
ギャング映画の元祖はジェームズ・キャグニーである。え、ジョージ・ラフトは? エドワード・G・ロビンソンやポール・ムニは? という声は聞こえてくるが、ここは強弁させていただく。キャグニーがいなければ、ギャング映画はジャンルとして確立されなかった。
1930年代の初め、キャグニーはレストランで食事をするたび、店に居合わせた客から半切のグレープフルーツを贈られていたそうだ。
あ、あれか、とうなずいた方は正しい。『民衆の敵』(1931)のあまりにも有名な場面……キャグニーの扮するトム・パワーズというギャングが、なにかと口うるさい愛人(メイ・クラーク)の顔にグレープフルーツを押しつける場面が大評判を呼んでいたからだ。
キャグニーは、あのシーンで時代のイコンになった。いや、そこだけではない。ボスを蹴り殺した馬に腹を立て、ものもいわずに撃ち殺す場面の迫力は凄かったし、もっと強烈だったのは、ミイラのように全身を布でぐるぐる巻きにされ、扉の向こうから家のなかに倒れこんでくる場面だ。そう、棒のように倒れるとは、あの場面を指すのではないか。
観客は驚嘆し、ワーナー・ブラザーズは金のなる木を発見した。ギャング映画は、ジャンルとして確立された。『民衆の敵』、『犯罪王リコ』(1931)、『暗黒街の顔役』(1932)――当時の代表作をといわれたら、私は迷わずこの3本を推す。キャグニーと同い年のハンフリー・ボガートが、悪役として強烈な個性を発揮しはじめるのは、1936年の『化石の森』あたりからだ。5年後、彼が主演した『マルタの鷹』(1941)はフィルム・ノワール第1号として映画史に名を刻む。いうまでもないが、ギャング映画とフィルム・ノワールは、別のジャンルに属する映画である。
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