出演/ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、ヘレナ・ボナム=カーター、ロビー・コルトレーン、レイフ・ファインズ、マイケル・ガンボン、ブレンダン・グリーソン、リチャード・グリフィスほか
シリーズ全8作中、後半の4作すべてを監督したデイビッド・イェーツ。この続投は、ダニエル・ラドクリフらキャストの信頼感によるものでもあり、イェーツも彼らとの絆によってシリーズを完結できたと認めている。
「特に最後の2部作では、主演3人がすばらしい成長をとげた。デリケートで奥深いシーンを見事にこなしてくれたんだ。彼らの才能に、観客は既成概念を壊されるだろう。演出をしているとフラストレーションがたまるものだが、この3人が空いてだと楽しい気分になれるのさ。ルパートが演技中に笑いが止まらなくなった時は演出する僕もなごんだし、俳優以外の選択を模索しながら撮影に挑んだエマが名演技を披露する姿も目の当たりにした。そしてずっと物語の中心を担ってきたダニエルの情熱には頭が下がる。彼のエネルギーが現場の雰囲気も左右するわけで、僕が知っている俳優のなかでも彼は数少ない意欲的な人物だ」
現場の雰囲気のよさが伝わってくるが、そうは言っても、この最終章は2部作に分かれる壮大なもので、イェーツにとっても苦労が多かったはずだ。
「撮影が始まってからも、どこで前半と後半を分けるかが正式に決まっていなかった。全体を通して見なくてはならないからね。さらに撮影期間が1年半を超えてしまった。スケジュールの都合で次のシーンを撮るまで時間がかかったこともあり、前回の感覚や集中力を取り戻すのは並大抵のことじゃなかったよ。そのうえで、つねにストーリー全体を俯瞰していなければならない。日中に撮影を終えたあと、何か月も前に撮ったシーンを編集したりと、本当に長くハードな時間を過ごしたね」
すべてが完結する『PART2』の作風について、『PART1』とはなにか違う意識があったのだろうか。
「意識したのは、まったく違うタイプの2作にすることだった。主人公3人の関係に重きを置いた、ヨーロッパ映画の香りもする『PART1』に比べ、『PART2』はシリーズの終幕なので、総編集的な色合いも濃厚。そしてアクション超大作になったとも言える。トーンとして表現するなら“オペラチック”かな。エレガントで力強い音楽もドラマを盛り上げてくれるはずだ」
ファンタジーのシリーズは途中で頓挫する作品も多い。そのなかにあって「ハリー・ポッター」シリーズは、映画版も最後まで人気を維持してきたわけだが、4作分に関わったイェーツにその理由を尋ねてみた。
「J.K.ローリングの原作は、最初は遊び心のある甘い感じで始まった。それが徐々にダークかつ複雑に、そして恐怖さえ感じさせるストーリーへと変化していった。そこに人気が衰えなかった理由があるのだろう。子ども向けの作品だと思っていた人も、後半に入っていくと、テーマやアイデア、主人公を囲む状況が大人を対象にしていることに気づく。それを知った新たな読者が、子どもたちのファンや、当初から原作にほれ込んでいた大人たちに加わり、ブームを維持できたんじゃないかな」
そんな伝説的シリーズの、特に重要なラストに関わったことに対し、イェーツは改めて喜びを感じているとうれしそうに語ってくれた。
「シリーズのラストだからではなく、つねに観客が求める映画を提供するという責任を感じてきた。プレッシャーは付き物だが、あまり深く考えてはいけない。ひたすらストーリーとキャラクターに集中すればいいんだ。シリーズが終わるということで、逆に毎日現場に行くたび、一瞬一瞬を大切にしようと肝に銘じたよ。その日のシーンをいかにおもしろく、エキサイティングにするかが大事だったね」
プレッシャーを味方につけたイェーツだからこそ、映画史に残るシリーズをまとめることができたのだろう。
取材・文/斉藤博昭
2011年7月13日発行「別冊シネコンウォーカーvol.2 角川ムックNo.39」より抜粋
『ハリー・ポッターと賢者の石』™ & © 2001 Warner Bros. Ent. , Harry Potter Publishing Rights © J.K.R.
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』™ & © 2002 Warner Bros. Ent. , Harry Potter Publishing Rights © J.K.R.
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』™ & © 2004 Warner Bros. Ent. , Harry Potter Publishing Rights © J.K.R.
『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』™ & © 2005 Warner Bros. Ent. , Harry Potter Publishing Rights © J.K.R.