ザ・シネマ 高橋諭治
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COLUMN/コラム2013.07.27
2013年8月のシネマ・ソムリエ
■8月3日『ミレニアムドラゴン・タトゥーの女』 スティーグ・ラーソンの世界的なベストセラー小説「ミレニアム」3部作の第1作を映画化。原作者の母国スウェーデンなど3ヵ国合作によるオリジナル版である。大財閥一族の少女が40年前に失踪した怪事件。社会や人間の闇に切り込みながら、その解明に挑むジャーナリストと異形の女性天才ハッカー、リスベットの姿を描き出す。リスベットの人物像を強調したハリウッド・リメイク版(11)よりも謎解きのパートが充実。手がかりの写真や暗号の解析場面など、随所に魅惑のサスペンスが宿っている。 ■8月10日『さよなら子供たち』 『死刑台のエレベーター』の名匠ルイ・マルが、ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した後期の秀作。1944年、ナチス占領下のフランスを舞台にした自伝的な物語である。 主人公は親元を離れ、カトリック系寄宿学校に疎開してきたジュリアン。12歳になっても寝小便の癖が抜けない彼は、偽名を使って転入してきたユダヤ人少年と出会う。あえて劇的な起伏を抑えた詩情豊かな映像世界は、終盤に急展開を迎える。子供の目線にこだわった友情の尊さ、そして戦争の不条理に胸締めつけられずにいられない。 ■8月17日『ブラック・スネーク・モーン』 米国南部を舞台に、妻に捨てられた黒人の元ブルースマンとセックス依存症の若い白人女性の交流を描く異色作。S・L・ジャクソン、C・リッチが衝撃的な役柄に挑んだ。主人公が半狂乱のヒロインを極太の鎖で監禁する場面など、序盤から驚愕シーンが続出。その半面、ブルース音楽や信仰を題材に、愛の喪失と再生を描いた寓話でもある。 ジャクソンが渋い歌声を聴かせ、リッチが血まみれシーンやヌードも辞さない熱演を披露。傷だらけの男女の“魂の叫び”を体現した、彼らの渾身の演技に圧倒される。 ■8月24日『さよなら、僕らの夏』 米国の新人監督J・A・エステスが発表した青春映画である。いじめっ子への復讐のためにボートでの川下りを計画した少年少女5人が、思わぬ悲劇を招き寄せてしまう。 主人公たちが直面するのは、友人の“死”というこのうえなく痛切な現実。夏の陽光きらめくオレゴン州のノスタルジックな情景とのコントラストが鮮烈な印象を残す。 思春期の子供たちの無邪気さと背中合わせの残酷さを、緊迫感をこめて繊細かつリアルに描出。一日の出来事の中に、その劇的な感情の移ろいを刻み込んだ演出が見事だ。 『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』© Yellow Bird Millennium Rights AB, Nordisk Film, Sveriges Television AB, Film I Väst 2009 『さよなら子供たち』© 1987 Nouvelles Editions de Films 『ブラック・スネーク・モーン』COPYRIGHT © 2013 BY PARAMOUNT VANTAGE, A DIVISION OF PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 『さよなら、僕らの夏』©2004 Whitewater films
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COLUMN/コラム2013.06.30
2013年7月のシネマ・ソムリエ
