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PROGRAM/放送作品
スノーホワイト/氷の王国
邪悪な女王には最強の妹がいた!魔法の鏡をめぐる壮絶な戦いを描く『スノーホワイト』の続編ファンタジー
グリム童話「白雪姫」をダークファンタジー活劇としてアレンジした『スノーホワイト』の続編。邪悪な女王ラヴェンナを前作に続きシャーリーズ・セロン、その妹“氷の女王”をエミリー・ブラントが妖艶に魅せる。
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COLUMN/コラム2023.06.28
古き良きモンスター映画の魅力を現代に受け継いだ正統派ゴシック・ホラー『ウルフマン』
※本レビューには一部ネタバレが含まれるため、鑑賞後にお読み頂くことを推奨します。 狼男はいかにしてホラー映画のメジャースターとなったのか? ハリウッド産ホラー映画の殿堂ユニバーサルが、往年の名作『狼男』(’41)を21世紀に甦らせたリメイク映画『ウルフマン』(’10)。「吸血鬼」や「フランケンシュタインの怪物」などと並ぶ、古典的ホラー・モンスターの代表格「狼男」だが、しかし映画の世界では長いこと不遇の扱いを受けることが多かった。そこでまずは、狼男伝説の基本をおさらいしつつ、人狼映画の変遷を振り返ってみたい。 普段は平穏に暮らしている普通の人間が、満月の夜になると全身が狼のように毛むくじゃらの怪物へと変身し、文字通り野獣本能の赴くままに殺戮を繰り広げる狼男(=人狼)。襲われた人間もまた人狼となってしまう。唯一の弱点は銀製の弾丸や武器だが、この設定は19世紀に加わったものと言われる。ヨーロッパの民間伝承では古くから知られており、そのルーツは遠くギリシャ神話やローマ神話の時代にまで遡るという。アルカディア王リュカオンの伝説だ。詩人オウィディウスの叙事詩「変身物語」には、自分のもとへ訪れた最高神ゼウスを本物かどうか試そうとしたリュカオンが、そのことでゼウスの怒りを買って狼へ変えられたという記述がある。このリュカオンこそが、人狼=ライカンスロープの語源となったのだ。 さらに、中世ヨーロッパでは各地に人狼事件の記録が残っており、特に魔女狩りの嵐が吹き荒れた16世紀から17世紀にかけては、実に3万件もの人狼裁判が行われたそうだ。また、1764~67年にフランスのジェヴォーダン地方で100人近くが狼のような野獣に襲われたという、いわゆる「ジェヴォーダンの獣」事件にも人狼説が存在する。ただ、この頃になると「狼憑き」は精神疾患の一種と見做されるようになっていたようだ。実際、ライ麦パンを主食とする貧困層が、そのライ麦に寄生した麦角菌の中毒が原因で「狼憑き」状態に陥ったケースも多かったらしい。 かように長い歴史と伝統を誇る怪物・狼男(=人狼)だが、しかし映画のスクリーンで暴れまわるまでには時間がかかった。世界初の人狼映画と呼ばれるのは、ユニバーサルが配給した『The Werewolf』(’13)という短編サイレント映画。これは、先住民ナバホ族の呪術師が、白人侵略者を殺すため我が娘を狼に変えるという話だった。しかし、サイレント期に作られた人狼映画は、これとジョージ・チェセブロ主演の『Wolf Blood』(’25)くらいのもの。吸血鬼およびフランケンシュタインの怪物に比べて人狼が不人気だったのは、「吸血鬼ドラキュラ」や「フランケンシュタイン」のように著名な原作が存在しなかったからと考えられる。また、人間→モンスターへ変身する過程の描写が、当時の映像技術では極めて難しかったことも理由として挙げられるだろう。 やがて、’30年代に入ると『魔人ドラキュラ』(’31)と『フランケンシュタイン』(’31)の大ヒットを皮切りに、いわゆるユニバーサル・モンスター映画ブームが到来。フランケンシュタインの怪物を演じたボリス・カーロフが一躍注目されたことから、そのカーロフを単独主演に据えた次回作として、実はスタジオ側が人狼映画の企画を準備していたらしい。監督と脚本も『モルグ街の殺人』(’32)のロバート・フローリーに決まっていたという。ところが、人間が野獣に変身するのは冒涜的ではないか?と、カトリック系団体からの反発を恐れたユニバーサルが途中で企画を断念。