本当は面白い! アメリカンコメディ 本当は面白い! アメリカンコメディ

アメリカのコメディは日本人にはつまらない・・そんなの都市伝説だ!ザ・シネマでは毎月1本、厳選したアメリカン・コメディをお届け!
アメリカン・コメディの第一人者である長谷川町蔵さんによるコラムと共にご紹介します。アメリカン・コメディ界の人物録も必見!

【アメリカン・コメディ】パパVS新しいパパ

長谷川町蔵

ウィル・フェレルの歴代主演作、第二位の興行収入を記録する、大ヒット(北米で)コメディ!

 ラジオ局で働くブラッド(ウィル・フェレル)は、ディランとメーガンというふたりの子を持つサラ(リンダ・カーデリーニ)と結婚することによって、父親になる夢を叶えて大喜び(彼はある手術の後遺症で子どもが作れない体質になっていたのだ)。生真面目な性格とダサいルックスが災いして子どもたちからは未だに父親とは認めてもらえていなかったものの、それなりに充実した日々を送っていた。  だがそんなところに音信不通となっていた子どもたちの実父ダスティ(マーク・ウォールバーグ)が大型バイクに乗って颯爽と登場。「国のために極秘で戦っている」と語るクールな彼に、子どもたちはもちろん職場の上司(トーマス・ヘイデンチャーチ)までもがハートを掴まれてしまう。ついでにあれほどダスティを嫌っていたサラの態度までもがなんだかおかしい……。信じがたい光景を目の当たりにしたブラッドは、周囲のリスペクトを取り戻そうと(いや、元々ないんだけど)ダスティに不毛な勝負を挑むのだが……。  『パパVS新しいパパ』(2015年)は、そんなプロットだけで、すでに面白さが保証されているファミリー・コメディだ。主演はウィル・フェレルとマーク・ウォールバーグ。すでに『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』(2010年)で共演しているけれど、あのときはふたりとも窓際部署の刑事で親友同士という役柄だった。でも今回のキャラクターで正反対。ふたりはライバルとして子どもの愛を巡ってバトルを繰り広げるのだ。  ウォールバーグは『テッド』(2012年)をはじめとするコメディ映画でも煌めきを見せている人ではあるけど、本作では敢えて『ザ・シューター/極大射程』(2007年)や『ローン・サバイバー』(2014年)といったシリアス・アクション映画に出演しているときの雰囲気でダスティ役を演じている。つまり彼は自分をセルフ・パロディしているわけだ。そんなシリアス・ムードのウォールバーグに次々と戦いを仕掛けて案の定、無様に敗北を積み重ねていくフェレルが最高におかしい。木の上に巨大なツリーハウスを作り、入手困難なNBAの試合のチケットを調達してくるダスティに対して、ガールスカウトの隊長や教会のボランティアなどで必死にポイントを稼ごうブラッドの姿には笑うしかない。  観客は思うはず。「ブラッドがダスティに勝てるわけないじゃないか!」だって彼が継父ならともかく実の父親でもあるのだから。しかしブラッドはある出来事をきっかけに、子育てへの情熱で劣勢を挽回していく。そう、父親とは血縁がある男でも器用な男のことでもない。「いかなる時でも子どもを学校や水泳教室に送り届ける責任感を持っている男」のことを呼ぶのだ。こうしたメッセージは、離婚率も再婚率も日本より随分高いアメリカ社会を反映したものだけど、アメリカの観客が納得するこうした結論まで、ストーリーを持っていく手際は鮮やかというしかない。  ふたりに挟まれる女性サラを演じるリンダ・カーデリーニについても触れておきたい。『アベンジャーズ』シリーズのホークアイの妻ローラ役やネットフリックス製作のドラマ『BLOODLINE ブラッドライン』(2015〜2018年)で顔を知っている映画ファンは多いだろう彼女だけど、実はちょっとしたコメディ・レジェンドでもある。というのも、カーデリーニこそがジャド・アパトーが製作総指揮、ポール・フェイグがクリエイター、ジェイク・カスダンらが監督を務め、セス・ローゲン、ジェームズ・フランコ、ジェイソン・シーゲル、ビジー・フィリップス、リジー・キャプラン、そして現在は俳優としてよりも『モンスター上司』(2011年)や『お!バカんす家族』(2015年)、『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)の脚本家として活躍しているジョン・フランシス・デイリーといった才能を輩出した伝説のテレビコメディ番組『フリークス学園』(1999〜2000年)で主人公リンジーを演じていた女優だからだ。  こうしたコメディのエリート養成学校のような環境で世に出ながら、カーデリーニはコメディから一歩距離を置いて『ER緊急救命室』(2003〜2009年)や『ブロークバック・マウンテン』(2005年、劇中で故ヒース・レジャーといっとき交際する人生に倦んだ女性役は絶品)など専らシリアス路線でキャリアを構築してきたのだが、今作では『スクービー・ドゥー』二部作(2002〜2004年、)以来の本格的なコメディ演技を披露。このジャンルに必要な間の取り方、タイム感覚はやはり絶妙なものがある。 『スクービー・ドゥー』二部作の脚本家だったショーン・ガンが、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ(2014年〜)を手がける前に監督したカルト作『スーパー!』(2010年)にも友情出演していることを考えると決してお笑いの世界に興味がないわけはないはず。ガンとのコンビでマーベル以外の世界でコメディ映画を作って欲しいと思わずにはいられない。  なお監督兼脚本のショーン・アンダーズは、インディで製作した『Never Been Thawed』(2005年)をきっかけに学園コメディ『セックス・ドライブ』(2008年)でメジャー・デビューを果たした人物。ジョン・キューザックが主演した80年代へのオマージュ溢れる『オフロでGO!!!!! タイムマシンはジェット式』(2010年)とアパトー・ギャングの一員ジェイ・バルチェルが主演した『ある日モテ期がやってきた』(2010年、『デッドプール』シリーズでおなじみのT.J.ミラーの若き日も楽しめる)の脚本家として注目され、『なんちゃって家族』(2013年)の大ヒットによってコメディ界のVIPライターになった男だ。  しかも動物コメディ『空飛ぶペンギン』(2011年)で仕事をしたジム・キャリーの誘いで、彼の出世作の待望の続編『帰ってきた Mr.ダマー バカ MAX!』(2014年)の脚本に参加し、アダム・サンドラーがアンディ・サムバーグと共演した『俺のムスコ』(2012年)では監督を任されるなど、コメディ界の巨人たちにも認められている実力派でもある。  ジェイソン・ベイトマン、ジェイソン・セダイキス、チャーリー・デイの三人がジェニファー・アニストンらからパワハラを喰らいまくる大ヒット作の続編『モンスター上司2』(2014年)では監督兼脚本家として同作をヒットに導いており、その直後に手がけたのが本作となる。ブラッドが働いているラジオ局がアメリカではダサい音楽の象徴とされるスムーズ・ジャズ専門のラジオ局(しかも名前がザ・パンダ・ラジオ!)だったりするあたり、ファミリー・コメディの範疇を完全に超えたセンスを発揮。実はここがこのジャンルにとって重要。子連れで見に行く映画館のチケットを買うのは親の方だからだ。  そんなわけで笑いにうるさい大人も納得するギャグが散りばめられた『パパVS新しいパパ』は、北米だけで1億5000万ドルの興行収入を記録。これは『アザー・ガイズ』を上回るどころかウィル・フェレルの歴代主演作でも第二位の記録である(ちなみに首位は2003年の『エルフ 〜サンタの国からやってきた〜』)  本作のメガヒットを受けて、2017年の年末には『パパVS新しいパパ 2』が本国で公開。同作では友人同士になったブラッドとダスティが共同でクリスマス・パーティを開こうとしているところに、それぞれの父親(演じているのはジョン・リスゴーとメル・ギブソン!)がやってきて一家が大混乱に陥るというストーリーが展開されている。■   © 2018 Paramount Pictures.  

