ニューヨーク。人材スカウトのジェイミーは、ロサンゼルスで生まれ育ったアートディレクターのディランを雑誌「GQ」のためにヘッドハントすることに成功する。これをきっかけに飲み友達になる二人だったが、互いに恋人と別れたばかりなことを知って「恋愛関係には絶対ならない」ことを条件にセフレに。だがそれぞれが沸き起こる感情を否定しようとしたことから、二人の仲はこんがらがりはじめてしまい……。

 大勢の人が集まる大都会。でも皆忙しいから恋人を見つけることは難しい。そして恋愛がいつか終わりを告げることを考えると、そうした関係はなかなか面倒臭いものである。でもセックスはしたい ……。こうした現代の恋愛事情を、フラッシュ・モブやアプリといった今どきのツールを交えて描いたロマンティック・コメディが『ステイ・フレンズ』だ。

 監督は、『小悪魔はなぜモテる?!』(10年)のヒットによって、新世代のコメディ作家と目されるようになったウィル・グラック。エマ・ストーンが映画冒頭でディランを振るガールフレンドとして特別出演しているのは、彼女が『小悪魔』の主演女優だからだ。こんな小さな役でもスターのエマが出演してくれるということは、グラックに「この人と仕事を続けたい」と思わせる才能と人間的な魅力が備わっているのだろう。本作でもグランド・セントラル駅やタイムズスクエアといったニューヨークの名所の風景や、水上ボートの疾走シーンを盛り込んで映像にメリハリを付けているところに彼の才能を感じる。

 とはいえ、プロットの関係上、ベッドシーンが多くを占める本作において、最も重要なのは主演のふたりだ。しかも大画面に耐える美しいボディを備えながら、ユーモラスに見せなければいけないのだから、下手な文芸大作よりも演じるのが難しい。この難しい役に抜擢されたのがジャスティン・ティンバーレイクとミラ・クニスだった。

 音楽活動におけるスーパースターのイメージの方が断然強いティンバーレイクだけど、レコーディングやツアーの合間に俳優活動も精力的に行っている。『TIME/タイム』(11年)や『ランナーランナー』 (13年)といった主演作のほか、『ブラック・スネーク・モーン』 (06年)や『ソーシャル・ネットワーク』 (10年)、『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』 (13年)などでは脇で光るキャラを演じたりと、シンガーの余技を超えた演技力を持つ男だ。

 コメディへの取り組みも「イケメンがちょっとふざけてみました」というレベルを遥かに超えている。ティンバーレイクはこれまで老舗お笑い番組『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』で5回司会を担当しているのだが、40年以上の歴史で16人しかいない「司会を5回以上務めたスター」の中で80年代以降に生まれたのは彼だけだ。

 この番組を通じて、レギュラー出演者だったアンディ・サムバーグ(ミラ・クニスを振る男として本作冒頭にゲスト出演していのが彼だ)とは親友となり、ふたりで演じたデジタルショート(ビデオ撮りのネタ)の数々は名作として『SNL』の歴史に輝いている。

 また『SNL』出身のレジェンドであるマイク・マイヤーズとは、『シュレック3 』(07年)と『愛の伝道師 ラブ・グル 』(08年)で共演。ここで伝授された笑いのノウハウを、元カノのキャメロン・ディアスとリユニオンした『バッド・ティーチャー』 (11年)では全開させていたりと、「安心してコメディを任せられる」俳優としてハリウッドで認められているのだ。本作でも仕事が出来るイケメン設定でありながら、スイカを食べて下痢したり、数字の計算が超苦手というキャラをイヤミなく演じてのけている。

 そんなティンバーレイクに対するヒロインを演じているのがミラ・クニスだ。彼女のことを知ったのがナタリー・ポートマンのライバルを演じたダーレン・アロノフスキー監督のバレエ映画『ブラック・スワン』(10年)という映画好きは多いはずだ。世界的にもそうした認識だったのか、この作品でミラは第67回ヴェネツィア国際映画祭で新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞しているのだが、この快挙にアメリカ人は笑い転げたはずだ。

 というのも、彼女は70年代を舞台にしたレトロ調テレビ・コメディ『ザット'70sショー』(98〜06年)で人気者になってから既に10年以上のキャリアを誇っていたからだ。同じ頃始まったアニメ『Family Guy』(99年〜)に至っては、一家の長女メグの声優を今なお務め続けている。

 この番組のクリエイターだったのがセス・マクファーレン。彼が映画進出作『テッド』(12年)のヒロイン役にミラを指名したのは、長年の共演から得た彼女のコメディ・センスへの信頼感ゆえだったのだ。そのセンスは本作以外でも、ジェイソン・シーゲル(今作の劇中映画に特別出演している)と共演した『寝取られ男のラブ♂バカンス』(08年)や『デート & ナイト』(10年)といったコメディでも十二分に発揮されている。

 このふたりを中心に、ウディ・ハレルソンやパトリシア・クラークソン、リチャード・ジェンキンズといったオスカー受賞/ノミネート俳優たちが周辺に配され、それぞれ同性愛者、恋愛依存症、アルツハイマー病患者を演じることによって、映画には重層的な視点が加わっている。それによって映画では人生を謳歌する術としてのセックスが語られる。だから本作、下ネタ満載でエッチではあるけど全然いやらしくはないのだ。

 とはいえ、本作を観ても、セフレから本当の恋人になるなんて、映画の中だけの絵空事と思うかもしれない。でも実際にそうしたことが起きるのだ。その証拠に格好の具体例を挙げてみよう。

 『ステイ・フレンズ』と同じ年に、ベテランのアイヴァン・ライトマンが監督した『抱きたいカンケイ』というやはりセフレを題材にしたロマンティック・コメディが公開されている。主演は、ミラがライバル役を演じた『ブラック・スワン』(10年)の主演女優ナタリー・ポートマン、そしてアシュトン・カッチャーだった。

 カッチャーは、日本では『バタフライ・エフェクト』(04年)や『ベガスの恋に勝つルール』(08年)、伝記映画『スティーブ・ジョブズ』(13年)で知られている俳優だけど、元々の出世作はミラと同じ『ザット'70sショー』である。しかもそこで彼が演じていたマイケルは、ミラ扮するジャッキーとくっついたり別れたりを繰り返していたのだった。ふたりの相性があまりに良かったことから、番組のファンは私生活でも付き合って欲しいと願っていたそうだが、この時点ではふたりは単なる仲の良い友人同士だった。

 ところが『ステイ・フレンズ』と『抱きたいカンケイ』が公開された翌年、ふたりの関係は急展開する。ある授賞式でふたりは久しぶりに再会。ミラが長年交際していた『ホーム・アローン』の名子役マコーレー・カルキンと別れたばかり、カッチャーが05年に結婚したデミ・ムーアと破局したばかりなことを知ったふたりは、「昔から知ってる仲間だから友情が壊れることもない」とセフレになったのだ。でも映画同様、ふたりとも相手が別の人間とデートするのを嫌がるようになり、12年には真剣交際を開始。ウィル・グラックが監督したリメイク版『ANNIE/アニー』に揃ってカメオ出演した14年には婚約および第一子が誕生。15年には正式に結婚している。現在ミラはカッチャーとの第二子を妊娠中だ。セフレから生まれる真実の愛は実在するのである。

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