5月4日『野いちご』

ウディ・アレンらに多大な影響を与えてきたI・ベルイマン監督の代表作。ベルリン国際映画祭金熊賞などを受賞し、ベルイマンの世界的な名声を確立した傑作である。名誉博士の称号を授かることになった老教授が、ストックホルムからルンドへ車で向かう。その道中のさまざまな出会い、主人公の胸に去来する苦い思い出を映し出す。とかく哲学的で難解とされるベルイマン作品の中では共感しやすく、老いや孤独といった主題を繊細に紡いだ逸品。冒頭のシュールな“悪夢”は一度観たら忘れられない。

 

5月11日『サイコ リバース』

ネブラスカ州の田舎町を舞台にしたサイコ・スリラー。ある列車事故をきっかけに、地元の銀行に勤める物静かな青年ジョンの驚くべき“秘密”が明らかになっていく。主演は『麦の穂をゆらす風』『レッド・ライト』などのC・マーフィ。実力派の曲者俳優が『サイコ』の殺人鬼ノーマン・ベイツを彷彿とさせる多重人格者を演じた。妙なふたつの顔を持つ主人公の狂気と悲哀が渦巻くドラマが展開。日本では未公開に終わったが、E・ペイジ、S・サランドンらが脇を固めるキャストも充実している。

 

5月18日『処女の泉』

巨匠I・ベルイマンが民間伝承に基づいて撮り上げた深遠なドラマ。中世のスウェーデンを舞台に、3人の羊飼いに殺される少女の悲痛な運命と父親による復讐を描く。製作当時としては衝撃的な暴行シーンを生々しく映像化。殺人とその復讐を通して、神の沈黙や宗教的な赦しなどのテーマを探求した映像世界は今なお色褪せていない。荒涼とした北欧の山間部の風景、登場人物の鬼気迫る表情を捉えたスヴェン・ニクビストのカメラが秀逸。1972年のホラー『鮮血の美学』の元ネタにもなった名作である。

 

5月25日『死刑台のエレベーター』

ルイ・マル監督が弱冠25歳で撮り上げたデビュー作。愛人関係にある男女の完全犯罪が些細なミスから綻び、思わぬ事態へと発展していく様を描く犯罪サスペンスだ。決して手に汗握るスリルに満ちた作品ではないが、全編を覆う物憂げなムードが魅惑的。アンリ・ドカエ撮影の白黒映像とマイルス・デイヴィスの即興音楽が圧巻である。夜のパリをさまようヒロイン役はジャンヌ・モロー。のちにヌーベルバーグのミューズとなる名女優の鮮烈な美貌と、クールな頽廃をまとった情念が忘れえぬ印象を残す。

 

『野いちご』©1957 AB Svensk Filmindustri 『サイコ リバース』©2009 CORNFIELD PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved. 『処女の泉』©1960 AB Svensk Filmindustri 『死刑台のエレベーター』© 1958 Nouvelles Editions de Film