この記事を読む

【アメリカン・コメディ】テッド2

長谷川町蔵

テッドは「人間」なのか「所有物」なのか…モデルになった裁判も存在する、ちょっぴりシリアスなテーマも存在するシリーズ2作目。

ボストン。心を持ったクマのぬいぐるみテッドは、親友ジョン(マーク・ウォルバーグ)と恋人ロリー(ミラ・キュニス)のカップルを追うように、職場の同僚タミ(一応言っておくと人間の女性である)と結婚式を挙げた。でも当日ジョンは浮かない顔。というのも、ロリーとはすれ違い続きで離婚してしまったのだ。それから1年後、テッドはジョンの分まで幸せになった……かと思いきや、タミとは毎日喧嘩ばかり。ふたりは夫婦生活を立て直すために子ども持つことを決意する。でもぬいぐるみには子どもは作れない。考えた末、テッドは友人でもある『フラッシュ・ゴードン』の俳優サム・ジョーンズや憧れのアメフト選手トム・ブレイディに精子ドナーになってもらおうとするがいずれも失敗。見かねたジョンが精子提供を申し出たものの、過去のドラッグ濫用によってタミが不妊症になっていたことが発覚する。めげないテッドは養子を迎えようと紹介所に向かったが、これがトラブルを巻き起こす原因となった。審査の過程で、ぬいぐるみのテッドが人間同様の暮らしを送っていることが州から問題視され、職場からは解雇され、銀行口座を失い、タミとの結婚まで無効になってしまったのだ。困惑したテッドとジョンは、新米女性弁護士サマンサ(アマンダ・セイフライド)と組んで、マサチューセッツ州を相手にテッドに人格があることを認めてもらおうと訴訟を起こすが、サマンサの健闘虚しく敗北してしまう。三人は最後の希望をかけて高名な人権派弁護士パトリック・ミーガン(モーガン・フリーマン)に助けを求めようと、ニューヨークへと旅するのだが……。 鬼才セス・マクファーレンが製作、監督、脚本、ついでにテッドの声の四役を務めて世界中でメガヒットを記録した『テッド』の続編『テッド2』は、前作同様下ネタという名の弾丸が猛烈な勢いで連射される過激なコメデイに仕上がった。 精子バンクの保管室で棚にぶつかったジョンは精子まみれになるし、テッドが吸うマリファナ吸引パイプはペニス型。もちろんラストには“下ネタ界の真打ち”ウンコ絡みのギャグもある。過激なのは下ネタだけではない。今作の悪役は、前作の敵ドニー(ジョヴァンニ・リビシ)に、彼が清掃夫として働く大企業「ハズプロ」の副社長トム(ジョン・キャロル・リンチ)が加わった布陣。テッドの訴訟を知ったトムは、腕利き弁護士ジョン(ジョン・スラッテリー)を使って、テッドを敗訴させた上で分解して大量生産しようと企む。えっ、悪役ならそのくらいのことは企むだろうって? 実はハズプロはアメリカで売り上げ第二位を誇る実在のおもちゃメーカーなのだ(しかも本社は本当にボストン郊外にあるので、設定もおかしくない)。そんな失礼な描写をしているにもかかわらず、ハズプロの主力商品トランスフォーマーが画面に堂々と登場するのだからビックリしてしまう。普通ならハズプロから名誉毀損で訴えられてもおかしくないのに、逆に協力を取り付けてしまうマクファーレンの交渉力には感嘆するほかない。 こうしたマクファーレンの交渉力は、豪華なカメオ出演陣にも活かされている。 バーのトイレの中で待ち伏せしている変態はアメリカを代表する司会者ジェイ・レノだし、テッドの裁判を肴にジョークを言うのは夜の帯番組「ジミー・キンメル・ライブ!」で人気のジミー・キンメル。また公開当時、老舗お笑い番組「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」のレギュラー出演者だったボビー・モイニハン、タラン・キラム、ケイト・マッキノンが「SNL」内のスケッチという設定でテッドを茶化したコントを披露してくれる。なかでも最大級のインパクトを提供しているのが、テッドが働くスーパーマーケットに何故か子ども用シリアルを買いにくるリーアム・ニーソンだ。「大人なのに子ども向けを買っても問題ないか?」とテッドに大真面目に質問した上で、尾行を恐れながら去っていくそのキャラは明らかに『96時間』(2008年)をはじめとする一連のアクション映画を踏まえたもの。これにはもう笑うしかないという感じだ。『スタートレック』やジョン・ヒューズ作品、そしてゴジラまで至るポップ・カルチャーのパロディ尽くしの中で、フランク・シナトラを敬愛していることで知られるマクファーレンのオールド・ハリウッド趣味がしっかり反映されていることにも注目したい。テッドが踊るオープニング・シーンは『四十二番街』や『ゴールド・ディガース』(いずれも1933年)におけるバスビー・バークレーの振り付けを下敷きにしているし、テッドたちがニューヨークに到着すると同時に『百万長者と結婚する方法』(1953年)の挿入曲「ニューヨーク」が流れる。こうしたノスタルジックな嗜好が、単なる知識を通り越して血肉化しているのがマクファーレンの凄いところだ。その象徴が、劇中でサマンサがギターの弾き語りで歌う「Mean Ol' Moon」。1950年代にヒットしたスタンダード・ナンバーにしか聞こえないこの曲、実はマクファーレンと音楽担当のウォルター・マーフィが作った新曲だったりする。ミラ・キュニスの妊娠によってヒロインを演じることになったアマンダ・セイフライドだけど、このシーンでは『マンマ・ミーア!』(2008年)や『レ・ミゼラブル』(2012年)といったミュージカル映画で披露した自慢の喉を十二分に発揮している。 そんな下品で過激でノスタルジックなコメディ『テッド2』には、ちょっぴりシリアスなテーマも忍ばされている。裁判の中で、テッドは「人間(person)」なのか「所有物(peoperty)」なのかが延々と議論されるのだが、これにはモデルになった裁判が存在するのだ。 それこそが1857年に連邦最高裁で争われた「ドレッド・スコット対サンフォード事件」。南部で奴隷として生まれながら北部の自由州に引っ越したアフリカ系男性ドレッド・スコットが自らの解放を求めたこの裁判では、自由州においてスコットが人間なのか他人の所有物なのかが激しく論じられた。 最終的にドレッドの訴えは退けられてしまったのだが、その理由が「南部の州が奴隷制をおこなう自由を、北部の州が侵害するおそれがある」というあまりに非人道的なもっただったため、心ある人々は激怒。結果的にこれが南北戦争および奴隷解放に繋がっていったとされている。マクファーレンはテッドをドレッド・スコットになぞらえることで、アメリカにおける自由と平等の尊さをうたいあげてみせたのだ。奇しくも『テッド2』が全米で公開された2015年6月26日に、合衆国最高裁判所はアメリカが自由と平等の国であることを証明する判決を出した。法の下の平等を定めた合衆国憲法修正第14条にもとづき、すべての州における同性結婚を合憲としたのだ。これによってアメリカにおける同性カップルは異性のカップルと同じ権利を手にすることになった。初のアフリカ系大統領バラク・オバマがもたらした偉業のひとつといえるだろう。しかしそれからたった三年しか経っていないのに、現在のアメリカではドナルド・トランプ大統領のもとで自由と平等を否定するかのような反動の嵐が吹き荒れている。まるで南北戦争の結果、南部が勝利して奴隷制度が存続することになった平行世界に生きているみたいだ。そんなことを考えながら『テッド2』を観てみるのもいいかもしれない……基本的には精子とペニスとウンコのギャグがあくまでメインの映画ではあるけれど。■© 2015 MRC II Distribution Company, L.P. and Universal City Studios Productions LLLP. All Rights Reserved.  

