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PROGRAM/放送作品
サバイバル・オブ・ザ・デッド(2009)
[R15相当]人間同士がゾンビ牧場で決闘!ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロがホラーと西部劇を融合
ジョージ・A・ロメロ監督が前作『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』のサブキャラを主役に描いた最後のゾンビ映画。ゾンビ調教派と抹殺派との対立を西部劇テイストで彩り、戦争への警鐘というメッセージを訴える。
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COLUMN/コラム2020.11.26
妹になりすました姉の栄華と破局を描いた、ベティ・デイヴィスの双子演技が素晴らしいサスペンス
今日は『誰が私を殺したか?』(1964 年)という映画をお勧めします。謎なタイトルですね。 主人公は大女優ベティ・デイヴィスが一人二役で演じる双子で、ひとりはマーガレットという名の大金持ちと結婚した女性、でもうひとりはイディスという貧乏酒場の女主人。そのイディスがマーガレットを殺して彼女に成りすま そうとする......というミステリです。イディス自身は殺されたことにするんです。だから「誰が私を殺したか?」という邦題なんですね。 原題は『DEAD RINGER』。"RINGER"は「成りすます」という意味で、直訳すると「死んだ成りすまし」という意味に思えるんですけど、この場合の"DEAD"は「死」という意味ではなくて、「死ぬほど」という強調語なんです。だから、「デッド・リンガー」は「死ぬほど似ている」という意味ですが、もちろん「死んだ」に も引っ掛けています。 主演のベティ・デイヴィスは大きな目が特徴で、80年代には「ベティ・デイヴィスの瞳」という歌まで作られたほどのハリウッドのアイコンです。彼女はサマセット・モームの『人間の絆』を 映画化した『痴人の愛』(34年)で悪女を演じて注目され、以降、当時のハリウッドでは画期的だった、「男に頼らない女性」を演じ続けました。 同時期の女優さんでデイヴィスと同じような評価をされていたライバルがジョーン・クロフォードなんですが、ふたりとも50代になって仕事が無くなっていたころ、『何がジェーンに起こったか?』(62年)で共演しました。デイ ヴィスが往年の少女スターで、クロフォードがその妹役で、二人が老いをむき出しにしてドロドロと憎み合う地獄のようなスリラーで、これが世界中で大ヒットして、二人は堂々のカムバックを果たしました。 そして、2人には大量にホラーやスリラー映画の仕事が舞い込みました。そうして作られたうちの1本が本作なんで すね。監督はポール・ヘンリードという『カサブランカ』(42年)で有名な俳優で、50〜60年代にかけて隆盛となったTVドラマの演出家に転身したベテラン俳優のひとりでした。演出はオーソドックスですが、『何がジェーンに〜』 以後のベティ・デイヴィス・ホラーの中では最も優れた映画です。 まず撮影がいいんです。モノクロできっちりと豪華なマーガレットの邸宅を美しく映しています。撮影監督はアーネスト・ホーラーという巨匠で、最も有名なのはジェームズ・ディーン主演の『理由なき反抗』(55年)などで、『何がジェーンに〜』も彼の撮影です。 また、デイヴィスだけでなく、ハリウッド黄金期に育った俳優たちの競演が観られるという点にも注目です。プレイボーイのゴルフ・コーチ役のピーター・ローフォードは実生活でもプレイボーイだった俳優で、ケネディ大統領の妹とも結婚して、フランク・シナトラの一派に入っていました。刑事役のカール・ マルデンは『欲望という名の電車』(51年)、『波止場』(54年)、『パットン大戦車軍団』(70年)の名優です。