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PROGRAM/放送作品
ワン・フロム・ザ・ハート[レストア・バージョン]
フランシス・フォード・コッポラがフルスタジオセット撮影、最先端技術などを駆使した意欲的なミュージカル
ラスベガスを舞台に3人の男女の恋と別離を描くミュージカル。コッポラ監督がミュージカルに挑んだ意欲作で全編スタジオセットでの撮影。当時最先端の技術を駆使した映像は必見。監督が再編集を施したバージョン。
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COLUMN/コラム2019.05.26
巨匠コッポラの“救い”から“地獄”への道程 『ワン・フロム・ザ・ハート』
1939年生まれのフランシス・フォード・コッポラは、UCLAに学んだ後、60年代に“B級映画の帝王”ロジャー・コーマンの下で、低予算映画の監督としてキャリアをスタートさせた。その頃のコッポラは、時に才能の片鱗は見せながらも、ヒット作もなく、数多いる若手監督、若手脚本家の1人に過ぎなかった。 そして70年代、三十路を迎えた頃から、「コッポラの時代」が始まった。フランクリン・J・シャフナー監督、ジョージ・C・スコット主演の『パットン大戦車軍団』(70)の脚本で、初めてアカデミー賞を受賞。それと前後して、イタリア系マフィアのファミリーを描く、『ゴッドファーザー』(72)の監督に抜擢された。 『ゴッドファーザー』は、コッポラの提案で起用に至った、主演のマーロン・ブランドの名演などもあって大評判となり、当時の興行記録を塗り替える興行成績を残した。アカデミー賞では、作品賞、主演男優賞、脚色賞を受賞。原作者と共同で脚本も担当したコッポラは、早くも2個目のオスカーを手にした。 盟友のジョージ・ルーカスが監督する。『アメリカン・グラフィティ』(73)でプロデューサーを務め、“大ヒット”の成果を得た後、コッポラは74年に、『カンバセーション…盗聴…』『ゴッドファーザー PARTⅡ』という2本の作品の製作・監督・脚本を手掛けた。前者では、「カンヌ映画祭」の当時の最高賞である“グランプリ”を獲得。後者は1作目の興収には及ばなかったものの、批評的にはより高い評価を得て、アカデミー賞では6部門を受賞。コッポラの元には、作品賞、監督賞、脚色賞と、3個のオスカーが渡った。 正に向かうところ敵なしの勢いだったコッポラが、次なる作品として取り組んだのが、あの『地獄の黙示録』(79)である。原案は、ジョン・コンラッドの小説「闇の奥」(1902)だが、舞台をベトナム戦争に移して、アメリカの侵略を批判的に描くという、当時としては野心的な試みであった。 しかしロケ地のフィリピンで、ハリケーンによりセットが打ち壊されたのをはじめ、様々なトラブルに襲われたことによって、スケジュールが大幅に遅延。76年3月にクランクインして、当初17週を予定していた撮影期間が、何とほぼ1年間オーバー。67週も掛かってしまった。 編集も、コッポラの完璧主義などにより、2年余りの歳月が掛けられた。そのため、同じベトナム戦争を題材にした、マイケル・チミノ監督の『ディア・ハンター』(78)が、製作が始まったのは『地獄の…』の後だったにも拘らず、先に完成してしまった。 公開された『ディア…』は、絶賛を集め、79年4月に開催されたアカデミー賞で、作品賞をはじめ5部門を受賞した。そしてその際には、監督賞のプレゼンターとして、未だ完成していなかった、『地獄の…』の監督であるコッポラが登場。チミノ監督にオスカーを贈呈するという、皮肉な巡り合わせとなった。 映画の完成が遅れれば遅れるほど、嵩むのが、製作費である。当初の予算は1,200万ドル、当時の日本円にして約35億円だったが、最終的には3,100万ドル=約90億円まで膨らむこととなった。 コッポラは『地獄の…』のあまりにも難産ぶりに、“大失敗”そして“財政破綻”を覚悟するようになった。そして、次のような考えかたをするようになっていった。 「…甚大な大失敗の次に作る作品は、急いで手早くまとめよう。手堅く、成功が保証された、エンターテインメント色が強く、一般の人々の興味を引くものにしよう…」と。 具体的に思い浮かんだのが、ミュージカル・ロマンス。これが本作『ワン・フロム・ザ・ハート』のプロジェクトへと繋がっていく。 そしてコッポラは、いつしかそのプロジェクトが、やがて振りかかってくる筈の『地獄の…』の負債という、避けられぬ災厄から自分を救ってくれるに違いないという思い込みに捉われるようになる。後にコッポラはその時のことを、次のように述懐している。 「間違いなく私は狂っていたのである」 ここで、諸々の結果から先に記そう。