COLUMN & NEWS
コラム・ニュース一覧
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COLUMN/コラム2016.12.24
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年1月】うず潮
本作は1953年制作のモノクロ・フランス映画。500キロ離れた油田に火災が発生、消化材として大量のニトログリセリンが必要に。運び手に選ばれたのは、希望のない日々を送る男たち。一獲千金のため、彼らは命を賭けてトラックでニトロを運ぶという超絶シンプルなストーリー。しかし、そのトラック輸送の過程を、世界三大映画祭を制覇したアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督が緻密に練り込んだ演出で見せまくります。 曲がりくねった林道、舗装されていない砂利道、重油の沼に山道…ちょっとした振動でさえ恐怖を感じ、徐々に高まる緊張感で手に汗を握りっぱなし!主演のイヴ・モンタンがインテリ風のヤサ男から、命を張る男へと心情が変化していく様を見事に演じ、その脇を固める俳優陣も味のある演技で答えています。 モノクロ関係なく、一度見たらもう夢中!ハラハラドキドキな気分を存分に味わえる1本ですので、是非ご覧ください!ちなみに1977年にロイ・シャイダー主演で、ハリウッドでリメイクも。興味のある方はこちらもチェックしてみてください! ©1951 - TF1 INTERNATIONAL - PATHE RENN PRODUCTIONS - VERA FILM - MARCEAU CONCORDIA - GENERAL PRODUCTIONS
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COLUMN/コラム2016.12.20
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年1月】にしこ
17歳の娼婦シンディを警察が保護。彼女は監禁されていた。ある男に殺されかけたいう彼女の証言は、その男が地元の名士である事で、取り合ってもらえないまま。時を同じくして、アラスカの凍りついた川の周辺で10代後半から20代前半の少女の白骨死体が発見される。アラスカ州警察のハルコム(ニコラス・ケイジ)は、シンディが証言した男が怪しいと確信。彼を追いつめる為の、戦いが始まる… というのがあらすじでして、なんと事実も元にした映画。12年間に24人以上の女性が監禁・殺害されたおぞましい事件が元になっています。 ニコラス・刑事、否、ケイジ(すいません。言ってみたかったんです!)扮するアラスカ州警察のハルコム刑事は、職場では「あなた以上のキレ者はいないっす」、「お前が捜査にあたるんだったら大丈夫だろ」的な評価をバンバン受けているキレ者デカなのですが、家に帰ると奥さんから「あんた!いつ転職すんのよ!刑事みたいに安月給でハードワークな仕事続けてもなんにもなんないし、家庭をもっと省みてちょうだいな!キーっ!」的な事を毎日言われて、ちょっと顔色も悪いし、どことなく悲壮感・・・。身を削る思いで捜査にあたり帰宅しても、愛する一人娘に「パパー、ママ、怒って先に寝ちゃったよ~」とか言われて、事件の被害者がティーンエイジャーがほとんどということで、娘を抱きしめ「お前はゆっくり大きくなってちょうだいよ…涙」と抱きしめたりして。 そんなちょっとお疲れ気味のハルコム刑事は、唯一、男の魔の手から逃げ出した娼婦のシンディから当時の様子を聞いたり、彼女の生い立ちを聞いたりしているうちに、彼女の様な女の子をこれ以上増やすわけにはいかない!彼女のことも全力で俺が守るぜ!と静かな闘志を燃やしながら、だんだんと犯人を追いつめ始めます。 アラスカという土地の冬の不毛さ、静けさと歩調を合わせる様に派手な見せ場やドンデン返しが盛りだくさん!というタイプの映画ではありませんが、事実を元にしているということを大事にしている製作者の意図を感じるエンディングまで、見逃せない映画です。シンディ役を演じたヴァネッサ・ハジェンズのハスッパなビッチを気取っても、隠しきれない健気さも◎。そして割と早くから犯人として登場する男役の俳優もこの役にドハマり。奴の黒目を見逃すな! 良く出来映画!!お見逃しなく!! ©2012 GEORGIA FILM FUND FIVE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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COLUMN/コラム2016.12.17
ゾンビ映画ファンだけでなく、ゾンビ嫌いな人にも観て欲しい、2人の愛を見せつけられる秀作ドラマ『ゾンビ・リミット』
ちょうど1981年~1985年は、リターンドと名づけられた未知のウィルスが発見され、多数の死者を出した第1次流行期にあたる。そのウィルスの感染者はリターンドと呼ばれた。感染者が出血した場合、他者は決して血に触れてはならないし、感染者をそのまま放置すれば、数日後には意識を喪失し、生肉と血に飢えたゾンビのように凶暴性を発揮する。 これは現代史において人類最大の悲劇となり、現在まで世界中の犠牲者は1億人以上とされる。第1次流行期から治療を研究しはじめて10年後、リターンド(感染者)の髄液から採取した“リターンドたんぱく質”により大きな希望がもたらされた。そして第2次流行期以後は、多くの人を救うことができた。 でも全てのリターンドを完治できるわけではなく、感染後、36時間以内に薬“リターンドたんぱく質”を注射し、効果があらわれた者だけしか助からないし、助かった者も一生、薬をうち続けなければならない。国はリターンドに薬を配給し、患者を管理していた。 一方、リターンドへの反発は徐々に大きくなり、反リターンド派のみならず一般市民による差別やデモが相次ぎ、各地でリターンドが襲撃される暴行死傷事件が起きていた。そのため、リターンドは密かに暮らし、周囲にカミングアウトすることはなかった。 