■7月6日『リアル・ブロンド』 売れない役者ジョーとヘアメイクアーティスト、メアリーは同棲中のカップル。倦怠期に陥った彼らのトラブル続きの日々を、シニカルなユーモア満載で綴るコメディだ。 主演のM・モディン、C・キーナーが、何をやっても空回りしてしまう男女を絶妙なコミカル演技で体現。ダメ人間たちの切実な奮闘ぶりが笑いと共感を呼び起こす。 監督はジム・ジャームッシュらと親交が深く、米国インディーズ界で活動するT・ディチロ。昼メロ撮影現場などの芸能界の内幕を見せる、軽妙なギャグ・センスに注目。 ■7月13日『歌う大捜査線』 かつて薬物問題で保護観察処分を受けたR・ダウニーJr.が、その復帰作として主演した異色コメディ。英国製のTVドラマ「The Singing Detective」の映画化である。主人公は謎の皮膚病に冒された小説家ダン・ダーク。そんな彼が病院でセラピーを受ける現実と、“歌う探偵”として活躍する妄想の中の出来事がシュールに錯綜していく。ノワールとミュージカルの要素をはらむ映像世界は遊び心たっぷり。不気味な特殊メイクを施したダウニーJr.と、意外な役柄に扮したM・ギブソンの共演も見ものだ。 ■7月20日『エビータ』 アンドリュー・ロイド=ウェバーの大ヒット・ミュージカルの映画化。アルゼンチン国民の絶大な支持を得た実在のファーストレディ、エバ・ペロンの生き様を描く。数々の音楽映画の秀作を手がけてきた名匠A・パーカーが、その実力を遺憾なく発揮。セリフを排除し、楽曲のメロディとリズムを前面に押し出した映像世界は圧巻である。大物女優たちを押しのけて大役を射止めたマドンナが、A・バンデラスとともに見事な歌唱力を披露。とりわけマドンナが歌う「アルゼンチンよ泣かないで」は感動的だ。 ■7月27日『幻の女』 『光年のかなた』『白い町で』などで世界的に注目されたスイスの映画作家アラン・タネール。1980年代末のミニシアター隆盛期に日本公開された味わい深い小品である。創作意欲を失った映画監督が若い助手を雇い、新作の女優探しを始める。スイスからイタリアの港町へ。そのあてどもない旅は、映画と人生をめぐる“製作日誌”のよう。主人公の情熱を呼び覚ます“幻の女”役は『息子の部屋』などのイタリア人女優ラウラ・モランテ。その端正な貌立ちと、謎めいた美しさは一度見たら忘れられない。 『リアル・ブロンド』© 1997 Lakeshore Entertainment Corp. All Rights Reserved 『歌う大捜査線』TM & Copyright © 2013 by Paramount Classics, a division of Paramount Pictures. All Rights Reserved 『エビータ』COPYRIGHT © 2013 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 『幻の女(1987)』1987 Filmograph/MK2 Productions
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COLUMN/コラム2013.05.26
2013年6月のシネマ・ソムリエ
■6月1日『不良少女モニカ』 I・ベルイマン監督の初期作品の中で最も広く知られた青春映画。みずみずしさと冷徹さが共存するその演出は、のちの仏ヌーベルバーグの作家たちにも影響を与えた。内気な若者ハリーと奔放な少女モニカが恋に落ち、着の身着のままの旅に出る。やがて厳しい現実的問題に直面した2人の選択が、残酷なコントラストを成していく。 ベルイマンに見出されたH・アンデルセンが、野性味あふれるモニカを圧倒的な存在感で体現。北欧の夏の空気感をシャープに取り込んだモノクロ映像も、実に魅惑的だ。 ■6月8日『冬の光』 田舎町の牧師トマスは4年前に妻を亡くして気力を失い、愛人の女性教師との関係にも煩わしさを感じている。そんなある日、信者のひとりが自殺したとの知らせが届く。I・ベルイマンが『鏡の中にある如く』と『沈黙』の間に発表した“神の沈黙”3部作の第2作。信仰心が揺らいだ牧師の苦悩を、恐ろしいほど深く静かに見すえていく。