまうのは、浅川が引き取って女手一つで育てている、小学生の一人息子・陽一である。 因みに高山は超能力の持ち主であり、息子である陽一も、その能力を引き継いでいる描写がある。 これらは、『リング』の脚本家である高橋洋が、監督と相談しながら行った変更。当初から95分という上映時間が課せられていたため、複雑な因果関係を整理。鈴木こだわりの“父性愛”を、観客にも伝わり易いであろう、“母性愛”へとシフトチェンジした。 そしてこの設定は、ヒロインの元夫が超能力の持ち主という部分はカットしながらも、そのままリメイク版『ザ・リング』へと引き継がれる。 『リング』と言えば、この作品の内容を詳しく知らない者でも、その名を知っているのが、“貞子”であろう。「呪いのビデオ」は、山村貞子という、念じるだけで他者を殺害できるほどの、強大な超能力の持ち主の“怨念”によって生まれた。その設定は、原作からそのまま、映画化作品に引き継がれたものである。 しかしながら、すでに死者である貞子が、生きている人間をいかにして殺害するのか?原作と映画では、大きく違っている。 その違いを表すのに、まずは原作から一部抜粋する。高山竜司が「呪いのビデオ」を見てちょうど1週間後に、死に至る局面だ。 *** 「ヤベエ、やって来やがった……」 …渾然一体となった音の群れが、ふわふわと人魂のように揺れ出したのだ。現実感が遠のいていく……、 胸は早鐘を打った。何者かの手が胸の中にまで伸び、ぎゅっと心臓を摑まれたような気分であった。背骨がキリキリと痛んだ。首筋に冷たい感触があり、竜司は驚いて椅子から立ち上がりかけたが、胸から背中にかけての激しい痛みに襲われていて床に倒れ込んだ。 *** そして高山は鏡の中に、~頬は黄ばみ、干乾びてゴウゴウとひび割れ、次々と抜け落ちる毛髪の隙間には褐色のかさぶたが散在している~百年先の自分の姿を見て、遂には絶命してしまう。即ち高山は、「貞子の呪い」という概念に襲われて、命を落とす。 これをこのまま、映像にする手もあっただろうか?しかし映画化作品では、「貞子の呪い」を、極めて具体的な形を持ったものへと改変した。高橋洋による、シナリオの抜粋をする。 *** TVにあのビデオが、最後の井戸の場面が映っていた。激しく画面が乱れ、幾度も砂嵐が走りながら、井戸からズルズルはい上がる女の姿が見える。シャーッ……と音が高まってゆく。女はゆっくりとこちらに近づいて来る。 恐怖にすくみながらも、電話に向かおうとすると、女はブラウン管からズルズルとこちらの世界にはみ出してきた。まるであの世に通じる窓を乗り越えるように。 廊下へ逃れた竜司に女が迫って来る。首を捩れたように垂らし、時折ひきつるように振りながら、ズルリズルリと足を引きずる……、人間の動きではない。そして間近に迫り、顔を上げたのだ。髪の間から何も見ていない狂人のような眼が覗いた。竜司は断末魔の声と共に白い光に呑まれた。 *** 貞子ははっきり、“幽霊”として現れる。そして高山に襲いかかり、呪い殺してしまうのである。 リメイク版の『ザ・リング』では、貞子に当たるのは、サマラという少女。孤児であったサマラは引き取られた先で、義父母ら周囲に災厄をもたらす存在として描かれる。生前の貞子のような、超能力者ではない。印象としては、『オーメン』(76)に登場する“悪魔の子”ダミアンのような、邪悪な存在といった体だ。 そんなサマラだが、クライマックスでは、ほぼオリジナルと同じ形で、幽霊として実体化。TVのブラウン管から這いずりだして、高山ならぬノアの命を奪ってしまうのである。『ザ・リング』の監督を務めたゴア・ヴァービンスキーは、リメイクに当たって最も気を付けたのは、「…オリジナルを台無しにしないこと…」だったと語っている。そして、「…インパクトの強いところは、全部残すようにした…」という。 4,800万ドルの製作費で作られた『ザ・リング』は、全米で1億3,000万㌦、全世界では2億5,000万㌦近い興行収入を上げる大ヒット。