ゾンビのような凶暴化した人間を生み出す新種のウィルスに対する反応を、多少のシミュレーション風に描いたものでは、『28日後…』(02)の続編『28週後…』(07)が思いだされる。感染者の恐怖とそれに対する社会(世界)の対応が描写されていたが、見せ場のメインは、ゾンビのような感染者が人間に襲いかかる光景だった。 でも『ゾンビ・リミット』では、未知のウィルスに感染したリターンドが徐々に増殖してゆき、それに対する社会と人間たちの様々な反応を描いたドラマであって、ゾンビのように凶暴化したリターンドが人間に襲いかかる描写はほんのわずかしかない。だから、そのテの凄惨な残酷描写を期待するファンにとっては、最初は肩すかしを喰らった感があるかもしれないが、それでも徐々に見応えある作品世界に没入してゆくハズ。 ゾンビ映画をリスペクトしつつも、ゾンビ映画の見どころの一つ、感染者の人間襲撃場面を極力排している。でも筆者は、それでも本作が大好き。愛すべき作品である。しかしこの邦題は、あまり好きじゃない。原題は“THE RETURNED”で、未知のウィルス名、およびその感染者を指すが、RETURNEDだけなら「戻ってきた」という意味がある。薬“リターンドたんぱく質”の効果によって、ゾンビ化から戻ってくるという意味もあるためか、邦題は劇場公開やレンタル・ビデオ市場を考慮し、分かりやすいゾンビの語を使用し、ゾンビ化への限界点を意味するだろう『ゾンビ・リミット』と名づけたのかもしれない。 主人公は、ミュージシャンでギターの講師もするリターンドのアレックスと、その恋人のリターンド治療医師のケイト。 6年前のある日、アレックスがショップで倒れている中年男性を助けようとしたところ、実は彼がリターンドとは分からず、指を咬まれてしまう。アレックスを診察したのがケイトで、2人はリターンドと担当医師という関係を超えて愛を育むことになる。 ケイトは、日々リターンド患者を診察し、彼らに対して慌てさせないよう優しく接する。感染した幼い子供をもつ両親が、「“リターンドたんぱく質”の在庫はあとわずかという噂が流れているが……」と質問されると、ケイトは「根も葉もないデマよ」とキッパリ。国はリターンドをできる限り増やさないよう、感染者に“リターンドたんぱく質”を配給し続けているのだから、必然的にそれを採取できる感染者は減少してくる。それを早くから察知していた国側は、“リターンドたんぱく質”の代わりになる、人工開発された“合成たんぱく質”の研究開発に着手するが、未だ完成にいたっていない。 ケイトはその事実を知っていても、優しい女医を演じて嘘をつき続け、しかも自分の勤務病院の薬品管理部の女性を通じて、アレックスのために密かに“リターンドたんぱく質”を高額で横流ししてもらっている。ケイトはエゴにはしってしまい、リターンドの治療医師にあるまじき行為を取っていた。アレックスも、彼女の行為をありがたいと感じながらも反道徳的な行為に対して何も言わない。2人の部屋の冷蔵庫には、手に入れた“リターンドたんぱく質”のアンプルがたくさん隠してある。 そんな2人の姿を見ていると人間の本性を感じ取ると同時に、この世界観に説得力が増してくる。ケイトは、アレックスさえ今のままでいてくれれば、他の感染者=リターンドがどうなってもいいと考えているわけじゃない。ケイトがまだ子供だった頃、両親がリターンドとなり、哀しい出来事を体験した……だからこそ彼女は、リターンドの治療医師になったと推測できるし、かつて愛する者を救えなかった後悔が、アレックスのために横流しをさせたと理解できる。 しかも、ケイトのリターンドに対する気持ちが、前半のこんな場面で力強く迫ってきた。ある日ケイトが勤務する病院に、黒い目だし帽を被った反リターンドの過激派が銃を持って襲撃した! 彼らはケイトに銃をつきつけ、「いかれているな、ゾンビのお世話か?」と揶揄した。するとケイトは、「彼らは、リターンドよ」と気丈に言い返した。怒った過激派は、更に「(彼らを)ゾンビと言え」と銃を向けていきがるが、彼女は決して「ゾンビ」とは言わなかった。 だからケイトは、たとえ社会や民衆がリターンドをゾンビと表現しようとも、自身の中ではあくまでリターンドという思いが強い。このケイトの思いを感じ取れる人なら、邦題の『ゾンビ・リミット』には少々抵抗があるハズだ。 そして、ケイトの病院に入院中だったリターンド患者は、過激派によって全員射殺され、リターンド=感染者の名簿を奪われてしまう。 過激派によるリターンド患者殺害の衝撃は、2016年7月に起きた「相模原障害者施設殺傷事件」の加害者のように傲慢だが、それは彼らだけではなかった。感染者=リターンドは社会の弱者でありマイノリティで、“リターンドたんばく質”の在庫薄が明らかにされると、リターンドの社会の風当たりは一層強くなっていく。 反リターンド派によって、“リターンドたんぱく質”配布所や病院が続けざまに襲撃され、しまいには病院そのものが軍の統治下に置かれた。そして国側がついに発令。「リターンドは、3日以内に監視センターに出頭しなければ逮捕する」と。大型バスに乗り込むリターンドたちの姿は、まるで第二次大戦でユダヤ人らがナチの強制収容所に運ばれる様とダブッてくる。 筆者も彼らをゾンビとは言いたくない……リターンド患者が増えてゆく世界を、リアル・シチュエーション風に描きつつ、アレックスとケイトの2人の愛と葛藤のドラマが展開する(それについての詳細は、ここでは書かないでおきます)。どうか本作を観て欲しい。もしゾンビ化させるようなウィルスが蔓延したら?……それをシリアスに捉えた危機的社会として描写しているからこそ、アレックスも、ケイトも、真に迫る魅力を発する。 国から“リターンドたんぱく質”の配給が停止されようとした時、アレックスは、25年来の親友にリターンドであることをカミングアウトしたことで、予想外の事態に陥ってしまう。そして、反リターンドの過激派が感染者名簿を入手してリターンド狩りをはじめる。更に出頭しないリターンドを捜査する警察の手も迫る。是非、追いつめられてゆく2人の姿を目に焼きつけて欲しい。■ © 2013 CASTELAO PICTURES, S.L. AND RAMACO MEDIA I, INC.. ALL RIGHTS RESERVED.