丸くて大きなダンゴっ鼻が特徴ですが、この『誰が私を殺したか?』では彼がいいんですよ。彼のおかげで、この映画はサスペンス・ミステリーの枠を超えて不思議な感動を与えてくれるラブストーリーになっています。お楽しみください! (談/町山智浩) MORE★INFO.●元々脚本はワーナー・ブラザーズのため に1944年に書かれていて、46年にはベ テ ィ・ デ イ ヴ ィ ス に 主 演 を と オ フ ァ ー さ れ た が、デイヴィスは同時期に自身の製作会社 で企画していた『盗まれた青春』(46年)と 内容が似ていたため辞退した。●ワーナーは仕方なく、メキシコでドロレス・ デル・リオ主演の『La otra』(46年)として 映画化。60年代半ばには、ラナ・ターナー を主役にリメイクを望んだが、ターナーが双 子役を嫌がって流れた。●デイヴィスはTVで見たカール・マルデンを 気に入り自ら刑事役にキャスティングした。●監督ポール・ヘンリードの娘モニカ・ヘン リードが本作で映画デビューした。●86年にTVドラマ『Killer in the Mirror』 (日本未放映)として再びリメイクされている。 ©︎Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
ジョンQ-最後の決断-
重病の息子を救うため父親が病院を占拠する!デンゼル・ワシントンの熱演に胸を打たれる犯罪ドラマ
自らの娘も心臓病を患ったニック・カサヴェテス監督が、アメリカの医療制度の実態をリアルに反映。息子の命を守りたい一心で犯罪に手を染める父親の思いが、デンゼル・ワシントンの迫真の演技で共感と感動を誘う。
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COLUMN/コラム2020.11.04
ロイ・シャイダーとジョン・バダムの瞬間最大風速『ブルーサンダー』
本作『ブルーサンダー』のアメリカ公開は、1983年3月13日、日本公開は10月1日。共に、大きな話題となった。 その理由の一つは、時勢に符合したアクチュアルな設定にある。舞台はオリンピック開催を翌年に控えた、公開時期と同じ83年のロサンゼルス。最新鋭の武装ヘリが、テロ防止の名目で導入されるというのが、物語の発端である。 本作のセリフにも登場するが、この頃はまだ、72年のミュンヘン五輪で発生した、パレスチナゲリラによるイスラエル選手団11名殺害の記憶が、新しいものだった。それに加えて80年代前半は、国際情勢がリアルに不穏になっていくのを、肌身で感じざるを得ない時代であった。 アメリカを主軸とする西側諸国と、ソ連を頭目とする東側諸国の関係は、70年代のデタント=緊張緩和の時代を終えて、80年代には“新冷戦”と言われる局面に突入していた。ロスの前の夏季五輪だった、80年のモスクワ大会は、開催国ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議して、アメリカや日本など西側陣営がボイコット。選手の派遣を取りやめた。 本作公開時にはまだ確定していなかったが、84年のロス五輪では、今度はソ連をはじめとする東側諸国が、モスクワの報復でボイコット。いわゆる“片肺大会”が、連続することとなったのである。 このような中で、警備にハイテク仕立ての“武装ヘリ”を導入するというのは、いかにも「ありそう」な話であった。そして本作の中で導入される武装ヘリ=“ブルーサンダー”が、リアリティーを伴うカッコ良さだったことが、本作への注目度を、否が応にも高めたのである。 最大時速320㌔で大都市を縦横無尽に飛び回り、有効射程1㌔で毎分4,000発発射可能のエレクトリック・キャノン砲を装備。コクピットから、高精度の暗視や盗聴が可能な上、秘密情報機関のデータバンクに接続したコンピュータ端末で、あらゆる情報を集められる。これらのシステムは、当時の軍用ヘリに導入されていた最新設備に、多少の“映画的誇張”を加えて構築したものだという。