大方の人はタイトルを見ただけで予想がつくと思うけれど、『夢駆ける馬ドリーマー』は、爽やかで、時折ドキドキして、たまにホロリと涙腺が緩み、エンドロールが流れる頃には前向きな気分にさせてくれるという、まさに由緒正しい映画のサラブレッド(王道)的作品である。おまけに、原題にある”Inspired by True Story”からもわかるように、実話を基にしているとある。

しかしながら、こういった「王道的作品」の匂いがすると、良くも悪くも期待を裏切らないストーリーであるがゆえに、退屈な作品が多いのもまた事実である。

だから、僕も『夢駆ける馬ドリーマー』は、まあどちらかと言えば、退屈な映画だろうと思いこんでいた。

しかし、その考えは改めなければいけない。王道作品には、やっぱり王道作品でしか味わえない幸せがあるのだ。

カート・ラッセル演じるベン・クレーンは、牧場を営みながら、競走馬の調教師としても働いているものの、生活は楽ではない。そのうえ父のポップ(クリス・クリストファーソン)とは牧場経営の方針が食い違い、ろくに口もきかない仲。

そしてベンの娘が、ダコタ・ファニング演じるケール・クレーン。ケールの楽しみは祖父のポップに馬の話を聞くことと、父の仕事を眺めること。しかしベンは、ケールには馬に関わる道を歩ませたくないと、仕事場についてくることを許さない。

とろこがある日、ベンがケールに根負けして、仕事場に連れてきていた日に、競走馬として期待されていたソーニャが骨折してしまう。競走馬は、骨折して予後不良と見なされた場合は、安楽死させるのが常。

しかしベンはケールの目の前でソーニャを安楽死させることを拒み、それがきっかけで調教師の仕事をクビになってしまう。そうして給料と引き替えにソーニャを引き取ったベンは、優秀な種牡馬とソーニャを交配させて、仔馬を売ろうと計画する。

ところが検査の結果、ソーニャが不妊であることがわかり、ベンは途方に暮れてしまう。仕事はなくなり、家計は火の車。望みの綱だった、仔馬を売って当座の生活費にあてようとする算段もあっけなく崩れてしまったベンは、足の経過が良好なソーニャを、買い手を探すためのレースに出走させて、売却してしまう。

このことを知ったケールは、ソーニャを売った父を責める。

そうして娘の馬を想う気持ちに心を打たれたベンはソーニャを買い戻し、所有権をケールに委ねることに。晴れてオーナーとなったケールは、競走馬として賞金総額400万ドルのクラシック・レース「ブリーダーズ・カップ」にソーニャを出走させることを決意。

果たしてソーニャは、家族の期待に応え、競走馬として復活することができるのか・・?

というのが今作のあらすじである。ここまで読んで、このあと一体どうなるの? と思う人はいるまい。前述したように、『夢駆ける馬ドリーマー』は360度どこから眺めても、王道の作品である。予想を大幅に裏切る展開もなければ、ドンデン返しもない。ともすれば、ありがちでわかりきった、退屈なだけの作品になる。

しかし、『夢駆ける馬ドリーマー』はそうならなかった。

想像通りなのに、しっかりと物語に惹きつけられ、ポイントポイントで感情を揺さぶられ、ここぞというシーンではホロリとさせられる。王道的な作品で人を惹きつけるには、相当な力が必要になりそうなものだが、まんまと作戦にはまってしまうということは、それだけ『夢駆ける馬ドリーマー』が丁寧に作り込まれた映画だということだろう。

音楽にたとえるならば、『ペット・サウンズ』以前のビーチ・ボーイズであり、アメリカをロックに載せて歌い続けるブルース・スプリングスティーンである。

一見すると、彼らは繰り返し同じものを、包装だけをかえて提供しているようにも見える。でも実はそこには、類い希な才能と創意工夫がある。さらに誤解を避けるために付け加えるが、彼らから生まれる音楽には、「前代未聞」や「まったく新しい」といった安っぽい広告用キャッチコピーをはるかに超えた、確かなオリジナリティがある。 

『夢駆ける馬ドリーマー』はまさにそういった作品である。

あざとい計算もない。必要以上の演出もない。映画から伝わってくるのは、良いお話を、一人でも多くの人に伝えたいという、飾り気のない気持ちだけだ。その結果として、我々は、”あきらめずにトライし続ければ、いつか夢は叶う”というポジティブな感情を抱くことになる。

ちょうどビーチ・ボーイズの「Surfin’ USA」を聞けば、誰もがハワイの青い海と空、サーフィンを思い浮かべ、幸せな気持ちになるのと同じように。

もうひとつ。言うまでもないことだけど、この映画はダコタ・ファニングがいるから成立している。ダコタの父役を演じるカート・ラッセルも、祖父役のクリス・クリストファーソンももちろん悪くないし、本当の父と息子と間違えそうなくらい顔が似ていて説得力がある。それでも、『夢駆ける馬ドリーマー』は彼女の映画である。

当時10歳か11歳のダコタ・ファニングは、大人びているわけでもなく、子どもっぽすぎることもない。自分が子どもの頃に、こういう女の子がいたなと、遠い記憶を目の前に押しつけがましくなく差し出してくれる。ちょっと大げさかもしれないけれど、映画を観ているあいだ、子どもだった頃の自分に、ほんの一瞬、時計の針を戻してくれる。さすがは天才子役の名をほしいままにする子どもだけはある。

そして今作を見て、最近ダコタの姿を見てないと思っていた僕は、早速ネットで画像検索。

子役のときに大活躍したり、天使のように可愛かったりすると、その頃のイメージが強すぎるのか、大人になるにつれて残念な結果をもたらすこと多いですよね?

しかし、皆様どうかご安心を。

しっかりと美女に成長しているじゃありませんか!どうやら彼女の場合は、子役のイメージに縛られ続ける心配はなさそう。ナタリー・ポートマンのように、しっかり成長してハリウッドを代表する女優になりそうです。

最近の彼女の出演作は日本未公開作品が多いものの、アメリカでは活躍を続けており、来年には今までの清純派のイメージを覆す、70年代に実在したガールズ・バンドの伝記映画『The Runaways』にも出演決定。目下撮影中とのこと。

ここらで天才子役から、ぐっと大人っぽくなった彼女の姿を、日本のファンにも見せつけてほしいもんですね。そのためにもまずは『夢駆ける馬ドリーマー』と月末に放送する『シャーロットのおくりもの』でたっぷりと予習・復習をお願いします!■

(奥田高大)

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