窓辺の“光”を印象的に捉えたカメラは名手S・ニクヴィスト。I・チューリンらの名優が脇を固め、神の不在という主題の解釈を観る者に委ねる結末も重い余韻を残す。 ■6月15日『青春群像』 フェデリコ・フェリーニが生まれ故郷の港町リミニを舞台に撮り上げた自伝的な青春映画。イタリアン・ネオリアリスモ的なテイストが色濃く残る初期の秀作である。 結婚後も浮気性が治らない駄目男ファウストを中心に、あてどない日々を過ごす若者5人の姿を描出。いつの時代も変わらぬ青春期の高揚感と鬱屈が観る者の郷愁を誘う。カーニバルの狂騒、浜辺に漂う寂寥感など、フェリーニらしいバイタリティや詩情に満ちた場面が随所に見られる。物語&映像と見事に融合した音楽はニーノ・ロータ。 ■6月22日『ニューヨーカーの青い鳥』 ニューヨークを舞台にした摩訶不思議な恋愛喜劇。雑誌の恋人募集広告が縁でめぐり合った男女と、彼らのかかりつけのセラピストたちが珍妙な騒動を繰り広げていく。原作&共同脚本は、不条理な作風で名高い劇作家クリストファー・デュラング。登場人物は変人だらけで、会話もまったく噛み合わない。唖然とするような怪作である。唐突なオープニングから大団円のラストまで、まさにR・アルトマン監督の独壇場。巨匠の作品中ではマイナーな1本だが、予測不可能な驚きを生む演出力はさすが。 ■6月29日『ネイキッド・タンゴ』 『蜘蛛女のキス』『太陽を盗んだ男』などで知られる脚本家L・シュレイダーの監督作品。1920年代アルゼンチンのタンゴ・バーを舞台に、男女の壮絶な愛憎模様を描く。 裕福な人妻から酒場の娼婦へと堕ちていくヒロイン役のM・メイが艶やかな魅力を披露。タンゴしか愛せない殺し屋に扮した怪優V・ドノフリオとの共演が見ものだ。ギャング映画の様式に則った映像世界の中に、派手な原色の照明に彩られたタンゴ・シーンを挿入。“血”の赤に染まった破滅的な結末まで濃厚な仕上がりの一作である。 『不良少女モニカ』©1953 AB Svensk Filmindustri Stills Photographer: Louis Huch 『冬の光』©1963 AB Svensk Filmindustri 『青春群像』RIZZOLI 1953 『ニューヨーカーの青い鳥』©1996 Lakeshore International Corp. All Rights Reserved. 『ネイキッド・タンゴ』©TOHO-TOWA
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COLUMN/コラム2013.04.28
2013年5月のシネマ・ソムリエ
■5月4日『野いちご』 ウディ・アレンらに多大な影響を与えてきたI・ベルイマン監督の代表作。ベルリン国際映画祭金熊賞などを受賞し、ベルイマンの世界的な名声を確立した傑作である。名誉博士の称号を授かることになった老教授が、ストックホルムからルンドへ車で向かう。その道中のさまざまな出会い、主人公の胸に去来する苦い思い出を映し出す。とかく哲学的で難解とされるベルイマン作品の中では共感しやすく、老いや孤独といった主題を繊細に紡いだ逸品。冒頭のシュールな“悪夢”は一度観たら忘れられない。 ■5月11日『サイコ リバース』 ネブラスカ州の田舎町を舞台にしたサイコ・スリラー。ある列車事故をきっかけに、地元の銀行に勤める物静かな青年ジョンの驚くべき“秘密”が明らかになっていく。主演は『麦の穂をゆらす風』『レッド・ライト』などのC・マーフィ。実力派の曲者俳優が『サイコ』の殺人鬼ノーマン・ベイツを彷彿とさせる多重人格者を演じた。妙なふたつの顔を持つ主人公の狂気と悲哀が渦巻くドラマが展開。日本では未公開に終わったが、E・ペイジ、S・サランドンらが脇を固めるキャストも充実している。 ■5月18日『処女の泉』 巨匠I・ベルイマンが民間伝承に基づいて撮り上げた深遠なドラマ。中世のスウェーデンを舞台に、3人の羊飼いに殺される少女の悲痛な運命と父親による復讐を描く。