いわゆる“Jホラー”が、世界に通用する証左となった。 余談であるが、「ドリームワークス」が、『リング』のリメイク権を買って、日本側に払ったのは、100万㌦。『リング』の製作費は1億5,000万円だったので、これだけでほぼペイしてしまう計算となる。 とはいえ、『ザ・リング』の売り上げを考えると、100万㌦などは微々たるもの。ところが契約の関係で、いくらアメリカで大当たりしても、日本側のプロデューサーや監督、脚本家には、ほとんど実入りはなかったという。 オリジナルのプロデューサーの1人、一瀬隆重はそれを教訓に、やはり“Jホラー”の『呪怨』をハリウッドリメイクする際には、成功報酬型の契約を結び、自らも参画。見事に大ヒットとなったこのリメイク作品の、純利益の3分の1という報酬を手にすることに、成功した。 さて日本の映画界では、『リング』第1作から四半世紀経っても、手を変え品を変え、未だにシリーズ…というか、貞子が登場するホラー作品が作り続けられている。それはもはや、鈴木光司の原作からは遠く離れたものとなっている。 ハリウッドでも、『ザ・リング』はシリーズ化。日本版とは違った独自の展開を見せる、『ザ・リング2』(2005)『ザ・リング リバース』(17)が製作されている。 ウィルスは形を変えて、生き残りを図るという。映画界に於ける“リング・ウィルス”も、また然りである。■ 『ザ・リング』TM & © 2002 DREAMWORKS LLC.
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PROGRAM/放送作品
ザ・リング
[PG-12]“呪いのビデオ”の恐怖が海を渡る…傑作Jホラー『リング』をハリウッド・リメイク
1998年の大ヒットJホラー『リング』をハリウッドでリメイク。オリジナル版の設定と展開だけでなく、日本的な湿った恐怖感も忠実に再現されている。呪いのビデオの謎の解明に挑む女性をナオミ・ワッツが好演。
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COLUMN/コラム2019.02.07
長い黒髪に白い乳房!名もなき美女の全裸死体に隠された忌まわしい秘密とは?今宵、想像を絶する恐怖があなたを襲う!〜『ジェーン・ドウの解剖』〜
バージニア州の小さな町。とある平凡な一軒家で、住人全員が無残な遺体で発見される。警察が現場を検証したところ、外から誰かが侵入したような形跡はなく、むしろ被害者たちは家からの脱出を試みていたようだ。困惑する保安官。すると、家の地下室から土に半分埋まった美しい女性の死体が見つかる。女性の身元も住人との関係も不明だが、なぜか彼女だけ目立った外傷がない。事件の謎を解明するためにも、この女性の死因を特定することが急務だ。そこで保安官は、20年来の付き合いがある「ティルデン遺体安置&火葬場」へ女性の死体を持ち込み、明日の朝までに検死結果を報告するよう依頼する…。 ジェーン・ドウとは女性の身元不明死体のこと。英語圏では古くから、身元の分からない男性の死体を「ジョン・ドウ」と呼ぶ習慣がある。これはなにも死体だけに限らず、身元不明男性全般や実名を明かしたくない場合の匿名、もしくは「どこにでもいる平凡な男」の意味としても使われるので、さしずめ日本で言う「名無しの権兵衛」みたいなものだろうか。その女性版がジェーン・ドウというわけだ。最近では、’16年にアメリカで「13歳の時ドナルド・トランプ大統領にレイプされた」と訴え出た女性が、身バレを恐れてジェーン・ドウの匿名を使用していたことも記憶に新しいだろう。 さて、一家全員が謎の死を遂げた不可解な殺人事件。その家の地下室から無傷で発見された身元不明の女性「ジェーン・ドウ」の死体。運び込まれた民間の古い遺体安置所で、ベテラン検死官トミー・ティルトン(ブライアン・コックス)とその息子で助手のオースティン(エミール・ハーシュ)による死因の究明が始まる。 