この記事を読む

【アメリカン・コメディ】『ゴーストバスターズ1・2』

長谷川町蔵

1960年代末に始まったアメリカのお笑い革命のひとつの到達点。もはや社会現象だったメガヒット作。

ニューヨーク。名門コロンビア大学で超常現象を研究していたピーター(ビル・マーレイ)、レイ(ダン・エイクロイド)、スペングラー(ハロルド・ライミス)の三博士は、研究費を打ち切られたのをきっかけに幽霊退治会社「ゴーストバスターズ」を開業する。街のあちこちに出没する幽霊をハイテクパワーで除去しては賞賛を浴びるようになった彼らだったが、おりしも古代の邪神ゴーザがニューヨークを襲わんとしていた……。1984年に公開されたアイヴァン・ライトマン監督作『ゴーストバスターズ』は、アメリカン・コメディ映画史上でおそらく最も成功した作品だろう。「おそらく」と書いたのは、アメリカ国内の興行収入は『ホーム・アローン』(285百万ドル)、『ミート・ザ・フォッカーズ』(279百万ドル)、『ハング・オーバー』の第一作と第二作(それぞれ277百万ドル、254百万ドル)、そして『ブルース・オールマイティ』(242.8百万ドル)に次ぐ第6位(242.2百万ドル)だから。しかし公開年に注目して欲しい。『ホーム・アローン』は90年、ほかの作品はすべて21世紀の公開作である。映画館の入場料は今より随分安かったし、当時はシネコンが発達していなかったから全米でたった1506スクリーンでしか上映されていない(現在の大作は3000スクリーン以上で上映される)。にもかかわらずメガヒット。『ゴーストバスターズ』はまさに社会現象だったのだ。メガヒットの理由は、『スター・ウォーズ』旧三部作を手掛けた元ILMのリチャード・エドランドによるVFXとコメディを融合するという、前代未聞のアイディアを実現したこと。あれから30年以上が経過して流石にVFXのインパクトは薄れてしまったものの、それでも最高に楽しめてしまうのはコメディ映画として脚本と演技が練りこまれているからだ。そしてそれは決して突発的な産物ではなかった。『ゴーストバスターズ』は、1960年代末に始まったアメリカのお笑い革命のひとつの到達点なのだ。 革命は、名門ハーバード大学に通うダグラス・ケニーとヘンリー・ベアードによって始められた。 学内ジョーク新聞「ハーバード・ランプーン」で様々な時事ネタのパロディやショートストーリーを書きまくっていた二人は、1969年にユーモア雑誌「ナショナル・ランプーン」を創刊。それまで一部の大学生しか知らなかったエッジーな笑いを一般に向けて発信するようになった。ナショナル・ランプーンは大成功し、1973年にはラジオ番組やステージ・ショーに進出するように。このときパフォーマーとして雇われたのが、シカゴを拠点とする即興劇団「セカンド・シティ」の周辺にいたコメディアンだった。メンバーはチェヴィー・チェイス、ジョン・ベルーシ、ギルダ・ラトナー、クリストファー・ゲスト、ブライアン・ドイル・マーレイ、そしてハロルド・ライミスといった面々。コメディ映画好きなら分かると思うけど、80年代を牽引した才能の殆どがこの時点で結集していたのだ。彼らの人気に注目したテレビ局NBCは1975年、チェイス、ベルーシ、ラトナーを引き抜いて土曜日の深夜にコメディ番組を放映開始する。今なお続く『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』である。最年少キャストは当時弱冠23歳だったダン・エイクロイド。カナダ出身でセカンド・シティのトロント支部のメンバーだったエイクロイドは、本部に遊びにいったときにベルーシと意気投合、そのまま二人でSNL入りしていたのだ。番組は大ヒット。チェイスがハリウッドに引き抜かれると、代わりにブライアン・ドイル・マーレイの弟ビル・マーレイがレギュラー入りした。この体制は70年代末まで続き、幾多の伝説を残していった。「ナショナル・ランプーン」も劇映画に進出した。その第一弾が、ベルーシが主演、ダグラス・ケニーとハロルド・ライミスが脚本を書き、ジョン・ランディスが監督した狂乱の学園コメディ『アニマル・ハウス』(1978年)。この作品でプロデューサーを務めたのがアイヴァン・ライトマンだった。この後ライトマンは監督に転じ、ライミス脚本、ビル・マーレイ主演で『ミートボール』(1979年)と『パラダイス・アーミー 』 (1981年)を発表。