洋画専門チャンネル ザ・シネマ

原作ファンが夢見た
原作に忠実なボンドを
現代に復活させた奇跡的作品。
007/カジノ・ロワイヤル
2016.3.19(sat), 3.20(sun), and more.
007/カジノ・ロワイヤル
3/19(土)21:00~
3/20(日)21:00~ほか
5/5(祝)16:30~   5/7(土)16:30~
三作品一挙放送 5/5(祝)16:30~   5/7(土)16:30~
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 私が初めて見た007映画は『ゴールドフィンガー』と『サンダーボール作戦』の二本立て。1966年のことだと思う。小学生の時の話で、よくわからない部分もあったけれど、以来すっかり007にハマってしまった。中学になると早川書房や東京創元社から出ていた原作小説を読み漁った。小説が始まったのは1953年のことだから、その内容は映画版よりも古く、最初は戸惑ったが原作なりの良さも次第に分かるようになっていった。
 ショーン・コネリーがボンドを演っていたころは原作からの乖離も少なく、原作も映画の気分で読めたが、ロジャー・ムーアの『私を愛したスパイ』あたりからSFXも多用した原作とは全く違うストーリー展開になっていった。もちろんその派手な007映画も大好きなのだけれど、消える車やレーザー衛星など登場しなくても原作小説の007は十分に面白い。原作も好きな私は、あの地味だがハードな007の小説を映画で再現することは出来ないのだろうか?といつも心の何処かで考えるようになっていた。
 「カジノ・ロワイヤル」は記念すべき小説の第一作であり、ボンドのキャラクターが形成される重要な物語だ。イオン・プロダクションが『ドクター・ノオ』から始めるよりも前に一回、アメリカでTVドラマ化されている。しかし小説の一部分だけ再現したスケールの小さなものだった。コネリーの映画がヒットすると、「カジノ・ロワイヤル」の映画化権だけを持っていたコロンビア映画がパロディ的なコメディ映画として『カジノロワイヤル』を製作。これも60年代後半らしいサイケデリックでモンティ・パイソン的な面白い映画だけれど、原作とは程遠かった。
 正統派のイオン・プロダクションが遂に「カジノ・ロワイヤル」を映画化出来るようになった時、先輩の評論家の高橋良平さんは「どうせなら時代も原作に合わせて最初から原作に沿った内容でやり直せばいいのに」と語っていた。私はどうせタイトルだけ使ってそれまでのようなアクション+SFX路線の映画を作るのだろうと思い、とりあえず原作の題名を使えることだけ喜んでいた。
 しかし完成したイオン・プロダクション版『カジノ・ロワイヤル』は時代こそ現代を舞台にしているものの、まさにジェームズ・ボンド、007の最初の冒険として、極めて原作に近いかたちで完成したのだ。
 『カジノ・ロワイヤル』の衝撃を語る上で一番のポイントはダニエル・クレイグの起用に尽きる。当初発表された時は「悪役面だ、ロシアのスパイに見える、プーチン大統領に似ている」等々、さんざんな言われようだった。
 正直言って私も当惑した。彼の出演作は『トゥーム・レイダー』くらいしか知らなかったから、ヒュー・ジャックマンやクライブ・オーウェン等の方が適任だと思っていた。
 しかし完成した映画を見て評価は全く反転した。彼なくしてはこれほどの作品は出来なかっただろう。ジャックマンやオーウェンのような、いままでのボンドのイメージを残したキャスティングでは、結局は中途半端な作品になったはず。クレイグの起用でいままでのスタイルを一新し、本当に007の誕生から語り直すことが可能となったのだ。
 クレイグ版ボンドは改めて殺しのライセンスを持つということを正面から捉えていた。彼は肉体を酷使して敵と戦い、最後に敵の命を奪う。コネリーのボンドは酷薄な笑みを浮かべて敵を始末するが、クレイグのボンドは一見非情に敵を殺すが、その背後に葛藤や動揺があり、それを隠そうと努力している雰囲気がある。原作の「カジノ・ロワイヤル」でもボンドは任務のために殺人を犯すことを思い悩む。最終的に彼は仮面をつけ全ての逡巡を振り切る決断にいたるのだが、その原作の要素を現代によみがえらせることが出来たのはダニエル・クレイグの存在感によるところが大きい。
 ボンド・ガール、ヴェスパーとの関係も原作に準拠していてムーア・ボンド時代の使い捨てヒロインとは大きく違う。以降の作品での彼の性格にも関わるような展開が用意されている。 
 正直言って秘密兵器満載、美女が次々登場する過去のスタイルを捨てたこと一抹の寂しさはある。しかしこれまで新作が作られる度にマンネリだ、時代遅れだと言われるようなことがなくなったのだ。
 クレイグが今後どれくらいボンドを演じるかはわからないが、彼の演じた4本はシリーズの中でも特に価値のある作品となっている。その出発点となったのがこの『カジノ・ロワイヤル』なのだ。

ジェームズ・ボンド

MI6の規定で敵対する人物二人を始末したため殺しのライセンスを持つ00課エージェント007として認められた。

ヴェスパー・リンド

カジノでル・シッフルを失脚させる作戦の資金担当者として財務省から出向し対等な立場でボンドに協力する。

ル・シッフル

犯罪組織の資金運用を専門に行うがボンドの活躍で多大な損失を受け、カジノで穴埋めを企むギャンブラー。

青井邦夫
1956年生まれ。イラストレーター、ムービーウェポン・アナリスト
アニメのメカデザインからキャリアをスタート、架空戦記小説など書籍の表紙、挿絵等をてがける。平成ゴジラVSシリーズのメカデザイン担当。また映画秘宝を中心にアクション映画の銃器分析、スパイ映画、SF映画の解説を得意とする。趣味はプラモ製作。
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