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PROGRAM/放送作品
ハリケーンアワー
巨大ハリケーンの猛威で孤立した病院で我が子を守る!ポール・ウォーカー主演の決死のサバイバルサスペンス
ハリケーン・カトリーナの襲来によって生後間もない娘と共に病院に取り残された男の苦難と絶望をポール・ウォーカーが緊迫感満点に熱演。2013年11月にポールが交通事故で亡くなった翌月に全米公開された。
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COLUMN/コラム2024.02.07
“1969年”という時代が生んだ、“アメリカン・ニューシネマ”の傑作『イージー・ライダー』
俳優ヘンリー・フォンダの息子としてこの世に生を授かった、ピーター・フォンダ(1940~2019)。幼少期に母が自殺したことなどから、父に対して長くわだかまりがあったと言われる。しかし姉のジェーン・フォンダと共に、名優と謳われた父と同じ“演技”の道へと進んだ。 彼が人気を得たのは、“B級映画の帝王”ロジャー・コーマンが製作・監督した、『ワイルド・エンジェル』(1966)の主演による。実在するバイクの暴走グループ“ヘルズ・エンジェルス”を描いたこの作品で、若者のアイコンとなったのだ。 その翌年=67年に主演したのが、同じくコーマン作品の『白昼の幻想』。こちらは合成麻薬である、“LSD”によるトリップを描いた内容である。自身その愛好者で、「アイデンティティの危機がLSDによって救われた」と語っていたピーターは、この作品の脚本を初めて読んだ時、「こいつはアメリカでこれまでに作られたなかの最高の作品になる!」と、叫んだという。 その脚本を書いたのは、当時は「売れない」俳優だった、ジャック・二コルソン(1937~ )。いつまでも芽が出ない役者業に見切りをつけて、本格的に脚本家としての道を歩んでいくべきかと、悩んでいた頃だった。 ニコルソンが自らの豊富な“LSD”体験をベースに描いた脚本の出来に、ピーターは感激。それまでは特に親しくしていたわけではない、二コルソンの家へと車を飛ばし、感謝の気持ちを伝えたという。 しかし実際に撮影され完成した作品は、ピーターにとっても二コルソンにとっても、大きな不満が残るものとなった。いかに「安く」「早く」「儲かる」作品を作るかを優先するコーマンの製作・監督では、脚本に書かれた想像力溢れるトリップのシーンなどが、どうしてもチープな作りとなってしまう。その上配給元の「AIP」の手も入って、ピーターやニコルソンのイメージとは、まったくかけ離れたものとなってしまった。 ピーターにとって良かったのは、コーマンに頼み込んで、この作品に脇役で出演していた、親友のデニス・ホッパー(1936~2010)に、一部演出を任せられたことだ。絵画や写真にも通じていたホッパーが撮った映像は、コーマンとは明らかに異質な、美しく詩的なイメージに溢れていた。 ピーターは以前から、ホッパーと組んでの“映画作り”を目論んでおり、『白昼の幻想』が、その試金石となった。これなら彼に、“監督”を任せられる! そして67年9月。『白昼の幻想』プロモーションのために滞在した、カナダ・トロントのホテルで、運命の瞬間が訪れる。 酒を煽り、睡眠薬も飲んで、ひょっとしたらマリファナも吸っていたのかも知れない。そんな状態のピーターだったが、サインを頼まれていた、出世作『ワイルド・エンジェル』のスチール写真が目に入った。それは1台のバイクに、ピーターと共演者が跨っているものだった。 ピーターは、閃いた。1台のバイクに2人ではなく、2台のオートバイそれぞれに、1人の男が乗っていたら…。「はぐれ者ふたりが、バイクでアメリカを横断していく現代の西部劇」だ! 映画のアイディアが浮かんで、ピーターが電話を掛けた相手は、ホッパーだった。「それは凄いじゃないか!」と言ったホッパーは、続けて「それで一体どうしようっていうんだい?」と尋ねた。 ピーターは、自分がプロデューサーをやるから、ホッパーに監督をやって欲しいと伝えた。その方が、金の節約にもなる。 そこから2人は、随時集まってはとことん話し合った。そして決めたことをどんどんテープに吹き込んでいった。 アイディアを煮詰めていく最中、ピーターは1ヶ月ほど、『世にも怪奇な物語』(68)出演のため、ヨーロッパへと向かう。その間ホッパーとのやり取りは、手紙となった。 