またライミスもチェヴィー・チェイス主演の『ボールズ・ボールズ』 (80年)で監督業に進出した 。この作品にはビル・マーレイも出演している。さらにライミスはセカンド・シティのトロント支部のメンバーをフィーチャーしたカナダのコメディ番組『SCTV』に参加。この番組は米国でも放映され、ジョン・キャンディ、ユージン・レヴィ、キャサリン・オハラ、マーティン・ショート、リック・モラニスらレギュラー出演者が成功するきっかけを作った。一方、ベルーシとエイクロイドは1979年にSNLを卒業すると、ジョン・ランディスを監督に迎えて主演作『ブルース・ブラザーズ』(1980年)を発表する。ふたりが扮したR&Bデュオを主人公にした同作にはアメリカ黒人音楽への熱い愛が込められていた。ブルースの街シカゴ出身であるベルーシの歌があまりにもソウルフルなため、同作のアイディアはベルーシによるものと考えられがちだが、実は脚本を書いたのはディープな黒人音楽オタクであるエイクロイドの方だ。何しろこの人、そっち方面の趣味が高じてライブハウス・チェーン”House of Blues”を設立し、現在全米11箇所で営業展開する大成功を収めてしまっているほどなのだ。 そんなエイクロイドが行なっているもうひとつの副業が、骸骨の形をした瓶にウォッカを入れた「クリスタル・ヘッド・ウォッカ」である。このデザインのアイディアは、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(08年)にも登場した中南米の考古遺物クリスタル・スカルからヒントを得ている。彼はディープなオカルト・オタクでもあったのだ。黒人音楽満載の『ブルース・ブラザーズ』がメガヒットしたため、エイクロイドはベルーシとの新たな共演作として自身のオカルト趣味を反映させたコメディ映画の構想を練っていた。ところが82年にベルーシがオーバードーズで亡くなってしまう。かくして脚本は、旧友ビル・マーレイ、ライトマン、ライミスのチームのもとに持ち込まれ、脚本をブラッシュアップしたライミスがリック・モラニスの起用を進言してアメリカン・コメディ映画史上でおそらく最も成功した作品が誕生したのだった。 1989年には全く同じ布陣で続編『ゴーストバスターズ2』が公開。 『エイリアン2』(86年)と『愛は霧のかなたに』(89年)でトップ女優になったヒロイン、シガニー・ウィーバーの存在感が増していることも印象的だが、『ソフィーの選択』(82年)でシリアスな俳優として売り出されながらブレイクしなかったピーター・マクニコルに思いっきりコミカルな役を任せていることに注目したい。この役での好演があったからこそ、『アダムス・ファミリー2』(93年)やテレビ番組『アリー my Love』(97〜02年)における彼の大活躍が生まれたのだ。これほどのメガヒット作なので、『ゴーストバスターズ』続編の製作の計画はその後、幾度となく浮かぶあがってはいたものの、その都度頓挫。そうこうしているうちにゼロ年代にモラニスが俳優を事実上引退。ライミスも14年に亡くなり、オリジナル・キャストによる続編製作は幻に終わってしまった。こうした経緯があったため、新たに監督に就任したポール・フェイグの英断によってメインキャストをすべて女性にした2016年公開のリブート作は、ネット上で相当な物議を醸した。だが文句を言っていたオールド・ファンは『ゴーストバスターズ』を本当に理解していたとは思えない。なぜなら主演したクリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシー、ケイト・マッキノン、レスリー・ジョーンズは全員が今を代表するコメディ俳優。しかもマッカーシー以外は全員SNLのレギュラー経験者である。彼女たちこそが、お笑い革命の正統な継承者なのである。その事実は、マーレイやエイクロイドが同作に特別出演してお墨付きを与えていることが何よりも証明している。■『ゴーストバスターズ(1984)』© 1984 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. 『ゴーストバスターズ2』© 1989 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.  