“ブルーサンダー”のインパクトがある外見も、大いに人気を呼んだ。フランス製のヘリを、本作のために改造。1,500万㌦=当時の日本円にして37億円もの巨額を投じて生み出されたその偉容は、公開時に「空のジョーズ」と表現する向きもあった。 そうしたデザイン性の高さは、論より証拠。実際に本作を鑑賞して、皆様の眼で確認していただきたい。 ヘリ同士のドッグファイトなど、本作のスカイアクションは、実物とミニチュアを使い分けて撮影を行っている。時はまだ、CGが普及していない頃。今から見ると合成カットの一部など、チャチく感じられる箇所が無きにしも非ず。しかし全体的には、高度な撮影と巧みな編集が見事な融合を果し、大スクリーンに相応しい迫力を生み出している。 こうした数多の要素によって、“A級”のアクション大作として成立した、『ブルーサンダー』。その“A級”度合いは、実は主演俳優と監督の組み合わせによって、揺るぎないものになっている。 さて、先にも記したが、シャイダーと同じく、やはりこの頃にキャリアがピークを迎えていたのが、監督のジョン・バダム(1939~ )である。本作プログラムで、映画評論家の垣井道弘氏は、次のように書いている。 ~ジョン・バダム監督は、いまという時代を先取りする感覚が、天下一品である。大ヒットした「サタデーナイト・フィーバー」はいうにおよばず「ドラキュラ」や「この生命誰のもの」でも、優れた才能をみせた。つまり、ナウいのである。~ ~スティーヴン・スピルバーグ、ジョーン・ルーカス(原文ママ)、ジョン・ランディスなどと共に、これから最も注目しておきたい監督の1人である。~ イェール大学時代に、演劇を専攻したバダムは、卒業後に映画監督への途を探っていた。そんな時、当時9歳の彼の妹メアリー・バダムが、子役として大抜擢を受ける。 グレゴリー・ペック主演の『アラバマ物語』(62)の出演者に、1,000人に上る候補者の中から、選ばれたのである。役どころは準主役とも言える、ペックの娘役。そしてメアリーは、アメリカ映画史に燦然と輝くこの作品で、アカデミー賞助演女優賞の候補にまでなった。 バダムは、妹の成功に便乗。ユニヴァーサルスタジオに、郵便係の職を得た。時に65年、バダムが25才の時であった。 その後彼は、スタジオのツアーガイドの職を経て、キャスティング係に。そのまま現場での修行を積んだ。 それから数年経って、TV部門の監督に抜擢されたバダムは、「サンフランシスコ捜査網」「ポリス・ストーリー」「燃えよ!カンフー」などの人気シリーズを手掛けた。監督作品としては、シリーズものは20本ほど、長編のTVムービーは、10本ほどに及んだという。 劇場用映画の初監督作は、76年の『THE Bingo Long Travelling All-Stars and Motor Kings』(日本未公開)。当初はスピルバーグ監督が予定されていたこの作品で、バダムは37歳にして、劇場用作品の監督デビューを果す。 そして翌77年、ジョン・トラボルタの初主演作として、今や伝説的な、『サタデー・ナイト・フィーバー』を送り出す。世界的なディスコブームを巻き起こした、エポックメーキングと言えるこの作品で、バダムは一躍、ヒット監督の仲間入りとなった。 その後『ドラキュラ』(79)『この生命誰のもの』(82)といった作品を経て、バダムが最高の輝きを放つ、“1983年”を迎える。この年の3月に本作『ブルーサンダー』、続いて6月に『ウォー・ゲーム』と、監督作2本が相次いで公開されたのだ。『ウォー・ゲーム』は、普及期のパソコン、というより、まだマイコンと言われていた頃の家庭用コンピューターで、他者のシステムへのハッキングを楽しんでいた高校生が、偶然にNORAD=北アメリカ航空宇宙防衛司令部の軍事コンピュータにアクセス。高度な戦争シミレーションゲームと思い込んでプレイをする内に、“第3次世界大戦”の危機が現実に迫ってくるというストーリーである。 最新鋭のハイテクを題材に、リアルな脅威を描く娯楽大作という共通点がある、『ブルーサンダー』と『ウォー・ゲーム』は、共に大ヒット。そしてバダムは、時代の最先端を行く寵児となった。『ブルーサンダー』が10月、『ウォー・ゲーム』が12月と、両作の公開順がアメリカと逆になった、日本でも同様。本作プログラムにある通り、バダムをスピルバーグやルーカスと並べて、ハリウッドのトップランナーの1人として扱う動きも急であった。 『ブルーサンダー』© 1983 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