製作当時としては衝撃的な暴行シーンを生々しく映像化。殺人とその復讐を通して、神の沈黙や宗教的な赦しなどのテーマを探求した映像世界は今なお色褪せていない。荒涼とした北欧の山間部の風景、登場人物の鬼気迫る表情を捉えたスヴェン・ニクビストのカメラが秀逸。1972年のホラー『鮮血の美学』の元ネタにもなった名作である。 ■5月25日『死刑台のエレベーター』 ルイ・マル監督が弱冠25歳で撮り上げたデビュー作。愛人関係にある男女の完全犯罪が些細なミスから綻び、思わぬ事態へと発展していく様を描く犯罪サスペンスだ。決して手に汗握るスリルに満ちた作品ではないが、全編を覆う物憂げなムードが魅惑的。アンリ・ドカエ撮影の白黒映像とマイルス・デイヴィスの即興音楽が圧巻である。夜のパリをさまようヒロイン役はジャンヌ・モロー。のちにヌーベルバーグのミューズとなる名女優の鮮烈な美貌と、クールな頽廃をまとった情念が忘れえぬ印象を残す。 『野いちご』©1957 AB Svensk Filmindustri 『サイコ リバース』©2009 CORNFIELD PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved. 『処女の泉』©1960 AB Svensk Filmindustri 『死刑台のエレベーター』© 1958 Nouvelles Editions de Film
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COLUMN/コラム2013.03.31
2013年4月シネマ・ソムリエ
■4月6日『テンペスト』 シェイクスピアの同名戯曲を『クィーン』のオスカー女優H・ミレン主演で映画化。原作の男性主人公プロスペロを、プロスペラという女性に置き換えた愛憎劇である。 監督は、映画&演劇界で独創的な演出力を発揮しているJ・テイモア。原作のセリフを忠実に採用する一方、孤島の風景をダイナミックに捉え、大胆にCGを導入した。復讐に燃えるプロスペラ役のH・ミレンが、気迫に満ちた演技で怨念と母性を体現。ベン・ウィショー演じる妖精のキャラクターが、幻想的な興趣とユーモアを添えている。 ■4月13日『さらば、ベルリン』 1945年、ポツダム会談を取材するためにベルリンを訪れたアメリカ人ジャーナリスト、ジェイク。そこで元愛人のレーナと再会した彼は、巨大な陰謀に巻き込まれていく。S・ソダーバーグ監督が放ったミステリー劇。古典的なフィルムノワール風のモノクロ映像の中に、『カサブランカ』を彷彿とさせる男女の宿命的なドラマが展開する。終戦直後の混沌とした人間模様から浮かび上がってくるのは、複雑な秘密を隠し持つニーナという女性の肖像。C・ブランシェットが罪深くも美しいヒロインを好演した。 ■4月20日『アルフレード アルフレード』 “イタリア式コメディ”と呼ばれる艶笑喜劇の快作を多数世に送り出したP・ジェルミ監督の遺作。男性主人公の目線で“結婚”という題材を扱った奇想天外なドラマだ。冴えない銀行員アルフレードが、妖艶な美女マリア・ローザに猛アタックされて結婚式を挙げる。ところがその先に待ち受けていたのは、悪夢のような夫婦生活だった! D・ホフマンが突然モテ男になった主人公の困惑をコミカルに表現。恐ろしいほど情熱的で気まぐれなヒロインに扮したS・サンドレッリの怪演からも目が離せない。 ■4月27日『スティック・イット!』 チアリーディングを題材にしたヒット作『チアーズ!』の脚本家J・ベンディンガーの初監督作。女子体操競技の世界にスポットを当てた青春スポーツ・コメディだ。反逆児のレッテルを貼られながらも体操界に復帰した17歳の少女の奮闘を、ポップな映像&音楽とともに活写。何とコーチを演じるのはオスカー俳優J・ブリッジス!豪快な競技シーンをふんだんに盛り込みつつ、体操界の内幕もちらりと描出。大会に出場したヒロインたちが、審判の採点に猛抗議するという意外な展開にも驚かされる。 『テンペスト』©2010 Touchstone Pictures 『さらば、ベルリン』TM & © Warner Bros. Entertainment Inc. 『アルフレード アルフレード』1972@ MEDIATRADE 『スティック・イット!』© Touchstone Pictures. All rights reserved/© KALTENBACH PICTURES GmbH & Co. All rights reserved