『地獄の…』は、79年の「カンヌ映画祭」に未完成のまま出品され、コッポラに2度目の最高賞=パルム・ドールをもたらした。そしてその年の8月に公開されると、大方の予想を裏切って、最終的には莫大な製作費の回収に至ったのである。 コッポラに真の“地獄”をもたらしたのは、彼が“救い”になると考えた、『ワン・フロム・ザ・ハート』の方であった。 80年3月にクランクインし、81年の暮れに完成。82年2月にアメリカ公開に至った『ワン・フロム・ザ・ハート』の舞台は、現代のラスベガス。7月4日の独立記念日を翌日に控え、街は観光客でごった返している。 物語の主人公は、旅行会社に勤めるフラニー(演;テリー・ガー)と、郊外の小さな自動車解体工場を友人と共同で経営するハンク(演;フレデリック・フォレスト)の、もう若くはないカップル。同棲生活が5年目を迎えた2人は、倦怠期へと突入。お互いの想いがすれ違ったことから、大喧嘩となった。 そんなタイミングで、フラニーは伊達男のレイ(演;ラウル・ジュリア)と、ハンクは美しい踊り子のライラ(演;ナスターシャ・キンスキー)と出会う。そして共に、熱い一夜を過ごし、己のパートナーを裏切ってしまう。 先に我に返ったのは、ハンクの方だった。何とかフラニーを捜し出すが、その時彼女は、レイと旅に出ようとしていた。 果して2人の仲は、元の鞘に収まるのか…。 男心はトム・ウェイツ、女心はクリスタル・ゲイルという2人のシンガーのヴォーカルによって説明されながら、こうしたシンプルなストーリーが展開する。登場人物が歌って踊るのが一般的なミュージカルだとすれば、本作は“かげ歌ミュージカル”とでも言うべきか。 当初予定していた通り、低予算の軽いミュージカル・ロマンスとして仕上げれば、何も問題はなかった筈である。ではなぜ本作は、コッポラに大きな災厄をもたらしてしまったのだろうか? 間違いの第一歩は、前作『地獄の…』で、ロケ撮影の様々なトラブルを経験したことから、本作を完全にスタジオ内で撮ろうと考えたことだった。そこでコッポラは、撮影開始直前の1980年初頭に、670万ドル=約19億円を投じて、ハリウッドのスタジオを買収した。 4万4,000平方メートルの敷地内に、ステージが9つ。このステージにどんなセットを組んだかは、日本公開時に劇場で販売されたプログラムから引用する。 「ドラマの舞台になるラスベガスの街は、はじめにビデオカメラで撮影され、それをもとに、コッポラをオーナーとするゾエトロープ撮影所内に作られたセットで鮮やかに復元されている。建物も道路も樹木も、そして郊外の砂漠さえ復元されているのだが、この砂漠に女体の曲線を求めるあまり、本物の女性を砂に求めて撮影したというのだから、巨人コッポラの面目躍如である」 9つのステージに、巨大なラスベガスの街を作り上げたわけだが、よくよく考えてみれば、ハリケーンが襲ってくる、フィリピンの密林とは違う。実際のラスベガスに、ロケに行けば済む話なのである…。 何はともあれ、こうしたセットを舞台に、コッポラがどのような製作方法を取ろうとしたかを、ざっと紹介しよう。 まずは“エレクトリック・ストーリーボード”と称する、シナリオのビデオ映像化を行う。具体的には、全ショットを1枚ずつ、合計で数百枚の絵コンテを作成し、舞台となるラスベガスの実景スチール写真と合わせて、ビデオで撮影・編集を行う。 ここに効果音と全セリフを入れた、ラジオドラマのようなサウンド・テープをダビング。“エレクトリック・ストーリーボード”が出来上がる。 このビデオに収められたコンテに合わせて、俳優たちはアテレコの要領でリハーサルを行い、大体の動きを決めていく。 そして本番。ラスベガスのセットの中で、俳優たちはあらかじめ決められた通りの動きをし、これをフィルムで撮影する。同時に同じ映像をビデオで収録する。 コッポラは現場には姿を見せず、トラックを改造したビデオ調整室、通称“ウォー・ルーム=戦争部屋”に居て、TVモニターと睨めっこ。本番が終わると、次々とビデオ編集を行っていく。そしてフィルムの現像が上がったら、ビデオ編集したものを基に、ネガ編集を行っていくという算段であった…。 しかし実際は、実用段階になっていない新技術をそのまま使おうとしたことから、失敗続きになってしまった。ラスベガスを再現したセットに掛かった巨費と合わせて、コッポラ監督作品の製作費は、又もや嵩んでいった。 当初1,200万ドル=約35億円の予算だったのが、2,700万ドル=約78億円にまで跳ね上がった。ある意味『地獄の…』の二の舞であったが、前作と違ったのは、『ワン・フロム・ザ・ハート』は、劇場にまったくお客を呼ぶことが出来ず、コッポラはそのまま“破産”に至ってしまったことだ。 本作の劇場用プログラムには、次のような一節が書かれている。 「ゾエトロープ・スタジオある限り、映像魔術師フランシス・コッポラの活躍は続く。 逆もまた、真なり」 しかしゾエトロープ・スタジオは、本作によって瓦解。コッポラはこの後暫し、“雇われ仕事”で莫大な借金の返済に追われることとなったのである。■