ある日ピーターの撮影現場に、脚本家のテリー・サザーン(1924~95)が、陣中見舞いに現れた。サザーンはピーターから、この企画の話を聞いて、協力を申し出た。 そしてサザーンの思い付きから、映画のタイトルが決まる。元は「売春婦とデキてて、ヒモじゃないけど女と一緒に暮らしてる奴」を意味するスラングだという。それが、『イージー・ライダー』だった。 ***** コカインの密輸で大金を得たワイアット(演:ピーター・フォンダ)とビリー(演:デニス・ホッパー)は、フル改造したハーレーダビッドソンを駆って、カリフォルニアから旅立つ。マリファナを吸いながら、向かう目的地は、“謝肉祭”の行われるルイジアナ州ニューオーリンズ…。 ***** トムとホッパーは、プロットを書いた8頁のメモしかない状態で、映画の資金を出してくれる、スポンサー探しを始める。ピーターが当初アテにした「AIP」は、これまでに撮影現場の内外で度々トラブルを起こしてきたホッパーに恐れをなして、出資を断わった。 結局スポンサーとなったのは、当時TVシリーズ「ザ・モンキーズ」(66~68)で大当たりを取っていたプロデューサーの、バート・シュナイダー。37万5,000㌦の資金を提供してくれることとなった。 そして『イージー・ライダー』は、68年2月23日にクランク・イン。この日は、ピーターの28歳の誕生日だった。 まだ脚本は完成しておらず、撮影機材も揃ってない状態だったが、まずは1週間のロケを敢行。“謝肉祭”で盛り上がるニューオーリンズの町中を、ピーターとホッパーが、娼婦2人を連れて練り歩くシーンと、その4人で墓地へと出掛けて、LSDによるバッドトリップを経験するシーンの撮影を行った。 撮影は初日から、“初監督”のプレッシャーを抱えたホッパーのドラッグ乱用によって、波乱含み。当初決まっていた撮影監督は、この1週間だけでホッパーとの仕事に嫌気が差して、現場を去った。 こうしたトラブルの一方でホッパーは、LSDトリップのシーンで、監督としての非凡な才を遺憾なく発揮。ピーター本人の内面に眠っていた、自殺した母への想いなどを、引き出してみせた。 最初の1週間を終えると、ピーターは脚本を仕上げるために、ニューヨークへ。ホッパーは、残りのシーンのロケハンへと向かった。ホッパーに言わせると、ピーターとテリー・サザーンが、結局1行たりとも脚本を書けなかったため、最終的に脚本は自分1人で仕上げたということなのだが、この辺りは証言者によって内容に食い違いがあるので、定かではない。 ***** ワイアットとビリーは、長髪に髭という風体もあって、安モーテルからも宿泊拒否され、行く先々で野宿を余儀なくされる。 旅先で心優しき人々と出会ったり、ヒッピーのコミューンで、安らぎの一時を送ることもあった。しかしちょっとしたことで、監獄にぶち込まれてしまう。 その監獄で、アル中の弁護士ジョージ・ハンセン(演:ジャック・ニコルソン)と出会う。彼の口利きで釈放された2人は、旅に同行したいというハンセンを乗せ、アメリカ南部の奥深い地域までやって来るが…。 ***** 最初の1週間で降りた撮影監督の代役には、当時B級映画の撮影を数多くこなしていた、ハンガリー出身のラズロ・コヴァックスが決まった。しかしもう1人、慌てて代役を見つけなければならない者がいた。 ジョージ・ハンセン役には、当初リップ・トーンが決まっていた。しかしギャラや脚本の手直しなどで折り合いがつかず、ホッパーと大喧嘩になって、降板。 その代役として、プロデューサーのバート・シュナイダーが推したのが、奇しくもピーター・フォンダと『白昼の幻想』で意気投合した、ジャック・ニコルソン。シュナイダーが製作総指揮を務めた、『ザ・モンキーズ 恋の合言葉HEAD!』(68)で、ニコルソンが脚本を書き、出演もしていた縁だった。『イージー・ライダー』の撮影中、ワイアットとビリーに遭遇する人々は、実際に各ロケ地で集めた人々を軸に、キャスティングされていた。その方が、おかしな出で立ちのよそ者に対する警戒心や嫌悪、敵意など、生の感情が引き出せるという、ホッパーの計算があった。 ジョージ・ハンセン役にしても、その流れなのか、ホッパーはトーンの代役には、テキサス訛りのできる田舎臭い人間を考えていたという。そのためニコルソンの起用には、猛反対。しかし渋々使ってみたところ、彼の演技はホッパーが、「最高」と認めざるを得ないものだった。 