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シネマ解放区×本当は面白いアメリカンコメディ ナーズの復讐 シリーズ一挙放送

1.26 FRI 21:00〜 repeat 2.13 TUE 〜 2.16 FRI ほか

コメディ史に残る大発明『ナーズの復讐』!その偉業を長谷川町蔵さんが徹底解説!!

文/長谷川町蔵

アメリカの学校を舞台にしたコメディ映画は、今も昔も似たような作品ばかりと誤解されがちだ。しかしその歴史において時折、ストーリーの前提となる世界観そのものを変えるような作品が生まれることがある。つまり学園コメディ映画というジャンルは何度も生まれ変わっているのだ。

ためしにこのジャンルの最初期の傑作『アメリカン・グラフィティ』(73年、誰が何と言おうとジョージ・ルーカスの最高傑作はこれ!)を観てほしい。主人公は高校を卒業したばかりの四人の男子だが、親友同士の設定にもかかわらずリア充、文学青年、走り屋、そしてメガネ君とバラバラのメンツが揃っているのだ。

これは明らかにおかしい。学校内のグループは同じような人間が集まって作るものと相場が決まっている。現実世界でこの四人が親友同士になれるわけがないのだ。むしろ憎み合ってしまうのではないだろうか。

こうした現実との乖離をある程度埋めてくれたのが、『アメリカン・グラフィティ』と同じ1962年を舞台にした『アニマル・ハウス』(1978年)だった。後年『ゴーストバスターズ』(1984年)や『恋はデ・ジャブ』(1993年)といった傑作を監督することになる脚本家ハロルド・ライミスの大学時代の体験をベースにした同作は、名家の子弟やスポーツマンが揃った友愛会(寮を兼務した学生親睦団体のこと)「オメガ・ハウス」に対して劣等生、変人、非白人が住む負け犬集団「デルタ・ハウス」が一発逆転を挑むというもの。この対立の図式が、大学時代はイケてなかった(つまり大多数の)観客の共感を巻き起こして大ヒットを記録したのである。あとはこの図式をいかに現代の物語に持ち込むかが課題として残されたのだった。

『ナーズの復讐/集結!恐怖のオチコボレ軍団』(84年)は、こうした課題を見事にクリアーした作品だった。成功の要因は、体育会系の勝ち組集団を「ジョックス(Jocks)」、負け犬集団を「ナーズ(Nerds)」と呼んだことになる。それぞれ「Jockstrap(体育会系が身につける股間サポーターのこと)」「Nuts(頭がおかしい奴)」を語源とするこのスラングは、60年代から70年代にかけて高校生や大学生の間に浸透しつつあった。同作の脚本家コンビ、スティーヴ・ザカリアスとジェフ・ブハイは、それを対立するふたつのグループに適用したのだ。

映画は、コンピュータ・オタクのギルバートとルイス(共有結合を発見したアメリカの物理化学者ギルバート・ルイスから取られている)が、大学に入学するところから始まる。コンピュータ・サイエンスが盛んという噂に惹かれて入学した二人だったが、校内を牛耳っていたのはアメフト部を中心とするジョックスたちだった。彼らに新入生寮を奪われ、ナーズであるがゆえにどこの友愛会にも入れてもらえなかったギルバートとルイスら負け犬集団は、町の外れのボロ家と黒人友愛会ラムダ・ラムダ・ラムダの暖簾を借りることに成功して、独自の友愛会を結成する。ところがこれに名門友愛会アルファ・ベータが激怒して、両者の血で血を洗う抗争が始まるのだ。

今では犯罪認定のエロいギャグの数々や、不潔で女好きのブガー(『アニマル・ハウス』でジョン・ベルーシが演じたブルートを思わせる無頼キャラ)、日系のタカシやアフリカ系でゲイのラマーといったナーズ軍団の多彩なメンツが人気を博して映画は大ヒット。主人公のギルバートとルイスを演じたアンソニー・エドワーズとロバート・キャラダインは一躍ナード界のスーパースターとなった。

オタクだが常識人のセンスも持ち合わせた物語の語り部ギルバートと、オタクであることに一切のためらいを持たない究極の変人ルイスというコンビの図式は、国民的な人気を誇るシットコム『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』(2007年〜)の主人公コンビ、レナードとシェルドンに受け継がれていると言えるだろう。

しかし本作の直前に『初体験/リッジモント・ハイ』(1982年)でサーファーを演じていたエドワーズは、自分にナーズのイメージがついてしまうのが嫌だったのだろう。トム・クルーズの相棒パイロットを演じた『トップガン』(1986年)を経て出演したシリーズ第二作『ナーズの復讐 II/ナーズ・イン・パラダイス』(87年)では特別出演に留まり、シリーズはロバート・キャラダインの一枚看板に移行することになった。

ロバートは、その名の通り名優ジョン・キャラダインを父、『燃えよ!カンフー 』 (1972〜75年)の デヴィッド・キャラダインや『ナッシュビル』(75年)のキース・キャラダインを兄に持つ俳優一家の出身。素顔はなかなかのイケメンで、兄たちと共演した『ミーン・ストリート』 (1973年)や『ロング・ライダーズ』(1980年)ではシリアスな演技を披露していたが、『ナーズの復讐』では一転して7:3分けとキモい笑い声がトレードマークのルイスを怪演。そしてこれが一生の当たり役になったのだった。

