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硬質な緊迫感とアクションの連鎖!『パブリック・エネミーズ』の魅力 最もソリッドで最も様式的なデリンジャー映画 文/芝山幹郎

 ジョン・デリンジャーの生涯は何度か映画化されている。私が見たのは、そのうち3本だ。1945年の『犯罪王ディリンジャー』、73年の『デリンジャー』、そして『パブリック・エネミーズ』(2009)。
『犯罪王ディリンジャー』は製作費6万ドルの低予算映画だ。節約のためか、FBIの姿などは一切描かず、デリンジャーの凶暴さをひたすら際立たせた奇妙な映画だった。
ただ、主演のローレンス・ティアニーに体育会系特有の(陸上競技の選手だった)迫力がある。くわしい紹介は省くが、ティアニー自身、この映画でスターになったものの、その後たびたび傷害事件を起こして何度も投獄された不思議な野獣なのである。

 一方、『デリンジャー』は対照的な映画だった。公開された時代を反映して、監督のジョン・ミリアスはアウトローに対する親近感と郷愁を隠さない。主演のウォーレン・オーツに体温があり、アクションの展開に引力があった。空間に対する嗅覚が鋭く、銃撃戦に躍動感があったのはこの映画の美点だ。

 では、21世紀に撮られた『パブリック・エネミーズ』はどうだったのか。
 ひと言でいうと、この作品は3本のなかで最もソリッドで、最も様式を意識した映画だ。
 ソリッドとは、硬質な緊迫感を一貫して維持していることを指す。監督のマイケル・マンは、デリンジャーの晩年をアクションの連鎖で描き出す。銀行を襲う。FBIと銃撃戦を繰り返す。ビリーという女と恋をする。3つの行動が端的に描かれ、義賊伝説の部分や登場人物の情感などは大胆に削られている。
 この作法が、主演のジョニー・デップを引き立てる。デップ自身も「ソリッド」なイメージを意識している。寡黙、ぶっきらぼう、鋭角的な動き。もともと彼は、謎めいたペシミズムを表現するのが得意な俳優だ。

 そこにもうひとつ、「様式化」という要素が加わる。マンは、映画の背景となる1930年代の空気を強烈に様式化しようとする。車やスーツやマシンガンが艶々と黒光りしているのはその一例だ。デップは、この波長にも反応する。黒い車も黒いスーツも黒いマシンガンも、まるで誂えてきたかのように似合っている。マンとデップは、呼吸を合わせた。装飾を排し、様式を求め、アクションに物語を託したミニマリズム。この無愛想さが『パブリック・エネミーズ』の魅力となる。シンプルな味つけとは、意外と舌に残るものだ。

芝山幹郎
48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画は遊んでくれる」「映画一日一本」「アメリカ映画風雲録」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me―キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーヴン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

「パブリック・エネミーズ」© 2009 UNIVERSAL STUDIOS/ゴッドファーザー・II・III[デジタル・リストア版] COPYRIGHT © 2012 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED./
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