5年3ヶ月ぶりの来日となるナ・ホンジン監督と、日本を代表する俳優であり、本作では「よそ者」という謎の男で作品を引っ張る國村隼さんのQ&Aのコーナーを(ほぼ)全文レポートさせて頂きます!

※ネタバレを含む部分があります!該当部分には警告がございますので

注意の上ご一読頂ければ幸いです!!

ザ・シネマでは3月、ナ・ホンジン監督の過去作『哀しき獣』と『哭声/コクソン』でもその演技で深い印象を残す、韓国映画界の大スター、ファン・ジョンミンが人気を不動のものにした『新しき世界』を特集放送。『哭声/コクソン』公開連動特集もお見逃しなく!


司会:では、ナ・ホンジン監督、5年3か月ぶりの来日となります。國村さんもいらっしゃっています。さっそくお呼びしようと思います。『哭声/コクソン』から、國村隼さん、そしてナ・ホンジン監督です。拍手でお迎えください。

ではまず、お二人にご挨拶を頂戴したいと思います。まず國村さんからお願いします。

國村隼(以下、國村):こんばんは。今日は本当にありがとうございます。映画をご覧になった後のお客さんの前に出てくると、ほんとにちょっとドキドキしますが、ちょっとホッとしました(笑)。
この日本で、一番最初にこの『哭声/コクソン』をご覧になって下さった皆さんです。本当にもう嬉しくて、嬉しくて、皆さんお一人お一人をハグしたい気がします。今日は本当にありがとうございます!

ナ・ホンジン監督(以下、監督):こんばんは、ナ・ホンジンです。お会いできて嬉しいです。
足を運んで頂き誠にありがとうございます。映画の上映時間が結構長かったと思うのですが、お待ち頂き本当にありがとうございます。トイレとかは大丈夫でしょうか(笑)?

シナリオから6年くらいをかけて作った映画なのですが、皆さんにお見せできるこの時間を迎える事ができて、本当に嬉しく思います。この後のQ&Aの時間もベストを尽くして挑みますので、よろしくお願い致します。

司会:ありがとうございます。では、お二人には(椅子に)おかけ頂いてお答えいただこうと思います。今日は立ち見のお客様もいらっしゃいます。ではさっそくいきましょうか。
すでにリドリー・スコット監督の製作会社からリメイクのオファーが入ったとの事ですが、韓国サイドの代表の方が「この題材を撮れるのはナ・ホンジン以外いない」と明言されたとお聞きしました。もし、監督にハリウッドからリメイクのオファーが来たら、もう一度本作を撮ろうと思われますか?その場合、また國村さんを起用されますでしょうか?また、國村さんはハリウッドからリメイクのオファーがもし入ったらどうされますか?

監督:スコット・フリー(スコット・フリー・プロダクションズ※リドリー・スコットの製作会社)から連絡があったという事は聞きました。でも、対応の方が「演出できるのはナ・ホンジンしかいない」と冗談半分で言ったのだと思います。でも自分に要請が来たとしても、リメイク版を演出するつもりはありません。でも隼さんはこの映画に重要な方なので、必ず必要になると思います。ですのでオススメしたいと思います(笑)。

國村:あの…。オススメされてもやはり、ナ・ホンジンがメガホンを取らないのであれば、私もやることは多分ないんじゃないかと思います(笑)。

監督:では両方ともしないということにします(笑)。

司会:ここでやんわりお断わりが入りましたね(笑)。
これまでのナ・ホンジン監督の過去作『チェイサー』や『哀しき獣』は、どちらかというと社会派サスペンスの様な作品だったと思いますが、本作はどちらかというと、ちょっと表現しにくいのですが「オカルト」の様な印象です。どちら(の作風)が監督が嗜好されていた作品、作りたいと思うものだったのでしょうか?教えて頂きたいと思います。

監督:この『哭声/コクソン』という映画は、前2作を撮った後に、もう少し自分らしく、自由に、やりたい様に作りたいという意欲が昂ぶった時に作った作品なので、自分のスタイルのままに作った、ありのままに作った、よりやりたいものに近い作品だと思います。

司会:今回、監督が國村さんを起用された理由は何でしょうか?日本では非常にベテランの俳優さんで、悪役から非常に良い方の役まで演じてらっしゃいますが、一番の決め手は何だったのでしょうか?それと國村さんは、ナ・ホンジン監督の現場で一番印象に残っている事はなんでしょうか?