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COLUMN/コラム2016.12.17
オリジナル版の要素を取り込みながら、異なるムードを醸しだした〜『パトリック 戦慄病棟』
意識がなく、四肢や体を自由に動かすことができない植物状態の青年パトリックには、実は意識があって、体を動かせないことで秘かにサイコキネシス(念動力)を身につけていた。彼は唾を吐くことで、好意を抱く担当女性看護師キャシーと意思疎通を図ろうとする……。 ある種、変態的なラヴストーリーともいえるオーストラリア映画『パトリック』(78)は、79年のアボリアッツ国際ファンタスティック映画祭グランプリを受賞しながらも、日本では劇場未公開。でもSF&ホラー映画ファンの熱い支持を得てきたカルト映画だ。 監督には、ヒッチコック監督の『トパーズ』(69)で撮影現場を経験したことのある、根っからのヒッチコッキアン、リチャード・フランクリン(1948年生まれ~2007年死去)。『パトリック』では、『サイコ』(60)のように母親にトラウマをもった青年を主軸にし、『疑惑の影』(43)、『ダイヤルMを廻せ!』(54)、『マーニー』(64)等、随所に師匠へのオマージュを盛り込んでサスペンスを盛りあげていた。また1983年には、師匠の大ヒット作の続編『サイコ2』を監督してヒットさせた。 今回の作品は、大まかな流れはオリジナル版と似たような展開を見せるが、大胆な脚色を施して全体のムードを変え、結末も異なるリメイク版になっている。監督には、オーストラリア出身で、ジャンル系映画の異色ドキュメンタリー『マッド・ムービーズ~オーストラリア映画大暴走~』(08)で注目された気鋭マーク・ハートリーが務めた。 そのためか、オリジナル版にあったヒッチ作品へのオマージュの数々が、本作でも異なる形で散見できる。例えば、病院へと連なる断崖沿いの道路を自動車が這うように走行してゆく場面は『断崖』(41)風だし、病院に入る真俯瞰ショットは『北北西に進路を取れ』(59)を彷彿させ、キャシディ婦長の妖しい存在感は『レベッカ』(40)のダンヴァース夫人を匂わせるし、妖しい雰囲気を放ちつつ地下室に秘密が隠されているあたりは『サイコ』のサイコ・ハウスを意識している。オリジナル版が、ヒッチへのリスペクト&オマージュ描写がサスペンスを醸成する一要因を担っているところから、新たにヒッチ・サスペンスの要素を盛り込むことも、リメイクの重要な要素だと考えたのかもしれない。 とはいえ、オリジナル版との最も大きな違いは、海沿いの崖の上に建つ古びた私立病院ロジェット・クリニック(修道院を改装して再利用した設定)の陰湿なたたずまいと、重度の昏睡状態の患者を実験体にし、電気実験による脳研究を推し進めるロジェット院長の存在だろうか。ロジェット・クリニックは海沿いにあるため、霧が立ち込める時があり、実に怪しげで幻想的な雰囲気を醸しだしている。そのうえ研究で高い電磁波を使っているためか、院内では植物が育たないという(コワッ)。そこの院長ロジェットが、かつて医学界でフランケンシュタインの異名を取り、医学界から追放されたのち、密かにスポンサーの資金力を得、非道な研究をずっと続けている。脳がたとえ損傷した患者であっても、投薬直後に高圧電流を流して刺激し、眠っている神経を呼び覚ましてつなぎ変えようとする驚きの実験だった。 ロジェットのパトリックに対する見解はこうだ。「24時間、彼の脳電図を観察している。生理現象から神経衰弱まで、脳波の記録を。すべてのパトリックの動作は、意識の有無にかかわらず電流次第。神経中枢を刺激すれば、いいだけ。植物状態とはいえ、彼の脳内には電流が流れている。時々、いずれかが作用して体を動かすだろう。ただそれだけのこと。彼は、73kgの動かぬ肉塊。死んだ脳を抱えたな。すべて私の指示に従え。この扉が開いたら、今までのやり方は忘れろ!」 ロジェットは、実験体パトリックを治療したいわけでなく、あくまでも持論の証明が欲しいだけ。そのための“生ける屍”だと思っている。その下で“氷の女王”の威厳を漂わせる看護師長ジュリアがいる。彼女はロジェットの娘で、噂では一度ここを出て結婚するが、夫が自殺し戻ってきたといういきさつがある。 ゴシックホラーのような舞台に、我が道をゆくマッドサイエンティストの凶行は、まるで怪奇映画のたたずまい。そんな異常な世界に、オリジナル版より、だいぶ美少年になったパトリックと、彼が好意を抱くキャシー・ジャカード看護師との奇妙な関係が描かれる。クリニックの地下室は、ロジェットとジュリア以外は立ち入り禁止。 キャシーは、恋人エド・ペンハリゴン(オリジナル版でキャシー役を熱演したスーザン・ペンハリゴンに敬意を表した役名)との関係が悪化し、ストーカーのような彼から離れるため、ロジェット・クリニックの看護師業務に就くことになった。 キャシーを演じたのが、ビーチ系映画やホラー映画で活躍してきたスレンダー女優、シャーニ・ヴィンソン。サーフィン系OVA映画『ブルークラッシュ2』(11)ではしなやかなスレンダーボディを充分拝ませてくれたし、『パニック・マーケット3D』(12)では津波によるサメ・パニックに対峙するスクリーム・ヒロインを全身で熱演! 『サプライズ』(11)では、サヴァイバル・スキルを身につけたヒロインが襲撃者たちを相手にキリング・マシーンと化してゆく変貌ぶりがたまらなかったぞ。これらの作品で一気にシャーニのファンになった筆者としては、オリジナル版のキャシー役を演じた癒し系のスーザン・ペンハリゴンとは異なり……ちょっと見、健気に見えそうなシャーニが、白衣(映画では白ではなく水色だけど)に身を包み、恐怖と気丈に対峙していく姿に萌え萌えなのだ。 そして、シャーニ扮するキャシーが、ロジェット・クリニックで最初に担当を任された患者が、15号室(オリジナル版も同じ15号室。タロットカードで15は、悪魔に属するカードで、拘束・束縛・誘惑・妬みなどの意味がある)のパトリックだった。 キャシーがベッドに寝たきり状態のパトリックと初接見の日、キャシーがパトリックに顔を近づけた時、彼の口から飛ばされた唾が彼女の顔にかかった。ロジェットやこの病院を“植物園”と揶揄する同僚の看護師は、無意識に筋肉が反応しただけだと言うのだが……。 キャシーは、同僚の看護師がパトリックのシーツを取り換える際、彼の体をぞんざいに扱っている姿を目撃し内心驚いてしまう。優しいキャシーに対し、パトリック流のあいさつがツバを吐くことだった。でもキャシーにとって、その後もパトリックが彼女の前で唾を吐き続けることから、彼の意識を感じ取るようになる。でもパトリックが意識を伝えてくるのは、キャシーだけ。 知り合ったばかりの精神科医ブライアンにパトリックのことを相談すると、ブライアンがいきなりキャシーに対しツバを吐いた。驚いたキャシーはブライアンに激怒するが、どうやらパトリックの超能力によって、ブライアンの意識に侵入してやらせた行為だった。パトリックにしてみたら、2人だけの秘密を、他人に、しかも男に話したことが許せなかったらしい。観ているうちに、パトリックが吐く唾にはいろいろな思いが込められているように見え、時にパトリックの想いの一つ……キャシーへの性的な隠喩も込められているように思う。 キャシーが、パトリックの体をあちこち触り、股間の方に手を伸ばすと股間が膨らんでくるくだりはエロティックだし、パトリックがパソコンを使って、キャシーに「オナニーして欲しい」と伝えてくるところはちょっと怖い。 パトリックはキャシーを好きになるが、やがてそれが執着へと変化し、脳で思い描いたことを超能力で強引に変えてしまう。でも彼の超能力で大概なものは思い通りにできるが、真に操りたいのは、一人の看護師キャシーの心だが、それがほんとに難しい。 怪奇幻想的なムードを漂わせながら、拘束されたようなパトリックが超能力という絶大な力を持ってしても、キャシーの女心を拘束できない変態的なラヴストーリー。オリジナル版にとらわれず、新たな要素とオリジナル版の魅力を巧みに融合させたエンタメ・ホラーだと思う。■
