生涯現役 監督 クリント・イーストウッドの仕事

workイーストウッド監督全仕事解説(全38作品)

コンスタントに新作を撮り続け、第一線で活躍を続けるクリント・イーストウッド監督。
そんな彼が40年以上にわたり監督を務めた全38作品を徹底解説。
恐怖のメロディ (1971)
記念すべき監督デビュー作となったサイコ・スリラー。カリフォルニア州の海辺の家で暮らすラジオDJの主人公が、いつも同じ曲をリクエストしてくる女性リスナーと一夜を共にしたことをきっかけに、悪夢のような運命をたどっていく。いわゆるストーカーものだが、ジェシカ・ウォルター扮する凶暴な怪女の背景はまったく描かれず、極めて純度の高い恐怖劇となった。イーストウッドの師匠ドン・シーゲルがバーテンダー役で助演している。

ザ・シネマで6/8(月)17:15ほか放送!

© 1971 Universal City Studios, Inc. Copyright Renewed. All Rights Reserved.

荒野のストレンジャー (1972)
血生臭い過去が隠された水辺の町ラーゴ。そこにぶらりと現れた流れ者は、ならず者3人組の襲来に脅える住民から町を救ってほしいと頼まれるが……。冒頭からミステリアスなムードが漂い、不条理ドラマの趣もある異色ウエスタン。オープンセットで建造された町全体が、どぎつい真っ赤なペンキで塗りたくられるクライマックスが異様な印象を残す。主人公が正体不明の怪人だという設定は、のちの『ペイル・ライダー』に受け継がれる。
愛のそよ風 (1973)
裕福だが孤独な中年男と、天真爛漫なヒッピー娘が織りなす純愛映画。イーストウッドが演出に専念し、アクションも皆無の地味な作品のためか、本国での興行は失敗し、日本でも未公開となったが、実に爽やかな余韻を残す小品である。みずみずしい生命力を発散する新進女優ケイ・レンツが抜群に魅力的。イーストウッドは『アウトロー』『ダーティハリー4』などでも犬をコミカルに描いていたが、ここでも犬が絶妙の助演を見せている。
アイガー・サンクション (1975)
イーストウッドがスパイ組織の元暗殺者で今は美術を教える大学教授、しかも登山の達人というこみ入ったキャラクターに扮したアクション映画。当初、メガホンを託す予定だったドン・シーゲルに断られ、監督を兼任したイーストウッドが、ノースタントでの本格的な登山シーンの撮影に挑戦。山岳ドキュメンタリーのようにダイナミックな映像と、ジョン・ウィリアムズの音楽が興奮を呼び起こす。ジョージ・ケネディの助演もいい味。

ザ・シネマで6/2(火)16:45ほか放送!

©1975 Universal Pictures, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

アウトロー (1976)
アメリカ建国200周年記念作品。時は南北戦争終結直後の混乱期。北軍の無法者集団に妻子を惨殺された農夫を主人公にした物語は、マカロニ・ウエスタン風の復讐ドラマとして滑り出すが、途中から女性や先住民らが加わったにぎやかなロードムービーに転調し、神話性を帯びた歴史劇へと変容していく。イーストウッド自身がとても愛着があると振り返る本作は、長らく公私のパートナーとなるソンドラ・ロックとの初タッグ作でもある。

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©1976/Renewed © 2004 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ガントレット (1977)
ガントレット
ある裁判の証人である娼婦を、ラスベガスからアリゾナ州フェニックスへ護送することになった刑事が思いがけない苦闘を強いられていく。襲撃者たちとの息づまる攻防をさまざまな乗り物を活用して映像化したアクション・シーンに加え、当初は事あるごとに反発し合っていた男女の関係性の変化が細やかに描き込まれている点も素晴らしい。主人公たちが乗ったバスが無数の銃弾を浴びて蜂の巣になるクライマックスは圧巻の迫力!

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© 1977 Warner Bros. Inc.

ブロンコビリー (1980)
荒馬乗り、拳銃の曲芸撃ちなどを出し物にしているウエスタン・ショーの一座のドサ回りを描き上げたコメディ。情に厚い夢想家で頭に血がのぼりやすい座長ブロンコ・ビリーのキャラクターが実に痛快で、ソンドラ・ロック演じるじゃじゃ馬娘やはみ出し者揃いの団員たちとの掛け合いが楽しい。その一方で、古き良き西部の風景が失われゆく様を刻み込んだドラマには哀感がにじみ、まさに笑いと涙がたっぷりの快作である。
ファイヤーフォックス (1982)
ソ連が東西冷戦下のパワーバランスを一変させかねない最新戦闘機ミグ31を開発。そのミグ31を強奪するため、単身ソ連に送り込まれた元米空軍パイロットの活躍を描く。主人公が現地工作員の助けを得て危機を突破していく前半はスパイ・スリラー調。後半は一転、ジョン・ダイクストラによる派手な特撮をフィーチャーした超高速スカイ・アクションが繰り広げられていく。ベトナムでのトラウマを抱えた主人公をイーストウッドが熱演。
センチメンタルアドベンチャー (1982)
センチメンタルアドベンチャー
アメリカでの興行が不調に終わり、日本でも地方スプラッシュ公開のみという扱いを受けたが、多くのファンに愛され、イーストウッド自身もお気に入りの1本だと語っているロードムービー。大恐慌下の1930年代、自らの夢を叶えるため甥っ子とともにナッシュヴィルをめざす中年カントリー歌手の旅を哀歓豊かに映し出す。酒好きで病に蝕まれた主人公に扮したイーストウッドが渋い歌声を披露。彼の息子カイルが甥っ子を演じている。

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DVD ¥1,429 +税
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©2013 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ダーティーハリー4 (1983)
ダーティーハリー4
ご存じ荒くれ刑事ハリー・キャラハンを主人公にした人気シリーズ全5作品のうち、唯一イーストウッドが監督を務めた一作。レイプ被害者の女性が復讐を目的とした連続殺人を遂行していくという話からして陰惨だが、ブルース・サーティース撮影による夜間シーンの闇の深さもノワールなムードを増幅させる。ほとんどサイコ・ホラーとも言えるダークな作風と、ところどころにちりばめられた場違いなユーモアのギャップも面白い。

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©2010 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ペイルライダー (1985)
ゴールドラッシュ時代のカリフォルニア。鉱山主の圧力で窮地に陥った庶民の前に、超人のごとき強さの救世主が現れる。イーストウッドが『荒野のストレンジャー』で異彩を放った“正体不明の流れ者”というキャラクターを再び演じ、宗教的な深みや神秘性さえ感じさせる傑作に仕上げた西部劇。名作『シェーン』を彷彿とさせるエピソードも織り交ぜた映像世界はただならぬ緊迫感に満ち、クライマックスの決闘シーンからも目が離せない。
ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場 (1986)
朝鮮半島とベトナムで勲功をたてたベテランの鬼軍曹が古巣の海兵隊に復帰し、さっぱりやる気のない新兵たちを鍛え上げていく。ストーリー的には古めかしい軍隊映画だが、主人公が実践的な指導と猛特訓で若者たちに活を入れるシークエンスにはスポ根ドラマ風の面白さがぎっしり。ニール・サイモン作品でおなじみのマーシャ・メイスン扮する元妻との復縁をめぐるサブ・ストーリーも、主人公の人物像に豊かな人間味を与えている。
バード (1988)
モダン・ジャズの父たる天才的サックス奏者、“バード”ことチャーリー・パーカーの伝記映画である。熱烈なジャズ好きで、パーカーの信奉者であるイーストウッドにとっては念願の企画。パーカーの晩年の1950年代と、栄光を極めながら酒と薬物で転落していった過去を行き来する構成で、波瀾万丈の人生を思い入れたっぷりに描いている。ゴールデン・グローブ賞監督賞を受賞したイーストウッドは、演出家としての実力を改めて証明した。
ホワイトハンター ブラックハート (1990)
イーストウッドが『アフリカの女王』のジョン・ヒューストン監督をモデルにした映画監督を演じた一作。新作撮影のために大勢のクルーを率いてアフリカの大自然を訪れた主人公は奇行を連発し、ついには撮影そっちのけで象狩りに夢中になっていく。正統派の伝記映画ではなく、テーマさえ判然としない異色作だが、主人公の強迫観念を体現したイーストウッドの圧倒的な存在感、そしてあるひと言を絞り出すエンディングは鳥肌ものである。
ルーキー (1990)
1988年の第5作で完結した『ダーティハリー』シリーズの代替作品とばかりに、イーストウッドがタフガイ刑事を演じたポリス・アクション。当時60歳のイーストウッドは、主人公の相棒となる新米刑事役チャーリー・シーンを引き立てながら手堅い演出を披露。いかにも軽めの娯楽作といった感じの仕上がりだが、主人公が女性窃盗犯にいたぶられるシーンは『白い肌の異常な夜』『恐怖のメロディ』を想起させ、ファンをにやりとさせる。
許されざる者 (1992)
イーストウッドが自らの原点と言うべき西部劇ジャンルを総括するかのように撮り上げた代表作にして大傑作。かつて悪名を轟かせたならず者で、今は生活苦にあえぐ主人公と、鬼のような保安官との対決を軸に、暴力というテーマの本質を追求した。年老いた主人公が“怪物”に豹変するクライマックスなど、鬼気迫る描写が随所に。アカデミー賞で作品賞、監督賞を初めて受賞したイーストウッドは、名実共に名監督の仲間入りを果たした。

ザ・シネマで5/23(土)21:00ほか放送!

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パーフェクトワールド (1993)
パーフェクトワールド
人気絶頂期のケヴィン・コスナーとの豪華タッグが話題を呼んだヒューマン・ドラマである。イーストウッドはテキサスの警察署長という脇役に回り、コスナー演じる脱獄逃亡犯とその人質になった少年との疑似親子的な関係をじっっくりと描出。撮影中はコスナーのオレ様ぶりに手を焼いたというが、主人公がたどる皮肉な運命と痛切な結末は、観る者の涙を誘わずにおかない。全編に流れるアメリカン・ニューシネマ的な香りも味わい深い良作だ。

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©1993 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

マディソン郡の橋 (1995)
マディソン郡の橋
世界的な一大ベストセラー小説の映画化。イーストウッドにとっては、俳優として初めて挑んだ本格的な恋愛映画である。4日間という期間限定のロマンスを、回想形式を導入して語った巧みな手腕はもはや円熟の域。意外な組み合わせに思えた名女優メリル・ストリープとの相性も悪くなく、原作ファンの期待も裏切らない珠玉作となった。アイオワ州マディソンの美しい風景も見どころで、雨のクライマックスには息をのまずにいられない。

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The Bridges of Madison Country © 1995, Package Design & Supplementary Material Compilation © 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.

目撃 (1997)
『明日に向って撃て!』『大統領の陰謀』などの名手、ウィリアム・ゴールドマンが脚本を手がけたクライム・ドラマである。イーストウッドが演じるのは変装術を駆使する神出鬼没の怪盗という役どころだが、いくら変装してもイーストウッドにしか見えないところはご愛敬。偶然にも現役大統領の犯罪を目撃してしまった主人公の苦闘が描かれていく。孤独な主人公とローラ・リニー扮する娘との関係修復を描くサブストーリーもいい。
真夜中のサバナ (1997)
イーストウッドのフィルモグラフィーには“奇妙な味”と評される作品がいくつかあるが、これもその1本。舞台は、アメリカ南部特有の歴史的な街並みが広がるジョージア州サバナ。ある富豪の邸宅で起こった殺人事件の成り行きが物語の縦軸になっているが、イーストウッドはエキセントリックな住民たちの人間模様を通して、真実と虚構の境界が曖昧な世界観を紡ぎ上げた。クセになりそうな後味は、やはり“奇妙”と言うほかはない。
トゥルークライム (1999)
腕利きでありながら、女好きが災いしてカリフォルニア州の地方新聞社でくすぶっているベテラン記者が、死刑執行間近の囚人の無実を証明するために奔走する。タイムリミット付きの伝統的なサスペンス映画であり、イーストウッドの職人的な語り口が冴え渡る快作。私生活に問題を抱える一方、記者としての嗅覚は抜群という昔気質の主人公を軽やかに体現した演技も好調で、職場の上司役デニス・リアリーとのやりとりが楽しい。
スペースカウボーイ (2000)
あまりにも旧式のロシアの通信衛星システムを修理するため、年老いた元パイロットチームの4人組が宇宙に旅立つという奇想天外なアドベンチャー映画。本作の2年前に人気を博したスペクタクル大作『アルマゲドン』とは対照的なユーモア満点の娯楽作で、老いてますます盛んな男たちの熱い心意気を爽快に描き上げた。チームの面々を演じたトミー・リー・ジョーンズ、ドナルド・サザーランド、ジェームズ・カーンも持ち味を発揮している。
ブラッドワーク (2002)
心臓発作でFBIをリタイアした男が、自らの体に移植された心臓と因縁ある怪事件の捜査に挑む。マイクル・コナリーの小説「わが心臓の痛み」を、「L.A.コンフィデンシャル」のブライアン・ヘルゲランドが脚色したミステリー映画。『目撃』『トゥルー・クライム』と同様、プログラム・ピクチャー的な趣向の一作だが、御年70を超えたイーストウッドがマッチョな『ダーティハリー』時代とは違う捜査官像を打ち出している点も興味深い。
ミスティック・リバー (2002)
原作はデニス・ルヘインの傑作ミステリー小説。少年時代の悲惨な出来事によって引き裂かれた3人の男が、ある殺人事件をきっかけに25年ぶりに再会。彼らの沈痛な人生模様を陰影に富んだ映像で描き出す。ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケヴィン・ベーコンという実力派キャストと組んだイーストウッドが、重厚な語り口を披露。本作で絶賛を博したイーストウッドは、ここから続けざまに神がかり的な傑作を世に送り出していく。

ザ・シネマで5/4(月)7:30ほか放送!

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ミリオンダラー・ベイビー (2004)
『許されざる者』に続き、アカデミー賞作品賞、監督賞に輝いたスポーツ・ドラマ。貧しき薄幸の女性がボクシングによってアメリカンドリームを実現していくサクセスストーリーが、後半は一転、尊厳死をめぐる痛切なドラマへと発展していく。ヒラリー・スワンクの体当たりの熱演が映画を牽引する一方、老トレーナーに扮したイーストウッドもただならぬ悲壮感を体現。彼がいずこへと姿を眩ますエンディングも深い余韻を残す。
父親たちの星条旗 (2006)
父親たちの星条旗
第二次世界大戦末期に日米両軍が激闘を繰り広げた硫黄島の戦いを、日米それぞれの視点で描いた壮大なプロジェクトの第1作。米軍兵士たちが硫黄島に星条旗を掲げる姿をカメラに収めた、有名な戦争写真にまつわる秘話が語られていく。イーストウッドが戦争と国家によって翻弄された兵士たちの悲惨な人生を通して探求したのは、“英雄とは何か?”というテーマ。この主題はのちの『アメリカン・スナイパー』などにも受け継がれる。

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©2007 Warner Bros. Entertainment Inc. and Dream Works LLC. All rights reserved.

硫黄島からの手紙 (2006)
硫黄島からの手紙
硫黄島2部作の日本編。現地に赴任早々、スパルタ的な精神論を排除し、進歩的なリーダーシップで部隊を指揮した栗林忠通中将とその若い部下たちが、圧倒的な物量で押し寄せる米軍相手に徹底抗戦していく姿を映し出す。ほぼオール日本語のセリフや入念な時代考証はもちろん、ハリウッド映画としては異例なほど公平な視点で撮られたドラマは見応え十分。彩度を抑えた映像世界に、戦争の虚しさを問うメッセージが焼きついている。

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ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

©2007 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks LLC. All rights reserved

チェンジリング (2008)
アンジェリーナ・ジョリー主演のミステリー劇。失踪した我が子の帰還を待ちわびるシングルマザーの主人公は、腐敗したロサンゼルス市警のせいで悲惨な運命を強いられ、ストーリー展開も想像を絶するほどねじ曲がっているが、これは1920年代のロスで実際に起こったゴードン・ノースコット事件に基づいている。いささか詰め込みすぎとも思える内容を緊迫感たっぷりに描ききったイーストウッドの手腕が、得体の知れない戦慄と感動を呼ぶ。
グラン・トリノ (2008)
グラン・トリノ
イーストウッドが口を開けば悪態ばかりついているポーランド系アメリカ人の頑固老人に扮した人間ドラマ。過去に幾度となく孤独なアウトローを演じてきたイーストウッドだが、本作ではその壮絶なる“人生の終着点”を描いたことで衝撃を呼んだ。移民や人種差別など現代のアメリカに横たわる多様な問題をはらんだ作品であると同時に、主人公とモン族の少年との交流劇には愛おしい温もりが息づき、あらゆる世代の観客の心を揺さぶった。

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©2009 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

インビクタス (2009)
インビクタス
人種隔離政策アパルトヘイトのせいで国際舞台から追放されていた南アフリカのラグビー代表チーム、スプリングボクスが、自国開催の1995年ワールドカップで優勝を成し遂げた実話の映画化。ネルソン・マンデラ大統領役のモーガン・フリーマンから脚本を送られたイーストウッドは、監督のオファーを快諾。人種融和の理想を掲げたマンデラと大いなるプレッシャーを背負った代表キャプテンの歩みを丹念に描き、清々しい感動作に仕上げた。

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Invictus © 2009 Warner Bros. Entertainment Inc. and Spyglass Entertainment Funding, LLC. Package Design & Supplementary Material Compilation ©2010 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.

ヒヤアフター (2010)
津波にのまれて臨死を体験した女性、双子の兄を亡くした少年、人生を踏み外した霊能力者の青年。見ず知らずの彼らの人生が、運命に導かれるように交錯していく様を描いたヒューマン・ドラマである。死後の世界や超能力というスピリチャル系の題材を扱っているが、3つの逸話を巧妙に束ねていくピーター・モーガンの脚本が秀逸。イーストウッドの繊細な語り口が、死の闇に囚われた登場人物の“救済”という主題を観る者の胸に響かせる。
J・エドガー (2011)
J・エドガー
FBIの初代長官で、謎のベールに覆われたジョン・エドガー・フーヴァーの実像に迫る。実際のフーヴァーとはまったく外見が似ていないレオナルド・ディカプリオを主演に起用したイーストウッドは、歴代大統領さえも恐れたというフーヴァーの権力濫用などの逸話を織り交ぜながら、同性愛者でもあった彼の孤独や老いをあぶり出した。そしてイーストウッドは、本作から『リチャード・ジュエル』まで7本連続で実話ものを発表していく。

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©2011 Warner Bros. Entertainment Inc.

ジャージー・ボーイズ (2014)
ニュージャージー州の貧困地区出身で、1960年代前半にブレイクしたフォー・シーズンズの伝記映画。メンバー4人の友情と確執、栄光と挫折の軌跡を、当時のショービズ界の内幕や熱狂のステージを再現して描いた。イーストウッド作品としては異例とも言える華やかな仕上がりで、全編にちりばめられた「シェリー」などのヒット曲も魅力的。登場人物たちがカメラ越しに話しかけてくるウディ・アレン風の演出も盛り込まれている。
アメリカン・スナイパー (2014)
アメリカン・スナイパー
イラク戦争で160人以上の敵を射殺したというクリス・カイル。米海軍ネイビー・シールズの名狙撃手であり、私生活ではファミリーマンでもあった実在の人物の苦悩を描き出す。はたしてカイルは国家の英雄か、残忍な殺人者か。国民が政治的に分断された本国アメリカでは激しい論争が巻き起こったが、このような物議を醸すキャラクターの多面性を見事に浮き彫りにしたイーストウッドの着眼点と力量には改めて感嘆させられる。

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© 2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

ハドソン川の奇跡 (2016)
ハドソン川の奇跡
2009年1月15日、航行中に全エンジン停止という事故に見舞われたUSエアウェイズ1549便が、とっさの機転でハドソン川への不時着に成功。メディアに英雄視されながらも、その判断に疑いの目を向けられたサレンバーガー機長の実話の映画化である。時間軸を巧みに操りながら、事故とその後の調査の全貌をスリリングかつ情感豊かに映像化。長尺が多いイーストウッド作品としては96分の本編はコンパクトだが、実に中身の濃い一作だ。

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© 2016 Warner Bros. Entertainment Inc. and Ratpac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved.

15時17分、パリ行き (2018)
2015年8月21日、アムステルダム発パリ行きの高速鉄道車内で、イスラム過激派の男による銃乱射事件が発生した。偶然その列車に乗り合わせ、勇敢にも犯行を阻止した若者3人の物語だが、イーストウッドはサスペンスやアクションを強調せず、ごく平凡に生きてきた彼らの子供時代からの半生をたどるという意外なアプローチを実践。さらにモデルとなった本人たちを主人公3人に起用するという型破りなアイデアで、世界中を驚かせた。

ザ・シネマで5/30(土)21:00ほか放送!

©Warner Bros. Entertainment Inc.

運び屋 (2018)
運び屋
『グラン・トリノ』以来10年ぶりにイーストウッドが監督、主演を兼任し、ファンを歓喜させた犯罪劇。麻薬取締局の捜査網をかいくぐり続けた運び屋は90歳の老人だった、という驚くべき実話の映画化。主人公が退役軍人という設定は『グラン・トリノ』を連想させるが、愛想よく軽口をたたき、ヤクの売人と渡り合うイーストウッドの演技はコメディのように軽やか。それでいて随所に人生の年輪をにじませる存在感はさすがである。

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© 2018 WBEI, Imperative Entertainment, LLC and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

リチャード・ジュエル (2019)
リチャード・ジュエル
1996年、アトランタ五輪の最中に起こった爆弾テロ事件を題材にした実録ドラマである。『ハドソン川の奇跡』と同じく“疑惑をかけられた英雄”というテーマの作品だが、本作の主人公は英雄に憧れる銃器マニアで、ヒーローらしからぬ風貌の不器用な警備員。メディアが作り出す冤罪という社会問題、無力な主人公に救いの手を差しのべた人々の誠意などを絶妙のバランスで描き、あらかじめ結末がわかっている実話に豊かなふくらみを与えた。

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5 月20 日ブルーレイ&DVD 発売・レンタル、デジタルレンタル配信開始
ブルーレイ&DVD セット (2 枚組)\4,980(税込)
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Richard Jewell © 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ライター:高橋諭治
1965年生まれ。純真な少年時代にホラーやスリラーを観すぎて、人生を踏み外した映画ライター。「毎日新聞」「映画.com」「ぴあアプリ」などで映画評を執筆中。犯罪、秘密、孤独などにまつわる世界中の映画を鑑賞し、日々恐怖と格闘している。
スカパー!×ザ・シネマ