エディット・ピアフ 〜愛の讃歌〜
伝説のシャンソン歌手がたどった波乱万丈の生涯──マリオン・コティヤールの熱演が光る感動の伝記ドラマ
フランスの国民的シャンソン歌手エディット・ピアフの47年間という短くも激しい生涯を、マリオン・コティヤールが華やかな栄光から知られざる苦悩まで熱演。アカデミー主演女優賞とメイクアップ賞を受賞。
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COLUMN/コラム2020.10.28
冷戦時代の 年代、月に人間を 送ろうとする宇宙計画を描く、 ロバート・アルトマン監督の 映画 デビュー作
今回お勧めする映画は、「ハリウッドから最も嫌われ、そして愛された男」ことロバート・アルトマン監督のメジ ャー・デビュー作『宇宙大征服』(68年) です。 アルトマンがSF映画なんか撮ってたの? と驚く人もいると思います。アルトマンの代表作は朝鮮戦争での医療部隊(略称がM.A.S.H)のデタラメぶ りを描いた『M★A★S★H マッシュ』(70年)と、カントリー音楽の殿堂テネシー州ナッシュビルに集まったミュージシャンとファンたちを描く『ナッシュビル』(75年)です。どちらもコメディで、アメリカを皮肉る群集劇です。 この『宇宙大征服』もアポロ計画に対する皮肉なんです。 1950年代から、アメリカとソ連(現在のロシア)は宇宙競争をしていました。どちらが先に月に人を送れるかを競い合っていたんです。ソ連のほうが先に有人宇宙船を打ち上げてしまって、アメリカは慌てて「ジェミニ計画」で追いかけましたが、出だしで遅れていました。で、ソ連に先んじるには、片道でいいから月にロケットで人を送ればいいという案が出ました。月から帰る方法はないけど、その後アポロ計画で迎えに来るまで月で暮らして待つという無茶な計画です。実行されませんでしたが、この『宇宙大征服』はそれを実際にやってしまう映画です。 主人公は2人の宇宙飛行士、ジェー ムズ・カーン扮するリーと、もうひとりはロバート・デュヴァル扮する現役空軍パイロットのチャイズです。チャイズは人類初の月着陸を目指していたんですが、政府が人類初の月着陸には民間人にさせるべきだと、リーを選んでしまいます。実際に月面に人類最初の一歩を残したアポロ11号のアームストロング船長もそうなんですよ。で、選ばれなかったチャイズはリーをいじめ抜きます。 『宇宙大征服』の前に、アルトマンは TVで第二次大戦ドラマ『コンバット』 (62〜67年)を演出していましたが、高視聴率にもかかわらず打ち切られてしまいます。反戦ドラマだったからです。 当時のアメリカはベトナム戦争に突入していたので、反戦的な内容が嫌われたんです。この『宇宙大征服』も宇宙競争という名の戦争の虚しさを描いています。 もともとアルトマンが原作の映画化権を自分で買ったのですが、アポロ計画で月ロケット・ブームだったので、ワーナー・ブラザーズがこの映画を欲しがって出資しました。でも、月面に取り残された主人公が絶望して終わるラストだったので、途中でアルトマンをクビにして、別の監督に希望のある結末を撮り直させました。 陰鬱な内容のため、『宇宙大征服』は興行的に失敗しましたが、今、観直すと、アポロ11号のアームストロング船長を描いた『ファーストマン』(2018 年)そっくりなんですよ。