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COLUMN/コラム2016.12.13
人間同士の相互不理解がもたらすカオス!パラノイアの暴走する先はほとんどホラー⁉〜『トランストリップ』〜
日本人にとって南米の映画といえば、例えばメキシコやブラジル、アルゼンチン辺りならパッと思いつく監督や作品も少なくないだろうが、しかしチリの映画となると馴染みが薄いのではないだろうか。それもそのはず、かの国では政情不安定な時期が長く、サイレント映画以降はなかなか映画産業が発展しなかった。’60年代にはニューシネマ運動の盛り上がりも僅かにあったようだが、それも’73年の軍事クーデターで誕生したピノチェト大統領の独裁政権下で潰えてしまう。同国出身のアレハンドロ・ホドロフスキーが、母国ではなくメキシコを活動拠点に選んだのも無理はなかろう。本格的にチリ映画界が産業として成長するようになったのは、ここ20年ほどのことなのだ。 最近はアカデミー外国語映画賞候補になったパブロ・ラライン監督の『NO』(’12)や、ベルリン国際映画祭の女優賞に輝いたセバスティアン・レリオ監督の『グロリアの青春』(’13)など、世界の主だった映画祭や映画賞でチリ映画が高く評価されることも増えてきた。そんな中、現在最も国際的な注目を集めているチリの若手映像作家の1人がセバスティアン・シルバだ。 カナダでアニメーション制作を学んだ後、イラストレーター兼ロックミュージシャンとして活躍した経歴のあるシルバ監督。特にイラストレーターとしてはニューヨークで個展を開き、実を結ばなかったもののハリウッドへ招かれたこともあったという。チリへ帰国して暫くはソロ・アーティストとして活動するも、やがて自らの制作プロダクションを立ち上げて映画監督へ転向。長編2作目の『La Nana(女中)』(’09)がサンダンス映画祭のワールド映画部門グランプリやラテンアメリカ映画祭の批評家賞などを獲得し、ゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞にもノミネートされたことで、一躍脚光を浴びることとなったのである。 そんなセバスティアン・シルバ監督の作品に共通するキーワードは“相互不理解”と“パラノイア”である。裕福な家庭で長年に渡って雇い主の信頼を得てきたメイドを主人公にした『La Nana』では、年を取ってきた彼女に良かれと思って家主が若いメイドを補佐役として雇ったところ、自分の立場が脅かされると思い込んだ主人公が強迫観念を暴走させていく。また、同じくサンダンス映画祭でワールド映画部門監督賞に輝いた『Crystal Fairly & the Magical Cactus』(’13)は、幻のドラッグを求めてチリを旅する利己的なアメリカ人の若者(マイケル・セラ)とラブ&ピースな現代版ヒッピー女性(ギャビー・ホフマン)の対立を描くロードムービーだった。ベルリン国際映画祭でテディ賞を獲得した最新作『Nasty Baby』(’15)では、ゲイのカップルとその親友の女性が親切心で恵まれない浮浪者と関わったところ、その浮浪者がゲイに偏見を持つ差別主義者だったことから命の危険に晒されるという、弱者をヘイトする弱者の構図が描かれた。ディスコミュニケーション=相互不達によってもたらされるカオス、それこそがシルバ監督の一貫して描いてきているテーマだと言えよう。 そして、日本で唯一見ることのできるシルバ監督作品が『トランストリップ』(’13)。ちょうど『Crystal Fairly & the Magical Cactus』の直後に撮影され、ほぼ同時期に発表されたアメリカとチリの合作映画である。両作品にマイケル・セラが出演しているのもそのためだ。まずは簡単にストーリーを説明しよう。 主人公はカリフォルニアからチリへとやって来た若いアメリカ人女性アリシア(ジュノ・テンプル)。現地在住の従姉妹サラ(エミリー・ブラウニング)のもとを訪れた彼女は、その足でチリ南部の島へとバカンスに向かう。同行するのはサラとその彼氏アウグスティン(アウグスティン・シルバ)、その姉バーバラ(カタリーナ・サンディノ・モレノ)、そしてアウグスティンの同級生ブリンク(マイケル・セラ)だ。ただでさえ初めての外国旅行で緊張している上に、見ず知らずの他人に囲まれたアリシアは気分が落ち着かない。 5人揃って車に乗り出発したのも束の間、従姉妹のサラが学校の試験を受けるために戻らねばならなくなる。明日には合流するから、それまでみんなと一緒にいてというサラに押し切られ、知り合ったばかりの3人と旅を続けることになったアリシア。仲間同士の中でたった一人の赤の他人。内気で大人しく繊細なアリシアは、少々乱暴だが気がよくて明るい若者たちの輪に溶け込めない。島へ着いてからもなかなか打ち解けられず、彼らの他愛ない悪ふざけやジョークを必要以上に深刻に受け止める彼女は、やがて自分が彼らに嫌われている、馬鹿にされている、危害を加えられるかもしれないという妄想に取りつかれ、どんどん精神のバランスを崩していく…。 とまあこんな感じなのだが、冗談半分で催眠術を掛けられたアリシアが一気に被害妄想を暴走させていく後半の展開は殆どホラー。まるで悪霊に取りつかれたような有様だ。まさか自分たちが誤解されているなどと思いもよらない若者たちは、彼女の異常な行動の原因や理由を全く理解できず、パニックで右往左往するしかない。まさしくディスコミュニケーションの招いたカオス、そして悲劇としか言いようがないだろう。 悪意を持った人間は一人も出てこない。誰もが言ってみればごく普通の若者だ。しかし、人見知りで生真面目で感受性豊かなアリシアにとって、アウグスティンら仲間たちは得体のしれない野蛮人にしか思えない。一方、細かいことなど気にしない楽天的なアウグスティンたちにとってみれば、終始うつむき加減で怯えたような様子のアリシアはどことなく薄気味の悪い存在だったりする。お互いに頑張って歩み寄ろうとはするものの、その溝はなかなか埋められない。次第に不信感を募らせていく両者の心理を丁寧に汲み取ることで、ヒリヒリとするような緊張感を高めていくシルバ監督の演出は非常に巧み。誰もがどこかで身に覚えのある嫌な感覚を蘇らせるのだ。 そう、相容れない他者との相互不理解というのは、恐らく誰でも一度は経験したことがあるはず。イジメや民族紛争の原因も往々にしてそこにあると言えよう。たいていの場合は、そういうものと割り切ってやり過ごせば済むものだが、しかし小さな島という限定空間の中に閉じ込められるとそうはいかない。みんなが自分と同じ価値観を持ち、自分と同じジョークで笑い、自分と同じものを好きだとは限らないという、我々が時として忘れがちな当たり前のことを、この作品は強烈に思い起こさせてくれる。 そして、本作は最後までその相互不理解が解消されることはない。恐らくクライマックスは賛否両論だろう。実際、あのエンディングはなんなんだ⁉という批判の声も多い。しかし、世界中で紛争やイジメのなくなることのない現実を鑑みれば、一見して不完全燃焼のように見える本作のラストも当然の帰結だろう。そこには、軍事独裁政権の恐怖政治によって国民の間に根深い相互不信の広がったチリという国の、いまだ払拭できないトラウマと歴史の教訓が反映されているようにも思えるのだ。■ © 2013 MAGIC, MAGIC LLC