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COLUMN/コラム2013.02.24
2013年3月のシネマ・ソムリエ
■3月2日『昼顔』 ヴェネチア国際映画祭金獅子賞に輝いた鬼才L・ブニュエルの異端的名作。昼はマゾヒスティックな欲望に囚われた娼婦、夜は貞淑な人妻という二面性を持つ女性の物語である。馬車から引きずり下ろされたヒロインが森で縛られ、鞭で打たれるオープニングなど、倒錯的な官能描写が随所に。現実と妄想の境界を取り払ったブニュエルの演出が冴え渡る。当時23歳のC・ドヌーヴの美しさは眩いほどで、恍惚の表情やイヴ・サンローランの衣装をまとった気品も圧倒的。“淫ら”な内容でありながら、優雅な雰囲気にも酔える逸品だ。 ■3月9日『ジェイン・オースティンの読書会』 世話好きの女性バーナデットが愛犬を亡くした友人を励まそうと、ジェイン・オースティンの読書会を企画。こうして男性ひとりを含む個性豊かな6人のメンバーが集結する。全米ベストセラーになった同名小説の映画化。多様な人生の機微が詰まったオースティンの6つの小説の内容に、悩み多き男女6人の個人的事情が重なっていく設定が面白い。教え子との禁断の恋に揺れる教師役E・ブラントなどキャストも魅力的で、オースティンの愛読者ならずとも楽しめる。大人向けのロマンチック・コメディというべき佳作である。 ■3月16日『[リミット]』 地中に埋められた棺桶の中で目を覚ました青年のサバイバル劇。全編の舞台を棺桶内に限定し、画面に映る登場人物はひとりだけという究極のシチュエーション・スリラーである。 トラック運転手の主人公はイラクでの仕事中に何者かに襲われ、生き埋めにされてしまった。携帯電話で外部に連絡し、必死に救助を求める姿が息づまるスリルを呼び起こす。監督は「レッド・ライト」も好評を博したスペインの俊英R・コルテス。緻密な脚本、変化に富んだカメラワークも秀逸で、緊張が頂点に達する結末までまったく目が離せない。 ■3月23日『ヘンダーソン夫人の贈り物』 1937年、夫の莫大な遺産を相続した未亡人が古びた劇場のオーナーになり、英国初のヌードレビューを上演する。実話にもとづく笑いと涙たっぷりのヒューマン・ドラマである。ロンドン空襲時にもショーを上演し、戦場に赴く若い兵士たちを勇気づけたウィンドミル劇場。その感動秘話を、名匠S・フリアーズが軽快かつ陰影に富んだ演出で見せていく。 “007”シリーズのM役でおなじみの大女優J・デンチが、豪胆にして心優しいヘンダーソン夫人を好演。劇場支配人役のB・ホスキンスとの掛け合いもコミカルで味わい深い。 ■3月30日『ルパン』 “ルパン”シリーズの生みの親、モーリス・ルブランの生誕100周年記念作品。フランス映画界が「カリオストロ伯爵夫人」を下敷きにして完成させたアドベンチャー大作である。駆け出し時代の若き怪盗ルパンが身を投じた秘宝争奪戦。希代の悪女たるカリオストロ伯爵夫人との確執、美しき従妹クラリスとの恋など、盛りだくさんのエピソードが展開する。R・デュリス演じるルパンは日本の人気アニメのそれとはかなりイメージが異なるが、無鉄砲で情熱的な魅力を発揮。豪華な装飾品や変装シーンなどの凝ったギミックも満載だ。 『昼顔』© Investing Establishment/Plaza Production International/Comstock Group 『ジェイン・オースティンの読書会』© 2007 Sony Pictures Classics Inc. All Rights Reserved. 『[リミット]』© 2009 Versus Entertainment S.L. All Rights Reserved. 『ヘンダーソン夫人の贈り物』©MICRO-FUSION 2004-1 LLP 2005 『ルパン』© Investing Establishment/Plaza Production International/Comstock Group
