2001年、クリスマス・イブのニューヨーク。両親を事故で失ったイーサン(ジョゼフ・ゴードン・レヴィット)を励まそうと友人のアイザック(セス・ローゲン)とクリス(アンソニー・マッキー)が集まったことから、その恒例行事は始まった。ロックフェラー・センターのクリスマス・ツリーを見物して、中華を食べ、カラオケ屋で歌いまくる三人だけのクリスマス・パーティだ。
しかし時は流れ、アイザックは出産寸前の妻を持つ弁護士、クリスはアメフト界のスターに。恒例のパーティも2015年で終了ということに決まったのだった。そんな中、相変わらず定職も持たずフラフラしているイーサンは、長年探し求めていたものを偶然ゲットする。それは選ばれた者しか招待されない秘密のクリスマス・パーティ「ナットクラッカー・ボウル(くるみ割り舞踏会)」のチケットだった。喜ぶイーサンはふたりを誘って出かけることに。ところがアイザックが持ち込んだドラッグが事態を思わぬ方向に導いていき……。
クリスマスを題材にした映画は沢山あるけど、本作『ナイト・ビフォア 俺たちのメリーハングオーバー』もその伝統を受けついだコメディだ。監督と原案は『ウォーム・ボディーズ』(13年)のジョナサン・レヴィン。彼の出世作『50/50 フィフティ・フィフティ』(11年)に出演していたジョゼフ・ゴードン・レヴィットとセス・ローゲンのリユニオン作でもある。
残るひとりのアンソニー・マッキーは『デトロイト』(17年)など、本来はシリアス路線多めの俳優だが、空飛ぶスーパーヒーロー、ファルコンを演じる「マーベル・シネマティック・ユニバース」の一編『アントマン』(15年)ではローゲンと親しいポール・ラッド扮するアントマンとユーモラスな絡みを見せており、本作でも抜群のコメディ・センスを見せている。
またヒロインのダイアナを演じるリジー・キャプランは、ジャド・アパトーが製作した伝説のテレビ番組『フリークス学園』(99〜00年)で共演して以来、ローゲンとは友人同士。ローゲン監督兼主演作『ザ・インタビュー』(14年)では同番組出身のジェームズ・フランコの相手役を務め、『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』(16年)ではジェームズの弟デイヴの相手役を演じている。
おまけにローゲンの妻役を演じるジリアン・ベルも、ローゲンの弟分ジョナ・ヒルが主演した『22ジャンプ・ストリート 』(12年)で名を挙げたコメディ女優だったりする。このため、映画全体がまるで仲間内で開かれたクリスマス・パーティのようなヴァイブスに満ちているのが印象的だ。そんなわけで本作、理屈なしで楽しめる映画ではあるのだけど、さらに楽しめるように幾つかトリビア的なチェック・ポイントを紹介しておきたい。
ひとつめは過去のクリスマス映画の傑作へのオマージュ。映画内でその種明かしをする役目を果たすのが<ブロード・シティ>の片割れとして知られる女性コメディアン、イラナ・グレイザー演じる謎の女レベッカだ。クリスマスを憎んでいる設定の彼女はこんな発言をする。 「あたしが尊敬しているのは『ホーム・アローン』の泥棒と『ダイ・ハード』のハンスよ」 前者はジョン・ヒューズが製作と脚本、クリス・コロンバスが監督を務めたキッズ・ムービーの古典で、クリスマス・シーズンにひとり自宅に取り残されながら泥棒を撃退する少年を描いたメガヒット作だ。『ナイト・ビフォア』ではマリファナを奪ったレベッカを追いかけるクリスがコケるシーン、そしてアイザックが久しぶりに手に持った携帯に着信が96件も入っていることを知ってビックリするときのポースが『ホーム・アローン』のパロディになっている。
もう一本の『ダイ・ハード』は、強盗団に占拠されたビル内でひとり立ち向かう刑事を描いたブルース・ウィリス主演のアクション大作。クリスマス・パーティの真っ只中に事件が発生する設定のため、劇中では様々なクリスマス・ソングが流れる。『ナイト・ビフォア』の劇中で三人が熱唱するランDMCのラップ・ナンバー「クリスマス・イン・ホリーズ」も元は『ダイ・ハード』で流れた曲のひとつだ。
またレベッカが尊敬する人物として挙げた<ハンス>はその強盗団のリーダーで、演じた故アラン・リックマンにとっては『ハリー・ポッター』シリーズでスネイプ先生を演じるまで代表作とされていた悪役。レベッカがビルから落ちるシーンは、ハンスの死亡シーンのまんまパロディになっている。
ついでに言うとレベッカが「あたしはグリンチなんだ」と己を喩える<グリンチ>はドクター・スースが57年に刊行した絵本『いじわるグリンチのクリスマス』 の主人公で、クリスマスが大嫌いなモンスターの名前。00年にジム・キャリー主演で映画化されているので、そちらもチェックして欲しい。
二つ目のチェック・ポイントは、イーサンがほかの二人に無理やり着せるダサい柄モノのセーター。これは<アグリー・クリスマス・セーター>と呼ばれるもので、元々おばあちゃんがプレゼントとして孫にあげるような手編みのクリスマス・セーターがルーツなのだが、『ブリジット・ジョーンズの日記』(01年)でコリン・ファースが着たあたりから再注目され、クリスマスに敢えて悪趣味なデザインのセーターを着ることが流行になったものだ。『ナイト・ビフォア』で三人がセーターの柄を他人からあまりツッコまれていないのは、こうした背景があるからだ。
三つ目のチェック・ポイントは、アイザックが着ているそのアグリー・クリスマス・セーターが示している。描かれているのは<ダビデの星>。イスラエルの国旗にも用いられているこのマークはユダヤ民族のシンボルマークでもある。クリスマスはキリストの誕生を祝うイベントなので、通常ユダヤ教徒は祝わない。代わりにこの季節、彼らは紀元前1世紀にユダヤ人がセレウコス帝国(現シリア)からエルサレムを奪回した故事を祝って<ハヌカ>と呼ばれる行事を行う(ていうか、後発のキリスト教がハヌカにぶつける形でキリストの誕生をこの時期に設定した可能性が高い)。つまりダビデの星柄のアグリー・クリスマス・セーターというのはその存在だけでギャグなのだ。
もちろんアイザックが成り行きでキリスト教会の深夜ミサに参列したり、そこで「俺たちはキリストを殺していない!」と絶叫する(キリストはユダヤ人だが、同胞に密告されて死刑になったとされている)のもギャグである。もちろんセス・ローゲン自身がユダヤ系だから、こうしたギャグが許されることを言い添えておきたい。
四つ目のポイントは豪華なゲストたち。マイリー・サイラスが本人役で「ナットクラッカー・ボウル」に登場して大ヒット曲「レッキング・ボール」を熱唱するほか、ローゲンの盟友ジェームズ・フランコが思わぬ形で<ジェームズ>役で参戦する。アイザックとやたらイチャイチャするのは、ローゲンとフランコの仲良しぶりのパブリック・イメージをデフォルメしたものだろう。
マイケル・シャノンの怪演も特筆しておきたい。『マン・オブ・スティール』(13年)のゾッド将軍や『ノクターナル・アニマルズ』(16年)の鬼刑事アンデスといった強面の役を得意とする彼が本作で演じるのは、謎めいたヤクの売人<ミスター・グリーン>。本作のストーリーの鍵を握っているのは、高校時代から三人にヤクを売り続けてきた彼なのである……といっても、そこに深い理由や哲学はないわけだけど。なぜなら本作は楽しさ最優先のパーティ・ムービーなのだから。
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