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COLUMN/コラム2016.04.09
男たちのシネマ愛⑥愛すべき、クレイグ・ボンド。そして、愛すべき洋画の未来。(3)
なかざわ:「キングスマン」と「コードネームU.N.C.L.E.」ですね。どちらも最高に面白かった。なので、「コードネームU.N.C.L.E.」がアメリカでは客が入らなかったというのは理解できない。 飯森:えっ、そうなんですか!? なかざわ:世界興行収入で製作費はペイできたけれど、アメリカ国内だけに限ると完全に不入りだったそうです。去年の暮れにロサンゼルスで、オリジナル版でイリヤ・クリアキン(注55)役をやっていたデヴィッド・マッカラム(注56)にインタビューしたんですけれど、彼は今回のリメイクについて、テレビで予告編を見るまで知らなかったらしいです。 飯森:えー!そんなこと仁義的にあっていいんですか!? なかざわ:そもそも、リメイクの話はかなり以前からあったそうで、一時期はタランティーノ(注57)がリメイク権を持っていたそうなんですけど、その頃は彼の耳にも話は入っていたそうです。まあ、それでも事前に試写で本編を見せてもらって、彼としては昔のテレビ版とはだいぶ違うけれど、これはこれでガイ・リッチー(注58)監督らしさが出ていて良かったとは言っていました。ただ、アメリカでは客が入らなかったので、当初計画されていた続編の話も、恐らく無理だろうねとは言っていましたね。 飯森:はぁ!? 全然アリでしたよね。是非とも続編をお願いしたい。 なかざわ:一番感動したのは「ガラスの部屋」(注59)の主題歌を使ったシーンですよ。今の日本だと恐らく“ヒロシのテーマ曲”(注60)と言ったほうが分かりやすいと思いますけれど。 飯森:あそこ超面白かった! なかざわ:あの「ヒロシです…」の大仰なくらいに甘いカンツォーネ(注61)のバラードをバックに、ハードなアクションが繰り広げられるというセンスの素晴らしさ。鳥肌もんです。 飯森:ハードなんだけどコミカルなシーンでね、笑いがこらえきれませんでしたよ。 なかざわ:そもそもサントラの選曲が凄い。エンニオ・モリコーネ(注62)にステルヴィオ・チプリアーニ(注63)まで使っている。でもって、「ガラスの部屋」の主題歌でしょ? 飯森:もしかしてあの曲って別の映画の主題歌だったんですか? なかざわ:そうです。レイモンド・ラブロック(注64)っていう、‘70年代初頭の日本でルノー・ヴェルレー(注65)やレナード・ホワイティング(注66)なんかと並んで、ティーン女子から熱狂的に愛されたイタリアのイケメン俳優が主演した恋愛映画で、当然ながら日本では大ヒットしました。ペッピーノ・ガリアルディ(注67)が歌った主題歌も、本編ではちょっとしか使われていないものの、こちらも日本では流行しましたね。 飯森:それは知らなかった!でも、ヒロシのテーマとして再浮上して日本なら全員知ってる状態になっていて良かったですよね。おかげで、あれがあのシーンで流れると日本人は爆笑できますから。 なかざわ:確かに(笑)。でもね、日本では当時映画も主題歌もヒットした。イタリアではどうだったか分からないけれど、現地でDVDソフト化されているので無名映画ではないはず。ただし、ペッピーノ・ガリアルディのベスト盤CDには、残念ながらこの曲は入っていない。ということは、彼の代表作とは認められていない。そういう、アメリカやイギリスなどではほぼ知られていないマニアックな名曲を、モリコーネやチプリアーニのイタリア映画音楽と一緒に使っている。それも堂々とフルコーラスで。その着眼点には脱帽します。 飯森:作品としてはアクション・コメディーですよね。 なかざわ:これは完全に’60年代のユーロ・スパイ・アクション、「007」の本流ではなく、当時イタリアやフランスや西ドイツなどで大量生産された亜流映画の路線を継承した作品だと思います。 飯森:でも、そこから換骨奪胎して、決して見た目までチープなB級パチ映画にはならないよう塩梅されていますね。 なかざわ:特に、僕が大好きなイタリア産スパイ映画のディック・マロイ・シリーズ(注68)を彷彿とさせる要素が強かったのはポイント高いですね。やはりイタリアはファッションやアートの国なので、あのシリーズはその辺を全く手抜きしていなくて、すごくお洒落でスタイリッシュだったんですよ。まあ、そういう意味で言うと、アメリカで作られた「007」亜流映画のマット・ヘルム・シリーズ(注69)とか、イギリスのヒュー・ドラモンド・シリーズ(注70)にも通じるものはあるかもしれない。ファッショナブルなアクション・コメディーという点はマット・ヘルム・シリーズも同様ですしね。僕はそういう「007」の二番煎じ的なスパイ映画が昔から大好きなんです。 雑食系映画ライター なかざわひでゆき 飯森:僕も、そこまでじゃないにしても、やはり’90年代の頃に’60年代のレトロおしゃれ映画が再評価されるブームに直撃されてますから、やはり憧れはあります。電撃フリント・シリーズ(注71)や「イタンブール」(注72)、「唇からナイフ」(注73)なんて当時は随分と持て囃されましたが、まぁ僕もその頃に人並み程度には憧れましたね。第1回で対談した「黄金の眼」なんて、この歳になって初見で見ちゃっても二十歳ごろの興奮が蘇ってきます。オシャレな文物に飢えていた若い頃のあの興奮が。 なかざわ:なので、「コードネームU.N.C.L.E.」は本当に嬉しかったですね。’60年代スパイ映画のビジュアルを忠実に再現しつつ、ちゃんと今現在のテクノロジーやスタイルを用いている。ファッションやインテリアも当時に限りなく近い。 飯森:レトロ趣味がたまらなく良いんだけど、服のサイジングなんかはアップデートしていますよね。それこそ、当時の洋服をそのまま今の俳優に着せたらコスプレ感が漂ってしまいますから。きちんと再構築することで、レトロ感が出過ぎないようバランスが考えられています。僕は「キングスマン」もレトロ趣味は薄めながら、「007」パロディ路線という点では一緒の快作だと思うんですよね。あっちも100点満点なほど大好きなんですが、中でも特に、アメリカの田舎のキリスト教原理主義(注74)教会での長回し大乱闘シーンですよ!あそこは数年に一度あるかないかの痛快さだったなぁ!お説教というかヘイトスピーチを差別用語たっぷり使いながら牧師レイシストがぶっていて、「ユダヤ人も黒人もゲイも中絶した女もみんな地獄に堕ちろ!」などとガナりたてている。当然我々アジア人もってことでしょ?信者どもも興奮して「そうだそうだ、ハレルヤー!」とヤンヤヤンヤやってるところに、ブリティッシュ・スーツとレジメンタル・タイでビシっと決めた英国スパイの文明人コリン・ファースが一人紛れ込んでいて、そんな連中を見て汚トイレのはみ出し下痢便か終電のフレッシュ・ゲロでも見るような顔をしながら、「聞くにたえんな!」という感じでやおら席を立つ。隣の席をどこうとしない狂信者のババアに「私はカソリックで、近頃はユダヤ系黒人の同性の恋人とのセックスを楽しんでいるのだよ。ちなみに彼は中絶医でもあってね。それではマダム、失礼しますよ。グッドアフタヌーン!」とか上品なイギリス英語で最高の捨て台詞を吐いて立ち去ろうとする。ババアが「この悪魔教徒め〜!」と詰め寄ってからは、コリン・ファースが狂信者どもをバッタバッタと殺して殺して殺しまくる!まぁ、見ていて大爆笑かつ胸のすく痛快さでね、「おっしゃ〜!こいつらみんなブチ殺せ!!」って溜飲下がりまくり! なかざわ:すごくシニカルなコメディーとして楽しめますよね。 飯森:ほとんどブラックですよ。下衆なユーモア・センスはさすがマシュー・ヴォーン監督(注75)だなと思いました。 なかざわ:やはり基本は「キック・アス」シリーズ(注76)と同じですよね。 飯森:この2作品が相次いで同時期に登場した理由は、もはやかつての「007」のような正統派スパイ映画はパロディーの対象になるような時代だということだと思うんです。そのような状況下で、本家本元としてはどうすべきなのか。その問に対する100点満点の真摯な解答が「スカイフォール」なんだろうと思います。そして、「キングスマン」や「コードネームU.N.C.L.E.」に続いて公開された「スペクター」が、今度はそれらと同じことに本気で取り組んでいる。つまり、パロディーではなく真面目に荒唐無稽をやっている。その辺が興味深いと思いますね。 なかざわ:でも振り返ってみると、「ドクター・ノオ」(注77)に始まる初期「007」が作り出した’60年代スパイ映画ブームの最中に、アメリカでも先ほど述べたマット・ヘルム・シリーズや電撃フリント・シリーズのような柳の下のドジョウが続々と作られたわけですが、それらの作品も結局は「007」のパロディーなんですよね。要は、「007」の荒唐無稽な部分を思い切りデフォルメしてカリカチュアして、徹底的にエンターテインメント方向に振り切っている。そう考えると、「007」以外で「007」のようなことをやろうとすると、パロディーにするしかないのかもしれません。パロディー的な要素を排して大真面目にスパイを描こうとすると、それこそジョン・ル・カレ(注78)みたいにならざるを得ない。なので、「007」シリーズというのは、なかなか真似のできない唯一無二の存在と言えるかもしれません。 飯森:いずれにしても、こうしたスパイ映画が立て続けに量産される時代というのは、’60年代以降久しくなかったように思います。まだまだ今後も出てきそうですし、楽しみですよね。 なかざわ:スパイ映画ファンとしては素直に嬉しいです。 注55:オリジナルのテレビ版「0011 ナポレオン・ソロ」および映画「コードネームU.N.C.L.E.」に出てくるソ連スパイ。注56:1933年生まれ。イギリスの俳優。映画「大脱走」(’63)などで注目され、ドラマ「0011 ナポレオン・ソロ」(‘64~’68)で大ブレイク。毎週大型トラック1台分のファンレターが届いたと言われる。現在は人気ドラマ「NCIS~ネイビー犯罪捜査班」(‘03~)に出演中。注57:クエンティン・タランティーノ。1963年生まれ。アメリカの映画監督。注58:1968年生まれ。イギリスの映画監督。「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(’98)や「スナッチ」(’00)で注目され、「シャーロック・ホームズ」(’09)シリーズを大ヒットさせた。マドンナの元夫としても知られる。注59:1969年制作。イタリア映画。孤独な美青年と大学生カップルの三角関係を描く。セルジオ・カポーニャ監督。注60:お笑い芸人ヒロシが自身のネタのBGMに使用して有名になった。注61:イタリアの流行歌の呼称注62:1928年生まれ。イタリアの映画音楽作曲家。「荒野の用心棒」(’64)を皮切りにマカロニ・ウエスタンの音楽で有名になり、ハリウッドをはじめ世界各国の映画に音楽スコアを提供。’07年にアカデミー名誉賞を、「ヘイトフル・エイト」(’16)でアカデミー作曲賞を獲得。注63:1937年生まれ。イタリアの映画音楽作曲家。マカロニ・ウエスタンからホラー、アクション、ラブロマンスまで幅広いジャンルの映画を手がけ、’60~’70年代に引っ張りだこだった。代表作「ベニスの愛」(’70)は日本を含む世界中のアーティストにカバーされている。注64:1950年生まれ。イタリアの俳優。主演作「ガラスの部屋」が日本で大ヒットし、アイドル俳優として熱狂的なファンを獲得した。父親がイギリスであるため英語にも堪能で、「屋根の上のバイオリン弾き」(’71)にも出演。注65:1945年生まれ。フランスの俳優。「個人教授」(’68)で年上の女性と恋に落ちる美少年を演じ、特に日本で大ブレイク。「愛ふたたび」(’71)などの日本映画にも主演した。注66:1950年生まれ。イギリスの俳優。「ロミオとジュリエット」(’68)のロミオ役で注目され、中でも日本では若い女性から圧倒的な支持を得た。注67:1940年生まれ。イタリアの歌手。’60年代からイタリア国内で数多くのヒット曲をリリース。日本では「ガラスの部屋」がオリコン・チャートで上位に入るヒットとなった。注68:コードネーム077のCIAスパイ、ディック・マロイ(リチャード・ハリソン)を主人公にしたイタリア産スパイ映画シリーズ。「077/地獄のカクテル」(’65)、「077/連続危機」(’65)、「077/地獄の挑戦状」(’66)の3本が作られている。注69:表向きは女たらしのファッション・フォトグラファーの凄腕スパイ、マット・ヘルム(ディーン・マーティン)の活躍を描く。「サイレンサー/沈黙部隊」(’66)、「サイレンサー第2弾/殺人部隊」(’66)など通算4本が作られた。注70:ダンディな保険調査員ヒュー・ドラモンド(リチャード・ジョンソン)が国際的犯罪者の陰謀を阻止する。「キッスは殺しのサイン」(’66)と「電撃!スパイ作戦」(’69)の2本が作られた。注71:女好きの遊び人スパイ、デレク・フリント(ジェームズ・コバーン)が国際犯罪組織を相手に戦う。「電撃フリントGO!GO作戦」(’66)と「電撃フリント・アタック作戦」(’67)の2本が作られた。注72:1966年制作。アメリカ映画。シルヴァ・コシナ、ホルスト・ブッフホルツ主演。トルコのチンピラがCIA美人エージェントとコンビを凸凹組んで行方不明の原子物理学者の行方を探す。アントニオ・イサシ監督。注73:1966年制作。イギリス映画。ミケランジェロ・アントニオーニのミューズであったモニカ・ヴィッティが、アントニオーニ映画とは正反対のお軽い「007」二番煎じスパイ映画で、謎の淑女スパイ、モデスティ・ブレイズ役をお洒落かつキュートに好演。ジョセフ・ロージー監督。注74:聖書に記されている内容を真実として絶対視し、進化論や中絶などを一切認めないキリスト教徒のこと。注75:1971年生まれ。イギリスの映画監督。「キック・アス」(’10)の大成功で脚光を浴び、「X-MEN: ファースト・ジェネレーション」(’11)などをヒットさせている。注76:ひ弱なオタク少年が覆面スーパーヒーローとして活躍する。「キック・アス」と「キック・アス/ジャスティス・フォーエバー」(’13)の2本が作られている。注77:1962年制作。イギリス・アメリカ映画。「007」シリーズの記念すべき1作目。テレンス・ヤング監督。注78:1931年生まれ。イギリスの作家。スパイ小説の大家として知られ、「寒い国から帰ってきたスパイ」、「ロシア・ハウス」、「ナイロビの蜂」などの代表作はいずれも映画化されている。 次ページ >> エンターテインメントだからといって、必ずしもジェイソン・ステイサムである必要はない(飯森) 『007/カジノ・ロワイヤル(2006)』CASINO ROYALE (2006) © 2006 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/慰めの報酬』QUANTUM OF SOLACE © 2008 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/スカイフォール 』Skyfall © 2012 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc. Skyfall, 007 Gun Logo andrelated James Bond Trademarks © 1962-2013 Danjaq, LLC and United Artists Corporation. Skyfall, 007 and related James Bond Trademarks are trademarks of Danjaq, LLC. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2016.04.07