そんなキャラダインが再びルイスに扮した『ナーズの復讐 II/ナーズ・イン・パラダイス』(87年)は、ナーズ軍団がフロリダで開かれた全国友愛会会議で、またしてもジョックス集団から迫害されるといったもの。

「前作より派手に」というシリーズ物の方程式に忠実に、無人島に島流しされたルイスたちが現地で発見した上陸挺で会議場を襲ったりと、学園コメディを超越した戦いが繰り広げられる。前作で主人公たちを苦しめたジョックスの暴れん坊オーガがまさかの善玉ターンをする展開は、『宇宙戦艦ヤマト』シリーズのデスラー総統を彷彿とさせる。

また前作のナーズの音楽演奏シーンでオマージュを捧げられたDEVOが音楽面で協力したり、リゾートが舞台なのをいいことに後年テレビドラマ『メルローズ・プレイス』(1992〜1997年)や『アリー my Love』(1997〜2002年)でスターになるコートニー・ソーン=スミスがハイレグ・ビキニ姿を披露したりと何かと見所が多い作品だ。

そして伝説は続く。テレビ映画として製作された第三作『ナーズの復讐 III/ナーズ軍団、最終決戦!』(92年)では、ルイスの甥ハロルドと親友アイラが映画の語り部となり、世代交代が図られた。ジョックスたちの逆襲にあった彼らはルイスに助けを求めるのだが、母校のコンピュータ・サイエンスの主任教授になったルイスは、かつてのダサさを恥じてヤンエグ風を装っている。

実はこれが当時のナーズ業界を皮肉ったギャグになっている。ダニー・ボイルがアップル創始者を描いた『スティーブ・ジョブズ』(2015年)を観れば分かる。1988年のパートのジョブズは、現在知られるような禅僧のような風体ではなく、ソフトスーツ姿でリア充を気取っているのだ。当時はようやくナーズがCEOを務めるIT企業が世に出てきた頃。だからナーズもまだまだ既存ビジネス界の流行に合わせざるをえなかったのだ。

しかしその一方で本作では、ナーズが既に社会的少数派ではなくなった現状も描かれている。ジョックスの逆襲に対してルイスがストライキを呼びかけると、途端にジョックスは何も出来なくなってしまう。あらゆる企業やサービスにナーズが入り込んでいるからだ。第一作最大の敵だったジョックスのイケメン、スタンが「僕は子どもの頃、勉強が好きだった。だから格好はどうであれ僕はナーズだ」と宣言するクライマックスには、全くナーズでない人間などもはやいない現実世界が反映されている。

しかしそれでもナーズを嫌悪する人種は存在する。シリーズ随一の人気キャラ、ブガーをフィーチャーしたスピンオフ『新ナーズの復讐』(94年)では、ブガーと愛する娘の結婚を阻止しようとやっきになる保守派の資産家が敵として立ちはだかる。ブガー役のカーティス・アームストロングによると、実は本作は当初、彼を主人公にしたテレビシリーズのパイロット版として製作されたらしい。だが諸事情によりこれは立ち消え。ゼロ年代半ばには学園ドラマ『The O.C.』(2003〜2007年)で人気者になったアダム・ブロディをフィーチャーしたリメイク版が計画されたものの、これも実現せず現在に至っているのが残念だ。

しかし『ナーズの復讐』シリーズはケーブルテレビで繰り返し放送され、今も新たなファンを獲得し続けている。その何よりの証拠が『King of the Nerds』(2013〜2015年)なる番組だ。誰が一番ナードかを一般人が競い合うこのリアリティ・ショー番組の司会を務めたのは、ルイスとブガーことロバート・キャラダインとカーティス・アームストロングだった。

また『ナーズの復讐』が発明した方程式は、今もそこかしこで生きている。前述の『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』や『glee/グリー』(2009〜2015年)がそれだ。2010年に公開されたある映画に至っては、何から何まで『ナーズの復讐』そのままだった。同作の舞台はジョックスが支配する名門大学。公立高校での優秀な成績を認められて特別に入学を許されたナードな主人公は、ジョックスから名門友愛会のメンバーだけが参加できるインターネット交流サイトの立ち上げを依頼されながら、復讐のためにそれを勝手に誰もが参加できるサイトに作り変えてしまうのだ。その映画のタイトルを、『ソーシャル・ネットワーク』という。

長谷川町蔵

ライター&コラムニスト。「映画秘宝」「ENGLISH JOURNAL」「CDジャーナル」にコラムを連載中。著書に「21世紀アメリカの喜劇人」、「聴くシネマ×観るロック」、「あたしたちの未来はきっと」。共著に「文化系のためのヒップホップ入門」(大和田俊之氏)、『ヤング・アダルトU.S.A.』(山崎まどか氏)。
http://machizo3000.blogspot.jp/

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