因みにワイアット、ビリー、ジョージの3人で焚き火を囲んで、マリファナを吸うシーンで、ニコルソン演じるジョージは、初体験のマリファナが、徐々にきいてくるという設定。ところが本物のマリファナを使っているこのシーンでは、何度もリテイクがあったため、ニコルソンは実際にはマリファナが相当きいていながら、しらふの状態を演じざるを得なくなったという。 ジョージは結局、3人で野営しているところを、彼らを敵視した近隣の住民に襲われて、いち早く命を落としてしまう。その直前に焚き火に当たりながら、彼がワイアットとビリーに話した内容は、本作の中で屈指の名セリフとなった。「連中はあんたが象徴する自由を怖がってるんだ」「自由について話すことと、自由であることは、まったく別のことだ。……みんなが個人の自由についてしゃべるけど、自由な個人を見ると、たちまち怖くなるのさ」 そして彼は、「怖くなった」者たちに、命を奪われてしまうわけである。残された2人も、ワイアットの「俺たちは負けたんだ」のセリフの後に、映画史に残る、衝撃的な最期を迎えることになるわけだが…。 2週間半の撮影が、終了。そして1年ほどの編集期間を経て、作品は完成に至った。 2台のバイクが疾走するシーンには、かの有名なステッペンウルフの「ワイルドでいこう!= Born to Be Wild」をはじめ、必ず既成のロック・ミュージックが掛かるが、これは当時としては斬新なスタイル。それぞれの曲の歌詞が、映画の中の主人公たちの行動と結びつけられており、またホッパーによって、音楽と画面が合うように編集されていた。 本作は69年5月、「カンヌ国際映画祭」に出品されると、「新人監督による作品賞」「国際エバンジェリ委員会映画賞」が贈られた。 そして7月14日。ニューヨークでの先行公開を皮切りに、大ヒットを記録。最終的に6,000万㌦以上の収益を上げた。これはそれまでのハリウッドの歴史上では、予算に対しての利益率が、他にないほど頭抜けた興行成績だった。 ヘンリー・フォンダはこの偉業に対して、「畏敬の念をおぼえる」と、プロデューサー兼主演を務めた、我が子を称賛。ピーター・フォンダは、長い間欲してやまなかったものを、遂に手にすることができたのだ。 デニス・ホッパーは、ハリウッド最注目の新人監督となって、本作以前に取り掛かろうとして頓挫していた、『ラストムービー』(71)の企画を本格的に動かすことに。これが彼のキャリアに長き低迷をもたらすことになるのだが、それはまた別の話。 一旦は俳優廃業も考えていたジャック・ニコルソンは、まさにこの作品を契機に、後にはアカデミー賞を3度受賞する、ハリウッド屈指の名優に育っていく。 作品自体は、いわゆる“アメリカン・ニューシネマ”の1本として、映画史にその名を刻み、1998年には、「アメリカ国立フィルム登録簿」に永久保存登録が決まった。 ピーターとホッパー、ニコルソンの3人が揃い踏みする“続編”的作品が、幾度か企画された。しかしその内2人が鬼籍に入り、1人が引退状態の今、もはやあり得ないお話である。 “リメイク”が進められているというニュースもあったが、1969年という時代にあの3人だったからこその“傑作”であった『イージー・ライダー』を、果してアップデートすることなど、可能なのだろうか?■ 『イージー・ライダー』© 1969, renewed 1997 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
プレデターズ
[PG12]最凶宇宙人ハンターVS殺し屋集団!ロバート・ロドリゲス製作によるSFサバイバルアクション
『アリータ: バトル・エンジェル』のロバート・ロドリゲス監督がプロデューサーを務めた「プレデター」シリーズ第3弾。個性と戦闘力を増した最凶のプレデターが、恐怖を煽りながら人間狩りをしていく。
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NEWS/ニュース2024.01.25
『ワイルド・スピード【ザ・シネマ新録版】』TV初放送直前 爆走!完成披露試写会イベントレポート
『(吹)ワイルド・スピード【ザ・シネマ新録版】【4Kレストア版】』の完成披露試写会が1月23日(火)に都内で開催され、楠大典、高橋広樹、甲斐田裕子、園崎未恵ら吹替メインキャスト4人による舞台挨拶とトークイベント、さらにはプレゼント抽選会が実施されました。イベントレポートを速報でお届けします。 レポートはこちらから!