この記事を読む

隣のヒットマン

長谷川町蔵

凝りに凝った脚本に、ブルース・ウィリスのコメディ・サイドが光るクライム・コメディ。当時まだ若手女優だったアマンダ・ピートのコメディ女優としての快進撃はここから始まった!

カナダのモントリオール郊外。歯科医のオズ( マシュー・ペリー)はシカゴ出身でありながら、妻の父が起こしたセックス&脱税絡みのスキャンダルによって愛する地元にいられなくなり、仕方なくこの街の病院で働いていた。それなのに、妻ソフィ(ロザンナ・アークエット)の浪費癖は改まることなく家計は破綻寸前。公私ともども冴えない彼は、病院の受付嬢ジル(アマンダ・ピート)にも同情される有様だった。そんなある日、オズの隣家にジミー(ブルース・ウィリス)と名乗る男が引っ越してくる。オズは、彼がシカゴを牛耳るマフィア組織の一員で、ボスを警察に売り渡して予定よりも早く出所することに成功したヒットマン“チューリップ”ことテュデスキの世を偲ぶ仮の姿だということに気づく。だが意外にも気さくな彼とウマが合い、友情らしきものを築くのだった。 しかしいよいよ破産寸前となったオズは、ソフィから「ジミーをマフィアのボスの息子ヤンニに引き渡せば大金を貰えること間違いなし。成功したら離婚してあげる」と迫られ、ヤンニの部下と接触するためにシカゴに行く羽目に陥ってしまう。 しかしオズの留守中にソフィが向かったのはテュデスキの家だった。彼女はオズが彼を売り渡そうとしていることをあっさり打ち明けてしまう。そう、ソフィの真の狙いはオズにかけた多額の生命保険金だったのだ。彼女のオズ殺害計画を知ったテュデスキは、ヤンニの部下で、実はテュデスキの親友フランキー( マイケル・クラーク・ダンカン)を介して「心配するな、俺たちの友情は壊れない」とオズを励ます。 だがオズは手放しでは喜べなかった。というのも、ヤンニのアジトで出会ったテュデスキの妻シンシア(ナターシャ・ヘンストリッジ)と恋に落ちてしまっていたからだ。シンシアはボスの秘密資金1000万ドルを預かっており、現金化するには彼女とテュデスキ、ヤンニ三人のサインもしくは死亡証明書が必要だった。大金を獲得するためならヤンニはもちろん、テュデスキも自分を殺すことを躊躇わないだろうと語るシンシア。果たして小市民のオズは、自分とシンシアに降りかかった絶体絶命のピンチを乗り切れるのだろうか……。 プロットをざっと書いてみるだけでも分かる通り、『隣のヒットマン』(2000年)は複雑な設定と、二転三転するストーリーによって、観る者のテンションを最後までマックス状態に維持し続けるクライム・コメディだ。 凝りに凝った脚本を書いたのは、これがデビュー作だったミッチェル・カプナー。それをモンティ・パイソンのエリック・アイドルが主演した『ナンズ・オン・ザ・ラン 走れ!尼さん』 (1990年) やメリサ・トメイにオスカーをもたらした『いとこのビニー』 (1992年) で知られる英国出身のコメディ職人ジョナサン・リンがタイトに仕上げている。 主演は、ブルース・ウィリス。このとき既にアクション映画界のスーパースターだった彼だけど、出世作だったテレビドラマ『こちらブルームーン探偵社』(1985〜89年)は探偵モノでありながら、パロディとマシンガン・トークを売りにしたコメディ仕立てのものだった。映画本格進出作の『ブラインド・デート』(1987年)にしてもブレイク・エドワーズ監督のロマ・コメだったし、スターダムに押し上げた『ダイ・ハード』(1988年)も実はアクションと同じくらいウィリスの軽口を楽しむ映画である。『隣のヒットマン』はそんな彼のコメディ・サイドをフューチャーするのにピッタリの企画であり、最初にキャスティングされたのも彼だった。そんな製作サイドの要望に忠実に、ここでのウィリスはシリアスとコミカルの狭間を行き交う演技で観客を惹きつけてみせる。 