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2016年4月】うず潮
ロバート・ロドリゲス監督の『エル・マリアッチ』『デスペラード』に続くマリアッチ三部作完結編!『デスペラード』に続き主演は アントニオ・バンデラスが務め(第1作『エル・マリアッチ』の主演はカルロス・ガラルドー。本作では製作を担当)、バンデラスを操ろうとする悪徳CIA捜査官にジョニー・デップ、敵役のボスにウィレム・デフォー、その用心棒にミッキー・ローク、さらに ダニー・トレホと個性派俳優が大集結!面々ともに劇中で持ち味出しまくりです! あらすじは、→バンデラス、恋人を殺され引きこもりに…→デップ、麻薬王のデフォーが計画するクーデターを指揮する将軍の殺害をバンデラスに依頼→この将軍、バンデラスの恋人を殺した張本人!バンデラス、復讐に燃え仲間を集める→デップ、デフォーが将軍に支払う大金を横取りしようと画策するが… ロバート・ロドリゲス監督のアクション演出センスが光るガンファイトも、もちろん必見ですが、ジョニー・デップが劇中に着ているナイスなTシャツにもご注目。マジ笑えます!是非ご覧頂きたい1本です! © 2003 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2016.04.06
男たちのシネマ愛⑥愛すべき、クレイグ・ボンド。そして、愛すべき洋画の未来。(2)
飯森:ティモシー・ダルトン(注26)以降は新作が出るたんびにリアルタイムで追いかけてもきましたが、実は僕がちゃんと積極的に「007」シリーズを見るようになったのは、恥ずかしながらだいぶ遅れて’90年代の半ばなんです。確か’94年だったと思うんですが、「STUDIO VOICE」(注27)という雑誌で’60年代のお洒落でキュートな女の子を回顧する特集が組まれまして、その中の見開きページで往年のボンドガールたちが紹介されていたんです。ショーン・コネリー時代の。要は、昔のボンドガール(注28)はレトロなキューティーの見本であると。そこで初めて「007」シリーズに積極的・肯定的に興味を持ったんです。アクションとしてではなくボンドガールのダサ可愛さが入口だったわけです。なので、邪道ですよね。王道のファンからは怒られてしまうかもしれません。 なかざわ:いや、それは全然アリですよ。僕だって「007」シリーズを好きな理由ってボンドガールですから(笑)。そして、ダニエル・クレイグ版「007」シリーズで一番物足りなさを感じるのもボンドガールなんです。「慰めの報酬」のオルガ・キュリレンコ(注29)とか大好きですけれど、全体的に見渡すと地味じゃないですか。特に「スペクター」のレア・セドゥ(注30)は見終わっても顔が思い出せないくらいでしたし。かえって出番が10分そこらのモニカ・ベルッチ(注31)の方が目立っていた。 飯森:その発言はレア・セドゥ崇拝者の僕としては聞き捨てなりませんねえ(笑)。まぁ、女の趣味論争ほど勝者なき不毛な議論もないからやめとくとして、いや、確かに仰ることは分かりますよ。エヴァ・グリーン(注32)がボンドの運命の人だと言われてもピンと来ない。そんなに深く心が結びついてるように描かれてたっけ?ずいぶんと唐突ですな!と。オルガ・キュリレンコだってあまりボンドと絡まないでしょ?っていうか絡み、つまりセックスが一回も無い。ボンド映画が清く正しい男女交際って、なんだそれ?と。お前はランボーと違ってヤリチンが売りだろ、とかね。この2人は女優として普段は大好物なだけに、もうちょっと扱いを印象的にしてあげてほしかったですよね。ただ、「スカイフォール」はボンドガールがジュディ・デンチ(注33)でしょ?あれにはやられました!これはもう反則としか言いようがない!女の趣味論争に決して発展しようがない。誰しも認めざるをえない。こんな裏技的なボンドガールの解釈があっていいものかと。歴代最高(齢)のボンドガールですよ(笑)。 なかざわ:ロッテ・レーニャ(注34)という人もいましたが(笑)、ジュディ・デンチはなんたってM(注35)ですからね。 飯森:そういう面でも「スカイフォール」は凄い!まあ、賛否両論あるみたいですけれどね。あんなの「007」じゃないという声もありますし。かえって「スペクター」が最高だという意見もあります。でも、やっぱり僕にとっては「スカイフォール」なんですよ。まさかボンドガールで泣かされるとは思いませんでしたし。まあ、途中で殺されちゃう方の、普通に若いきれいどころのボンドガールは全然目立ってなくて気の毒でしたけどね。ああいうポジションの人ってよくいますよね。出てきてすぐに金粉塗ったくられて殺されちゃうとか(笑)。 なかざわ:「007/ゴールドフィンガー」(注36)のシャーリー・イートン(注37)ですね。ボンドガールにもメインとサブがいますから。だいたいサブは殺されるか悪役か。悪役ボンドガールといえば、キャロライン・マンロー(注38)とかファムケ・ヤンセン(注39)とか大好きです。 飯森:どちらも人を殺してると感じて濡れてくるという。漫画チックですよね。 なかざわ:それはそうですね。その究極が、番外編だけれど「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」(注40)のバーバラ・カレラ(注41)。あれは最高だった! 飯森:シンドバッドみたいな衣装で出てきて。 なかざわ:しかも最後は爆死ですから(笑)。 飯森:そういう意味では、地に足のついているダニエル・クレイグ版ボンドガールというのは、確かに地味といえば地味ですよね。リアルな女性の延長線上にいるキャラクターですから。 なかざわ:まあ、それがダニエル・クレイグ版「007」シリーズのカラーですよね。 飯森:この、地に足がいている、というのは一事が万事に言えることで、悪の組織がお洒落なラウンジ系インテリアの秘密基地にいて派手な揃いのユニフォーム着てたりとか、Q(注42)の秘密兵器めかしたものも出てこないじゃないですか。 なかざわ:確かに発明品は出てくるけれど、みんなが連想する「007」シリーズのガジェットではない。現実的なんですよね。 飯森:そうなんですよ。僕はロジャー・ムーア時代なんかの荒唐無稽な秘密兵器に萎えを感じていたので、こういう姿勢もとても心地よかったです。 なかざわ:なるほど。逆に僕は荒唐無稽な秘密兵器が大好きなんですけれどね(笑)。 飯森:あとはスーツですよ。「007」というと新作が公開されるたびに男性ファッション誌で特集が組まれますよね。何十万円もする高級スーツ着た公務員スパイなんて現実にはいないだろと思いますが、ボンドのスーツスタイルはメンズファッション的に昔からサラリーマンのお手本だった。でも、例えばピアース・ブロスナン(注43)のクラシコイタリア(注44)のコンサバすぎるスーツなんて、ギャグすれすれじゃないですか。それこそ「キングスマン」ですよ。あっちはサヴィル・ロウ(注45)の方でしたが。どっちにしても今の時代だとコスプレ感が出ちゃう。その点、トム・フォード(注46)のモード系スーツをスタイリッシュに着こなすダニエル・クレイグは、まさしく今のスパイ。そういう点でも新しかったと思いますね。 なかざわ:それまでのボンド・ファッションは前時代的過ぎるというか、一種のファンタジーですね。 飯森:そういうところも僕はクレイグ・ボンドが大好きで、中でも「スカイフォール」は最高だと思っています。「カジノ・ロワイヤル」も「慰めの報酬」も、言ってみれば「スカイフォール」でイクための前戯です。この作品で真の「007」になるわけじゃないですか。「カジノ・ロワイヤル」では当初「007」ですらなかったですから。 なかざわ:ここで一旦、シリーズがリセットされていますからね。 飯森:なのでファッション的にも最初はアロハ着たド汚いチンピラみたいな姿で出てくるんですよね。ガンバレル・シークェンス(注47)でのスーツ姿は、タイトなトム・フォードのシルエットとは真逆の、オーバーサイズで見苦しいダボダボ・ヨレヨレ汚スーツ姿。しかも場所が薄汚い便所なんですよ、ションベンが足元に跳ねてるような。もう、見るからに三下の鉄砲玉なんです。「カジノ・ロワイヤル」のラストでようやくスーツの似合う男にはなれた。でも、このラストシーンではピアース・ブロスナンと同じブランド、イタリアのブリオーニ(注48)の物を着てるんですよね。スリーピースのまぁ大時代な代物を。だから今見ると若干クレイグ・ボンドらしからぬ違和感がある。タイトなトム・フォード スタイルになるのは次の「慰めの報酬」からで、そこからさらに紆余曲折を経て、「スカイフォール」のラストで真の「007」の新たな始まりが描かれるわけです。それまでは過去のお馴染みのストーリーを脱構築するような試みがなされていましたけれど、そのプロセスが完全にここで完了して、いつもの「007」が始まりますよ、というのが「スカイフォール」のエピローグでした。なので、「スペクター」は驚くぐらい昔の「007」っぽくなっていましたよね。 なかざわ:まあ、確かにそうかもしれません。 飯森:なかざわさんが仰るように、決して明るくはない。でも秘密兵器はバンバン出てきますし。 なかざわ:列車での格闘シーンなどはまさに「ロシアより愛をこめて」(注49)へのオマージュでしたね。 飯森:そしてついにスペクターを出してきましたからね。とんでもない悪事を働いて金儲けをする多国籍企業という荒唐無稽な敵の登場です。悪の組織のユニフォームもオシャレ秘密基地もちゃんと出てくる。それまでのリアリズムから一気に突き抜けました。でも、これが本来の「007」シリーズの持ち味であって、それまでの3本が例外的なポジションにあった。そう考えると、僕の好きなクレイグ・ボンドというのが特別な存在だったんだなと思います。そして、「スペクター」では元の路線へ戻ろうとしているわけですね。 なかざわ:そこが僕にはちょっと中途半端に思えたのかもしれません。冒頭のメキシコでのアクションは文句なしに素晴らしかったですけれど。 飯森:でもファッションも今回は特に良かったと思いますよ。砂漠で車を待っているシーンのダニエル・クレイグとレア・セドゥの服装がまた実にオーセンティックなリゾート・スタイルでカッコいいのなんの! ボンドの着ているベージュのコットン・サマー・スーツといい、レア・セドゥの白いバギー・パンツといい。 なかざわ:レトロなスタイリッシュさですね。 飯森:「カサブランカ」(注50)みたい。でも、ちゃんと2015年仕様にアップデートされている。今回あのハイウエストのバギー・パンツはいてる時のレア・セドゥのケツときたら、おおおー!という。それまでのダニエル・クレイグ版ボンドガールって、みんな華奢で線が細かったじゃないですか、ジュディ・デンチは別として(笑)。エヴァ・グリーンもオルガ・キュリレンコもよく脱いでる女優さんだから、実は美巨乳だって知ってますけど、少なくとも服を着た状態の印象としてはスレンダー。そこへくると「スペクター」はレア・セドゥもモニカ・ベルッチも豊満でグラマラス。これぞまさにオレ好み!もともとボンドガールってそういうもんじゃないですか。ウルスラ・アンドレス(注51)も、オナー・ブラックマン(注52)も、クロディーヌ・オージェ(注53)も、そして我らが浜美枝(注54)も。グラビアアイドル的な肉体の持ち主が多いですよね。男性客を意識するわけですから、女性に受けるような細身の人よりは、男好きのする肉感的な体つきの人の方がボンドガールには相応しい。今回の2人はまさにドンピシャですよ! なかざわ:モニカ・ベルッチなんてエロの塊ですもんね。フェロモンがダダ漏れというか。まさにエロスの化身。 飯森:僕は熟女趣味は無いんで「マレーナ」の頃ならともかく今だとやっぱりレア・セドゥなんだよな。それまでの映画でもバンバン脱いでいるし、かなり際どいヌード写真まで平気で撮らせている人で、名門の超お嬢様だからか我々平民に施しを惜しまないところが最大級の感謝と尊敬に値する。まぁモニカ・ベルッチも出し惜しみなんてしたためしがない人ですが(笑)。そんなわけで、ダニエル・クレイグ版「007」シリーズは超最高!というのが結論です。さあ、これでノルマは達成したぞ!で、せっかくなので、あちらの話もしましょうか? 注26:1946年生まれ。イギリスの俳優。1987年の『007/リビング・デイライツ』と1989年の『007/消されたライセンス』で4代目ジェームズ・ボンドを務めた。注27:日本の高級カルチャー雑誌。1976年に創刊され、ハイセンスな誌面作りと知的な特集記事で人気を集めたが、2009年に休刊。2015年に復活している。注28:「007」シリーズに登場するヒロインたちの呼称。注29:1979年生まれ。ウクライナ出身の女優。「007/慰めの報酬」(’08)でブレイクし、以降も「オブリビオン」(’12)や「スパイ・レジェンド」(’14)などで活躍。注30:1985年生まれ。フランスの女優。ハリウッド進出作「イングロリアス・バスターズ」(’09)で脚光を浴び、「アデル、ブルーは熱い色」(’13)の演技で高い評価を得た。注31:1964年生まれ、イタリアの女優。世界的なトップ・モデルから女優へ転身。