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PROGRAM/放送作品
ワイルド・スピード 【4Kレストア版】
ストリートカーレースのカリスマと潜入捜査官の友情と対決を描く大ヒットカーアクションシリーズ第1弾
西海岸を舞台に違法なチューンナップを施した日本車によるストリートカーレース“ゼロヨン”の世界と、強盗アクションを組み合わせスマッシュヒット。悪のカリスマを演じたヴィン・ディーゼルは一躍人気スターに。
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COLUMN/コラム2023.12.29
鮮やかに遂げた、ストリート・レース映画の復権 —『ワイルド・スピード』
◆誰もが知るミッション遂行シリーズの“起点” 米秘密機関の特命を受け、国益をおびやかす組織や治安を乱す敵の行動を、車を駆使して阻止するアクション映画シリーズ『ワイルド・スピード』。共にミッションを遂行する仲間を「ファミリー」と称し、なによりチューンドカーによる物理的法則を無視したアクション描写など、マイルドヤンキーをたぎらせる要素に満ちたこのフランチャイズは、2024年の現在までに10本のシリーズ正編と1本のスピンオフ作品を生み、世界じゅうのファンに支持されている。 ハリウッド映画の数ある長寿シリーズの中で、もっとも理屈を必要としないパッショナブルな臭気を放ち、また死闘を繰り広げた相手が味方となって参入したり、次回作へと続くドラマの引きの強さなど、いずれも我が国の「少年マンガ」を思わす属性に鼻腔をくすぐられる人も少なくないだろう。 とりわけこのシリーズが持つ、少年マンガのテイストに近い要素は、ゆったりと大きな路線変更のカーブを描きながら、現在のスタイルを形成している点ではないだろうか。柔道マンガが野球マンガになった『ドカベン』や、コメディがシリアス格闘ものへと変遷していった『キン肉マン』など、長期にわたり人気を博したコミックスに同様のケースが見られる。『ワイスピ』(『ワイルド・スピード』の略称にして愛称)もそれらと同じく、2001年公開の1作目は現在と異なるジャンルに足場を置いていたのだ。 ◆道を切り拓いたロジャー・コーマンへのリスペクト 段取り的だが、ここで本作のストーリーを概説しておきたい。高額な積荷を狙い、ロサンゼルスでチューンドカーを使ったトラック・ジャックが頻発。一連の犯行にはストリート・レース界のキング、ドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)が関与していると睨んだLAPDのブライアン・オコナー(ポール・ウォーカー)は、ドミニクとの接触を図るためにレーシングクルーとして潜入捜査に踏み込む。だがレースを経て彼との仲間意識を強めたブライアンは、自分の忠誠心がどこにあるかというアイデンティティ崩壊へと追い詰められていく。 こうしたストーリーからも明らかなように、本作はもともと公道で違法にレースをおこなう「ストリート・レース」というアウトロー文化を描いた作品だ。映画と同レースとの関係は古いもので、1947年に公開された『The Devil on Wheels』(日本未公開)を起点に40年代後半から70年代のハリウッドで量産され、メジャーなところではジェームズ・ディーン出演による『理由なき反抗』(1955)あたりを連想する人は多いだろう。 特にこのジャンルに関し、独自の嗅覚でもって量産展開を果たしたのは、B級映画の帝王と呼ばれた映画監督/プロデューサーのロジャー・コーマンだ。彼は若者の反抗心がエクスプロイテーション・シネマ(搾取映画)の題材として興行的価値を有すると判断し、ストリート・レースの血統を持つ『速き者、激しき者』(1954)や『T-Bird Gang』(1959/日本未公開)、そして『デス・レース2000年』(1975)といったカーアクション映画を製作。カーレース映画というジャンルの広義な拡張と啓蒙を担ってきた。 『ワイルド・スピード』は、そんなコーマンプロデュースの『速き者、激しき者』から原題“The Fast and the Furious”を、そして『T-Bird Gang』からストーリー設定を一部借りることで、本作が置かれるべきジャンルの位置付けと、先導者であるコーマンに対する敬意をあらわしている。ちなみに後者のストーリーは、白いサンダーバードの強盗団に父を殺された息子が、警察から送り込まれた囮として連中に接近し、復讐を果たすというものだ。 本作の監督を担当したロブ・コーエンによると、ニューヨークのクイーンズ地区でおこなわれたストリート・レースの記事を読んだことが企画の発展につながったという。そして「実際の現場を見て圧倒された」と語り、その迫真性は映画の中で不足なく描写されている。 加えてこの映画の成立に寄与したのは、当時の最新技術だ。中でも俳優の運転映像を可能にするため、時速120kmでチューンドカーの実物大レプリカを牽引することができる特殊リグを導入したり、またデジタルツールがプラクティカルなカーショットを補強するなど、シリーズの礎となるメイキングプロセスを本作で構築している。 ただコーエンはストリート・レースの違法性をいたずらに正当化することなく、非合法な娯楽に興じる者をトラック・ジャックをはたらく犯罪集団という設定にリンクさせており、そこに監督の道徳感が顕在している。