日本の映画市場で長らく鬼門と言われ続けてきたジャンルの一つが、“アメリカン・コメディ”だ。たとえ本国でNo.1ヒットを飛ばした作品でも、日本公開では一部の例外を除いて、その多くが爆死を遂げてきた。公開されるのはまだマシな方で、日本のスクリーンには掛からずじまいだった作品も、少なくない。
 その原因として繰り返し言及されたのが、文化的な差異による“笑い”の違い。その説明には、日本を代表する喜劇映画シリーズ『男はつらいよ』が、例として挙げられるパターンが多かった。いわく、日本的な人情風味が満載の寅さん映画を、仮に欧米で字幕付きで上映しても、ウケはしないだろうと。“アメリカン・コメディ”が日本でウケないのも、それと同じようなことだと。
 何はともかく死屍累々の中、劇場公開時にヒットしたという話はきかないながらも、『¡Three Amigos!』を、「好きな作品」として挙げるケースには、よく遭遇してきた。邦題は、日本での“アメリカン・コメディ”の例外的なヒット作である『ブルース・ブラザース』(80)に因んで付けられたと思われる、『サボテン・ブラザース』(86)のことである。
 監督が『ブルース…』と同じ、ジョン・ランディスなのはともかく、プロデューサーのローン・マイケルズと3人の主演陣は、アメリカのTV界を代表するコメディバラエティ番組「サタデー・ナイト・ライブ」ゆかりの面々。チェビー・チェイスとマーティン・ショートは、「サタデー…」にレギュラー出演して人気を博した時期があり、スティーヴ・マーティンは、ホストとして度々ゲスト出演して、評判になった。そうした意味で、正に“アメリカン・コメディ”の王道的なメンバーが集結している。
 こうなると、これはホントに危うい。日本では、最もウケないパターンである。例えばランディス監督の前作で、チェビー・チェイスと、やはり「サタデー…」組のダン・アイクロイドが共演した『スパイ・ライク・アス』(85)のように。
 ところが先に書いた通り、本作は日本でも「愛される」1本となった。それは劇場公開時よりも、むしろその後のレンタルビデオやTV放送を通じてとは思われるが。
 私は放送作家として駆け出しの頃、「カルトQ」という、オタクに知識を競わせる内容のクイズ番組に、問題作成の一員として加わっていた。ある回のテーマが、「サタデー・ナイト・ライヴ」。問題の内容的には、「サタデー…」本体と、そのレギュラーメンバーが出演した映画作品を取り上げたが、日本で「サタデー…」を見ることがほぼ適わなかった92~93年頃に、よくこんなテーマのクイズ番組をやったものだ。その時の会議で、本作に触れては顔を綻ばしていたスタッフが多かったことを、思い出す。

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 時は、1916年。メキシコの小さな村が、悪党一味のターゲットにされ、略奪と凌辱の脅威にさらされていた。
 村の娘カルメンとロドリゴ少年は、一味を追い払う用心棒を探すために、町へと出る。酒場へと入って呼び掛けを行ったが、そこは荒くれどもが集う場所。からかわれるだけで、相手にされなかった。
 カルメンとロドリゴは、気を落としながら偶然立ち寄った教会で、生まれて初めて映画を観る。その内容は、盗賊一味に襲われるか弱き人々を助ける、正義の味方の物語。スクリーン狭しと暴れまくるのは、スペイン語で3人の仲間の意味を表す、“スリーアミーゴス”だった。
 カルメンとロドリゴは、彼らを本物の正義の味方と勘違い。そしてハリウッドへと「お願い」の電報を打つ。ちょうどその頃、ラッキー(演:スティーヴ・マーティン)、ダスティ(演:チェビー・チェイス)、ネッド(演:マーティン・ショート)の3人組“スリーアミーゴス”は、ギャラアップの交渉で映画スタジオTOPの怒りを買い、あっさりとクビに。スッカラカンとなったところに、件の電報が届いた。
 実演ショーの依頼と勘違いした3人は、勇躍メキシコへ。カルメンたちの案内で村へと入り、手厚い歓迎を受けて、すっかり良い気分となった。
 翌日、悪党一味の数人が村に現れたが、3人はショー或いは映画撮影の開始と思ったまま、パフォーマンスを披露。薄気味悪く思った悪党どもは、一旦アジトへと帰って、ボスのエル・ポワの判断を仰ぐことにした。
 ショーを「成功」させた“スリーアミーゴス”は、ホッと一息。一方それを「勝利」と捉えた村人たちは、歓喜の渦に!その夜は祝祭の宴が、いつまでも続いた。
 翌朝を二日酔いで迎えた3人の元に、今度はボスのエルポワが率いる大軍が襲来の報。何もわかってない“スリーアミーゴス”は、再びパフォーマンスに挑むのだったが…。