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PROGRAM/放送作品
(吹)アダムス・ファミリー2[TV版]
あのアダムス一家に赤ん坊が生まれた!不気味なお化け家族の騒動を描くホラー・コメディシリーズ第2弾
ファンには嬉しい、第1作スタッフ・キャストの再結集第2弾。アダムス一家の主要キャストは変わらず、監督も、本シリーズ後『メン・イン・ブラック』シリーズも大ヒットに導いたコメディの名手ソネンフェルドが続投。
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COLUMN/コラム2017.01.25
男たちのシネマ愛Z③三文オペラ
飯森:では、第2週の『三文オペラ』の話へと移りましょうか。 なかざわ:これはご存知の方も多いかとは思いますが、ベルトルト・ブレヒトとクルト・ワイルが作ったドイツの歌劇が原作ですね(注11)。マック・ザ・ナイフという男前のギャングを主人公に、19世紀末ロンドン下町の乞食や泥棒、娼婦たちの巻き起こす荒唐無稽な騒動を軸として、資本主義社会の矛盾や不条理をユーモラスに風刺した作品です。そんな古典的名作をですね、あろうことかキャノン・フィルム総裁だったメナハム・ゴーランが映画化したわけですよ。 注11:岩波文庫のピンク表紙版はコチラ 飯森:彼は『アップル』というミュージカル映画も監督したことがあるそうですね。 なかざわ:はい。ちょうどオリヴィア・ニュートン=ジョンの『ザナドゥ』に影響を受けたようなミュージカルですね。かなり前に見たので内容はうろ覚えですけれど、悪い映画ではなかったです。 飯森:それはカルト的人気があるようですね。いずれにせよ、ミュージカルの演出経験はあったわけだ。それも納得というか、だってこの『三文オペラ』、普通に上手いですもん。 なかざわ:そこですよ。私がこの映画を選んだ理由は。メナハム・ゴーランはプロデューサーとして才能があることは勿論ですが、監督としても必要以上に過小評価されているんじゃないかと常々思っているんです。 飯森:いや、僕もメナハム・ゴーランは世代的に好きですよ。監督作の『デルタ・フォース』とか『オーバー・ザ・トップ』とか、フランコ・ネロの『燃えよNINJA』も。でも、バカでB級でいいよね、懐かしいしね、って感じで好きなだけで、高く評価されるべき監督ですかね?具体的にいうと? なかざわ:例えば『ハンナ・セネッシュ』。これは第二次世界大戦中に対ナチのパルチザンとして戦った実在のユダヤ人女性を描いた作品なんですが、反ファシズム映画として非常に良く出来ているんです。 飯森:去年の対談でも、買い付けてこいと激推しされてましたよね?『デルタ・フォース』みたいなイスラエルのプロパガンダ色の強い、偏った娯楽アクションではないんですか? なかざわ:いや、正統派の真っ当なパルチザン映画ですよ。 飯森:ほう、それは見てみたい!この『三文オペラ』も実に真っ当で正統派の映画ですし、なんだよ、意外とまともな映画も撮れんじゃん!って思いましたね。 なかざわ:さらに感心したのは、彼はドストエフスキーの『罪と罰』も映画化しているんですよ。しかも、ソ連邦崩壊後のロシアで。ちょうど90年代前半のロシア経済がどん底だった時期ですよ。これがなかなかの力作でね。 飯森:時代設定は原作の当時なんですか? なかざわ:それが現代なんですよ。90年代の荒廃しきったロシアが舞台。ドンピシャじゃないですか。ちょうど撮影当時のロシアの世相と原作の世界観が見事なくらいマッチしているんですよ。 飯森:100年経ったらぐるっと回ってタイムリーになっちゃったというわけか! なかざわ:しかも、主人公ロスコルニコフにクリスピン・グローヴァ―。他にもヴァネッサ・レッドグレーヴやジョン・ハート、マーゴット・キダ―、ジョン・ネヴィルなど錚々たる顔ぶれの役者がそろっています。ただ不幸だったのは、権利関係などの諸問題で劇場公開時期が大幅に遅れてしまった。撮影されたのが1993年で、封切られたのはロシアが経済成長を遂げた後の2002年。世に出すべきタイミングを逸してしまったんです。 飯森:どうしても『デルタ・フォース』なんかの印象が強くて、なにかと色眼鏡で見てしまいがちですけれど、実は職人監督として優れた人だったということなんですね。 なかざわ:それは個人的に声を大にして言いたいですね。メナハム・ゴーランを舐めんなよと(笑)。 飯森:ただ、今回どうしても視聴者の皆様にお詫びせねばならないことがあるんですよ。これはまさに僕本人が痛恨の極みなんですけれど、残念ながら今回放送する『三文オペラ』、画が汚いんです。