ゆえに現在まで続くシリーズでの正義行動は、ドミニクの贖罪が発露だと考えると符号が合う。悪の道はたやすく、正義の道は果てしなく困難であることを示すかのように。 ◆当時の車事情と、新録吹き替え版の意義に思う そんな大きな軌道変更の末にミッション遂行路線を邁進している『ワイスピ』だが、現在にいたるも維持している制作姿勢がある。それはいかに大きなアクションシークエンスであろうと、メインとなる車だけはプラクティカルでの撮影が主とされている点だ。 筆者はシリーズ8作目『ワイルド・スピード ICE BREAK』(2017)のワークプリントを、配給元である東宝東和の会議室で観た経験を持つ。これは未完成のバージョンだが、逆に言えば劇中のどの要素がデジタルで、どの要素が実物なのかを視認できる絶好の機会を与えてくれる。たとえばクライマックスにおける原子力潜水艦は全てがCGによるもので、そこに絡むドミニクらファミリーたちの車は、いかにアクロバティックな走りをしていようが、ほぼライブアクションでの撮影が徹底されているのだ。当然のポリシーといえばそうだろうが、。ヴァーチャル・プロダクションの進化によって、全ての要素がデジタル由来のものといえるような状況下にありながら、そこには最初の『ワイルド・スピード』の創作精神が今も脈づいていることを実感できる。 製作からじき四半世紀が立とうとし、立派なクラシックとなった感のある本作。こうして改めて観直すと、時代なりの車事情をそこに感じることができる。それぞれの登場人物のキャラクターに応じた車種の選択はもとより、ストリート・レースにおいては安価でチューニングベースとして扱いやすいという事情もあり、日本車の存在感が際立つ。またクライマックスでのブライアンとドミニクの直接対決レースでは、前者のスープラが後者のダッチ・チャージャーと互角の勝負を見せるなど、シェアを拡げる日本車とアメリカンカーとの代理戦争を見るかのようだ。 このたひザ・シネマでは、本作『ワイルド・スピード』の新録吹き替えを実施し、シリーズに統一感を与える独自の試みに挑んでいる。時代に応じたクラシックの吹き替えは海外古典文学の「新訳」に等しく、非常に生産性の高い行為だと筆者は実感している。ただそれを肯定するいっぽう、個人的には初期作をヴォイスキャストで一貫させることに、1作目の独立性が目減りしてしまうような寂しさを覚えなくもない。それだけ今と性質の異なる『ワイスピ』として、本作固有の価値と存在意義はとてつもなく大きいのだ。■ 『ワイルド・スピード』© 2001 Universal Studios. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
(吹)ワイルド・スピード【ザ・シネマ新録版】【4Kレストア版】
ストリートカーレースのカリスマと潜入捜査官の友情と対決を描く大ヒットカーアクションシリーズ第1弾
西海岸を舞台に違法なチューンナップを施した日本車によるストリートカーレース“ゼロヨン”の世界と、強盗アクションを組み合わせスマッシュヒット。悪のカリスマを演じたヴィン・ディーゼルは一躍人気スターに。
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COLUMN/コラム2019.12.27
遅れてきたアクション映画界の大型ルーキー、快進撃を続けるジェイソン・ステイ サム!
今、最も旬なアクションスターは誰か? アクション映画界は長らくシルベスター・スタローン、アーノルド・シュワルツェネッガー、ジャッキー・チェン、スティーヴン・セガール、チャック・ノリスといったメンバーが、寡占ともいえるほ業界を牛耳ってきた。しかし、スタローンは73歳、シュワルツェネッガーは72歳、ジャッキー65歳、セガールは67歳で、ノリスに至っては79歳なのである。人類の平均寿命が延び、年金の支給開始がどんどん後ろ倒しになり、定年後も再雇用やセカンドキャリアが当たり前になっている昨今だとしても、いくらなんでも70代の後期高齢者にアクション映画界をいつまで背負わせているのかと怒られても致し方なしの状況は非常に問題だ。アクションスターの後継者問題は非常に深刻なレベルにあり、特に欧米のアクションスターの人材枯渇っぷりはみていて心配になるレベル。アクションスターという存在が、絶滅危惧種と言われても否定できない状態になっている。 しかしぼくのように年がら年中アクション映画ばかり観ている輩からすると、「心配ご無用!」と太鼓判を押したくなる新進気鋭の若手アクションスターがここにいる。ジェイソン・ステイサムである。 1967年、イングランド中部ダービーシャーで生まれたステイサムは、地元の露店で働きながら、カンフー、キックボクシング、空手といった武道を習得。またサッカー選手としても活躍し、のちに映画で共演することになる元プロサッカー選手ヴィニー・ジョーンズと共にフィールドを駆け回っていた時期もあった。しかし何と言ってもステイサムの才能が開花したのは、水泳の飛び込み競技。イギリス代表候補になるほど卓越した成績を残していたが、ステイサムはアスリートの道ではなくファッションモデルとしてキャリアを積み始める。トミー・ヒルフィガー、グリフィン、リーバイスといった有名ブランドのモデルを務めるだけでなく、シェイメンやイレイジャーといったバンドのミュージックビデオにも出演。