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COLUMN/コラム2013.02.01
2013年2月のシネマ・ソムリエ
■2月2日『ダニエラという女』 平凡な男フランソワが宝くじを当て、美しい娼婦ダニエラとの同棲を実現させる。しかしフランソワは心臓に持病を抱えているうえに、思わぬ珍客が次々と現れて…。イタリアの宝石たるモニカ・ベルッチが、トップブランドの衣装に身を包み、ゴージャスな魅力を惜しみなく発揮。その豊満な肢体、蠱惑的な仕種には圧倒されるばかり。『美しすぎて』のフランス人監督B・ブリエらしい皮肉満載の喜劇。主人公の主治医や隣人の女性らを巻き込んだ愛と欲望の物語が、シュールかつ哀歓豊かに展開する。 ■2月9日『SOMEWHERE』 ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したS・コッポラ監督の長編第4作。ホテル住まいのハリウッド・スターと、別れた妻との間にもうけた11歳の娘との触れ合いを綴る。舞台はハリウッドの伝説的なホテル、シャトー・マーモント。そこでひたすら空虚な時間を過ごす主人公の孤独が描かれ、ユニークな“ホテル映画”としても楽しめる。事件が何も起こらない本作で、観る者の目を奪うのは人気子役エル・ファニング。主人公の視線で描かれるその眩い魅力が、映画に清涼感と切ない情感を吹き込んでいる。 ■2月16日『オール・アバウト・マイ・マザー』 アカデミー外国語映画賞、カンヌ国際映画祭監督賞に輝いた鬼才P・アルモドバルの代表作。さまざまな問題を抱えながら生きる女性たちの希望探しのドラマである。息子を亡くした中年女性、愛に悩む舞台女優、ゲイの娼婦など、個性豊かな登場人物がずらり。彼女らの人生の数奇な巡り合わせが、感動的な女性賛歌へと結実していく。C・ロス、M・パレデスという二大ベテラン女優の味わい深い名演技はもちろん、P・クルスの助演も見逃せない。エイズに冒される純朴な修道女を可憐に演じている。 ■2月23日『スルース』 K・ブラナー監督が72年の傑作ミステリー『探偵〈スルース〉』のリメイクに挑戦。M・ケイン、J・ロウというわずか2人だけのキャストが壮絶な演技合戦を披露する。ベストセラー作家の妻を寝取った若い俳優。嫉妬と憎悪が渦巻く両者の“協議”は、危うい“ゲーム”に発展し、ついには命を賭した“対決”へとエスカレートしていく。二転三転のどんでん返しやユーモアが魅力のオリジナル版とは異なり、シリアス調のドラマがスピーディに展開。悪趣味すれすれのアートのような豪邸の内装も圧巻だ。 『ダニエラという女』©2005 FIDÉLITÉ FILMS-BIM DISTRUBUZIONE-FRANCE 2 CINÉMA-WILD BUNCH-PAN-EUROPÉENNE PRODUCTION-PLATEAU A-LES FILMS ACTION 『SOMEWHERE』2010-Somewhere LLC 『オール・アバウト・マイ・マザー』© 1999 - EL DESEO - RENN PRODUCTIONS - FRANCE 2 CINEMA 『スルース』©MRC II Distribution Company LP
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COLUMN/コラム2013.02.01