監督:シナリオが出来上がった時に、日本人の俳優が必要だということになり、國村さんと同年代の俳優さんを沢山調べました。既に國村さんという存在を存じ上げておりましたし、ずっと尊敬し続けていた俳優さんであったのですが、(探す過程で國村さんの)全作品を集中して見続けているうちに、ある特徴に気づきました。それはカットごとに自分の演技だけで既に編集され尽くされている様な演技をされるなぁという事でした。カットの中で、自由に演技をされているところが、とても素晴らしいと思ったのです。

で、この『哭声/コクソン』の中で、(國村さん演じる)「よそ者」という役は、お客さんに「この人物ってどういう存在なんだ?」という疑問を投げかける、とても重要な存在なんですね。その役をやり遂げるのはやはり隼さんしかいない、國村さんしかいないという確信を持って、日本に来てオファーをさせて頂きました。

國村:最初にオファーを頂いて、彼の前作『チェイサー』と『哀しき獣』そしてもちろん(本作の)脚本を読ませて頂き、もうその段階で「このナ・ホンジンという人はとんでもない才能だな」と実感していました。いざ、現場に入り一緒に撮影をしていく中で、最初に思っていた以上に「この人はもう才能のカタマリがそのまま人の形をしている様な人だな」と感じました。

というのは、現場でテイクを撮っていくんですが、この人はなかなか終わらないんです。1つテイクをとり終わった後、最初の基本のビジョンから新たにどんどんイメージが湧いていくタイプの方で、その自分の中で膨らむイメージを、「もっともっと」と、テイクを重ねる、という様な事がありました。

ただ、むやみやたらに重ねるのではないんです。自分の中のイメージの膨らみ、その膨らみこそがすごい才能だと思います。それを現場で目の当たりにして、やっぱり想像以上にすごい人だと、そういう風に思いました。

昨年、ソウルで『哭声/コクソン』を観させて頂きました。朝一で観たんですが、その日一日ブルーな気持ちになってしまいました(笑)。方言が難しくてあまり理解ができていなかったのですが、今日改めて拝見してさらにブルーになりました(笑)

司会:私は、ファン・ジョンミンさんのファンなのですが、國村さんは、現場でどの様なお話しをされましたでしょうか?何かエピソードがあれば教えて頂きたいです。

國村:ファンさんとは、画面の上でやり合ったりする事はなかったので、撮影の現場を一緒に過ごした事はあまりないのですが、その少ない中でも、彼はやっぱり、韓国の役者さんってみんなそうなんですが、映画の世界に来るまでにものすごく色々なスキルを重ねてらっしゃる。彼もまた、学生時代に演劇というものを始めて、それからこの世界に入り、映画の世界に行くまで様々な経験を重ねてらっしゃった様です。だから当然のごとく、経済的にもとても苦労した、という様な話しを、「ああ、なんかその辺は日本の役者の事情と非常に似ていて面白いな。一緒なんだな。」と思って。もちろんファンでいらっしゃるので、ご存知だと思いますが、韓国の大スターでらっしゃいます。けれども全然驕るところのない方で、本当に色々なキャラクターを演じられます。今回の役も明らかですが、どこかにファンさん自身の、物事に対する真摯な人柄みたいなものがちょこっ、ちょこっと出てくる。そのまんまの人です。あの人は。はい。

司会:ナ・ホンジン監督は、キャスティングに関して何か基準があれば教えて頂きたいと思います。

監督:一番その役にふさわしい(正しい)という役者さんを選びます。(出演する)それぞれの俳優さん達のバランスというのも一番注意する部分の1つです。それぐらいが自分の原則と言えるところです。

先ほどのファン・ジョンミンさんのエピソードに関して補足を入れさせて頂きますが、國村さんとファン・ジョンミンさんが映画の中で実際会うシーンは「ない」と言っても過言ではありません。もともとワンシーンだけ二人が会うシーンがあったのですが、それすら自分が編集の過程でカットしたので、映画の中で二人が会うシーンは無かったと思います。

司会:キム・ヨンソク(『チェイサー』主演)さんが、「甲板の上から飛び込みさせられたが、そのシーンがあまり映っていなかった」という様な事をおっしゃっていましたが、監督は國村さんの事をソンセンニム(先生)とお呼びになるほど尊敬されていらっしゃる様です。目上の方に結構無理な事をお願いするのは大変じゃなかったのかな?と思いました(笑)。韓国では年上の方に敬意を払われるので、裸にしてしまったり、結構いろんな事を、國村さんにさせてらっしゃるので(笑)。國村さんもそういう大変なシーンについては、どの様に思われているか教えて下さい(笑)。