その代わりとして製作したのが『倫敦の人狼』(’35)だった。ただし、人狼治癒効果のある希少な植物を研究する学者が人狼に変身するというストーリーは、「ジキル博士とハイド氏」のバリエーションという印象。劇中に登場する人狼の特殊メイク(ジャック・ピアースが担当)も、なるべくショッキングになり過ぎないよう配慮され、あえて野獣的なイメージが薄められてしまった。 そのユニバーサルが、ようやく本腰を入れて世に送り出した本格的な人狼映画がジョージ・ワグナー監督の『狼男』(’41)。兄の死をきっかけに故郷へ戻った名家の御曹司ローレンス・タルボット(ロン・チェイニー・ジュニア)が、夜の森で狼に襲われたことから、満月の夜になると人狼へと変身してしまう。普段は善良で心優しい青年が、理性なき凶暴なケダモノと化してしまう衝撃。そして、己の残酷な運命に苦悩した彼が、さらなる惨劇を防ぐため自らの死を望むという悲劇。そのドラマチックなストーリーは、原作小説のないオリジナル作品でありながら文学的な香りが色濃く漂う。脚本を手掛けたのはSF作家としても知られるカート・シオドマク。ジャック・ピアースによる野獣的な特殊メイクの仕上がりも素晴らしく、以降の人狼映画におけるプロトタイプとなる。技術的な粗を巧みに隠した変身シーンの演出も上出来だった。 この『狼男』が大ヒットしたおかげで、いよいよ人気ホラー・モンスターの仲間入りを果たした人狼。ユニバーサルは引き続きロン・チェイニー・ジュニアをローレンス・タルボット(=狼男)役に起用し、『フランケンシュタインと狼男』(’43)や『フランケンシュタインの館』(’44)、『ドラキュラとせむし女』(’45)などのモンスター競演映画を製作する。また、20世紀フォックスもジョン・ブラーム監督の『不死の怪物』(’42)という人狼映画の隠れた名作を発表。ただ、やはり特殊メイクに手間暇がかかるうえ、当時の技術では変身プロセスをリアルに見せることが困難だったためか、’50年代以降のハリウッドはあまり作られなくなっていく。 一方、ヨーロッパではオリヴァー・リードの出世作となったハマー・プロの英国ホラー『吸血狼男』(’60)や、『吸血鬼ドラキュラ対狼男』に始まるポール・ナッシー主演のスパニッシュ・ホラー「狼男ヴァルデマル・ダニンスキー」シリーズなどが登場し、アメリカへも上陸してヒットしている。さらに、’80年代になるとハリウッドの特殊メイクや視覚効果の技術が飛躍的に向上。ジョー・ダンテ監督の『ハウリング』(’81)とジョン・ランディス監督の『狼男アメリカン』(’81)が相次いで全米公開され、いずれも当時としては画期的な人狼の変身シーンが話題となった。人狼映画にとって長年の課題が遂に解決したのである。中でも、リック・ベイカーが特殊メイクを担当した『狼男アメリカン』は、人間から野獣へと変化していく過程を細部まで克明に表現。もはや特殊メイクの世界そのものに革命を巻き起こしたと言えよう。 こうして、長年に渡って進化を遂げてきた人狼映画。やがてCG全盛の時代が訪れると、毛の質感をいかにデジタルで表現するかが新たな課題となったが、しかし『アンダーワールド』(’03)シリーズや『トワイライト』(’05)シリーズを見ても分かるように、それもまた着実に改善されてきているだろう。とはいえ、デジタル処理された昨今の狼男に少なからず物足りなさを感じることも否定できまい。特に『トワイライト』シリーズの人狼は、もはや人狼というより狼そのものだし、なによりも変身シーンのあまりの呆気なさときたら(笑)。なので、『ドッグ・ソルジャー』(’02)や『ローンウルフ 真夜中の死闘』(’14)のような、極力CGを最小限に抑えてフィジカルな特殊メイクやアニマトロニクスにこだわった作品に、どうしてもシンパシーを覚えてしまう。いずれにせよ、そんな過渡期の時代にあえて登場したのが、人狼映画の古典にして金字塔『狼男』をリメイクした本作だった。 脚本・演出・特殊メイクの総てに溢れるオリジナルへのリスペクト! 舞台は19世紀末のイギリス。兄弟ベンが行方不明になったとの一報を、彼の婚約者グエン(エミリー・ブラント)より受けたシェイクスピア俳優ローレンス・タルボット(ベニチオ・デル・トロ)は、公演先のロンドンから故郷の村ブラックムーアへ25年ぶりに戻って来る。