主人公が月に行くことを奥さんに黙っていて夫婦仲が破綻するところから、月に行くまでのシーンをコクピットに座る主人公しか写さず、飛んでいく宇宙船を見せないところまで。デイミアン・チャゼル監督は明らかに『宇宙大征服』を参考にしていますよ! (談/町山智浩) MORE★INFO.●ロバート・アルトマンは、ドキュメンタリー映画『ジェイムス・ディーン物語』(57年)で映画監督デビューし、第2作『The Delinquents』(57年/未公開)以後、気鋭のTV演出家として10年を過ごし、初めてメジャー・スタジオのワーナー・ブラザーズで映画監督に復帰したのが本作。 ●NASAは全面的に映画に協力・便宜を図り、おかげで映画は実際に初の月有人飛行を成功させる1年半前に公開された。●パーティ・シーンや高官たちが言い争う場面で、人物の会話をオーバーラップさせる、後にアルトマン作品のトレードマークとなる演出を、ラッシュで見て怒った当時のワーナー映画の代表ジャック・ワーナーはアルトマンをクビにし、映画を再編集してしまった。 ©︎Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
落穂拾い
監督アニエス・ヴァルダが“落穂拾い”を探す旅に──現代社会の“豊かさ”の実態を映すドキュメンタリー
“ヌーベルヴァーグの祖母”アニエス・ヴァルダ監督が、ミレーの名画「落穂拾い」に着想を得て綴ったドキュメンタリー。“現代の落穂拾い”が見られる飽食社会の実態を、ユーモア交じりに浮き彫りとする。
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COLUMN/コラム2020.10.28
“時”に囚われし男ビギニング『メメント』
左手が持つ、ポラロイド写真。そこには後頭部を撃たれて、倒れている者の姿が映っている。写真がせわしなく振られると、なぜか写っている者の姿が消えていく。 真っ白になった写真をポラロイドカメラの前面に差すと、本体へと吸い込まれながら、ストロボが光り、シャッターが切られる。カメラを持つのは、返り血を頬に浴びたらしい、細身で金髪の男(演;ガイ・ピアース)。 床には血が流れ、眼鏡が落ちている。そして写真の構図通りに、後頭部を撃たれて倒れている者が映る。 金髪の男の手元に、足元から吸い寄せられるように拳銃が収まり、転がっていた薬莢は拳銃本体へ。と同時に、倒れていた者の顔に眼鏡が戻り、銃声が鳴り響くと、弾が発射される前の瞬間に時間は逆行。眼鏡の男(演;ジョー・パントリアーノ)は振り返りながら、絶叫する…。 これが『メメント』の、2分ほどのファーストシーンである。これから本作が何を描こうとしているのかを、端的に表しているオープニングと言える。 金髪の男が、眼鏡の男の後頭部を撃って、殺害した。それは一体、なぜなのか?これから時間を逆行させながら、解き明かしていきます!クリストファー・ノーラン監督が、そのように宣言を行っているのである。 このオープニングに続いては、暫しモノクロのシーンとカラーのシーンが、交互に登場する。このモノクロのシーンの時制ははっきりとしないが、金髪の男=主人公のモノローグによって、彼のプロフィールが説明される。 彼の名は、レナード。元は保険調査員だったが、妻を目の前で強盗に殺された過去を持つ。その際に頭を強打され、“前向性健忘”=「新しい記憶が10分しかもたない」という、脳障害を持つ身となってしまった。そしてそれ以来、妻を殺した犯人への復讐を目的に生きている男であることが、わかる。 一方でカラーのシーンは、現在から過去へと遡っていくタイムラインとなっている。このカラーのパートが、レナードが「新しい記憶が10分しかもたない」ということを表現するのに、実に効果的な役割を果している。 カラーの各シーンは、大体3~5分程度の長さ。つまりそのシーンでの行動に関して、レナードはなぜそのように振舞うに至ったか、常に記憶が維持できずに、忘れてしまっている。 例えばこんなシーン。いきなり、レナードが走っている。