そんなウィリスが、相手役(そしてストーリー上は主人公)であるオズ役に当初から熱望したのがマシュー・ペリーだったという。当時のペリーは、驚異的な高視聴率を記録していたシットコム『フレンズ』 (1994〜2004年)のチャンドラー役でノリに乗っている時期であり、ウィリスは彼が持つ勢いを作品に持ち込めれば映画の成功は間違いないと思ったのだろう。 こうした彼の目論見にペリーは見事に応えている。リアクションがいちいち絶妙。しかも等身大のキャラを得意とする彼だからこそ、映画冒頭の冴えない姿から後半のヒーローへの変貌に、観客が喝采を叫べるというわけだ。またその活躍があくまで歯科医という設定を活かしたものであるところにも唸らされてしまう。 ウィリスとのコンビネーションという意味では、超能力者に扮したフランク・ダラボン監督作『グリーンマイル』(1999年)における演技が絶賛されたマイケル・クラーク・ダンカンも印象的だ。ダンカンはウィル・スミスをはじめとするハリウッド・スターのボディ・ガードから俳優に転じた変わり種。そんな彼をウィリスは『アルマゲドン』(1998年)で共演して以来、高く評価しており、本作は『ブレックファースト・オブ・チャンピオンズ』(1999年)に続く3度目の共演作にあたる。もし2012年に心筋梗塞で急死していなかったら、もっと共演を重ねられたのではないかと思うと、残念でならないけど、ウィリスとのプライベートの交流がそのまま反映された本作の彼は心の底から楽しそうだ。 女優陣もそれぞれ健闘。オズのどうかしている妻ソフィを演じているのは、『マドンナのスーザンを探して』(1985年)などコメディで抜群の冴えを見せるロザンナ・アークエット。フランス語訛りのヘンなセリフ回しが最高におかしい。そんな彼女とは対照的に、『スピーシーズ 種の起源』(1995年)のエイリアン役でお馴染みのナターシャ・ヘンストリッジがフィルム・ノワール的なクール美女シンシアになりきってみせる。 とはいえ、女優陣のMVPはジルを演じたアマンダ・ピートだろう。リアルタイムで本作の彼女を観たときの衝撃ときたら無かった。テレビにはそこそこ出演していたものの、それまで映画で大きな役をひとつも演じたことが無かった彼女は本作でも病院の受付嬢という一見チョイ役で登場する。だが濃すぎる顔立ちは存在感がありすぎるし、セリフは非常識なものばかり。 「彼女は一体何者なんだ?」そんな疑問が観客の中にじわじわ湧き上がっていき、それが沸点に達した瞬間に正体が明かされる。何とジルの正体はテュデスキを崇拝する殺し屋志望の女子だったのだ。映画後半の彼女の大活躍ぶりは、大スターのウィリスとペリーのそれを霞ませるほどのもの。こんな美味しい役をブレイク前の若手女優に与えた本作の製作陣にはどれほど賞賛を送っても送り足りないと思う。 本作でブレイクしたピートは、血も涙もないサイコな悪女に扮した『マテリアル・ウーマン』(2001年)でジェイソン・ビッグス、ジャック・ブラック、スティーブ・ザーンという3人のコメディ男優を向こうに回して映画を引っ張りまくり、『17歳の処方箋』(2002年)でもキーラン・カルキン扮する主人公を翻弄するフリーダムな女子を怪演。コメディ女優として一時代を築いたのだった。2006年に『ゲーム・オブ・スローンズ』のショーランナー、デイヴィッド・ベニオフと結婚して以降は上昇志向が収まったのか、普通の演技派女優になってしまったのがコメディ好きとしては本当に残念である。というわけで、映画ファンは、本作の続編『隣のヒットマンズ 全弾発射』(2004年)を含めて、この時期ならではのギラギラしたアマンダ・ピートの魅力に脳天を撃ち抜かれてほしい。 WHOLE NINE YARDS, THE © 2000 METRO-GOLDWYN-MAYER DISTRIBUTION CO.. All Rights Reserved