生家のタルボット城へ到着した彼を待っていたのは、長いこと複雑な関係にある父親ジョン(アンソニー・ホプキンス)。幼い頃に愛する母親を自殺で失い、その現場を目撃してしまったローレンスは、父親によって精神病院へと入れられ、退院後はアメリカに住む叔母のもとへ預けられたのだ。その父親ジョンの口から告げられたのはベンの訃報。遺体は無残にも引き裂かれており、まるで獰猛な野獣に襲われたようだった。いったいベンの身に何が起きたのか。ローレンスは真相を突き止めることを誓う。 実は、ローレンスの母親が亡くなった25年前の満月の夜にも、村では同様の事件が起きていた。一部の村人は人狼の仕業と信じているようだ。亡きベンが流浪民と関わっていたことを知ったローレンスは、手がかりを掴むために流浪民の野営地を訪ねるのだが、そこへ突然現れた人狼が大殺戮を繰り広げ、ローレンスもまた襲われて重傷を負ってしまう。瀕死の彼を助けたのは流浪民の占い師マレバ(ジェラルディン・チャップリン)。辛うじて一命を取り留めたローレンスは、驚くほどのスピードで回復。そんな彼の身辺を、警察庁のアバライン警部(ヒューゴ・ウィーヴィング)が調べ始める。精神疾患の過去があるローレンスに大量殺人の疑いを向けたのだ。徐々に自らの身体的な変化に違和感を覚えていくローレンス。そして訪れた満月の晩、彼はみるみるうちに狼人間へと姿を変えて村人を襲う。果たして、ベンを殺してローレンスを襲撃した人狼の思いがけない正体とは?そして、やがて明らかとなる母親の死の真相とは…? オリジナル版のストーリーを下敷きにしつつ、主人公ローレンスを舞台俳優に変えるなど随所で様々な設定変更を施し、さらに母親の死という新たな設定を加えた本作。ヒロインのグウェンも、オリジナル版ではローレンスの恋人となる骨董品店の娘だった。しかし恐らく最大の違いは父親ジョンの設定であろう。旧作のジョンは息子を誰よりも愛する理知的で温厚な天文学者だったが、本作のジョンはシニカルで冷笑的な名門貴族の隠居老人で、息子に対してもどこか冷淡なところがある。そればかりか、実は彼こそがベンを殺してローレンスを襲った人狼だった。この大胆な新解釈によって、ストーリー後半の展開も旧作とは意味合いが異なるものとなっている。 人狼としての野獣的な本能を受け入れ、むしろ優越感をもってそれを愉しむようになったジョン。一方の息子ローレンスは、抗いたくても抗うことのできない野獣的な本能に苦悩し、全ての元凶である父親に復讐を果たして自らも死を選ぼうとする。本編後半で繰り広げられる両者の全面対決は、それすなわち人間的な理性と動物的な本能の葛藤だと言えよう。確かに、父と子の死闘は旧作のクライマックスでも描かれるが、しかしオリジナル版の父親ジョンは目の前の人狼が我が子ローレンスだとは知らなかった。血を分けた親子の戦いというのは多分にシェイクスピア的であり、このリメイク版ではその宿命的な悲劇性がなおさらのこと際立つ。ローレンスの職業をシェイクスピア俳優に変えたことには、そういう意図も含まれていたに違いない。『セブン』(’95)のアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーが手掛けた脚本を、『ロード・トゥ・パーディション』(’02)のデヴィッド・セルフがリライトしたそうだが、この肉親同士の非情な対立と隔絶の要素には後者の個性が色濃く出ているようにも思う。 ちなみに、グエンのナレーションによって読み上げられる冒頭の「清らかな心を持ち/祈りを欠かさぬ者も/トリカブトの咲く/秋月の輝く夜に/人狼にその姿を変える」という一文は、旧作『狼男』を筆頭にユニバーサル・ホラーでたびたび登場する人狼伝説の有名なフレーズ。一部では実在する東欧系流浪民の言い伝えだとも噂されてきたが、実際はオリジナル版の脚本家カート・シオドマクが考え出したものだった。 かように文学的で品格のある脚本を、正統派のゴシック・ホラーとして映像化したジョー・ジョンストンの演出も評価されて然るべきだろう。濃い霧の立ち込めるダークで重厚な映像美は、オリジナル版のイメージを最大限に尊重したもの。さらに、舞台設定を旧作の現代から19世紀末に移し替えたことで、メアリー・シェリーやブラム・ストーカーの小説にも相通じるクラシカルな怪奇幻想譚の世界を創出している。