「ドーベルマン」(’97)や「マレーナ」(’00)で絶賛され、「マトリックス・リローデッド」(’03)などハリウッド映画への出演も多い。注32:1980年生まれ。フランスの女優。母親は往年の名女優マルレーヌ・ジョベール。「キングダム・オブ・ヘブン」(’05)で注目される。そのほか、「ダーク・シャドウ」(’12)や「シン・シティ 復讐の女神」(’14)などに出演。注33:1934年生まれ。イギリスの女優。若い頃は主に舞台の大物女優として活躍。’80年代から映画にも本格進出し、「Queen Victoria 至上の恋」(’97)で初めてアカデミー主演女優賞にノミネート。「恋におちたシェイクスピア」(’99)で同助演女優賞を獲得し、以降もたびたびオスカー候補となっている。注34:1898年生まれ、オーストリア出身の歌手。若かりし頃、第一次大戦後のナチス独裁前まで、ドイツが民主的で華やかだったワイマール時代に活躍し、“名花”と呼ばれた。65歳の時「007/ロシアより愛をこめて」(’63)に悪役として出演。注35:ジェームズ・ボンドの上司でMI6の局長。もともとは男性の設定だったが、「007/ゴールデンアイ」(’95)以降、7作に渡って女優ジュディ・デンチが演じた。注36:1964年制作。イギリス・アメリカ映画。大富豪ゴールドフィンガーの陰謀にジェームズ・ボンドが立ち向かう。ショーン・コネリー主演、ガイ・ハミルトン監督。注37:1936年生まれ。イギリスの女優。「007/ゴールドフィンガー」で脚光を浴び、以降は「姿なき殺人者」(’65)や「女奴隷の復讐」(’68)などB級映画で活躍。注38:1950年生まれ。イギリスの女優。「ドラキュラ’72」(’72)や「地底王国」(’76)などB級娯楽映画のセクシー女優として熱狂的なファンを獲得し、「007/私を愛したスパイ」(’77)の悪役ボンドガールを務めた。以降も「スタークラッシュ」(’78)や「マニアック」(’80)などのカルト映画で人気に。注39:1964年生まれ。オランダ出身の女優。アメリカへ留学して女優に。「007/ゴールデンアイ」の悪役ボンドガールでブレイクし、「X-メン」(’00)シリーズや「96時間」(’08)シリーズなどで活躍している。注40:1983年制作。アメリカ映画。初代ボンド俳優ショーン・コネリーを主演に、本家「007」シリーズとは別の制作会社が作った番外編的な「007」映画。アーヴィン・カーシュナー監督。注41:1951年生まれ。アメリカの女優。「ドクター・モローの島」(’77)の豹女役で注目され、「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」の悪女ファティマ役でゴールデン・グローブ賞候補に。エキゾチックな顔立ちのセクシー女優として根強い人気を持つ。注42:MI6内でスパイ用秘密兵器の開発を指揮している“発明オジサン”。数々の珍発明を生み、長年デスモンド・リュウェリンが演じてきたが、「スカイフォール」でベン・ウィショーが起用され、ダニエル・クレイグとの絡みが一部の熱心な女性ファンたちを喜ばせた。注43:1953年生まれ。アイルランドの俳優。「007/ゴールデンアイ」(’95)で5代目ジェームズ・ボンドに起用され、「007/ダイ・アナザー・デイ」(’02)まで4作品にわたって務めた。注44:クラッシックなイタリアン・スーツ・スタイルのこと。英国のトラディショナルなスタイルにイタリアならではの軽さと華やかさが加わる。注45:ロンドン中心部にある有名なファッション・ストリート。英国トラディショナル・スタイルの高級仕立服店が数多く並び、日本の「背広」の語源だという説もある。注46:1961年生まれ。イギリスのファッション・デザイナー。ビヨンセやウィル・スミス、ヒュー・ジャックマン、ジェニファー・ロペスなどハリウッド・セレブにもファンが多い。映画監督としても知られる。注47:「007」 シリーズの冒頭に必ず出てくる、銃口からタキシード姿のボンドを覗き、狙いを定めたところで逆にボンドに撃たれ、銃口からの視点が血に染まりヨロヨロと揺れながら倒れていく、という表現のシーン。注48:1945年にローマで創業したクリシコ・イタリアの代表的ブランド。仕立てより“世界最高の既製服”としての名声が高い。注49:1963年制作。イギリス・アメリカ映画。ジェームズ・ボンドが秘密組織スペクターに命を狙われる。ショーン・コネリー主演、テレンス・ヤング監督。注50:1942年制作。アメリカ映画。モロッコのカサブランカを舞台に、運命に翻弄される男女の切ない愛を描く。古典的なお洒落映画としても有名。ハンフリー・ボガード主演、マイケル・カーティス監督。注51:1936年生まれ。スイス出身の女優。「007/ドクター・ノオ」(’62)で初代ボンドガールに起用され、そのグラマラスな肉体で大ブレイク。「炎の女」(’65)や「カトマンズの男」(’65)、「レッド・サン」(’71)など、世界各国の映画で活躍した。注52:1925年生まれ。イギリスの女優。テレビドラマ「おしゃれ(秘)探偵」(‘62~’64)の黒いレザースーツに身を包んだ女探偵キャシー役で人気を博し、「007/ゴールドフィンガー」のボンドガールとしてブレイク。近年も「ブリジット・ジョーンズの日記」(’01)や「ロンドンゾンビ紀行」(’12)などで元気な姿を見せている。注53:1942年生まれ。フランスの女優。「007/サンダーボール作戦」(’65)のボンドガールで世界的な注目を集め、以降も「トリプルクロス」(’66)や「エスカレーション」(’68)、「フリック・ストーリー」(’75)などヨーロッパの人気女優として活躍。注54:1943年生まれ。日本の女優。東宝映画の活発な若手女優としてクレイジー・キャッツなどの映画でヒロイン役を務め、「007は二度死ぬ」(’07)のボンドガールに起用された。テレビの司会者としても人気に。 次ページ >> 僕は「007」の二番煎じ的なスパイ映画が昔から大好きなんです。(なかざわ) 『007/カジノ・ロワイヤル(2006)』CASINO ROYALE (2006) © 2006 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/慰めの報酬』QUANTUM OF SOLACE © 2008 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/スカイフォール 』Skyfall © 2012 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc. Skyfall, 007 Gun Logo andrelated James Bond Trademarks © 1962-2013 Danjaq, LLC and United Artists Corporation. Skyfall, 007 and related James Bond Trademarks are trademarks of Danjaq, LLC. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2016.04.04
【DVD受注生産のみ】日本が格差社会となってしまった今ふたたび輝きを放つ、60年代のみずみずしい社会派ヒューマン・ドラマ〜『愛すれど心さびしく』〜
『愛すれど心さびしく』の方が響きも美しくスッキリとしているし、なによりもストーリーの核心を的確に捉えている。当時の配給会社担当者の優れたセンスが光るネーミングだ。 主人公は物静かな聾唖者の青年ジョン(アラン・アーキン)。彼は同じく聾唖者で知的障害を持つ親友スピロス(チャック・マッキャン)の後見人だが、たびたびトラブルを起こすことからスピロスは施設へ送られてしまう。唯一の親友と離れ離れになってしまったジョン。その孤独を察した担当医師の配慮によって、彼は施設からほど近い小さな町へ引っ越すこととなる。 古き良きアメリカの面影を今に残す、のどかで平和な田舎町ジェファーソン。だが、そこには人知れず悲しみや苦しみを抱える人々が暮らしている。ジョンが下宿することになったケリー一家は、父親が腰を痛めて働くことができなくなったため、家計の足しにと自宅の使わない部屋を貸出していた。高校生の長女ミック(ソンドラ・ロック)は音楽家を夢見ているが、家には楽器はおろかレコード・プレイヤーすら買う余裕もない。それでも頑張って勉強して、いつかは自分の夢を叶えたい。将来への希望を胸に抱く多感な年頃の少女。しかし、そんな彼女に貧困という残酷な現実が重くのしかかる。 ダイナーで夕食を取っていたジョンが知り合ったのは、酔って客に絡んでいる風来坊の男ブラント(ステイシー・キーチ)。元軍人である彼は除隊後に幾つもの職を転々とするも、どれも上手くいかずに自暴自棄となっていた。誰かに自分の話を聞いてもらいたい。ただそれだけなのに、人々は迷惑そうな顔をするだけで相手にもしない。 ダイナーを追い出されて怪我をしたブラント。それを見たジョンは、たまたま通りがかった黒人の医師コープランド(パーシー・ロドリゲス)に助けを求める。白人の治療はしないと頑なに突っぱねる彼を、ジョンはなんとか説得して応急処置を施してもらう。荒廃した黒人居住地区で小さな医院を営むコープランドは、貧困と差別に苦しむ同胞たちを献身的に支える一方、白人へ対しては静かに憎悪の目を向けていた。そんなある日、娘ポーシャ(シシリー・タイソン)の恋人が白人の若者グループに因縁をつけられ、相手を怪我させてしまう。逮捕された恋人を救うため父親に助けを求めるポーシャ。しかし、コープランドはそれを断る。黒人が白人と争えばどうなるのか、彼は痛いほどよく分かっていたからだ。しかし、それを理解できない娘は父親を激しく憎む。 貧困や人種差別など様々な社会問題を背景としながら、それらの障害によって人々の対立や誤解が生まれ、お互いの溝が深まっていく。今から50年近く前の1968年に作られた映画だが、その光景があまりにも現代の世相と似通っていることに少なからず驚かされるだろう。貧しさゆえ高校を中退せざるを得なくなったミック。もっと勉強したい、自分の可能性を試したい。そう涙ながらに訴える娘に、心を鬼にした母親が疲れきったように言う。“若い頃は誰だって夢を見るもの。でも、いずれは忘れてしまう”と。夢を見ることすら許されない貧困の現実。そのやるせない痛みは、今の観客の胸にも鋭く突き刺さるはずだ。 社会の理不尽に心を打ち砕かれ、言いようのない悲しみを抱えた人々。そんな彼らに、主人公ジョンは深い理解を示し、癒しと救いを与えていくことになる。貧しさにゆえに崩壊しかけたケリー一家、社会に馴染むことのできない不器用なブラント、人種差別が心の壁を作ってしまったコープランド親子。言葉を喋ることのできないジョンは、だからこそ彼らの悩みや問題の根幹を鋭い観察眼で見抜き、そっと優しく背中を押していく。人は誰もが孤独な存在。でも、お互いに心を開けば分かり合える。そう気づかせていく。なぜなら、そんな彼も本当は孤独だからだ。 ここからはネタバレになってしまうため、詳しくは述べない。ジョンを待ち受ける運命は哀しくもほろ苦いが、しかし同時にささやかな希望の余韻も残す。彼が人々に示してくれた優しさと思いやり。それは、2016年の今の我々にも必要なものだと言えよう。 そして、本作はその繊細かつ瑞々しい演出のタッチ、夏から秋へかけての季節の移り変わりを叙情的に捉えた美しい映像にも特筆すべきものがある。 監督はロバート・エリス・ミラー。’50年代から『うちのママは世界一』や『ルート66』などのテレビドラマを手がけてきた彼は、ジェーン・フォンダ主演のラブコメディ『水曜ならいいわ』(’66年)で劇場用映画デビュー。キアヌ・リーヴス主演の『スウィート・ノベンバー』(’01)としてリメイクされた『今宵限りの恋』(’68)を経て、本作のゴールデン・グローブ賞作品賞ノミネートで一躍評価されるようになった。 その後、ジェームズ・コバーン主演のコメディ『新ハスラー』(’80)やブルック・シールズ主演のアメコミ活劇『ブレンダ・スター』(’89)など、わりと多岐に渡るジャンルを手がけた人だが、やはり本作のような繊細で美しいドラマに本領を発揮する人だと言えよう。 その証拠とも言うべきが、この次に撮った『きんぽうげ』(’70)。こちらは兄妹のように育ったいとこ同士の男女を主人公に、それぞれが理想の恋人を見つけて4人で共同生活を始めるというお話。フリーセックスの花開く時代を物語るかのように、のびのびとした奔放な恋愛関係を繰り広げていく彼らだが、しかしそんな自由はいつまでも続かない。 嫉妬や束縛。ナイーブな若者たちが目覚めていく人間のどうしようもない性(さが)。楽しい共同生活はやがて終わりを迎え、彼らは人生のままならなさを通じて大人へと成長していく。このほろ苦さ。実はお互いに愛し合っていたのに…という、ある種の近親相姦を匂わせるいとこ同士の複雑な関係は若干余計に感じるが、しかしイギリスやスペイン、イタリア、スウェーデンなどヨーロッパ各国を舞台に、四季折々の美しい街や自然の風景を織り交ぜながら描かれる繊細なドラマは、さすがロバート・エリス・ミラーだと唸らされる。それだけに、後に『ブレンダ・スター』のような凡作を立て続けに撮ってキャリアを終わらせてしまったことが惜しまれる。 最後に素晴らしいキャストについても言及せねばなるまい。主人公ジョンを演じているのはアラン・アーキン。映画デビュー作『アメリカ上陸作戦』(’66)でいきなりアカデミー主演男優賞候補になった彼は、本作でも同賞にノミネート。近年は脇役として変わり者の爺さんなんかを演じており、『リトル・ミス・サンシャイン』(’06)でアカデミー助演男優賞を獲得したことも記憶に新しいだろう。どちらかというとアクの強い個性的な役者だが、本作では穏やかな心優しい青年を素朴な味わいで演じて観客の胸を揺さぶる。 一方、そんな彼と心を通わせる少女ミックを演じるソンドラ・ロックもまた魅力的だ。後に『ガントレット』(’77)や『ダーティファイター』(’78)などでヒロインを演じ、クリント・イーストウッドの公私に渡るパートナーとして活躍。別れる際にひと悶着したことでも話題となったが、そんな彼女も本作ではまだデビューしたての美少女。思春期特有の危うさや脆さを全身で体現しており、なんとも眩いばかりに初々しい。こちらもアカデミー賞の助演女優賞にノミネート。間違いなく彼女の代表作と呼んでいいだろう。■ TM & © Warner Bros. Entertainment Inc.