画面サイズも4:3で、画質から察するに恐らくVHSマスターでしょう。これしかマスターテープが存在しないと言われたので、我々としても仕方がなかった。確かに本来であればHD画質で、画面サイズもワイドスクリーンで放送したいところですし、そうするに値する作品じゃないですか。これが例えば、どこかの国でDVD化されたことがあり、21世紀になってからリマスターされて作られたDVDマスターテープが世界のどこかにはある、ということであれば、それを借り受けて字幕を付けることも可能だったんですけれど、恐らくDVDは存在しないんじゃないかな。 なかざわ:僕ももう一度ちゃんとした画質で見たいと思って、世界中のサイトでDVDをずっと探してきたんですけれど、どうもやはりVHSしか出ていないようですね。 飯森:ただね、映画なんだからフィルムはネガなりポジなり元のフィルムが必ず残っているわけでしょ?そうなると、お前がそこからテレシネ(注12)すればいいじゃないか!という話になるかもしれませんが、それはご勘弁下さいなんですよね(笑)。 注12:フィルムをビデオ映像に変換すること。これによりフィルムで撮られた映画をテレビで放送したりVHS・DVD等に収録したりできるようになる。かつてはフィルムからアナログテープにテレシネされ、その際、当時主流だったブラウン管TVに合わせるため左右をトリミングされて4:3の画角で収録された。21世紀に入った頃からはデジタルテープにテレシネされるようになり、TVもワイド画面が主流になったのでトリミングされなくなった。したがって、21世紀に入って以降にDVDを発売するなどでテレシネされたニューマスターがあれば、ワイド画面で、かつHDではないとしても綺麗で経年劣化のないクオリティのTV用素材が存在するだろうと推測できる。 というのも、我々は合計で何回放送しますからこの値段で、という条件で放送権利を買っているわけです。だいたい5回とか10回くらいなんですけれど、それでテレシネなんてしようものなら一体どれだけのお金がかかるか。ずっとうちの資産として残るわけじゃないですから。たった何回かの回数を使いきったら放送はもう出来なくなって、僕らの予算から大枚はたいて作ったそのテレシネのニューマスター・テープは、権利元の映画会社に差し出さなきゃいけない。僕らの持ち物になるわけじゃないんです。設備投資じゃないんですよね。だから、作品の持ち主である配給元にやって貰うしかない。我々のようなチャンネル側にそれは難しい話なんですよ。 そうなると選択肢は2つ。1つは汚い画質でも放送しないよりは放送した方がマシという判断。もう1つは、こんな汚い画質では今どき放送が憚られるから放送しないという判断。民放さんとかだとまずそう判断されるんじゃないのかな?で、放送するかしないかなら、オレはする方を選ぶ!というのがこの「シネマ解放区」という企画の心意気なのですけれど、ぶっちゃけ、どう思います?これは確実に批判もある判断だと覚悟はしてます。 なかざわ:やはり映画ファンとしては、たとえ画質が悪くても見れないよりマシだろうと思うし、そういう方も少なくないと思いますよ。 飯森:そう言っていただけると救われますけどね。怒る方もそれは当然いると思いますよ。知らねーよ!テレシネとかそんなのお前の都合だろ!金払ってんだからちゃんとしたもん見せやがれ!と言われたら全面的に仰る通りなんですが。あえてDVD化されてないレアな作品を狙っていくと、必然的にどうしてもこういう問題も出てきてしまうんですよね。 まあ言い訳ですけど。 なかざわ:特にこの『三文オペラ』のようにマニアックな作品の場合は仕方がないですよね。 飯森:でも、なんでこれがマニアックと言われレア作品になってしまったんでしょうね。だって、内容的には全然マニアックではない。原作も世界的に有名な古典ですし。それをすごくオーソドックスに映像化していて、なおかつゴージャス感すら漂っている。王道ミュージカルですよ。ネットでこの作品を検索すると、「失笑モノ!」みたいなネガティヴ意見がありますけれど、でも実際に見てみると全然そんなことはない。なにが気に入らないんだよ!と思いますね。 なかざわ:そう!バカにしている人たちって、ちゃんと見ているの!?って言いたくなりますよね。 飯森:風格のあるミュージカル大作ですよね。なのに、なんでこんな不当な扱いを受けなくてはならないのか。 なかざわ:タイミングが悪かったということはあるでしょうね。これは1989年の映画ですけれど、80年代当時ってミュージカル映画は完全に下火だったじゃないですか。僅かに『アニー』とか『コーラス・ライン』があったくらいで、古典的なミュージカルは不毛の時代だった。なにしろMTV全盛期ですから。そんな中で、まさしく正統派ミュージカルである本作は分が悪かったようにも思います。 