建設中の博物館で足を滑らせた失業中の広告マンのロベルトが、足組のようなものに落下し剥き出しの鉄の棒に頭が刺さってしまいます。棒を抜いたら出血多量で死にかねず、救助を呼んだものの動けません。まさに「ピンで刺された虫のよう」な男の姿に、マスコミは大騒ぎ、報道合戦が白熱します。就職活動では無視されまくったのに今は国中に注目されている!ロベルトはこのオイシイ状況を利用し金儲けをしようと考えます。家族のため、広告マンとしてのプライドのため、痛みに耐え脂汗流しながら交渉するロベルト。

この作品、スペインのブラックコメディなのですが、中々シニカルなものになってます。ロベルトが失業を苦に自殺未遂したと勘違いし同情した多くの若者が、キリストよろしく磔にされたロベルトを聖者のように扱ったり、広告業界の面々がえげつない便乗商法を繰り広げたり。異常な事態に発展していく様は、ある意味見ていて笑えます。ロベルトは無事に助かるのか、そして大金を手に入れることができるのかというところですが…オチまでシニカル。

監督は、『どつかれてアンダルシア(仮)』や『気狂いピエロの決闘』で知られる、スペイン、バスク地方出身のアレックス・デ・ラ・イグレシア。本作を彼は「自らの魂をお金にしなければいけない時、人はどのように尊厳を保つか」についての映画だと語っています。若者の失業率が50パーセントを超えると言われるまでの経済危機に陥っているスペインで、「お金」と「尊厳」というテーマが彼独自のスタイル:コメディとして描かれています。

ブラックな笑いも存分に味わうことのできる本作ですが、ロベルトを思う家族の姿には思いがけず心がギュッーと締め付けられます。特に印象的なのは奥さんルイサの聖女っぷり。40後半でもスタイル抜群で美しさ健在のサルマ・ハエックが、夫に寄り添う献身的なルイサを好演しています。また、エスパーニャ・ディレクトのリポーター役のイグレシア作品常連女優カロリーナ・バングは2014年に監督と結婚。ザ・シネマで放送中の、ゴヤ賞8部門を受賞した『スガラムルディの魔女』にも出演しています。

映画の原題は人生のきらめき、という意味の「La chispa de la vida」。実際にスペインのコカコーラのスローガンとして使用されました。ブラックな笑いの中に、人生で大切なものは何かを考えさせてくれるこの作品、ぜひご覧ください。■

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