VFXの使用を必要最小限に抑えたことも、物語にリアリズムを与える上で非常に効果的だったと言えよう。中でも特に、昔ながらのフィジカルな特殊メイクで人狼を表現したのは賢明な選択だ。 特殊メイクのデザインを担当したのは、先述した『狼男アメリカン』の画期的な人狼メイクで業界に革命を巻き起こした巨匠リック・ベイカー。なにしろ、少年時代に見た旧作『狼男』や『フランケンシュタイン』に感化されて、特殊メイク・アーティストを目指した人物である。これほど適した人選もなかろう。事実、本作の企画を知ったベイカーは、「何が何でも俺がやりたい!」と自ら名乗りをあげたそうだ。その『狼男アメリカン』や『ハウリング』の成功以来、人間よりも本物の狼に寄せたデザインが主流となっていたハリウッド映画の人狼だが、本作ではベイカーも尊敬するジャック・ピアースが手掛けた旧作の人間寄りデザインを採用。そこに最先端の特殊メイク技術を活用したアップデートを施している。 例えば、趾行動物の特徴を受け継いだ人狼の独特な歩き方。旧作では単純に役者がつま先立ちをしているだけだったが、本作では競技用義足を応用することで、より動物的な歩行を表現している。また、旧作の狼男は材質が固かったため表情を変えることが難しかったが、その点も本作では大きく改善されており、なおかつ役者本人の顔つきや身体的な特徴を生かしたデザインが考案された。おかげで、CG人狼にありがちなアニメっぽさが感じられないのは有難い。なにより、古き良き伝統的な狼男を甦らせてくれたことは、ホラー映画ファンとして素直に嬉しいと言えよう。とはいえ、さすがに変身プロセスではCGを使用。一応、見せるパーツを選ぶことでデジタルの粗を隠しているが、それでも部分的には隠しきれていないところも見受けられる。そこは本作で唯一不満の残る点であろう。 なお、今回ザ・シネマにて放送されるのは、劇場版よりも17分ほど長いディレクターズ・カット版。オープニングのスタジオ・ロゴも、オリジナル版が公開された’40年代当時のものを再現している。また、劇場版ではグウェンからベン失踪を告げる手紙を受け取ったローレンスが、故郷のブラックムーアへ急いで向かう様子を駆け足で手短にまとめていたが、ディレクターズ・カット版ではそこへ至るまでの過程が詳しく描かれる。注目すべきは、クレジットにない名優マックス・フォン・シドーの登場であろう。ローレンスが機関車のコンパートメントで知り合う謎めいた老人役。終盤のストーリーで重要な役割を果たす純銀製のステッキは、この老人から譲り受けたものだったのだ。しかも、ジェヴォーダンで作られたものだというのだから、分かる人なら思わずニンマリとするに違いない。 特殊メイクを手掛けたリック・ベイカーとデイヴ・エルシーが第83回アカデミー賞に輝いたものの、しかし公開当時の批評は決して高かったとは言えず、興行的にも残念な結果に終わってしまった本作。正直なところ、理不尽なほどの過小評価だったと言わざるを得まい。実際は極めて良質なゴシック・ホラー映画。特に、ローレンス・タルボットやヴァルデマル・ダニンスキーの名前を聞いて思わず胸がキュンとなるような、筋金入りのクラシック・モンスター映画ファンならば必見である。現在、ユニバーサルは新たなリブート版の企画を進めているとのこと。大いに期待して待ちたい。■ 『ウルフマン [ディレクターズカット版]』© 2010 Universal Studios. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
(吹)スノーホワイト/氷の王国
邪悪な女王には最強の妹がいた!魔法の鏡をめぐる壮絶な戦いを描く『スノーホワイト』の続編ファンタジー
グリム童話「白雪姫」をダークファンタジー活劇としてアレンジした『スノーホワイト』の続編。邪悪な女王ラヴェンナを前作に続きシャーリーズ・セロン、その妹“氷の女王”をエミリー・ブラントが妖艶に魅せる。
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COLUMN/コラム2015.10.30
憧れのウェディング・ベル