飯森:ゼロ年代の『シカゴ』くらいまでは、確かにミュージカル映画って地味な存在だったかもしれませんね。本来は派手さが売りのジャンルなのに! なかざわ:既にミュージカルは時代遅れだったんですよ。それに輪をかけて、この作品は『オリバー!』とか『屋根の上のバイオリン弾き』のような、当時からさらに一昔前にさかのぼった往年のミュージカル映画の雰囲気がある。そこが難点だったんじゃないのかなって思います。 飯森:つまりは正統派なんですよ。ただ、映像の質感や発色は80~90年代のコンテンポラリーな雰囲気がある。見る上で多少のハードルはあるクラシック映画とは明らかに異なる今のルックで、「ああ、最近作られた映画を見てるな」って見た目ですよね。そういう意味でも普通に見やすい。僕的には『レミゼ』や『スウィーニー・トッド』と比べても遜色ないと思いますよ。今回のウチでの放映を機に再評価が高まって、いつかリマスター版のソフトが出たらいいな、と思います。そのきっかけにしたいですね。 なかざわ:ちなみに、この作品はハンガリーのブダペストで撮影しているんですよね。で、19世紀末のロンドンの街並みを再現した巨大セットには相当なお金がかかっている。なので、その後メナハム・ゴーランは、このセットを再利用しています。ロバート・イングランド主演の『オペラ座の怪人』で(笑)。 飯森:なるほど!でもあれって監督メナハム・ゴーランでしたっけ? なかざわ:いえ、ドワイト・H・リトルです。ゴーランはプロデュースですね。そういえば、『キャノンフィルムズ爆走風雲録』ってご覧になりました? 飯森:あのドキュメンタリーちょっと前に凄く話題になりましたよね。恥ずかしながらまだ見れていないんですよ。 なかざわ:あれを見ると、メナハム・ゴーランが根っからの映画バカだったことがよーく分かりますよ。映画が大好きで大好きでしょうがない。だから、あまり採算のことなどは考えなかったみたいです。ソロバン勘定は相棒である従兄弟のヨーラム・グローバスに任せっきりだったらしく、ひたすら自分が見たい映画を撮ったり作らせたりしていたみたいですね。 飯森:なかなかに愛すべき、良き映画人じゃないですか。 なかざわ:そうでなければ、ドゥシャン・マカヴェイエフやジャン=リュック・ゴダール(注13)に映画を撮らせたりなんかしませんよ。絶対に儲からないもん(笑)。 注13:ゴダールは説明不要。マカヴェイエフは旧ユーゴの映画監督で、『WR:オルガニズムの神秘』(1971)や『モンテネグロ』(1981)、『コカコーラ・キッド』(1985)で知られる前衛映画作家。ここでいうメナハム・ゴーランが撮らせた作品とは、『ゴダールのリア王』(1987)とマカヴェイエフの『マニフェスト』(1988)のこと。 飯森:あと、この映画はキャストにも触れないわけにはいきませんね。 なかざわ:そうですね。ラウル・ジュリアにリチャード・ハリス、ジュリー・ウォルターズにロジャー・ダルトリー。超豪華キャストですよ。 飯森:実はロジャー・ダルトリーと言えば、前回の買い付け企画第3弾で『リストマニア』を放送したばっかりなんですよ。あとはビル・ナイも出ていますね。 なかざわ:実は彼、先ほど言った『オペラ座の怪人』にも出ている。まだ若いんですよね。 飯森:まだお爺ちゃんじゃない(笑)。今は枯れ専の女性に人気らしいですけれど、まだこの当時は枯れていませんね。 なかざわ:まあ、いずれにしてもメナハム・ゴーランは映画ファンからもっと支持されて然るべき映画人だと思いますよ。 次ページ >> 『肉体のすきま風』 『誘惑』COPYRIGHT (c) 2017 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED. 『三文オペラ』TM & Copyright (c) 2004 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. 『肉体のすきま風』TM, (r) & (c) 2017 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. 『ハーロー』TM, (r) & (c) 2017 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. CHARLIE BUBBLES (c) 1967 Universal City Studios, Inc. Copyright Renewed. All Rights Reserved. GETTIN' SQUARE (c) 2003 Universal Pictures. All Rights Reserved. THE GIRL FROM PETROVKA (c) 1974 by Universal Pictures. All Rights Reserved.