そしてステイサムがモデルとして契約していたブランドのフレンチ・コネクションがある映画のスポンサーとなっており、その宣伝もかねてステイサムはその映画に出演することになる。新人監督ガイ・リッチーの長編監督デビュー作であり、ステイサムの映画デビュー作でもある『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(98年)は、その年のイギリス映画のナンバー1ヒット作となり、主人公グループの一人を演じたステイサムも映画俳優として注目を集めるようになっていく。さらに続くガイ・リッチー監督作『スナッチ』(00年)にも引き続き出演。本作では狂言回しの主人公を演じ、俳優としてのステータスは一気に上がったのであった。 ステイサムの転機となったのは2001年に公開された『ザ・ワン』(01年)。ジェット・リーという稀代のアクションスターと共演したこの映画を皮切りに、ステイサムは本格的にアクション俳優としての活動を開始。リュック・ベッソン率いるヨーロッパ・コープ社制作の『トランスポーター』シリーズ(02年~)では、無敵の運び屋フランク・マーティンに扮し、ステイサムの身体能力をフルに発揮したアクションとド派手なカースタンを披露。ステイサム主演で第3作まで作られる人気シリーズとなり、興行収入もうなぎ上りで『トランスポーター3 アンリミテッド』(08年)ではついに世界興収が1億ドルを突破することになる。他にも、アドレナリンを出し続けないと死んでしまう劇薬を投与された殺し屋の活躍を描く『アドレナリン』シリーズ(06年~)、シルベスター・スタローンが消耗品扱いをされてきたかつてのアクションスターを結集して制作した大傑作『エクスペンダブルズ』シリーズ(10年~)、チャールズ・ブロンソン主演作のリメイクとなる『メカニック』シリーズ(11年~)といった人気シリーズに次々と出演。確実に数字を見込めるアクションスターとしてその方向性は確定していくことになる。 しかし興収が1億ドルを突破するようなアクション大作にだけ出演する、単なるアクション俳優で終わらないのがステイサム。『バンク・ジョブ』(08年)や『ブリッツ』(11年)といった渋めのスリラーでもその存在感をアピールし、『SAFE/セイフ』『キラー・エリート』(共に11年)、『PARKER/パーカー』『バトルフロント』(共に13年)のような単発の佳作アクション映画にも主演。まさに八面六臂の大活躍で、アクション映画俳優としての地位を確立したのだった。 ステイサムのアクションの魅力は、幼少期に経験した様々な格闘技をベースにしたガチンコのファイトコレオグラフィと、抜群の身体能力を活かしたスタント。さらに水泳競技で鍛え上げた無駄のない肉体美の躍動だ。大先輩のスタローンやシュワルツェネッガーのように巨大な筋肉の鎧ではなく、最盛期の総合格闘家ヴァンダレイ・シウバのように発達した広背筋と強くしなやかな筋肉がステイサムの強さの説得力となっているのだ。 閑話休題。ここでアクション映画界に存在する“もう一つの頂”、『ワイルド・スピード』シリーズ(01年~)に話を移そう。元々ヴィン・ディーゼルと故ポール・ウォーカーのコンビが繰り出すド派手なカーアクションで人気になったこのシリーズだが、シリーズ第5弾『ワイルド・スピード MEGA MAX』(11年)からDSS捜査官ルーク・ホブス(ドウェイン・ジョンソン)が参戦した辺りから肉弾アクションも増量。それに伴って興行収入も倍々ゲーム状態で増加している人気シリーズである。 そんな人気シリーズの第6弾『ワイルド・スピード EURO MISSION』(13年)では、これまでアメリカ、日本、ブラジルといった世界をまたにかけて活躍するワイスピ一家が、ついにヨーロッパに乗り込んだ作品で、イギリス特殊部隊出身のオーウェン・ショウ率いる犯罪集団との激闘を描くアクション大作だ。ハイウェイで戦車とのカーチェイスや、巨大輸送機とのカーチェイスなどド派手なアクションが続く本作は、ワイスピ一家がオーウェンを逮捕して終わるのだったが、エンドクレジット後に流れた映像は、まさに世界を震撼させるものであった。そこでは東京で瀕死の重傷を負ったワイスピ一家の主要メンバーであるハンの姿が。シリーズ第3弾『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(06年)で事故死したとされていたハンは、謎の人物によって殺されていたのだった。その人物こそオーウェンの実兄であり元SAS最強の男デッカード・ショウ、演じるのはジェイソン・ステイサムその人であったのだ! ステイサムのワイスピシリーズ参戦のニュースは衝撃をもって世界で迎えられた。続く『ワイルド・スピード SKY MISSION』(15年)では、ステイサム演じるデッカードが本格的に参戦。タイマンでホブスをボコり、カーチェイスでもワイスピ一家の強豪を上回る腕前を披露。たった一人でこれまでの主要登場人物全員を出し抜くチート状態で、ワイスピ一家はシリーズ最大の危機を迎えることになる。 主演陣のひとりであるポール・ウォーカーが撮影中に事故死するという悲劇を乗り越えて制作された『SKY MISSION』は、世界興収15億ドルを突破するというシリーズ最大の興収を記録。殺されずに逮捕されて刑務所に収監されたデッカードは、必ずや後続のシリーズでふたたび最強の敵としてワイスピ一家の前に立ちふさがるに違いない……映画を観たすべての観客がそう思ったはずだ。 