『スター・トレック(※以下、STと略)』シリーズの、熱烈なファンを指す単語として"トレッキー"、"トレッカー"という言葉があります。
そうした方には、シリーズの魅力を語るまでもないでしょう。
では、映画や、テレビシリーズを少しだけ観ただけ、または、映画もテレビもまったく観たことがないという方。そういう方はSTシリーズに対し、どういうイメージをお持ちでしょうか?
「昔からあるSFシリーズ」、「たくさんのテレビシリーズや映画がある」、「世界観や設定、キャラクターなど、お約束事がたくさんあって敷居が高そう」、「ストーリーがむずかしそう」と思っているのではないでしょうか?
その通りです。
ぢゃあいいや。そう思ったあなた。それは大変、勿体ないことなのです。
なぜでしょう? 実は、STには、さまざまなタイプの作品があるからです。その中には、きっと気に入るエピソードがあるからです。それを知らないで、観ないのは勿体ないことなのです。
ST最初のテレビシリーズは、47年前の1966年にスタートし、その後、5つのテレビシリーズ、12本の劇場用作品が制作されており、その総数は700本を超えるエピソード数があります。
これだけのエピソード数があるのですから、単なるSF作品だけではなく、アクション、ラヴロマンス、コメディなど、さまざまなタイプのものが存在します。
映画をお好きな方は、全ジャンルが好きという方も多いでしょう。しかし、個人の好みは千差万別。アクションが大好きな方、コメディには目がない方など、好みのジャンルは人によって違います。
STには、すべてのジャンルの作品があるのです。ですから、自分の好みに合ったエピソードは必ずあるのです。
今回、ST劇場版が放映されます。その一本一本は、異なるジャンルやテーマを持っています。
そこで、それぞれが、どんな魅力があるのかを、有名な映画を例に挙げつつ解説致しましょう。この解説を読んで、少しでも興味を持たれた方は、是非、本編をご覧下さい。
とはいえ、ST作品の多様性を楽しむには、劇場版すべてを鑑賞していただくのがベストです。
最初のテレビシリーズのオリジナルキャストで贈る、最初の劇場版です。監督は『ウエスト・サイド物語』(61)、『サウンド・オブ・ミュージック』(65)で知られる名匠ロバート・ワイズ。名作物で知られる監督なので、STのようなSF作品を監督するのは意外に思われる方がいらっしゃるでしょう。でもワイズ監督のヒット作品には『地球の静止する日』(51)や、『アンドロメダ…』(71)というSF映画史に残る名作があります。
ST最初の劇場版は、最初のシリーズのテレビ放映終了後、再放送で火が付いて、ついに映画会社が動き出し、製作されたのです。テレビ本放送終了後10年の歳月が流れていました。
ワイズ監督が、本作を作るにあたり一番意識した映画は『2001年宇宙の旅』(68)でした。この映画は完璧主義で知られるスタンリー・キューブリック監督の代表作です。
ワイズはストーリーの中心に、哲学的な深淵なテーマを設けました。つまり、人間と機械、その異なる両者が、生命体かどうかを問いかけるのです。これは、『2001年宇宙の旅』でコンピュータのHAL9000とボウマン船長の問答を、一歩進めた物です。さらに、改装型になった宇宙船USSエンタープライズの内部も、『2001年宇宙の旅』の宇宙船のような、無機質さを感じさせる白で統一されました。
ST第1作を評して、退屈だと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、規範とした作品が『2001年〜』なので、観念的なセリフや、冗長ともいえる長さのシークエンスは当たり前なのです。
この作品、日本では不幸なことにSFアクションファンタジー『スター・ウォーズ』(77)公開(※日本公開は78年)翌年に、SF超大作として宣伝されたため、興行的にはいまひとつでした。なぜなら、STのテレビシリーズを知らない多くの観客は、『スター・ウォーズ』的な作品を期待したのに、出てきたのは『2001年〜』のような作品だったからです。これは、焼き肉定食を食べるつもりが、出てきたのは精進料理だったようなものなのです。甘いと思って、口に入れたら辛った。これでは、どんなに美味しい味付けでも、脳が期待した味ではないため、まずく感じてしまいます。
1作目の不幸はそこにありました。
さて、完成した映画はワイズ監督の思惑通り、『2001年〜』のような印象を受けます。
また、映画は全部で3パートに分割出来ます。まず、未知の何かが銀河系の彼方より、地球に向かってくる導入部。つぎに、元USSエンタープライズのクルーが、続々と集結するプロセス。そして、謎の物体の正体が判明するクライマックス。未見の方は、その正体に驚くでしょう。
当時の日本円にして百億円もの予算をかけた超大作です。じっくりとハードなSFドラマを堪能してください。
映画は娯楽、派手なアクション作品が好き。でも単なるアクションだけではなく、ドラマも楽しみたい。そういう方にピッタリなのが本作です。
この映画、最初のテレビシリーズ『スター・トレック 宇宙大作戦』(編成部注:TOSのこと)のあるエピソードの続編ですが、オリジナルエピソードを観ていない方でも充分楽しめます。
なぜなら、この2作目を製作したプロデューサー、ハーヴ・ベネットもテレビシリーズを観ていなかったからです。
ベネットは、製作前にテレビシリーズで人気があるエピソードを数本観て、その中で気に入ったのが、本作のベースとなったエピソード「宇宙の帝王」でした。
本作のテーマは復讐と献身。
この相反するふたつをどう描いているかを楽しむのが鑑賞時のポイントです。
監督は19世紀のロンドンを震撼させた殺人鬼・切り裂きジャックがタイムマシンに載って現代にやってくるというSF映画『タイム・アフター・タイム』(79)の脚本・監督を務めたニコラス・メイヤー。
本作の公開時に話題となったのが、宇宙船同士の三次元戦闘です。
これは当時としては画期的なことでした。従来、宇宙船同士の対決は、洋上に浮かぶ船と同じで、互いに水平に位置し、撃ち合うという描かれ方をしていました。ところが、本作ではそうした二次元戦闘ではなく、高さを加えた三次元戦闘が観られるのです。
ちなみに、本作は全米映画ファンの間では、カルト的な人気作。STでカルト的な人気作はコレ一本だけです。どういう部分が人気なのか、それはご自身の目で確かめてください。ちなみに、本作はシリーズ最新作『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(2013年)に多大な影響を与えています。