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COLUMN/コラム2016.04.02
男たちのシネマ愛⑥愛すべき、クレイグ・ボンド。そして、愛すべき洋画の未来。(1)
なかざわ:泣いても笑っても今回が最終回の対談となるのですが、テーマはダニエル・クレイグ(注1)版「007」シリーズ(注2)ですね。 飯森:これが非常に難しい。なにしろメジャー中のどメジャー・タイトルなので、おのずと我々が語ることのできる内容も限られてきますから。「んなこたぁお前ごときに言われなくても知っとるわ!」と(笑)。 なかざわ:熱狂的なマニアが多いですから、下手な事を言うと炎上しかねない(笑)。 飯森:だから、というわけでもありませんが、今回は前半「007」をアッサリと、後半を洋画チャンネルの今後の展望と、2つのテーマで対談を進めていきたいと思います。 なかざわ:それは最終回に相応しいですね。 飯森:で、ダニエル・クレイグなんですけれど、これは恐らく僕だけじゃないと思うんですが、最初彼が新しいジェームズ・ボンドをやるって聞いて「え? この人が?」と思いましたよね?でも始まってみると全然アリだった。中でも「007/スカイフォール」(注3)は個人的にはシリーズ最高傑作と思えるくらいに良かった! なかざわ:ボンド役って新しい役者が起用されるたびに必ず何か言われますけれど、結局蓋を開けてみると、どのボンドもちゃんと成立しているんですよね。それはダニエル・クレイグも同様だと思います。僕は原作を読んだことがないので、小説版とのイメージの比較はできませんけれど、子供の頃から映画館やテレビで親しんできたファンとしては、確かに最初は疑問を感じましたよ。そもそも当時の知名度は低かったし、それ以前の仕事もアート系の映画が多かった。ボンド役には渋すぎなんじゃね?とは思いました。ただ、何代にもわたるボンド俳優の変遷を見てきたので、受け入れる準備はありましたし、実際に見たら十分良かった。ただ、これは彼の役者としての個性もあってのことなんでしょうけれど、シリーズの方向性もガラリと変わりましたよね? ダニエル・クレイグ版「007」シリーズには、従来のような軽さとか柔らかさがない。 飯森:ですね。硬派で暗い、と言い切ってしまってもいいでしょう。好みはバックリ分かれた。 なかざわ:そこが僕自身の好みとはちょっと違ったかもしれない。確かに「007/慰めの報酬」(注4)も「007/スカイフォール」も面白かった。特に「スカイフォール」は素晴らしい。ただ、こないだの「007/スペクター」(注5)辺りでそろそろ限界かなとも思っちゃったんですよね。「キングスマン」(注6)と「コードネームU.N.C.L.E.」(注7)を見た後だったこともあって。’60年代スパイ映画ファンとしては、やっぱりあのノリが恋しいんですよ。 飯森:これはやばい! 話が思い切り脱線しそうですぞ(笑)。僕もあの2つは大好きなんですよ。とりあえず、この2作品については後回しにしませんか? なかざわ:了解しました(笑)。いずれにせよ「スカイフォール」はダニエル・クレイグ版「007」映画の頂点だったようには思います。 飯森:僕はロジャー・ムーア(注8)世代なんですよ。小学生の頃テレビで盛んにロジャー・ムーアをやってて子供ながらに見ていた。後にある理由からショーン・コネリー(注9)版に夢中になるんですが、ただ、当時リアルタイムでは残念ながらロジャー・ムーアの「007」シリーズの魅力に気づけなかったんです。まず最大の問題が、ロジャー・ムーアって省エネルック(注10)みたいのを着てたでしょ?あれははっきり言って子供の目にも深刻なダサさだった!「007」からファッションの魅力を抜くと、けっこうな致命傷になる。それより何より、その頃の僕は「ランボー」(注11)や「コマンドー」(注12)に夢中になっていて、小学校のロッカーにBB弾のトイガンを数丁隠し持っていたような凶器準備集合罪スレスレのイヤな映画小僧でしたから、「007」シリーズにはアクションとして物足りなさを感じていたんですよね。だってロジャー・ムーアってスタローン(注13)より弱そうじゃないですか。一方がムキムキの裸でM60(注14)を腰ダメで撃ちまくったりRPG-7(注15)をブっ放している時に、もう一方はタキシード着ていまだにワルサーPPK(注16)でパチパチ撃っている。軍用の分隊支援マシンガンや対戦車ロケットランチャーに対し、戦前の警官用ポケット拳銃ですからね、地味感は否めない。お話的にも、MI6(注17)に所属する殺人ライセンスを持った英国諜報部員が、人類を抹殺して選ばれし少数者だけで海底都市を築こうとか宇宙移民しようとか、荒唐無稽にもほどがある大陰謀を企む悪の秘密結社を、女をコマしながら片手間で倒し、ラストは大英帝国に栄光あれ!ついでにオマケで女ともう一発!! みたいなストーリーは、元米軍特殊部隊のヒーローがソ連軍をバっタバっタとやっつけて捕虜を奪還する、というようなレーガン政権時代の空気を反映した映画がウケてた頃には、浮いちゃってたと思うんですよ。タキシードでめかしこんで女のケツ追っかけてソ連の女まで喰っちゃいやがってコノ、冷戦ナメんな!と(笑)。あと、全体的に良くも悪くも漫画チックなシリーズでしたんで、漫画やアニメを今まさに卒業してきたばっかりで大人の実写映画のリアリズムに飢えていた年頃にとっては、たまたま喰い合わせが悪かったという、タイミングの問題もあった。まさしく海底都市とか宇宙移民とか。それはアニメでさんざっぱら見てたよと。それと敵キャラもえらく漫画チックでね、ジョーズ(注18)とか。 なかざわ:ロジャー・ムーア版ボンドってのがこれまた随分と軽いですからね。 飯森:そこなんですよね。悪役を殺すたんびに要らん軽口たたいたりするんですよ。“英国紳士のユーモア”とかそんな上等なものじゃなくて「いま上手いこと言った!」的なしょうもない捨て台詞を。そんなことランボーだったら絶対言いませんって!まぁメイトリックス(注19)は割とよく言うんですけどね(笑)。しかも、吹き替えが広川太一郎(注20)さんだったりするからマックスでチャラい(笑)。チャっら〜!へっちゃらー♪ってな印象ですよ。チャラいというかフザけてるのか!?と。もちろんフザけてるに決まってる。ジャンル的にそもそもアクション・コメディー路線になっていたので、フザけてて当然、正解なんですけどね。 なかざわ:ロジャー・ムーア版ボンドの魅力というのは、すなわち’70年代におけるディスコ&フリーセックス(注21)の雰囲気だと思うんですよ。キラキラしていてケバケバしくて、エレガントで華やかで軽い。そういうところが僕は逆に好きなんですけれどね。 飯森:そう。あれはアクションではなく“色気”を楽しむための映画だったんですよね。そのことに大人になってから気づいた。逆に「ランボー」や「コマンドー」には色気なんて一切無い。ランボーはコー・バオ(注22)に指一本触れないし、コーがまた全くエロくない貧相な身体つきなんですよね。服もブラックパジャマで全然そそられないし。しかも川船の会話で判明した通り、ランボーは案の定パーティーではまるでモテない“リア終”だった。プロムとかでは異性相手に上手いこと言える、タキシードの似合うニヤけたジェームズ・ボンドみたいな野郎に女を全部総取りされてたのでしょう。さぞや長く苦しい童貞生活だったろうとシンパシーを禁じえません。一方のレイ・ドーン・チョン(注23)の方は超エロい身体しててその上スッチーだけれども、シュワ(注16)はベネット(注24)を殺すのに夢中で目もくれない。どっちの映画にも色気のかけらもない。小学生にそうした“色気”は解らないから、当時はひたすらロジャー・ムーアはチャラく見えて、やっぱりアクション見るならスタローンやシュワルツェネッガーだったんです。まして中学生の頃には「ダイ・ハード」(注25)が出てきちゃいましたから、もはや「ランボー」や「コマンドー」ですら、「なに鍛えたのを見せようとして、わざわざ裸になって戦ってんの?(笑)」と嘘っぽく見えるほど、アクションがリアルになってしまった。なので、かえってダニエル・クレイグ版のこのリアル路線、暗さとか渋さが、僕は個人的に本当に心から大好きなんですよ。このリアリズムこそ、僕が長年「007」に求めていたものだったんです! 注1:1968年生まれ。イギリスの俳優。’06年以降、6代目ジェームズ・ボンド俳優として活躍。「007」シリーズ以外では、「エリザベス」(’98)や「ロード・トゥ・パーディション」(’02)などに出演している。注2:「007/ドクター・ノオ」(’62)以降、現在までに通算24本作られているスパイ映画。’60年代の世界的なスパイ映画ブームの起爆剤となり、映画のみならずテレビドラマでも数多くの亜流作品を生み出した。注3:2012年制作。イギリス・アメリカ映画。NATOのスパイ情報が盗まれた上に英国諜報部の本部が爆破され、ジェームズ・ボンドが窮地に陥る。サム・メンデス監督。注4:2008年制作。イギリス・アメリカ映画。愛する女性を殺されて復讐に燃えるジェームズ・ボンドが国際的秘密組織と戦う。マーク・フォースター監督。注5:2015年制作。イギリス・アメリカ映画。ジェームズ・ボンドが巨大な悪の組織スペクターの陰謀に挑む。サム・メンデス監督。注6:2015年制作。イギリス・アメリカ映画。幼い頃に父親を亡くした貧しい若者が、スパイ組織キングスマンにスカウトされて一流エージェントへと育てられる。コリン・ファース主演、マシュー・ヴォーン監督。注7:2015年制作。アメリカ映画。米国スパイのナポレオン・ソロとソ連スパイのイリア・クリアキンがコンビを組み、ヨーロッパを舞台に巨大なテロ計画に立ち向かう。’60年代の人気ドラマ「0011 ナポレオン・ソロ」の映画リメイク。ヘンリー・カヴィル主演、ガイ・リッチー監督。注8:1927年生まれ。イギリスの俳優。3代目ジェームズ・ボンド俳優として、1973年の「007/死ぬのは奴らだ」以降、7本の「007」映画に主演。そのほか、「ワイルドギース」(’78)や「キャノンボール」(’80)などに出演。注9:1930年生まれ。イギリスの俳優。初代ジェームズ・ボンド俳優としてブレイクし、通算6本の「007」映画に主演。その後も「風とライオン」(’75)や「アンタッチャブル」(’87)、「レッド・オクトーバーを追え!」(’90)など代表作は多い。注10:オイルショックで弱冷房が奨励された’79年に考案された半袖の準スーツ。推進した大平首相ら政治家が自ら着用してモデルを務めるという愚を犯したことで、オッサンくさいイメージがインパクト絶大に人々の間に定着してしまい、一般には全く普及しなかった。以後リバイバルブームが起きることもなく、ファッション史上にも稀な失敗例として今日に語り継がれている。なお、ロジャー・ムーア扮するボンドのスタイルは、正しくはサファリ・ルック。注11:1982年制作。アメリカ映画。ベトナム帰還兵ランボーの活躍を描く。以降、現在までに3本の続編が作られている。シルヴェスター・スタローン主演、テッド・コッチェフ監督。注12:1985年制作。アメリカ映画。娘を誘拐された元軍人が南米の独裁国家を相手に戦う。アーノルド・シュワルツェネッガー主演、マーク・L・レスター監督。注13:1946年生まれ。アメリカの俳優。アカデミー作品賞に輝く「ロッキー」(’75)シリーズを筆頭に、「ランボー」シリーズや「エクスペンダブルズ」(’10)シリーズなど数多くの代表作を持つ。注14:「ランボー」で夜の田舎町で市街戦を起こすランボーが乱射する機関銃。「ランボー/怒りの脱出」ではヘリの銃座に備え付けられていたものを取り外して片手で撃ち、CIA秘密作戦本部に生還してからも乱射する。注15:「ランボー/怒りの脱出」のポスターアートでランボーが抱えているソ連製の対戦車ロケットランチャー。注16:ボンドの愛銃だがもともとはドイツ製で、戦前、ドイツ警察のために作られた短銃身の小型モデルだが、ナチスの将校も愛用。ヒトラーその人も所持しており、自殺に使ったのもこの拳銃。注17:イギリスの秘密諜報部の通称。注18:「007/私を愛したスパイ 」と「007/ムーンレイカー」に出てきた殺し屋。身長2mを超える無口な大男で、歯が金属で鎖をも嚙み切り、怪力でバンの車体を紙のように引き裂き、かつ、不死身。しまいにはロマンスまで描かれた。注19:アーノルド・シュワルツェネッガーが演じた「コマンドー」の主人公。肉弾アクションだけでなく、「お前は最後に殺すと言ったのを覚えてるか?ありゃ嘘だ」、「これで腐ったガスも抜けるだろう」など皮肉の効いた数々の名台詞で人気。注20:1939年生まれ。日本の声優。ロジャー・ムーアやロバート・レッドフォードなどの吹き替えで知られる。2008年死去。注21:‘70年代はディスコ・ブームとフリーセックスの時代だったが、前者は’80年代ニューウェーブ・ロックの台頭によって、後者はHIVの蔓延によって衰退する。注22:「ランボー/怒りの脱出」のヒロイン。演じるのはシンガポール出身のジュリア・ニクソン=ソウルで、1958年生まれ。これがデビュー作。注23:1961年生まれ。「コマンドー」のヒロインであるシンディを演じたカナダの女優。様々な人種の血を引いたエキゾチックな美貌とタイトスカート映えするヒップで「コマンドー」を彩った。注24:「コマンドー」の悪役。「銃は必要ねぇぜ、ウヘヘヘヘ、こんな銃なんかいらねぇ!野郎、ぶっ殺してやらぁ!」という決めゼリフで有名。注25:1988年制作。アメリカ映画。休暇の刑事がたまたま寄った妻の勤務先でテロに巻き込まれる。人間離れしたキャラクターを一人も出さず、普通の男が単身、犯罪集団と戦う様をリアルに描出し、アクション映画の流れを変えた。ブルース・ウィリス主演、ジョン・マクティアナン監督。 次ページ >> 僕だって「007」シリーズの好きな理由ってボンドガールですから(なかざわ) 『007/カジノ・ロワイヤル(2006)』CASINO ROYALE (2006) © 2006 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/慰めの報酬』QUANTUM OF SOLACE © 2008 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/スカイフォール 』Skyfall © 2012 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc. Skyfall, 007 Gun Logo andrelated James Bond Trademarks © 1962-2013 Danjaq, LLC and United Artists Corporation. Skyfall, 007 and related James Bond Trademarks are trademarks of Danjaq, LLC. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2016.03.30