監督:本当に申し訳なかったと思っております(笑)。ただ、シナリオがそういう風に出来上がっていたので、自分としてもどうしようもなかった、というほかありません。大変な思いをされるシーンが多かったことについては、撮影以外のところでなんとかケアをする為に、最善を尽くしたつもりであります。自分なりに頑張りました(笑)。今でも申し訳なかったと思っています。もしこの映画が日本で良い成績を残せなかったら、自分自身になんと言ったらよいかわかりませんが、良い結果を残せたらいいなと思っております。撮影を通して、沢山の事を、國村さんから学び、驚き、感嘆する事が多くありました。またそういった撮影の過程を通して、さらに尊敬し、大好きになりました。謝罪と感謝の気持ちをこの場でまた、述べさせて頂きたいと思います。

國村:なんか気恥ずかしいですね(笑)。

私もまさに監督が今おっしゃった様に、台本の中でもう、「こういう事をしなければいけない」という事が予め分かっていたので、それを理解した上でオファーを受けました。ただ一番引っかかったのは、「あれ?俺、ひょとして、このカメラの前ですっぽんぽんになることなんて出来るのかな?」という事でしたが、「この『哭声/コクソン』という作品の世界観はすごいな、そして、この男の役を僕以外の人がやっているのを見たくないな」、という気持ちが正直なところで、「観客の皆さんのご迷惑になる様なものを晒す事になっても、やってみよう」と思った次第です。ですから、監督に「ひどいことをさせられてる!」という意識は全くありませんでした。あくまで自覚的にその世界に自分から飛び込んだということです。

司会:韓国で賞もとられて、テレビで観ていてとても嬉しかったです!これからもご活躍をお祈りしております!

國村:ありがとうございます。

<場内拍手>

司会:ちなみに個人的にお聞きしたいのですが、ふんどし…姿じゃないですか?

國村:あ、言い忘れました!最初の脚本はすっぽんぽんだったんです!

司会:発案は國村さんからされたんですか?

國村:いえいえ。やっぱり韓国にも映倫に相当する様な組織があるらしく、やっぱりそらーまずかろうという(笑)それで「日本でいったらなんだ?」という事で、「そらふんどしだろう」と。劇中で、あるおじさんが「おむつ」って言ってますけど、多分見まがうという事もあったんでしょうね(笑)

司会:それじゃあ、日本で言ったら「ふんどし」だろうということで、あのセリフも付け加えられたんでしょうね。

司会:素晴らしい映画を有難うございました。監督に質問なんですが、この映画は観る側の想像に委ねる部分が沢山あると思います。監督の中で、國村さんが演じられた役については、細かい設定等は考えてあるのでしょうか?また、國村さんに質問なのですが、今回の役について、國村さんなりの解釈や背景は設定されて役作りをされたのでしょうか?

監督:映画を通して(國村さん演じる)「よそ者」はずっと観客に質問を投げかけ続ける立場にあります。これは映画そのものが観客に質問を投げかけるという設定なんですが、映画を観終えた方にもまだなお「「よそ者」をどう思いますか?」とずっと質問を投げかけ続ける映画であります。この「よそ者」というキャラクターはとても重要なのですが、その理由として、劇中の他の登場人物たちの「よそ者」に対する考えがどんどんどんどん変わってくるんです。「よそ者」に対するイメージが固まらない。まとまらないものが、まとまりつつある映画なんですが、その解釈が一人一人違うんですね。だから、「たった一つの解釈で定義するものではない」というのがこの映画の特徴であります。なので、自分自身もキャラクターを一言で定義することはできません。観客の皆さんがどんな解釈をしていようが、全ての解釈が合っていると、自分は思っています。この映画は観客の皆さんが自分で整理して完成させる。そういう映画であることを期待しております。

國村:「その男」をやるにあたって私が考えた事を申し上げます。良く言われる「役作り」という様なアプローチは機能しない、もっと言えばご覧になってわかる様に、

 

※※ここからネタバレを含みますので、本編をご覧になる前の方は絶対にお読みにならないで下さい!!※※

 

あれは実在するものでないかもしれない。つまり、人でもなければ、何かのエネルギー体なのか、本当に存在するのか?確かな事は、「この男を見た」という奴の「噂」の中に、あの男がいるということです。最後、イサムという牧師の若者が、自分が見ている目の前の存在に、「お前はどう思う?」と逆に聞かれた時に、「お前は悪魔だ」と言った途端、すっとそこに悪魔として現れる。存在しているのかどうかもわからない、そういうイメージなんですね。ですから、その存在自体が本当に有るのかどうかも分からないものを、どう作ろう、なんてことは全く無理な話しであって、無理やり1つ何かを言葉を与え、自分の実感を伴ったイメージを与えようとした時に、このお話しの中で、あのキャラクターの「存在意義」というか「役割」というのは一体なんだろう?と。そこからアプローチした方がいいかなと思いました。