一見したところ目立った外傷はなし。年齢は20代半ばから後半といったところか。眼球はグレーに濁っている。ということは、死後数日は経っているはずだが、しかし死後硬直はまだ見られない。しかも、骨格の大きさに対してヒップが細すぎる。手首や足首が折れているのもおかしい。爪から採取された土は、この近辺にはない泥灰だ。なによりも2人が衝撃を受けたのは、口を開けてみると舌がちぎり取られていたこと。外見上から判断すると人身売買の被害者と似ているが、それにしてもおかしなことが多すぎる。この死体はいったい「何」なのか?その疑問を解明するべく、2人はさらにジェーン・ドウの体にメスを入れ、その中身を調べ始めるのだが、謎はより一層のこと深まっていく。 と、ここまで予備知識のないまま見てきた観客は、もしかするとテレビドラマ『BONES』のような科学捜査をテーマにした犯罪ミステリーを期待するかもしれない。だとすると、この後の展開にはいろいろな意味で驚かされることだろう。科学的に説明のつかない臓器の状態、そこから発見される思いがけないもの、そして、まるで解剖の邪魔をするかのように次々と起きていく不気味な怪現象。そう、これは身元不明の美しき女性の死体を巡って、予想だにしなかった超自然の恐怖が頭をもたげる、紛れもないオカルト・ホラーなのだ。 ユニークなのは、ほぼ全編を通して物語が遺体安置所の中だけで進行することだ。これはなかなか珍しい。確かに、遺体安置所というセッティングはホラー映画に欠かせない要素のひとつであり、例えばホルヘ・グラウ監督のスパニッシュ・ホラー『悪魔の墓場』(’74)やルチオ・フルチ監督の怪作『ビヨンド』(’81)などでも効果的な使われ方をしていた。女性検死官が主人公の『炎のいけにえ』(’74)なんていう隠れた名作もあるし、病院の遺体安置室が重要な役割を果たした『ZOMBIO/死霊のしたたり』(’85)を想起するホラー映画ファンも多いことだろう。 また、マイナーなところでは、遺体安置所がカルト教団の巣窟だったビル・パクストン出演の『モーチュアリー』(’83)も印象的だ。そうそう、病院の研修生たちが解剖実験用の死体に呪われるという『屍体』(’06)なんて映画もあった。これなどは設定的に本作と近いものがある。とはいえ、遺体安置所という限定された空間内でほぼ展開する作品となると、病院の遺体安置室で3人の若者が人気女優の死体をレイプしたところ蘇生してしまう『レイプ・オブ・アナ・フリッツ』(’15)と本作ぐらいしかパッとは思い浮かばない。しかも、『レイプ・オブ・アナ・フリッツ』はホラーではなく犯罪スリラーだ。 監督を手掛けたのは、ドキュメンタリー映画を撮影中の学生たちが北欧伝説の巨大な妖精トロールに遭遇するという、モキュメンタリー形式のダークファンタジー映画『トロール・ハンター』(’10)で話題を呼んだノルウェー出身のアンドレ・ウーヴレダル。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(’99)から『死霊高校』(’15)まで、はたまた『チュパカブラ・プロジェクト』(’00)から『クローバーフィールド/HAKAISHA』(’08)に至るまで、散々やり尽くされてきた感のあるモキュメンタリーのジャンルに「モンスター・ハント」という要素を持ち込んだアイディア、低予算ながらもユーモアを交えて工夫を凝らした演出は特筆すべきものだったが、しかしウーヴレダル監督本人にとってこの作品で注目されたことは、多少なりとも不本意な部分があったようだ。 というのも、モキュメンタリーというのは単なるギミックに過ぎないという面も否定できない。本来の自分のスタイルではない、との思いが強かったみたいだ。とりあえず『トロール・ハンター』の商業的成功で、世間的に名前は認知された。次の作品では真っ当な映像作家としての腕前を実証したい。