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(吹)アダムス・ファミリー[TV版]
個性的すぎるお化け一家がブラックな笑いを巻き起こすホームドラマ+ホラー+コメディ
お父さん役ラウル・ジュリア、お母さん役アンジェリカ・ヒューストン、物語の鍵を握る兄役クリストファー・ロイドなど、アダムス一家の面々が全員ハマり役!クリスティナ・リッチの長女役も話題に!
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COLUMN/コラム2017.01.25
男たちのシネマ愛Z①
飯森:ご無沙汰しています。なかざわさんとは久しぶりの対談となりますね。楽しみにしてましたよ。 なかざわ:こちらこそ、ご無沙汰しています。またまた飯森さんと熱い映画トークが出来るのは本当に嬉しいです。 飯森:一昨年末の第1回対談ですでに「愛すべき、未DVD・ブルーレイ化作品」というお題でトークしましたけど、あれがこの企画のプロトタイプなんですよ。で第5回の対談では「ザ・シネマSTAFFがもう一度どうしても観たかった激レア映画を買い付けてきました」という特集を取り上げましたが、そこで特集名称が固まって、今ではその「激レア映画、買い付けてきました」というのを準レギュラー特集として不定期にお届けするようにまでなってるんです。今回はそのシリーズ第4弾。全作品なかざわさんに選んで頂いたわけですけど、まずはその経緯の話からトークを始めましょうか。去年、連載対談をやっていた最後の方の頃で、なかざわさんにリストをお見せしたのが始まりですよね? なかざわ:はい、パラマウント映画の膨大な作品リストを見せてもらいまして、その中から自分なりの基準でチョイスさせて頂きました。 飯森:確か当初は6作品をご提案頂いたんですよね。ただ、諸般事情で買えない作品があり、結果的に残ったのが今回放送する4作品だったわけです。これは、どのような基準で選ばれたのですか? なかざわ:第一前提としてはソフト化されていない、もしくは過去に1度くらいソフト化されたかもしれないけれど、現在は見る術が殆どない作品ということです。 飯森:それはまさにうちの企画趣旨とドンピシャです! なかざわ:やはり、せっかく選んで放送して頂くのであれば、他では見る機会の少ない映画がいいと思いますからね。あともう一つの重要な基準は、世間の一般的な評価の良し悪しとは全く関係なく、あくまでも自分自身の個人的な思い入れや愛情のある作品ということ。 飯森:極私的チョイスですね。それもうちの企画趣旨どおりです。 なかざわ:なので、私の主観では面白いと思うけれど、誰が見ても面白いとは限りませんよと(笑)。 飯森:構わないんですよ。映画ってそういうものだから。それに、うちのチャンネルでもマトモな時間帯には、例えばこの春は『ハリー・ポッター』シリーズを全作品やりますとか、いわゆる売れ線の、誰が見ても面白い王道映画を当然放送してもいるわけです。でも、ド深夜くらいは「オレ色に染まれ!」じゃないですけれど、僕なりライターさんや評論家、あるいはリクエストを寄せてくださるマニアな一般視聴者の方が、極めて個人的に、異常な熱量でおススメする映画、しかも他では見れないような激レア映画をやっててもいいんじゃない?と思いますし、そういう映画チャンネルが1つくらいなくちゃダメだと考えています。なので、ウチとなかざわさんの考えが見事に合致したというわけですね。 なかざわ:それに、これだけマニアックなラインナップでも、ザ・シネマさんなら嫌な顔はしないだろうと思っていましたし(笑)。 飯森:不可抗力とはいえ、むしろ4本では物足りないぐらいですよ。今後もどんどんやっていきたい。しかも今回、日本では全作品DVDになっていない。そもそもVHS含めソフト化されていないものさえある。素晴らしい! なかざわ:ただ、海外だと『三文オペラ』以外は確か全部DVD化されています。 