その伝説は、人類が滅亡するはずだった1999年に始まった。「プロムまでに童貞を捨てようぜ!」そう誓い合ったジム、オズ、ケヴィン、フィンチの4人の高校生が本能と妄想の赴くまま珍騒動を繰り広げるティーン・コメディ『アメリカン・パイ』(以下、『アメパイ』)が公開されたのだ。
監督はこれがデビュー作のポール・ワイツ、脚本は新人のアダム・ハーツ、キャストはジェイソン・ビッグス、クリス・クライン、トーマス・イアン・ニコラス、エディ・ケイ・トーマスといったほぼ無名の若手ばかりだった。だが名もない才能は奇跡を起こした。映画は爆発的なヒットを記録したのだ。
ティーンを映画館に呼び寄せたのは、タイトルの由来でもある<悶々とするあまりナニをパイに突っ込む>を筆頭とする『ポーキーズ』(82年)真っ青な下ネタ・ギャグの数々だった。でも映画を見たティーンたちは、この映画の真の魅力が登場人物のキャラ造形にあることに気がついた。
主人公の4人や相手役の女子たちはもちろん、ショーン・ウィリアム・スコット扮する敵役スティフラーやベテラン・コメディアンのユージン・レヴィやジェニファー・クーリッジがそれぞれ演じたジムのパパ、スティフラーのママといった大人たちにまで至る描写の細やかさは、数あるティーン・コメディの中でも最高レベルのものだったのだ。 『アメパイ』は、公開当時やはり単なるエロコメという誤解を受けた『初体験リッジモント・ハイ』(82年)同様、リアルな心情を掬い取ったティーンエイジャー映画の傑作だったのである。そのことは『リッジモント・ハイ』の監督エイミー・ヘッカリングが『恋は負けない』(00年)でジェイソン・ビッグスとミーナ・スヴァーリのコンビを起用したことで証明されることになる。
そんな真の魅力を、キャストも無意識レベルで感じ取っていたことは、2年後の2001年に公開され、やはり大ヒットを記録した続編『アメリカン・サマー・ストーリー』で明らかになった。こちらはそれぞれの「初体験」から1年後、あまりいい目にあってなかった4人が「最高の夏休み」を過ごすべく湖畔のリゾート地へ向かうというものだったが、前作のキャストが一人も欠けることなく(ケヴィンの兄役として1分足らずのカメオ出演だったケイシー・アフレックすら再び顔を出す!)再集結しているのだ。
ストーリー的には、ジム役のジェイソン・ビッグスと前作では飛び道具的なキャラだったミシェル役のアリソン・ハニンガンがメインとなり、ふたりの絡みには前作になかった甘酸っぱさが漂っている。下ネタは前作以上にエスカレートしているにも関わらず、前作以上にウェルメイドな仕上がりなのは、ファレリー兄弟の愛弟子でもある監督J.B.ロジャースの功績かもしれない。 二作連続の大成功は、第一作の監督ポールとプロデューサーのクリスからなるワイツ兄弟を、『アバウト・ア・ボーイ』(02年)や『ニュームーン/トワイライト・サーガ 』(09年)などを撮るメジャー監督に押しあげた。ジェイソン・ビックスはウディ・アレン監督作『僕のニューヨークライフ』(03年)に、クリス・クラインはアクション大作『ローラーボール』(01年)に主演。また子役出身のイメージが強かったアリソン・ハニンガンはコメディエンヌとしての才能を開花させ、人気テレビドラマ『ママと恋に落ちるまで』(05〜13年)に出演し、お茶の間のスターになった。
中でも特筆すべきはショーン・ウィリアム・スコットの大躍進だろう。彼は圧倒的なスティフラー人気をバックに、『ゾルタン★星人』(00年)や『ぼくたちの奉仕活動』 (08年)といった他の映画でもスティフラー的キャラを演じ続け、演技というよりパーソナリティで売るスターになった。こうした出演作の中には、トッド・フィリップスの劇映画初監督作『ロード・トリップ』 (00年)がある。つまりあの『ハングオーバー!』三部作にも『アメパイ』の遺伝子が受け継がれているのだ。(※編成部注※トッド・フィリップスは「ハングオーバー」シリーズの監督を務めている)