しかし、ハリウッドに招かれたのは良かったが、声をかけられたプロジェクトはひとつも実を結ばず。そんな折、ジェームズ・ワン監督の『死霊館』(’15)を見て感銘を受けたウーヴレダル監督は、「自分もこういう映画を撮りたい!」とエージェントに働きかけたところ、しばらくしてから本作の脚本が送られてきたのだという。 ハリウッドでは「ブラック・リスト」(未映画化脚本の人気投票ランキング)の上位にも名前が挙がっていたという本作。映画の前半と後半でジャンルがガラリと変わるという意外性の面白さもさることながら、描き込まれた登場人物の背景や性格が、ストーリーの上でちゃんと意味を成している点がとてもいい。 主人公は100年近く続くティルデン遺体安置&火葬場の3代目経営者トミーと、その息子オースティン。トミーは自殺した亡き妻の死に強い責任を感じており、普段は表に出さずとも罪悪感に今なお苦しんでいる。そんな重い空気に耐えかねてか、家を出て恋人と暮らすことを考えているオースティンだが、しかし父親への深い愛情ゆえになかなか決心がつかない。複雑でありながらも強く結ばれた親子の絆。どこからどう見ても共感しか生まれないこの2人に、理不尽な恐怖が襲い掛かることとなる。 さらに、2人の性格の違いが明確に描かれているところも要注目だ。「目と手で確認できること以外は気にするな」という徹底した合理主義的な立場で、ジェーン・ドウの死因を解明しようとする父親トミーと、死因だけではなくその理由にも思いを馳せることで、その正体に迫ろうとする息子オースティン。このまるで対照的な彼らの分析や推論を通して、はじめはただの「物体」に過ぎなかった死体に少しずつ人間としての個性が宿り、いつしか観客が感情移入できる「キャラクター」へと変化していくのだ。 そればかりか、やがてこの死体が持つ明らかな「意志」や「目的」までもが見えてくる。ネタバレになるので詳しくは延べないが、ジェーン・ドウには歴史の闇に埋もれた恐ろしくも哀しい由来があったのだ。おのずと少なからぬ同情を寄せていくトミーとオースティン。しかし、この心優しい親子に対する容赦のない攻撃はエスカレートし、ジェーン・ドウが疑いようもなく邪悪な存在であることが明確になっていく。相手が善人だろうが悪人だろうが、もはや復讐の塊となった彼女には関係がないのだ。これはある意味、日本の怪談にも通じる「怨念」の怖さだと言えるだろう。 不器用で口数の少ないトミー役にはシェイクスピア俳優としても評価の高いイギリス出身の名優ブライアン・コックス、繊細で感受性豊かな青年オースティン役には『イントゥ・ザ・ワイルド』(’07)と『ミルク』(’08)の演技が絶賛されたエミール・ハーシュ。ホラー映画とは馴染みの薄い正統派俳優を主演に得たことで、複雑でありながらも深くて固い親子の絆のドラマにも厚みが加わる。そんな2人の些細な感情の機微までをも汲み取り、丹念な筆致で恐怖を盛り上げていくウーヴレダル監督の演出は、まさしく古典的ホラー映画の王道だ。一歩間違えると悪趣味になりかねない解剖シーンも、医療ドキュメンタリーさながらの正確な表現を貫くことで、機能美的な芸術性すら備えている。 その功績は、ジェーン・ドウ役の女優オルウェン・ケリーに負う部分も大きいだろう。本業はファッション・モデルであるオルウェン。その訓練で培ったヨガの呼吸法を駆使して、美しき死体を完璧なまでに演じている。もともとプロデューサー陣は人間そっくりのダミーボディを使おうと考えていたらしいが、ウーヴレダル監督は絶対に生身の女優を起用すべきだとの意見を押し通したという。もちろん、メスを入れて解剖されるシーンはダミーだが、それ以外は全てオルウェン本人。監督は照明の角度やカメラの位置を工夫することで、微動だにしない死体の顔に表情を与えていく。あたかも、何かを考え意図しているかのように。これはやはり、生身の人間でなくては説得力が生まれなかったであろう。 