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COLUMN/コラム2016.12.13
夏の『47RONIN』プレゼントの当選発表を今日になってする、の巻。
おまっとさんでした、地域密着系都市型…じゃなくて、おまっとさんでした!夏に当チャンネル、『47RONIN』にかこつけた、フザけきったプレキャンを実施したのをご記憶でしょうか? 47RONINは複数形のsが付いてRONINSとならずに、英語の原題でも47RONINのままですが、なぜ複数形のsが付かないのでしょうか?このクイズに頓智の利いた回答をお寄せいただいた方の中から抽選で(※正解でなくて構いません)四十七士に、素敵なプレゼントが当たる。 というプレキャンでした。おまっとさんでした!夏にやって冬まで寝かせて本日、結果発表と賞品の発送を同時に行います。おそらく明日、討ち入り当日に当選者のお手元にブツが届く、という粋な心配り。当選者の発表は賞品の発送をもって代えさせていただきますよ。なんせここに個人情報は晒せませんから。 ああそれと明日12月14日(水)の13:00~は放送もしますよ。またぜひご覧ください。 さて、まずは本ですね。 『おかしなジパング図版帖 -モンタヌスが描いた驚異の王国-』価格:¥2,052出版社:パイインターナショナル著者:宮田珠己 という素晴らしい図録でして、17世紀後半というから江戸前期ですが、その時代に、日本に来たこともないオランダ人モンタヌスが、出島から漏れ伝わってくる情報から想像だけで描いた日本の絵の数々を紹介している。なんだか、眺めてるうちにクラクラめまいがしてくるような、ドラッギィきわまりない一冊。 あたらなかった方は各自でご購入ください。 これが当たった方たちの、トンチのきいたご回答の数々がコチラ。 神奈川県の男性 「47才の浪人の話」 いいっすね40歳の童貞男みたいで。 次いってみよ。 足立区の男性 「寺坂が持って逃げて泉岳寺に奉納した!」 意味がわかんなくて好き。 大阪の女性 「図に乗ってないから」 図ね。sだけにね。ズだからね。上手い!これはいわゆるひとつの山田君座布団一枚ですな。 世田谷の女性 「SONYのwalkmanが47台あってもwalkmenにならないのと一緒。47roninは世界の登録商標」 これは新しい問題提起がなされましたぞ。ウォークマンが47台あったら、アメリカ人はそれを何と呼ぶのか!? 本当に絶対ウォーク“メン”にはならないの?47walkmanズ、ともならないのか?深い。深すぎる難題だ。高校の英文法でこんなこと習ったか? これ以外にも、たくさんの珍回答をお寄せいただきました。良いやつは全部ここで紹介したいぐらいですが、「紹介しといて当てないのかよ!」と怒りを買いそうなので、感謝の念だけお伝えしておきます。ありがとうございました。 ■ ■ ■ 続いて塩。赤穂の天塩の当選者です。 「浪人には塩が必用不可欠だったので、思わず題名のS(ソルト)を食べてしまったのだと思います\(^^)/」 これも山田く~ん。ですな。 「余りにも低学力の人が浪人を英訳したので、複数形のSを落として発表してしまった。そこで、これを逆に使用してあたかも、意図的な物にしようとしてこんなクイズにしたが、応募数が少ないと、責任を取らなくてはならない。故に人助けを兼ねて、清き一票を投じてる!」 いや私がタイトル付けた訳じゃないですから。ユニバーサル作品なので天下の東宝東和さんじゃないですかね。まさかして、これもまた、バンボロとかサーカムサウンドとかジョギリショックとかの輝かしき伝統に連なる、一種の東和宣伝マジックなのか!? なわきゃねえか。 サクサクいきましょう。 「キアヌリーヴスがぼっち好きだから」 「ピンクレディーと同じでSを取った方が響きが良いからです。」 「しまりがある」 いい感じにフザけてますね。好きです。この調子で、皆さん、かなり頓智が利きすぎております。全部は紹介できませんな。 もっとナメた回答も、今回のプレキャンに限っては全然ウエルカムでした。以下の5つは個人的にはツボにハマった。MAXナメきってた、いっそ清々しいほどの名回答(普段だと普通ハズれますわな、これじゃ…)。 「つけ忘れた」 「たまたま」 「ミスプリント」 「わからない」 「どうでもいい」 なにかこう、『47RONIN』という映画のもっている謎なバイブスとシンクロしている気もするので、今回に限りまして、これらも大正解とします。 合計300件ちかいご応募がありまして四十七士に賞品をお送りしますが、300件ってのは凄い!「頓智の利いた回答寄せてくれ」なんてムチャぶりというかハードル高すぎなお題に対して、よくぞまあ300名様もお付き合いくださいました。誰より企画担当者本人が意外の念でいっぱいです。こんだけハードル高い場合、「47件もこないかもしれない。ま、ネタだからいいけど」と、事前には覚悟していたぐらいです。 最後に、今回フザけた回答を求めたのですが、正解にまったく触れないというのも、気になっちゃって眠れない人が出るかもしれないので、正解らしき回答も一応ご紹介しときます。 「『七人の侍』も ”Seven Samurai”なので、47RONINも同じようにsがつかないのかなと思いました。」「ronin, yakuza, policeなどは集合名詞なので複数形もsは付かない。複数形にしたい時は、two members of yakuzaなどとして使う。」 もっともらしいけど、本当なのか?しかし、本当に正解かどうか当局は一切関知しないのでそのつもりで。なおこのテープは自動的に消滅する。と言いたいところですけど別に消滅しないので、かわりにこの決め台詞で〆させていただきましょう。「信じるか信じないかはあなた次第!」 それでは皆様、良いお年を。We wish you a merry 義士祭!■ © 2013 Universal City Studios
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COLUMN/コラム2016.12.11
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年1月】飯森盛良
今度の敵は中国マフィア“蛇頭”。不法移民密入国の斡旋とその後の奴隷労働を仕切ってる。密航船を見つけ沿岸警備隊に引き渡したリッグス&マータフ刑事。だが沿岸警備隊は移民を即Uターン送還し、その費用をアメリカの税金で賄ってるとボヤく。それを聞いたマータフ(演じる黒人俳優ダニー・グローヴァーは活動家としても有名)が激怒!「自由の女神像に刻まれた“来たれ自由を求める貧しき民よ”の看板はどうなる?」沿岸警備隊「今は満室につきお断りだ」マータフ「あんたの祖先だって移民だろ!」…熱いぜ!こういう映画見て育ってんだよオレたちは!と叫びたい、めっきり“寒い時代だとは思わんか”な今日この頃です。 © Warner Bros. Entertainment Inc.