アメリカ西海岸の都市サンフランシスコ。腕利きシェフのトム(ジェイソン・シーゲル)と心理学者を志すバイオレット(エミリー・ブラント)は、大晦日のパーティでの運命的な出会いからちょうど1年後に婚約した。 だがバイオレットに中西部のミシガン大学から採用通知が来たために結婚式の日程は棚上げに。トムは、バイオレットのキャリアを優先して一緒にミシガンに移り住むものの、実績を積み重ねていく彼女とは対照的にシェフとしてのスキルを活かせる職場が見つからず落ち込んでいく。そしてその格差は、愛しあっていたはずのふたりの関係にも影響を及ぼしてしまうのだった…。 大抵のロマンティック・コメディでは、主人公のふたりが困難を乗り越えて互いの愛情を確かめるとすぐに結婚式のシーンに切り替わって大団円を迎えたりする。でも『憧れのウェディング・ベル』はそんな「お約束」を守らない。ふたりは婚約までしながら、そこから結婚式までなかなか辿り着けないのだから。 このユニークなストーリーを書いたのは、ジェイソン・シーゲルとニコラス・ストーラーの主演俳優・監督コンビだ。実生活でも親友同士であるふたりの盟友関係は今から14年前に遡る。始まりは『Undeclared』(01〜03)というテレビ番組だった。イケてない高校生の青春をリアルに描いて一部で絶賛されながら、視聴率不振で打ち切られた『フリークス学園』(99〜00)のクリエイター、ジャド・アパトーが「今度こそは」と立ち上げたこの大学コメディには、『フリークス学園』で発掘された21歳のシーゲルがジェイ・バルチェルやセス・ローゲンらとともにキャスティングされていた。このプロジェクトに脚本家として参加したのがストーラーだったのだ。 やはりこのドラマも視聴率は振るわずに打ち切られてしまったのだが、ストーリー作りの才能を認められたストーラーは、アパトーと共同でジム・キャリーの主演作『ディック&ジェーン 復讐は最高! 』(05年)の脚本を書いてハリウッド・デビューに成功する。この作品での仕事をキャリーに気に入られたストーラーは、引き続きキャリー主演作『イエスマン “YES”は人生のパスワード』(08年)の脚本を担当。単なるノン・フィクションだった原作をコメディ・ドラマに仕立て直して大ヒットさせるという離れ業をやってのけた。 一方、シーゲルもシットコム『ママと恋に落ちるまで』(05〜14年)のマーシャル役でお茶の間の人気者となっていた。この頃には『40歳の童貞男』(05年)と『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』(07年、シーゲルは主演のセス・ローゲンの友人役で出演した)の連続ヒットでハリウッドを代表する売れっ子プロデューサー兼監督となっていたアパトーの強い勧めもあり、シーゲルは映画進出を決意する。この時に彼がパートナーとしてあらためて声をかけたのがストーラーだったというわけだ。 記念すべきコンビ第一作は『寝取られ男のラブバカンス』(08年)。突然ガールフレンドに捨てられたシーゲル扮する主人公が、傷心旅行先のハワイで巻き起こす騒動を描いたこの作品は大ヒットを記録した。 以降もシーゲルとストーラーは、スウィフトの有名な風刺小説をモダンにリメイクしたSFX大作『ガリバー旅行記』(10年、主演はジャック・ブラックだがシーゲルも出演)、『寝取られ男』に登場するロックスター、アンガスをメインキャラに据えたロード・ムービー『伝説のロックスター再生計画!』(10年、シーゲルは原案のみ)、カーミットやミス・ピギーが登場する、マペット・ショーへの愛に溢れたミュージカル『ザ・マペッツ』(11年)、そしてシーゲルとキャメロン・ディアスが、SEXを撮影したビデオが誤ってネット上で拡散されてしまう夫婦に扮したエッチな『SEXテープ』(14年)といったヒット作を生み出し続けている。特筆すべきは、どれも気軽に楽しめるコメディ映画でありながら、似ている作品はひとつとしてないこと。シーゲルとストーラーは妥協を許さないアーティストなのだ。 そんな中でも『憧れのウェディング・ベル』はビターで大人びたタッチの異色作である。ヒロインに『ガリバー旅行記』でシーゲルと既に共演していたエミリー・ブラントを起用したのは、ストーラーとシーゲルが気心のしれたメンツで映画作りに集中したかったからだろう。 本作でふたりが力を注いで描いているのは「アメリカの正式な結婚式」の面倒くささだ。アメリカというとノリがいい国に思えるかもしれないけどトンデモない! 