例えばですが、コクソンという片田舎の小さな町のコミュニティを池に例えて、そこにぽんっと放り込まれた、異物としての石ころ。その石ころが、ぽんっと池に投げ込まれる事によって起こる波紋。みたいなものだと。つまり無理やりに「(その男とは)なんだ?」と言われると、「池に投げ込まれる石」かもしれない。そんな事を注意しました。

司会:最後までドキドキする映画で、でもその中に笑いの要素もあり、そこが救いで良かったです。キャスティングも皆さん素晴らしかったですが、監督と國村さんから見た、現場でのチョン・ウヒさんの印象をお聞かせください。

國村:彼女も若いですが、舞台からの経験を積んで、素養をきっちりと身に付け、女優さんとして本当にクオリティが高いなと思いました。何より彼女は例えば「ムミョン」というキャラクターを自分がどういう風に捉えているかも含め、それをきちんと言葉にして喋る事ができる。やっぱり若いけどクオリティの高い女優さんである、というのが僕の印象です。

監督:たくさんの女優さんがオーディションを受けた中で、チョン・ウヒさんを選んだ理由というのは、彼女が最適な女優さんだからです。外部から見えるものではなく、その方が持つ『技』という面で、ものすごい力を感じました。私はこの役には「見せる力」があってほしいな、と思っていました。その理由としましては、2時間半の上映時間の中、全ての登場人物のバックグラウンドにあるものは「コクソン」という地名なんですが、その「コクソン」という地域の中に存在する、「神」というものを直接描写することはしなかったんです。しかし、観客に、無意識的に「神」という存在を感じさせる様な描写をしたかった。「神」を描写する手段としては、BGMや後ろの背景、時間や天気の変化を通して、観客にも届くのではないかと思っていました。チョン・ウヒさんを通して皆さんに伝えたかったんです。出演の場面もセリフも少ないのですが、映画の緊張を持続させる力がある役者が必要だと思っていたので、彼女を選びました。また現場では、すごくかわいらしい、妹の様な存在で、映画をご覧になった方はお分かりになると思いますが、期待以上にパワフルな演技をして下さいました。

司会:監督がなぜキャスティングも含めて、天気にそんなにこだわっていたのか、今の答えでもわかりました。「神」を感じさせるという。お時間の方が来てしまいましたので、公開は3/11なのですが、最速で観て頂いた皆さんにご挨拶を頂ければと思います。

國村:今日は本当にいらしていただいてありがとうございます。ほんとは最初に聞こうと思っていたのですが、どうでした?

<場内拍手>

ああ、良かった!!楽しんで頂けたなら本当に良かったと思います!で、ここからはお願いでございます。この『哭声/コクソン』という映画は今までには無かった映画だと思います。カテゴライズできない映画。映画の新たな楽しみ方が、この『哭声/コクソン』だと思います。ぜひお友達にこういう体験をさせてみたい、と思った方はお友達とまた一緒に観に来て下さいね。今日はありがとうございました!

監督:監督としての未練というのはあると思うのですが、この『哭声/コクソン』を作り上げた後に、「一抹の未練もない!」と言い切れます。ナ・ホンジンという監督の全てを注ぎ込んだ、未練が残らない作品と言えます。どんな評価を皆さんから頂こうが、それを全部受け止める所存であります。そんなナ・ホンジンという監督が6年をかけて全てを注ぎ込んで作った映画なので、周りのお友達に、「こういう監督が6年もかかって作った映画」だとお伝え下さい。長い間ご一緒頂きありがとうございました!

司会:ということで、ナ・ホンジン監督、國村隼さん、もう一度大きな拍手でお見送り下さい。ありがとうございました!!
数日前にこの作品拝見して、どこか喉につかえたものがあったのですが、皆さんの質問、そしてお二人の回答によって、半分くらいは自分の中で咀嚼できたかなと思いました。そんな映画体験をさせてくれる作品というのは、今の上映作品の中でも珍しいと思います。3月11日公開ですが、公開後も応援して頂ければ幸いです。本日はご来場本当にありがとうございました。気を付けてお帰り下さい。

<終了>

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監督:ナ・ホンジン
出演:クァク・ドウォン、ファン・ジョンミン、國村隼、チョン・ウヒ
2016年/韓国/シネマスコープ/DCP5.1ch/156分
©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION
配給:クロックワークス

公式サイト:http://kokuson.com/
公式Twitter:@ kokuson_movie
公式Facebook:https://www.facebook.com/kokuson0311

2017年3月11日、シネマート新宿他にて公開