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COLUMN/コラム2016.12.10
新世代アクションスター スティーヴ・オースティンに着目せよ!
長年アクション映画界を牽引してきたシルヴェスター・スタローンとアーノルド・シュワルツェネッガーは、共に70歳前後。2人ともいまだ現役でヒット作を量産し続けているものの、アクション映画界は長らく第二のスタローン、第二のシュワルツェネッガーを生み出すことが出来ず、苦しんできた。しかしここ数年、スタローンの後継としてジェイソン・ステイサムが急成長。良質なアクション映画を送り出し続けている。また第二のシュワルツェネッガーと言うべきザ・ロックことドウェイン・ジョンソンも世界的な大ヒット作品を次々とリリース。両者とも世界的なアクションスターとしての地位を完全に確立している。そしてその2人の牙城を虎視眈々と狙う次世代アクションスターが、本稿の主役ストーン・コールド・スティーヴ・オースティンなのである。 スティーヴ・オースティンは1964年、テキサス州オースティンで産声を上げた。少年時代からアメリカン・フットボールに打ち込み、アメフトの奨学生としてノーステキサス大学に進学するほど将来を嘱望されたアスリートであった。しかし勉学に嫌気がさして突然大学を中退したオースティンは、子供の頃から憧れていたプロレスラーの道を目指す。当時テキサス州ダラスに在住していたイギリス人プロレスラーのクリス・アダムスのプロレス道場に入門したオースティンは、メキメキと頭角を現して1989年に本名のスティーヴ・ウィリアムスとしてプロデビューを飾る。この頃、所属団体のUSWAには同名のスティーヴ・ウィリアムス(殺人医師のニックネームで新日本プロレス、全日本プロレスで活躍)がいたため、地元オースティンにちなみリングネームをスティーヴ・オースティンとし、さらにヒール(悪役)に転向することで次第に人気を博していくことになる(後に改名し、本名もスティーヴ・オースティンとなる)。 1991年にはダスティ・ローデスにスカウトされてWCWに入団。1992年からは新日本プロレスに継続参戦するようになる。しかし1995年に怪我を理由にWCWを解雇されてしまい、インディ団体にスポット参戦。そこでの活躍を認められてWWF(現WWE)との契約を手にしたのだった。WWFでは最凶のタフ野郎、ストーン・コールド・スティーヴ・オースティンとして大ブレイク。1998年にはWWF世界ヘビー級王座を初戴冠するなど、人気・実力ともにWWFの頂点に君臨するスーパースターとなっていく。特にオースティンがWWF経営者ファミリーのマクマホン一家や、スーパースターのザ・ロックと繰り広げる一連の抗争(アティテュード路線)は、WWEとオースティンの人気を不動のものとしていくことになる。この人気絶頂のオースティンは、ドン・ジョンソン主演の警察ドラマ『刑事ナッシュ・ブリッジス』に刑事ジェイク・ケイジ役で出演。後に繋がる俳優としての活動も開始している。 しかしザ・ロックやブロック・レスナーらの若手を推す会社の方針に反発したオースティンは、何度かWWEからの離脱と復帰を繰り返す。そして2005年に復帰した際は、プロレスラーとしてではなく、WWEの映画製作会社のWWEフィルムズ所属の俳優としての契約となったのだった。そのためこれ以降はプロレスラーとしての試合は無くなって大会にゲスト登場となることが多くなり、メインの活動は俳優業へとシフトしていく。ちなみに2007年には、共にヅラ疑惑のあったWWE会長のビンス・マクマホンと不動産王で次期アメリカ大統領のドナルド・トランプが、レッスルマニア23で激突。負けた方が髪を剃るという髪切りデスマッチとなり、その際髪を剃る役をスキンヘッドのオースティンが務めている。この抗争は、大の大人(しかも世界的な大金持ち)が意地とプライドと髪を賭けた戦いを繰り広げるという超絶大馬鹿勝負となり、記録的なペイ・パー・ビュー売り上げを記録することになる(トランプは本件でブルーカラー層への知名度を爆発的に拡大し、それが2016年の大統領選での躍進に繋がったとの分析もある)。また2009年にはWWEの殿堂入りを果たし、その際のスピーチでプロレスラーの引退を宣言。オースティンは本格的に俳優としての活動にシフトしていくことになる。 オースティンの映画俳優としての本格なデビューは、2005年にアダム・サンドラーがリメイクした『ロンゲスト・ヤード』だ。ビル・ゴールドバーグ、ボブ・サップ、ケビン・ナッシュらプロレスラー勢に交じってオースティンも看守役で出演している。そして2007年には、WWEフィルムズがライオンズゲート社と組んで制作した『監獄島』で映画初主演を務めている。2010年にはシルヴェスター・スタローン制作のオールスター映画『エクスペンダブルズ』に、極悪用心棒ペイン役で出演。スタローンをボコボコにし、元UFCヘビー級王者のランディ・クートゥアとガチンコ勝負を繰り広げるなど大活躍を見せた。 そしてこの年には『スティーヴ・オースティン ザ・ストレンジャー』にも出演。記憶を失った元FBI捜査官が、記憶を取り戻すために巨大な陰謀に立ち向かう本作は、オースティンにとっても演技力を試されるサスペンスフルな作品となっている。とはいえ、もちろんクライマックスは「待ってました!」と喝采をあげたくなる大暴れが待っているので安心してほしい。 そして2011年には『スティーヴ・オースティン 復讐者』と『スティーヴ・オースティン ノックアウト』をリリース(オースティン主演のビデオ映画の邦題には必ず“スティーヴ・オースティン”が付くので非常に分かりやすい)。『復讐者』は、敵のバイカー集団のボス役でダニー・トレホが登場。最後はオースティンとトレホがガムテープで片手同士を結び付けて殴り合いという、番長マンガのような展開が素晴らしい作品だ。『ノックアウト』はオースティン版『ベスト・キッド』と言うべき作品で、高校の用務員オースティン(ゴツすぎる)がイジメられっ子にボクシングを教え、州大会でイジメっ子と対決するという映画。オースティンらしい『復讐者』と、らしくない『ノックアウト』は、共にオースティンファンならおさえておくべき作品だろう。その他にも年に数本はオースティン出演作がリリースされており、どれも粒ぞろいの作品なのでザ・シネマで順次放映されることを期待したい。 俳優スティーヴ・オースティンの魅力は、もちろんシュワルツェネッガーのような巨大な肉体を武器に大味な殴り合いなどWWE時代を彷彿とさせるプロレス技を活用したアクションシーン。しかしオースティンの魅力はそれだけでなく、オースティン主演映画ではスタローン映画のように敵に捕まって拷問され、耐えて耐えて最後に大爆発という展開も多い。オースティンが完全無欠のフィジカルモンスターとして描かれるわけではないというギャップが、映画の中で非情に良いスパイスになっているのだ。 つまりオースティンこそは、スタローンとシュワルツェネッガーという二人のアクション映画の重鎮の魅力を併せ持つ、新時代のハイブリットアクションスターと言えるのだ。■ © 2010 BOXER AND THE KID PRODUCTIONS INC. ALL RIGHTS RESERVED