しかし続く『ワイルド・スピード ICE BREAK』(17年)ではいきなりデッカードは弟のオーウェンと共にワイスピ一家側として参戦。さらにデッカード兄弟の母親であるマグダレーン(オスカー女優ヘレン・ミレン!)まで登場し、ショウ家は家族総出で謎のハッカー・サイファー(オスカー女優シャーリーズ・セロン!)と激戦を繰り広げることになる。この前作最強の敵が、次作では強力な味方となって、さらにコメディ的な役割も担う展開を、ぼくは勝手に“魁!男塾システム”と呼んでいるのだが、このシステムによってステイサムは前述の人気シリーズに加えてワイスピシリーズにもレギュラー参戦することになったのだ。 そしてワイスピシリーズ初の長編スピンオフ『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』では、デッカードはいきなり主役に昇格。ホブスとともに無敵の改造人間ブリクストン(イドリス・エルバ!)と激闘を展開するデッカードには、さらに強力な助っ人MI6エージェントのハッティ(ヴァネッサ・カービー)が登場。しかも何とハッティはデッカードの妹ということで、ワイスピ一家の増殖スピード以上にショウ家の増殖スピードが早すぎて、ますますステイサムはワイスピに必要不可欠な人材になっているのである。 という感じで、自身のシリーズ物を何作も抱えつつ、『エクスペンダブルズ』『ワイルド・スピード』という世界的なメガヒットシリーズでも重要な登場人物を演じ、さらに小粋なサスペンスや小品アクション映画にも多数出演。つまり今のアクション映画界はステイサム抜きでは語れない状態なのである。52歳にして意気軒高なステイサム。あと20年はその活躍から目が離せないぞ。■ 『ワイルド・スピード EURO MISSION』©2013 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED. 『ワイルド・スピード SKY MISSION』© 2015 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED. 『ワイルド・スピード ICE BREAK』© 2017 Universal City Studios Productions LLLP. All Rights Reserved
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PROGRAM/放送作品
ワイルド・スピード MAX
オリジナルキャストが集結しシリーズ再起動となった第4作。麻薬密売組織相手にドム&ブライアンが爆走!
ヴィン・ディーゼル、ポール・ウォーカーら1作目の主要キャストが再集結。3作目を手掛けたジャスティン・リン監督が原点であるバディ・アクションとしてシリーズを再起動。前3作を上回る世界的大ヒットとなった。
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COLUMN/コラム2019.03.26
映画史上もっともリアルなエイリアン迎撃戦『世界侵略:ロサンゼルス決戦』
■観客を深い没入感へと誘導するSF戦争スリラー 『世界侵略:ロサンゼルス決戦』のコンセプトは明快だ。映画におけるリアルな戦闘描写が確立された時代に、エイリアンの侵略戦争を描いたらどのような展開ができるのだろう? そんな興味をとことんまで追求してみせた作品である。すべてのショットが誰かの視点ごしだったり、あるいはCNNニュースなど馴染みのメディアのフォーマットを介したディスプレイ映像であったりと、あたかも自分が戦場のオンタイムの目撃者であるかのような、没入感の高いビジュアル作りが施されている。 物語はいきなり核心から入っていく。東京湾に流星群が降り注ぎ、その2時間後に正体不明の敵が湾岸を包囲し、全世界で一斉攻撃を開始したという報道がなされる。映画はそんなエイリアンとの戦闘下において、アメリカ海兵隊による民間人救助の模様を拾い上げていく。そして同時にそこが、エイリアンの世界侵略に対する最後の防衛線となるのだ。 こうした性質上、本作はランニングタイム110分のうち、90分間ほぼオンタイムでストーリーが進行する。このような作りが、ドラマを能動的に読み解いていくのではない、自分がスクリーンと接続する乗り物にまたがり、劇中の主人公の体験を受動するかのような環境へと観る者を誘導していく。 ■『ロサンゼルス決戦』のリアリティ創出(1:歴史) まず『世界侵略:ロサンゼルス決戦』がこうしたスタイルを獲得するまでの、ハリウッド映画のリアル戦闘描写へのアクセスの道程をざっくりと記しておきたい。異論はあるかもしれないが、参考までにお付き合い願おう。 前述した「リアルな戦闘描写が確立された時代」というのは、スティーブン・スピルバーグによる第二次世界大戦映画『プライベート・ライアン』(98)を起点とする。が、それより少し前にリドリー・スコット監督が『G.I.ジェーン』(97)のリビア部隊の救出シーンにおいて「ジッター(クイック)ズーム」というカメラワークを導入し、リアルな戦闘描写の嚆矢となった。ジッターとは「ゆらぎ」や「乱れ」を指す言葉で、カメラのズーム機能を急速に前後させ、カメラ視点の定まらない様子を表現したものだ。 このカメラの動きを強調するスタイルが、ドキュメンタリーのような臨場感を示す記号のひとつとして定着していく。