でも何で全力疾走しているのか、自分でわからなくなっている。気付くと、離れて並走している男がいる。「この男を追っているのか?俺が追われているのか?」 そう思いながら、その男へと接近する。すると男はいきなり拳銃を取り出し、レナードに向けて発砲する。「俺の方が、追われていたんだ」 このシーンの場合、なぜその男に追われていたかということが、モノクロを挟んで、次のカラー、即ち時間的に逆行したシーンに進んで(=戻って)から、説明される。それまでは主人公が、どんな理由で誰に追われていたのか、観客にもわからない仕組みになっているのである。 映画の冒頭で、レナードはなぜ眼鏡の男=テディを殺害したのか?彼こそがレナードの妻殺しの犯人だったのか?この謎は、過去へと逆行する中で、徐々に明らかになっていく。そして最後に観客の前に、すべての真相が提示される。 そこには、それまで時制がはっきりしなかったモノクロのシーンも大きく絡んでくる。この辺り、正にアッと驚く仕掛けになっている。本作をこれから初見の方は、是非カラーとモノクロの使い分けにも、大いに注目いただきたい。 さて先に記したように、『メメント』は興行・評価両面で大成功!この後ノーランは、彼の才能を高く買ったスティーヴン・ソダーバーグらの協力で、アル・パチーノ主演、製作費4,600万㌦の『インソムニア』(02)を手掛け、その後には「ダークナイト・トリロジー」の第1作で製作費1億5,000万㌦の『バットマン・ビギンズ』(05)を監督した。製作費的には倍々ゲーム以上の勢いで、ブロックバスター監督への道を猛進していったのである。 その後の活躍はご存知の通りであるが、今に至るそのフィルモグラフィーのほとんどで、ノーランは「時間をどう操るか」にこだわり続けている。『インセプション』(10)『インターステラー』(14)『ダンケルク』(17)…。最新作『TENET テネット』(20)の“時間逆行”シーンを観て、『メメント』のファーストシーンを想起した方も少なくないだろう。 こうした趣向は、ノーランがこよなく愛する“探偵小説”“ハードボイルド小説”の影響が大きいと、指摘する向きがある。フラッシュバックや時間の移行に関して様々な仕掛けを使う、こうしたジャンルへのこだわり故に、ノーランは、“時系列”を自由に入れ替える「ノンリニア」な作風へと導かれたというわけだ。 出発点はそこにあるのだろうが、今のノーランは、「時間をどう操るか」にこだわるというよりは、もはや「囚われている」かのようにも映る。それが映画的な躍動に繋がっていかないという、批判の声も出てきてはいる。ノーマークの新人監督から、『メメント』の成功で一気にハリウッドの寵児へと駆け上がっていった歩みが起因する、固執なのかも知れない。 彼がかねてから監督することを熱望する、『007』シリーズを今後手掛ける夢がかなったとしても、やはりそこは変わらないのだろうか?■
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PROGRAM/放送作品
マイ・ブルーベリー・ナイツ
ウォン・カーウァイが、歌姫ノラ・ジョーンズを主演に迎えて贈る甘酸っぱいラブ・ロードムービー
『恋する惑星』でスタイリッシュな映像世界を作り上げたウォン・カーウァイが、歌手のノラ・ジョーンズを主演に迎えて挑んだ初の英語作品。共演にはジュード・ロウやナタリー・ポートマンが名を連ねる。
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COLUMN/コラム2020.10.09
無敵のサイキック美少女の壮絶リベンジを描く韓流SFアクション!『The Witch/魔女』