初の英語作品となった本作で、シッチェス=カタロニア国際映画祭の審査員特別賞をはじめ、数々の映画賞に輝いたウーヴレダル監督。次回作は作家アルヴィン・シュワルツのベストセラー児童文学「Scary Stories to Tell in the Dark(真夜中に語る怖い話)」の映画化で、ギレルモ・デル・トロが製作と共同脚本を手掛けている。原作は古い伝承や都市伝説を基にした怪奇譚を集めた短編集だが、映画化版では小さな田舎町で起きる様々な怪事件の謎にティーンエイジャーたちが迫っていくことになるという。全米公開は’19年8月の予定。これを機にハリウッド・メジャーへの進出と相成るか、今から楽しみである。■ ©2016 AUTOPSY DISTRIBUTION,LLC ALL RIGHTS RESERVED
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PROGRAM/放送作品
(吹)ザ・リング
[PG-12]“呪いのビデオ”の恐怖が海を渡る…傑作Jホラー『リング』をハリウッド・リメイク
1998年の大ヒットJホラー『リング』をハリウッドでリメイク。オリジナル版の設定と展開だけでなく、日本的な湿った恐怖感も忠実に再現されている。呪いのビデオの謎の解明に挑む女性をナオミ・ワッツが好演。
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PROGRAM/放送作品
ボーン・スプレマシー
マット・デイモン主演の大ヒットのスパイ・サスペンス「ジェイソン・ボーン」シリーズ第2弾!
マット・デイモンが記憶喪失のCIAエージェント、ジェイソン・ボーンを演じたメガヒットのスパイ・サスペンス『ボーン・アイデンティティー』の続編。前作では追われる身であったボーンが本編では追う立場に!
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PROGRAM/放送作品
ボーン・アイデンティティー
マット・デイモン主演メガヒット・スパイ・アクション“ジェイソン・ボーン”シリーズの第1作!
本格的なアクションに挑んだマット・デイモンが孤高なヒーローを見事に演じた謎が謎を呼ぶ緊張感満載のスパイ・アクションの傑作! 原作はミステリーの神様ロバート・ラドラムの『暗殺者』。続編2作品も大ヒット。
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PROGRAM/放送作品
ラブ・オブ・ザ・ゲーム
誇りのため、愛のため、男は最後の試合で快挙に挑む。ケヴィン・コスナー主演の感動野球ドラマ
鬼才サム・ライミ監督のオーソドックスかつ感動的な演出に導かれ、ケヴィン・コスナーが引退目前のベテラン投手を哀愁満点に好演。現役や往年のメジャーリーガーたちが多数出演し、野球映画として真に迫っている。
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PROGRAM/放送作品
チャーチル ノルマンディーの決断
ノルマンディー上陸作戦までの96時間、何があったのか?イギリス首相チャーチルの困難を描く歴史ドラマ
連合国軍のノルマンディー上陸作戦が決行されるまでの裏側を再現。人道主義の立場から作戦に反対した英国首相チャーチルを名優ブライアン・コックスが生身の演技で熱演し、等身大の苦悩をむき出しに魅せる。
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PROGRAM/放送作品
ワイルドガン
キーファー&ドナルド・サザーランド親子が競演!銃を捨てたガンマンの葛藤と戦いを描く正統派西部劇
早撃ちの元殺し屋に扮するキーファー・サザーランドが、実の父ドナルドと親子役で競演。疎遠になった父との関係とその修復を、いっそう味わい深いものに彩る。銃を捨てたガンマンの心の葛藤も克明に描かれている。