男たちのシネマ愛⑤愛すべき、極私的偏愛映画たち(7)
飯森:最後の「暗い日曜日」の話に移りましょう。第二次大戦前にハンガリーのブダペストでレストランを経営しているサボーさんというユダヤ人が主人公なんですが、彼が劇中で良いセリフをたくさん言うんですよ。「俺は父親と母親がユダヤ人だったからユダヤ人なだけで、両親がイロコイ族だったらイロコイ族になってたよ」と。ただそれだけのことなんだと。あとはね、ブダペストのユダヤ人コミュニティで一目置かれている老教授が彼のレストランにやって来て「君はユダヤ教の安息日(注75)にも店を開けているらしいけど、あまり感心しないね」みたいな叱言を言うんです。それに対してサボーさんは「うちは年中無休なので日曜日もクリスマスも過ぎ越しの祭り(注76)も開けてます」とニッコリ切り返す。カッコいいんですよ、リベラルで。 なかざわ:豚肉を出すのはいかがなものか、みたいな叱言も言われていましたよね(笑)。 飯森:そうそう。で、彼の店にはイロナというすごい美人のウエイトレスがいて、サボーさんとは父娘ほど年の離れたカップルなんですね。2人で一緒に朝風呂に入っちゃったりするんですけど、このイロナという女性の肉体がまぁ素晴らしいのなんの!ああいうジューシーなヌードってのはヨーロッパ映画の独擅場です。ハリウッド女優みたいにワークアウト(注77)でむやみやたらに鍛えていたりとか、ボトックス(注78)や豊胸手術したりとか、人工甘味料や防腐剤入りのナイスバディではなくて、ちゃんと天然由来のオーガニック女体美を備えていて、それを惜しげもなく披露してくれるんです。まるでルノワール(注79)の裸婦画みたいに自然な豊満さを。もう「美味しかったよ、御馳走様!」としか言いようがありません(笑)。しかもサボーさんのいい具合に仕上がってきている汚メタボっぷりとの好対照で、ゼロ劣化状態の若い女体美が引き立つ引き立つ!そんな女性とサボーさんは半同棲してよろしくチンチンカモカモやってるんですが、うちの店でもそろそろピアノの生演奏をしようかという話になってオーディションをして、最後にやって来た、腕の立つ、ちょっと影のある瘦せぎすの青年を雇うわけです。このピアニストとイロナができちゃうんですよ。割とすぐに。 なかざわ:彼らの三角関係というのが自由で面白いですよね。それぞれに少なからず複雑な思いはありつつも、サボーとイロナ、イロナとピアニスト、どちらも関係を壊したくないから、だったらいっそのこと三角関係を楽しんじゃおうよ、みたいな。常識に縛られない奔放さがとても魅力的です。 飯森:“ヨーロッパという文明”を強烈に感じさせますよね。ハンガリーというのはハプスブルグ家の伝統もあるヨーロッパのメインストリームですから、文化的にとても成熟・爛熟している。三角関係というものについても、最近の日本だと“ゲス不倫”が叩かれてますけれど、ああいうことを他人が正義面してバッシングするような風潮って、それはそれで如何なものかと僕個人としては思っちゃうんですよね。人のことに首突っ込むのはよしなさいよと。あれってアメリカのピューリタニズム的な潔癖症っぽくって、アメリカの悪いところまで全部我々は真似しちゃったんじゃないかと疑ってるんですよ。 なかざわ:そういう点に関しては、やっぱりアメリカというのはキリスト教国家だなと思いますよね。 飯森: かつてクリントン(注80)さんがモニカ・ルインスキー(注81)との不倫で大スキャンダルになりましたけど、ほとんど同時期にフランスのミッテラン(注82)大統領に隠し子がいたことが判明したんですよね。その時にテレビのニュース番組で、現地の通りすがりのパリ市民にインタビューをしてたんですが、「ミーたちおフランスの人間は、他人様の色恋に首突っ込んで大騒ぎするような、アメリカの方たちみたいな趣味は持ち合わせてないんざます。別に政治さえきちんとおやりになられていれば、よろしいんじゃございませんこと?」みたいなことを言っていたんです。それを見て「なんて大人でカッコいいんだ!これが“ヨーロッパという文明”なのか!」と圧倒されましたね。なんか、人として余裕だな、と。で、話を戻しますと、「暗い日曜日」にもこの感じありますね。この余裕感が。三角関係を社会悪としては描いていない。当人たちの問題として描いてるんです。サボーさんとイロナとピアニストの3人が、お互い折れるところは折れ妥協して上手く関係を続けていこうと話がついた後で、ドナウ川の水辺の木陰でピクニックを楽しむシーンになるんですが、そこは画家マネ(注83)の描いた「草上の昼食」(注84)という青姦3P絵画の傑作そのままの構図で、思わずニンマリしてしまったんですけど、そういうさりげない引用にも文化的豊かさを感じさせます。実に格調の高い、“ヨーロッパという文明”がそのまま映画になったような大人な作品なんです。主人公サボーさんは、そうした“ヨーロッパという文明”を象徴するリベラルな中年男性。だからこそ、本気で狂った奴らが出てきても、不幸にしてにわかには信じられないんです。彼の常識では想像もできない。イロナが「ナチスって本当にやばいわよ、ユダヤ人を皆殺しにするって言っているけれど、彼らならやりかねないわ」と心配するんだけれど、サボーさんは本気でそんなバカなことをする狂った人間などいるわけがないと甘く考えてしまう。人間というものを信じちゃった。自分が文明人だからって、世の中に野蛮人なんていないんだ、と思い込んでしまうんですね。そうした状況の中で、ピアニストの男だけが精神的にいち早く参ってしまうんです。その彼が「暗い日曜日」(注85)という曲を作るわけなんですが、これを聴いた人たちが次々と自殺していく。 なかざわ:これは事実だそうですけど、ただ、詳しく調べると直接的な因果関係が確認できる事例というのは少ないらしいですね。 飯森:一説によると150人くらい自殺しているらしいですよ。 なかざわ:そうなんですけれど、本当に「暗い日曜日」が原因だと立証できる自殺は5件くらいだとも言われています。いずれにしても、この曲を聴いて自殺してしまった人たちがいたことは紛れもない事実ですね。 飯森:このピアニストは愛する女性を男2人で日替わりでシェアするという状況に内心傷ついていて、さらにはナチスの台頭で世間がクソみたいな状況になりつつある。実際にセリフで「クソ」という言葉を使っているんですが、こんな世の中はもう嫌だと。3人の中で一番精細な神経の持ち主である芸術家の彼が真っ先に参っちゃうわけです。「暗い日曜日」というのは、そういう時代の暗い空気みたいなものが作曲家の意図を超えて込められちゃった曲だから自殺を誘発したのではないか、という解釈に立った映画なんですね。 なかざわ:ただ、あくまでも事実を基にしたフィクションであって、登場人物が辿る運命というのも創作です。 飯森:「暗い日曜日」は実際にハンガリーの作曲家が書いた曲ですし、ハンガリーは戦前戦中にナチス寄りの右派政党があり、大戦末期にはユダヤ人を迫害したという結構な黒歴史を背負っている。そうした事実を頂いてきて作り上げたフィクションではありますけどね。あと、この映画にはハンスというドイツ人が出てきますよね。ドイツからハンガリーへと観光にやってきた冴えない奴で、女にも慣れてなくて見るからに童貞臭い。背広姿なんですが、サイズが全然合っておらずブカブカで不格好ったらない。自信がないから最低限の自己演出もどうしたらいいのか分からないみたいで、誰の目にもキョドって見える。人間的にもファッション的にもこなれ感ゼロなんですよ。仕方ないから首からライカ(注86)のカメラをぶら下げてひたすら写真ばかり撮っている。こいつが、サボーさんの店でカメラ自慢を始めるんですよね。オドオドしていた彼が、カメラの話になると俄然熱を帯びてくる。「これは“世界が絶賛するドイツの職人”が作ったライカのカメラだ!」みたいにね。でも、何ムキになって自慢してんの!?ってちょっと滑稽じゃないですか。「確かにライカは凄いですよね。でも、お前はライカじゃないから!」と思わず突っ込みたくなる(笑)。 確かに人は生きていく上で、自尊心というもの無しには生きていけない。だから誰しも、何か誇れるものを人生の中に持ちたい、せめて自分で納得いく最低限のレベルぐらいには自分の価値を高めていきたい、と多少なりとも努力したり、あるいは現状と折り合いをつけて満足・納得・妥協したりするんだけど、当時のドイツのように、戦争では負けるわ、政治的には大混乱だわ、経済的には大不況だわ、生活が好転する兆しは皆無だわだと、この現状に満足・納得・妥協はとてもできないし、今後の人生も不安でいっぱいで明るい見通しなんか全く立たないという庶民の中には、自尊心を持ちたくても持ちようのない人が大量に出てくる。でも人らしく生きていく上で自尊心は必要だ。となると「世界が絶賛するドイツの職人!」的なことを声高に叫んで自尊心を満たすしか他に手がない。「確かに俺はうだつの上がらない、しがない男かもしれん。だがなぁ!俺の中には偉大なるドイツ民族の血が流れてるんだ!!」と。それには何の努力も自己投資もいりませんからね。誰でも、どんな最低の奴でも、明日からすぐ実践できる、一番イージーな自尊心のチャージ法です。こういう奴が1人だけだと「チンケな野郎だな」で話は済むんですけど、ある国で人々が自尊心を持とうにも持てない社会状態が長引くと、こういう手合いが大量発生し大チンケ団として徒党を組みはじめ、あるいは有権者の大半を占めるようになる。最後は自分たちとちょっとだけ違う集団を見下すことで大きくなった気分を満喫する。それがナチス党です。このハンスが何年かして、再びハンガリーにやってくる時には、今度は軍服を着ている。ナチスに入党したんですね。アルゲマイネSSの格好良い黒い制服でキメて颯爽と店に現れる。今度はサイジングもピッタリです。ここが映画的に上手い!他人が服装ルールを設けてくれた軍服ならビシッと着こなせるみたいなんですよ。自由にコーディネートしてオリジナリティで勝負してみろと言われると何を着ていいのか分からないくせにね。そして、将校の権威をひけらかせば女も気おくれせずに抱けるようになったみたいで、どうやら無事に童貞卒業を済ませてきたっぽい。別人みたいに態度に自信がみなぎっているんです。 なかざわ:結局はナチスの権威を笠に着ているだけですけれどね。 飯森:そうなんですよ。今度も「ナチスに世界が絶賛の嵐!」みたいなことを自慢げに言っているだけで、あんたまたそれ!?と。まぁチンケな野郎なんです。 なかざわ:自分自身に誇れる要素が何か一つでいいからないんですか?と。要するに俗物なんですよね。そのくせして、ちゃっかりと戦後の保険だけは自分にかけていますが。 飯森:終戦まぎわ、お金持ちのユダヤ人だけ助けて戦後の財産を築こうとするんですよね。でも、あそこまでいくと悪役としてちょっと出来過ぎというか、悪党すぎてもはや漫画!とも思っちゃうんですけどね。僕としては、そこに行き着く前の映画前半、「世界が絶賛するドイツの職人!」とか「ナチスに世界が絶賛の嵐!」と言っては気持ち良くなっちゃって、自尊心を10秒チャージしていたチンケ極まりない彼こそ、妙にリアルで忘れがたいんです。人間こうはなりたくないもんだと感じますね。もっとも唾棄すべき人間類型だと思います。そう思わせるほど、悪い意味で本当にリアルな、生きたキャラクターですし、主人公のサボーさんはその反対で、これほど人として手本としたい、理想の市民像も他に僕には思いつかない。人としてのお手本と反面教師を両方見せてくれた映画ということで、ものすごく人生勉強をさせてもらった、規範としている作品なんですよ。最後に、この作品は、僕の趣味をよく理解してくれていた友人に薦められて当時観たんです。今その人とはすっかり疎遠になってしまったけれど、この映画を見るたびに、もしくは「暗い日曜日」という曲を思い浮かべるたびに、その人のことが脳裏に去来します。映画には、そういう出会い方もありますよね。実に幸福な出会いだったと思います。 (終) 注75:ユダヤ教の安息日は土曜日。この日は何もしてはいけないため、家庭でも食事は前日の金曜日に作り置きしておく。注76:ユダヤ教の三大祭りの一つで、神の怒りによる災いがユダヤ人の家を過ぎ越していった、という旧約聖書の出エジプト記に記された出来事に由来する。注77:筋力トレーニングやストレッチ、エアロビクスなどのこと。注78:ボツリヌス菌から抽出されるたんぱく質の一種で、これを顔に注射することでシワ取りの効果が得られる。注79:ピエール=オーギュスト・ルノワール。1841年生まれ。フランスの印象派を代表する画家。1919年死去。注80:1946年生まれ。アメリカの政治家。1993~2001年まで第42代アメリカ合衆国大統領を務めた。注81:1973年生まれ。1998年に発覚したビル・クリントン大統領との不倫スキャンダルで知られる。注82:フランソワ・ミッテラン。1916年生まれ。フランスの政治家で第21代大統領。愛人との間に隠し子がいたことが1994年に発覚した。1996年死去。注83:エドゥアール・マネ。1832年生まれ。フランスの印象派画家。1883年死去。注84:1863年に描かれたマネの代表作。注85:1933年にハンガリーで発表された歌。作詞はヤーヴォル・ラースロー、作曲はシェレッシュ・レジェー。1936年にフランスのシャンソン歌手ダミアがレコーディングをして世界的に有名となる。日本では淡谷のり子や美輪明宏が歌っている。注86:1913年に創設されたドイツの世界的なカメラ・ブランド。 『愛すれど心さびしく』TM & © Warner Bros. Entertainment Inc. 『マジック・クリスチャン』COPYRIGHT © 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 『ラスト・ウェディング』©2016 by Silver Turtle Films. All rights reserved. 『ビザと美徳』©1997 Cedar Grove Productions. 『暗い日曜日』LICENSED BY Global Screen GmbH 2016, ALL RIGHTS RESERVED