徹底した娯楽精神と惜しみないサービス精神は韓国映画の強み さながら韓国版『ストレンジャー・シングス』もしくは『エルフェンリノート』である。『パラサイト 半地下の家族』(’19)がカンヌ国際映画祭のパルムドールとアカデミー賞の作品賞をダブルで制し、今や紛れもないアジア最大の映画大国となった韓国。その成功の秘訣は高い芸術性や自由で豊かな創造力など幾つも挙げられると思うが、中でも大きな強みとして欠かせないのは徹底した娯楽精神と惜しみないサービス精神だ。 近年のヒット作『新感染 ファイナル・エクスプレス』(’17)や『EXIT イグジット』(’19)、『エクストリーム・ジョブ』(’19)にしても、実はジャンルやプロットそのものは決して目新しくない。むしろ散々使い古されてきたものと言っても差し支えないだろう。しかし、韓国映画はそこに独自の視点で新たな“ひねり”を加え、アクションありユーモアありサスペンスありバイオレンスありの大盤振る舞いによって、極上のエンターテインメント作品へと昇華させるのが非常に上手い。このサイキック美少女アクション『The Witch/魔女』(’18)もまた同様だ。 先述した『ストレンジャー・シングス』や『エルフェンリノート』はもとより、『AKIRA』や『炎の少女チャーリー』、『スキャナーズ』などなど、似たような題材の映画やコミック、テレビシリーズを挙げればきりがないのだが、しかし「おっと、そうきますか!」というユニークな着眼点にワクワクさせられ、中盤のアッと驚くような“ひねり”に大興奮させられ、畳みかけるようなスリルとアクションとバイオレンスに圧倒される。これぞ韓国映画の醍醐味と言えるだろう。 謎の施設から脱走した少女の正体とは…? 物語の始まりは森に囲まれた謎の施設。責任者らしき女性ドクター・ペク(チョ・ミンス)が到着すると、そこは一面が血の海となっている。夜の闇に紛れて逃走する幼い少女。ドクター・ペクの手下ミスター・チェ(パク・ヒスン)率いる捜索隊が少女を追跡するも取り逃がしてしまう。どのみち少女は死んでしまうと言い残して去っていくドクター・ペク。その頃、森を抜けた少女は農場へとたどり着き、その姿を見かけた酪農家ク夫婦によって助けられる。 それから10年後。ジャユン(キム・ダミ)と名付けられた少女はク夫婦に育てられ、どこにでもいる平凡な女子高生として暮らしている。かつてアメリカ在住の建築家だった養父と養母は、交通事故で子供と孫を失っていたため、ジャユンには惜しみない愛情を注いできた。農場へ来る以前の記憶が一切ないジャユンだが、養父母だけでなく地元の住民たちからも可愛がられ、口が悪いけど気は優しい親友ミョンヒ(コ・ミンシ)と幸せで楽しい青春を謳歌しているようだ。 しかし、そんな彼女にも大きな悩みがあった。養父母の経営する農場が財政難に陥っていたのだ。そればかりか、ジャユンは定期的に起きる原因不明の激しい片頭痛に苦しみ、すぐに骨髄移植をしなくては余命2~3カ月だと医師に宣告される。だが、これ以上養父母に心配をかけるわけにはいかないと、ジャユンは病気のことを周囲には隠していた。なんとかして両親を楽にさせてあげたい。そう考えていたところ、ミョンヒからテレビのオーディション番組「スター誕生」の存在を知らされたジャユンは出場を決意。賞金を獲得して農場の借金返済へ充てることに望みを賭けたのだ。 愛らしい容姿と歌の上手さを活かして、見事に地方予選を勝ち抜いてソウルで行われる本選への出場を決めたジャユン。しかし、地方予選のテレビ放送を見た養父母は困惑する。というのも、審査員から特技を見せてくれと言われたジャユンは、マイクを宙に浮かせる“マジック”を披露したのだ。だが、これはマジックなどではなかった。幼少期から不思議な超能力を備えていたジャユンは、それを決して人前で見せてはいけないと養父母から固く注意されていた。世間は自分たちと違う人間を放っておかないから…と。 その頃、同じ放送を見ていたドクター・ペクとミスター・チェは驚く。これはあの逃げた少女に違いない、まだ生きていたのか!と。10年前に事件の起きた施設は、とある巨大企業の生物学研究所だった。そこでドクター・ペクは、遺伝子操作によるミュータントを生み育てることに成功していたのだ。ジャユンはその中のひとりだった。