▼登壇ゲスト
監督:クリストファー・ノーラン
ファン代表:岩田剛典(EXILE/三代目J Soul Brothers)
日時:2017年8月24日(木)
場所:六本木アカデミーヒルズ タワーホール
司会:荘口彰久(以下司会)
通訳:今井美穂子

作品の巨大垂れ幕が印象的な記者会見会場。クリストファー・ノーラン監督を紹介するVTR上映後、監督本人が登壇。

   
司会:『ダークナイト』『インセプション』のクリストファー・ノーラン監督が初めて実話に挑んだ最新作『ダンケルク』。今見ていただいた映像やプロデューサーのエマ・トーマスさんが言っていたように、新たな究極の映像体験できる、まさにノーラン監督の最高傑作と言える作品です。いち早く全世界で公開されて、大ヒットを記録しておりますが、すでに多くのメディアでアカデミー賞を有力視されております。早速ご紹介しましょう。大きな拍手でお迎えください。『インセプション』以来、7年ぶりの来日を果たされました。クリストファー・ノーラン監督です。



クリストファー・ノーラン監督(以下監督):皆さん、今日は誠にありがとうございます。今回7年ぶりの来日となるわけですが、再び日本に来れてとても光栄に思います。訪れる場所としては世界の中でも一番好きな国のひとつです。日本の観客の皆さんにこうやって新作を届けることができ、ワクワクした気持ちでいっぱいです。

質問1:圧倒的な映像体験と臨場感がある作品と感じました。この作品は実話ということもあり、臨場感のある映像に込めた思いは?

監督:歴史的な史実に基づく映画を作るのは初めてですので、かなり徹底的にリサーチを重ねました。ダンケルクにいた方々の証言を聞き、入念に彼らの実体験を調べていきました。緊迫感溢れる映画、観客がまるで当事者であったかのような疑似体験できるような映画を作りたかった。作品を撮るにあたり、帰還兵たちの証言を集めている史学者のジョシュア・レヴィーンさんに歴史アドバイザーとして参加して頂きました。この映画を企画していく中で、まだご存命でダンケルクを体験された方々をジョシュアさんが紹介してくださり、彼らにインタビューすることができました。直接お話を聞くことができ、非常に心揺さぶられるものがありました。実際に彼らの実体験、体験談は反映されていて、脚本を書いていく上で取ったアプローチは、架空の人物に彼らの体験談を語ってもらう、そういう手法を取りました。

質問2:この作品は戦争映画ではつきものである残虐なシーンがあまり描かれていない印象です。今回そのような手法を取られた理由は?

監督:今回なぜその手法を取らなかったのか、つまり血を見せなかったのか。それはダンケルクの話は、他の戦争とそもそも性質が違うからです。これは戦闘の話ではなくて撤退作戦なわけです。この物語を語る手法として、サスペンススリラーを描くというアプローチを取りました。従来の戦争映画であれば、戦争がいかに恐ろしいか、目を背けたくなるホラーとして語る手法がありますが、ダンケルクはホラーではなく、サスペンスを語るという手法にしました。目をそむけたくなるどころか、目が釘付けになってしまう、そういうアプローチを取っています。この作品にある緊張感は他の戦争映画とはちょっと違うモノだと思います。グロテスクなもの、敵の姿さえも見せていません。これはサバイバルの話であり、何かジリジリと寄ってくる敵の存在感を感じさせる、そういう手法でサスペンスフルな映画にしています。そして何よりも、タイムリミットがあるという部分も非常にこの作品を緊迫感あるものにしています。


質問3:監督はスピルバーグやジョージ・ルーカスがお好きと伺っております。本作の製作にあたってまたは、同じフィルムメーカーとして彼らから影響を受けたことは?

監督:スピルバーグ監督やルーカス監督から影響は受けています。僕が7歳の時に見た『スターウォーズ』は、非常に決定的な出来事でした。映画を撮ることとなる私にとって非常に影響を受けました。またスピルバーグ監督は、自身が持っていた『プライベート・ライアン』の35ミリのプリントを貸してくださいました。それをスタッフ全員で観させて頂き、非常に参考になりました。今見ても名作ですし、この作品と競争するわけにはいかないと思いました。スピルバーグ監督が『プライベート・ライアン』で成し遂げた緊張感というのは、私たちが『ダンケルク』で狙っている緊張感とは違うこともわかりました。またスピルバーグ監督は水上で撮影する時はどうしたらいいのかという、貴重なアドバイスもたくさん下さいました。ジョージ・ルーカス監督やスピルバーグ監督に加え、ヒッチコック監督、デビッド・リーン監督の影響も受けています。監督として重要だと思うのは、彼らがどういったことをどのようにして成し遂げたのか、これを学ぶということです。これらを参考にして自分の映画作りをしていくということが大事だと思っています。

質問4:世界中で対立が深まっている中、あえて逃げるという題材を選んだ監督の思いは?