飯森:海外でも出てないと逆に問題がある。DVDが出てるかどうかは僕にとって、ひいては視聴者の皆さんにとっても影響大でして、DVDさえ出ていれば、DVD時代にマスターテープが作られたということですから、そのテープはSD画質だとしてもアナログではなく経年劣化のないデジタルテープで、DVDとして売れるような綺麗さで、そしてノートリミング(注1)のワイド画面で収録されているんだろうと期待できるわけで、ウチとしてはそれを取り寄せて字幕翻訳をし、上から字幕を焼き込んで日本語字幕完パケを作ればいい。 注1:かつてはブラウン管TVの画面が4:3だったため、ワイドの映画でもTV放映時には画面左右を切り落とし、4:3画面にぴったり合わせていた。これを「トリミング」と言う。HD以降、TVもワイド画面が主流になり、今では映画も切り落とさず(ノートリミング)ワイドのままで放送できるようになった。 一方、海外でもDVD化されてないとなると、これはマスターテープからしてVHSマスターしか存在しない可能性が高いので、トリミングもされてるだろうし画質も旧VHS時代のボケボケで経年劣化もしてるだろう、と察しがつくわけです。で、今回の『三文オペラ』がどうかと言うと…それは後ほどお話しすることにしましょう。もっとも、DVDが出ていても、4:3トリミング画角で収録されていたり猛烈に汚い画質で売られていたりする地雷ソフトも稀にありますんで、必ずしも安心はできませんけどね。 次ページ >> 『誘惑』
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PROGRAM/放送作品
アダムス・ファミリー2
あのアダムス一家に赤ん坊が生まれた!不気味なお化け家族の騒動を描くホラー・コメディシリーズ第2弾
ファンには嬉しい、第1作スタッフ・キャストの再結集第2弾。アダムス一家の主要キャストは変わらず、監督も、本シリーズ後『メン・イン・ブラック』シリーズも大ヒットに導いたコメディの名手ソネンフェルドが続投。
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COLUMN/コラム2013.08.30
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2013年9月】銀輪次郎
クリント・イーストウッド監督・主演作品の本作。「ダーティーハリー5」公開から2年後(1990年当時)、監督クリント・イーストウッドが描く新たな刑事物語とは如何なるものか?その答えはベテラン刑事と新米刑事のバディムービーだった!自転車窃盗団を追う捜査課のイーストウッドとチャーリー・シーンの組み合わせというところがポイントのバディムービーですが、ツーといえばカーな関係には至らない2人故に起こる事件にちょっとハラハラさせられる展開が待っています。見所は各所に散りばめられたアクションシーン。聞くところによれば、スタントマンの数が出演者総数の2倍。序盤のカーアクションなどは中々の迫力です。結果的に本作後、続編は作られませんでしたが、続編を意識したような話にもなっており、正直この後の2人はどういう関係になっていくのか、気になるところではあります。鑑賞後にお話の続きを考えるのも一興な作品でオススメ。 © Warner Bros. Entertainment Inc.
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PROGRAM/放送作品
アダムス・ファミリー
個性的すぎるお化け一家がブラックな笑いを巻き起こすホームドラマ+ホラー+コメディ
お父さん役ラウル・ジュリア、お母さん役アンジェリカ・ヒューストン、物語の鍵を握る兄役クリストファー・ロイドなど、アダムス一家の面々が全員ハマり役!クリスティナ・リッチの長女役も話題に!
