巨大アリーナで繰り広げられるヴァン・ダムVSテロリストの攻防戦

‘80年代半ばにチャック・ノリスが『地獄のヒーロー』(’84)で大ブレイクして以降、にわかにハリウッドで増えたのが格闘家出身のアクション映画スターである。ショー・コスギにドルフ・ラングレン、スティーブン・セガールにウェズリー・スナイプスなどなど。その中でも、セガールと並んで’80年代末~’90年代のハリウッド・アクションを牽引した存在がジャン=クロード・ヴァン・ダムだった。

ベルギーの出身で10代の頃から空手やキックボクシングの選手として国際大会で活躍し、チャック・ノリスの助太刀で映画界へ進出したヴァン・ダム。『サイボーグ』(’89)や『キックボクサー』(’89)などのB級映画で注目された彼は、ドルフ・ラングレンと組んだ『ユニバーサル・ソルジャー』(’92)の大成功でメジャー・スターの仲間入りを果たし、ピーター・ハイアムズ監督のSFアクション『タイムコップ』(’94)がキャリア最大の興行成績を稼ぐメガヒットを記録する。そのハイアムズ監督とヴァン・ダムが再びタッグを組んだ、アイスホッケー版『ダイ・ハード』とも呼ぶべき映画が、この『サドン・デス』(’95)である。

ヴァン・ダムが演じるのは、ピッツバーグのシビック・アリーナで消防管理の責任者を務める元消防士ダレン・マッコード。一時期メロン・アリーナとも呼ばれたシビック・アリーナは、かつてピッツバーグに実在した多目的アリーナで、NHL(ナショナル・ホッケー・リーグ)所属のホッケーチーム、ピッツバーグ・ペンギンズが本拠地にしていた場所だ。2年前まで地元の消防署に勤務していたダレンだが、しかし火災現場で幼い少女を助けることができなかった。その精神的な苦しみから立ち直れず、妻と離婚することになった彼は、消防士の職も辞してシビック・リーナの消防管理官へ転職していたのだ。

時はNHLのプレイオフトーナメント優勝チームを決めるイベント、スタンレー・カップ・ファイナルの真っ最中。ピッツバーグ・ペンギンズとシカゴ・ブラックホークスの対戦チケットを2枚入手したダレンは、再婚した妻のもとで暮らす息子タイラー(ロス・マリンジャー)と娘エミリー(ウィットニー・ライト)を観戦に連れていく。ところが、この試合の裏では恐ろしい計画が人知れず進行していた。テロリストたちが秘密裏に警備員や場内スタッフを殺害して入れ替わり、来賓として招かれたアメリカ合衆国副大統領ダニエル・バインダー(レイモンド・J・バリー)を人質とすべく狙っていたのだ。

テロリスト集団のリーダーは元CIA捜査官ジョシュア・フォス(パワーズ・ブース)。バインダー副大統領やピッツバーグ市長夫妻が試合観戦するVIPルームを占拠した彼は、アメリカ政府に対して17億ドルの身代金を要求する。指示した手順通り3回に分けて指定口座へ金を振り込まなければ、人質を一人ずつ見せしめとして殺害し、最終的にはアリーナの各所に仕掛けた爆弾を爆発させて観客を皆殺しにするという。

その頃、兄タイラーと喧嘩をして思わず座席を離れたエミリーは、運の悪いことにテロリストが場内スタッフを殺害する現場を目撃してしまい、人質としてVIPルームに囚われてしまう。そんな娘の後を追ってテロリストの存在に気付いたダレン。外部と連絡を取ろうにも通信手段が断たれており、アリーナの出入りはテロリスト一味が監視している。ようやく無線でシークレット・サービスの責任者ホールマーク(ドリアン・ヘアウッド)と連絡が付いたものの、テロリストに対して手も足も出ない彼らを頼りなく感じたダレンは、自ら単独で会場内に仕掛けられた幾つもの爆弾を解除し、テロリスト一味に立ち向かって娘を助け出そうとする…。

本物のアリーナで本物のホッケー選手を使って撮影された舞台裏とは?

ストーリーはまさしく『ダイ・ハード』そのもの。ただし、こちらは2万人近くの観客を収容できるドーム型の巨大アリーナが舞台で、少なくともスケール感に関しては『ダイ・ハード』を上回っていると言えるだろう。しかも、ピッツバーグ・ペンギンズにシカゴ・ブラックホークスという実在のホッケーチームによる対戦試合を、主人公ダレンとテロ集団の壮絶な攻防戦と同時並行でフューチャーする本格的なスポーツ映画でもある。実際にシビック・アリーナで爆薬を使用したり、スケートリンクにヘリが墜落するなどの大掛かりな見せ場も含まれているため、当初オファーを受けたハイアムズ監督は本当に実現可能なのか?と首を傾げたそうだが、その疑問と不安はすぐに解消する。実は本作のプロデューサーであるハワード・ボールドウィンは、なんとピッツバーグ・ペンギンズのオーナーだったのだ!