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 本作の熱心なファンとして知られるのが、あの三谷幸喜氏。「一番感銘を受けた」作品として挙げるほどに。
 また3人組の名称であり、本作の原題でもある“スリーアミーゴス”が、TVと映画の『踊る大捜査線』シリーズで、北村総一朗、小野武彦、斉藤暁の3人が演じる、湾岸署の幹部3人組の呼称となったのは、ご存知の方も多いであろう。またその流れで、時代劇シリーズ「大奥」で、鷲尾真知子、山口香緒里、久保田磨希が演じた奥女中トリオが、“大奥スリーアミーゴス”と呼ばれた。
 本作の人気が高かった理由のまず一つは、物語の構造であろう。悪党に蹂躙される村人の声に応えて、勇者たちが心意気で助けに向かうというのは、『七人の侍』(54)や、そのリメイクである西部劇『荒野の七人』(60)などでお馴染みのパターンであるが、コメディとして、そこからの捻り方が絶妙である。
 主人公たちが演じる勇者を見て、「本物」と“勘違い”した村人からの願い。それを「俳優の仕事」としての依頼と“勘違い”して受けた主人公たち。真実に気付いた時は、一旦逃げ出しかかるが、最終的には勇気を振り絞って、村人たちのために戦う。
 この構図は後に、『スタートレック』シリーズへのオマージュが満載の『ギャラクシー・クエスト』(99)にも、転用される。こちらでは、宇宙船のクルー役を演じた俳優たちを、「本物」と宇宙人が勘違い。助けを求められた俳優たちは、“宇宙戦争”を戦うことになる。
 他に、ピクサーのCGアニメ『バグズ・ライフ』(98)など、『サボテン・ブラザース』の影響下にあると思われる作品は、少なくない。
 先に挙げた、本作の熱心なファンである三谷幸喜も、このパターンを自作に取り込んでいる。役所広司主演のTVドラマ「合い言葉は勇気」(00)は、本物の弁護士と勘違いされた俳優が、不法投棄を行う産廃業者を相手取った住民訴訟を戦う。また監督作である映画『ザ・マジックアワー』(08)も、ヤクザの組織が、佐藤浩市が演じる売れない俳優をプロの殺し屋と勘違いする話であり、このバリエーションと言える。三谷の作風として、登場人物たちの勘違いに勘違いが重なって、物語があらぬ方向に暴走していく展開があるのだが、本作の骨組みは正に、「ズバリ」だったのであろう。
 こうした構成の下、繰り広げられるのが、本作の主演にして、製作総指揮・脚本も兼ねたスティーヴ・マーティンが言うところの、「セックスもドラッグも4文字言葉も出ていない」コメディである。日本の観客が一番お手上げになる、英語での言葉遊びのギャグなどよりも、体を張ったギャグの方が、際立つ仕掛けである。
 コメディアンとしてバスター・キートンやマルクス兄弟、ジェリー・ルイスをリスペクトし、かつて“WILD & CRAZY GUY”と呼ばれた、スティーヴ・マーティンの面目躍如!歌って踊って、アクションまで披露する。
「サタデー…」は1975年からの第1シーズンのみレギュラー出演だったチェビー・チェイス。その後ハリウッドへと進み、~「サタデー…」は、映画スターへの登龍門~という方程式を作り上げた。本作では音楽の才まで発揮してみせて、ご機嫌である。
“スリーアミーゴス”の再若手マーティン・ショートは、「サタデー…」84年のシーズンにレギュラー入り。というわけで本作は、知名度が大いに高まった頃のハリウッド映画デビュー作であった。ここでは、後にスティーヴ・マーティンと共演した『花嫁のパパ』シリーズ(91~95)などで見せたキモカワ系の演技は封印し、「子役上がりの純情な正義派」といった体で、他の2人の勇気を触発する役回りである。
 それぞれにアクが強く、それもあって日本でブレイクすることはなかった3人。しかし本作では「奇跡」に近いレベルで、アクが押し出されることなく、絶妙なバランスの共演となっている。
 因みに、西部の歌う花やら透明騎士やら、ジョン・ランディス色が強いナンセンスギャグも時折混ざる本作だが、それは見てのお楽しみとしておこう。■

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