日本の場合、一般的な婚約期間はせいぜい半年程度だけど、アメリカでは1年半くらいはザラだ。その長い間、新婦とメイド・オブ・オナー(花嫁付添人のリーダー、通常は新婦の一番の親友が就任)は工夫を凝らした結婚式のプランを延々と練り上げる。そして遂に訪れた結婚式の前夜には豪華な晩餐会を開き、二次会は新郎側と新婦側に分かれて「独身さよならパーティ」を夜通し開催する。そして翌朝、ヨレヨレになりながら本番へとなだれ込むのだ。 日本でも劇場公開されたクリステン・ウィグの主演作『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(11年、この作品もプロデュースはジャド・アパトーだ)は、社会性が欠如しているにもかかわらず、親友からメイド・オブ・オナーを頼まれてしまった女子の苦闘を描いたものだった。また日本でもヒットした『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(09年)や『バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!』(12年)は、独身さよならパーティではしゃぎすぎて結婚式開催に赤信号を灯してしまう付添人たちを描いたコメディだ。結婚式にトラブルと笑いはつきものなのである。 でも『憧れのウェディング・ベル』の場合、主人公のふたりは晩餐会にすらなかなか辿り着けない。原題(The Five-Year Engagement)通り、婚約期間は五年にも及んでしまう。ひとつのトラブルが何とか収まったと思ったら、別の予期せぬトラブルが起きて結婚自体が仕切り直しになってしまうからだ。その間に結婚式をすっ飛ばして「デキ婚」をしたトムの同僚アレックス(今をときめくクリス・プラット!)とバイオレットの姉のスージー(アリソン・ブリー)のカップルが、どんどんハッピーになっていく姿が並行して描かれることによって、シニカルさはレッドゾーンに突入する。 もちろんロマンティック・コメディなので、主人公のふたりはラストぎりぎりになって最高の結婚式へと超特急で向かっていく。でもそこで語られるのは「結婚する心の準備とは自分の抱える問題を解決することではない。その問題をふたりで分ちあえるほど相手を信頼できているかどうかだ」という、男女の仲について悟りきった者だけが放てるメッセージだ。師匠のジャド・アパトーが45歳のときに撮った苦いファミリー・ドラマ『40歳からの家族ケーカク』(12年、シーゲルはスポーツ・ジムのインストラクター役で出演している)の境地に、シーゲルは弱冠32歳で辿り着いてしまったのかもしれない。 そのシーゲルは、クロエ・セヴィニーやミシェル・トラクテンバーグ、リンジー・ローハン、ミシェル・ウィリアムズといった華麗なガールフレンド歴を経て、現在は写真家のアレクシス・ミクスターと交際中。今度こそゴールイン間近と噂されている。はたして彼がどんな工夫を凝らした結婚式を挙げるのか、それとも式をすっ飛ばすのか、固唾を飲んで見守っていきたい。 Artwork © 2012 Universal Studios. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
ウルフマン(2010)[ディレクターズカット版]
[R15+]モンスター映画の古典が最新VFX&特殊メイクで甦る!実力派スター競演の戦慄ホラー
ホラー映画の古典である狼男伝説を、ベニチオ・デル・トロ&アンソニー・ホプキンスのオスカー俳優競演で重厚に映像化。リアルで恐ろしい狼男を創造した大御所リック・ベイカーがアカデミー・メイクアップ賞を受賞。
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COLUMN/コラム2014.05.25
2014年6月のシネマ・ソムリエ