この記事を読む

ナイト・ビフォア 俺たちのメリーハングオーバー

長谷川町蔵

気心の知れたスタッフ・キャストが集結!映画全体がまるで仲間内のクリスマス・パーティのようなヴァイブスに満ちた爆笑作。

 2001年、クリスマス・イブのニューヨーク。両親を事故で失ったイーサン(ジョゼフ・ゴードン・レヴィット)を励まそうと友人のアイザック(セス・ローゲン)とクリス(アンソニー・マッキー)が集まったことから、その恒例行事は始まった。ロックフェラー・センターのクリスマス・ツリーを見物して、中華を食べ、カラオケ屋で歌いまくる三人だけのクリスマス・パーティだ。  しかし時は流れ、アイザックは出産寸前の妻を持つ弁護士、クリスはアメフト界のスターに。恒例のパーティも2015年で終了ということに決まったのだった。そんな中、相変わらず定職も持たずフラフラしているイーサンは、長年探し求めていたものを偶然ゲットする。それは選ばれた者しか招待されない秘密のクリスマス・パーティ「ナットクラッカー・ボウル(くるみ割り舞踏会)」のチケットだった。喜ぶイーサンはふたりを誘って出かけることに。ところがアイザックが持ち込んだドラッグが事態を思わぬ方向に導いていき……。  クリスマスを題材にした映画は沢山あるけど、本作『ナイト・ビフォア 俺たちのメリーハングオーバー』もその伝統を受けついだコメディだ。監督と原案は『ウォーム・ボディーズ』(13年)のジョナサン・レヴィン。彼の出世作『50/50 フィフティ・フィフティ』(11年)に出演していたジョゼフ・ゴードン・レヴィットとセス・ローゲンのリユニオン作でもある。  残るひとりのアンソニー・マッキーは『デトロイト』(17年)など、本来はシリアス路線多めの俳優だが、空飛ぶスーパーヒーロー、ファルコンを演じる「マーベル・シネマティック・ユニバース」の一編『アントマン』(15年)ではローゲンと親しいポール・ラッド扮するアントマンとユーモラスな絡みを見せており、本作でも抜群のコメディ・センスを見せている。  またヒロインのダイアナを演じるリジー・キャプランは、ジャド・アパトーが製作した伝説のテレビ番組『フリークス学園』(99〜00年)で共演して以来、ローゲンとは友人同士。ローゲン監督兼主演作『ザ・インタビュー』(14年)では同番組出身のジェームズ・フランコの相手役を務め、『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』(16年)ではジェームズの弟デイヴの相手役を演じている。  おまけにローゲンの妻役を演じるジリアン・ベルも、ローゲンの弟分ジョナ・ヒルが主演した『22ジャンプ・ストリート 』(12年)で名を挙げたコメディ女優だったりする。このため、映画全体がまるで仲間内で開かれたクリスマス・パーティのようなヴァイブスに満ちているのが印象的だ。そんなわけで本作、理屈なしで楽しめる映画ではあるのだけど、さらに楽しめるように幾つかトリビア的なチェック・ポイントを紹介しておきたい。  ひとつめは過去のクリスマス映画の傑作へのオマージュ。映画内でその種明かしをする役目を果たすのが<ブロード・シティ>の片割れとして知られる女性コメディアン、イラナ・グレイザー演じる謎の女レベッカだ。クリスマスを憎んでいる設定の彼女はこんな発言をする。 「あたしが尊敬しているのは『ホーム・アローン』の泥棒と『ダイ・ハード』のハンスよ」 前者はジョン・ヒューズが製作と脚本、クリス・コロンバスが監督を務めたキッズ・ムービーの古典で、クリスマス・シーズンにひとり自宅に取り残されながら泥棒を撃退する少年を描いたメガヒット作だ。『ナイト・ビフォア』ではマリファナを奪ったレベッカを追いかけるクリスがコケるシーン、そしてアイザックが久しぶりに手に持った携帯に着信が96件も入っていることを知ってビックリするときのポースが『ホーム・アローン』のパロディになっている。  