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COLUMN/コラム2016.03.28
男たちのシネマ愛⑤愛すべき、極私的偏愛映画たち(6)
なかざわ:さて、最後はワンセットで話をしたいと仰っていた「ビザと美徳」(注67)と「暗い日曜日」(注68)。まず「ビザと美徳」は短編映画ですね。 飯森:アカデミー賞の実写短編映画賞を取っている作品です。アメリカの日系人が作っています。 なかざわ:もともとはロサンゼルスで初演された舞台劇だったみたいですね。 飯森:現在日本に暮らす老夫婦が第二次世界大戦中の若かりし頃の外国暮らしを回想するシーンから始まるんですけれど、これがどう見ても日本で撮影しているようにしか見えないんですよ。アメリカ映画で日本が出てくると大抵何かがおかしいじゃないですか(笑)。しかし日系人が作っているからなのか、これはすごく自然なのでビックリしました。 で、この老夫婦というのが“命のビザ”、“日本のシンドラー”として有名な、あの杉原千畝(注69)さんとその奥さんなんです。舞台は1940年のリトアニアのカウナスという町に移って、そこから映画はモノクロになります。杉原千畝さんが日本領事館に勤めていた頃の回想です。杉原さんのことは今や日本でも多くの人が知っていると思います。去年も唐沢寿明さん主演で『杉原千畝 スギハラチウネ』って東宝の映画があったばかりです。でも、この短編映画の中では時代背景の説明があまりないので、念のためお話しておきましょう。ナチス・ドイツがユダヤ人を迫害したのはみなさんご存知の通りです。ユダヤ人は必死にヨーロッパからの脱出を試みるわけですが、西から出ていくことができない。東から逃げるしかなかった。当時ナチスはヨーロッパ本土の大部分を征服して支配下に置いており、東のソ連とだけまだ戦っていなかったから、そっち側に殺到するんです。一方、舞台となるリトアニアはそのソ連に今まさに併合されようとしていた小国で、各国の大使館や領事館は次々と店じまいをしていたのですが、日本領事館だけはまだやっていたらしいんですよ。そこで、日本領事館にビザを発行してもらって東側から逃げようとするユダヤ人が押し寄せたわけです。杉原千畝さんは彼らと話をして事情を理解し、ユダヤ人にビザを発行しまくった。日本本国の外務省はナチスと日独伊三国同盟を結ぼうとしている時期でしたから迷惑がって、ちゃんとした手続きをとって、決まり通りに時間をかけてやれ、と指示を出すんですが、杉原さんはそれを無視して駅のホームでもスタンプを押しまくった。その結果、外務省をクビになったんです。 なかざわ:トータルで6000人のユダヤ人を救ったと言われていますよね。 飯森:その 6000人から後に生まれた子供や孫まで数えると、凄いことだと思います。ちょっと話は逸れますが、アドルフ・アイヒマン(注70)っていますでしょ。ナチス親衛隊の将校で、ユダヤ人を殺すため収容所に送る移送責任者だった。彼は戦後、南米に逃げていたところをイスラエルのモサド(注71)に捕まりました。偽名を使っていたけれど疑われていて、結婚記念日に奥さんへ贈る花束を買ったところ、それがアイヒマンが結婚した日と同じだったので正体がバレてモサドに拉致られてイスラエルへ連行され、裁判にかけられ処刑された。そこでみんな驚いたのは、アイヒマンがとにかく普通のオジサンだったことなんですよ。 なかざわ:ハンナ・アーレント(注72)の「イェルサレムのアイヒマン」(注73)ですよね。 飯森:そう。それには「悪の陳腐さについての報告」という副題が付いています。「ハンナ・アーレント」(注74)という映画もありますので見ていない人は是非ご覧になってほしいんですが、悪は陳腐である、悪は凡庸であると。要は、史上最悪の大量虐殺とヘイトクライムの犯人は、漫画みたいな分かりやすい悪の権化的なキャラではなかった。結婚記念日に奥さんに花束を贈るような男で、彼は典型的なドイツの官僚というか、言われたことをキチンとやるだけのクソ真面目なサラリーマンだった。そもそもナチスは選挙で選ばれています。勝手にクーデターで権力を奪取したとかではなく、ちゃんと民主的選挙で有権者から選ばれている。そして国会で合法的なステップを経て独裁政権となるわけです。その政権が虐殺しろと命じているので、それを実行した。まぁ、実際はホロコーストって法制化されたわけではありませんから、ユダヤ人を殺すことは当時のドイツの法律でも厳密には殺人罪だったはず。とは言え罪刑法定主義ではないので「ナチスが法だ」みたいな感じは当時あったでしょうし、少なくとも時の政権が決めた政策ではあったので、アイヒマンはそれをやれと言われて官僚としてただ黙々と実行しただけなんですね。 なかざわ:そこには個人的な悪意もない。言ってみれば、真面目に仕事をしただけの普通の人間だった。その客観的な事実を世界に伝えたハンナ・アーレントは、ナチスを恐ろしい悪魔だと考えて宣伝していた当時のユダヤ人同胞から猛烈な反発を受けました。 飯森:ミルグラム実験ってあるじゃないですか。通称“アイヒマン実験”とも呼ばれていますけれど、イェール大学の心理学者が行なった実験ですね。2人1組の実験協力者を質問者と回答者に分けて、回答者が間違えたら質問者はボタンを押して相手に電流を流すんです。立会いの学者の説明によると「これはプレッシャーを与えることで正解率が上がるかどうか確かめる実験です」ということで、間違えるたびに電圧を上げていき、終いには死にかねない高電圧まで上げろと学者から指示される。で、質問者はみんな上げろと言われれば「ヤバくないですか?」「これって大丈夫なんですか?」と不安がりながらも、学者に「問題ありませんから」と言われると、結局そこまで上げちゃうんです。実は、回答者はサクラで、実際には電流も流れていない。感電した苦悶の絶叫を上げたりするんですが、それは演技なんです。実験されていたのは実は質問者の方で、この実験で本当に調べたかったことというのは、権威者から命令されると人はただ従うのか、それとも自分の倫理観を優先させるのか、ということだったんです。結果、多くの人が、立会いの学者が電圧を上げろと言うからそうしただけだ、自分には責任はない、ということで命令に従ってしまう。でも、そのレベルまで上げると死ぬかもしれないとは事前に学者から説明されていたんですよ?それでも従ってしまう。アイヒマンもそれと同じですね。一方、杉原千畝さんはそういう場合にも頑として従わない男だった。同じ官僚的な立場の2人で、組織に黙って従った方が世界史上最大の虐殺者となり、組織に逆らった方が世界で最も尊敬される日本人となった。僕らは、この映画を見て杉原千畝さんについて知り、またアイヒマンというクソ真面目なサラリーマンおじさんがいたこと、ミルグラム実験のことも知って、これらを自分の引き出しに入れておかねばいけませんよね。やるのが普通という時に、やらないでいられる人間になるためには、常人に無い強い意志か、でなければ、そうした引き出しの中身が必要ですから。凡人に強い意志は無くとも、引き出しに役立つ知識を入れておいて必要な時に引っ張り出してくることは、誰にでもできる。これこそが映画を見る意味でしょう。 なかざわ:短編なのでわりと全体的に駆け足で描かれているから、これをひとつのきっかけとして、その他の杉原千畝に関する文章なり映像なりに触れて欲しいと思いますね。 注67:1997年制作、アメリカ映画。クリス・タシマ監督・主演。注68:1999年制作、ドイツ・ハンガリー合作。ロルフ・シューベル監督、エリカ・マロジャーン主演。注69:1900年生まれ。日本の元外交官。1986年死去。注70:1906年生まれ。ドイツの軍人。1962年死去。注71:イスラエルの諜報機関であるイスラエル諜報特務庁の通称。注72:1906年生まれ。ドイツ出身でアメリカのユダヤ人哲学者。1975年死去。注73:1963年に発表された、アドルフ・アイヒマン裁判の記録。著者はハンナ・アーレント。注74:2012年制作、ドイツ・ルクセンブルク・フランス合作。マルガレーテ・フォン・トロッタ監督、バルバラ・スコヴァ主演。 次ページ >> 暗い日曜日 『愛すれど心さびしく』TM & © Warner Bros. Entertainment Inc. 『マジック・クリスチャン』COPYRIGHT © 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 『ラスト・ウェディング』©2016 by Silver Turtle Films. All rights reserved. 『ビザと美徳』©1997 Cedar Grove Productions. 『暗い日曜日』LICENSED BY Global Screen GmbH 2016, ALL RIGHTS RESERVED
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COLUMN/コラム2016.03.20
男たちのシネマ愛⑤愛すべき、極私的偏愛映画たち(5)
飯森:次にお話したいのがオーストラリア映画の「ラスト・ウェディング」(注62)。これがですね、断言しましょう、映画でメシ喰ってる僕にとってこれが生涯ベストの映画です!そこに迷いはありません。ただ、他人に薦めづらい映画でもあるんです。どういうことかというと、例えるならば美術館で最高に感動できる絵画に出会ってしまったような感じなんです。絵画の感動を他人に伝えるのって映画を薦めるより難しいじゃないですか。100%印象だけの問題で、理屈で説明できないから。とはいえ、僕の人生にとっては決定的に重要な意味を持つ映画なんです。例えば、いま僕は海の目の前に住んでいます。常に海を感じて生きていたいと考えている人間なんですが、それは完全にこの映画の影響です。 なかざわ:確かに舞台となる島は美しいですよね。 飯森:でも美しい島や海を舞台にした映画なんて他にも沢山あるじゃないですか。なぜ他の映画じゃなくて、この映画にそこまでライフスタイルを決められるほどの影響を受けたのかは、自分でもよく分からないんです。映画のストーリー自体もシンプルすぎるぐらいですし。 なかざわ:なんというか、「ラスト・ウェディング」というタイトルの映画なら十中八九こういう話になるだろうなっていう映画ですよね。 飯森:十中八九これだけはやめとこうという話でもある(笑)。いくらなんでもベタすぎるだろう、恥ずかしいと。韓流ドラマのベタさすら上回っているかもしれない。これはネタバレでもなんでもないので言っちゃいますけど、主人公のカップルがとあるリゾート地みたいな島で結婚式を挙げようとする。すぐにでも挙げなきゃって感じなんですが、というのも、このカップルの女性が不治の病で余命幾ばくもないんですよね。ベタでしょう(笑)?で、旦那は最高のウエディングにしようと奔走し、友人のカップル2組がそれを応援しようと力を貸す。その中に無名時代のナオミ・ワッツ(注63)がいるんですけど、そんな感じでみんなが頑張って準備をして、最高に素敵な結婚式を挙げて、最後にヒロインは安らかに死ぬわけです。もう、おまえ本気か?ってくらいベっタベタでしょ(笑)? なかざわ:見ている方が照れくさくなるくらいですよね。 飯森:これは、生涯ベストなのになかなか魅力を説明しづらい作品なので、ちょっと趣向を変えてお話させていただきたいと思います。今回の企画とは全く関係のない、うちで放送するわけでもない作品なんですが、昔「デッドリー・フレンド」(注64)という映画がありましたよね。 なかざわ:ウェス・クレイヴン(注65)監督の作品ですね。 飯森:ストーリーを言うと、高校生で「キテレツ大百科」みたいな発明少年が、引っ越した先の隣家に住んでいる感じの良いみよちゃん的美少女と仲良くなって惚れてしまう。ところが、その美少女はアル中のオヤジからDVを受けていて、そのせいで死んじゃうんですね。で、キテレツは可愛くて親切なみよちゃんの死を悲しんで、よし!僕の発明で甦らせてあげよう!ってことで、彼女の死体を病院の霊安室から盗んできて脳にICチップを埋め込むんです。すると、彼女はロボットダンスみたいな分かりやすい動きをしながら生き返っちゃう(笑)。生き返ったと言うより、喋れませんし明瞭な意思もなさそうだから、ゾンビ兼ロボットです。キテレツは彼女を自宅の屋根裏に匿ってあげる。男子高校生ならよからぬことを考えそうなものですけど、彼はあんまりにも童貞すぎるために「これからは僕がうちの屋根裏で守って幸せにしてあげるよ」って、あくまで純情なんです。ただし、あまり後先のことまでは考えておりません。 なかざわ:そのうち腐ってくるでしょうしね。死体なんだから(笑)。 飯森:もって数日(笑)。ところがですよ、このロボっ娘が暴走し始めちゃう。喋れはしないのだけど、自分が虐待されていたという記憶の断片は残っていて、加害者である実父に復讐するんです。