■6月1日『ロリータ』 ロリータ・コンプレックスの語源となったナボコフの小説を映画化。巨匠S・キューブリックが『スパルタカス』と『博士の異常な愛情?』の間に発表した異色恋愛劇だ。 中年の文学者が下宿先の未亡人の娘ロリータに心奪われ、人生を狂わされていく。物語は原作に忠実だが、ヒロインの年齢設定などが変更され、モノクロで撮影された。 規制が厳しかった時代の作品ゆえに性描写は一切なく、犯罪映画風の冒頭に続いて、人間のエゴをえぐる破滅的なドラマが展開。脇役P・セラーズの怪演も見逃せない。 ■6月8日『砂漠でサーモン・フィッシング』 中東イエメンの砂漠に川を造り、鮭釣りができるようにしたい。大富豪からそんな壮大なプロジェクトの実現を依頼された、英国人水産学者の奮闘を描くコメディである。 原作はポール・トーディの小説『イエメンで鮭釣りを』。イメージアップをもくろむ英国政府の思惑も絡む物語はシニカルなユーモア満載で、恋愛映画としても楽しめる。 堅物の学者に扮したE・マクレガーと、投資コンサルタント役のE・ブラントの機知に富んだ掛け合いが魅力的。夢や理想といったテーマを爽やかに謳い上げた珠玉作だ。 ■6月15日『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』 『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』の俊英E・ライトが放ったラブ・コメディ。理想の女の子と交際するため、彼女の元カレ7人と対決する青年の物語だ。 ポップカルチャーから多大な影響を受けた監督の漫画やロックへの偏愛が爆発。主人公が次々と出現する元カレとのバトルを突破していく展開は、まさにゲームのよう! 凝った視覚効果や編集テクを駆使し、ファミコンのチープな電子音まで導入。マニアックな小ネタとギャグも詰め込んだ映像世界は、これぞ究極のオタクワールドである。 ■6月22日『パーフェクト・センス』 人間の嗅覚や聴覚といった五感が順次失われていく奇病が世界中で蔓延。そのさなかに恋に落ちたシェフのマイケルと感染症学者スーザンの身体も異変に見舞われていく。 CGによるディザスター描写に依存せず、人類存亡の危機を描いた英国製の終末映画。五感の喪失という現象が一般市民の日常を混乱に陥れる過程をリアルに映し出す。 世界が静寂と暗闇に覆われていく悲劇的な物語が問いかけるのは、愛と希望というテーマ。他者を“感じる”ことの尊さを感動的に映像化したラブストーリーでもある。 『ロリータ』TM & © Warner Bros. Entertainment Inc. 『砂漠でサーモン・フィッシング』©2011 Yemen Distributions LTD. BBC and The British Film Institute All Rights Reserved. 『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』©2010 Universal Studios. All Rights Reserved. 『パーフェクト・センス』© Sigma Films Limited/Zentropa Entertainments5 ApS/Subotica Ltd/BBC 2010
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PROGRAM/放送作品
砂漠でサーモン・フィッシング
砂漠の国で鮭を泳がせる?荒唐無稽なプロジェクトがサエない男の人生を変えるヒューマン・コメディ
奇想天外なプロジェクトの顛末を描くベストセラー英国小説を、『ギルバート・グレイプ』の名匠ラッセ・ハルストレム監督がウィット満点に映画化。人生の素晴らしさを発見していく主人公をユアン・マクレガーが好演。
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COLUMN/コラム2013.02.24
2013年3月のシネマ・ソムリエ
■3月2日『昼顔』 ヴェネチア国際映画祭金獅子賞に輝いた鬼才L・ブニュエルの異端的名作。昼はマゾヒスティックな欲望に囚われた娼婦、夜は貞淑な人妻という二面性を持つ女性の物語である。馬車から引きずり下ろされたヒロインが森で縛られ、鞭で打たれるオープニングなど、倒錯的な官能描写が随所に。現実と妄想の境界を取り払ったブニュエルの演出が冴え渡る。当時23歳のC・ドヌーヴの美しさは眩いほどで、恍惚の表情やイヴ・サンローランの衣装をまとった気品も圧倒的。“淫ら”な内容でありながら、優雅な雰囲気にも酔える逸品だ。 ■3月9日『ジェイン・オースティンの読書会』 世話好きの女性バーナデットが愛犬を亡くした友人を励まそうと、ジェイン・オースティンの読書会を企画。