代表的な使用タイトルとして名作TVSFシリーズのリメイク『GALACTICA/ギャラクティカ』(03〜09)などが挙げられるが、同シリーズでは宇宙艦隊戦などの画を見せる場合にジッターズームを多用し、著しく迫真性を帯びたものへとビジュアルを昇華させている。 そして『G.I.ジェーン』の翌年に登場した『プライベート・ライアン』は、戦闘シーンをリアルに再現するスタイルを確立させ、映画に大きな革命をもたらした。40年代の記録映像のように手持ちカメラを徹底させることで、戦争という物理的実体を即物的に捉え、観客の視点とスクリーン上のアクションとを一体化させたのである。しかも同作に対抗意識を燃やしたリドリー・スコットが『ブラックホーク ダウン』(01)において90分ノンストップの戦闘シーンを展開させるなど、その模様はさらに激化していったのだ。 このようにスピルバーグのアプローチは多くの模倣を生み、戦闘描写の常套手段となった。また当時はフィルムからデジタルへと移行する過渡期にあり、デジタルのノンリニア編集は膨大な数の映像素材の接続を可能にし、またカメラのデジタル化はフィルムの限界を超え、その複雑な編集に足る映像素材を提供していったのだ。そしてCGIの進化は様々なカメラワークへの合成や加工を容易にするなど、それらの要素が絡んで一本の縄を編むかのように、映画の表現を膨らませていったのである。結果『トランスフォーマー』や『ジェイソン・ボーン』シリーズなど、アクションを主体とする作品の台頭や、『ゼロ・グラビティ』(13)『レヴェナント:蘇えりし者』(16)のように、劇中の主人公の体験を受動する「ライド・アトラクション」型映画の台頭をうながしたのである。 ■『ロサンゼルス決戦』のリアリティ創出(2:手法・VFX) 『世界侵略:ロサンゼルス決戦』も、こうしたライド・アトラクション型の系譜に連なる作品のひとつだ。そしてリアリティを目標とし、エイリアンの要素をこうした映画に適合させるために、数多くのVFX(視覚効果)が必要となった。 監督のジョナサン・リーベスマンと視覚効果スーパーバイザーのエベレット・バレル指揮のもと、VFXを担当したのはシネサイト、ハイドラックスといった大手VFXベンダー(製造元)で、特にシネサイトはエミー賞の視覚効果賞を受賞したTVミニシリーズ『ジェネレーション・キル 兵士たちのイラク戦争』(08)でクリエイトした、イラク侵攻作戦のビジュアルが起用の決め手となった。そのことからも分かるように「リアルな戦闘描写」という本作の方向性は徹底したものといえるだろう。(*1) ●シネサイトによる『ジェネレーション・キル 兵士たちのイラク戦争』VFXリールhttps://vimeo.com/163721486 またカナダのバンクーバーにあるVFXスタジオ、エンバシーVFXがエイリアンの創造に中心的な役割を果たし、最近でも『スパイダーマン:スパイダーバース』(18)で活用された3DCGソフト「Houdini」を用いてエフェクトの開発に努めた。またガレージバンドと呼ばれるVFXチームでは、暗視ゴーグルやライフルスコープごしに見る映像などノイズ系エフェクトソフトを駆使し、この映画の決め手となるルックを創造している。 しかし最も困難だったのは、手持ちカメラを一貫させた本作に数多くの合成処理を施さねばならなかったことだろう。現在はライブカメラの動きを把握するカメラトラッキングソフトウェアの開発によって、手持ちカメラで撮影した規則性のない複雑なカメラワークでも、CGエフェクトを追跡し合成することができるようになった。本作でもそうした「boujou」や「PFTrack」などの3Dトラッキングソフトを用いてマッチムーブに対応しているが、作業自体は非常に煩雑きわまるものだったようだ。しかしこうした困難への果敢なチャレンジこそが、この「映画史上もっともリアルなエイリアン迎撃戦」の描写を実現させたといえるだろう(*2)。ちなみに映画において、手持ちカメラのマッチムーブが大きくクローズアップされたのは1996年に製作・公開されたデザスターパニック『ツイスター』で、同作ではCGで生成された竜巻を、手持ちカメラのような不規則なライブ映像に適合させるため、コンピュータ上において手作業での合成がおこなわれている。前段の『プライベート・ライアン』然り、革新的な表現の開発には、それに挑んだ野心的な先行作があることを忘れてはいけない(*2)。 とはいえ軍事アドバイザー監修のもとブートキャンプを敢行した、この映画独自の作劇アプローチも賞賛に値するし、要求に応えた俳優たちの優れたパフォーマンスも映画に説得力を与えている。また説得力という点では、1990年代後半から2000年代初頭にテレビ界に台頭した「リアリティ番組」も同作のコンセプト・ならびに方法論や映像づくりに影響を及ぼしていることも付け加えておきたい。■ 参考文献/(*1) Cinefex 125 - Battle: Los Angeles / Rango / Black Swan / Sucker Punch(*2)BATTLE LOS ANGELES: BEN SHEPHERD – VFX SUPERVISOR – CINESITEhttps://www.artofvfx.com/battle-los-angeles-ben-shepherd-superviseur-vfx-cinesite(*3)日本版シネフェックス12(1996年・トイズプレス)