監督:映画の作り手として、世の中で起きていることに影響を受けずにはいられないので、少なからず映画の中に反映されているかもしれませんが、故意にそうしているのではありません。世の中で起きていることを描くためにモチーフ使って描き、あるいは説教するというつもりは全くありません。今日の世界は、個人の業績などをもてはやす傾向にありますが、そうではなくみんなが協力し合ってできるものの偉大さ。『ダンケルク』は英国人であれば昔から聞いている物語であり、みんなで力を合わせればどんな逆境でも超えることができるということを思い出させてくれる話なんです。この話はイギリスのみならずどんな文化圏であっても、どんな地域の方々でも共感してもらえると思います。

~ノーラン監督のファン代表、EXILE/三代目J Soul Brothers 岩田剛典さんが登壇~

司会:目の前にノーラン監督がいらっしゃいます。今の気持ちどうですか。

岩田さん:感激です。本物のノーランだと思って。すごく光栄です。この作品は本当に今までのノーラン作品とテイストもどれも違いますし、実話をもとに作られた作品ということで、いい意味でノーランっぽくない作品なのかなと思って拝見しました。作品が始まってすぐ5秒くらいで一気に戦場に連れていかれる。本当に自分があたかも戦場にいるかのような、VR体験じゃないですが、そういう疑似体験をさせてもらえる、映画ならではの表現というか、そういうところも細部までこだわってらっしゃって。エンターテインメント作品でもあり、本当にドキドキハラハラさせられる映画っていう意味ではテーマ性というのは抜きにしても楽しめるし、登場人物ひとりひとりにストーリーがあるので共感できる作品と思いました。

監督:どんな年齢の観客でもご堪能いただけるような映画になっていると思いますが、特に若い世代に訴えかけるような映画になればと思います。キャスティングをする上でも、ハリウッドにありがちな、例えば40歳の俳優に若い兵士役をやってもらうとか、そういうことはやりたくなかった。実際、戦場で戦っていたのは18歳、19歳、20歳そこそこの兵士でしたから、色んな若者を見てきました。例えばドラマスクール、演劇学校に行ってスカウトしたり、まだ駆け出しの若い俳優さんを見てみたりと。キャスティングするにあたって、映画初出演という方々にも出てもらっています。これは非常に大事なポイントでした。戦場の現実というものを見せていかなければならないと思ったからです。自分の年齢の人たちがこういう現状を突き付けられていた現実を共感していただければと思います。

司会:岩田さんはインタビューの中で、ノーラン監督が「頭の中をのぞいてみたい人ナンバー1」とおっしゃっていました。

岩田さん:監督の作る作品は、完成図を想定してどう作り上げていくのかというところを、結果がわかった上で逆算して作っているようなイメージをもっています。その映像を撮るにあたって色んなインスピレーションや表現したいものが明確になっていないと、色んなスタッフ、や様々な人の協力がないと形にすることが難しいと思います。それをハリウッドで毎回、作りたいものを作っているという監督は本当に稀有な存在と感じています。この人の頭の中どうなっているだろうと。才能がうらやましいです。

監督:優しいお言葉ありがとうございます(笑)。監督業の面白いところは、何かひとつのことに秀でてなくても構わない(笑)。やるべきことは自分の興味を持った対象、思ったことだとか、やり遂げたいことをやるのに、才能ある人々を集めればいいわけです。彼らの意見やと視点を束ねる、これが監督業の仕事だと思います。つまり、色んな意見に一貫性を持たせるということ。カメラに例えるならばレンズの部分かもしれません。色んな視点の焦点を定めるというとことだと思います。それがうまくいけば、洗練された映画ができると思います。映画のビジョンをうまく明確にし、様々なパズルを一緒にくっつけ合わせるという作業です。他の職業に例えるならば、例えば建築家。図面をスケッチするのは建築家であっても、実際に現場で働くのは色んなスタッフであるわけです。あるいは才能あるミュージシャンを束ねていく、楽団の指揮者にも似ているかもしれません。

司会:岩田さん、せっかくですので監督に質問はありますか?

岩田さん:シンプルに、現場感を大切にされる監督だと伺っていて、いつもモニターというよりは、カメラのすぐわきでディレクションされているそうですが、作品作りで最も重点を置いていることというか、大切にしているポイントを伺いたいと思います。

監督:映画作りは色んな段階を経て完成します。撮影当初は、みんなエネルギッシュで意気揚々と取り組めて、現場は楽しいです。撮影がしばらく続くとそのうち疲弊して、皆疲れ切った状態になりますが、それが終了すると今度は編集です。撮った映像をどういう風につなぎ合わせて、どういう風にベストな映画を作るかというのを四苦八苦しながら、色々考えながらやっていくわけですが、楽しい作業であります。中でも一番好きなのは音のミックシング。これは数か月がかりですが、その頃には編集も終わっていて、絵としては完成しています。サウンドミックシングは、何千という音や効果音と音楽をつなげ合わせて、より良い作品にするにはどうしたらいいのかを考えます。そしてお客様にとってベストな体験となるように工夫していく、非常に充実感のある作業です。

岩田さん:世界各国を飛び回られて映画のことばかり聞かれていると思いますので、日本の訪れた場所で好きな場所、好きな食べ物は何ですか?

監督:前回は家族と一緒に来日しました。新幹線で京都へ行って、旅館に泊まりました。子供たちも連れていけたので、非常にいい思い出になりました。子供たちもよく覚えてくれていて。木刀を買って障子に穴をあけてしまった(笑)。私たちも非常に京都旅行はいい思い出になっています。もう一回来たいと思っています。

 

司会:実はここでノーラン監督から岩田さんにサプライズプレゼントが

監督:『ダンケルク』の英語版の脚本です。中の方にサインを入れています。岩田さん、今日は本当にご一緒させてもらって本当にありがとうございました。優しい言葉もたくさんいただけて、とても楽しいひと時を過ごせました。本当にありがとうございます。

岩田さん:むちゃくちゃ嬉しいです。童心に帰りました。ありがとうございます。

 

フォトセッション後、会見終了となりました。

 

ダンケルク

原題:Dunkirk
上映時間:106分
監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
出演:トム・ハーディ、キリアン・マーフィー、ケネス・ブラナー、 マーク・ライランス、ハリー・スタイルズ、フィン・ホワイトヘッドほか
2017年/アメリカ/2D・MX4D・IMAX
©2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED
配給:ワーナー・ブラザーズ映画
2017年9月9日(土)より全国公開