今回は『マンディンゴ』(75年)という凄まじい映画を紹介します。マンディンゴとは、南北戦争前のアメリカ南部で、白人たちが最高の黒人奴隷としていた種族というか“血統”です。

 これはアメリカ映画史上最も強烈に奴隷制度を描いた映画です。公開当時には大ヒットしたんですが、映画評論家やマスコミから徹底的に叩かれ、DVDも長い間、発売されませんでした。それほど呪われた映画です。

 映画は南部ルイジアナ州の“人間牧場”が舞台です。アメリカはずっと黒人奴隷を外国から輸入してたんですが、それが禁止されてから、奴隷をアメリカ国内で取引・売買するようになりました。そこでマクスウェル家の当主ウォーレン(ジェームズ・メイソン) は、黒人奴隷たちを交配して繁殖させ、出来た子供を売ることで莫大な利益を得ています。

 また、奴隷の持ち主たちは黒人女性を愛人にしていましたが、彼らの奥さんには隠してませんでした。しかも、 奴隷との間に生まれた子も平気で奴隷 として売っていたんです。

 なぜなら、南部の白人たちは、黒人制度を正当化するために“黒人には魂 がない”と信じていました。そうしないと、「すべての人は平等である」と書かれた聖書に反してしまうからです。南部の人は黒人を人間と思っていなかったので、普通の医者ではなく獣医にみせていました。

 しかしマックスウェル家の息子ハモンド(ペリー・キング)はそれが間違っていることに気づいていきます。きっかけは 奴隷の黒人女性エレン(ブレンダ・サイクス)を愛したこと。それに、マ ンディンゴの若者、ミード(ケン・ノートン)と友情を結んだからなんです。しかし、白人の妻(スーザン・ジョージ) がミードの子を妊娠して......。

 原作はベストセラーでした。でもハリウッドではだれも映画化しようとせず、イタリアの大プロデューサー、デ ィノ・デ・ラウレンティスが製作しま した。彼は製作するときに“仮想敵” を掲げていました。『風と共に去りぬ』(39年)です。南部の奴隷農園をロマンチックに美化した名作映画に、醜い現実を叩きつけようとしたのです。

 この番組では巨匠たちの“黒歴史” 映画を積極的に紹介してるんですが、本作もその1本。監督はリチャード・ フライシャー。『海底二万哩』(54年)、『ドリトル先生不思議な旅』(67年)、『トラ・トラ・トラ!』(70年) などを作ってきた天才職人です。彼は、「今までの南部映画はヌルすぎる。俺はこの映画で真実を全部ぶちまける」と考え、セックスと残酷描写満載の『マンディンゴ』を撮り、世界中で大当たりしました。

 でも、「アメリカの恥部をさらした」 と言われ、『マンディンゴ』は長い間、「なかったこと」にされてきましたが、 90年代、あのクエンティン・タラン ティーノが「『マンディンゴ』は傑作 だ!」と言ったことでDVDが発売され、再評価されました。

 そしてタランティーノが『マンディンゴ』へのオマージュとして撮ったのが『ジャンゴ繋がれざる者』です。

 というわけで南部の真実を描きすぎて呪われた傑作『マンディンゴ』、御覧ください!


(談/町山智浩)

MORE★INFO.
●原作の『マンディンゴ』(1957年/河出書房)は、本国で450万部を超えるベストセラーで、1961年には舞台劇化もされている。農園から名前を取った原作の“ファルコンハースト”シリーズは全部で15作もある。
●父ウォーレン役は最初チャールトン・ヘストンにオファーされたが断られ、英国人俳優ジェームズ・メイソンが演じた。彼は後年、「扶養手当を支払う ために映画に出ただけだ」とインタビューで語っている。
●息子ハモンド役は、オファーされたボーとジェフのブリッジス兄弟、ティモシー・ボトムズ、ジャン・マイケル・ヴィンセントらに次々と断られ、ペリー・キングに。
●シルヴェスター・スタローンがエキストラ出演している。
●映画から15年後を描いた続編に『ドラム』(76年/監:スティーヴ・カーヴァー)がある。

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