ジェイとアニーは、かつて時と場所を選ばずにセックスしまくる熱愛カップルだった。そんな二人も今やふたりの子どもの親に。子育てに追われる日々の中、かつての情熱はもう取り戻せないのか?
 ある日、悩むジェイにアニーが提案した。「SEXテープを作らない?」

Tシャツにパンティ、足にローラースケートという悩殺ルックのアニーにジェイは興奮。ふたりはiPadのカメラを前にセックス指南本「The Joy of Sex」に掲載されたすべての体位を試すのだった。すべてが終わったとき、素に帰ったアニーは「録画を消して」とジェイに頼み、ジェイはそれに応じた。全ては終わったはずだった。

 ところが悲劇はここから始まる。ビデオはiCloudに自動保存される設定になっていた。しかもジェイにはお気に入りの楽曲を収録した自分のiPadを親しい友人にプレゼントする習慣があった。つまりSEX動画はクラウドごしに他人が見られる設定になっていたのだ!

 おりしもアニーは、趣味でやっていた健全な子育てブログ「ママはエラい」にネット企業から出資したいとの依頼が舞い込んできたばかり。このままではプロブロガーになる夢が絶たれるばかりか、人生がメチャクチャになってしまう。ジェイとアニーはすべてのiPadを回収すべく、友人たちの家を回るのだが……。

 『バッド・ティーチャー』で共演したキャメロン・ディアスのコメディ・センスに感服したジェイソン・シーゲルが、監督のジェイク・カスダンごと誘って、再共演をはたした『SEXテープ』(14年)は、ふたつの現象を笑い飛ばしたコメディだ。

 ひとつめはネット上の素人ポルノ氾濫。ネット上にポルノが溢れているのは日本も同じだけどアメリカの場合、一般人が自ら積極的に製作した動画の割合がものすごく多いのである。ジェイソン・シーゲルの友人セス・ローゲンが主演した『恋するポルノ・グラフィティ』(08年)もこうした素人作品の製作現場を描いたものだった。当初トンデモない動画を撮ってしまったとビビるジェイとアニーは、物語後半にアメリカ中でそうしたものが量産されていることを知ることになる。

 ふたつめはITを使いこなせていないのに、我々がそれに依存して暮らしていること。プロットを読んで気づいた人も多いかもしれないけど、クラウド上のデータさえ消去すれば、ジェイとアニーはiPadを回収する必要はない。ふたりはクラウドの概念を全く理解していないのだ。これを「情弱」と笑い飛ばすことは簡単だけど、すべての原理を理解してスマホやタブレットを使いこなしている人間が存在するだろうか? 騒ぎの大小やベクトルの違いはあれど、これは我々にも起こりうる悲劇なのだ。

 そんな悲劇をスラップスティック・コメディに転化してみせた本作で、キャメロンはテンパったアニー役を熱演。必然性もないのに公式では初のヌードを披露したことでも話題を呼んだ。

 またアニーの同僚役で『ファン家のアメリカ開拓期』のランダル・パーク、友人夫婦役で『アンブレイカブル・キミー・シュミット』のエリー・ケンパーと『チルドレンズ・ホスピタル』のロブ・コードリーといったテレビ・コメディの人気者が顔を揃え、シーゲルとキャメロンを好サポート。ジャック・ブラックがノー・クレジットだが重要な役で登場することも見逃せない。

 そして何と言ってもロブ・ロウの起用には笑うしかない。というのも、彼の出演自体が巨大なギャグなのだから。80年代に『アウトサイダー』(83年)や『セント・エルモス・ファイアー』(85年)といったヒット作に出演していたロウは華やかなルックスも相まって、ハリウッドの未来を背負って立つ逸材と目されていた。ところが未成年の少女とのSEXテープがリークされたことで、スターの座から滑り落ちてしまったのだ。本作のタイトルが、テープで録画されているわけでもないのに「SEXテープ」なのはこの故事を踏まえているに違いない。

 そんなキツいギャグに溢れた本作だけど、実は自伝的作品でもある。その自伝的部分を担ったクリエイターこそが、シーゲルと脚本を共同執筆したニコラス・ストーラーだ。

 76年生まれの彼が、最初に注目されたのはTVドラマ『Undeclared』(01〜03年)だった。この学園コメディに参加していたスタッフおよびキャストがスゴい。『SEXテープ』で組むことになるジェイソン・シーゲルとジェイク・カスダンをはじめ、セス・ローゲン、ポール・フェイグ、グレッグ・モットーラ、ジョン・ハンバーグ、ジョン・ファヴロー、ジェニファー・コナー、ジェイ・バルチェル、そして全てを束ねる製作総指揮の座にはジャド・アパトーが座っていた。つまり現在のハリウッド・コメディ界を支える人材が集結していたのだ。

 ライターとしてこの作品に参加したストーラーは、アパトーに才能を認められてジム・キャリーの主演作『ディック&ジェーン 復讐は最高!』(05年)の脚本を共同で執筆。キャリーに気に入られたのか、彼の主演作『イエスマン』(08年)の脚本も手がけた。

 同じ年にストーラーは、アパトー製作の『寝取られ男のラブバカンス』(08年)で監督デビューも果たしている。盟友ジェイソン・シーゲルが主演と脚本を務めたこの作品は、ガールフレンドに突然フラれた主人公が、傷心旅行先で新しい恋と巡り会う物語だった。アパトーは67年生まれの自分よりひと回り若いストーラーの方が、主人公の気持ちに寄り添えると思ったのかもしれない。

 そんな目論見が当たり同作は大ヒット。第二弾を要請されたストーラーは『寝取られ男』でラッセル・ブランドが演じたクレイジーなロックスター、アルダスをフィーチャーしたスピンオフ作『伝説のロックスター再生計画!』(10年)の製作、監督、脚本を手がけて大ヒットさせたのだった。

 ストーラーは、その後も『ザ・マペッツ』(11年)、『憧れのウェディング・ベル』(12年)といったシーゲルの主演作の監督や脚本を務めているのだが、主人公の設定は<結婚に踏み切れないカップル>から<遂に結婚を決意するカップル>と、徐々に成長を遂げていた。共同脚本家のシーゲルは未だ独身。つまりこうした設定はストーラーが自分の人生体験をその都度、物語に反映したものだった。   こうしたストーラーのアティテュードが結実したヒット作が、セス・ローゲンとザック・エフロンの共演による過激なコメディ『ネイバーズ』(14年)だった。幼い子どもの世話でセックスを含む夫婦生活が停滞し、隣家の大学生たちの自由奔放な生活を羨んでしまう主人公の夫婦、ストーラーと彼の妻の鏡像なのだ。

 しかし一方でふたりは第二子を熱望していたという。なかなか出来ずに大変だったとのことだが、そんな個人的な体験もストーラーは映画にしてしまう。しかも子ども向きアニメで。「赤ちゃんはコウノトリに運ばれてやってくる」という伝説をベースにした『コウノトリ大作戦!』(16年)がその作品だ。

 コウノトリたちが企業利益を優先して赤ちゃん宅配サービスから撤退しているとか、子どもが自分で「かわいいのは今のうちだけ」と言って親を脅したり、設定を説明するセリフを喋る主人公に「説明するのは止めてよ」と相棒がツッコミを入れたりする、エッジーなギャグの中、第二子の到来を最後に同作は幕を閉じる。

 もう分かったはず。『コウノトリ大作戦!』の続編こそが『SEXテープ』なのだ。ストーラーが、これからの人生体験をどのように映画に盛り込んでいくのか。それが楽しみでならない。

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