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COLUMN/コラム2016.12.09
テッド
1985年。友達がひとりもいない8歳の少年ジョンは、両親からクリスマスにテディ・ベアをプレゼントされて大喜び。(安直に)テッドと名づけたジョンはある晩、夜空の星にお祈りした。「テッドが言葉を喋れたら楽しいのに」 翌朝、ジョンはビックリした。テッドが「僕をハグして!」と話しながら抱きついてきたのだ。少年の祈りが起こした奇跡は全米に報じられ、取材が殺到して大騒動に! そんなオープニングから始まる『テッド』は、しかしその大騒動を描いた映画ではない。物語は一気に27年後の現代へとジャンプする。今ではテッドは街中で歩いたり話したりしていても誰も驚かない”過去のスター”状態で、マリファナとテレビが何より好きなボンクラ・クマでしかない。 35歳になったジョンもサラリーマンとして地味な毎日を送っていたが、彼の方には誇れるものがあった。美女のロリーと付き合っているのだ。ロリーの方もジョンにはぞっこんなのだが、子どもの頃から一緒のジョンとテッドの間には入り込めない。遂に「私とテッドどっちを取るの?」とジョンに選択を求めてしまう。結果、テッドはジョンと別に部屋を借りてスーパーで働く自立の道を強いられることになるものの、相変わらず二人は仲良しなのだった。 そんなある夜、テッドの興奮した声に誘われたジョンはロリーとの約束をすっぽかして、テッド宅で開かれていたパーティでワイルドな時間を過ごしてしまう。それが原因でロリーに愛想をつかされたジョンはテッドとも仲違い。「お前のせいで俺の人生はメチャクチャだ!」はたして3人は元通りの関係に戻れるのだろうか…。 『テッド』は、30代男とテディ・ベアの友情を描いた、ありえないコメディだ。脚本と監督、そしてテッドの声の三役を担当したのは、セス・マクファーレンという人物で、これがハリウッド・デビュー作となる。とはいえ、彼のキャリアはそれなりに長い。73年にコネチカット州で生まれたマクファーレンは、名門美大「ロード・アイランド・スクール・オブ・デザイン」卒業後に『原始家族フリントストーン』や『チキチキマシーン猛レース』で知られる名門ハンナ・バーべラ・プロダクションに入社。アニメーターとしてキャリアのスタートを切っている。 そんな彼が飛躍を遂げたのは99年のこと。フォックステレビのコメディ番組「MADtv」で手掛けたアニメパートが局の上層部に認められ、自身が製作、監督、脚本、原画、声を務めるアニメシリーズ『ファミリー・ガイ』の放映を開始することになったのだ。これが大ヒットしたため、05年から『American Dad! 』、09年から『The Cleveland Show』もスタート。一時は3本のアニメをフォックステレビで放映する”ミスター・フォックス”として君臨していた(現在も2本が放映中)。 これだけならマイク・ジャッジやトレイ・パーカー&マット・ストーンといった才人たちが他にもいるのだけれど、マクファーレンのユニークなところはレトロ志向を併せ持っていること。彼は、フランク・シナトラをはじめとするジャズ・ヴォーカリストを偏愛しているのだ。その愛がこうじてジャズ・シンガーとしても活動を開始。フルバンドをバックにスウィングの名曲を歌いまくった11年のアルバム『Music Is Better Than Words』はグラミー賞のベスト・トラディショナル・ポップ・ヴォーカル・アルバムにノミネートされた。13年にはクリスマス・ソングを歌った『Holiday For Swing』、15年にも『No One Ever Tells You』も発表している。『テッド』は、テレビアニメとジャズ・ヴォーカルという不思議すぎる二刀流で活躍していたマクファーレンが、満を侍して発表したハリウッド・デビュー作なのだ。 彼は当初この作品をアニメとして構想していたそうだが、実写が可能になるまでCG技術の発展を待とうと考え直したらしい。その判断は正しかった。薄汚れたクマのぬいぐるみが、現実世界で毒舌を吐いたりマリファナ吸ったりセックスしたり(なぜかする!)している姿はそれだけで最高におかしい。ムーヴは完全にオッさんのそれだけど、元々テディ・ベアなので微妙に可愛いらしいという、バランス感も絶妙だ。 ジョンとの友情物語は、ジャド・アパトーが確立させたロマンチック・コメディの物語構造を男同士の友情に当てはめた”ブロマンス映画”からの影響大ではあるけれど、人間とぬいぐるみに当てはめたことで”少年はテディ・ベアと別れて大人の男になれるのか?”という新たな意味合いを物語に与えている。 主人公ジョン役は、アクション・スターのイメージが強いものの、『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』や『デート & ナイト』でコメディもイケることを証明していたマーク・ウォルバーグ(本作以降は『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』『パパVS新しいパパ』など、コメディ作はウォルバーグのキャリアにとって重要な柱となる)。またロリー役には、『ファミリー・ガイ』の声優としてマクファーレンと13年間も仕事をしてきたミラ・クニスが扮している。 ノラ・ジョーンズやライアン・レイノルズといったスターが本人役で登場するシーンも見どころではあるけど、それ以上にあのサム・ジョーンズが本人役で登場してストーリー上重要な役割を果たすことが本作最大のチェック・ポイントだろう。そもそもジョンがロリーとの約束をすっぽかしてテッドのパーティに行ってしまった理由こそ、「いま家でパーティを開いているんだけど、サム・ジョーンズが来ているんだ!」とテッドに言われたからなのだ。 ここで「サム・ジョーンズって誰?」という疑問が浮かんでくるかもしれない。答えは「あの『フラッシュ・ゴードン』の主演俳優」である。『フラッシュ・ゴードン』はもともと新聞に連載されていたスペースオペラ漫画で、あの『スター・ウォーズ』にも影響を与えたとされる古典作だった。80年には『スター・ウォーズ』人気に便乗する形で実写映画化されている。ところが古臭いストーリー(無理もない、原作が書かれたのは第2次大戦前なのだから)とチャチなSFXが災いして興行的に大失敗。