脳にICチップを埋め込まれただけなのに何故か馬鹿力にまでなっちゃって、オヤジを簡単にブチ殺しちゃう。ついでに、近所のガミガミおばさんの頭もグシャリと潰しちゃう。こりゃまずいことになったと慌てたキテレツは、彼女のICチップを取り除こうとするんだけれど、ロボっ娘は意識はないのに、これも記憶の断片が残っているからなのか、キテレツのことを慕っているという感情の名残りをロボット・ジェスチャーで表すんですよ。見ていて「不憫よのう…」って感じなんです。そんな不憫な不憫なロボっ娘を強制終了させねばならないのか!?そして、終了するにしても相手が怪力過ぎてなかなか止められない…というお話で、要は救いがたいバカ映画ですよ。フォローのしようがない。しかし、中学の頃にこれを木曜洋画劇場で見た僕が、どんだけ泣いたか(笑)!あなたのハートには何が残りましたかって、結局これが残りました。僕も中1で女子になんか興味もなくて童貞すぎて純情で、いきなりこれでしたから、この、薄幸・夭折の美少女を生き返らせて“完全なる飼育”状態で所有して守る、というプロットに激しく焦がれましてね。中学校から帰ったら毎日3倍録画したVHSで見て、もう泣けて泣けて、どれだけ泣いたか分からない。 なかざわ:でも、あの映画を思春期とかに見て泣けたっていう人、意外と多いですよ。 飯森:エエエっ、そうなんですか!? 僕だけかと思ってました。そんな大した映画だったのかよ(笑)。いま見たら一滴だって泣けなんかしませんよ。ただあれこそが、他者にちゃんと向き合える精神年齢にまだ達していない中学生には、理想の男女関係のあり方だった。女子は女子で交友関係があって社会と繋がっている。だから、俺のことをほっといて友達とどっかに遊びに行っちゃう自由、さらには、他の男子に関心を持つ自由、俺を振る自由、つまり彼女には彼女の自由意志があるんだ。いくら付き合ってても2人の人生には重なる部分もあるけど重ならない部分もある。どこで何しているか全部は分からないし、何を考えているかも全ては分からない。自分とは別個の人格を持った人間なんだ、という大人の現実から全力で目をそらしている映画なんですよ。中1でその残酷な真理は理解できませんから逆に良かったんですね。ロボっ娘は喋りもしないし意志も無い。そんなもんはいらん!と。童貞は異性が怖いですから、その状態なら安心だと。一方的に従順で自我の無い女子を自分の庇護下に置いて世間との接触を一切絶たせ、それに対して飽くなき愛情を惜しげなく注ぐ、という、少年の幼稚な夢を描いている映画です。それと、僕はロボっ娘役のクリスティ・スワンソンにも当時憧れまして、人生で最初に夢中になった異性のスターだったんですけど、この歳になって見ると、可愛いは可愛いんですが、さして特徴のない無個性なブロンド美女に過ぎないんです。ただ、中学ぐらいの頃ってまだ馬鹿だから、面喰いで顔が全てじゃないですか。顔が正攻法で一番良い異性にクラスの全員が憧れているという状態。人生経験や教養が無さすぎて自分流の美学が無いから、そこしか異性の評価基準が無い。そういう年頃の時には魅力的に映った女優さんですけど、今だと別にそこも引きにならない。今見ると率直に言って大した映画じゃありません。というか、いかがなものかな映画なんです。でもね、僕みたいな商売をしていると、映画に優劣って付けたくないんですよ。もしも今の大人になった僕が、こんなしょうもない幼稚な映画は放送しないよと言って却下したとして、13歳の僕みたいな視聴者がいたらどうするんだと。だから、極力いろいろな映画を優劣つけないでお届けする、映画に貴賎なし、ってのが正しい姿勢なんだろうと思って仕事をしています。「ラスト・ウェディング」もそうでね、僕にとっては生涯ベストですけれど、恐らく少数派だろうと思いますよ。もし優劣をつけるような編成マンがいたら、こんなベタな映画はないだろうと言って放送しないかもしれない。でも、そういうことはやっちゃダメ!その映画がクソなのか生涯ベストなのかは、あくまでも見る人次第ですから。 なかざわ:それは仰るとおりだと思いますよ。 飯森:少なくともザ・シネマではそうです。問題発言になるかもしれませんけど、全部の放送作品を「これは良い映画だから見てくださいね」という推薦のスタンスでやってはいない。一本でも多くの映画をひたすら放送だけはしますから、それが良い映画なのか悪い映画なのかは、あなたが決めてくださいと。うちのチャンネルのコピーをこの春から変えるんです。「生涯ベストの映画が、今日見つかる。」というものに。見つかるか見つからないかはあなた次第。そういうものだと思っています。 なかざわ:確かに、例えば「風と共に去りぬ」は映画史上永遠不滅の傑作だと言われていますけれど、みんながみんな感動するわけじゃないですからね。スカーレット・オハラ(注66)の、あの自己中なキャラがどうしても受け付けないっていう人もいるだろうし。感じ方は人それぞれです。 飯森:僕は今の仕事に就く前に雑誌の編集者だったんですけれど、ネガティブなことは書くなと編集長から徹底的に教育されましてね。SNS全盛の今、いわゆるオールドメディアは良いことしか言わないじゃないか、信用ならん、と批判されるようになって、確かにそれは一理あるかもしれませんが、僕自身は仮にネガティブな感想を個人的には持ったとしても、ネガティブな風には映画を紹介したくないんですよ。もし今の僕が「デッドリー・フレンド」についてネガティブな事を書いて、それを読んで見ないことにした人がいたとします。あるいは、僕の価値判断で放送しないことにする。しかし、もしかすると視聴者の中には「デッドリー・フレンド」を見たら号泣する童貞の中学生がいるかもしれないんです。そのチャンスを僕が潰してしまうことになる。あるいは逆に、僕以外の編成マンが「ラスト・ウェディング」を「何この恥ずかしい映画」と言って放送しなかったとして、客に僕みたいな人がいたらどう責任とる気だと。そんな恐れ多い、傲慢な話はない。お前は何様だと。 なかざわ:ただ、自分の率直な考えや意見を批評で述べることで、同じような感性を持つ人にとっての参考や指針にはなりますよね。 飯森:批評は別ですよ。ケチョンケチョンの酷評ってそれ自体が痛快で面白いコンテンツですしね。でも、それは評論家の仕事です。映画チャンネルや雑誌の映画紹介ページのような、出会うチャンスを提供するべきメディアが、これは良い、これはダメって取捨選択するのは望ましくないと思うんです。ということで、なんだか、放送する「ラスト・ウェディング」のことはほとんど語らずに、一切放送しない無関係な映画の話で話し込んじゃいましたけど、「ラスト・ウェディング」も、僕と全く同じような感性の人が見ればおそらく心を動かされると思うんです。しかも今回、過去に出ていたVHSよりも圧倒的に良い画質で見ることができるなんて!自分のためにやっているとしか思えない! なかざわ:今回はそういう趣旨の企画ですからね(笑)。 飯森:オーストラリアの権利元さんが自腹でHDテレシネをしてくださったんですよ。これは本当に嬉しかった!絵が綺麗という一点で生涯ベストにまでして、この映画の風景を日常において再現しようと努力しているほど、絵画的な意味で憧れている映画ですからね。そんな作品が、僕が個人的に好きってことがキッカケで、初めてHDテープが作られることになった。これからは世界中でソフト化されたりテレビ放送される時にこのニューマスターのHDテープが貸し出され、世界の人々が綺麗な画質で見ることになるんです。ただし、万人受けするかどうかは分かりません。かなり怪しい(笑)。 注62:1997年制作、オーストラリア映画。グレーム・ラティガン監督、ジャック・トンプソン主演。注63:1968年生まれ、イギリスの女優。少女時代に家族でオーストラリアへ移住。代表作は「マルホランド・ドライブ」(’01)、「キング・コング」(’05)、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」など。注64:1986年制作、アメリカ映画。ウェス・クレイヴン監督、マシュー・ラボート主演。注65:1939年生まれ、アメリカの映画監督。代表作は「エルム街の悪夢」(’84)、「スクリーム」(’96)など。2015年死去。注66:「風と共に去りぬ」の主人公。意志が強くて気位が高いため、自己中心的な言動を取りがちなお嬢様。 次ページ >> ビザと美徳 『愛すれど心さびしく』TM & © Warner Bros. Entertainment Inc. 『マジック・クリスチャン』COPYRIGHT © 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 『ラスト・ウェディング』©2016 by Silver Turtle Films. All rights reserved. 『ビザと美徳』©1997 Cedar Grove Productions. 『暗い日曜日』LICENSED BY Global Screen GmbH 2016, ALL RIGHTS RESERVED
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COLUMN/コラム2016.03.16
40歳からの家族ケーカク
高年齢童貞を主人公にした大ヒットコメディ『40歳の童貞男』(05年)で華々しい監督デビューを果たしたジャド・アパトー。続く監督第二作『無ケーカクの命中男/ノックト・アップ』(07年)も大ヒットしたことで、ハリウッドにおける彼の評価は決定的なものとなった。しかしこの映画はとても不思議な作品でもあった。 何が不思議かというと、そのストーリーである。冒頭、主人公であるベン(演じているのはアパトーの愛弟子セス・ローゲン)は、キャサリン・ハイグル扮する美人キャスターのアリソンと、酔った勢いで一夜限りの関係を結んだ結果、妊娠させてしまう。 普通ならアリソンが中絶を考えたり、「子どもは自分だけで育てる」とベンを遠ざけたりする紆余曲折を経て、ハッピーエンドに向かうはずだ。しかしアリソンはすぐに出産を決心すると、ベンに子どもの父親としての自覚を求めるのだ。そう、映画としてのお約束を全く守っていないのである。でもその一方で妊娠中のアリソンの描写はリアルそのものだったりする。 実はこれには理由がある。『無ケーカクの命中男』はアパトー自身の体験をベースにした半自伝作だからだ。彼にとってのアリソンは女優のレスリー・マンだった。当時、アパトーは友人のベン・スティラーとジム・キャリーがそれぞれ監督と主演を務めたコメディ『ケーブル・ガイ』(96年)でプロデューサーとして働いていた。そこで彼は、映画の主演女優だったレスリーを妊娠させてしまったのだ。 その結果、彼女はあと一歩でトップ女優になれるポジションにありながら、アパトーと結婚して子育てに注力することになった。しかしそんな大きな犠牲を払われながら、アパトーはなかなかハリウッドで浮上出来なかったのである。 それ以前からアパトーの人生は挫折の連続だった。子どもの頃からお笑いマニアだった彼はスタンダップ・コメディアンとしてキャリアをスタートしている。当初は「自分以上に面白い奴なんていない」と考えていたものの、同世代の三人のコメディアンと知り合った途端、彼の自信はこなごなに打ち砕かれてしまう。 その三人とは、前述のベン・スティラーとジム・キャリー、そしてアダム・サンドラーだった。この世代を代表するコメディアンだから負けるのは仕方ないことなのだが、アパトーのショックは大きく、彼はパフォーマーの道を断念せざるをえなかったのだった。 この時期の体験もアパトーは映画にしている。『素敵な人生の終り方』(09年)がその作品だ。アダム・サンドラー扮するジョージがサンドラー自身で、仲間内でいち早く出世するジェイソン・シュワルツマン演じるマークがベン・スティラー、そして「面白いギャグを書くけどカリスマ性がない」アイラ(演じているのはまたしてもセス・ローゲン)がアパトー自身と言われている。そして彼は芽が出ない状態のまま、レスリーを妊娠させてしまったというわけだ。 アパトーの名がようやく知られるようになったのは、プロデュースと脚本を手がけた『フリークス学園』(99〜00年)によってだった。このテレビドラマで彼は少年時代を送った80年代を舞台に、イケてないグループの少年少女たちをヴィヴィッドに描いたのだった。視聴率が伸び悩んで打ち切られたものの、この作品に関わった監督のポール・フェイグやジェイク・カスダン、俳優のセス・ローゲン、ジェイソン・シーゲル、そしてジェームズ・フランコらは後年それぞれ成功を収めることになる。 高評価を得ていたものの数字がついてこなかったアパトーにようやくチャンスが巡ってきたのは、ウィル・フェレル主演作『俺たちニュース・キャスター』(04年)にプロデューサーとして参加した時だった。彼はこの作品に脇役で出演していたコメディ俳優スティーブ・カレルと知り合ったことで、彼が温めていた企画「高年齢童貞の初体験」をテーマにした映画の実現に奔走。これが『40歳の童貞男』に結実したのだった。 『俺たちニュース・キャスター』と『40歳の童貞男』には、現在『アントマン』の主演俳優として知られているポール・ラッドも出演している。アパトーとポールは、同世代で同じ年頃の子どもを持つことから意気投合して親友になった。こうした経緯もあり、ポールは『無ケーカクの命中男』にも出演している。この作品で彼が演じたのはアリソンの姉デビーの夫ピート。デビーはレスリー・マン、ふたりの娘セイディーとシャーロットはアパトーとレスリーの娘モードとアイリスが演じていた。つまりピートのモデルはアパトー自身なのだ。『無ケーカクの命中男』には過去のアパトー(ベン)と現在のアパトー(ピート)両方が登場していることになる。 このピートとデビーの一家のその後を描いた作品が『40歳からの家族ケーカク』(12年)である。夫婦の倦怠や緊張感、思春期を迎えて不機嫌になる長女、そして老いた親との付き合いなど、テーマは四十代にとってのリアルそのものだ。 