もともとアイスホッケーの興行主だったボールドウィンは、’72年にハートフォード・ホエーラーズを創設したことを皮切りに、サンノゼ・シャークスやミネソタ・ノーススターズなどのオーナーを歴任し、本作が制作された当時はピッツバーグ・ペンギンズを所有していた。その傍ら、元女優の妻カレンと共に映画の制作会社を設立し、アカデミー作品賞候補になったレイ・チャールズの伝記映画『Ray/レイ』(’04)をはじめ、カルト・ホラー『ポップコーン』(’91)やスティーブン・セガール主演『沈黙の陰謀』(’98)、ジェームズ・ワン監督の犯罪アクション『狼たちの死刑宣告』(’07)など、数多くの映画を世に送り出している。本作のプロデューサーとしてはまさにうってつけの人物だと言えよう。

そのボールドウィン夫人カレン(本作では原案としてクレジットされている)の、「シビック・アリーナを舞台に『ダイハード』みたいな映画を作ったら面白いかも」という思いつきが企画の発端だったとのこと。大きな見せ場のひとつとなるホッケーの試合シーンは、’94年10月1日にシビック・アリーナで予定されていた、ピッツバーグ・ペンギンズVSシカゴ・ブラックホークスの本物の試合を撮影して本編に織り交ぜるはずだった。ところが、NHLの経営陣と選手の間で契約を巡る軋轢が起き、’94~’95年シーズンの前半試合が中止されてしまう。

そのため、制作陣はNHLの許可を得てペンギンズとマイナー・リーグのクリーヴランド・ランバージャックスとの練習試合をセッティングし、ランバージャックスの選手たちにブラックホークスのユニフォームを着せ、およそ1万人のエキストラを集めて撮影したのだが、いまひとつ迫力に乏しかったため、別のマイナー・チームにペンギンズとブラックホークスのふりをさせて撮り直ししたものの、そちらの試合映像もボツとなってしまう。結局、地元の元プロ選手や元大学リーグ選手をかき集め、およそ4カ月に渡って撮影された試合映像が最終的に使用されることとなったのだそうだ。

ヴァン・ダムはスケートが大の苦手だった!?

とはいえ、本編にはリュック・ロバタイユやケン・レジェットなど、ペンギンズ所属の本物のスター選手たちが本人役で登場。面白いのは、当時現役を引退したばかりの選手ジェイ・コーフィールドが、ブラッド・トリヴァーという架空のゴールキーパー役で出演していること。性格的に少々問題のあるコワモテの選手という設定であるため、実在のゴールキーパーを使うわけにはいかなかったのかもしれない。

そのトリヴァーが試合中に体調を崩してロッカールームで休んでいたところ、テロリストに追われたダレンが寝ている彼のユニフォームとマスクをこっそり拝借して変装し、そのまま試合に出なければならなくなるシーンも本作のハイライトのひとつ。実はこれ、ソ連のホッケー選手が国際試合で敵チームの選手に化けて亡命を謀る…という、ボールドウィン夫妻が予てから温めつつも実現しなかった映画のプロットを流用したのだそうだ。ちなみに、ヴァン・ダムはスケートが大の苦手だったため、ホッケー靴ではなくテニスシューズを履いて撮影に臨み、ロングショットでは別人のスタントマンがダレン役を演じている。

また、ダレンが氷上から客席の息子へ「愛している」のハンドサインを送るシーンは、ハイアムズ監督が自らの希望で盛り込んだアイディア。実はこれ、監督の子供たちがまだ幼い頃、テレビ「セサミ・ストリート」を見て覚えたサインで、それ以来、ハイアムズ親子の間でずっと使われてきたのだという。劇中では、難しい年頃に差しかかった息子タイラーに手を焼いていた主人公ダレンが、我が子ばかりでなく大勢の人々をテロリストから守らねばならないという重責を担う中、改めて父親としての愛情をきちんと息子に伝えるべくハンドサインを送るわけだが、もしかするとハイアムズ監督はそんなダレンの親心に我が身を重ねていたのかもしれない。■

正直なところ、欠点の少なくない作品ではある。主犯格フォスをはじめとするテロリストたちはマンガ的過ぎて嘘っぽいし、都合の良すぎる展開や回収しないまま放置された伏線も目立つ。それでもなお、孤高のヒーローVSテロリストの攻防戦と白熱するアイスホッケーの試合を同時進行で絡めながら展開するストーリーのスリルは格別だし、なによりも映画にとって肝心要となるアイスホッケーの描写に手抜きをせず、ちゃんとその道のプロや経験者を集め、手間と暇と予算を惜しまなかったことが、結果として功を奏したように思える。要するに、職人がちゃんと真面目に作ったB級エンターテインメントだ。

なお、劇場公開時はアメリカ国内よりも国外での評判が高く、興行的には『タイムコップ』ほどの成功には至らなかった本作だが、ヴァン・ダム・ファンの間では根強い人気を誇り、近々マイケル・ジェイ・ホワイト主演による続編「Welcome to Sudden Death」がNetflixオリジナル映画として配信される予定。また、デイヴ・バウティスタが主演と製作を兼ねた『ファイナル・スコア』(’18)が、アイスホッケーをサッカーに変えた以外はほぼ同じような内容で、『サドン・デス』に負けず劣らず良く出来た映画だった。そちらも併せておススメしたい。

『サドン・デス』(C) 1995 Universal City Studios. Inc. ALL RIGHTS RESERVED.