シリーズは、2003年に公開された『アメリカン・パイ3 ウェディング大作戦』で一旦完結した。ボブ・ディランの息子であるジェシー・ディランが監督を務めたこの作品には、クリス・クライン、ミーナ・スヴァーリ、タラ・リード、シャノン・エリザベスらが残念ながら不参加だったが ジムとミシェルの結婚式を題材にいつも以上の下ネタが炸裂。 特に、ゲイ・バーで踊り、エロいストリッパー相手のバチュラー・パーティーで大爆発。ついでに犬のウンコを喰って、老婆とセックスまでする
スティフラーが大活躍が光る。かつての仲間たちはみんな社会に巣立っているのに、高校時代の栄光が忘れられずにで母校で職員として働いている哀愁っぷりもイイ。もちろん彼の天敵であるフィンチやジムのパパも健在で、好サポートを見せてくれる。 単なる完結編にしてはあまりに大ヒットしてしまった結果を受けて、製作会社はスピンオフ作をDVDオリジナルで製作することを急遽決定。2005年には第4作 『アメリカン・パイ in バンド合宿』 (監督は『キャント・バイ・ミー・ラブ』(87年)で知られるスティーブ・ラッシュ)が発表された。スティフラーの弟マットが、第二作に登場したブラスバンド部のサマー・キャンプに乱入して騒動を巻き起こすというこの作品は、劇場未公開作でありながら驚異的なセールスを記録した。
その2年後には、スティフラーの従兄弟の高校生エリックが、大学の名物である全裸マラソン大会(嘘のような話だが、ミシガン大学が実際に行っている男女全裸マラソン大会をモデルにしている!)に参加する『アメリカン・パイ ハレンチマラソン大会』 (監督は『スリープオーバー』(04年)のジョー・ナスバウム) 、大学生になったエリックが友愛会ベータハウスに入会し、エリートのギークハウスと低次元の抗争を繰り広げる『アメリカン・パイ in ハレンチ課外授業』(監督:アンドリュー・ウォーラー)が立て続けに発表され、ハードな下ネタギャグが展開されたのだった。
対して2009年の第7作 『アメリカン・パイ in ハレンチ教科書』では舞台が高校に戻り、第一作に登場した幻のセックス指南本を巡るドタバタが描かれるなど、初期三部作への回帰が試みられている。ちなみにこれら全ての作品にはユージン・レヴィが顔を出しており、『アメパイ』シリーズの精神的支柱を務めていたことも記しておきたい。
こうした伝説の到達点となったのが、2012年に公開された『アメリカン・パイパイパイ!完結編 俺たちの同騒会』だ。監督と脚本を手がけたのは、初期三部作とは無関係のジョン・ハーウィッツ&ヘイデン・スクロスバーグのコンビ。だが彼らは、初期三部作では端役だったジョン・チョーの人気を確立したコメディ『Harold & Kumar』三部作(04〜11年)の監督兼脚本家でもあり、このシリーズにはエディ・ケイ・トーマスもレギュラー出演しているのだ。つまり2人は『アメパイ』のスピリットを受け継ぐ男たちなのだ。なので本作では初期三部作のオマージュが全編にわたって展開されている。
また製作総指揮という名の同窓会幹事を任されたジェイソン・ビックスとショーン・ウィリアム・スコットの呼びかけが実ったのか、第二作以来、実に11年ぶりにメインキャスト全員の再登場が実現している。この異常なほど出席率が高い同窓会の乱痴気騒ぎを前にしたなら、『アメパイ』の歴史を知るオールド・ファンはもはや歓喜の涙を流すしかないのだ。
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