しかも、彼女には他の実験体とは比較にならないほどの優れた知能と超能力と残酷性が備わっており、“怪物”とまで呼ばれる最強のサイキック少女だったのである。 この日を境として、ジャユンの周辺で怪しげな人物が次々と暗躍する。ソウルへ向かう列車でジャユンとミョンヒの前に姿を現す若い男性(チェ・ウシク)、テレビ局の前で待ち伏せていた芸能事務所社長を名乗る男とボディガードたち。最高の実験体を自らの手元に取り戻したいドクター・ペクと、ジャユンを脅威と考える会社の指示で動くミスター・チェ、それぞれが追手を差し向けていたのだ。自分の正体を知らないジャユンは困惑して恐怖に怯えるものの、しかし愛する養父母やミョンヒに危険が迫った時、長く眠っていた彼女の凄まじい能力が一気に覚醒する…。 主演は『梨泰院クラス』のキム・ダミ! ネタバレするわけにはいかないため、残念ながらこれ以上多くは語れないものの、しかしヒロインのジャユンが“生みの親”たるドクター・ペクと対面し、ある衝撃的な真実が明かされる中盤にこそ、本作の核心的なテーマが秘められていると言えるだろう。果たしてジャユンの正体は善なのか悪なのか。そもそも、絶対的な悪=殺人兵器として生を受けた者が、その成長過程によって善へと生まれ変わることは可能なのか。人格形成のプロセスには遺伝子や家庭環境の影響など諸説あるものの、本作は善悪の境界線を曖昧にすることで、その答えを観客の想像と判断に委ねつつ、いったいジャユンの本性はどちらなのか?超能力者として覚醒した彼女は次に何をするのか?というサスペンスを盛り上げる。 もちろん、最強の殺人者としてのポテンシャルをフルに発揮していくジャユンの無双ぶりも大きな見どころだろう。なにしろ、それまでごく普通のか弱い女の子にしか見えなかった彼女が、不敵な笑顔を浮かべながら圧倒的な破壊力を駆使し、次々と悪人どもをなぎ倒していくのだから、そのカタルシスたるやハンパがない。もはやサイキック・バトルというよりも一方的な大虐殺。CGやワイヤーワークを全面に出し過ぎないスタント・アクションも完成度が高い。 監督と脚本を手掛けたのは、『悪魔を見た』(’10)の脚本家として注目され、『新しき世界』(’13)や『V.I.P.修羅の獣たち』(’17)などの韓流バイオレンスをヒットさせて来たパク・フンジョン。これまでハードボイルドな男性映画ばかり撮ってきた彼にとって、本作は珍しいSFアクション系の作品であり、同時に初めて“強い女性”をメインに据えた映画でもある。ヒロインのジャユンは勿論のこと、男社会たる組織での不満を抱えたマッド・サイエンティストのドクター・ペクもまた、ままならぬ人生を自分の思い通りに切り拓こうと闘うタフな女性だ。こうした、ある種のフェミニズム的な傾向もまた本作の意外な要素であり、パク・フンジョン監督の成長と変化を如実に感じさせる。 ジャユン役を演じるのは、参加者1500人のオーディションを勝ち抜いた新人キム・ダミ。日本で大ヒットしたばかりのテレビドラマ『梨泰院クラス』(’20)でもお馴染みの女優だ。これが初の大役だった彼女は韓国内の新人賞を総なめにし、たちまちトップスターの座へと躍り出た。それもそのはず、とにかく恐ろしいくらいに演技が上手い。しかも、あどけない少女の面影を残す無垢な存在感が、天使と悪魔の顔を併せ持つジャユンの得体の知れなさを引き立てる。対する悪女ドクター・ペク役のチョ・ミンスは、キム・ギドク監督の『嘆きのピエタ』(’12)で大絶賛された女優。また、『パラサイト 半地下の家族』の息子役で知られる純朴系俳優チェ・ウシクが、珍しくクールな悪役を演じているのも要注目だ。 なお、数々の謎を残して終わるエンディングをご覧になれば分かるように、本作はシリーズ映画の第1作目に当たる。一説によると三部作になるとも言われているが、最新の情報によると新型コロナのため第二弾の制作はスケジュールを調整中のようだ。■ 『The Witch/魔女』© 2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved