※この記事は、2008年、『アクロス・ザ・ユニバース』劇場公開時に執筆したものを、一部、修正したものです。「今年」「昨年」は、あくまで2008年時点の「今年」「昨年」です。

問題:2008年いちばん注目のハリウッド新鋭スターは?
答え:ジム・スタージェス

と、だいぶ時間がたってしまいましたが、例のジム・スタージェス君の注目作その2をご紹介します。

『アクロス・ザ・ユニバース』

ご存知、ビートルズの曲と同名タイトルですが、この映画そのものが、いくつものビートルズ曲の組み合わせでできてるミュージカルなんです。

ってことは、多くの人がメロディをはじめっから知ってるってワケです。知らない曲よりは知ってる曲の方が“ノレる”でしょう。敷居の低さというか、入って行きやすさというか、そこらへんが、まずこの映画の魅力のひとつ。

この映画は当初ショボく23館で公開され、そのうち面白さが評判となり、なんと964館まで拡大されたという、昨年の北米興行のダークホース。

我らが文化部系ハリウッド・スターのジム・スタージェス君は、この映画の時点ではほとんど無名で、役者でもありミュージシャンでもある、という、よくいるフワっとした微妙セレブの典型だったのですが、本作をヒットさせて『ラスベガスをぶっつぶせ』の主役をゲットしたのです。日本公開はあとさきが逆になってしまいましたが。

出てる人はマイナー。公開規模も極小。でも評判が評判を呼んで大ヒット。氏もなけりゃ素性もないけど実力で天下を切り従えてやったぞザマミロ、みたいなこの手の太閤秀吉系映画は例外なく面白い!ってのは自然の法則・宇宙の摂理であります。

さて、映画の舞台は1960年代。スタージェス君はこの映画でも主役はってます。さすがは仲間を集めて自分はVo.G.を担当してる、まさしく文化系なバンドやろうぜ兄貴だけあって、彼は歌うたわせてもスゴいんですね。

スタージェス君が演じてるのが、イギリス(しかもリバプール)から夢を追ってアメリカに渡ってきた青年ジュードです。ジュードなんです!ジュードときたら、絶対そのうち“あの曲”が流れるだろうな、と誰でも思うわけですよ。

で、アメリカの大学生マックスと意気投合。マックスのお宅にお呼ばれし、そこで彼の妹の美少女と知り合うのです。それがヒロインのルーシー。ルーシーですよ、ルーシー!“あの曲”はいつ流れるんだろ?とういう期待感が、このミュージカルにはいっぱいあります。

で、映画のかなり後半まで待たされて、それが意外な使われ方だったりして、「ほほぅ、こうきたか!」みたいなサプライズがあったりして、実に楽しいのです!
このジュードとマックスの親友コンビがニューヨークに上京し、2人のまわりにはヒッピーみたいな連中が集まってきます。途中で萌えな妹ルーシーたんも転がり込んできて、音楽やったりアートやったり、みんなでラブ&ピースな共同生活を始めるのです。

しかし、マックスが徴兵されちゃうんですねぇ。そこから、物語は怒涛の60’sカウンター・カルチャーモードに突入!レイト60’sのフラワーチルドレン&カウンター・カルチャーまわりの事象をパロったようなシーンのテンコ盛りです。

たとえば、ケン・キージーのマジック・バスもどきみたいなのが出てきて(その偽ケン・キージーが実は“ドクター・ロバート”だという設定にニヤリ)、偽ジャニス・ジョップリンや偽ジミヘンみたいなキャラも出てきて、画面はサイケデリックに染め上げられていきます。

さらに、兄貴を兵役にとられたルーシーたんはベトナム反戦運動に身を投じ(反戦学生がデモ隊鎮圧の兵士の銃口に花を挿すお約束のシーンももちろんアリ)、コロンビア大のティーチ・インに参加。そこに警官隊が突入し…って、これがホントの「いちご白書」をもういちど。

戦争が人の心を荒ませ、反戦運動は過激化し、とうとう引き裂かれてしまう友人たち。このまま、愛と自由を求めた仲間たちの理想は、暗い時代に押しつぶされてしまうのか…!?といったあたりの終盤が、ドラマ的には大盛り上がりに盛り上がって、たいそう感動させられます。

さてさて、この映画の楽しいとこは、ビートルズを知ってる人が「この曲をこう使ったか!」と感心しながら見れる上に、さらに60’sの知識のある人なら「あの事件をこう描いたか!」みたいなマニアな見方もできてしまう、奥の深さでしょう(いや、知らなきゃ知らないで普通に楽しめますけどね)。

このエンターテインメント・ミュージカル映画を見てるだけで、60年代末の世相をひととおり追体験できちゃうのです。そう、まさしくこれは、映画でめぐるマジカルでミステリーな60年代ツアーだ!と言っても過言じゃないのです。

そこで、2008サマーはサマー・オブ・ラブを『アクロス・ザ・ユニバース』で追体験しよう!ってな見方を、僕としては推奨いたします(そういや、この映画が米本国で公開された去年って、サマー・オブ・ラブ40周年イヤーだったんですよね)。

ヒッピーファッションってけっこう周期的にリバイバルしていて、今では流行りすたりと無関係に定番化してますから、当時をリアルタイムで知る団塊の世代以外にも、ヒッピーファッション好きな人なんかは、この作品を特に、120%楽しみ尽くせちゃうのではないでしょうか。または、この映画を見てヒッピーファッションにハマった、なんて人も続出しそうな、それぐらいの魅力を持った作品です。

2008年マイ・ベストのトップ3に入ることは、早くも確実な情勢であります。■

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