もう一本の『ダイ・ハード』は、強盗団に占拠されたビル内でひとり立ち向かう刑事を描いたブルース・ウィリス主演のアクション大作。クリスマス・パーティの真っ只中に事件が発生する設定のため、劇中では様々なクリスマス・ソングが流れる。『ナイト・ビフォア』の劇中で三人が熱唱するランDMCのラップ・ナンバー「クリスマス・イン・ホリーズ」も元は『ダイ・ハード』で流れた曲のひとつだ。  またレベッカが尊敬する人物として挙げた<ハンス>はその強盗団のリーダーで、演じた故アラン・リックマンにとっては『ハリー・ポッター』シリーズでスネイプ先生を演じるまで代表作とされていた悪役。レベッカがビルから落ちるシーンは、ハンスの死亡シーンのまんまパロディになっている。  ついでに言うとレベッカが「あたしはグリンチなんだ」と己を喩える<グリンチ>はドクター・スースが57年に刊行した絵本『いじわるグリンチのクリスマス』 の主人公で、クリスマスが大嫌いなモンスターの名前。00年にジム・キャリー主演で映画化されているので、そちらもチェックして欲しい。  二つ目のチェック・ポイントは、イーサンがほかの二人に無理やり着せるダサい柄モノのセーター。これは<アグリー・クリスマス・セーター>と呼ばれるもので、元々おばあちゃんがプレゼントとして孫にあげるような手編みのクリスマス・セーターがルーツなのだが、『ブリジット・ジョーンズの日記』(01年)でコリン・ファースが着たあたりから再注目され、クリスマスに敢えて悪趣味なデザインのセーターを着ることが流行になったものだ。『ナイト・ビフォア』で三人がセーターの柄を他人からあまりツッコまれていないのは、こうした背景があるからだ。  三つ目のチェック・ポイントは、アイザックが着ているそのアグリー・クリスマス・セーターが示している。描かれているのは<ダビデの星>。イスラエルの国旗にも用いられているこのマークはユダヤ民族のシンボルマークでもある。クリスマスはキリストの誕生を祝うイベントなので、通常ユダヤ教徒は祝わない。代わりにこの季節、彼らは紀元前1世紀にユダヤ人がセレウコス帝国(現シリア)からエルサレムを奪回した故事を祝って<ハヌカ>と呼ばれる行事を行う(ていうか、後発のキリスト教がハヌカにぶつける形でキリストの誕生をこの時期に設定した可能性が高い)。つまりダビデの星柄のアグリー・クリスマス・セーターというのはその存在だけでギャグなのだ。  もちろんアイザックが成り行きでキリスト教会の深夜ミサに参列したり、そこで「俺たちはキリストを殺していない!」と絶叫する(キリストはユダヤ人だが、同胞に密告されて死刑になったとされている)のもギャグである。もちろんセス・ローゲン自身がユダヤ系だから、こうしたギャグが許されることを言い添えておきたい。  四つ目のポイントは豪華なゲストたち。マイリー・サイラスが本人役で「ナットクラッカー・ボウル」に登場して大ヒット曲「レッキング・ボール」を熱唱するほか、ローゲンの盟友ジェームズ・フランコが思わぬ形で<ジェームズ>役で参戦する。アイザックとやたらイチャイチャするのは、ローゲンとフランコの仲良しぶりのパブリック・イメージをデフォルメしたものだろう。  マイケル・シャノンの怪演も特筆しておきたい。『マン・オブ・スティール』(13年)のゾッド将軍や『ノクターナル・アニマルズ』(16年)の鬼刑事アンデスといった強面の役を得意とする彼が本作で演じるのは、謎めいたヤクの売人<ミスター・グリーン>。本作のストーリーの鍵を握っているのは、高校時代から三人にヤクを売り続けてきた彼なのである……といっても、そこに深い理由や哲学はないわけだけど。なぜなら本作は楽しさ最優先のパーティ・ムービーなのだから。 © 2015 Columbia Pictures Industries, Inc. and LSC Film Corporation. All Rights Reserved.

この記事を読む