ピートがカップケーキを、デビーがタバコを(見かけは)絶っていたり、デビーの「私のおっぱいは全部娘に吸われちゃった」というセリフ、家でのWi-Fiの使用禁止を言い渡されてキレるセイディーといった細かい描写も真に迫ったものがある。 一方で、ピートの経営するインディ・レコード会社が販売不振によって倒産の危機にあるという設定は、映画監督/プロデューサーとして大成功を収めているアパトーにしては謙遜しすぎの描写に見えるかもしれない。でもこれにも理由がある。アパトーの母方の祖父ボブ・シャッドは、メインストリーム・レコードというインディ・レーベルを経営していた人物なのだ。つまりこの設定もアパトーにとっては「母方の家業を継いでいたら、こうなっていたかもしれない」というもう一つのリアルな現実なのだ。 映画の中では、こうした課題の数々は完全に解決されることはない。社運を賭けた英国のベテラン・ロッカー、グレアム・パーカー(本人が好演!)のアルバムが失敗に終わって、ピート一家はマイホームを売りに出さざるをえなくなる。その過程で夫婦の想いはすれ違い、ピートはデビーからこんな問いを投げかけられてしまう。 「もし14年前にわたしが妊娠しなかったら、今でも一緒にいたかしら?」 夫婦喧嘩の最中にレスリーから絶対言われたことがあるに違いない強烈な言葉だ。その言葉の前にピートは黙り込んでしまう。おそらくアパトーも同じ反応をしたのだろう。でも人生とは選択の積み重ねであり、過去に戻ることは出来ない。それを二人が受けとめるエンディングはほろ苦くも暖かい。 『40歳からの家族ケーカク』で自分の現在を描ききったからだろうか。これ以降アパトーがひとりで脚本を書いた作品は存在しない(最新監督作『Trainwrecking』(15年)は主演のエイミー・シューマーが脚本も書いている。但し親の介護や音楽ネタには監督アパトーの影を強烈に感じさせる)。現在レスリー・マンはコメディ女優として大成功を収めており、娘のモードとアイリスもテレビドラマで両親譲りの才能の片鱗を見せはじめている。 映画作家としては徹底して個人の体験にこだわり続けるアパトーが、将来再び脚本も単独で手がけた監督作を発表することがあるなら、その作品の主人公は、成長した娘たちに旅立たれた老いた夫婦になるのではないだろうか。そしてその際に夫婦を演じるのはきっとポール・ラッドとレスリー・マンにちがいない。 ©2012 Universal Studios. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2016.03.15
男たちのシネマ愛⑤愛すべき、極私的偏愛映画たち(4)
なかざわ:続いて「テイル・オブ・ワンダー」(注42)に移りましょう。 飯森:これまた思い入れの強い映画でしてね。最初に申し上げた、SDで素材に難あり、というのはこの映画のことで、これはお客さん以上に、この映画に思い入れがある担当の僕自身が一番残念です!モスフィルム(注43)さんは本作のHDテレシネをしていないんですが、ただ、それでも構わないから今回放送したかった。このまま「風と共に去りぬ」(注44)じゃないけれど「VHSと共に去りぬ」っていう映画にしてなるものか!と思うほど、強い思い入れがあるんです。僕は大学時代、日本屈指の新宿TSUTAYAを利用していて、もちろんVHS時代でしたが、そこにはロシア・東欧映画コーナーがあったんですよ。僕は大学でロシア・東欧が専攻だったので、そこでいろんな映画を借りて見ました。その中で最も気に入った作品がこの「テイル・オブ・ワンダー」だったんです。当時はロシアや東欧に対して愛着があったせいか、そうした映画を見ているとひいき目に評価してしまう傾向があった。ハリウッド映画には負けるかもしれないけれど、なかなかどうして頑張っているじゃないか!みたいな。今となっては、なんで観客の方からわざわざ歩み寄って甘く採点しなくちゃいけないのか意味が分かりませんけどね。金払ってんだから映画の方が俺にサービスしろよと(笑)。しかし、この映画はえこひいきするまでもなく完膚なきまでに面白くて、ソ連時代のロシアでこんなに凄い映画があったのかと衝撃を受けました。幼い姉と弟のきょうだい愛であったり、ファンタジックなストーリーであったり、感動を盛り上げる美しいテーマ音楽であったり、流麗なカメラワークであったりと、どれを取っても一級のエンターテインメントに仕上がっています。 なかざわ:さらわれた弟を探して姉が冒険の旅をするという話ですが、これってベースになっているのはアンデルセン(注45)の「雪の女王」(注46)ですよね。いうなればバリエーション的な作品。「雪の女王」の場合はきょうだいじゃなくて幼なじみでしたけど、さらわれた男の子を勇敢で意志の強い少女が探し出すという設定は同じ。「雪の女王」は1957年にロシアでアニメ化されていて、日本の宮崎駿監督(注47)にも影響を与えたとされています。 飯森:そもそもロシアという国自体も民話や昔話が名物ですよね。ロシア語ではСказка(スカースカ)と言いますが。ちなみにMärchen(メルヘン)はドイツ語。 なかざわ:実際、ロシアでファンタジー映画といえば殆どが民話を原作にしています。アレクサンドル・プトゥシコ(注48)監督の「石の花」(注49)とか。 飯森:プトゥシコだと「豪勇イリヤ 巨竜と魔王征服」(注50)というのもありました。日本でいうヤマトタケルみたいな民族の英雄譚で、エキストラにソ連軍も動員した大スペクタクルでした。ロシアの邪馬台国と言うべきキエフ・ルーシを舞台にしていて、我々にもおなじみの中世ヨーロッパとは明らかに違う武器防具、衣装、城郭が見られ、それを見ているだけでエキゾチックで全く飽きなかった。専攻だったから。大学で専攻するほど興味関心がないと…まぁ、ちょいキツい映画かもしれませんね。ストーリーは単なる昔話で桃太郎みたいな話ですから。あとは総合監督を務めた「妖婆・死棺の呪い」(注51)。こっちはカルト・ホラーとして日本でも一部で人気ですよね。女吸血鬼と思しきコサックの死せる娘が、やたらと美人でね。あと、ヒエロニムス・ボッシュ(注52)的な魑魅魍魎のイメージが、なんともケイオティックで凄まじかった!ケイオスの魔物が幽冥界から溢れ出てくるそこがクライマックスで、あのイメージは圧巻でした。 なかざわ:ただ、ロシアでは昔からファンタジー映画は子供向けのジャンルで、大人が観るものじゃないという偏見も強いんです。だから、確かにソ連時代からロシアでファンタジー映画はコンスタントに作られてきたけれど、その多くが見るからに子供向けです。しかし、この「テイル・オブ・ワンダー」は大人の鑑賞にも耐えうる作品に仕上がっている。そういう意味で、非常に珍しいなと思いますね。 飯森:日本でも「ロード・オブ・ザ・リング」(注53)シリーズなどを「絵空事を描いた映画なんて見ても時間の無駄。本当の人間を深く描いた、上質なドラマこそ見たい」とか言っちゃってる人って、結構いるじゃないですか。まあ個人の趣味なのでそれはそれでいいですよ。上質な人間ドラマは僕も当然良いと思いますから。でも、ファンタジー映画を下等で幼稚なものとして否定されちゃうと、「そぉれぇはぁどうかなぁ!」と、声を大にして反論したい。人間が頭の中でどれだけの空想や虚構を組み立てられるのか、そこがファンタジーの醍醐味ですよね。J・R・R・トールキン(注54)なんて凡人の千倍くらいは想像力があるんじゃないかと思えるような緻密さじゃないですか。それはもはや、一つの芸術ですよ。エルフ語なんていう言葉まで作っちゃうわけだから。しかも、デタラメじゃなくて、本職がオックスフォード大学の古言語の教授ですからね。それが架空の言語の文法体系を一つ作っちゃう。人間の想像力の素晴らしさ、限界のなさに圧倒される。それが、ファンタジー映画を見る意味でしょう。 なかざわ:イマジネーションの世界を楽しめるくらいの余裕というか、感受性みたいなものは大人になっても身につけておきたいですよね。 飯森:とにもかくにも、ロシアは立派なメルヘン大国。日本人だとグリム兄弟(注55)のドイツや、アンデルセンのデンマーク辺りを連想する人が多いかもしれませんけれど、僕が子供だった’70年代には左寄りの出版社がまだ多かったからなのか、「イワンのばか」(注56)などロシア民話の絵本が結構出ていました。実際、ドイツやデンマークに負けないくらい有名な民話が沢山あるんです。そんなおとぎ話大国ロシアの作ったファンタジー映画。ゴールデンタイムの目玉番組として放送しても恥ずかしくない、堂々たる娯楽大作だと思いますよ。画質が汚すぎて無理ですけど。 なかざわ:主役の女の子タチアナ・アクシュタ(注57)も可愛いですしね。彼女はちょうど当時のロシアで旬な女優さんだったんですよ。この作品の前に、現代ロシア版ロミオとジュリエットみたいな青春映画で高校生のヒロイン役を演じてブレイクしたんです。 飯森:え? 彼女って当時幾つだったんですか? 僕は12歳か13歳くらいかと思ったんですけど。 なかざわ:この作品の撮影当時で25歳くらいですよ。確か1957年の生まれですから。 飯森:えええええ!?…ちょっと言葉を失ってしまいました。大衝撃ですよ。ロリ顔とかいうレベルの話じゃないですね。でも、そう言われると成長してからのシーンで老けメイクみたいなものをしてませんよね。 なかざわ:髪型で演じ分けていますね。幼い頃は前髪を下げているけれど、成長してからはおでこを出している。それで大人っぽく見せているんですよね。とにかく、僕もこれはロシア産ファンタジー映画の入門編として見て欲しいと思いますね。 飯森:ちなみに監督はアレクサンドル・ミッタ(注58)。栗原小巻(注59)さんが出ていた「モスクワわが愛」(注60)とか「エア・パニック-地震空港大脱出-」(注61)などでも知られている。巨匠ではないかもしれないけれど、日本でも比較的知名度の高い監督だと思います。 なかざわ:ジャンルを問わずきちんと仕事をする職人監督ですね。 注42:1983年制作、ソビエト映画。アレクサンドル・ミッタ監督、タチアナ・アクシュタ主演。注43:1923年に創設された旧ソ連の映画スタジオで、日本で知られるソ連・ロシア映画の多くがここで制作された。注44:1939年制作、アメリカ映画。南北戦争を背景に、農園主の令嬢スカーレット・オハラと一匹狼の紳士レット・バトラーの波乱に富んだ恋愛を描く。アカデミー賞9部門受賞。ヴィクター・フレミング監督、ヴィヴィアン・リー主演。注45:ハンス・クリスチャン・アンデルセン。1805年生まれ。デンマークの童話作家。代表作は「人魚姫」「みにくいアヒルの子」「マッチ売りの少女」など。1875年死去。注46:1844年発表。雪の女王にさらわれた少年カイを探して、友達の少女ゲルダが旅をする。注47:1941年生まれ。日本のアニメ監督。代表作は「風の谷ナウシカ」(’84)、「となりのトトロ」(’88)、「魔女の宅急便」(’89)、「もののけ姫」(’97)など。注48:1900年生まれ、旧ソ連映画界を代表する、ストップモーション・アニメと特撮映画のクリエーター。1973年死去。注49:1946年制作、ソビエト映画。ロシアのウラル地方の民話を基にしている。ウラジーミル・ドルジニコフ主演。注50:1956年制作、ソビエト映画。ソ連初のシネマスコープ長編映画で、大量のエキストラや馬を動員したスペクタクル・シーンや、後に日本のキングギドラに影響を与えた巨竜の造形など見どころが多い。VHSリリース時のタイトルは「キング・ドラゴンの逆襲/魔竜大戦」。注51:1967年制作、ソビエト映画。神学生が魔女を退治したところ、後日、その魔女から臨終に立ち会うよう指名された神学生が、恐怖を味わう。ナタリーア・ヴァルレイ出演。注52:15世紀北方ルネサンスの画家。絵画史上は初期フランドル派に分類される。異様な怪物たちを細かく描き込んだ妖怪画を得意とする。注53:2001年制作、アメリカ・ニュージーランド合作。J・R・R・トールキン原作の「指輪物語」を映画化。ピーター・ジャクソン監督、イライジャ・ウッド主演。注54:1892年生まれ。イギリスの作家・詩人。代表作は「ホビットの冒険」と「指輪物語」。1973年死去。注55:19世紀ドイツの童話作家。兄ヤーコブは1785年生まれ、1863年死去。弟ヴィルヘルムは1786年生まれ、1859年死去。「グリム童話集」が世界的に有名。注56:1885年にロシアの作家レフ・トルストイが発表した民話。注57:1957年生まれ。ロシアの女優。代表作は「夢にも見てはいけない…」(‘81・日本未公開)と「テイル・オブ・ワンダー」(’83)。注58:1933年生まれ。ロシアの映画監督。ソビエト・日本の合作映画を幾つも手がけるなど、日本との縁も深い。注59:1945年生まれ。日本の女優。代表作は「忍ぶ川」(’72)、「サンダカン八番娼館 望郷」(’74)、「ひめゆりの塔」(’82)など。ロシアでの人気も高かった。注60:1974年制作、ソビエト・日本の合作。モスクワへ渡った日本人バレリーナと現地の青年芸術家とのロマンスを描く。アレクサンドル・ミッタ監督、栗原小巻主演。注61:1980年制作、ソビエト映画。旅客機パニックを描くロシア版「エアポート」シリーズ。アレクサンドル・ミッタ監督で、栗原小巻が特別ゲストとして出演。 次ページ >> ラスト・ウェディング 『愛すれど心さびしく』TM & © Warner Bros. Entertainment Inc. 『マジック・クリスチャン』COPYRIGHT © 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 『ラスト・ウェディング』©2016 by Silver Turtle Films. All rights reserved. 『ビザと美徳』©1997 Cedar Grove Productions. 『暗い日曜日』LICENSED BY Global Screen GmbH 2016, ALL RIGHTS RESERVED