主演に抜擢されたサム・ジョーンズはこれっきりで過去の人になり、今ではクイーンが担当したサントラ以外は話題にすらのぼらない黒歴史映画になってしまっている。 なのにジョンは子どもの時に観て以来、『フラッシュ・ゴードン』こそが史上最高の映画と信じて疑わない。だからパーティでサム・ジョーンズに会うと大興奮してしまう。これ以降の展開が笑える。映画のBGMはクイーンのサントラばかりになり、ジョーンズ本人が大暴れするのだ! 三十男のくせにテディ・ベアとツルみ、『フラッシュ・ゴードン』を愛してやまないジョンは確かに滑稽である。だが、もしそれらをもう少し格好良さそうなもの、たとえばアクション・フィギュアや『スター・ウォーズ』に置き換えたらどうだろう? 笑えないという人は多いのではないか? 子ども時代の大好きなものへの依存を未だに止められない人間は、皆ジョンと同類なのである。映画を観た者はそんな真実をマクファーレンからそっと教えられ、爆笑しながらも(心の中の)頬に涙が伝っていることに気がつくのである。 ちなみに映画の舞台は、マクファーレンが大学時代を過ごし、ウォルバーグの故郷でもある街ボストン。水族館やボストン・レッドソックスの本拠地フェンウェイ・パークといった実在の場所でのロケ撮影が、この破天荒なコメディにリアリティを与えている。 © 2012 Universal City Studios
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COLUMN/コラム2016.12.07
日本中が笑顔の魔法にかかった!11/23(祝)公開『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』ジャパンプレミア&スペシャル・ファン・ナイト★レポート
11/21(月)六本木ヒルズアリーナで開催されたジャパンプレミア、そして22(火)スぺシャル・ファン・ナイト、11/23(水・祝)初日舞台挨拶と3日間連続で集まったファンの前に登場。会場は大勢のファンたちの大歓声に包まれました。 今回、この「ジャパンプレミア」と「スペシャル・ファン・ナイト」の取材にザ・シネマ特派員もち米が行って参りました!「行きたかった!」そんな皆様のために、スペシャル動画と写真付レポートで当日の会場の熱気と感動をお届けできたなら幸いです。 集まったファンの掛け声で、会場は美しくブルーにライトアップ!遂に、エディ・レッドメインらキャストたちがレッドカーペットに登場しました。「I love you!」「Eddie!」割れんばかりの大歓声の中、傘を片手に登場したのは本作の主人公ニュート・スキャマンダー役のエディ・レッドメイン。 見てください、この姿。雨の中でも絵になる!まさに水も滴るいい男。気品溢れる佇まいに、穏やかな笑顔。さすが、英国紳士。寒空の下、この瞬間を待ちわびていた大勢のファン1人1人の元へと歩み寄り、丁寧にサインするファン想いな姿に会場のファンはもちろん、シャッターを切っていた筆者も思わずうっとりしてしまいました。 続いて登場したのは、アメリカ魔法省に務めるティナを演じたキャサリン。スクリーンで見るよりも、更にスラリと背が高く、美しい!ドレスの上にコートを羽織って登場されたのですが、生まれてこの方、あんなにロングコートの似合う美女を見たことはありません・・! 凛としたオーラが素敵でした。 最後に登場したのはティナの妹クィニー役のアリソン・スドル。 そして、本作のメインキャラクター4人の中で唯一の「ノーマジ」(いわゆる“マグル”)のジェイコブを演じたダン・フォグラー。 天使のようなニコニコ笑顔のアリソンに、シャッターを切りながら思わず「可愛い!」と叫んでしまった筆者なのでした(笑)。思わず釣られてしまう屈託のない笑顔はずっと見ていたくなるほど超キュート! そして、ユーモアたっぷりにファン達を盛り上げ一緒に写真撮影に臨むのはダン。映画の中からそのまま出てきたような優しいダンの周りには、笑顔が広がっていました○ こうして、会場にさっそく笑顔の“魔法”をかけたキャスト一行が次に向かったのは…メインステージ。そこへニュートさながらトランク片手に登場したのは、本作の宣伝大使を務めるDAIGOさん。 そっとトランクをステージの中央に置くと煙が立ちこみ… トランクの中からエディが再び登場!映画の世界さながらの粋な演出に会場は割れんばかりの大歓声!背後の扉に向けて「アロホモーラ!(開け)」とエディが唱えると次々にキャストが登場!大熱狂のステージの模様はこちらの➡動画でチェックしてみてくださいね✔ ≪11/22(火) スペシャル・ファン・ナイト≫前日のジャパン・プレミアの興奮冷めやらぬままザ・シネマ特派員もち米が次に向かったのは、ファンとキャストたちが交流できるという、夢の「スペシャル・ファン・ナイト」! グリフィンドールやハッフルパフ、「ハリー・ポッター」の寮生に扮する方から、ドビーのお面をかぶった方まで、思い思いの「ハリー・ポッター愛」に溢れたコスチュームで集った色とりどりのファンで会場はいっぱい。大歓声の中、満を持して登場したエディらも、ファンの姿を見るなり大興奮!「こんな熱い応援があるからこそ、次への映画の閃きが生まれます」とデイビット・イェーツ監督からも感謝の言葉が。 キャストたちが、会場のファンからの質問に直接答えるQ&Aコーナーでは、「お子さんにかけたい魔法は?」、「日本のどんな所に魅力を感じましたか?」、「ニュートのトランクに入ったら中で何をしてみたいですか?」など、粋な質問が。そして3人の回答が、これまたとっても素敵なんです☺ なかでもアリソンの回答には日本人として、思わずうるりと来てしまいましたよ・・・詳しくは是非、動画で見てみて下さいね! イベントもいよいよ終盤になると、キャスト自らが賞品を手渡しする夢の様くじ引きタイム!さらに、写真撮影ではキャスト自らがファンたちに駆け寄り、ハグするという感動的なシーンも。見ていて思わず目頭が熱くなりました。なんて暖かな光景!ファンの皆様にとって、きっと一生忘れらない1日になったことでしょう○ こうして、笑いあり!涙あり!の熱い、熱いスペシャル・ファン・ナイトは惜しまれつつ幕を閉じました。ファンの皆さんの真っ直ぐな情熱を間近で見ていて、「ハリー・ポッター」がこの世界にかけた魔法の美しさに改めて感動。同時に、「映画」が大勢の人を結びつけることの素晴らしさも改めて感じる2日間でした! 『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』は、間違いなく今年観るべき1本!新しい魔法の始まりを、ぜひぜひ映画館で目撃してください☺ 座席で仰け反ってしまうほどの迫力の映像はファンタスティックな魔法世界に連れて行ってくれるでしょう!■(特派員 もち米)