こうして男性ひとりを含む個性豊かな6人のメンバーが集結する。全米ベストセラーになった同名小説の映画化。多様な人生の機微が詰まったオースティンの6つの小説の内容に、悩み多き男女6人の個人的事情が重なっていく設定が面白い。教え子との禁断の恋に揺れる教師役E・ブラントなどキャストも魅力的で、オースティンの愛読者ならずとも楽しめる。大人向けのロマンチック・コメディというべき佳作である。 ■3月16日『[リミット]』 地中に埋められた棺桶の中で目を覚ました青年のサバイバル劇。全編の舞台を棺桶内に限定し、画面に映る登場人物はひとりだけという究極のシチュエーション・スリラーである。 トラック運転手の主人公はイラクでの仕事中に何者かに襲われ、生き埋めにされてしまった。携帯電話で外部に連絡し、必死に救助を求める姿が息づまるスリルを呼び起こす。監督は「レッド・ライト」も好評を博したスペインの俊英R・コルテス。緻密な脚本、変化に富んだカメラワークも秀逸で、緊張が頂点に達する結末までまったく目が離せない。 ■3月23日『ヘンダーソン夫人の贈り物』 1937年、夫の莫大な遺産を相続した未亡人が古びた劇場のオーナーになり、英国初のヌードレビューを上演する。実話にもとづく笑いと涙たっぷりのヒューマン・ドラマである。ロンドン空襲時にもショーを上演し、戦場に赴く若い兵士たちを勇気づけたウィンドミル劇場。その感動秘話を、名匠S・フリアーズが軽快かつ陰影に富んだ演出で見せていく。 “007”シリーズのM役でおなじみの大女優J・デンチが、豪胆にして心優しいヘンダーソン夫人を好演。劇場支配人役のB・ホスキンスとの掛け合いもコミカルで味わい深い。 ■3月30日『ルパン』 “ルパン”シリーズの生みの親、モーリス・ルブランの生誕100周年記念作品。フランス映画界が「カリオストロ伯爵夫人」を下敷きにして完成させたアドベンチャー大作である。駆け出し時代の若き怪盗ルパンが身を投じた秘宝争奪戦。希代の悪女たるカリオストロ伯爵夫人との確執、美しき従妹クラリスとの恋など、盛りだくさんのエピソードが展開する。R・デュリス演じるルパンは日本の人気アニメのそれとはかなりイメージが異なるが、無鉄砲で情熱的な魅力を発揮。豪華な装飾品や変装シーンなどの凝ったギミックも満載だ。 『昼顔』© Investing Establishment/Plaza Production International/Comstock Group 『ジェイン・オースティンの読書会』© 2007 Sony Pictures Classics Inc. All Rights Reserved. 『[リミット]』© 2009 Versus Entertainment S.L. All Rights Reserved. 『ヘンダーソン夫人の贈り物』©MICRO-FUSION 2004-1 LLP 2005 『ルパン』© Investing Establishment/Plaza Production International/Comstock Group
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PROGRAM/放送作品
ボーダーライン(2015)
[R15+]麻薬戦争の最前線で女性捜査官が見た衝撃の実態とは?善と悪の境界が揺らぐ社会派サスペンス
『メッセージ』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が描く社会派サスペンス。麻薬カルテルを壊滅するためアメリカとメキシコの国境街へ飛び込んだ女性FBI捜査官の目線から、無法地帯というべき麻薬戦争の実態を映し出す。
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PROGRAM/放送作品
オール・ユー・ニード・イズ・キル
侵略者を倒すまで何度でも生き返る!日本発ライトノベルをトム・クルーズ主演の大作映画として実写化
桜坂洋の同名SFライトノベルを、『ボーン・アイデンティティー』のダグ・ライマン監督が持ち前のシャープな演出で映像化。ループ能力を持った兵士が戦死と復活を繰り返しながら成長する姿をトム・クルーズが好演。