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COLUMN/コラム2008.06.12
6月の吹き替えの日は
まえにここのブログで「昭和の洋画吹き替えを無形文化財に指定せよ」という記事を書いてから、視聴者の皆様よりたくさんのご意見・ご要望をいただいてます。ありがとうございます! 「よくぞやってくれた!っていうか、いっそ吹き替え専門チャンネルになって」という激励(?)もあれば、「吹き替えなんて邪道だから字幕版だけでよい!」というご意見もあります。 結論として、ザ・シネマとしては、吹き替え専門にはなりません。けど、吹き替え特集に力は入れ続けます。 吹き替え版しかやらない、という作品が原則ないよう心がけてますので(ごくごくまれな例外中の例外はご勘弁ください)、吹き替え否定派のかたは、字幕版の放送のほうでお楽しみください。 また吹き替え肯定派のかたは、今後も特集「吹き替えの日」にご注目ください。その筋のひと的に価値ある吹き替え版を、これからも厳選してお届けします。 っていうか、その筋のエッジなひとたちのあいだで高まった吹き替え再評価の気運って、いま、広く一般ピープルのあいだにも「むかしは映画って夜9時からテレビの洋画劇場で見てたよなー、あの頃の吹き替えって懐かしいよなー」的な昭和ノスタルジアとして波及してるんですよね。 字幕のオリジナリティも良い。吹き替えの妙も捨てがたい。要はケース・バイ・ケースなのでは?という柔軟な立ち位置にザ・シネマはいますが、この気運がますます盛り上がればよいと願っており、吹き替え再評価ブームの一翼を担えれば、と思ってます。 そこで早速、またしても「6月20日は吹き替えの日」という24時間特集を組みます! 今度のラインナップは、 『レッドブル』…シュワ=玄田哲章 『ロックアップ』…スタも玄田哲章 『レッドソニア』…シュワ=今度は屋良有作 『インナースペース』…(後述) 『ユニバーサル・ソルジャー』…ヴァンダミング=山ちゃん、ドルフ・ラングレン=大塚明夫 『テキーラ・サンライズ』…(後述) というアクション系6タイトルです。 とくにご注目いただきたいのが、『レッドソニア』。これについては以前書いたとおり。 さらに追加で書くと、この映画は『コナン・ザ・グレート』の番外編だとまえに触れましたけど、正伝『コナン・ザ・グレート』でヒロインの女剣士バレリアをアテてた戸田恵子が、異伝『レッドソニア』ではヒロインの女剣士ソニアを担当してます。なるほど、『コナン』シリーズでの戸田恵子は、正義のヒロイン女剣士担当声優ってワケなんですね。 ちなみに、正伝『コナン・ザ・グレート』のヒロイン女剣士役サンダール・バーグマンは、異伝『レッドソニア』では悪の女王役です。ヒロインやった女優が今度は悪役で起用された。こういうキャスティングの遊びって、番外編ならではのお楽しみですよね。ただ、逆に言うと、戸田恵子はサンダール・バーグマンFIXの声優扱いをされなかった、ってことです。 個人的には、そうであって欲しかった!そうすれば正伝と異伝がきれいに日本語の声でもつながったのに、というらちもないマニア願望をいだかずにはいられない僕です…(すでにシュワ声優が玄田哲章と屋良有作で違っちゃってますから、その時点でつながらないのですが…)。 次に注目は『インナースペース』。DVDは、なんと『クライマーズ・ハイ』の原田眞人監督が吹き替え演出を担当、デニス・クエイド=上杉祥三、マーティン・ショート=野田秀樹、メグ・ライアン=斉藤慶子という、ある意味サプライズ人事ですが、まぁ、これに関しては各自、DVDでお楽しみください。 今回ザ・シネマで放送しますのは、見ようと思っても見れないレアなテレビ版です! こっちのバージョンですと、デニクエ=谷口節、マーティン・ショート=堀内賢雄、メグ・ライアン=佐々木優子と、手堅い人事になってて安心です。 さらに!きわめつけは『テキーラ・サンライズ』。あさ10時からはメル・ギブ=神谷明版、よる10時からは野沢那智版にて放送!(我ながらこんなマニアックな企画よくやるわ…) この映画でのメル・ギブソンは、ヤクのディーラーという「二枚目なヤバいひと」の役なんですが、メルギブの二枚目感は神谷明に、ヤバいひと感は野沢那智に、僕ならそれぞれ軍配を上げたい。ぜひ、聴き比べてみてください。 さらにさらに、『レッドブル』のジェームズ・ベルーシ=富山敬、『ロックアップ』のドナルド・サザーランド=家弓家正といった脇も、見逃せない(聴き逃せない?)配役です。 というわけで、全国の吹き替えファンの皆々様、6月20日も、ザ・シネマ吹き替えの日、ご堪能ください! コアな吹き替えマニアではない一般ピープルの皆様も、この日は、一昔前のテレビ洋画劇場、荻昌弘が、水野晴郎が、高島忠夫が、そして淀長翁が(むろん木村奈保子もですが)、夜ごとシネマの世界へと誘ってくれた、あの時代の夜の、あの雰囲気に囲まれて、幸福なノスタルジーに浸りきってみてはいかがでしょう? それにしても、いゃー、昔のテレビ洋画劇場って、本っ当にいいもんですね! 【特報!】そして盛夏8月、すごい品ぞろえで「吹き替えの日」を実施予定!詳細後日!! 乞う御期待!!!■