2013年2月のシネマ・ソムリエ
■2月2日『ダニエラという女』 平凡な男フランソワが宝くじを当て、美しい娼婦ダニエラとの同棲を実現させる。しかしフランソワは心臓に持病を抱えているうえに、思わぬ珍客が次々と現れて…。イタリアの宝石たるモニカ・ベルッチが、トップブランドの衣装に身を包み、ゴージャスな魅力を惜しみなく発揮。その豊満な肢体、蠱惑的な仕種には圧倒されるばかり。『美しすぎて』のフランス人監督B・ブリエらしい皮肉満載の喜劇。主人公の主治医や隣人の女性らを巻き込んだ愛と欲望の物語が、シュールかつ哀歓豊かに展開する。 ■2月9日『SOMEWHERE』
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COLUMN/コラム2013.01.10
2013年1月のシネマ・ソムリエ
■1月12日『ヤギと男と男と壁と』 イラク戦争を取材するため中東へ旅立った米国地方紙の記者ボブ。やがて彼が出会った奇妙な中年男リンは、何と米軍が密かに設立した超能力部隊のメンバーだった!内容は荒唐無稽だが、原作は「実録・アメリカ超能力部隊」というノンフィクション。ベトナム戦争以後の米軍の知られざる仰天真実に迫ったブラック・コメディである。全力疾走で壁をすり抜ける、眼力でヤギを殺す、などの珍エピソードが満載。よくも揃った豪華実力派キャストが、大真面目な顔つきの怪演で爆笑&失笑を誘う痛快作だ。 ■1月19日『マンデラの名もなき看守』 悪名高きアパルトヘイト施行下の南アフリカを舞台にした実録ドラマ。服役中のネルソン・マンデラと心を通わせた白人刑務官ジェームズ・グレゴリーの手記の映画化だ。1968年、赴任先のロベン島でマンデラの監視を命じられたジェームズ。当初は凶悪犯と見なしていたマンデラの気高い思想に触れた彼は、国の政策に疑問を抱き始める。マンデラ役は『24 -TWENTY FOUR-』のパーマー大統領役で知られるD・ヘイスバート。名匠B・アウグストがマンデラ釈放までの長い軌跡を堅実かつ感動的に描いた。 ■1月26日『結婚記念日』 『ハリーとトント』のP・マザースキー監督が手がけたコメディ。W・アレン&B・ミドラーという意外な顔合わせの2人が、結婚17年目の熟年カップルを演じている。主人公はロスの高級住宅街で暮らす弁護士と心理学者の夫婦。映画館やバーを備えたショッピングモールを舞台に、ケンカと和解を繰り返す男女の会話バトルを描く。お世辞にも“お似合い”とは言いがたいインテリ夫婦を、アレン&ミドラーがそれぞれの芸風を生かして好演。大型モール内のにぎわいを幕間に挿入した構成も楽しめる。 『ヤギと男と男と壁と』© 2009 Westgate Film Services, LLC. All Rights Reserved 『マンデラの名もなき看守』©ARSAM INTERNATIONAL,CHOCHANA BANANA FILMS,X-FILME CREATIVE POOL,FONEMA,FUTURE FILM FILM AFRIKA 『結婚記念日』© Touchstone Pictures. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2013.01.10
2013年1月のシネマ・ソムリエ
■1月12日『ヤギと男と男と壁と』 イラク戦争を取材するため中東へ旅立った米国地方紙の記者ボブ。やがて彼が出会った奇妙な中年男リンは、何と米軍が密かに設立した超能力部隊のメンバーだった!内容は荒唐無稽だが、原作は「実録・アメリカ超能力部隊」というノンフィクション。ベトナム戦争以後の米軍の知られざる仰天真実に迫ったブラック・コメディである。全力疾走で壁をすり抜ける、眼力でヤギを殺す、などの珍エピソードが満載。よくも揃った豪華実力派キャストが、大真面目な顔つきの怪演で爆笑&失笑を誘う痛快作だ。 ■1月19日『マンデラの名もなき看守』